CBPが公表した「重複関税(Tariff Stacking)の解除」ガイドを深掘り:対象範囲・優先順位・還付実務まで(ビジネス向け)

CBPが公表した「重複関税(Tariff Stacking)の解除」ガイドを深掘り:対象範囲・優先順位・還付実務まで(ビジネス向け)

※本稿は、一次資料(Executive Order 14289/Federal Register告示/CBPのCSMS通達/ジェトロ解説)に基づき、内容の整合・用語統一・読みやすさの観点で複数回見直したうえで、全体を校正しています。regulations.justia+4


1. 「重複関税(スタッキング)」とは何か。何が“解除”されたのか

米国向け輸出・輸入、とくに北米サプライチェーンで問題になっていたのが、「同じ輸入貨物に複数の追加関税が重なって課される(tariff stacking)」という状況です。business.gmu+1

この問題に対し、大統領令「Executive Order 14289(Addressing Certain Tariffs on Imported Articles)」は、特定の追加関税について「どの順番でどれを適用し、どれを排除するか」という**優先順位(single‑duty rule)**を定め、重複(スタッキング)を原則として排除する仕組みを導入しました。federalregister+2

CBP(米国税関・国境警備局)は、この大統領令を実務に落とし込む形でCSMS通達(CSMS #65054270 ほか)を発出し、適用順序と、過去に「重複で支払われた」部分の還付手続きについて具体的なガイダンスを示しています。macmap+2

重要なのは、これは「米国のあらゆる関税を軽くする」ものではなく、「EO 14289が対象として定めた5つの追加関税の重複」を解消する制度だという点です。通常の基本関税やSection 301、AD/CVD、その他の税・手数料は、依然として別枠で課され得ます。internationaltradeinsights+2


2. 対象は「5つの追加関税」:まずここを押さえる

CBPのガイダンス(CSMS #65054270)は、EO 14289の対象となる**5つの大統領措置(presidential actions)**を明示しています。govdelivery+2

  • Section 232 自動車・自動車部品(232 Auto/Auto Parts)
  • IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく対カナダ措置(いわゆる「IEEPA Canada」:対カナダの違法薬物・国境治安関連関税)
  • 同じく対メキシコ措置(「IEEPA Mexico」)
  • Section 232 アルミニウム関税(232 Aluminum)
  • Section 232 鉄鋼関税(232 Steel)regulations.justia+2

実務的には、まず自社の米国向け輸入(米国内拠点の調達を含む)が、

  • 自動車・自動車部品に該当するのか
  • 鉄鋼・アルミニウム(およびその派生品)に該当するのか
  • 原産国がカナダ/メキシコで、IEEPA由来の追加関税の対象になり得るのか

を棚卸しするところからスタートします。ghy+2


3. 本題:優先順位(どれが適用され、どれが外れるか)

3‑1. 2025年5月版(CSMS #65054270):EO 14289の基本ルール

Federal Registerの告示とCSMS #65054270では、「同じ貨物が複数の対象関税に“subject to”となる場合、どの順番で判定し、どれを残すか」が示されています。internationaltradeinsights+2

要点を実務向けに整理すると、次のとおりです(2025年6月3日までの枠組み)。

  • まず 232 自動車・自動車部品に該当するかを判定し、該当する場合は他の4つ(IEEPAカナダ/メキシコ、232鉄鋼・アルミ)は上乗せしない
  • 自動車・部品でない場合、つぎに IEEPA(カナダ/メキシコ) に該当するかを判定し、該当する場合は 232 鉄鋼・アルミは上乗せしない
  • IEEPAにも該当しない場合に、最後に 232 アルミ/232 鉄鋼を判定する。
  • 232 鉄鋼と 232 アルミについては、同じ貨物に対し両方が適用され得る(鋼とアルミの両方の含有価値を持つ派生品など)という点が特に明記されています。macmap+2

ここでいう「subject to」は、当該措置の下で正味の追加関税額が0%を超える(免除や例外ではない)場合を指す、とCBPは補足しています。internationaltradeinsights+1

また、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の原産資格の有無が、IEEPA関税の「subject to」判定に影響し得ることも、CBPの解説や外部解説で繰り返し触れられています。USMCA原産となればIEEPAの対象外となり、その結果、232側が優先されるケースが出てきます。ghy+2

3‑2. 2025年6月4日以降(CSMS #65236574):優先順位が“改定”された点に注意

2025年6月3日に署名された鉄鋼・アルミ輸入調整の大統領布告(Section 232関係のProclamation)を受け、CBPはCSMS #65236574で優先順位(tariff stackingのルール)を改定しています。millerco+2

新しい優先順位(2025年6月4日 0:01(米東部夏時間)以降にエントリーされた貨物)では、次の順番で判定するよう指示されています。internationaltradeinsights+2

  1. 232 自動車・自動車部品(232 Auto/Auto Parts)
  2. 232 アルミニウム(232 Aluminum)
  3. 232 鉄鋼(232 Steel)
  4. IEEPA カナダ
  5. IEEPA メキシコ

この改定により、**232 アルミ/232 鉄鋼に該当する貨物については、IEEPA(カナダ・メキシコ)を上乗せしない(232側を優先する)**という整理が、CSMS内でより明確になりました。chrobinson+2

実務上の結論は、「同じHSコード・同じサプライチェーンの品目でも、輸入日(エントリー日)によって適用される追加関税の組み合わせが変わり得る」ということです。したがって、社内分析や還付検討は、少なくとも「2025年3月4日~6月3日」と「6月4日以降」で区切って行うのが安全です。geodis+1


4. いつから遡れるか:還付(Refund)の基本ルール

4‑1. 遡及適用の起点は「2025年3月4日」

Federal Registerの告示およびCSMSガイダンスは、EO 14289(およびその改定)の適用対象を「2025年3月4日以降に消費仕向けで輸入された貨物(または保税倉庫から引き出された貨物)」とし、その時点まで遡ってスタッキング解消のルールを適用する旨を明記しています。millerco+2

ジェトロの解説も同様に、「2025年3月4日以降の輸入分について、重複して課されていた関税の見直し・還付申請が可能」と整理しています。millerco+1

4‑2. 還付請求は「PSC」か「Protest」:清算(Liquidation)前後で分岐

CBPは、還付請求の手段を明確に2つに分けています。govdelivery+1

  • 未清算(unliquidated)のエントリー:
    Post Summary Correction(PSC)で修正・還付を申請。
  • 清算済み(liquidated)だが異議申立期間内のエントリー:
    19 U.S.C. 1514 に基づく Protest(異議申立て)で対応。一般にはCBP Form 19を使用し、清算日から180日以内が基本的な申立期限と整理されています。millerco+1

4‑3. 「何でも還付」ではない:対象外も明確

EO 14289の対象外となる関税については、同令に基づく還付は認められないことが、Federal RegisterおよびCSMSで繰り返し注意喚起されています。federalregister+2

具体的には、以下のような負担は、今回の「スタッキング解除」の枠外として扱われます。

  • 通常関税(HTSUS column 1/column 2の基本税率)
  • Section 301追加関税
  • 別の大統領令・法律に基づく追加関税(EO 14289で列挙されていないもの)
  • 反ダンピング(AD)・相殺関税(CVD)
  • その他、IEEPAに基づくがEO 14289のリスト外の措置 などfederalregister+2

加えて、CBPは「232 自動車・自動車部品」については優先順位の最上位であり、EO 14289によるスタッキング解消の結果として還付対象となるケースは想定されない、とする説明も行っています(最初から最上位で課されているため)。macmap+1


5. ビジネス現場で“損しない”ための実務チェックリスト(6ステップ)

ここからは、通関実務だけでなく経営・財務インパクトも踏まえ、還付と今後の最適設計の両方を意識した動き方を6ステップで整理します。

ステップ1:対象期間を確定(まずは3/4以降、次に6/4で区切る)

  • 2025年3月4日以降の輸入エントリー/保税引取りを抽出する。
  • 2025年6月4日以降は優先順位が変更されるため、「3/4~6/3」と「6/4以降」で分析を分ける。internationaltradeinsights+3

ステップ2:「重複して払った可能性があるエントリー」を洗い出す

  • 同一エントリーで、EO 14289対象の5措置に属する追加関税が複数計上されていないかをチェック(期間別に)。
  • 通関業者(Customs Broker)からACEデータやエントリーサマリーを入手し、対象関税コード・税額を一覧化すると効率的です。geodis+2

ステップ3:USMCA適用可否を再点検(“subject to”判定が変わる)

  • USMCA原産判定の見直しにより、IEEPA(カナダ/メキシコ)の「subject to」判定が変わり、232側に倒れるケースがあります。
  • CBPおよび外部解説は、USMCA適用がスタッキング判定に影響する点を明示しており、この再点検は還付・将来設計の両面で重要です。ghy+2

ステップ4:還付インパクトを財務目線で試算(キャッシュフローに直結)

  • 「理論上の率」ではなく、実際に支払った追加関税額(対象5措置分のみ)ベースで試算する。
  • 還付対象は、EO 14289の優先順位に反して二重に課されていた分のみであり、Section 301やAD/CVDなど対象外の負担を混ぜないことが重要です。govdelivery+2

ステップ5:清算ステータスで手段を決定(PSCかProtestか)

  • 未清算エントリー → Post Summary Correction(PSC)で修正・還付請求。
  • 清算済みエントリー → Protest(19 U.S.C. 1514、通常180日ルール)で対応。ジェトロ等もこの整理で解説しています。millerco+2

ステップ6:再発防止(次の輸入から“最初から正しい税額”にする)

  • CBPは、EO 14289のもとでも輸入者の reasonable care(合理的注意)義務は維持されるとし、誤りがある場合はCBP窓口やACEヘルプデスクへの相談を案内しています。fedex+2
  • 社内的には、
    • ブローカーへのインストラクション更新(優先順位・対象5措置の適用ロジックを共有)
    • 品目マスター(HTS分類)と原産地判定フロー(USMCA・232・IEEPA)の再設計
    • 追加関税の判定ロジックを「輸入日/エントリー日」も含めてシステム実装
    まで落とし込むことで、「将来分を最初から正しい税額で申告」という状態に近づけることができます。internationaltradeinsights+2

6. 実務でよくある誤解(ここを外すと還付どころかリスク)

誤解1:スタッキング解除=関税が全般的に下がる
→ 対象はEO 14289が列挙した5措置の重複整理だけで、通常関税・Section 301・AD/CVD等は別枠のままです。regulations.justia+2

誤解2:とりあえずまとめて還付申請すればよい
→ 還付の可否は、「対象5措置の二重課税かどうか」と「清算ステータス(PSC/Protest)」次第です。手続きの要件を外すと、却下や後日のペナルティリスクにつながります。macmap+2

誤解3:232鉄鋼と232アルミは必ずどちらか一方
→ EO 14289とCBPガイダンスは、「232 Steelと232 Aluminumは同一貨物に同時適用され得る」と明記しており、鋼とアルミの両方の含有価値を持つ派生品では両方が課税対象になり得ます。internationaltradeinsights+2


7. “ガイド”を使いこなす:CBPの「Unstacking Certain Tariffs Chart」という補助ツール

2025年後半、CBPは、どの大統領措置がどの組み合わせで適用され得るかを一覧で確認できる「Unstacking Certain Tariffs Chart」(ファクトシート/スプレッドシート形式)を公表しました(法的拘束力はなく、あくまで情報提供であり、最終判断は法令・官報・布告が優先)。fedex+1

GHYなどの外部解説が示す実務的な使い方はシンプルです。ghy

  • 自社品目に該当しそうな行(HTS・措置分類)を探す。
  • 行を横に読み、各関税措置が「YES/条件付きYES/NO」となっているかを確認する。
  • そこで「YES」だからといって自動的に課税確定とはせず、例外条項やUSMCA適用状況などを一次資料(EO 14289・Federal Register・CSMS)で必ず裏取りする。

この種のチャートを活用すると、

  • 「どの部門が何を確認すべきか」の社内合意を取りやすくなる。
  • ブローカーとの議論が「そもそも課税か否か」から「どの条件を満たせば/外せばよいか」に進み、コミュニケーションコストを下げられる。

といった形で、実務のスピードと精度の両方に効きます。fedex+1


まとめ:経営としての“最適解”は「還付+再設計」を同時に進めること

CBPの「重複関税(tariff stacking)の解除」ガイドは、制度紹介にとどまらず、過去分のキャッシュ(還付)と今後の原価(追加関税負担)に直結するテーマです。govdelivery+1

経営として押さえるべきポイントは、次の3点に集約できます。

  • 対象は5つの措置に限定されており、かつ2025年6月4日以降は優先順位が変わるため、「3/4~6/3」と「6/4以降」で別々に分析すること。internationaltradeinsights+1
  • 2025年3月4日以降に遡及適用され、未清算はPSC、清算済みはProtest(180日)で還付を狙うこと。millerco+1
  • Section 301やAD/CVDなど対象外の負担を混ぜず、対象5措置だけを切り出して精査すること。federalregister+2

この枠組みを踏まえれば、「過去分の還付」と「今後の正しい関税設計」を同時並行で進めることが、北米ビジネスにとっての合理的な“最適解”になります。

  1. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e0a63e
  2. https://regulations.justia.com/regulations/fedreg/2025/05/20/2025-09066.html
  3. https://www.federalregister.gov/documents/2025/05/20/2025-09066/notice-of-implementation-of-addressing-certain-tariffs-on-imported-articles-pursuant-to-the
  4. https://www.ghy.com/trade-compliance/guidance-on-executive-order-issued-to-prevent-tariff-stacking-on-us-imports/
  5. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/cbp-guidance-feeder-vessels-transit-tariff-dates
  6. https://business.gmu.edu/news/2025-07/addressing-certain-tariffs-imported-articles-executive-order-14289
  7. https://macmap.org/OfflineDocument/USADMIN/Measure_Extraordinary_USA_35.pdf
  8. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/05/cbp-issues-guidance-on-prioritization-of-articles-subject-to-more-than-one-tariff-under-eo-14289/
  9. https://millerco.com/sites/default/files/2025-06/Section-232-Steel-and-Aluminum-Tariff-Rate-Increase-to-50-and-Tariff-Stacking-Changes-June-3-2025.pdf
  10. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/06/amendment-to-imports-of-aluminum-and-steel-increases-232-tariffs-to-50/
  11. https://www.chrobinson.com/de-de/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/06-04-2025-client-advisory-adjusting-imports-of-steel-and-aluminum-into-the-united-states/
  12. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e36e5e
  13. https://millerco.com/sites/default/files/2025-05/CBP-Clarification-of-Tariff-Stacking-Rules-and-Refund-Opportunity-May-16-2025.pdf
  14. https://www.fedex.com/content/dam/fedex/us-united-states/International/upload/Regulatory_News_-_Addressing_Certain_Tariffs_on_Imported_Articles.pdf
  15. https://blog.coleintl.com/tradenews/cbp-issues-guidance-on-tariff-stacking-under-executive-order-14289
  16. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/05-21-2025-client-advisory-cbp-issues-guidance-on-tariff-prioritization-under-executive-order-14289/
  17. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/addressing-certain-tariffs-on-imported-articles/
  18. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
  19. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-05-20/html/2025-09066.htm
  20. https://asafishing.org/wp-content/uploads/2025/06/Tariff-Action-Cheat-Sheet-V31-5-26-2025.pdf

カナダ「鋼材派生品」に25%追加関税(2025年12月26日施行)— 何が変わり、実務で何をすべきか

結論から言うと、提示いただいたブログ草稿は、制度の「骨格」と実務イメージはかな​


1. まず結論:今回の「25%」は、下流の完成品・部材に刺さる

カナダ政府は2025年12月26日から、指定された「鋼材派生品(steel derivative products)」に対して、輸入品の通関価額(value for duty)の全額に25%の追加関税(surtax)を課します。しかも原則として、**全ての国・地域からの輸入が対象(from all countries)**です。orders-in-council.canada+1

これにより、これまで「鋼材(ミル製品)そのもの」中心だった関税リスクが、ボルト・ナット、ワイヤー、プレハブ建築、風力タワー、金属家具などの完成品寄りの品目にまで広がります。coleintl+1

重要なのは、「鋼材部分の価額」ではなく「製品全体の通関価額」に対して25%が乗ることです。通関価額には貨物価格に加え、輸送費・保険料等が含まれ得るため、評価の仕方次第で着地コストは想定以上に跳ね上がります。pcb+1


2. 「対象品目」は何か:建設・インフラ×部材×金属製品が中心

対象は、カナダ財務省が公表したリストに記載された関税番号(Tariff Item/HSコード)で指定されており、説明文はあくまで目安、法的な範囲はカラム1のTariff Itemで決まると明記されています。canada+1

実務的に「刺さりやすい」代表カテゴリを、ビジネス影響がイメージしやすい形に並べると、概ね次のようなイメージです(※例示。最終判断は必ず公式リストで照合)。

  • 構造物・建設系(HS 7308、9406 など)
    例:橋梁部材、塔、鉄骨構造、風力タワー、プレハブ建築coleintl+1
  • ワイヤー・ロープ・金網・チェーン類(HS 7312、7314、7315 など)
    例:ワイヤーロープ、金網、チェーンcanada+1
  • ファスナー(HS 7317、7318 など)
    例:釘、ねじ、ボルト、ナット、ワッシャーcoleintl+1
  • ばね・鋳物・その他金属製品(HS 7320、7325、7326 など)canada+1
  • 金属フレームの椅子・金属家具・照明部材(HS 9401、9403、9405 など)coleintl+1

さらに注意すべきは、「鋼材派生品」という名称からは連想しにくい完成品・半製品も含まれている点です。たとえばドア・窓、家具、照明器具用部材など、一般に「鉄鋼製品」としては認識されにくい品目も対象に含まれるため、「うちは鉄鋼メーカーではないから関係ない」という決めつけは危険です。canada+1


3. 例外(除外)を押さえる:7つの“逃げ道”と、見落としポイント

カナダ財務省のバックグラウンダーおよび Steel Derivative Goods Surtax Order では、25%のsurtaxが適用されないケースが明確に列挙されています。実務上はここが大きな分かれ目です。osler+2

主な「適用除外」は、次のとおり整理できます(要約)。

  • 既存のsurtaxの対象になっている貨物
    例:対中国のsurtax、対米国の鉄鋼・アルミ関連surtax、鉄鋼TRQ関連のsurtax等の対象貨物は、本25%の重複適用(スタック)の対象外。canada+1
  • カジュアル貨物(旅行者の携帯品等)canada
  • Chapter 98 に分類される特定用途・特例扱い貨物(他に対象Tariff ItemがあってもChapter 98分類であれば除外)canada
  • 2026年7月1日より前に輸入され、自動車(車体/シャシ/部品・付属品)製造用途に使用する貨物osler+1
  • 2026年7月1日より前に輸入され、航空機・地上飛行訓練機・宇宙機(およびそれらの部品)用途に使用する貨物osler+1
  • Tariff item 7308.20.00 の特定の風力タワーで、オンタリオ–マニトバ州境より西側のエネルギープロジェクト向けに設置するものosler+1
  • 施行日に「カナダへ輸送中(in transit)」の貨物tid+1

加えて、国内調達が困難など例外的事情がある場合のremission(減免)申請は、ケースバイケースで検討するとされています。制度の存在自体が重要であり、対象となり得る企業は早めに「国内調達困難性」「経済への影響」等を説明できる資料を準備しておく余地があります。chrobinson+1


4. なぜカナダはここまで踏み込むのか:米国市場の閉鎖と国内市場への振り向け

今回の25%は単発の関税ではなく、カナダ政府が進める鉄鋼政策パッケージの一部です。背景には、米国による高関税・輸入制限の強化を受けて、カナダ市場への貿易迂回を防ぎ、自国の鉄鋼産業向け需要を確保する狙いがあります。youtube​pm+1

大きく見ると、政策のポイントは次の2点に整理できます。

  • 鉄鋼(ミル製品)側では、関税割当(TRQ)を縮小し、割当超過分に最大50%のsurtaxを課す枠組みを強化wtocenter+2
  • それだけでは下流(派生品)で「輸入完成品への置き換え」が進むため、派生品にも25%のグローバルsurtaxを広げるpm+1

首相府の説明によれば、派生品関税は「カナダ国内で生産されている派生品」を起点に設計されており、対象リストは市場環境に応じて更新し得るうえ、初期リストだけでも数十億カナダドル規模の輸入に影響すると見込まれています。これは「一度決まって終わり」の制度ではなく、運用次第で対象が拡張され得る枠組みと理解した方が安全です。newswire+2

また、国境当局(CBSA)による順守(コンプライアンス)強化も同時に打ち出されており、誤ったHS分類や虚偽申告をより厳格に是正する姿勢が示されています。これは、実務的には事後調査リスクの上昇として意識する必要があります。canada+1


5. 企業へのインパクト:利益を削るのは「25%」そのものより“連鎖”

インパクト①:着地コストが一気に25%上がる(しかも全額ベース)
「通関価額の全額×25%」は、見積・契約の設計が甘いとダイレクトに粗利を削ります。特に、DDP(関税込み持込)や実務的に売り手側が関税負担を被りやすいスキームでは、利益を一気に圧迫しかねません。pcb+2

インパクト②:価格交渉が“今すぐ”起きる
施行日が明確なため、カナダ側バイヤーは、高い確率で次のようなアクションを検討します。

  • 価格改定(値上げ受け入れ/値下げ要請の再交渉)
  • 供給条件変更(関税負担者・価格調整条項の見直し)
  • 代替サプライヤー探索(カナダ国内化、FTA域内化、別素材・別仕様へのシフト)chrobinson+2

インパクト③:「適用除外・減免の証憑」が競争力になる
今回の制度は、自動車・航空宇宙用途、in transit、風力タワーの地域限定など、除外条件が比較的具体的に定義されています。条件を満たせる企業にとっては、用途証明や輸送証憑をきちんと揃えることで、25%負担を回避しコスト競争力を維持できる可能性があります。osler+1


6. 明日から使える:ビジネス向け“実務チェックリスト”10

実務対応として、輸出者・輸入者・商社がすぐに着手できる基本ステップを10項目に整理します。

  1. 自社品目をHS10桁レベルまで棚卸しする(カナダ輸入時の分類ベースで整理)。canada
  2. 財務省公表の公式リスト(Tariff Item)と突合し、対象・非対象を一次判定する。orders-in-council.canada+1
  3. 対象の場合、「既存の中国向け・米国向け・鉄鋼TRQ関連など他のsurtaxの対象になっていないか」を確認し、本25%との重複がないか整理する。canada+1
  4. 自動車・航空機・宇宙用途等の用途要件で除外を狙える場合、カナダ側での用途証明フロー(契約記載、エンドユーザー証明、製造工程の裏付け等)を設計する。osler+1
  5. in transit 除外を活用する貨物は、B/Lや船積書類で「施行日時点で輸送中」であることを示せるか事前に点検する。tid+1
  6. 見積りは「製品価格」ではなく通関価額ベースで再試算し、輸送費・保険料等も含めた負担増を洗い出す。pcb+1
  7. 契約書に**関税変動条項(tariff pass-through/price adjustment)**があるか確認し、なければ条項追加を検討する。
  8. Incotermsを再点検し、誰が関税を負担するのか(DDP/DAP/FCA等)を契約書面上も明確にしておく。
  9. 国内調達が困難な場合や特別な事情がある場合、remission申請の可能性を検討し、「代替調達の難しさ」「経済・雇用への影響」等の主張骨子を準備する。chrobinson+1
  10. 対象リストが更新され得ることを前提に、財務省・首相府・CBSAの公表情報を定期モニタリングする運用を社内ルールに組み込む。pm+2

7. 今後の注目点:この制度は“拡張”があり得る

  • 対象リストは「カナダ国内で生産されている派生品」を起点に設計され、今後の市場環境に応じて更新され得るとされています。pm+1
  • 鉄鋼(ミル製品)側ではTRQが動いており、輸入戦略を考える際は「ミル製品のTRQ+TRQ超過50%surtax」と「派生品25%surtax」を一体として見る必要があります。blakes+2
  • カナダは米国の関税政策に強く影響を受ける構造にあり、今後の米加通商交渉の展開次第で、remissionやその他周辺制度の運用が変わる可能性があります。pfcollins+2

まとめ:本質は「カナダ向け完成品の関税リスクが制度化された」こと

今回の本質は、25%という数字そのもの以上に、対象が「鋼材(ミル製品)」ではなく、ボルト・ワイヤ、構造物、プレハブ建築、金属家具といった**派生品(完成品・部材)**へ広がった点にあります。coleintl+2

経営としては「関税が上がった」という一事象ではなく、見積・契約・通関・証憑・調達の一連の業務設計そのものを、「カナダ向けは25%surtax前提の市場になった」と捉え直すイベントと位置付けるのが安全です。canada+1

免責:本稿は公開情報に基づく一般情報であり、個別案件の該当性(HS分類、用途要件、申告・証憑要件、減免可否など)は、必ずカナダ側の通関実務(CBSA運用)および専門家の助言により確認してください。chrobinson+1

  1. https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/12/list-of-steel-derivative-products-subject-to-25-per-cent-tariffs-effective-december-26-2025.html
  2. https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/12/government-implements-new-measures-to-protect-canadas-steel-industry.html
  3. https://orders-in-council.canada.ca/attachment.php?attach=47872&lang=en
  4. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-government-canada-announces-tariffs-steel-derivative-product/
  5. https://www.tid.gov.hk/en/tradecircular/2025/ci10702025.html?categoryId=18
  6. https://blog.coleintl.com/tradenews/canada-publishes-list-of-steel-derivative-products-subject-to-25-percent-tariff
  7. https://www.osler.com/en/insights/updates/canada-further-shuts-its-market-to-steel-imports/
  8. https://www.blakes.com/insights/us-canada-tariffs-timeline-of-key-dates-and-documents/
  9. https://web.wtocenter.org.tw/downFiles/13151/419197/00ymjxNd5CXtX0J111118sEykfiCSaW6jraE0HqG0RuAlS11111JdeYIGQgvq1u6d1TKXirDdCilIUGC7cO8Z1jBnf2994hw==
  10. https://www.newswire.ca/news-releases/prime-minister-carney-announces-new-measures-to-protect-and-transform-canada-s-steel-and-lumber-industries-814911145.html
  11. https://www.pwc.com/ca/en/services/tax/publications/tax-insights/canada-tariff-rate-quotas-surtaxes-imports-2025.html
  12. https://www.pm.gc.ca/en/news/news-releases/2025/11/26/prime-minister-carney-announces-new-measures-protect-and-transform
  13. https://www.youtube.com/watch?v=TV6Strj0m88
  14. https://www.pcb.ca/news/ca-release-list-of-steel-derivative-products-subject-to-tariffs-on-dec-26th
  15. https://pfcollins.com/new-25-tariff-assessment-on-steel/
  16. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-government-canada-announces-tariffs-steel-derivative-product/
  17. https://info.expeditors.com/newsflash/canada-to-impose-25-tariff-on-steel-derivative-products
  18. https://www.youtube.com/watch?v=9lwd4bmQy5Q
  19. https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/ca/pdf/tnf/2025/12/ca-importers-temporary-remissions-set-to-end-in-2026.pdf
  20. https://www.willsonintl.com/archives/news/prime-minister-carney-announces-new-measures-to-protect-and-strengthen-canadas-steel-industry