以下は、「イタリア産パスタへの米追加関税、107%へ拡大見込み」という報道について、一次資料に基づき整理したものです。
結論: 米商務省のアンチダンピング(AD)年次見直しの暫定結果で91.74%という高率が示されたことに加え、別途進行している米・EU間の「相互(レシプロカル)関税」枠組みによる15%が合算されるため、実効税率が約107%(91.74% + 15% = 106.74%)に達する見込みです。AD税率の最終決定は2026年1月初旬の見込みです。
何が起きているか
米商務省がイタリア産パスタ(特定範囲)のAD年次見直し暫定結果(2025年9月4日公表)で、主要企業に91.74%(非協力=AFA扱い)を通知しました。
これとは別に、米・EUは2025年8月21日に「相互関税」枠組みに合意しており、多くのEU産品にはMFN税率または15%のいずれか高い方が適用されています。パスタのMFN税率は通常1.5%程度のため、相互関税枠組みでは実質的に15%となります。
この2つの制度の合算(AD 91.74% + 相互関税 15% = 約107%)が「107%の見込み」の内訳であり、まだ最終確定ではありません。
暫定結果の中身(AD年次見直し)
対象期間: 2023年7月1日~2024年6月30日の輸入分
非個別審査企業には、Barilla、Rummo、Gruppo Milo、Liguori などが含まれます。
AFA適用の理由: 商務省は、対象企業が要求情報の未提出等により協力的でなかったと判断し、Adverse Facts Available(申請者側に不利な情報)を適用しました。
今後のスケジュール:
「107%」の根拠(AD 91.74% + 相互関税 15%)
報道されている「107%」は、2つの異なる制度の税率を合算したものです。
- AD関税(暫定): 91.74%
上記で説明した年次見直しの暫定税率 - 相互(レシプロカル)関税: 15%
2025年8月21日、米・EUは相互関税の枠組みで合意しました。これにより、多くのEU産品は「MFN税率または15%のいずれか高い方」が適用されます。パスタのMFN税率は通常1.5%程度のため、相互関税枠組みでは実質的に15%となります。
したがって、**AD(暫定)91.74% + 相互関税 15% = 実効税率 約107%**となるのが、報道の根拠です。
注意点: AD制度には既存の一般率(all-others rate)がありますが、これは今回の91.74%にさらに足すものではありません。報道の「+15%」は、別制度である「相互関税」を指しています。
影響を受ける企業(暫定リスト概要)
個別審査(91.74%): La Molisana、Garofalo
非個別審査(91.74%): Barilla、Gruppo Milo、Rummo、Agritalia、Liguori、Antiche Tradizioni di Gragnano、Cocco、Chiavenna、Aldino、Sgambaro、Tamma(計11社)
審査取下げ/対象外: Andriani、DeLallo、Di Martino(Pastificio dei Campi含む)、Mediterranea、Rigo ほか(これらの企業は今回の見直しから外れ、各社の現行率が維持されます)
対象製品(スコープ)と主な除外品
このAD措置は、全てのイタリア産パスタが対象ではありません。自社製品が該当するかどうかの確認が必須です。
主な対象:
- 乾燥・非卵パスタ
- 小売向け2.27kg (5ポンド4オンス) 以下のパッケージ
- 強化・ビタミン・色付け等を含んでも可、卵白は2%まで許容
- 主にHTSUS (関税番号) 1902.19.20に該当
主な除外例:
- 冷蔵、冷凍、缶詰のパスタ
- 卵パスタ(定義上の例外あり)
- オーガニック(EU認可機関によるUSDA National Organic Program準拠の認証付)
- グルテンフリー
- 5ポンド超の大袋(業務用など)
- 装飾瓶入りの多色パスタ、一部のラビオリ/トルテッリーニ等
いつからどのように効くか
AD(91.74%): 現時点では「暫定」です。最終結果(2026年1月初旬頃)が公表されてから、将来の輸入に対する預託率(キャッシュデポジット)が更新されます。対象期間(2023年7月1日~2024年6月30日)の過去の輸入分は、最終率に基づき清算(アセスメント)されます。
相互関税(15%): 2025年8月21日に枠組み合意が発表され、9月1日から段階的に適用が開始されており、既に有効な枠組みとして以降の輸入に適用されています。
EU・イタリア側の動き
イタリア外務省は10月6日頃に対応を表明し、91.74%という暫定率は不均衡であるとしてEU委員会と連携し、対米働きかけと企業支援を表明しました。
EUのセフチョビチ委員も「パスタへの合計107%の関税は受け入れがたい」と述べ、米側と協議中であると発言しています。
実務影響と対応のヒント
該当企業の特定: 仕入先の生産者名義(輸出者)が暫定リストにあるか確認が必要です。別ブランドで販売されていても、生産者名義で税率が左右されます。
スコープ(対象範囲)の精査: パッケージ重量(5ポンド超か以下か)、原材料(卵、グルテンフリー)、認証(オーガニック)の有無で、対象外になり得る商品がないか、法令の文言に沿って再確認してください。
原価試算(例): CIF価格 $1,000 の対象商品の場合、AD 91.74%で $917.40、さらに相互関税で最大 $150(MFN<15%の場合)が加算され、合計 $1,067.40(実効約107%)の追加負担となり得ます。
サプライヤーへの働きかけ: 最終決定(120日以内)に向け、サプライヤー(生産者)に対し、AFA回避のために米側調査票やデータ提出に協力するよう要請することが考えられます。
サプライ戦略の検討:
- 米国内生産品: Barillaは米アイオワ州Ames(1999年開設)・ニューヨーク州Avon(2007年開設)にも工場を持っています。「Made in USA」品はADの対象外です。
- 対象外カテゴリー: オーガニック、グルテンフリー、業務用大袋など、スコープ外の製品への切り替えを検討します。
- 他原産地: トルコ産パスタにも別途AD命令が継続しているため、原産地変更時は慎重な調査が必要です。
よくある誤解の整理
Q: すでに107%が発動している?
A: いいえ、まだ「暫定」です。ADの最終結果(2026年1月初旬頃)が出てから、その税率での預託が始まります。相互関税15%は既に有効ですが、**合計107%はあくまで「最終率が暫定通り確定した場合の見込み」**です。
Q: すべてのイタリア産パスタが対象?
A: いいえ。スコープ(対象範囲)は乾燥・非卵・小売用小袋が中心です。冷蔵・冷凍・缶詰、オーガニック(適正な認証付)、グルテンフリー、5ポンド超の大袋などは除外されます。
Q: Barillaは対象?
A: 米国内生産のBarillaパスタ(原産国:米国)は対象外です。イタリア製のBarilla(原産国:Italy)は、非個別審査企業として91.74%(暫定)の対象リストに含まれています。SKUごとの原産国確認が必要です。
時系列(主要な日付)
- 2024年7月1日: AD年次見直しの申請機会を告知
- 2024年8月14日: 年次見直し開始(対象18社)
- 2025年8月21日: 米・EUの相互関税枠組み合意を発表
- 2025年9月1日: 相互関税(15%枠)の段階的実装開始
- 2025年9月4日: AD暫定結果を公表(91.74%)
- 2026年1月初旬: AD最終結果の公表見込み(延長がない場合)