世界の鉄鋼・金属市場は、ここ数年で「自由貿易」から「管理貿易+安全保障+脱炭素」へと、完全にカラーが変わりました。
とくに鉄鋼・アルミ・銅などの金属は、各国の産業政策や安全保障、気候変動政策の”ど真ん中”にあるため、関税・セーフガード・税還付の見直しが立て続けに起きています。
この記事では、「鉄鋼・金属」にフォーカスした関税動向を整理しつつ、製造業・商社・加工業などのビジネスマンが、実務上なにをチェックすべきかをコンパクトにまとめます。
1. ざっくり言うと:鉄鋼・金属の関税は「高止まり+環境要件付き」の時代へ
直近の大きな流れだけ整理すると、次の3つです。
- 米国:セクション232関税(鉄鋼・アルミ)の大幅引き上げ
2025年6月、米国は鉄鋼・アルミに対するセクション232関税を、原則25%→50%に倍増。英国など一部を除き、USMCA域内(メキシコ・カナダ)も対象となったことが最大の衝撃です 。strtrade+1 - EU:輸入鋼材への関税率引き上げ+関税枠(TRQ)の大幅縮小
欧州委員会は、2026年から適用する新たな制度案として、無関税枠の数量を2024年比で約47%削減し、枠超過分には50%関税を課す方針を打ち出しています 。secnewgate+1 - 中国:アルミ・銅などの輸出税還付(リベート)を廃止
中国は2024年12月1日から、アルミ・銅など主要金属の輸出税還付を廃止・縮小し、実質的な輸出インセンティブを削除しました 。english.www+1
これに加えて、**EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)や、米国との交渉材料としてのメキシコの対中輸入高関税(最大50%)**など、鉄鋼・金属を直撃する制度が連鎖的に動いています 。ttnews
2. 米国:Section 232関税の再強化
対米ビジネスは「50%関税前提」が新常態
- 何が起きているのか
2025年6月4日以降、米国の鉄鋼・アルミ輸入にかかるセクション232関税は、原則50%に引き上げられました。
特筆すべきは、これまで免除対象だったメキシコやカナダからの輸入にも50%が適用された点です 。英国向けについては25%に据え置かれていますが、それ以外の供給国にとっては極めて厳しい状況となっています 。また、対象品目は素材だけでなく、釘やワイヤーなどの派生製品(Derivatives)にも拡大しており、HSコードごとの確認が不可欠です。whitecase+1 - ビジネスマン視点:なにが変わる?
- 対米輸出モデルの再設計が必須
50%の関税コストを吸収できる高付加価値品か、それとも米国内生産(現地化)に切り替えるか。事業戦略レベルの二択を迫られています。 - 「melted and poured(溶解・鋳造)」ルールの厳格化
原産地判定において「どの国で溶かし、どこで鋳造したか」の証跡管理が義務化されています。中国産鋼材が第三国で加工されて流入することを防ぐ狙いがあり、ミルシートのトレーサビリティが税率を左右します 。eurometal
- 対米輸出モデルの再設計が必須
3. EU:輸入鋼材への「量&価格」ダブル防衛+CBAM
新しい鉄鋼防衛策(セーフガード後継案)
- 鉄鋼防衛策の激変
EUは、2026年6月で終了する現行セーフガード措置に代わる新スキームとして、以下の厳しい提案を行っています 。euperspectives+1- 無関税枠(TRQ)を約33百万トン → 18.3百万トンへ約47%削減
- TRQを超えた輸入には、従来の25% → 50%の関税
- 枠の「繰り越し(Carry-over)」廃止
つまり、**「輸入量を半減させ、超過分には倍のペナルティを課す」**という強烈な保護政策です。背景には、中国等の過剰生産に対するEU域内産業の危機感があります。
- CBAMで「CO2コスト」も上乗せ
これと並行してCBAMが進行しており、2026年からは本格的な課金フェーズに入ります。枠内(無関税)で輸入できたとしても、CO2排出量に応じた炭素コストの支払いが必須となります。
4. 中国:輸出税還付見直しで、アルミ・銅のグローバル供給に変化
輸出税還付(リベート)廃止・縮小
- 何が起きたか
中国は2024年12月1日より、アルミ半製品・銅製品などの輸出税還付(13%)を廃止しました 。これは長年、中国製品の価格競争力を支えていた「補助金的」な仕組みでしたが、これを撤廃することで、実質的な輸出価格の引き上げ(またはメーカーのマージン悪化)を招いています。bsstainless+1 - ビジネスへの影響
- LME価格および実勢価格の上昇
還付廃止分を価格転嫁する動きが進んでおり、中国材の「安さ」というメリットが薄れています 。think.ing - 調達ソースの分散
中国一辺倒だった非鉄金属の調達は、東南アジアや中東、リサイクル材へのシフトが加速しています。
- LME価格および実勢価格の上昇
5. メキシコ:対中高関税は「対米交渉」の切り札
北米サプライチェーン再編の正念場
- 背景にある「対米交渉」
2025年12月現在、メキシコ議会では中国などFTAを持たない国からの輸入に最大50%の関税を課す法案が審議されており、12月8日には下院委員会を通過しました 。bloomberg+1
この動きの最大の動機は、米国によるメキシコ産鉄鋼への50%関税(6月発動)を解除してもらうことにあります。メキシコは「中国からの迂回輸出ルート(Backdoor)」を自ら塞ぐ姿勢を示すことで、米国からの制裁関税免除(Relief)を勝ち取ろうとしています 。financialpost - なにがポイントか
- 「中国→メキシコ→米国」ルートの完全遮断
メキシコでの加工を前提とした中国材ビジネスは、メキシコ側の入口で50%、米国側の入口でも原産地規則で弾かれるという「二重の壁」に直面します。 - 生産拠点の再考
メキシコが「北米の工場」としての地位を維持できるか、それとも米国南部への回帰が進むか、この法案の成立と米国の反応(関税解除の有無)が2026年の分水嶺となります。
- 「中国→メキシコ→米国」ルートの完全遮断
6. 鉄鋼・金属ビジネスマンのための「明日からの」実務チェックリスト
最後に、今すぐ着手すべき実務アクションを整理します。
- 関税エクスポージャーの再計算(特にUSMCA圏)
米国向けだけでなく、メキシコ・カナダ向けの輸出についても、現在の50%関税が適用されるのか、迂回防止措置に抵触しないかをHSコード単位で精査する。 - 契約・価格条件(インコタームズ)の防衛
DDP条件での契約は、突発的な関税コスト(50%)を売り手が被るリスクがあるため極力避ける。「関税率の変更は買い手負担(Pass-through)」とする条項の明記が必須。 - 「中国離れ」の在庫戦略
中国の還付廃止とメキシコの対中関税により、中国材の流動性が低下しています。東南アジアやインドなど、第二・第三のソース確保を急ぐとともに、TRQ枠が逼迫する前の「期初(1月・4月)の輸入枠確保」が勝負になります。 - 「Melted & Poured」とCO2データのセット管理
「どこで溶かしたか(原産地)」と「CO2はどれくらいか(CBAM)」、この2つのデータがないと、欧米市場では土俵にすら上がれない時代です。サプライヤーからのミル証明書取得プロセスをデジタル化・厳格化しておくことが、将来のコスト削減に直結します。
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ソースを確認
- https://www.whitecase.com/insight-alert/trump-administration-increases-steel-and-aluminum-section-232-tariffs-50-and-narrows
- https://financialpost.com/pmn/business-pmn/mexico-to-hike-china-tariffs-raising-hopes-of-us-steel-relief
- https://www.ttnews.com/article/mexico-china-raise-tariffs
- https://eurometal.net/meps-international-understanding-the-eus-steel-defence-proposal/
- https://euperspectives.eu/2025/10/commission-slashes-steel-import-quotas-doubles-out-of-quota-tariff-to-50/
- https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/section-232-tariffs-on-steel-aluminum
- https://www.secnewgate.eu/the-future-of-a-critical-sector-for-the-eu-addressing-the-overcapacity-of-steel/
- https://english.www.gov.cn/news/202411/15/content_WS67374d69c6d0868f4e8ed074.html
- https://www.spglobal.com/energy/en/news-research/latest-news/crude-oil/111524-china-to-end-export-tax-rebates-on-aluminum-copper-biofuel-feedstock-dec-1
- https://www.bsstainless.com/market-mayhem-china-cancels-tax-rebate-on
- https://think.ing.com/articles/the-commodities-feed-lme-aluminium-jumps-after-china-ends-export-tax-rebate/
- https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-08/mexico-to-hike-china-tariffs-raising-hopes-of-us-steel-relief
- https://www.china-briefing.com/news/navigating-chinas-latest-export-tax-rebate-adjustments-implications/
- https://apps.fas.usda.gov/newgainapi/api/Report/DownloadReportByFileName?fileName=UCO+Export+Tax+Rebate+Terminated_Beijing_China+-+People%27s+Republic+of_CH2024-0149.pdf
- https://www.metal.com/en/newscontent/103044495
- https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/06/fact-sheet-president-donald-j-trump-increases-section-232-tariffs-on-steel-and-aluminum/
- https://www.argusmedia.com/es/news-and-insights/latest-market-news/2730867-mexico-to-raise-auto-import-tariffs-to-50pc
- https://www.reuters.com/markets/commodities/china-cut-or-cancel-export-tax-rebates-products-including-aluminium-copper-2024-11-15/
- https://www.internationaltradeinsights.com/2025/06/amendment-to-imports-of-aluminum-and-steel-increases-232-tariffs-to-50/
- https://www.bruegel.org/first-glance/eu-should-moderate-its-steel-protection-plan
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック