日本がGCCとの交渉を続けながら、UAEとの個別交渉も並行して行っている理由は、「GCC交渉が15年以上実質的に停滞していた」という歴史的経緯と、「UAEが独自のCEPA戦略を持っている」という現実が重なったためです。
GCC交渉の歴史的な停滞
日GCC・EPA交渉は2006年9月に開始されましたが、2009年3月の第4回交渉会合を最後に中断しました。 中断の理由はGCC側が自国のFTA政策を全般的に見直すと決定したためで、以降15年以上にわたり交渉が凍結されました。sangiin+1
その後、2023年7月に岸田首相とGCC事務総長の会談で「2024年中に交渉を再開する」と合意し、ようやく2024年12月にリヤドで再開後第1回会合が開かれました。 現在も交渉は継続中ですが、長い空白期間があったこともあり、GCC全体での合意形成には依然として時間がかかる見通しです。mofa.go+1
GCC交渉が難航する構造的な理由
GCC(湾岸協力理事会)は6か国(UAE・サウジアラビア・クウェート・カタール・バーレーン・オマーン)の関税同盟であり、相手方が単一国家ではなく地域機構である点が交渉を複雑にします。 加盟6か国の経済規模・産業構造・利害が異なるため、関税撤廃や原産地規則について全加盟国が納得する合意形成に相当の時間を要します。 実際にEU・GCCのFTA交渉も2008年に中断するなど、GCCを相手にした包括的FTA締結は世界的にも難しいとされてきました。jsie+1
UAEが個別CEPA戦略を積極推進
UAEは2021年から独自の「CEPAプログラム」を国家戦略として掲げ、主要貿易国との二国間CEPA締結を猛スピードで進めています。 インド、韓国、オーストラリア、インドネシアなどとの交渉を次々と完結させ、最終的には103か国を対象に貿易総額の最大95%をカバーすることを目標としています。mohamedbinzayed+1
つまり、UAE側から見れば「GCCとしての枠組みを待つのではなく、個別に先に締結したい」という明確な意図があったのです。[mohamedbinzayed]
日本が並行交渉を決断した理由
岸田首相は2024年9月のCEPA交渉開始発表で、「日UAE間のCEPAと日GCC・FTAが互いに補完し合うことを期待する」と明示しました。 日本政府の公式声明でも「日GCC・FTAに加えて、UAEとの間により包括的なEPAを締結する」という二段構えの方針が確認されています。mofa.go+1
日本がUAEとの個別交渉を決めた実務的な理由は以下の3点です。jetro.go+2
- GCC交渉は全加盟国の合意が必要なため、対象範囲がどうしても最小公倍数的になる。UAE個別なら日本が求める「デジタル貿易・サービス・投資・知的財産」などの高水準ルールを盛り込みやすい
- UAEは日本にとって中東最大の貿易相手国かつ最多の在留邦人・日系企業数を抱える特別な市場であり、GCC交渉の帰趨を待つよりも先行してメリットを確保する必要があった
- UAE自身が個別CEPA締結を強く望んでおり、交渉スピードが期待できる環境だった(実際に約1年半で妥結)
両交渉の関係性
二つの交渉は矛盾しているわけではなく、日本政府は明確に「補完関係」として位置づけています。 GCCが妥結した場合、UAE向けの関税条件はより有利な方(日UAE・CEPAまたは日GCC・EPA)を企業側が選んで利用できる仕組みになる可能性が高いです。GCC交渉は現在も継続中であり、2025年6〜7月に東京で再開後第2回会合が行われています。mofa+1
免責事項
本記事は公表済みの政府資料・報道情報に基づく一般的な情報提供を目的としています。個別の通商戦略・法務判断についてはご自身で最新情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
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