EUでスマートテキスタイルが普及するほど、企業実務では「衣類なのか、電気機器なのか」という関税分類の迷いが増えます。EUは、こうした境界領域の製品について、単発の解釈ではなく、CN運用の枠組みの中で判断の一貫性を担保する仕組みを整備してきました。本稿では、スマートテキスタイルを巡るEUの分類基準が、実務上どのように組み立てられているかを、一次情報に基づいて整理します。 (Taxation and Customs Union)

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- スマートテキスタイルとは何か
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スマートテキスタイルは、一般に「スマート(インテリジェント)テキスタイル/繊維製品」を対象に、定義やカテゴリ分けが議論されている領域です。国際標準化の文脈では、ISO/TR 23383:2020 が、スマートテキスタイルと繊維製品の定義や類型化を扱う文書として位置づけられています。 (ISO)
実務上のスマートテキスタイルは、例えば次のような特徴を持ちます。
- 導電糸や配線を繊維に織り込む
- センサー、発光、加温、通信などの電子機能を衣類に付与する
- 電子モジュールが縫い付け固定か、着脱式かで輸入時の姿が変わる
この「輸入時の姿」と「主要な機能」が、EUの関税分類を左右します。
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2. EUの関税分類はCNが軸になる
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EUでの関税分類は、HSを基礎にした8桁体系のCombined Nomenclature(CN)が中核です。CNは、共通関税率の適用と対外貿易統計の双方の要請を満たすための分類体系として説明されています。 (Taxation and Customs Union)
加えて、TARIC(EU Customs Tariff)は、CNを土台に、貿易救済や規制措置などの情報を紐づけて運用する実務基盤です。TARICの法的基礎がCouncil Regulation (EEC) No 2658/87であることも、欧州委員会が明示しています。 (Taxation and Customs Union)
またCNは毎年更新され、官報で公表される運用です。これは、毎年の改訂と公表が制度として定着していることを示します。 (Taxation and Customs Union)
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3. 「EUの分類基準」とは何を指すのか
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スマートテキスタイルに限らず、EUは分類のブレを抑えるために、複数の手段を組み合わせています。EU側の資料では、加盟国間で解釈が割れた場合に、分類規則、CN説明注、分類ステートメント等で統一的な分類を確保する旨が述べられています。 (Taxation and Customs Union)
ここが重要です。つまり「基準を策定」といっても、ひとつの包括ガイドラインで一気に規定するより、次のように積み上げで基準が形作られます。
- 分類規則(特定商品のCN分類を法的に確定)
- CN説明注(解釈指針を官報で明確化)
- BTI(個別企業が法的安定性を得るための仕組み)
- 公開データベースでの参照性向上(CLASS等)
この流れを補強する動きとして、欧州委員会は「分類規則の統合リストを公表した」と発表しています。実務者が過去の分類規則を横断的に参照しやすくするための環境整備といえます。 (Taxation and Customs Union)
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4. スマートテキスタイルで実務判断が割れやすいポイント
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スマートテキスタイルは、繊維と電子の複合製品です。EU実務で争点になりやすい判断軸を、制度の建て付けから逆算して整理すると、次の順序になります。
- 輸入時の提示形態がどうなっているか
・衣類に電子部品が縫い付け固定か
・電子モジュールが着脱式で、別梱包か
・複数の構成品が「セット」として提示されるのか
この「輸入時点の姿」が違うと、同じ製品コンセプトでも分類ロジックが変わります。
- 主要機能と客観的特性は何か
・衣類としての着用が主で、電子は補助的か
・電子機能が主で、衣類は保持体や装着体に近いのか
・通信、計測、加温、発光など、何が価値の中心か
EUの分類は、宣伝文句よりも、構造や機能など客観的特性に引き寄せて判断されやすいのが特徴です。
- 複数素材や複合品のとき、どの要素が「本体」を決めるか
この点は、スマートウオッチ用ストラップに関するCN説明注が、分かりやすい実例になります。EUは、スマートウオッチ(通信機器側の分類になり得る機器)に専用設計されたストラップであっても、ストラップ単体で提示される限り、ストラップとして分類されることを明確にしています。さらに、ストラップが複数素材から成る場合は、一般規則3(b)の「本質的特性」により素材を決める、と説明しています。 (EUR-Lex)
この考え方は、スマートテキスタイルにもそのまま波及します。
・電子機器に接続する部材でも、単体提示なら「部材側の分類」に残る場合がある
・複合素材なら「本質的特性」をどれが与えるかが焦点になる
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5. 企業が取るべき実務対応
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スマートテキスタイルは、分類の迷いが起きやすい一方、事前に手を打てる領域でもあります。
- 分類ドシエの作り込み
・BOM、回路図、着脱構造、電源の有無、通信方式、使用手順、洗濯可否
・輸入時の提示形態(同梱か別梱か、セット扱いか)を明文化
この資料が薄いほど、分類の再現性が落ちます。 - CLASSで先行情報を検索する
欧州委員会は、CLASS(分類文書、CNノート、TARIC情報、BTI決定等を参照する入口)を公開しています。まずは既存の整理を探索するのが近道です。 (European Commission) - BTIで法的安定性を取りに行く
Access2Marketsの解説では、BTIは税関当局が出す法的決定であり、EU域内で3年間有効で、申請者とEUの全税関当局を拘束すると説明されています。スマートテキスタイルのような境界製品では、BTIの費用対効果が高くなりやすい領域です。 (EU貿易) - 分類規則とCN説明注の更新を追う
欧州委員会が分類規則の統合リストを公表した事実は、企業側も「点のBTI」だけでなく「面の動向」を追う必要があることを示唆します。 (Taxation and Customs Union) - 原産地規則への波及を必ず試算する
衣類として分類されるのか、電気機器として分類されるのかで、EPAやFTAの品目別規則の読み方が変わります。衣料品が一般にHS 61類または62類に入り、原産地規則の確認が必要になることは、JETROの解説でも触れられています。スマートテキスタイルは、ここに「分類ブレ」が加わるため、分類と原産地は必ずセットで検証してください。 (ジェトロ)
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6. まとめ
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スマートテキスタイルのEU分類は、単一の新ルールが突然降ってくるというより、CNの枠組みの中で、分類規則、CN説明注、BTI、公開システムを通じて基準が積み上がっていく性格が強い分野です。 (Taxation and Customs Union)
実務での勝ち筋は明確です。
- 輸入時の提示形態を設計し、文書化する
- 主要機能と本質的特性を、客観資料で説明できるようにする
- CLASSで探索し、必要ならBTIで確定させる
- 分類変更が原産地規則と関税率に与える影響まで同時に試算する
