ラオス人民民主共和国におけるHSコード事前教示制度

ラオス人民民主共和国におけるHSコード事前教示制度の実務まとめ

ラオス(Lao PDR)におけるHSコードの事前教示(Advance Ruling)制度—ラオス関税法上は分類・原産地・評価・手続/レジームを対象とするAdvance Rulings—の実務向けまとめです。一次根拠は、改正関税法(Customs Law)の第32条と、財務大臣インストラクション No.3610/MoF(2012年12月21日)、およびラオ・トレードポータルの掲載資料です。

主管当局と公式情報源

所管当局:税関総局(Lao Customs Department, Ministry of Finance)

制度案内・根拠:「Instruction of the Finance Minister on Advance Ruling, No. 3610/MoF」(ラオ・トレードポータル掲載)

Advance Ruling Unit(ARU):税関本部の所掌部局内に設置(申請受付・審査・決定案作成)。決定権者は税関総局長です。

問い合わせ先:WTO TFAデータベース上の税関協力Enquiry Point(連絡先・所在地)—税関協力窓口ですが、AR申請に関する初期照会先として有用です。

関連ポータル:ラオ・トレードポータル(制度全般/関連法令)

事前教示のプロセス(分類ARを中心に)

申請

様式:指定フォーム(分類/原産地/評価/通関手続・レジーム)で手書・電子のいずれも可。ラオス語または英語で詳細記載し、裏付け資料・必要に応じサンプルを添付してARUに提出します。

受付・照会

受付票の発行:受付日・受付番号を付して書面/電子で通知。

書類確認:5営業日以内に追加情報を求め得ます(インストラクションでは5日以内に照会→申請者は10営業日以内に回答とされていますが、改正関税法〔第32条〕では「追加情報の提出期限:5営業日」に短縮されているため、実務は法〔5日〕優先と理解するのが安全です)。

審査・決定

原則の流れ(省令ベース):10営業日以内に決定案を作成→ユニット長が5営業日以内に確認→2営業日以内に申請者へ受領案内。ラボ分析が必要な場合はこの10営業日目標を超過します。

法定の上限(関税法):申請受理日から60日以内にAdvance Rulingを発出。不備照会→5営業日以内の追完→再起算。

再考申立て(Reconsideration)

決定受領後30日以内に再考請求可。税関は7営業日以内に結果を通知します。

適用範囲・現場運用

全国の国境税関で有効。ただし現場の検査権限は維持(同一性確認のため現物検査を行い得る)。同一・同質貨物にも適用できる旨が明記されています。

注意:ラオスの別資料に「advance declaration(事前申告)」という語があり、”7日以内に事前申告を行う”等の運用が示されていますが、これは通関の事前申告であり、分類・原産地・評価のAdvance Ruling(第32条)とは別制度です。混同に注意してください。

申請に必要な情報(最小パック)

申請者情報:輸入者/申告者(海外の生産者・輸出者の代表による申請も可)。連絡先。

貨物の詳細説明:品名(通称/技術名)・用途/機能・作動原理・構造・材質/組成(重量%=100%合計)・寸法重量・包装形態(リテール/バルク、セット/部品)。写真・図面・カタログ等の裏付け。必要時はサンプル(提供困難な場合は技術情報で代替)。

申請者の見解:AHTN/HS候補と法的根拠(GIR・部注・類注)。

既往・係属:同一・類似案件の既存ARや係属(審査・不服)の有無。

原産地/評価:該当協定の原産地規則・工程/投入材内訳、評価方法の適用根拠、契約・価格関連証憑 等。

言語:ラオス語または英語(申請フォーム記載可)。

処理期間

法定上限:60日以内(受理日から)。追加資料のやり取り期間は別途。

内部目標(省令):10営業日で発出目標(ラボ分析等がある場合は超過)。受理後5営業日で照会可/申請者は(旧指針では)10営業日で回答。

有効期間

最新法令(関税法 第32条):3年間有効(貨物の性状等が不変であることが条件)。変更があれば新規ARが必要。

旧インストラクション(2012年):1年+延長1年と規定。現行は関税法の3年が優先(後法優先)。

必要な費用

手数料:金額の一律公表は確認できません。インストラクション第22条は「費用徴収に関する別途指示を税関が発出」と規定(発出時は「発給・延長に係る実費」ベース)。現時点で定額の料額表の公開情報は見当たらないため、ARUに個別確認が確実です。

実費:サンプル送付・試験分析などの実費が生じ得ます(関税法の規定上、サンプル提供要請あり)。

その他重要な実務上の注意点

拘束力の射程:全国すべての国境税関で有効。ただし現場検査権限は維持(貨物同一性の確認のため)。「同一・同質貨物」にも適用可能。

対象分野:分類(1申請=1品目)、評価、原産地、通関手続/レジーム(各1テーマごと)。

再考(Reconsideration):30日以内に申請→7営業日以内に回答。

公開性:非機密のARはデータベース化する方針(インストラクション)。

制度導入の背景:2012年インストラクション→2020年の関税法改正で「60日・3年有効」を明文化。

申請準備チェックリスト(分類AR)

☐ フォーム(分類用)にラオス語/英語で記入、ARU宛に提出

☐ 用途・機能・原理・構造・材質/組成(重量%=100%)・寸法重量・包装を写真・図面・カタログで裏付け、サンプルは要請時に対応

☐ AHTN/HS候補+GIR/注解で分類見解を明示

☐ 既往AR・係属の有無を申告

☐ タイムライン:受理→60日以内(内部目標は10営業日、不備照会は現行法では5営業日以内に回答)

☐ 有効3年(性状変更・法改正で失効)。更新時期の逆算

☐ 費用:統一料額の公示なし→ARUに確認(分析・サンプル等は実費)

主要根拠

関税法(改正):第32条 Advance Rulings(60日以内の発出/不備照会5営業日/再考30日→7営業日回答/有効3年)

財務大臣インストラクション No.3610/MoF(2012年):ARUの設置・手順、内部目標(10営業日で発出、ラボ分析時は超過)、決定の構成・全国適用・データベース化・費用規定の枠組み 等

電子通関関連の別資料(参考):advance declaration(事前申告)の運用(7日)—分類等のAdvance Rulingとは別制度

スイス連邦におけるHSコード事前教示制度

スイス連邦におけるHSコード事前教示制度の実務まとめ

スイス(Swiss Confederation)でのHSコード事前教示制度—同国では一般に**「(拘束的)関税分類照会/Verbindliche Zolltarifauskunft(vZTA)」**と呼ばれる—の実務向けまとめです(最終確認日:2025年10月18日)。

主管当局と公式情報源

主管当局:連邦税関・国境警備庁(FOCBS/BAZG/OFDF)

公式ページ:関税分類照会(Zolltarifauskünfte)ページに、申請窓口・必要情報・処理目安・法的基礎が整理されています。

公式URL:https://www.bazg.admin.ch/bazg/de/home/services/services-firmen/services-firmen_einfuhr-ausfuhr-durchfuhr/zolltarif-tares/zolltarifauskuenfte.html

オンライン関税表(検索ツール):Tares(スイス関税表・注解・先例へのリンクを収載)。

申請窓口:メールのみ(tarifauskunft@bazg.admin.ch)で受付。所定の質問票**「40.10 Tarifanfrage」**(Word様式)を添付します。

様式ダウンロード:https://www.bazg.admin.ch/…/40_10_tarifanfrage.docx

各ページの言語切替(DE/FR/IT/EN)も利用可能です。

事前教示(vZTA)のプロセス

申請時期・対象:原則として輸入前に、個別の具体品目について照会します。BAZGは商品群全体に対する包括的な回答は行わない旨を明記しています。

提出方法:所定の質問票40.10に記入し、メール(tarifauskunft@bazg.admin.ch)で提出。必要添付書類(写真・図面・仕様等)はPDF等で同封します。

受理・補正:記載内容が不十分な場合、BAZGが追完(補正)を求めます。なお、サンプルは原則送付不要です(必要時にBAZGから要請)。

審査・回答:必要情報が出そろってから起算で、最長40日以内に回答します(通常はおおむね40日)。処理は到着順です。回答は書面(PDF)で通知されます。

法的位置づけ:書面の関税分類照会は「行政処分(Verfügung)」ではないため、その文書自体に対する不服申立ては不可です。ただし、その照会に基づく具体の賦課決定に対しては通常の不服申立て手段で争うことができます。

申請に必要な情報(最小パック)

BAZGは申請に必須の情報を明示しています。40.10の質問票に沿って、次を英独仏伊いずれかで具体的に記載・添付します:

  • 商品の詳細説明:種類・性状、包装形態、用途
  • 組成(複合材/化学品等):各成分の重量%(100%基準)
  • 参考情報:専門文献・ウェブリンク
  • 高解像度の写真、カタログ/取説抜粋、図面、製造工程情報など分類に有用な資料
  • サンプル:送付不要(BAZGが必要と判断した場合のみ依頼)

実務のヒント:出願前にTaresで候補見出しを確認し、GIR(一般解釈規則)・部注・類注の当てはめと「候補の比較→棄却理由→主張見出し」の論理を資料内で明示しておくと審査が速やかです。Tares内には「貨物分類の決定(先例)」へのリンクもあります。

処理期間

法定上限:完全な資料の到達後、最長40日で回答(Zollverordnung〔関税施行令〕Art. 73)。

運用目安:通常は約40日。到着順で処理されます。

有効期間(拘束力・失効)

有効期間:6年。または、適用法令や解釈が改正・撤回された時点で失効します。

補足:関税分類の照会は6年、原産地の照会は3年とする旨が法体系の解説箇所にも示されています。

法的性質:書面照会は「行政処分」ではないため直接の不服申立ては不可。ただし、その照会に依拠した具体の賦課(課税)処分に対しては通常の審査ルートで争えます。

必要な費用

手数料:FOCBS/BAZGは、通常業務としての処理について原則手数料を徴収しません(Verordnung über die Gebühren der Zollverwaltung〔SR 631.035〕Art. 1)。したがって分類照会(vZTA)自体は無料です。

実費等:サンプル送付費や特別の出張・時間外対応等を要する場合は、別表の実費・時間料が適用され得ます(同規則の別表)。

その他重要な実務上の注意点

申請単位:1申請=1品目が原則。製品群一括の判断は行いません。

提出形式:メールに40.10様式を添付(Word)。資料はPDF等で明瞭に。サンプルは原則送付不要です。

Tares活用:関税表・注解・先例をTaresで事前確認。分類根拠の提示(GIR、部注・類注の該当)を明確化します。

照会文書の法的地位:不服申立て不可ですが、具体の課税決定に対する不服申立てで間接的に争うことは可能です。

HS改訂への注意:HS改正(例:2028年改正)など制度改訂で有効期間内でも失効があり得ます。

産業品関税の撤廃(2024年1月1日~):工業品の輸入関税は撤廃されましたが、分類(HSコード)は依然必須です(農産品関税・VAT・各種規制・統計・FTA原産地判定等で利用)。

申請準備チェックリスト

☐ 40.10質問票を作成(DE/FR/IT/ENのいずれか)。tarifauskunft@bazg.admin.ch宛にメール提出

☐ 用途・機能・構造・作動原理・組成(重量%=合計100%)・寸法重量・包装を写真・図面・仕様で裏付け

☐ 候補見出しの比較→棄却理由→主張見出し(GIR・部注・類注の当てはめ)を明記

☐ サンプル不要(要請時のみ提出)

☐ 処理目安:完全資料受領後40日以内(到着順)

☐ 有効6年(法改正等で失効あり)。更新時期を逆算

☐ 手数料:原則無料(通常業務の範囲)。特別対応は規則の定める実費があり得る

法令・一次情報(抜粋)

  • BAZG公式:関税分類照会(Zolltarifauskünfte)—必要情報、提出方法、40日の運用目安、サンプル不要、処分性なし
  • Zollverordnung(関税施行令)Art. 73—完全資料受領後40日以内に回答、補正要求の規定
  • BAZG指針R-10-00—有効6年、法改正等で失効、不服は具体賦課で間接的に
  • Tares(関税表)—関税表・注解・分類決定(先例)へのリンク
  • 手数料規則(SR 631.035)Art. 1—通常業務の処理は手数料を徴収しない旨
  • SECO:工業品関税の撤廃(2024年1月1日)—分類自体は引き続き必要

発表されたアメリカのトラックに対する関税に関して企業の経営者への情報

エグゼクティブ・ブリーフ(2025年10月19日/JST)

何が決まったか(超要約)

対象品目と関税率
中・大型トラック(クラス3~8)および部品に25%、バスに10%の関税を賦課。国家安全保障(通商拡大法232条など)を法的根拠とする大統領布告により発効します。

発効日時
米東部夏時間(EDT)2025年11月1日0:01(日本時間11月1日13:01)

USMCA適格車両の取り扱い
USMCA特恵要件を満たすトラックは、米国コンテンツを除く価値部分のみに25%を課税します(米国コンテンツ分は免除)。商務省への申請・承認プロセスが必要です。

USMCA適格部品
課税方式が連邦官報で確定するまで一時的に対象外とします(ただしCKD/EKD等のノックダウン・キットは常に課税対象)。

相殺プログラム(オフセット)
米国内で最終組立したMHDVについて、メーカーは車両価値の3.75%相当を関税相殺枠として2030年10月31日まで積み上げ可能です。エンジンメーカーにも同等制度を設定します。自動車分野の既存相殺制度も2030年まで延長されます。

関税の重ね掛け(スタッキング)
本布告の対象品は、鋼・アルミ・銅・自動車・木材等のセクター関税や相互関税との重ね掛けを回避します。ただし、素材・非対象部材に対する別関税は継続します。

業界インパクトの含意
メキシコ組立比率が高いOEMは原則コスト増となります。ただし米国部材比率(U.S. content)を高めて証明できれば実効税率を低減可能です。米国内組立は3.75%相殺により相対優位となります。メキシコが米向けトラック輸出の最大供給国である点から、サプライチェーン再配置圧力は強まります。


影響の見える化(簡易式とシナリオ)

USMCA適合トラック(メキシコ/カナダ組立)の関税額目安

実効関税 ≒ 25% × (1 − 米国コンテンツ比率)

計算例

  • トラック価額:180,000ドル
  • 米国コンテンツ:30%
  • 実効税率:25% × 70% = 17.5%
  • 関税額:約31,500ドル

※米国コンテンツの定義・算定は商務省の承認が必要です。虚偽申告には同型全量に対し全額25%適用の制裁条項があります。

米国内最終組立の相殺効果
相殺枠=車両価値の3.75%を、輸入部品の232関税等の負担とネット相殺に活用可能です(エンジンも同様)。


実務上の重要ポイント(法令運用)

USMCA適格部品の猶予措置
課税方式確立前は25%非課税とします(ただしCKD/EKDは課税対象のまま)。連邦官報告示を待つ必要があります。

FTZ(外国貿易ゾーン)の取り扱い
特恵外国(Privileged Foreign)ステータスでの入庫が必須となります。国内移出時に当該関税が適用されます。

車齢による除外
25年以上前の車両は対象外です(8702のバス含む)。

法的基盤と訴訟リスク
232条に加え、IEEPA・1974年通商法604条も布告に明記されています。関連の緊急関税に対する司法審査は別途進行中ですが、今回の主軸は232条です。訴訟リスクはあるものの、短中期での即時停止は見込み薄です。


経営サイドのアクション・チェックリスト(今週~来月)

財務/価格

  • 11/1(米東部)通関分からの原価再計算、販売価格・入札案件の価格条項(関税スライド/サーチャージ)更新
  • 相殺3.75%の申請・配賦設計(メーカー→輸入者番号への割当)

調達/生産

  • 米国コンテンツ比率の早急な実測(BOM展開、原価データの米国起源切り出し)。USMCAとは定義が異なる点に注意
  • CKD/EKD活用案件は構成見直し(対象固定)
  • メキシコ組立→米国組立の再配分や米国部材の置換に関する投資判断(6~18か月)

通関/ロジスティクス

  • 期日跨ぎ貨物の通関タイミング最適化(10/31までの搬入可否)とインボイス価額の整合
  • FTZ利用先はPrivileged Foreignでの運用切替確認

法務/渉外

  • 商務省への米国コンテンツ申請スキーム設計(証憑・監査プロセス)。誤申告は同型全量に全額25%ペナルティ
  • 官報・通達(部品方式、相殺運用細則)のモニタリング体制

メーカー別インパクト(要点サマリ)

評価軸
①北米の最終組立拠点、②メキシコ依存度、③短期コスト影響、④中期の戦略余地(米国化・相殺活用)

Daimler Truck NA(Freightliner/Western Star)
米国+メキシコ(サルティージョ/サンティアゴ)に主力工場。CascadiaやM2のメキシコ生産比率が高く、メキシコ依存度は高めです。USMCA適合でも非米国分に25%で実効税率が上昇します。米国内組立シフト、米国部材比の引上げ、3.75%相殺の活用で対応可能です。

PACCAR(Kenworth/Peterbilt)
米国主力+メキシコ生産も一定の割合を占めます。メキシコ依存度は中~高です。四半期あたり7,500万ドル規模の関税コスト増との報道があります。USMCA部材化・米国化を進めつつ、米国内組立分には相殺3.75%で影響緩和が可能です。

Navistar(International/親会社Traton)
メキシコ・エスコベードが大規模輸出拠点、米テキサス(サンアントニオ)等も拡張中です。メキシコ依存度は高めで、メキシコ発の非米国分に25%がヒットします。米国内拠点の活用拡大、米国部材化で実効税率低減余地があります。

Volvo Trucks North America / Mack
米国生産中心(VA/PA)でメキシコ依存度は低いです。完成車輸入は限定的で直接打撃は小さく、非USMCA部品の25%リスクは残りますが、米国内組立×相殺3.75%でむしろ相対優位となります。

Stellantis(Ram 3500などHDピックアップ)
メキシコ・サルティージョでHDピックアップ(クラス3相当中心)を生産します。メキシコ依存度は高く、USMCA適合でも非米国分に25%、価格転嫁圧力が生じます。米国コンテンツの引上げ、サプライヤー米国化で実効税率を圧縮できます。

Ford(Super Duty、F-650/750)
米国(KY/OH)組立中心でメキシコ依存度は低いです。完成車の直接影響は限定的で、相殺3.75%活用でネット有利となります。カナダ増産計画がある場合はUSMCA扱い+非米国分課税ルールの精査が必要です。

GM(Silverado HD/ Sierra HD)
米国(フリント)+カナダ(オシャワ)で生産します。メキシコ依存度は中程度で、カナダ組立はUSMCA前提でも非米国分に25%の可能性があります。米国内組立比率向上と相殺で影響緩和が可能です。

Isuzu(北米:N/Fシリーズ)
米国組立(ミシガン→SCへ拡大)が進行中です。メキシコ依存度は低く、完成車輸入依存が小さいため直接影響は限定的です。ただし日本発ボディ/キャブ等の非USMCA部品が25%対象となるリスクがあります。米国内一貫体制の加速でネット優位化が可能です。

Hino(トヨタ系)
米国(WV)で中型組立を行います。メキシコ依存度は低く、完成車輸入は限定的で相殺3.75%のポジティブ効果があります。エンジンは外部調達中心に移行済みで、非USMCA部品の管理が論点となります。

Tesla Semi / その他米系ZEV
米国内生産のためメキシコ依存度はありません。直接影響は軽微で、部材の原産地管理・232素材関税の最適化が主眼となります。

参考情報
メキシコは米向けMHDVの最大供給国で、政策発表後の報道もメキシコ依存OEMのコスト上振れを強調しています。


直近90日で経営が押さえるべき「3つの分岐点」

1. 米国コンテンツの定義運用と承認速度
「USMCA適合+非米国分のみ課税」の実効値が各社で大きく異なる可能性があります。商務省の運用方針とプロセス速度が重要です。

2. 部品課税方式の連邦官報告示
発効までUSMCA部品は一時免除ですが、方式確定で非米国分への25%が動き出します。告示内容とタイミングが業務に直結します。

3. 法的争点(232条/IEEPA周辺)の進展
全面無効化までは距離がありますが、周辺セクターとの整合や適用除外の余地に注目する必要があります。


参考:発表と報道(一次情報と主要メディア)

一次情報

  • 大統領布告:25%/10%の新関税、USMCA下の非米国分課税、相殺3.75%、FTZ/PFS、CKD対象、発効時刻等の詳細
  • ファクトシート:クラス3~8の範囲、重ね掛け回避、部品猶予等を整理

主要報道

  • メキシコ向け影響、相殺延長、北米サプライチェーンの見立て
  • メーカー別影響分析

アメリカの自動車部品に対する軽減税率の延長

何が延長された?

米国で最終組立を行う自動車メーカー/エンジンメーカー向けの「輸入調整オフセット(関税相殺)」が2030年10月31日まで延長・拡充。相殺額はMSRP(希望小売価格)の3.75%を継続(本来は2026年5月以降2.5%に縮小し2027年4月に終了予定だったのを3.75%で据え置き・延長)。同時に中・大型トラック(MHDV)、同部品、エンジンにも相殺プログラムが新設・拡張されます(2025年11月1日発効)。

同時に新設された関税

中・大型トラックとその部品に25%、バスに10%の追加関税(Section 232ベース)。発効は2025年11月1日午前0時1分(米国東部夏時間)。

日本企業に特に効く周辺情報(2025年9月以降)

日米フレームワーク合意により、日本産品には**「ベース15%」の新料金体系**が適用されます。MFN税率が15%未満の場合は合計で15%になるよう上乗せされ、MFN税率が15%以上の場合は追加関税ゼロとなります。自動車・部品も原則として最大15%の枠内で処理され、Section 232自動車関税は免除されます。実装は9月4日の大統領令で行われ、連邦官報告示は9月16日、遡及適用は8月7日から。議会調査局(CRS)は「15%はMFNと重ね掛けせず、合計15%を上限とする(含み込み)」と解説しています。

仕組み(実務向け・超要点)

誰が使える?
米国内で最終組立を行う完成車メーカー/エンジンメーカー。メーカーが申請し、指定したImporter of Recordだけが相殺を使えます。

相殺の中身
部品に課される232関税(25%)のうち、「車両価額の15%分の部品に25%=3.75%」を理論値として、MSRP×3.75%を上限に関税支払時に相殺。余剰は他の関税に充当不可。例:MSRP $40,000 → 3.75%=$1,500を上限に相殺。

USMCAとの関係(部品)
USMCA原産の「個別部品」は、非米国価額分にのみ25%を課税する仕組みが整備されるまで232部品関税の適用を猶予(ただしCKD/ノックダウンキットは猶予対象外で、引き続き関税対象)。

対象拡大(10/17大統領布告)
自動車だけでなくMHDV(中・大型トラック)/同部品/エンジンにも相殺プログラムを新設・横展開し、2030年10月31日までの長期運用に。「関税スタッキング(複数関税の重畳)」に関する取扱いも明文化されました。

申請実務
商務省(ITA)告示(6/13)に基づき、メーカーが年次でMSRP集計→相殺枠付与→CBPがエントリーで相殺という運用。指定IORの紐づけが必須です。

日本の自動車部品サプライヤーへの影響と対応

価格交渉
米国内組立メーカー向け(メーカーまたは指定IORが自ら輸入)の取引では、メーカー側が相殺で関税コストを圧縮できる前提となります。納入条件(DAP/DDP/FOB)と誰がIORかで価格・原価表を分けて提案することが重要です。

CKD/ノックダウン回避
CKDキットおよび同等の部品集合体(CBP判定)は相殺対象外です。キット化の度合い・HS設計を再点検する必要があります。

USMCAの活用把握(間接影響)
米・加・墨サプライチェーンを跨ぐ部品はUSMCA原産化で232部品関税の扱いが有利(非米国価額への限定課税/適用プロセス整備待ち)。原産判定書類の監査性を高めておくことが推奨されます。

日米フレームワークの15%枠
完成車・部品の最終的な適用税率は”15%枠”と232措置の組み合わせで決まります。232自動車関税が免除される日本産品については、実質的に15%が上限税率となります。個々のHSと供給ルートで試算シートを作成するのが安全です。

中国原産を含む場合の併存リスク
対中301条関税の一部除外措置は2025年11月29日まで延長されています。該当部品があれば**除外HTS(9903.88.69/9903.88.70)**での申告を検討してください。

よくある誤解・注意

全ての輸入者が使えるわけではない
これは**「全ての輸入者」に対する軽減税率ではなく**、米国内組立メーカー(とその指定IOR)向けの相殺枠です。単独で部品を輸入する代理店等には自動的には使えません。

232対象品である事実は残る
相殺しても「232の対象品」である事実は残ります(スタッキング・対象性の規定)。関税分類・記録保存・監査対応は従来以上に厳格に行う必要があります。

主要原文ソース(一次情報)

  • 大統領布告(10/17):MHDV/部品/バスの関税新設+相殺延長・拡充(2030年10月31日まで、3.75%据え置き)
  • 連邦官報(6/13):自動車部品・相殺プログラムの申請手続き
  • 連邦官報(4/3):自動車・部品に対する232関税の基本枠組み(USMCA部品の暫定的取扱い、CKD除外等)
  • 日米フレームワーク(9/4大統領命令・9/16官報):日本産品のベース15%枠組みの実装
  • 参考報道(背景理解):相殺延長とトラック関税の発表

直ちにやるべき実務チェック(スプレッドシート推奨)

  1. 米国側のIORが誰か/メーカーの相殺申請の有無を取引先ごとに確認
  2. HS別に**「15%枠」「232(相殺可否)」「301(中国原産なら除外の有無)」**を列で管理
  3. CKD該当性・USMCA原産化の可否を製品群ごとに評価
  4. 新関税(MHDV/部品25%、バス10%)の該否判定と11/1以降の見積り改定

ニュージーランド税関における事前教示制度

ニュージーランド(New Zealand Customs Service)におけるHSコードの事前教示(Advance Ruling)—同国ではCustoms ruling(関税分類=Tariff classification、原産地、評価、コンセッション)と総称—の実務概要です(確認日:2025年10月18日)。​

担当組織と連絡先

主管当局:New Zealand Customs Service(NZ Customs)​
担当部局:Valuation, Origin and Classification(VOC)​
連絡先voc@customs.govt.nz(申請・照会窓口)​

公式ページ

申請様式(C7/C7A/C7B/C7C)は「Apply for a ruling」ページから入手できます。​

申請プロセス(分類を中心に)

申請時期:輸入前の申請が原則です。輸入後に申請する場合は、長官の事前許可が必要です。申請は輸入者本人の名義で行います(代理人による提出も可能ですが、書類上の名義は輸入者本人である必要があります)。​

申請フォーム(案件に応じて選択):​

  • C7:Tariff classification(関税分類)またはDuty concession(関税減免)
  • C7A:Country of produce/manufacture(原産国)
  • C7B:Correct application of regulations(規則の適用適否)
  • C7C:Valuation(関税評価)

提出・やり取り:フォームと添付資料をVOCへ提出します。必要に応じて追加資料やサンプルの提出を求められることがあります。​

決定通知:書面でCustoms rulingとして番号付きで発給されます。通関時に利用でき、全国の税関で拘束力を持ちます。​

不服申立て:裁定(不発給・変更を含む)に不服がある場合は、Customs Appeal Authorityへ不服申立てができます。​

申請に必要な情報(分類裁定=C7の場合)

申請者情報:​

  • 輸入者の名称・住所・連絡先
  • 通関代理人の情報(該当する場合)
  • 申請名義は輸入者本人

貨物情報(分類判断に十分な技術詳細):​

  • 品名(通称・技術名)
  • 用途・主な使用方法
  • 作動原理・構造
  • 材質・組成(百分率表示)
  • 寸法・重量
  • 包装形態(小売用・バルク、セット品か部品か)
  • 図面・写真・カタログ
  • 必要に応じてサンプル

申請者の見解:HS分類の候補(NZ Working Tariffの見出し)と根拠(GIR・部注・類注)。​

既往・係属の有無:同一品に関する既存の裁定や係争の有無。​

原産地・評価の場合:該当協定の原産地規則や評価方法の適用根拠、投入材料の内訳・工程・契約・価格算定の証憑等(C7A/C7C)。​

処理期間(SLA)

標準SLA(必要情報の提出完了時点から):​

  • 分類・コンセッション等:40日以内
  • 原産地・評価:150日以内

運用目標:資料が初回から十分に揃っている場合、20営業日での発出を目指しています。​

有効期間・効力

有効期間:発給日から最長3年間(事実や法令の変更があれば改廃される場合があります)。​

適用範囲:裁定の保有者(申請者)と特定貨物にのみ適用されます。全国のすべての入港地で拘束力を持ちます。​

改定時の保護措置(増税となる改定の場合):​

  • (a) 改定通知日までに締結済みの拘束契約に基づき、通知日から3か月以内に輸入する貨物
  • (b) 改定通知日に輸出地を出発済みの貨物
  • (c) 改定通知日に既に輸入済みだが未クリアランスの貨物

上記に該当する場合は、改定適用が猶予されます。

申請費用

分類・原産地・コンセッション等:NZ$40.88/品目/裁定(GST込み)。​

評価裁定(Valuation ruling):​

  • 申請料:NZ$300(GST込み)
  • 審査完了時の実費請求:
    • 2.5時間を超える審査時間:NZ$116.48/時(GST込み)
    • その他合理的な費用(鑑定・サンプル輸送等の実費)

その他の重要事項

公開方針:裁定は公益等の要件の下で公表される場合があります(申請者の同意または匿名化が前提)。​

利用者:申請者本人のみが当該裁定を対象貨物に使用できます(第三者は直接の拘束を受けません)。​

通関での使い方:輸入申告に裁定番号を紐付け、裁定条件と同一の貨物であることを確認の上で運用します。​

相談先:VOC(Auckland)が裁定の唯一の発給部門です。​

法的根拠:Customs and Excise Act 2018(裁定の発給・改廃・不服等)および関連規則(時間枠・手数料等)。​


申請準備チェックリスト(分類裁定向け)

☐ C7フォーム(分類用)を使用し、輸入者名義で申請​
☐ 輸入前に申請​
☐ 用途・機能、作動原理、構造、材質・組成(百分率)、寸法・重量、包装形態を一次資料で準備​
☐ 図面・写真・カタログを添付(必要に応じてサンプルも)​
☐ 申請者の分類見解(GIR・部注・類注の根拠、候補見出しの比較)を明記​
☐ 既往の裁定・係属の有無を申告​
☐ 費用:分類等NZ$40.88、評価NZ$300+時間単価を確認​
☐ SLA:分類等40日、原産地・評価150日(20営業日目標もあり)を確認​
☐ 有効期間3年、改定時の保護要件(3か月・出発済み・未クリアランス)を把握​

アメリカ合衆国におけるHSコードの事前教示

アメリカ合衆国(U.S.)におけるHSコードの事前教示(Binding Ruling on Tariff Classification)実務ガイド

最終確認日:2025年10月17日

1) 管轄機関と公式窓口

所管機関
U.S. Customs and Border Protection(CBP)/Office of Trade – Regulations & Rulings(R&R)​

担当部署

  • 品目分類(Tariff Classification):National Commodity Specialist Division(NCSD、ニューヨーク)が大半を担当​
  • 高度案件:R&R本部(ワシントンD.C.)が原産地表示・評価等の難易度の高い案件や審査見直しを処理​

申請ポータル

  • eRulings(電子申請):CBP公式テンプレートでオンライン提出​
  • 郵送提出:NCSD(ニューヨーク、Varick Street)またはR&R本部(ワシントンD.C.)宛​

公開データベース

  • CROSS(Customs Rulings Online Search System):公開済み裁定の検索・閲覧が可能​

法的根拠
19 CFR Part 177(Administrative Rulings)​

2) 事前教示(Binding Ruling)のプロセス

対象・申請資格

  • 対象取引:原則として将来(未完了)の取引。完成済み取引や仮想案件は対象外​
  • 申請者:輸入者・輸出者など直接かつ明示の利害関係を持つ者(代理人可)​

申請方法

  • 推奨:eRulingsでの電子申請​
  • 代替:事情により郵送も可能​
  • 通関時:裁定書または裁定番号(コントロール番号)の提示が推奨される​

受付・審査

  • NCSD(分類案件)が審査を実施​
  • 必要に応じて追加資料やサンプルの提出依頼(ラボ分析を含む)​
  • 機密情報は角括弧[[ ]]で特定し、公開版(秘匿削除版)も用意​

結果の通知・公開

  • 裁定書(Ruling Letter)が申請者に発出される​
  • CBPは90日以内に裁定をCustoms Bulletinまたは公衆閲覧システム(CROSS)で公表​

変更・撤回(将来効)

  • 既存裁定の変更・撤回はCustoms Bulletinで提案→30日間の意見募集→最終公示​
  • 最終公示から60日後に効力発生(60日ルール)​
  • 例外:60日未満の裁定は個別通知で即時変更可能​

裁定を出さない事由

裁判係属中の論点や通関現場で係属中の案件など、CBPが裁定を出さない事情が19 CFR 177.7に規定されている​

3) 事前教示申請に必要な情報

19 CFR 177.2の記載要件に沿って以下を準備:​

申請者情報

  • 氏名・住所・連絡先
  • 利害関係者の情報
  • 予定入港地​

対象貨物の詳細

  • 品名/通称・技術名
  • 用途・機能・作動原理
  • 構造/材質・組成(%・容積・重量・価額)
  • 寸法・重量/包装形態
  • 化学品の場合は分析表
  • 画像資料:写真・図面・カタログ等(必須)
  • サンプル:可能なら添付(返却希望は明記。試験で損耗の可能性あり)​

申請者の見解

HTSUSの分類候補(10桁)と根拠(GIR・部注・類注等)​

関連書類

契約・請求書・仕様書等、論点に関係する文書の写し​

既往・係属の申告

同一・類似案件の既往/係属の有無(裁判・抗議・内部助言等)​

機密指定

[[ ]]で秘匿箇所を明示し、公開版(秘匿削除版)も添付。CBPは公開時に該当箇所を黒塗りする​

4) 処理期間の目安

  • 分類裁定(NCSD:原則30暦日以内(受領日基準)​
  • 本部(R&R)付託案件:90日以内​
  • 遅延要因:ラボ分析や他機関協議が必要な場合​
  • FTA原産地等のAdvance Ruling:完全情報受領後120日が標準​

5) 事前教示の有効期間・法的効力

効力

  • 発出日から有効で、未確定(未更正/未清算)取引にも適用可能​
  • CBP職員を拘束(同一事実関係が前提)​

第三者への効力

  • 基本は名宛人限定​
  • 他社にとっては先例的価値はあるが、直接の拘束力はなし​
  • ただし実務上は広く参照される​

変更・撤回

  • 19 CFR 177.12に基づき実施​
  • 提案公示→30日間の意見募集→最終公示→60日後発効​
  • 60日未満の裁定は個別通知で即時変更も可能​

公表

発出から90日以内にCustoms Bulletin等で公表(公開DBはCROSS)​

6) 費用

  • 申請手数料:無料​
  • 実費負担:サンプルの送料・返送費や民間分析費等は申請者負担となる場合がある​

7) 実務上の留意点

通関での使用方法

エントリー提出時に裁定書またはコントロール番号を提示​

不受理の典型例

  • 完了済み取引
  • 仮想案件
  • 裁判係属中の論点
  • 情報不足
    (19 CFR 177.7に規定)​

機密情報の取扱い

[[ ]]で秘匿表示し、公開版を提出。公開時はCROSSから該当箇所が削除される​

優先審査の依頼

緊急案件の事情説明により優先審査の配慮を求めることは可能(ただし確約なし)​

異議・見直し

  • NCSD裁定に不同意の場合、R&R本部への見直し請求が可能​
  • 輸入後は抗議(Protest)の手続が別途存在​

USMCA等のFTA原産地AR

19 CFR Part 182(USMCA)に基づく運用あり​

申請準備チェックリスト

  • ☐ eRulingsで電子申請(郵送も可)。将来取引に限定​
  • ☐ 技術資料の充実:用途・機能・原理・構造・材質/組成%・寸法重量・包装+写真・図面・カタログ、必要ならサンプル​
  • ☐ 自社見解(HTSUS 10桁+GIR・注)を明記​
  • ☐ 機密情報は[[ ]]で示し、公開版も添付​
  • ☐ タイムライン目安:分類=30日/本部付託=90日(追加試験・他機関連携で延伸あり)​
  • ☐ 裁定番号を申告書類に反映(通関時の照会短縮)​
  • ☐ 公開済み先例はCROSSで事前調査(直接拘束力は名宛人限定)​

主要根拠・参照先

  • 19 CFR Part 177(行政裁定):申請資格・将来取引の原則・不発給事由・発給・効力・公表・変更撤回等を規定​
  • eRulings/CBP公式サイト:電子申請の要件、処理期間の目安​
  • CROSS(裁定データベース):公開裁定の検索・閲覧​
  • Customs Bulletin:変更/撤回の公示・意見公募・発効に関する公示媒体​
  • 19 CFR Part 182(USMCA):FTA原産地等の運用枠組み​

ファーストセールの適用に対するCBPによる審査の厳格化

CBPによるファーストセールルール適用に対する審査は、2024年から2025年にかけて顕著に厳格化しており、不承認事例が増加している実態が確認されています。

審査厳格化の具体的な背景

CBPは2025年以降、ファーストセールルールの適用について「商業的実質性とリスク負担が各取引段階で実証されているケースのみを承認する」という明確な方針を打ち出しています。これは単なる書類チェックの強化ではなく、中間業者が単なるパススルー・エンティティ(仲介者)として機能していないか、実質的な買主・売主としてリスクと所有権を負担しているかを厳密に審査する姿勢を示しています。

不承認となる主な理由

近年の裁定事例(Ruling H327067など)では、以下の要件不備により適用が却下されています。

中間業者が貨物の所有権を取得していないケースや、インコタームズおよび文書上の記録から損失リスクを負担していないことが判明した場合、製造者と中間業者間の真正な販売(bona fide sale)が成立していないとCBPは判断します。また、支払記録がインボイス金額と一致しない、取引参照番号が欠落している、出荷から2年近く経過した後の支払いなど、タイムリーで直接的な支払証明がない場合も不承認となります。

訴訟事例に見る厳格化の実態

Meyer Corporation事件は、この厳格化傾向を象徴する重要な判例です。CBPは関連当事者間取引において、親会社の財務文書の提出を要求し、これが提出されなかったことを理由にファーストセール価格の使用を拒否しました。連邦巡回控訴裁判所は2024年12月、国際貿易裁判所がMeyerに対して「推測的な不利な推論」を不適切に適用したとして判決を破棄し、差し戻しましたが、この事例は審査の厳格度を示しています。

必要書類の要件強化

CBPが承認に必要とする完全な証跡には、全当事者間の締結契約書、発注書と商業インボイス、取引に直接紐付けられた支払証明、明確な所有権移転と納入条件を示す船積書類が含まれます。これらの書類が不完全または遅延している場合、輸入者が支払った全額(手数料を含む)に基づいて関税が賦課されます。

実務への影響と対応策

業界専門家は、現在のCBPの姿勢を「合理的注意義務は任意ではなく、コンプライアンス上の必須事項」と評価しています。ファーストセールルールを現在使用している、または検討している輸入者は、サプライチェーン構造とインコタームズの再評価、所有権移転・発注書・リスク負担に関する文書の見直し、中間業者が単なるパススルーではなく真正な買主・売主として機能していることの確認を行うべきです。

関税率上昇の環境下でファーストセールルールの関心は高まっていますが、CBPの審査基準が厳格化している現実を踏まえ、文書管理と取引構造の継続的な見直しが不可欠となっています。

オーストラリアにおけるHSコードの事前教示制度

オーストラリア(Australian Border Force, ABF)におけるHSコードの事前教示(Advance Ruling/Tariff Advice)制度の実務まとめです(最終確認:2025年10月16日)

1. 対応組織とURL

主管当局:Australian Border Force(ABF)

主要リンク

  • Tariff Advice System(分類の事前教示):申請の考え方、運用、窓口・提出先
  • Origin Advice(FTA原産地に関する事前教示):対象者・処理標準など
  • Tariff Public Advice Products(公表ガイダンス:拘束力なし):Tariff Adviceとの違いを明示
  • 様式:B102 – Application for Advance Ruling (Tariff)、B659 – Application for Advance Ruling (Origin)
  • 現行タリフ(Customs Tariff Act 1995)の解説(Schedule 2:解釈規則/Schedule 3:分類表)

所管窓口(提出・照会):National Trade Advice Centre(NTAC)

2. 事前教示のプロセス

(A) Tariff Advice(分類)

申請主体:原則として輸入者。実務上は通関業者・フォワーダー・個人が委任を得て申請可能(ガイドに明記)

申請経路

  • 電子申請:ICS(Integrated Cargo System)のTAPINシステム経由で申請。電子申請後5日以内にIDM(図表類)等の裏付け資料をメール送付(未送付は自動却下)
  • 書面申請:様式B102をメールまたは郵送で提出(電子申請を使わない場合)

ABFの処理:標準30日(需要の多寡により延長あり)。無料。十分な情報がなければ審査不可。同一品の既存TA保有、係争中、TCO申請と重複等の場合は受理拒否あり

追加照会:追加情報要請への回答期限は原則14日(個別に延長可)。応じない場合は自動却下

結果:TA番号付きの書面。特定メーカーの特定貨物に対する私的・拘束的な行政判断(ABFを拘束)

(B) Origin Advice(FTA原産地)

対象者:オーストラリアの輸入者、または相手国の輸出者・生産者(もしくはその代理人)。必要資料の受領完了後30日以内の発給が目標。手数料なし

備考(TCOとの関係):Tariff Concession Order(TCO)申請時は、先に有効なTAを取得して番号を引用すると審査が円滑化。TAは5年有効。TCO申請との同時進行は不可(重複審査防止)

3. 事前教示に必要な情報(最小パック)

**ガイドライン(TA Guidelines)**の必須要素:

  • 貨物の特定:輸入時の形態/部品か/セットか等の詳細説明(用途・機能・作動原理・構造、寸法・重量・材質・組成%、製造工程、同梱部品)
  • IDM(写真・図面・カタログ等):英語・判読可能なもので添付
  • 申請者の主張:検討した見込み見出し(Headings considered)、却下理由、主張見出し・下位見出し(GIR・部注・類注・HSEN、判例や過去先例の引用)を理由付きで記述
  • 一申請=一モデル(シリーズ・レンジは対象外)
  • ICS/TAPIN登録後5日以内にIDMメール送付。追加照会の回答は14日以内

B102様式の主な欄:フル商品説明、主張分類の理由、(該当時)TCOの適用主張、申請者・関係者情報など

原産地AR(B659):該当FTAの原産地規則に必要な工程記述・投入材内訳・証憑等を様式に沿って提出

4. 結果が出るまでの期間

  • Tariff Advice:通常30日(ABFサービス標準/混雑時は延長あり)
  • Origin Advice:必要資料の受領完了後30日以内を目標
  • 追加資料対応:14日が原則(個別延長可)

5. 事前教示の有効期間・拘束力

有効期間:5年間。ガイドラインでは「申請日から」、実際の通知書では「発給日から」と表現が異なるが、実務上は5年有効で一致。早期無効化(法改正・事実変更・誤り等)あり

拘束性:ABFを拘束(特定メーカーの特定貨物に限定)。公表ガイダンスは非拘束

6. 事前教示に必要な費用

ABFの手数料:無料(TariffおよびOriginとも)。通関業者に委託する場合は民間手数料が別途発生

7. その他の重要事項(実務の注意点)

不受理・却下の典型例:情報不足、同一品で既存TA保有、係争中、同時のTCO審査対象など

TCOとの連動:有効なTAをTCO申請に添付・引用すると分類確認が省略可能(重複審査回避)

輸入申告での扱い:ICSの「追加情報(Item 110)」欄にTA番号を記載可能(任意)。引用しても貨物検査は妨げられない

提出書式・言語:英語。ウェブリンクのみは不可(IDMはPDF等で添付)

シリーズ品の扱い:1モデル=1申請が原則(シリーズ一括は不可)

上訴・見直し:ABFの内部見直し → AAT(行政審判所)→ 連邦裁判所(法問題)のルートが整備されている

現行タリフの基礎:Customs Tariff Act 1995(Schedule 2:解釈規則/Schedule 3:分類表)。分類ロジック(GIR/Notes)に沿って主張を構成

申請前チェックリスト(実務TIP)

  1. 技術情報を一次資料で固める:用途・機能/作動原理/構造/寸法・材質・組成%/製造工程/包装+写真・図面・カタログ(IDMは英語・判読可能なもの)
  2. 論証の型:検討見出し → 却下理由 → 主張見出し(GIR・部注・類注・HSEN引用)の順で理由付け
  3. 手続の時間管理:電子申請 → 5日以内にIDM送付/追加照会 → 14日/発給30日目標(OAも30日)
  4. TCO利用予定:先にTA取得 → TCO申請に引用
  5. 有効期限:5年。法改正・事実変更の可能性にも備えて更新(再申請)時期を逆算

主要根拠(公的情報)

  • ABF「Tariff Advice System」:制度概要、30日標準、無料、不受理事由、提出先(NTAC)
  • ABF「Guidelines for Lodgement of Tariff Advices」:5年有効、一申請=一モデル、5日以内にIDM送付、14日回答期限、記載要領
  • Home Affairs Notice 2019/20:TAは5年有効・拘束力あり、TCOと同時進行不可、TA引用でTCO分類確認省略
  • ABF「Origin Advice」:30日目標、対象者、趣旨
  • ABF様式:B102(Tariff)/B659(Origin)
  • 現行タリフ解説(Customs Tariff Act 1995:Schedule 2/3)

FTA-BPOセミナー第12回ではご迷惑をおかけしました

昨日(2025年10月15日)のセミナーではご参加の皆様に大変ご迷惑をおかけしました。

一部の方に配信ができない不手際がございました。

原因は特定できましたので、次回はこのようなご迷惑をおかけすることがなきよう、勤めます。

昨日の内容は、YouTubeにアップいたしました。そちらをご覧いただけますと大変助かります。

本当にもうしわけございませんでした。

中国レアアース輸出規制と米国追加100%関税:実務者向けアップデート

2025年10月15日(日本時間)時点


現在の状況(要旨)

中国側の措置:2025年10月9日付で、レアアース関連物品と技術の輸出管理を大幅強化。中国原産レアアースを含む国外製造品にも域外適用(価値比率0.1%以上)。一部措置は12月1日施行。技術の「みなし輸出」も対象化。

米国側の措置:トランプ大統領が11月1日から中国からの輸入品に追加で100%関税を課す方針を表明(既存関税に上乗せ)。ただし発動は中国側の対応次第で、USTRは「実施可否は協議の行方で決まる」と発言。現時点で正式な官報告示は未掲載。


タイムライン

10月9日(中国):MOFCOM公告第61号/第62号を発表。中国原産のレアアース関連製品・技術を広範に輸出許可制に。国外製造品・技術利用品にも域外適用の枠組みを導入。

10月10日(米国):トランプ大統領、11月1日(または前倒しの可能性)から追加100%関税を発表。

10月14日(米国):USTRグリア代表、「11月1日発動は中国の行動次第、前倒しの可能性も」と発言。米中は実務者協議中。

10月14–15日(中国/産業):中国は米側に事前通知済みと説明。レアアース磁石の輸出許可取得が厳格化との報道。


中国の新しいレアアース輸出規制(実務ポイント)

対象物品

レアアース関連物品と技術。永久磁石材料(NdFeBなど)、製錬分離、磁性材料製造、二次資源リサイクル関連技術等が含まれる。

域外適用(国外製造品への波及)

中国原産レアアースを0.1%以上(価値比)含む国外製造品の輸出(再輸出)にも中国の許可が必要(2025年12月1日施行)。輸出者は中国原産レアアース比率を示す「コンプライアンス通知書」の発行が義務。

技術規制・みなし輸出

外国人への社内提供(中国国内での提供)も「輸出」に該当。許可・事後報告等の義務あり。

直近の運用状況

磁石の輸出許可取得の審査が厳格化しているとの複数報道あり。

注記:JETROやCISTECの速報では、中・重希土類関連品目の拡大や対象リストの更新にも言及。対象品目の最終確認は各告示付属書を参照のこと。


米国の追加100%関税の位置づけ(現時点)

大統領は「既存の関税に上乗せ」と明言。多くの品目で合算155%程度(例:301条25%+IEEPA30%+今回100%)に達し得るとの日本向け解説が出ている。

正式発動は未確定で、USTRは中国側対応次第と説明。

法的実装の現状:この種の関税では、HTS改正・官報告示が必須。2025年10月15日時点でUSTRサイト/官報に11月1日開始の100%告示は見当たらず(現時点は「方針表明」段階)。

既存関税との関係:既存の追加関税の平均は約55%との米報道。今回が発動すると「さらに100%上乗せ」という整理。

実務メモ:米関税は「米国入港・輸入申告時点(entry)」で適用可否が決まるのが通例。船積日ではなく通関日に注意(最終は官報告示とCBPガイダンスで確認)。


影響が出やすい日本企業の領域

EV/HEVモーター用磁石、産業モーター、風力発電:レアアース磁石の供給ボトルネック化。欧州自動車業界へのリスク指摘も。

スマホ/PC、半導体製造関連、精密部材:研磨材や合金添加など希土依存の「隠れ用途」。

日系の対米輸出サプライチェーン:第3国生産品でも、中国原産レアアースを含むと中国側の輸出許可が必要(12月1日~)。


実務チェックリスト(部門別)

A. 調達・サプライチェーン

部材BOMの洗い出し:Nd、Pr、Dy、Tb、NdFeB磁石、研磨材等の中国原産レアアース含有有無と価値比を特定。0.1%閾値超の可能性を確認。

サプライヤー宣誓書:中国原産レアアース比率の記載・通知書(Compliance Notification)発行体制の整備。

代替調達の検討:非中国系の原料・磁石サプライヤーへのRFQ開始(リードタイム長期化前提)。市況のタイト化に留意。

B. 輸出管理・法務(中国発・域外適用対応)

中国向け社内規程の更新:みなし輸出(社内の外国人への技術提供)の許可要否判定フローを追加。

中国発の対外出荷:許可要否(軍事ユーザー・最終用途)を審査、事後報告などの手続を整備。

国外製造→第3国への再輸出(12月1日~):0.1%判定、通知書の発行、該当時の中国当局許可の実務を準備。

C. 対米輸入・販売(米国側)

11月1日適用品目・通関時点の管理:米国到着/輸入申告のタイミング調整(entry基準)。ブローカーとHTS・加算関税適用可否を仮設計。

価格・契約:Tariff pass-through条項、リオープナー(再交渉条項)、インコタームズの見直し(DDP/FOB/CIF)。

コスト試算例

  • 関税課税価格=$100
  • MFN 0%、既存:301条25%+IEEPA30%=55%
  • 今回:+100% → 合計155%
  • 関税=$155、到着原価(税抜)=$255(諸税・手数料別)
  • ※最終は品目ごとのMFN・免除・告示を要確認

よくある誤解と注意点

「船積日で逃げ切れる?」:多くの場合、米国通関日(entry)で判定。スケジュール遅延もリスク。

「第3国で組立てれば米100%は回避?」:米側の原産地判定は「実質的変更」が鍵。中国原産のままなら対象。逆に第3国原産になれば米100%の対象外になり得るが、中国側は0.1%域外適用で許可要になる可能性。

「もう確定発動?」:USTRは中国の対応次第と明言。官報告示と実装HTS改定の有無を必ず確認。


シナリオ別の想定

ベースケース:11月1日までに折衝継続、官報告示が出れば関税発動。

エスカレーション:前倒し発動や、対象拡大・追加的な輸出管理(米国側のソフト/技術規制強化)を併用。

ディエスカレーション:中国がレアアース規制の一部を緩和/運用緩和→100%追加関税見送りの可能性。


すぐに打つべき3アクション(日本のビジネス現場向け)

サプライヤー一斉調査(今週中):中国原産レアアース比率、磁石/粉末/合金の有無、0.1%超の可能性、通知書発行可否を調査。

輸送・通関計画の前倒し/後ろ倒し:米国通関日ベースで影響最小化。必要に応じて在庫の前倒し確保。

価格と契約の再設計:関税サーチャージ条項、価格自動調整、解除権、不可抗力条項の整備(官報告示発出をトリガーに)。


主要情報源

  • USTR発言:「11月1日発動は中国の行動次第、前倒しの可能性」
  • 大統領発表:「11月1日から追加100%、既存に上乗せ」
  • 既存関税の上に積み上げ・合算155%程度の解説
  • 中国の新輸出規制の原文要点(公告61/62)と実務
  • 磁石許認可の厳格化報道/欧州自動車業界への波及懸念

実務上の注意

本メモは報道・公表資料に基づく整理です。米国側は官報(Federal Register)とHTS改定告示が最終根拠、中国側は公告・付属書の最新版が最終根拠です。最終判断前に貴社の通関業者・法律顧問・輸出管理責任者と必ず原典確認してください。