ワクチンは新見出しで細分化へ。原薬はINN運用が実務インパクトを増す
2028年1月1日に発効するHS2028は、WCO(世界税関機構)が取りまとめた改正パッケージ(299セットの改正)で、環境だけでなく「健康・パンデミック対応」を改正理由として明示している点が特徴です。EUの説明文書でも、改正の狙いとして「ワクチンや健康関連グループ(パンデミックで浮き彫りになったニーズに対応)」が例示されています。
またWCOは、HS2028の改正勧告(Article 16 Recommendation)が2025年末に正式採択され、2026年1月に公表、2028年1月1日に発効する流れを示しています。
本稿では、医薬品原薬・製剤、ワクチン、ヘルスケア関連で、企業実務にどのような影響が出るかを、確度の高い一次情報に絞って整理します。

1. 最大の注目点:ヒト用ワクチンが「独立見出し」で細分化される見込み
いまのHSでは、ヒト用ワクチンは「1つの号(subheading)に集約され、あらゆるワクチンが同じ分類に入る」構造です。WTOは、この状態がパンデミック時の政策対応(的を絞った関税・措置)や統計把握を難しくしたと明確に述べています。
そこでWHO・WCO・WTOが連携して、HS2028で次の見直しを進める方針が報告されています。
・新見出し3007「Vaccines for human medicine(ヒト用ワクチン)」を新設
・その下で7つの区分を置く
・特定疾病に対する合計36のワクチン名を含む下位区分が設けられる
この提案はWCO側のHS見直し小委員会で文言が承認され、HSC(HS委員会)に提出される段階まで進んだ、とWTOが報じています。
加えてWCOは、HS2028改正勧告パッケージが2025年3月のHSC会合で暫定採択され、交渉が完了したと公表しています。
この流れから、ワクチン分類の細分化は、HS2028で現実に起きる変化として見ておくのが合理的です。
企業実務への影響は次の通りです。
・品目マスターの再設計が必要になる
いままで「ワクチン」で一括だった社内コードが、疾病別などの粒度で分かれる可能性があり、製品名、適応、剤形、保冷条件などの属性管理が重要になります。
・通関・統計・規制の連動が強くなる
統計が細かくなるほど、当局照会や社内監査で「なぜこの区分か」を説明できる情報整備が必須になります。WCOはパンデミック期に、ワクチンや関連資材の越境移動を円滑化するため、WHOと協力して既存HSに基づく分類参照資料を作成してきました。HS2028の細分化は、その延長線上にあります。
2. 原薬(API)で起きやすい変化:コード変更より先に「分類運用」が変わる
原薬は、HS上は主に第29類(有機化学品など)側に置かれ、製剤(用量に調製された医薬品)は第30類に置かれるのが基本構造です。HS2028でここが丸ごと入れ替わる、という話ではありません。
ただし、原薬分野は次の理由で「実務インパクトが増す」局面に入っています。
WCOはHSC第75回会合の成果として、WHOのINN(国際一般名)リストに基づく医薬品原薬等について、441品目を分類したと公表しています。
これはHS2028の改正そのものとは別枠の成果ですが、企業側から見ると次を意味します。
・原薬は、世界的に分類の統一運用が強く求められている
・INN(国際一般名)ベースの分類整理が継続し、品名・成分特定の厳密さが問われやすい
WHOはINNの推奨・提案リストを継続的に公開しており、医薬品の命名とサプライチェーンの共通言語になっています。
原薬は品名が似ていても塩、異性体、誘導体、濃度、混合状態で分類判断が変わり得ます。HS2028移行のタイミングでは、コード変更の有無にかかわらず、当局や通関業者側のチェックが厳しくなるケースが実務的には増えます。
企業の備えとして効果が高いのは、次の3点です。
・INN、CAS、塩形、含量、用途(医薬用か研究用か)を品目マスターにひも付ける
・SDS、CoA、規格書、製造工程概要など、成分特定の証拠を一元管理する
・どのHS版(HS2022かHS2028か)を参照して分類したかを、記録として残す
3. 製剤とヘルスケア関連は「パンデミック対応の粒度」が増える方向
EUの説明文書は、HS2028改正の狙いとして「ワクチンと健康関連グループ(パンデミックのニーズに直接対応)」を挙げています。
ただし、現時点で公開されている一次情報だけでは、医薬品製剤やヘルスケア関連について、どの見出し・号がどう分割されるかを網羅的に列挙するのは困難です(詳細はHS2028の法文と相関表で確定させる必要があります)。
一方で、企業の実務目線では「何が危ないか」は整理できます。パンデミック対応でボトルネックになりやすかったのは、次の領域です。
・ワクチンそのもの(分類の粒度不足)
・注射・接種関連の消耗品(針、シリンジ等)
・保管・輸送(コールドチェーン機器等)
・診断・検査系の物品(試薬・検査キット等)
このため、HS2028移行では「ヘルスケア関連の品目を、政策・統計で追える形にする」という方向で、分類や解説が調整される可能性が高いと見ておくべきです。
4. ビジネス向け実務チェックリスト
いま着手すべきことを、最小ステップに落とす
- 対象品目を3群に分ける
・ワクチン(ヒト用、動物用、研究用)
・原薬(INNが付く医薬品成分、バイオ医薬品原料を含む)
・ヘルスケア関連(診断、接種消耗品、保管輸送、医療機器) - ワクチンは「3007新設」を前提にデータ項目を追加する
・疾病カテゴリや製品タイプなど、将来の細分化に耐える属性を準備
・社内の統計、輸出入許認可、ラベル表記の連動点を洗う - 原薬は「成分特定の証拠」を整備する
・INN、CAS、塩形、含量、用途、SDS、CoA、規格書をセット管理
・分類根拠メモを必ず残す(後から説明できる形にする) - HS2022とHS2028の二重管理を準備する
・HS版の切替日管理(2028年1月1日)
・相関表が出たら一括置換できるように、品目ID軸で履歴を持つ
まとめ
HS2028で医薬・ヘルスケア分野に最も大きな変化をもたらすのは、ヒト用ワクチンの独立見出し化と細分化です。WTOは、HS2028で新見出し3007を設け、7区分・36ワクチンを名指しする提案が進んでいると報告しています。
また原薬については、WCOがWHOのINNリストに基づき多数の分類整理を進めており、コード変更の前に「分類運用の厳密化」が企業の負担とリスクを左右します。
ヘルスケア関連は、パンデミック対応で重要だった物資を政策・統計で追えるようにする方向が公式文書で示されています。
最終的に勝ち筋になるのは、早い段階で品目棚卸しを行い、ワクチンは分類の粒度増を前提にマスターを作り直し、原薬は成分特定と根拠の証跡を整えることです。これだけで、2028年の切替時に止まらない体制が作れます。
