2026年は、米国の関税実務に関わる担当者にとって「年次改訂のHTSUS」と「相互関税(Reciprocal Tariff)の大統領令」が同時に効いてくる年です。前者は品目番号や統計コード、関税率表示の更新を通じて、後者は追加関税の上乗せや例外の変更を通じて、見積り、契約、通関、原産地管理の全領域に波及します。
本稿では、HTSUS 2026版をどう扱うべきか、相互関税の大統領令がどこで実務に影響するかを整理し、ビジネス担当者が週次・月次で監視すべきポイントを実務目線でまとめます。

1. まず押さえるべきHTSUS 2026版の性格
HTSUSは、単なる「関税率表」ではありません。品目分類(4桁、6桁、8桁)に加えて、10桁目として統計用の2桁(Statistical Suffix)が紐づき、通関・統計・規制の運用基盤になっています。USITCの資料でも、Statistical Suffixは見出し番号と組み合わさって10桁のHTS番号となり、CBPの分類裁定(CROSS)とも連携する要素として整理されています。
ここで重要なのは、年次のBasic Editionだけ見て安心しないことです。USITCは年次版に加えて、法律改正、大統領令、連邦官報告示などに応じて改訂版を継続的に公表します。過去のガイドでも、Basic Editionが公表された後、改訂はオンラインで随時反映され、変更履歴(Change Record)は改訂ごとに作成される(累積一覧ではない)点が明記されています。つまり、2026年版のスタート地点を押さえたうえで、継続的な改訂の追跡が不可欠です。
加えて、更新頻度は想像以上に高くなっています。USITCの予算資料では、年次のBasic Edition(1月)に加えて複数回の改訂が公表されており、HTSがCBPの取締りや米国統計の基盤である点も強調されています。
監視の結論
2026年版HTSUSは「年次の版替え」ではなく、「頻繁な改訂を前提にした運用基盤の最新版」です。年初に更新して終わりにすると、途中で追加関税の章99が動いた際に、見積りと実際の納税額がズレるリスクがあります。
2. 相互関税の大統領令は、章99で実務に落ちる
相互関税は、通関現場では「章99の追加番号を付けるかどうか」で具現化します。制度の核心は、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠にした追加従価税の上乗せです。
2025年4月2日の大統領令14257は、「大規模かつ持続的な対米貿易赤字」が国家安全保障と経済に対する異常かつ重大な脅威であると認定し、IEEPAに基づき世界の貿易相手国に対して相互関税を課す枠組みを設定しました。基本設計は「すべての国に対してまず10%の追加関税、その後別表(Annex I)に列挙された国は国別税率へ引き上げ」というものです。
その後、2025年7月30日付の大統領令は、HTSUSを別表(Annex II)で改訂し、発効タイミングを「2025年8月7日午前0時01分(米東部時間)」としつつ、一定条件を満たす輸送中貨物には旧税率を適用できる例外(in-transit exception)を設けています。また、別表に記載のない国は10%の追加従価税が適用されることが明記されています。
さらに重要なのが、関税回避のための迂回輸出(トランシップ)とCBPが判断した場合、追加で40%を課す枠組みです。この「40%上乗せ」は対象施設や経路に対する強い抑止措置であり、関税還付や減免の余地が原則認められない点も特徴です。
ここまで来ると、監視対象は「税率」だけではなくなります。いつから変わるのか、輸送中例外に該当するのか、原産地と物流経路の証跡は揃っているのか、という運用面が中心になります。
3. 実務で見るべき一次情報の置き場
相互関税の改訂は、大統領令だけ追っても現場実装が読み切れません。最低限、次の三点セットを監視する前提で社内運用を構築するのが安全です。
(1)USTRの「Presidential Tariff Actions」一覧
相互関税に関係する大統領令と別表への導線がまとまっており、改訂の連鎖を追跡しやすい構成になっています。
(2)Federal Register(連邦官報)の実装告示
相互関税や二国間合意の実施に際し、HTSUS改訂(章99追加など)が官報で告示され、発効日が告示日とズレることがあります。例えばスイス・リヒテンシュタイン案件では、告示自体は2025年12月18日でも、HTSUS改訂の一部が2025年11月14日以降の輸入に遡って適用され得る形になっています。
(3)CBPのCSMS(Cargo Systems Messaging Service)ガイダンス
現場の申告ルールが最も具体的に示されます。2025年7月30日のCSMSでは、特定国(Annex I)対象品がHTSUSの9903.02.02から9903.02.71の範囲で申告される旨、EUは「列1税率が15%未満なら合算で15%、15%以上なら追加ゼロ」という扱いになる旨など、実務に直結する情報が記載されています。
4. 日本企業が特に注意すべき論点
日本向けの扱いは、「税率表の国別税率を探す」だけでは不十分です。二国間合意の実施や例外設計で細かく動くからです。
Federal Registerの「米日合意の関税要素実施」に関する告示では、日本品についても、列1税率が15%以上なら追加関税がゼロ、15%未満なら合算で15%になる、という設計が示されています。さらに、対象範囲や民間航空機協定など、相互関税や他の布告関税が重なる領域での除外調整にも言及があります。
ここから読み取れる監視ポイントは明確です。日本向けの影響は「一律の国別追加税率」ではなく、「列1税率との合算ロジック」や「品目別の除外調整」で動く可能性がある、ということです。
5. 監視ポイントを業務に落とすチェックリスト
以下は、実務担当が週次・月次で確認すべき監視項目です。社内で担当を割り当て、変更が出たら誰が何を更新するかまで決めておくと、トラブルが減ります。
5-1. HTSUS側の監視
10桁コードの変化(Statistical Suffixの変更)
コードが変わると、原価計算、禁制品判定、通関データ連携が崩れます。Statistical Suffixが10桁番号の一部である点は、USITCの仕様として押さえておく必要があります。
Change Recordと章98・章99の確認
影響が出やすいのは「本表」よりも、例外や追加関税が集まる章99です。改訂ごとのChange Recordは累積ではない前提なので、最新版だけでなく改訂履歴も合わせて確認します。
データ取得の自動化
USITCはCSV、Excel、JSONでのエクスポートやREST APIを提供しています。人手での転記は遅延とミスの温床なので、少なくともマスタ更新は半自動化するのが現実的です。
5-2. 相互関税側の監視
発効日の定義と輸送中例外
大統領令は「entered for consumption」などの発効条件と時刻を厳密に定義します。輸送中例外の条件も合わせて確認し、船積み日と入港後の申告時点で適用が変わるリスクを管理します。
章99の申告番号と適用順序
追加関税や貿易救済措置が重なると、申告行で複数の章99番号を記載することになります。CBPは報告順序(301関税、IEEPAフェンタニル関連、IEEPA相互関税、232関税など)を明示しているため、ブローカーへの指示書にこの順序を固定で記載しておくと、申告エラーが減ります。
除外リスト(Annex II)の変動
除外は固定ではなく、更新され得ます。Annex IIは8桁サブヘディングの列挙で構成され、説明文は参考情報であり、正式な適用は別表の正式文言が優先されます。疑義がある場合はCBPへの確認が必要です。社内では「8桁でヒットしたら即影響あり」ではなく、「正式文言と章99実装を確認して確定」という手順を標準化します。
迂回輸出・トランシップのリスク
大統領令は、回避目的のトランシップと判断された場合に追加40%を課す設計を含んでいます。サプライヤー証明、製造工程、原材料原産地、物流経路の証跡を、価格調整や関税還付より優先して整備する必要があります。
官報告示による遡及リスク
官報告示でHTSUS改訂が公表される際、告示日より前の輸入に適用される形があり得ます。輸入案件の締め処理では、通関日と発効日を照合し、必要なら追徴や修正申告の可能性まで視野に入れておくべきです。
6. 監視体制の構築方法
現実的な運用の型として、以下を提案します。
情報源を三つに固定する
USTR一覧、Federal Register、CBP CSMS。まずこれらを「毎週確認する」ルールにします。
変更が出たら、影響判定は10桁コードと章99で行う
8桁の品目分類だけで止めず、10桁の統計コードと章99の追加番号まで落として初めて影響判定を確定します。
ブローカー向け指示書をテンプレ化する
「適用法令」「章99番号」「申告順序」「輸送中例外の判断材料」をセットにして、案件ごとに差し替える形式にします。
7. まとめ
HTSUS 2026版は、年次の版替えというより「頻繁に更新される基盤の最新版」です。相互関税の大統領令は、章99と発効日管理、除外リスト、そして原産地と物流証跡の強化を通じて、実務を直接揺さぶります。
2026年は、関税率の確認だけでなく、どの情報源をいつ確認し、どのタイミングで社内マスタとブローカー指示を更新するか、という運用設計が成否を分けます。
本稿は一般的な情報提供を目的としたものです。個別案件の判断は、通関業者や専門家、関係当局の最新ガイダンスに基づいて行ってください。


