【メキシコ】最大50%関税案、2027年まで「棚上げ」の背景と日本企業への影響

【メキシコ】最大50%関税案、2027年まで「棚上げ」の背景と日本企業への影響

現在報じられている「メキシコ財界による最大50%関税案の延期要請」というニュースは、要約すると以下の通りです。

「中国などFTA非締約国からの約1,400品目に対し、最大50%の関税を課すという法改正案に対し、メキシコ経済界が『急激な実施は経済への打撃が大きい』として、少なくとも2027年までの延期・段階的適用を議会に働きかけ、審議が延長された」

これは単なる「対メキシコ輸出」の話ではなく、**「メキシコ生産拠点で、中国・アジア製の部材や設備を使用している日本企業」**のコスト構造に直結する重要な局面です。


1. 何が起きているのか(現状の整理)

シェインバウム新政権下の経済政策(および前政権からの流れ)の一環として、中国、インド、韓国、台湾など**「FTAを締結していない国」からの輸入品(約1,400〜1,500品目)に対し、最大50%の関税を課すLIGIE(一般輸出入税法)改正案**が下院で議論の遡上に載りました。

  • 対象分野: 自動車・EV部品、鉄鋼・アルミ、繊維・衣料、プラスチック、家具、玩具、電子機器など多岐にわたります。
  • 影響規模: 輸入額ベースで約500億ドル規模(メキシコ全輸入の約8〜9%)に及ぶと試算されています。
  • 目的:
    1. 対アジア貿易赤字の縮小と国内産業の保護(”Plan México”)。
    2. 2026年のUSMCA(米墨加協定)見直し協議を見据え、米国が求める「対中包囲網」に同調する姿勢を示すこと。

2. すでに進行している「関税強化」の流れ

今回の法案は突発的なものではなく、2024年から続く一連の保護主義的政策の延長戦上にあります。

  • 2024年4月(大統領令):鉄鋼、アルミ、繊維、電機など544品目に対し、5〜50%の臨時輸入関税を導入(2026年4月まで有効)。ターゲットは主に中国などのFTA非締約国。
  • 2024年末(繊維・アパレル規制):糸・生地(15%)、衣類(35%)への関税引き上げに加え、IMMEX(保税加工プログラム)の対象外リスト(Annex I)を拡大。「免税で輸入し、加工して再輸出」という抜け道を塞ぐ動きが強まっています。
  • 2025年以降の構想:今回のLIGIE改正案では、MFN(最恵国待遇)関税率そのものを底上げし、自動車(中国製完成車など)の関税を一律50%へ引き上げる案なども浮上していました。

3. 財界の懸念と「延期要請」の理由

メキシコ経営者連盟(Coparmex)などの産業界は、以下の理由から急激な関税引き上げに強く反対しています。

  1. コスト急増とインフレ懸念多くの製造業がアジア製部材や設備に依存しており、最大50%の関税は製造原価を直撃します。これが最終製品価格に転嫁されれば、インフレを加速させ、消費者の実質所得を圧迫します。
  2. 輸出競争力の低下(ニアショアリングへの逆風)コスト増は対米輸出の価格競争力を削ぎます。自動車業界などでは「採算悪化による雇用喪失」への懸念も示されています。
  3. サプライチェーンの断絶リスク金型や特定電子部品など、北米内で代替調達が困難な品目も多く、「代替先がないのに関税だけ上がれば操業停止を招く」との悲鳴が上がっています。
  4. 中国との関係悪化中国はメキシコにとって第2の貿易相手国です。中国側は既に対抗措置を示唆しており、EV投資や部材供給における地政学リスクが高まっています。

【財界の要求】

「2026年の一括実施ではなく、2027年までの段階的導入とし、品目ごとに国内供給能力を見極めた調整を行ってほしい」とロビー活動を展開しました。

また、与党モレナ(MORENA)所属のポレンスキー下院議員(元党首)も「中国からの投資誘致と雇用創出を優先すべき」と述べ、拙速な関税引き上げが招くインフレや企業倒産のリスクに警鐘を鳴らしています。

4. 政府・議会の対応:事実上の「棚上げ」へ

  • 行政府(大統領府):シェインバウム大統領は、関係国との協議や案の修正を検討するため、議会での即時承認を急がない姿勢を示唆しました。
  • 議会(下院経済委員会):10月末、下院の経済通商競争委員会は、LIGIE改正案の審査期限を**「2027年8月末まで」延長**することを決定しました。

これにより、「議会を通じた法改正による大幅な関税引き上げ」は、当面の間(2027年まで)凍結される公算が高まりました。

⚠️ 注意点:リスクは消えていない

議会審議は延期されましたが、メキシコでは大統領令(政令)によって関税率を変更することが可能です。法改正が停滞しても、行政判断で突発的に関税が引き上げられるリスクは依然として残っています。

5. 日本企業へのビジネスインパクトと対策

5-1. 影響を受けやすい企業
  • アジア部材依存型: メキシコ工場で中国・韓国・インド等の部材を多用している(自動車部品、電子機器、機械など)。
  • 迂回輸出型: 日本から中国・アジアを経由してメキシコへ供給している商流。
  • IMMEX活用企業: 一部品目がIMMEXの恩恵を受けられなくなっており、「免税のつもりがあとで課税される」リスクがあります。
5-2. 日本企業の優位性

日墨EPA(経済連携協定)があるため、「日本原産品」はMFN関税引き上げの影響を直接受けません。

中国製品のコスト増により、メキシコ市場において日本製品(または日本企業の北米生産品)への切り替え需要が発生するチャンスでもあります。

5-3. 推奨されるアクション

この「猶予期間(〜2027年)」をどう使うかが鍵となります。

  1. 「関税影響マップ」の作成主要部材について「HSコード(2022年版)×原産国」を洗い出し、MFN税率引き上げ時のインパクトを可視化する。
  2. 調達先の見直し(脱・非FTA国)日墨EPA、CPTPP、USMCAをフル活用し、原産地をアジアから「日本・北米・ベトナム(CPTPP)」などへシフトするコストシミュレーションを行う。
  3. PROSEC / Regla Octava の活用産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)への登録や、特別無税輸入許可(Regla 8ª)の活用準備を進め、関税引き上げ時の「防波堤」を作っておく。
  4. 契約条件の再交渉関税コストの負担区分について、顧客やサプライヤーと条項を見直しておく。

まとめ:ビジネスマンが押さえるべき3点

  1. 50%関税案は「消滅」ではなく「延期」:議会ルートは2027年まで棚上げだが、大統領令による奇襲的な引き上げ余地は残っている。
  2. ターゲットは「非FTA原産 × 戦略物資」:日本企業のメキシコ拠点が得意とする自動車・電機・機械分野が狙い撃ちされている。
  3. 2027年までが「構造改革」のタイムリミット:2026年のUSMCA再交渉とセットで、北米の通商ルールは激変する。今のうちにサプライチェーンを「関税耐性」のある形へ組み替える必要がある。

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

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