対中ビジネスアップデート:レアアース輸出規制の現状と見通し(2025年11月20日版)

【エグゼクティブ・サマリー】

赤澤経産相は11月18日、中国のレアアース輸出管理措置について「現時点で特段の変更はない」と述べました。これは、高市首相の台湾関連発言により日中関係が緊張する中にあっても、11月上旬に合意された「対中規制の1年間暫定停止」という現状(ステータス・クオ)が維持されていることを確認するものです。企業にとっては「危機が去った」わけではなく、「1年間の対策猶予期間が確保された」と解釈し、サプライチェーン強靱化を急ぐ必要があります。


1. 経産相発言の事実と核心

  • 日時・発言者:2025年11月18日/赤澤亮正 経済産業相
  • 発言内容:「中国によるレアアース等の輸出管理措置について、現時点で『特段の変更はない』」
  • ビジネス上の含意
    • 直近(11月11日頃)、米中協議の結果として中国側が発表した**「レアアース輸出規制の1年間暫定停止」**の枠組みが、その後の政治的摩擦(後述)によって覆されていないことを確認しました。
    • 中国側が即座に「報復」へ転じていないことへの安堵を示すメッセージです。

2. 背景:2025年秋の「規制ショック」と「一時休戦」

これまでの経緯を時系列で整理します。

  1. 規制の厳格化(10月9日)
    • 中国商務省が「国家安全」を理由に、レアアースの採掘・精錬技術および磁石製造技術の輸出管理を強化。サプライチェーン全体への許可制導入を発表しました。
  2. 国際的な反発と米中合意(10月~11月上旬)
    • 米国:次期トランプ政権のベセント財務長官(指名候補)らが「重大な誤り」と猛反発。対中100%関税のカードを切り、激しい応酬となりました。
    • 一時停止の発表(11月11日):米中協議の進展を受け、中国側は上記規制の**「1年間の暫定停止」**を発表。市場には一時的な安堵が広がりました。

3. 政治リスクの再燃:「変更なし」発言が出た真の理由

なぜ今、改めて「変更なし」の確認が必要だったのか。それは、「一時停止」の合意が吹き飛びかねない新たな火種が発生したためです。

  • 高市首相の「台湾発言」
    • 高市早苗首相による台湾有事・安全保障に関する発言に対し、中国側が猛反発。「日本へのレアアース輸出を全面禁止すべき」との強硬論が中国国内で再燃しています。
  • 発言の意図
    • 赤澤経産相のコメントは、こうした政治的緊張にもかかわらず、**「現時点では中国当局が実務上の『ちゃぶ台返し(規制停止の撤回)』には動いていない」**という事実を市場に伝え、パニックを抑制する狙いがあります。

4. 企業への実務的示唆

「変更なし」=「安全」ではありません。現状は**「首の皮一枚で繋がっている休戦状態」**です。

(1) 短期(今後12カ月):不安定な調達環境

  • 猶予期間の活用:中国側の「1年間停止」措置が有効な間に、現行契約に基づく在庫積み増しを推奨します。
  • 突発的遅延への備え:制度上は「停止」でも、現場レベルの通関遅延(サイレントな嫌がらせ)が発生するリスクは常在します。

(2) 中長期:構造的なデカップリング準備

  • 代替調達の加速:IEAなども指摘する通り、中国への依存(採掘70%、精錬90%超)は構造的なボトルネックです。
  • 技術投資:重希土類フリー磁石やリサイクル技術への投資は、もはや「環境対応」ではなく「BCP(事業継続計画)」の要です。

5. アクションプラン(推奨事項)

  1. 在庫ポリシーの見直し:重要品目については、「ジャストインタイム」から「ジャストインケース(有事対応)」へ切り替え、数ヶ月分のバッファを持つ。
  2. 契約条項の確認:米中・日中の政治的対立による輸出停止を「不可抗力(Force Majeure)」として処理できるか、法務部門と再確認する。
  3. 情報収集の定例化:中国商務省の公式発表だけでなく、ジェトロや専門商社のレポートを通じ、実務運用(ライセンス発給状況)の定点観測を行う。

再製造品の通関を円滑にする保証書戦略

「再製造品の通関を円滑にする保証書戦略」を、すでに再製造ビジネスを行っている企業向けに、実務ベースで整理します。
(=今ある保証書や帳票を「通関に強い仕様」にアップグレードする、という前提です)


1. なぜ「保証書」が通関で効くのか

税関が再製造品をチェックする際の典型的な懸念は:

  • 単なる「中古品」や「廃棄物」の輸入ではないか
  • 安全性・品質が担保されているのか
  • 過度に過小申告された「ジャンク価格」ではないか

です。

保証書は、次の点を客観的に示す“証拠”になり得ます:

  • 「新品同等の性能・品質を持つ、再製造品である」こと
  • 製造者が一定期間の責任(保証)を引き受けている=製品としての価値があること
  • どの工場で・どのプロセスを経て再製造されたかがトレースできること

したがって、うまく設計された保証書は、
「中古・スクラップ」扱いを避け、再製造品としての正当な通関を支えるキー資料
になります。


2. 戦略の全体像(3つのレイヤー)

① 文言戦略(保証書の中身をどう書くか)

  • 「再製造品」であること
  • 「新品同等性能」「保証期間」「トレーサビリティ」などを、税関が読み取りやすい形で明文化

② ドキュメント・パッケージ戦略

  • 保証書だけではなく、
    「工程票・検査成績書・使用部品リスト・ラベル仕様」などとセットで通関資料に使えるようにしておく

③ オペレーション戦略

  • 誰が、いつ、どの様式で保証書を発行し、
    通関トラブル時に誰が修正・追加説明を行うかを社内プロセスとして固定する

3. 保証書の「通関向け」文言設計

3-1 必須要素(最低限ここは押さえたい)

  1. 再製造品である明示
    • 例: 本製品は、当社工場において分解・検査・部品交換・再組立・最終検査を行った**再製造品(remanufactured product)**です。
  2. 新品同等性能の明示
    • 例: 本再製造品は、当社の新品製品と同等の性能および機能を有することを確認しております。
    • 「新品以上」「新品を超える」等の表現は避け、**“新品と同等”**にとどめると法務的にも扱いやすいです。
  3. 保証期間と、新品との比較
    • 例: 保証期間:出荷日より12か月(当社新品製品と同一条件)
    • 税関は「保証期間」からも商業的価値・品質レベルを推定します。新品と同等、またはそれに準じる期間であることを明示。
  4. 保証の範囲
    • 例: 本保証は、通常の使用条件下での材料および製造上の欠陥に限定されます。交換部品および修理工賃を対象とし、二次的損害は対象外とします。
  5. トレーサビリティ情報
    • 保証書のどこかに、最低限次を入れる:
      • 再製造工場名/所在地(国名)
      • 再製造日または出荷日
      • 製品型式・ロット番号・シリアル番号
      • 再製造工程コードや作業指示番号(社内コードでも良い)
  6. 安全・規格・適合情報
    • EU・北米向けなら、必要に応じて:
      • 適用規格(例:IEC、UL等)
      • CEマーキング/UL認証等の有無
    • これを保証書内に簡潔に記載し、詳細は別紙「技術文書」「試験成績書」に飛ばす設計にすると整理しやすいです。

4. 通関で使える「保証書+技術資料パッケージ」の標準構成

実際にうまく回っている企業ほど、次のような**“ひとまとめパック”**を決めています。

  1. 保証書(Customer Warranty Certificate)
    • エンドユーザー/販売先向けだが、税関提出用としても使えるように日英併記にしておくと有利。
  2. 再製造工程フローとチェックシート(1~2枚)
    • 「分解 → 清掃 → 検査 → 交換 → 再組立 → 最終検査」の流れを1枚図に
    • 代表的な検査項目と合否基準を簡潔に記載
  3. 出荷検査成績書(代表値で可)
    • 主な性能項目と合格判定
    • “新品基準”と“再製造品の測定値”を並べるフォーマットにすると、
      「新品同等」の裏付けとして説得力が出ます。
  4. 使用した新品部品の一覧
    • 例:
      • 部品名/部品番号
      • 新品・再利用区分
      • 主要な新品部品(シール類、ベアリング、電子基板等)には、「メーカー純正/同等品」の別も明示
  5. ラベル・マーキング仕様
    • 製品に貼るラベルの見本(PDFで1枚)
    • 以下の項目が読めるように:
      • “Remanufactured by XXX in [Country]”
      • 製品型式・シリアル
      • 再製造日コード
    • 税関に「表示が明確=ユーザーも再製造品と理解して購入している」ことを伝えられます。
  6. 原産地・HSコード関連との紐付け
    • HS分類メモ、原産地判定メモ(RoO)、コスト構成等の記録と、
    • 上記パッケージを同じ案件フォルダで一括管理しておく
    • HS Code Finder/社内HS判定システムの「添付資料」欄に
      • 「保証書」「出荷検査成績書」「再製造工程図」を標準で含める
        というルールにすると、後からの説明資料の入手が非常に楽になります。

5. 実際に行われているオペレーションのイメージ

5-1 A社パターン(日本本社+ASEAN工場 → EU/US向け)

  • 本社(日本)
    • 保証書テンプレートを日英版で作成し、一元管理
    • 改定時は、法務・品質保証・貿易部が合同レビュー
  • ASEAN再製造工場
    • 本社テンプレに従って保証書を発行(製品ラベルと同じLOT/Serialを必ず記載)
    • 出荷検査成績書、工程票、部品リストをロットごとにPDF化
  • 通関・物流(日本/現地販売会社)
    • 税関から照会が来た場合すぐ出せるよう、
      「インボイス/パッキングリスト/HS分類メモ/保証書パック」を1セットにして保管
    • HSコードや「新品/中古/再製造」区分を確認されたときは、
      まず保証書+工程フロー+検査成績の3点セットを先に提示

5-2 B社パターン(自動車部品の再製造サービスパーツ)

  • 部品番号(P/N)単位で保証書を紐付け
    • 部品マスタに「新品」「再製造」「修理品」の区分フラグを持たせる
    • 再製造品には必ず保証条件コードを設定(新品と同等 or 短縮など)
  • 保証書には、次を明示
    • 対象部品番号
    • 適合車種/システム
    • 保証期間と走行距離条件
  • 通関実務
    • HSコード説明依頼の際に、
      「この部品は新品ではなく再製造品だが、メーカー保証付きで新品同等性能である」
      ことを保証書と部品マスタ情報で説明する運用

6. 国・地域別の「見せ方」のコツ(ハイレベル)

※法的アドバイスではなく、実務上よく取られる“説明トーン”のレベル感です。

ASEAN域内(改定ATIGAも意識)

  • 一部加盟国では「中古品・廃棄物」の輸入に慎重
  • 保証書上は:
    • 「新品同等性能」である点
    • 認定工場での再製造である点
    • 簡潔な環境面の意義(廃棄削減・資源活用)を追記すると、担当官に納得感が出る場合が多い

EU向け

  • 環境・安全・エコ設計の観点にも関心
  • 保証書では:
    • 適用規格・指令(例:低電圧指令、EMC指令等)への適合を簡単に触れる
    • 詳細は「技術ファイル」「試験レポート」にリンクさせる設計が無難

米国向け

  • 「Repair/Refurbished/Remanufactured」の違いに敏感な場合あり
  • 保証書では:
    • “Remanufactured”を明示(Refurbishedと混在させない)
    • 保証内容(期間・範囲)をクリアに書くことで、商業的価値と品質水準を説明

7. 社内で今すぐできるチェックリスト

  1. 対象製品の棚卸し
    • 再製造品のラインアップをリストアップ
    • 「保証書が存在するもの」「存在しないもの」「新品と同じ保証書をなんとなく使っているもの」に色分け
  2. 保証書フォーマットの見直し
    • 上記3-1の必須要素が入っているかをチェック
    • 「新品と同じ文言をコピペ」していないか(再製造品の特性が反映されているか)
  3. 技術資料とのリンク
    • 保証書に書いてある内容を裏付ける工程票・検査成績書が、
      ロット別にちゃんと残っているか
    • HS分類メモ・原産地判定メモと同じフォルダに保存されているか
  4. 通関トラブルのフィードバック
    • 過去に「中古扱い」「価格査定」「環境規制」などで指摘を受けた案件を振り返り、
    • そのときに「保証書に何が書いてあれば言いやすかったか」を洗い出し、
      保証書テンプレに反映(テンプレの改訂履歴を残す)