主要案件をビジネス目線で整理
本稿は、各国政府・国際機関などが公表している情報を中心に、2026年1月16日時点での交渉状況を「主要案件に絞って」整理したものです。FTAは交渉が並行トラックで進んだり、政治合意と条文確定、署名、批准、発効が時間差で起きたりします。実務では、原産地規則や適用除外、移行期間などの条項が最終的な損益を左右します。したがって、ここではまず、いま何が交渉中で、何が署名・批准待ちなのかを見失わないための地図としてまとめます。

状況の読み方(本稿の整理ルール)
・交渉中:交渉ラウンドや作業部会が続いている状態
・実質妥結:政治合意や交渉妥結はあるが、署名・批准・発効が残る状態
・署名済/批准待ち:条約署名済だが、国内批准や発効手続きが残る状態
・停止:交渉が一時停止、または棚上げされている状態
・開始予定:交渉開始の意思表明や開始条件(例:一定期間後)を明示している状態
1. 全体像(2026年1月16日時点で押さえるべき動き)
- EUは、アジア(インド、ASEAN諸国)と中東(UAE)、南米(メルコスール)に交渉軸が分散しており、交渉中と批准待ちが同時進行になっています。 (Trade and Economic Security)
- 英国は、スイス、トルコ、GCCとの交渉を継続しつつ、韓国とのアップグレード交渉は妥結段階に入っています。 (GOV.UK)
- カナダは、インド、UAEで交渉入りし、タイは交渉開始の手続き段階、ASEANは交渉継続(2026年妥結見込みの言及あり)という形で、インド太平洋と中東に交渉面を広げています。 (Global Affairs Canada)
- 日本は、トルコ、コロンビア、日中韓、バングラデシュ、GCC、UAEを交渉中として整理し、韓国・カナダは停止扱いです。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
- 豪州は、EUとインド(CECA)を交渉中として明確に掲げています。 (DFAT)
2. 主要国・地域別の交渉状況一覧
2-1. EU(欧州連合)
EUが公表している交渉一覧は、交渉中と採択・批准中を分けて整理されています。 (Trade and Economic Security)
| 相手国・地域 | 2026年1月16日時点の状態 | 直近の補足(公式情報ベース) |
|---|---|---|
| メルコスール | 実質妥結から署名・批准フェーズへ移行中 | EU側は、2019年の交渉妥結と、2024年に交渉を再開し妥結した旨を整理しています。 (Trade and Economic Security) |
| インドネシア(CEPA) | 実質妥結(署名・批准待ちの位置づけ) | 2025年9月23日に交渉が妥結した旨が明記されています。 (Trade and Economic Security) |
| インド | 交渉中 | 2021年の再開、包括的FTAを目指す方針が示されています。 (Trade and Economic Security) |
| オーストラリア | 交渉中 | 2018年開始の交渉として整理されています。 (Trade and Economic Security) |
| マレーシア | 交渉中(再開後) | 2025年1月の交渉再開、2025年6月の第1回ラウンド開催が記載されています。 (Trade and Economic Security) |
| フィリピン | 交渉再開後、交渉中 | 2024年3月に交渉再開で合意した旨が記載されています。 (Trade and Economic Security) |
| タイ | 交渉中(再開後) | 2023年に交渉再開、2023年7月に第1回ラウンドと整理されています。 (Trade and Economic Security) |
| UAE | 交渉中 | 2025年5月28日に交渉開始、同年6月に第1回ラウンドと明記されています。 (Trade and Economic Security) |
| メキシコ(近代化) | 採択・批准プロセス | EUは「採択・批准」区分で整理しています。 (Trade and Economic Security) |
| チリ(先進枠組み) | 採択・批准プロセス | 併せて、暫定貿易協定が2025年に発効した旨がEU側整理にあります。 (Trade and Economic Security) |
補足:EUとメルコスールは、2026年1月17日に署名したと公表されています。これは本稿の基準日(1月16日)の翌日なので、1月16日時点は「署名直前」と理解するのが実務上は安全です。 (Trade and Economic Security)
2-2. 日本
外務省の一覧は、発効・署名、交渉中、停止に区分して示されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
| 相手国・地域 | 2026年1月16日時点の状態(外務省の区分) |
|---|---|
| トルコ | 交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| コロンビア | 交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| 日中韓FTA | 交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| バングラデシュ | 交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| GCC | 交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| UAE | 交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| 韓国 | 停止 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
| カナダ | 停止 (Ministry of Foreign Affairs of Japan) |
2-3. 英国
英国政府は、交渉中の相手としてスイス、トルコ、GCCなどを優先案件として示しています。
| 相手国・地域 | 2026年1月16日時点の状態 | 直近の補足(公式情報ベース) |
|---|---|---|
| スイス | 交渉中 | 2025年10月の第8回ラウンドの後、次回(第9回)を2026年初頭に英国で実施予定としています。 (GOV.UK) |
| トルコ | 交渉中 | 2025年11月週に第3回ラウンドを実施したと更新があります。 (GOV.UK) |
| GCC | 交渉中 | 第6回ラウンド(2024年2月)の交渉アップデートが公表されています。 (GOV.UK) |
| 韓国 | 交渉妥結(アップグレード交渉) | 2025年12月に、既存協定のアップグレード交渉を妥結した旨の公表があります。 (GOV.UK) |
| インド | 署名済(発効待ちの可能性) | 英国政府の整理では、2025年7月24日にインドとの協定署名と記載されています。 (House of Commons Library) |
| イスラエル | 停止 | 英国議会図書館の整理では、2025年5月に交渉停止とされています。 (House of Commons Library) |
補足:英国のページは、国別に「交渉中」「交渉していない」などの区分が更新されることがあります。実務で案件を追う場合は、個別案件の交渉アップデート(ニュースリリース)まで追うのが安全です。 (GOV.UK)
2-4. カナダ
カナダは、インド、UAEで「交渉中」と明確に記載し、タイは交渉開始の手続き条件(一定期間後)を提示しています。 (Global Affairs Canada)
| 相手国・地域 | 2026年1月16日時点の状態 | 直近の補足(公式情報ベース) |
|---|---|---|
| インド(CEPA) | 交渉中 | 2025年11月の意図表明と、2025年12月13日から2026年1月27日までのパブリックコンサル(交渉開始は2026年見込み)を明記しています。 (Global Affairs Canada) |
| UAE(CEPA) | 交渉中 | 2025年11月の意図表明と、交渉開始意向の発表を整理しています。 (Global Affairs Canada) |
| タイ(FTA) | 開始予定 | 通知日から90日以上後に交渉開始予定と明記されています。 (Global Affairs Canada) |
| ASEAN(FTA) | 交渉中 | 2021年11月16日に交渉合意、交渉継続中である旨が整理されています。 (Global Affairs Canada) |
| ASEAN(交渉の見通し) | 交渉継続(2026年妥結見込みの言及あり) | 首相府の発表では、カナダASEAN FTA交渉の加速と、交渉が2026年に妥結見込みと記載があります。 (Prime Minister of Canada) |
| メルコスール(FTA) | 交渉中(交渉開始済) | 2018年3月に交渉開始と明記されています。 (Global Affairs Canada) |
| インドネシア(CEPA) | 署名済(発効手続き段階) | 2025年9月24日に署名した旨、内容が財・サービス・投資など広範囲である旨が整理されています。 (Global Affairs Canada) |
2-5. 豪州
豪州政府は、交渉中のFTAとしてEUとインド(CECA)を明示しています。 (DFAT)
| 相手国・地域 | 2026年1月16日時点の状態 | 直近の補足(公式情報ベース) |
|---|---|---|
| EU | 交渉中 | 豪州側はEUとのFTA交渉ページを用意し、交渉方針と目的を示しています。 (DFAT) |
| インド(CECA) | 交渉中 | ECTAを土台に、より包括的なCECAを交渉中と説明しています。 (DFAT) |
2-6. 多国間の枠組み(CPTPP、AfCFTA)
個別の二国間FTAと並び、企業の市場アクセスやサプライチェーン設計に効くのが、多国間枠組みの拡大です。
・CPTPPは、英国が2024年12月に加盟したとされ、次の拡大としてコスタリカの加盟手続きが進み、ウルグアイのプロセス開始、さらに2026年にUAE、フィリピン、インドネシアのプロセス開始を検討する方針が示されています。 (The Beehive)
・AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)は、協定が2019年5月30日に発効し、2021年1月1日に貿易が開始したと整理されています。個別のFTA交渉というより、域内取引のルール実装が進むフェーズと捉えるのが実務的です。 (African Union)
3. ビジネス実務での着眼点(交渉を追うときの優先順位)
交渉ニュースは関税率の話題になりがちですが、実務で効くのは次の順番です。
- 原産地規則(ROO)
関税ゼロより前に、原産地認定に失敗すると優遇を使えません。部材比率、工程基準、累積原産の可否が、調達設計を左右します。 - 非関税措置の扱い
SPS(衛生植物検疫)、TBT(技術的障害)、適合性評価、表示規制、デジタル関連(越境データ移転、電子署名・電子文書)などは、コストとリードタイムに直撃します。EUが交渉ページで市場アクセスだけでなく、デジタルや持続可能性など幅広い項目を掲げているのは、この非関税領域が「交渉の本丸」になっていることを示唆します。 (Trade and Economic Security) - 発効までのタイムラグ
署名済でも、発効まで数年かかることがあります。たとえば、カナダインドは「交渉開始に向けた公開協議の期間」まで明記しており、2026年は交渉の年、発効はさらに先になる可能性があります。 (Global Affairs Canada) - 政府調達とサービス
BtoB(特にインフラ、IT、専門サービス)では、関税より政府調達やクロスボーダーサービスの条項が売上に直結します。英国がスイス交渉でサービスを中心に据えると述べているのは、その象徴です。 (GOV.UK)
4. 基準日(2026年1月16日)直後に起きた大きな更新(参考)
・EUとメルコスールは、2026年1月17日に署名したと報じられています。これにより、以降は批准と発効に焦点が移ります。 (Financial Times)
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