EU・インドFTA締結が目前に迫る:2026年1月27日署名がもたらすグローバル貿易地図の変革

2026年1月27日、世界経済の新たな転換点が訪れようとしています。欧州連合とインドが自由貿易協定に署名する見通しが濃厚となり、EUにとって史上最大規模の貿易協定が実現する可能性が高まっています 。この協定は2007年から19年にわたる長い交渉の末に結実するもので、世界人口の約4分の1を占める市場へのアクセスが開かれることになります 。[news.yahoo.co]​

署名までの経緯と最終局面

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、欧州議会での非公開ブリーフィングで、協定が1月中に署名されることを確認しました 。フォン・デア・ライエン委員長と欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、1月25日から27日の間にニューデリーを訪問し、ナレンドラ・モディ首相と共に署名式に臨む予定です 。[news.yahoo.co]​

この協定が現実味を帯びてきた背景には、グローバルな貿易環境の激変があります。米国の関税政策が一部セクターで50パーセントに達する水準まで引き上げられる中、インドとEUは相互に市場の多様化を求めています 。インドにとっては中国への依存度を下げ、欧州市場での輸出競争力を強化する好機となり、EUにとってはアジア太平洋地域での経済的プレゼンスを確保する戦略的な意義があります 。[news.yahoo.co]​

農業分野の除外という戦略的決断

今回の協定で最も注目すべき点は、農業分野が意図的に除外されたことです 。フォン・デア・ライエン委員長は、農業が当初から交渉の対象外であったことを繰り返し説明しています 。この決断は、インドの労働力の約44パーセントが農業に従事している現実を反映したものです 。[news.yahoo.co]​

欧州委員会は、乳製品や砂糖などの製品が協定の適用範囲外となることを既に確認しています 。農業分野がインドにとって極めてセンシティブな政策領域であり、EU産農産品の市場開放に対する国内の強い抵抗があったため、この除外は協定全体の実現を優先した現実的な選択でした 。[news.yahoo.co]​

協定がカバーする主要産業

農業を除外しても、この協定はEU史上最大規模の貿易協定となります 。協定の恩恵を受けると見込まれる主要セクターは以下の通りです。[news.yahoo.co]​

インド側の主要輸出品

  • 衣料品、革製品:EU市場での競争力向上が期待される労働集約型産業
  • 医薬品:欧州市場でのアクセス改善
  • 石油製品、電子機器(スマートフォン):現在も主要輸出品
  • 鉄鋼、宝飾品、自動車部品:付加価値の高い製造業製品
  • サービス輸出:通信、運輸、ビジネスサービス、ITサービス[news.yahoo.co]​

EU側の主要輸出品

  • 航空機および部品:高度技術製品
  • 電気機械、化学製品:先進工業製品
  • ダイヤモンド(原石):宝飾品加工産業向け
  • 知的財産権サービス、IT・通信サービス:高付加価値サービス
  • 専門サービス:コンサルティング、設計など[news.yahoo.co]​

現在の通商関係の実態

2024年度から2025年度にかけて、インドとEUの二国間商品貿易額は1365億3000万ドルに達しました 。内訳はインドからの輸出が758億5000万ドル、輸入が606億8000万ドルとなっており、EUはインド最大の商品貿易パートナーです 。[news.yahoo.co]​

サービス貿易も活発で、2023年度から2024年度において、インドはEUに300億ドルのサービスを輸出し、230億ドルのサービスを輸入しました 。スペイン、ドイツ、ベルギー、ポーランド、オランダがインド輸出の主要なEU仕向け地となっています 。[news.yahoo.co]​

現行の関税障壁と競争上の不利

インドの繊維製品は現在12パーセントから16パーセントのEU関税に直面しており、バングラデシュやベトナムなどEU貿易協定の下で特恵アクセスを享受する競合国と比べて不利な立場に置かれています 。この関税格差の解消が、インド側にとって協定締結の大きな動機となっています 。[news.yahoo.co]​

投資フローの現状と将来性

投資面では、2000年4月から2024年9月までの累積外国直接投資で、EUからインドへの投資額は1174億ドルに達し、インドへの総FDI流入の16.6パーセントを占めています 。現在約6000社の欧州企業がインド国内で事業を展開しています 。[news.yahoo.co]​

一方、インドからEUへの対外直接投資額は約400億4000万ドルで、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギーがインドへの主要なEU投資国となっています 。協定締結後は、これらの投資フローがさらに加速すると予想されます。[news.yahoo.co]​

交渉の長い道のりと挫折からの復活

インドとEUのFTA交渉は2007年に開始されましたが、2013年まで続いた交渉は複数の対立点により停滞しました 。主な争点は以下の通りでした。[news.yahoo.co]​

  • 自動車関税の水準
  • ワインと蒸留酒の市場アクセス
  • インドのIT企業向けデータ保護規制
  • 知的財産権の保護水準
  • 労働基準と政府調達の透明性[news.yahoo.co]​

2016年から2020年にかけての交渉再開の試みは限定的な進展しかもたらしませんでしたが、2020年以降に勢いが戻りました 。2022年6月、インドとEUは自由貿易協定、投資保護協定、地理的表示協定を含む交渉を正式に再開し、2026年1月の署名に向けた現在の推進力へとつながりました 。[news.yahoo.co]​

日本企業への影響と対応戦略

競争環境の変化

日本は2011年8月にインドとの間で経済連携協定(EPA)を既に発効させており、この点では現段階でFTAを締結できていないEUより経済関係の深化で先行しています 。しかし、EU・インドFTAの締結により、欧州企業がインド市場で関税面の優位性を獲得すれば、競争環境に変化が生じる可能性があります。[murc]​

自動車産業への影響

自動車部品産業では特に慎重な対応が求められます。インド商工会議所のトップは、EU製部品が規模と自動化、補助金という強みを持っているため、一律の関税削減が国内サプライヤー、特に中小企業に打撃を与えかねないと警告しています 。インド自動車工業会も、完成車とエンジンを例外品目とするよう強く求めており 、この動向はインド市場で事業展開する日系自動車メーカーやサプライヤーにとって注視すべき点です。hoppindia.hoppin+1

新たな機会の創出

一方で、インドを生産拠点としてEU市場に輸出する日本企業にとっては、新たな機会が生まれる可能性があります 。日本からインドへの直接投資やインド国内での日本企業の生産活動は、EU・インドFTAを活用することで欧州市場へのアクセスが改善される可能性があります。[iti.or]​

医薬品、IT・ビジネスサービス、繊維などの分野で、インドに拠点を持つ日本企業は、EU市場での競争力向上の恩恵を受ける可能性がある一方、EU企業との直接競争が激化するリスクも考慮する必要があります。

今後の実務的な準備

協定が1月27日に署名された後も、各国議会での承認プロセスが必要となります 。インドのピユシュ・ゴヤル商工大臣は、最新の協議が「非常に実質的」であったとしながらも、最終合意は完全にバランスが取れ、相互に有益なものでなければならないと強調しています 。reuters+1

日本企業として取るべき準備は以下の通りです。

短期的対応(3〜6カ月)

  • 協定条文の詳細分析:関税削減スケジュール、原産地規則、サービス貿易の自由化範囲
  • 既存の日印CEPAとの比較検討:どちらの協定が有利か品目ごとに精査
  • 競合他社の動向調査:欧州企業のインド市場戦略の変化を把握

中期的対応(6カ月〜2年)

  • 日印CEPAの活用強化:既存協定の利用率向上とメリット最大化
  • インド国内での付加価値創出:現地調達率の向上と生産能力の拡充
  • 現地パートナーとの協業深化:技術移転や共同開発の推進

長期的戦略(2年以降)

  • 三角貿易の可能性検討:日本→インド→EU、またはEU→インド→第三国のルート開発
  • グローバルサプライチェーンの再構築:最適な生産・調達拠点の配置見直し
  • 新規市場開拓:EU・インド間の貿易拡大に伴う周辺ビジネス機会の発掘

この歴史的な協定は、世界貿易地図を大きく塗り替える可能性を秘めています 。日本企業にとっては、脅威と機会が混在する新たな競争環境の始まりを意味しており、戦略的な対応が求められる重要な転換点となります 。moneycontrol+1

トランプ大統領による欧州追加関税の撤回が示す米欧貿易の新局面


2026年1月21日、米国のドナルド・トランプ大統領は、グリーンランド領有に反対する欧州8カ国に対して表明していた追加関税を撤回すると発表しました。この発表は世界経済フォーラム年次総会が開催されているスイス・ダボスで、NATO事務総長マーク・ルッテとの会談後になされたものです。わずか数日前まで激化していた米欧間の通商摩擦が、急転直下で緩和に向かった背景には、北極圏をめぐる戦略的な合意形成があります。iwate-np+3

関税発動予告から撤回までの経緯

トランプ大統領は1月17日、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、オランダ、フィンランドの8カ国に対し、2月1日から全製品に10パーセントの追加関税を課すとSNSで表明していました。さらに6月1日からは税率を25パーセントに引き上げ、米国によるグリーンランド完全取得に関する合意が成立するまで継続するとしていました。この発表は欧州各国に衝撃を与え、対象となった8カ国は共同声明を発表して米国の姿勢を「危険」と批判していました。[jetro.go]​[youtube]​

しかし1月21日、トランプ大統領はルッテNATO事務総長との協議を経て、「グリーンランド、そして北極圏全体に関する将来の取引の枠組み」を形成したとして、2月1日の関税発動を撤回すると発表しました。大統領はこの合意について「実現すれば米国と全てのNATO加盟国にとって大きな利益となる」と述べましたが、具体的な合意内容については明らかにしていません。CNBCのインタビューでは「少し複雑な構想」であり、協議が進展するにつれて詳細を提供すると説明しています。stlpr+3

EU側の対抗措置と貿易協定承認の延期

一方、EU側もトランプ政権の圧力に対して強硬姿勢を示していました。欧州議会は1月20日、2025年7月に米国と合意した貿易協定の承認を延期することで合意しています。この協定では、EUが全ての米国製工業製品に対する関税を撤廃し、米国は欧州製品への関税を15パーセントに設定する内容が含まれていました。47news+3

欧州議会の議員は「これは極めて強力な手段だ。米国の企業が欧州市場を諦めることに同意するとは思えない」と述べ、協定承認延期が米国への圧力手段であることを示唆しています。昨年7月の合意では、EUは7500億ドル相当の米国産エネルギー製品を購入し、さらに6000億ドルを米国に投資することに同意していました。この協定の猶予期間は2月6日に終了し、EUが延長措置を取るか新協定を承認しない限り、2月7日に対米関税が発動する状況にありました。diamond+2

グリーンランドの戦略的価値と北極圏をめぐる競争

今回の関税騒動の背後には、グリーンランドの戦略的・経済的価値の急上昇があります。地球温暖化に伴う北極の海氷融解が加速しており、北極圏は地球平均に比べて4倍の速さで温暖化が進んでいるとされています。これにより、欧州とアジアを結ぶ北極航路や北米北岸を通る北西航路といった新たな海上交通路の開発価値が急速に高まっています。nikkei+1

グリーンランドには、ウランやグラファイト、レアアースといった米国の安全保障にとって重要な鉱物資源が豊富に眠っており、携帯電話やコンピューター、電池などのハイテク機器に不可欠な資源の供給源として注目されています。米国や西側諸国は、重要鉱物市場における中国の支配的な立場を緩和しようと、グリーンランドへの関心を強めている状況です。米戦略国際問題研究所の専門家は「北極の海氷融解は、経済と安全保障の競争に向けた全く新しい舞台をつくっている」と指摘しています。biz.chosun+2

ビジネスへの影響と今後の展望

今回の関税撤回により、欧州企業は差し迫った追加負担を回避できましたが、米欧間の通商関係は依然として不安定な状況にあります。2025年8月から既に米国は欧州製品の大部分に15パーセントの関税を課しており、欧州の製造業者は出荷の遅延、価格の引き上げ、利益率の低下といった影響を受けています。国際商業会議所の副事務総長は「企業は前例のない高関税率という現実に直面している」と述べ、米国経済に深刻な影響が出ない限り状況が改善する可能性は低いと指摘しています。[reuters]​

日本企業にとっても、米欧間の通商摩擦は重要な関心事です。欧州市場への輸出や現地生産を行っている企業は、EU側の対抗措置や市場環境の変化を注視する必要があります。また、北極圏の開発競争が激化する中で、資源アクセスやサプライチェーンの再編が今後のビジネス戦略に影響を与える可能性があります。

グリーンランドと北極圏をめぐる「取引の枠組み」の具体的内容が今後明らかになるにつれて、国際貿易環境はさらなる変化を迎えるでしょう。2月6日の貿易協定猶予期限、2月7日の潜在的な関税発動日という重要な日程が迫る中、米欧の協議動向を継続的に監視していくことが、グローバルに事業展開する企業にとって不可欠となっています。

2026年初の最新版 日本の主要EPA交渉はどこまで進んだか

日本企業にとってEPAは、関税の引下げだけでなく、原産地規則、通関の円滑化、投資やデジタル取引のルール整備まで含む、実務インフラそのものです。日本は既に多くの協定を持ち、貿易額ベースのカバー率は約8割とされますが、次の成長市場や戦略地域を押さえる動きは続いています。 (経済産業省)

では、いま交渉中の案件はどこまで進み、企業は何を準備すべきでしょうか。外務省が2026年1月6日に更新した「交渉中」「交渉中断中」の一覧を軸に、公開情報だけで整理します。 (外務省)


まず全体像 日本が抱える交渉案件は8本

外務省の整理では、交渉中が6本、交渉中断中が2本です。 (外務省)

相手国・地域ステータス直近の公式動き公表されている主な論点企業側の見どころ
バングラデシュ交渉中だが大筋合意2025年12月22日に大筋合意を確認、署名に向け協力と発表貿易投資拡大が主眼。交渉開始は2024年3月近い将来、制度設計が確定しやすい
UAE交渉中2025年12月16〜19日に第6回会合、次回日程は調整へ物品、原産地、サービス、競争、知財、デジタルなど幅広い章立てルール整備の影響が大きい
GCC交渉中交渉再開後の第2回会合を2025年6月30〜7月3日に東京で実施物品、原産地、サービス、通関円滑化、投資、知財など6カ国一括のため、制度統一の行方が鍵
日中韓FTA交渉中外務省の交渉会合の公表は第16回が2019年11月近年は首脳、閣僚対話で「高いレベル」の協力を再確認再起動するかが最大の論点
トルコ交渉中外務省の交渉会合の公表は第17回が2019年10月長期化。経済界から早期妥結要望も進展の兆しを見極める局面
コロンビア交渉中外務省の交渉会合の公表は第13回が2015年9月長期停滞再開有無のシグナル待ち
韓国交渉中断中外務省の公表上は2011年の局長級事前協議まで交渉再開の環境醸成段階で停止実務上は他枠組みでの補完が中心
カナダ交渉中断中外務省の公表上は2014年11月の第7回会合まで中断CPTPPなど既存枠組みとの棲み分け

出所は外務省の各案件ページと、直近会合の報道発表です。 (外務省)


署名が視野に入った バングラデシュは企業が最も準備しやすい局面

バングラデシュは2025年12月22日、両国外相級の電話会談で大筋合意を確認し、署名に向け協力を継続すると発表しました。 (外務省) 経産省も同日付で、大筋合意に至った旨を整理しています。 (経済産業省)

ビジネス上のポイントは2つあります。

1つ目は、制度の確定が近いことです。大筋合意の段階では、本文の精査、国内手続、署名、発効という順に進みます。大筋合意になったからといって、翌日から優遇税率が使えるわけではありません。ここを誤解しないことが重要です。 (外務省)

2つ目は、同国の制度移行リスクを関税面で吸収できる可能性です。バングラデシュはLDC卒業が予定されており、これまでの特恵条件が将来変わり得る中で、EPAが貿易条件の安定化策になり得ると整理されています。 (JETRO)

交渉分野としては、少なくとも公式発表で、物品貿易、原産地規則、税関手続と貿易円滑化、投資、電子商取引、知的財産などが議題になっています。 (外務省)


UAEは第6回まで進行 いま注目すべきはデジタルと持続可能性章

日UAEは2024年9月に交渉開始を決定し、GCC交渉と並行しつつ包括的EPAを目指すという建付けです。 (外務省)

直近では2025年12月16〜19日にドバイで第6回会合が開催され、物品、原産地、サービス、競争政策に加え、貿易及び持続可能な開発、知的財産、デジタル貿易などが議論対象として明記されています。 (外務省)

企業側の実務で効いてくるのは、関税表より先に、ルール章の影響が見え始める点です。例えばデジタル貿易や知財、政府調達が含まれるタイプのEPAは、現地での販売形態、データ移転、委託先管理、入札参加要件に波及しやすいからです。少なくとも交渉の議題としてデジタルが前面に出ていることは、ウォッチすべきシグナルです。 (外務省)


GCCは交渉が再起動している 2回目まで進んだが多国間ゆえ時間軸は読みづらい

日GCCは、2006年開始、2009年中断を経て、首脳レベルの一致を受けて交渉を再開し、再開後の第1回会合を2024年12月にリヤドで開催しました。 (外務省) その後、再開後第2回会合が2025年6月30〜7月3日に東京で行われています。 (外務省)

第1回では電子商取引、知財など、再開直後から現代的な章立てが議題に入っています。 (外務省) 第2回では投資も議題として明記されました。 (外務省)

GCCはエネルギー安全保障の観点でも重要だと、外交青書でも位置付けられています。 (外務省) ただし、6カ国を束ねる交渉である以上、関税や原産地だけでなく、制度運用の整合が最後の難所になりがちです。企業としては、発効時点の実務運用を見据え、輸入通関のルール、原産地証明の提出形態、事後検証の運用など、運用設計がどう落ちるかを注視するのが現実的です。 (外務省)


日中韓FTAは交渉の再起動が焦点 公表ベースでは2019年が最後

外務省が公表する交渉会合の一覧では、第16回が2019年11月で、以降の交渉会合は明示されていません。 (外務省)

一方で、2024年5月の日中韓首脳会議を受けて、交渉加速に向けた流れが報じられています。 (JETRO) 2025年3月には、3カ国の貿易担当閣僚が「高いレベル」の3国間FTAに向けた協力を強める方針を確認したと報じられました。 (Reuters)

企業目線での結論はシンプルです。制度が明文化されるまでは準備に過剰投資せず、ただし再起動の兆候が出た瞬間に動けるよう、社内の基礎データを整えておく。これが最も費用対効果が高いです。


長期停滞案件 トルコとコロンビアは情報の鮮度に注意

日トルコは外務省ページ上、交渉会合の公表が2019年10月の第17回までとなっており、長期化しています。 (外務省) 経団連も2025年に早期締結を求める文書を公表しています。 (経団連)

日コロンビアは外務省ページ上、交渉会合の公表が2015年9月の第13回までです。 (外務省) 近年も在コロンビア日本大使館の発信で「交渉中」との言及は見られますが、交渉再開の事実認定には一次情報の確認が必要です。 (在コロンビア日本国大使館)


交渉中断中 韓国とカナダは実務上は別枠組みで補完が現実的

日韓EPAは外務省で交渉中断中に分類され、ページ上は2011年の局長級事前協議までが整理されています。 (外務省)

日カナダも交渉中断中に分類され、ページ上は2014年11月の第7回会合までが整理されています。 (外務省)

両国とも、日本側には既に他の経済枠組みが存在するため、企業実務としては、いま動いている交渉案件を優先的に見に行くのが合理的です。 (外務省)


企業が今やるべき準備 交渉の中身が見えた瞬間に勝負が決まる

交渉はブラックボックスになりやすい一方、企業の準備は公開情報だけでも前倒しできます。

1 取引棚卸しをEPA視点で作る
対象国向けの売買を、相手国、HS、取引額、調達国、加工工程で並べ、関税メリットより先に、原産地規則で詰まりそうな品目を先にあぶり出します。

2 原産地の証拠を先に固める
サプライヤー証明、工程表、BOM、原産材料の原産国を、社内監査に耐える形でまとめておく。協定発効後に駆け込みでやると、証明の品質が落ちやすいです。

3 ルール章の影響を部署横断で点検する
UAEやGCCのようにデジタル、投資、知財が議題に入る案件では、貿易部門だけでなく、法務、IT、営業、調達も巻き込み、想定される義務や権利を洗い出しておくと、発効後の手戻りが減ります。 (外務省)


まとめ 2026年初に最も実務が動くのはどれか

最短で現実味が高いのは、既に大筋合意に到達したバングラデシュです。 (外務省)
次に、交渉会合が継続して積み上がっているUAEと、再起動後に複数回会合まで進んだGCCが続きます。 (外務省)
日中韓FTA、トルコ、コロンビアは、再開や加速のシグナルを見極める局面です。 (外務省)

公開情報で追える範囲でも、交渉の進捗は十分に読めます。ポイントは、発効後に慌てるのではなく、発効前に社内データを整え、制度が見えた瞬間に社内意思決定を走らせられる状態を作ることです。

日英EPAで「e-CO完全義務化」と聞いたら最初に押さえるべき事実

結論から言うと、日英EPAにおける特恵関税の原産地証明は、紙の原産地証明書を発給して提出する方式ではありません。日英EPAは自己申告制度のみを採用しており、第三者証明制度は採用されていません。

そのため、日英EPAについて「e-CO(電子原産地証明書)が完全義務化される」という表現は、用語の混同が起きている可能性が高いです。ここで言うe-COは、一般に第三者証明制度を採用するEPAで、発給機関から税関システムへ原産地証明書データを直接送る仕組みを指します。 (税関総合情報)

この記事では、日英EPAの正しい実務像を整理したうえで、なぜ誤解が起きやすいのか、企業が何を整備すべきかを、一次情報ベースで深掘りします。

1. 日英EPAの原産地証明は、そもそも「証明書」ではなく「申告」が基本

日英EPAで特恵を取る方法は、自己申告の2ルートです。

1つ目は、輸出者または生産者による「原産地に関する申告」。これは、協定で定められた文言を、日本語または英語で、インボイスなどの商業上の文書に記載して行います。翻訳は不要とされています。

2つ目は、輸入者の知識に基づく申告。輸入者が原産性を示す情報を保有していることが前提になります。

つまり、日英EPAの世界では、紙のC/Oを商工会議所や当局に申請して受け取る、という発想自体が主役ではありません。英国政府側の説明資料でも、日英EPAは自己証明ができ、税関当局の証明書は不要である点が明示されています。 (GOV.UK)

2. 「電子化」の中身は、e-COではなく、原産地申告の電子運用

日英EPAの実務で言う電子化は、次の意味合いになります。

・申告文を載せるインボイスやパッキングリストが、PDFや電子インボイスで運用される
・申告文をインボイスとは別紙に作成して添付することも可能
・商流が複雑でも、協定が求める要件に沿って、どの文書に申告文を載せるかを設計できる

特に注意したいのは三国間取引です。第三国の事業者がインボイスを発行する形は現実に多い一方、日英EPAの手引きでは、第三国の事業者が発行した文書上に、輸出締約国の輸出者が申告文を作成することは想定されていない、と整理されています。代替として、輸出締約国側の輸出者が発行する別の商業文書(例としてデリバリーノート)に申告文を載せる運用が示されています。

この論点は、紙か電子かの問題ではなく、どの当事者が、どの文書で、原産地申告を作成するかという統制設計の問題です。

3. 少額免除と保存義務。電子化で楽になるが、責任は軽くならない

日英EPAでは、課税価格の総額が20万円以下の場合、特恵待遇の要求の根拠となる書類の提出が不要と整理されています。

一方で、保存義務は明確です。

・輸入者は、日本の国内法令により、輸入許可日の翌日から5年間、原産品に関する書類を保存
・輸出者自己申告を作成した日本の輸出者および生産者は、作成日から4年間、申告書の写しと原産性を示す記録を保存

ここで重要なのは、紙の提出が減っても、事後確認や検証がなくなるわけではないという点です。税関はリスク評価に応じて、輸入申告時または輸入許可後に確認を行い、要件を満たさない場合は特恵税率が認められない可能性があります。

4. では「e-CO完全義務化」は何を指しやすいのか。混同の正体

日本の貿易実務でe-COという言葉が強く使われるのは、第三者証明制度を採用するEPAで、紙の原産地証明書に代えて、発給機関から税関システムへデータを直接送る運用が始まっているからです。税関も、e-COを「NACCSで受信した原産地証明書データ」として整理しています。 (税関総合情報)

実際、日インドネシアEPAではe-COの本格導入が進み、本格運用後は輸入申告でe-COのみ提出を求める運用が説明されています。 (ジェトロ)

さらに、商工会議所が発給する原産地証明書には、非特恵と特恵があり、特恵側はEPAに基づく特定原産地証明書です。企業の現場では、ここでの電子化やデータ交換の話を、日英EPAにも同じように当てはめてしまう誤解が起きやすい構造があります。 (東京商工会議所)

整理すると、次の対比になります。

区分日英EPAe-COが登場しやすいEPA
証明の仕組み自己申告のみ第三者証明制度を採用する協定で多い
典型的な証憑インボイス等への原産地申告文、輸入者の知識発給機関が発給する原産地証明書
電子化の姿文書運用の電子化、保存の電子化証明書データの税関システムへの直接送信

日英EPAをe-COの延長で理解すると、不要な申請や誤った手続設計を招きます。逆に、e-CO型の協定を紙前提で回していると、特恵が取れないリスクが現実化します。

5. 企業がいま整備すべき実務チェックリスト

日英EPA向けに、すぐ着手すべき論点を絞ります。

・原産地申告文を載せる文書を社内標準化する(インボイス、別紙、パッキングリストのどれを正とするか)
・三国間取引の文書設計を見直す(第三国インボイスの場合の代替文書運用)
・少額免除の適用条件を運用ルールに落とす(20万円以下の扱い)
・保存義務に耐える証跡設計を作る(輸入者5年、輸出者4年)
・事後確認を前提に、原産性を説明できる形でデータを残す(BOM、工程、サプライヤー情報、PSR判断)

まとめ。日英EPAのキーワードは「自己申告の電子運用」。e-COとは別物

日英EPAは自己申告制度のみで動いており、第三者証明制度の電子化として語られるe-COとは制度設計が異なります。

日英EPAで企業が勝つために必要なのは、紙をなくすことではなく、原産地申告をどの文書で、誰が、どの責任範囲で作成するかを明確にし、保存と説明責任に耐える証跡を整えることです。そこまで設計できれば、電子化は自然にコストを下げ、スピードを上げる武器になります。

アフリカ自由貿易の新時代 —— 南アフリカが切り開く転換点

アフリカでビジネスを展開する企業にとって、2026年は大きな転換点の年となりました。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の枠組みに基づき、南アフリカ共和国が本格的な関税引下げを始めたからです。
本稿では、南アフリカで進む関税撤廃の仕組みと背景、そして日本企業にとってのリスクとチャンスを分かりやすく解説します。


1. 2026年、南アフリカで始まった関税引下げ

2026年1月、南アフリカ歳入庁(SARS)はAfCFTA協定に基づく新しい関税スケジュールを施行しました。これは2024年から段階的に進められてきた優遇貿易の「第3フェーズ」にあたります。

AfCFTAでは、アフリカ各国が輸出入の約9割を占める「非敏感品目」の関税を段階的に撤廃することを目指しています。南アフリカが属する南部アフリカ関税同盟(SACU)では、これらを5年以内にゼロにする計画のもと進展しており、2026年はいよいよ本格的な転換期です。

有機化学品、ゴム製品、ガラス、銅製品、機械部品などを中心に関税が大きく引き下げられ、域内での取引コストが急速に低下しています。アフリカ内でのビジネスがより実行しやすくなっているのです。


2. 「資源輸出型」から「付加価値型」ビジネスへ

南アフリカ政府がこの動きを強力に推進する目的は、アフリカ経済の付加価値化と産業成長です。これまでのように「資源を採掘して輸出し、製品を輸入する」構造から脱却し、「製造・加工を自ら行う産業構造」への転換を目指しています。

特に自動車や医薬品、食品加工などでは、南アフリカをハブにした域内生産ネットワークが広がりつつあります。
例えば、南アフリカで組み立てた車両をケニアやガーナへ無関税で輸出するモデルが現実味を帯びてきました。今後、アフリカ内部での「ものづくり」が加速していくことが期待されます。


3. カギを握る「原産地規則」

関税がゼロになるといっても、条件を満たす必要があります。その条件が「原産地規則(Rules of Origin)」です。これは、「どの国・地域で付加価値が生まれたか」に基づいて関税の優遇を受けられる仕組みのことです。

2026年時点で全品目の約9割は合意済みですが、自動車・繊維製品など一部では依然として厳しい基準が設けられています。
たとえば、多くの製品では全体の40〜60%程度の価値がアフリカ域内で生み出されていることが求められます。日本企業が南アフリカに進出する際、部品をすべて日本から輸入する形では優遇を得にくくなるため、現地調達やパートナー企業の育成が重要になります。


4. 対米関係と地域戦略の分岐点

2026年は、米国との貿易関係にも注目が集まっています。特に、米国の「対アフリカ成長機会法(AGOA)」の行方が不透明で、南アフリカはアフリカ域内貿易を強化することで、外部市場への依存を減らそうとしています。

こうした動きは、アフリカ内部での経済連携を強め、世界的な不確実性への耐性を高めることにつながります。
南アフリカを拠点とする企業にとっても、市場の多様化とリスク分散という点で大きなメリットがある流れです。


5. 今後の展望 —— 日本企業にとってのチャンス

南アフリカの関税引下げは、アフリカ大陸全体がひとつの巨大市場に向けて再構築される流れの中心にあります。南アフリカは、金融・物流・インフラの面でアフリカ有数の拠点となっており、この統合を主導する立場に立とうとしています。

日本企業にとっても、南アフリカは「単なる輸出先」ではなく、**13億人のアフリカ市場への玄関口(ゲートウェイ)**となる存在です。今後は、関税だけでなく物流、電子決済(PAPSS)、非関税措置の緩和といった「貿易環境の全体的な変化」を見据えた戦略設計が求められます。


特定の業界(例えば、自動車部品や精密機器)に焦点を当てた詳細な関税率分析や競合企業の進出動向レポートも作成可能です。ご関心があればお知らせください。


日英EPAの乗用車関税撤廃(2026年2月)

2026年2月1日。ついに、日本とイギリスの間で大きな経済の節目が訪れます。日英EPA(包括的経済連携協定)に基づき、日本から英国へ輸出される乗用車の関税が完全に「ゼロ」になります。

2021年の協定発効から段階的に引き下げられてきた関税が、ついに撤廃されるこの瞬間。日本の自動車産業、そして現地の消費者にとってどのような意味を持つのか、深掘り解説します。


1. 2026年2月、何が起きるのか?

日英EPAでは、日本から輸出される乗用車にかけられていた10%の関税を、8年かけて段階的に削減するスケジュールが組まれていました。

  • 2019年〜: 日EU・EPAのスケジュールを継承(いわゆる「キャッチアップ」)。
  • 2021年1月: 日英EPA発効。この時点で関税はすでに削減の途上(約7.5%)。
  • 2026年2月1日: 関税率 0%(完全撤廃)が実現。

これにより、日本で製造された車両をイギリスへ輸出する際のコストが大幅に抑えられ、欧州メーカーや韓国・中国メーカーとの価格競争において、日本車が再び強力な武器を手にすることになります。


2. なぜ「今」この撤廃が重要なのか?

自動車業界が100年に一度の変革期(CASE)にある中、この関税撤廃は単なる「値下げ」以上の意味を持ちます。

① EVシフトへの強力な後押し

現在、英国市場では「ZEV(ゼロエミッション車)販売義務化」が進んでいます。関税がゼロになることで、日本メーカー(トヨタ、日産、ホンダ、マツダなど)は、高価になりがちなEV(電気自動車)やハイブリッド車の価格を抑えて市場に投入しやすくなります。

② 英国市場での「日本車ブランド」の再定義

イギリスは伝統的に日本車への信頼が厚い市場ですが、近年は他国メーカーの台頭も目立ちます。関税コストが消えることで、浮いた資金をマーケティングやインフラ整備、アフターサービスに投資できるようになり、ブランド力の再強化が可能になります。

③ サプライチェーンの最適化

日英EPAでは、自動車部品の多くが既に即時撤廃されています。完成車関税がゼロになることで、「日本でコア技術を製造し、英国で最終組み立てを行う」あるいは「日本から完成車を輸出する」といった戦略の選択肢が広がり、物流の最適化が進みます。


3. 注意点:「原産地規則」の壁

関税が0%になるとはいえ、無条件ではありません。ここで重要になるのが**「原産地規則(Rules of Origin)」**です。

ポイント:

車両の価値のうち、一定割合(付加価値基準)が「日本産」または「英国産」である必要があります。特にEVの心臓部であるバッテリーに関しては、原材料の調達先が厳しくチェックされます。

もし、バッテリーの主要部材を日本や英国、EU以外から調達しすぎると、「日本産」と認められず、0%の優遇税率を受けられないリスクがあります。メーカーはこのルールをクリアするための調達戦略を2026年に向けて緻密に練り上げてきました。


4. 消費者・ビジネスへの影響まとめ

視点期待される影響
日本の自動車メーカー輸出コスト削減による収益性向上、EV市場での価格競争力強化。
英国の消費者日本車の選択肢が増え、高性能なハイブリッド車やEVがより手頃な価格に。
物流・商社日本からの輸出台数増加に伴う、日英間の貿易活発化。

結び:2026年、日英経済の絆は次のステージへ

乗用車関税の撤廃は、日英関係が「ポスト・ブレグジット(英国のEU離脱)」の混乱を乗り越え、強固なパートナーシップを構築した象徴とも言えます。2026年2月以降、イギリスの街中で最新の日本車がより多く走る姿を目にすることになるでしょう。

これは単なる貿易の数字の変化ではなく、日本の技術が世界で選ばれ続けるための大きな追い風です。


「日英EPAによる乗用車関税の完全撤廃(2026年2月)」は、日本の自動車メーカーにとって、イギリス市場での競争環境を劇的に変えるゲームチェンジャーとなります。

具体的にどの車種が恩恵を受けるのか、そしてメーカーが直面する「原産地規則」という新たな壁について深掘りします。


1. 恩恵を直接受ける「注目の車種」

現在、イギリスで販売されている日本車の多くは「英国産」または「欧州産」ですが、日本から直接輸出されている高付加価値モデルが、今回の関税撤廃で最も大きな恩恵を受けます。

① レクサス(Lexus)全般

レクサスの多くは日本国内(田原工場など)で生産され、イギリスへ輸出されています。

  • 対象モデル: RX, NX, UX, RZ(EV), LC, LSなど
  • メリット: 高級車セグメントでは数%の価格差が大きな競争力になります。メルセデス・ベンツやBMWといった欧州メーカーに対し、より攻めた価格設定や装備の充実が可能になります。

② スポーツモデル・趣味性の高い車

「日本専売」に近い形で製造され、世界に輸出されるモデルも恩恵を受けます。

  • トヨタ: GRヤリス、スープラ、GR86
  • ホンダ: シビック Type R
  • マツダ: MX-5(ロードスター)これらはファンが多く、関税撤廃による価格維持(または値下げ)は、ブランドロイヤリティを高める要因となります。

③ 最新の輸入EV・ハイブリッド車

  • 日産:アリア(Ariya)
    • 日産の主力EVですが、英国サンダーランド工場ではなく日本の栃木工場で生産されています。これまでかかっていた関税がゼロになることで、テスラや中国メーカー(BYDなど)との価格競争が激化する英国EV市場で有利に立ちます。
  • マツダ・スバル:CX-60, アウトバック, フォレスター
    • 輸出比率が高いこれらのブランドにとって、英国市場は収益性の高いエリアに変わります。

2. 「原産地規則」の壁:2027年の崖

関税がゼロになっても、手放しでは喜べないのが**「原産地規則(Rules of Origin)」**の問題です。特にEVについては、2027年に大きなルール変更が控えています。

EVバッテリーの「現地調達率」ルール

日英EPA(および英EU間ルール)では、関税ゼロの適用を受けるために、車両価値の一定割合を「日本・英国・欧州」の部品で構成する必要があります。

期間車両の現地調達率(RVC)要求バッテリーへの要求
〜2026年末まで40%〜45%(緩和措置中)比較的緩やかな基準
2027年1月〜55%以上セル・材料の多くが現地産であること

この「2027年の崖」をクリアできないと、**せっかく2026年2月に関税が0%になっても、2027年から再び10%の関税が課される(=原産地ルール違反)**という事態になりかねません。


3. 各社の最新動向:生き残りをかけた戦略

メーカー各社は、この「2027年ルール」をクリアするために、サプライチェーンの再構築を急いでいます。

  • 日産自動車(EV36Zero戦略):英国サンダーランド工場の隣に、パートナー企業のAESC(旧エンビジョンAESC)と共同で**巨大なギガファクトリー(バッテリー工場)**を建設中。英国産のバッテリーを搭載することで、2027年以降も関税ゼロを確実に維持する構えです。
  • トヨタ自動車:英国バーナストン工場でのハイブリッド車生産に加え、欧州域内でのバッテリー調達を強化。また、日本から輸出するEV(レクサスなど)についても、日本産バッテリーの付加価値を高めることで「日本産」としての認定を維持する戦略をとっています。
  • マツダ・スバル:両社は日本国内での生産比率が高いため、パナソニックなどの国内バッテリーメーカーとの連携を強化しています。日本で「材料から一貫生産したバッテリー」を搭載することで、日英EPAのルール下で「日本産」として認められる付加価値比率を確保しようとしています。

4. ブログのまとめ:2026年は「攻め」、2027年は「守り」

2026年2月の関税撤廃は、日本車にとっての**「輸出の春」です。しかし、その直後に控える2027年の原産地規則厳格化は、「バッテリーの自給自足」**を迫る厳しい試練でもあります。

読者へのメッセージ:

「イギリスで日本車が安くなる!」というニュースの裏には、各メーカーによる壮絶なバッテリー調達競争と、国境を越えたサプライチェーンの書き換えがあるのです。


世界のFTA/EPA交渉状況(2026年1月16日時点)

主要案件をビジネス目線で整理

本稿は、各国政府・国際機関などが公表している情報を中心に、2026年1月16日時点での交渉状況を「主要案件に絞って」整理したものです。FTAは交渉が並行トラックで進んだり、政治合意と条文確定、署名、批准、発効が時間差で起きたりします。実務では、原産地規則や適用除外、移行期間などの条項が最終的な損益を左右します。したがって、ここではまず、いま何が交渉中で、何が署名・批准待ちなのかを見失わないための地図としてまとめます。

状況の読み方(本稿の整理ルール)

・交渉中:交渉ラウンドや作業部会が続いている状態
・実質妥結:政治合意や交渉妥結はあるが、署名・批准・発効が残る状態
・署名済/批准待ち:条約署名済だが、国内批准や発効手続きが残る状態
・停止:交渉が一時停止、または棚上げされている状態
・開始予定:交渉開始の意思表明や開始条件(例:一定期間後)を明示している状態

1. 全体像(2026年1月16日時点で押さえるべき動き)

  1. EUは、アジア(インド、ASEAN諸国)と中東(UAE)、南米(メルコスール)に交渉軸が分散しており、交渉中と批准待ちが同時進行になっています。 (Trade and Economic Security)
  2. 英国は、スイス、トルコ、GCCとの交渉を継続しつつ、韓国とのアップグレード交渉は妥結段階に入っています。 (GOV.UK)
  3. カナダは、インド、UAEで交渉入りし、タイは交渉開始の手続き段階、ASEANは交渉継続(2026年妥結見込みの言及あり)という形で、インド太平洋と中東に交渉面を広げています。 (Global Affairs Canada)
  4. 日本は、トルコ、コロンビア、日中韓、バングラデシュ、GCC、UAEを交渉中として整理し、韓国・カナダは停止扱いです。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
  5. 豪州は、EUとインド(CECA)を交渉中として明確に掲げています。 (DFAT)

2. 主要国・地域別の交渉状況一覧

2-1. EU(欧州連合)

EUが公表している交渉一覧は、交渉中と採択・批准中を分けて整理されています。 (Trade and Economic Security)

相手国・地域2026年1月16日時点の状態直近の補足(公式情報ベース)
メルコスール実質妥結から署名・批准フェーズへ移行中EU側は、2019年の交渉妥結と、2024年に交渉を再開し妥結した旨を整理しています。 (Trade and Economic Security)
インドネシア(CEPA)実質妥結(署名・批准待ちの位置づけ)2025年9月23日に交渉が妥結した旨が明記されています。 (Trade and Economic Security)
インド交渉中2021年の再開、包括的FTAを目指す方針が示されています。 (Trade and Economic Security)
オーストラリア交渉中2018年開始の交渉として整理されています。 (Trade and Economic Security)
マレーシア交渉中(再開後)2025年1月の交渉再開、2025年6月の第1回ラウンド開催が記載されています。 (Trade and Economic Security)
フィリピン交渉再開後、交渉中2024年3月に交渉再開で合意した旨が記載されています。 (Trade and Economic Security)
タイ交渉中(再開後)2023年に交渉再開、2023年7月に第1回ラウンドと整理されています。 (Trade and Economic Security)
UAE交渉中2025年5月28日に交渉開始、同年6月に第1回ラウンドと明記されています。 (Trade and Economic Security)
メキシコ(近代化)採択・批准プロセスEUは「採択・批准」区分で整理しています。 (Trade and Economic Security)
チリ(先進枠組み)採択・批准プロセス併せて、暫定貿易協定が2025年に発効した旨がEU側整理にあります。 (Trade and Economic Security)

補足:EUとメルコスールは、2026年1月17日に署名したと公表されています。これは本稿の基準日(1月16日)の翌日なので、1月16日時点は「署名直前」と理解するのが実務上は安全です。 (Trade and Economic Security)

2-2. 日本

外務省の一覧は、発効・署名、交渉中、停止に区分して示されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

相手国・地域2026年1月16日時点の状態(外務省の区分)
トルコ交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
コロンビア交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
日中韓FTA交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
バングラデシュ交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
GCC交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
UAE交渉中 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
韓国停止 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
カナダ停止 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

2-3. 英国

英国政府は、交渉中の相手としてスイス、トルコ、GCCなどを優先案件として示しています。

相手国・地域2026年1月16日時点の状態直近の補足(公式情報ベース)
スイス交渉中2025年10月の第8回ラウンドの後、次回(第9回)を2026年初頭に英国で実施予定としています。 (GOV.UK)
トルコ交渉中2025年11月週に第3回ラウンドを実施したと更新があります。 (GOV.UK)
GCC交渉中第6回ラウンド(2024年2月)の交渉アップデートが公表されています。 (GOV.UK)
韓国交渉妥結(アップグレード交渉)2025年12月に、既存協定のアップグレード交渉を妥結した旨の公表があります。 (GOV.UK)
インド署名済(発効待ちの可能性)英国政府の整理では、2025年7月24日にインドとの協定署名と記載されています。 (House of Commons Library)
イスラエル停止英国議会図書館の整理では、2025年5月に交渉停止とされています。 (House of Commons Library)

補足:英国のページは、国別に「交渉中」「交渉していない」などの区分が更新されることがあります。実務で案件を追う場合は、個別案件の交渉アップデート(ニュースリリース)まで追うのが安全です。 (GOV.UK)

2-4. カナダ

カナダは、インド、UAEで「交渉中」と明確に記載し、タイは交渉開始の手続き条件(一定期間後)を提示しています。 (Global Affairs Canada)

相手国・地域2026年1月16日時点の状態直近の補足(公式情報ベース)
インド(CEPA)交渉中2025年11月の意図表明と、2025年12月13日から2026年1月27日までのパブリックコンサル(交渉開始は2026年見込み)を明記しています。 (Global Affairs Canada)
UAE(CEPA)交渉中2025年11月の意図表明と、交渉開始意向の発表を整理しています。 (Global Affairs Canada)
タイ(FTA)開始予定通知日から90日以上後に交渉開始予定と明記されています。 (Global Affairs Canada)
ASEAN(FTA)交渉中2021年11月16日に交渉合意、交渉継続中である旨が整理されています。 (Global Affairs Canada)
ASEAN(交渉の見通し)交渉継続(2026年妥結見込みの言及あり)首相府の発表では、カナダASEAN FTA交渉の加速と、交渉が2026年に妥結見込みと記載があります。 (Prime Minister of Canada)
メルコスール(FTA)交渉中(交渉開始済)2018年3月に交渉開始と明記されています。 (Global Affairs Canada)
インドネシア(CEPA)署名済(発効手続き段階)2025年9月24日に署名した旨、内容が財・サービス・投資など広範囲である旨が整理されています。 (Global Affairs Canada)

2-5. 豪州

豪州政府は、交渉中のFTAとしてEUとインド(CECA)を明示しています。 (DFAT)

相手国・地域2026年1月16日時点の状態直近の補足(公式情報ベース)
EU交渉中豪州側はEUとのFTA交渉ページを用意し、交渉方針と目的を示しています。 (DFAT)
インド(CECA)交渉中ECTAを土台に、より包括的なCECAを交渉中と説明しています。 (DFAT)

2-6. 多国間の枠組み(CPTPP、AfCFTA)

個別の二国間FTAと並び、企業の市場アクセスやサプライチェーン設計に効くのが、多国間枠組みの拡大です。

・CPTPPは、英国が2024年12月に加盟したとされ、次の拡大としてコスタリカの加盟手続きが進み、ウルグアイのプロセス開始、さらに2026年にUAE、フィリピン、インドネシアのプロセス開始を検討する方針が示されています。 (The Beehive)
・AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)は、協定が2019年5月30日に発効し、2021年1月1日に貿易が開始したと整理されています。個別のFTA交渉というより、域内取引のルール実装が進むフェーズと捉えるのが実務的です。 (African Union)

3. ビジネス実務での着眼点(交渉を追うときの優先順位)

交渉ニュースは関税率の話題になりがちですが、実務で効くのは次の順番です。

  1. 原産地規則(ROO)
    関税ゼロより前に、原産地認定に失敗すると優遇を使えません。部材比率、工程基準、累積原産の可否が、調達設計を左右します。
  2. 非関税措置の扱い
    SPS(衛生植物検疫)、TBT(技術的障害)、適合性評価、表示規制、デジタル関連(越境データ移転、電子署名・電子文書)などは、コストとリードタイムに直撃します。EUが交渉ページで市場アクセスだけでなく、デジタルや持続可能性など幅広い項目を掲げているのは、この非関税領域が「交渉の本丸」になっていることを示唆します。 (Trade and Economic Security)
  3. 発効までのタイムラグ
    署名済でも、発効まで数年かかることがあります。たとえば、カナダインドは「交渉開始に向けた公開協議の期間」まで明記しており、2026年は交渉の年、発効はさらに先になる可能性があります。 (Global Affairs Canada)
  4. 政府調達とサービス
    BtoB(特にインフラ、IT、専門サービス)では、関税より政府調達やクロスボーダーサービスの条項が売上に直結します。英国がスイス交渉でサービスを中心に据えると述べているのは、その象徴です。 (GOV.UK)

4. 基準日(2026年1月16日)直後に起きた大きな更新(参考)

・EUとメルコスールは、2026年1月17日に署名したと報じられています。これにより、以降は批准と発効に焦点が移ります。 (Financial Times)

マレーシア側のASEAN Single Window(ASW)ゲートウェイ障害

いま「ASEANの電子原産地証明が使えない」という話で、直近で公式に確認できる“発生中”のトラブルは、マレーシア側のASEAN Single Window(ASW)ゲートウェイ障害です。

何が起きているのか(どのシステムの話か)

  • 対象は、ATIGA(ASEAN物品貿易協定)の電子Form D(e-Form D)を、各国NSW(National Single Window)同士がASW経由でやり取りする仕組みです。 (シンガポール税関)
  • マレーシア当局(MITI)が、ASWゲートウェイの技術障害(B2Biサービスの問題)により、2026年1月14日からe-Form Dの送受信が利用できないと告知しています。

影響範囲

  • マレーシアが絡む「域内(ASEAN域内)」取引で、ATIGA特恵をe-Form Dで使う案件が直撃します(例:マレーシア→タイ、ベトナム→マレーシア等)。
  • “電子Form Dが前提”の運用が進んでおり、国によってはハードコピーを拒否し得る(少なくとも拒否される可能性がある)点が実務上のボトルネックになります。 (シンガポール税関)

当面の暫定措置(マレーシア発の輸出側)

MITIの案内では、マレーシアは2026年1月14日付で、当面「紙Form D」の発給(印刷運用)に一時的に戻しています(解除日は “until further notice”)。

手順は大きく2パターンです。

  1. すでにe-Form DがMITIで承認済みだが、相手国で通関できない
  • e-Form Dの参照番号(reference number)を、Dagang Netの窓口にメール連絡
  • 印刷可能になったら通知が来る
  • A4で印刷(電子的に付された署名・シール付き)し、輸入者へ回付
  1. まだForm Dを申請していない
  • ePCOシステムで通常どおり申請
  • 承認後に参照番号をメール連絡
  • 以降は同様にA4印刷→輸入者へ

実務で起きやすい詰まりどころ

  • 輸入国側が「紙Form Dの受付可否」を現場判断で止めるケース(電子前提の運用が強い国ほど、通関現場で確認に時間がかかりやすい)。 (シンガポール税関)
  • 結果として、特恵適用のために
    • 担保差入れや後日更正(事後の減税・還付)
    • 一旦MFN等で納税して後から申請
      のような“二度手間”が発生しがちです(可否は国・税関手続き次第)。

いますぐできる実務アクション

  • 対象が「ATIGAでの域内特恵」かを切り分け(RCEPや二国間EPAの案件と混同しない)
  • 取引ルートごとに「輸入国税関が紙Form Dを受けるか」を通関業者経由で先に確認
  • 証跡を厚めに残す
    • ePCO申請・承認画面、参照番号
    • Dagang Netとのメール、印刷版Form D
    • インボイス・B/L等の突合せ一式

インドとオマーンCEPA締結を実務目線で読む

1. まず何が決まったのか

インドとオマーンは2025年12月18日、包括的経済連携協定(CEPA)に署名しました。署名はモディ首相とハイサム国王の立ち会いの下で行われ、両国は関税の大幅な自由化に加え、サービス、投資、専門人材の移動、規制協力までをパッケージ化したと説明しています。 (pib.gov.in)

ビジネス上の結論を先に言うと、モノの関税引下げだけでなく、医薬の承認迅速化、ハラールや有機認証の相互承認、サービス分野の市場アクセス、オマーンで働く人材の滞在枠などが同時に動く点が重要です。価格競争力と参入スピードの両方に効きます。 (pib.gov.in)

2. 数字で見るCEPAの骨格

公表資料を突き合わせると、モノの市場アクセスは次の構図です。

項目オマーン側の約束インド側の約束
関税ゼロ、または自由化の対象比率(タリフライン)98.08%をゼロ関税(インド輸出の価値ベースで99.38%をカバー)77.79%を自由化(輸入額ベースで94.81%をカバー)
発効後の効き方発効初日からゼロ関税の恩恵が適用される設計除外リストを設けつつ段階的な自由化も含む

数値はインド政府の説明に基づきます。ジェトロも概ね同水準の割合(オマーン98.1%、インド77.8%)と整理しています。 (pib.gov.in)

ここで押さえるべき実務ポイントは2つです。
1つ目は、オマーン市場では、従来MFNで無税だったのはインド輸出の価値ベースで15.33%に過ぎず、CEPAで無税範囲が一気に拡大する点です。 (pib.gov.in)
2つ目は、インド側は幅広く自由化する一方、国内保護のための除外リストも明示している点です。対象品目は必ず税番(HS 8桁など)で確認が必要になります。 (pib.gov.in)

3. いつから使えるのか

公式文書は、ゼロ関税は発効日から適用される設計であることを示していますが、現時点で確定した発効日を一律に断定できる形では見えません。 (pib.gov.in)
一方で、報道ベースでは、2026年3月までの運用開始を視野に通知や実施準備を進める旨が伝えられています。社内の関税コスト試算や契約条件に反映する際は、最終的な発効日と通関上の適用開始日を、両国の公式通知で必ず確定させてください。 (NDTV Profit)

4. モノの関税以外が本丸になり得る理由

CEPAは、典型的な関税協定よりも、非関税分野の実装が厚いのが特徴です。ポイントを実務に落として整理します。

4-1. 医薬品 承認の迅速化とGMP資料の扱い

インド側は、米国FDA、EMA、英国MHRAなどの当局で承認済みの医薬品について、オマーンでのマーケティングオーソライゼーションを迅速化する枠組みや、GMP関連の検査文書の受入れによる時間とコストの削減を強調しています。 (pib.gov.in)
インドで製造し中東向けに展開する医薬、医療機器、ヘルスケア関連企業にとって、関税よりもむしろ上市までのリードタイム短縮がインパクトになり得ます。 (pib.gov.in)

4-2. ハラール、有機 認証の相互承認

ハラール認証の相互承認に向けた枠組みや、インドのNPOP有機認証の受入れ、標準化や適合性評価での協力が盛り込まれたとされています。食品、化粧品、原料、包装材などで、輸出時の書類や追加試験が減る可能性があります。 (pib.gov.in)

4-3. 伝統医療 初めての包括コミットメント

インド政府は、伝統医療(AYUSH等)について、全ての供給形態にまたがるコミットメントが含まれる点を大きく打ち出しています。ウェルネス、医療ツーリズム、関連サービスの展開余地が広がる可能性があります。 (pib.gov.in)

5. サービスと人の移動 オマーン側の譲許が大きい

CEPAでは、サービスで127のサブセクターを提示し、コンピューター関連、ビジネス、専門、教育、医療など幅広くカバーするとされています。加えて、企業内転勤者、契約ベースの出張者、独立専門職など、いわゆるモード4の枠で滞在や一時入国のコミットメントを用意したと説明されています。 (pib.gov.in)

ジェトロの整理では、企業内転勤者の上限比率の引上げや、契約に基づく出張者の滞在許可期間の延長など、かなり具体的な運用改善が示されています。日系企業であっても、オマーン拠点でインド人材を活用している場合、この部分がオペレーション効率に直結し得ます。 (ジェトロ)

6. 日本企業への示唆 直接の当事者でなくても影響は来る

日本企業に関係しやすいのは、次の3つのルートです。

6-1. インド拠点からオマーン向け輸出の採算改善

オマーンが関税ゼロを大きく広げる設計である以上、インドで生産している機械、電機、化学、樹脂、繊維、医薬などは、価格競争力の改善が見込まれます。インド政府は、工業品や医薬など幅広い分野で機会が広がるとしています。 (pib.gov.in)

6-2. オマーンを中東・アフリカの物流ハブとして使う動き

オマーンは物資とサービスの移動を促進し、エネルギー、技術、製造業などで協力を広げる狙いを示しています。インド政府側も、オマーンをGCCや東アフリカへのゲートウェイとして位置付けています。インド企業の進出増に合わせ、日系企業の物流、保守、周辺サービスの商機が拡大する可能性があります。 (FM.gov.om)

6-3. インドの調達先としてのオマーン

インドはオマーンから石油製品や尿素などを輸入していると報じられています。一方で、インド側の除外リストには石油系や一部農産品などが含まれるとされるため、実際にどの税番が対象になるかを個別に点検する必要があります。 (The Economic Times)

7. 実務チェックリスト

発効後に制度を取りこぼさないために、着手順に並べます。

  1. 対象品目のHSを確定し、譲許スケジュールで関税の扱いを確認する
  2. 原産地規則の条件を確認し、サプライヤー証明、BOM、製造工程を証跡として整備する
  3. 申告時に必要となる原産地証明や関連書類のフォーマットと運用(誰が発給し、誰が保管するか)を決める
  4. ハラール、有機、医薬承認など、規制系のメリットを使える品目は、要件と窓口当局を先に押さえる
  5. 発効日、通関実装、FAQやガイダンスの更新を、両国の公式発表とジェトロで継続監視する (Mcommerce)

なお、インド商工省はCEPA本文と付属書を章立てで公開しており、関税譲許、原産地規則、税関手続、サービス、人の移動などの体系を一次資料で確認できます。社内の制度設計はここを起点にすると精度が上がります。 (Mcommerce)

8. まとめ

インド・オマーンCEPAは、関税の自由化が非常に大きい一方で、非関税分野の実装がビジネス効果を左右する協定です。特に医薬承認の迅速化、認証の相互承認、サービスと人材移動の枠組みは、コストよりもスピードと運用負荷に効きます。日系企業は、インド拠点の輸出採算と、オマーンを軸にした地域展開の両面で、品目別に点検する価値があります。 (pib.gov.in)

台湾が米国と相互関税15%で妥結 MFN累加なしの意味と実務インパクト

何が起きたのか

台湾の行政院は2026年1月16日、米国との関税交渉が「相互関税15%」で妥結し、かつ最恵国待遇税率(MFN)の累加がない形で合意したと発表しました。米国側も1月15日付で、台湾との貿易・投資合意のファクトシートを公表しています。 (JETRO)

今回の合意は、単に税率が下がったという話に留まりません。半導体を中心に、232条関税(通商拡大法232条)や投資枠組み、サプライチェーン協力までをパッケージ化し、関税コストと不確実性の双方を下げにいく設計になっています。 (ey.gov.tw)

背景 32%→20%→15%へ

米国の台湾向け相互関税は、2025年4月に32%とされ、その後2025年7月の大統領令で20%に修正されました。ただし当時はMFN税率が上乗せされ、実務上は「相互関税+MFN」の合算で課税されていました。ジェトロは例として、MFNが4.7%の工作機械が20%+4.7%で24.7%になったケースを挙げています。 (JETRO)

台湾側は、日韓EUと同様にMFNを累加しない運用での引き下げを目指して交渉を継続し、今回15%で決着した、というのが大枠です。 (JETRO)

「15%」「MFN累加なし」を実務に落とすとどうなるか

ポイントは「15%が上乗せされない」という点です。台湾行政院は、15%かつMFN不累加の計算方式は日韓EUと同じだと説明しています。 (ey.gov.tw)

この「日韓EUと同じ」という言い回しは、米国の相互関税で採用されてきた二段構え(いわゆるオールインの考え方)を前提に読むのが自然です。ジェトロ掲載の月次レポートでは、EU向けの仕組みとして「MFNが15%未満なら合算で15%に収まるよう調整し、MFNが15%以上なら追加の相互関税は課さない」という二段構えを明示しています。 (JETRO)

これを台湾案件に当てはめると、実務上の理解は次の整理が分かりやすいです(最終確定は、今後の米側実施通達や関税番号の公表で必ず検証してください)。

  • MFNが15%未満の品目
    相互関税は「合算で15%」になるように差分だけ課税(従来のように15%や20%を丸ごと上乗せしない)
  • MFNが15%以上の品目
    追加の相互関税はゼロ(結果としてMFNがそのまま適用)

この理解に立つと、先ほどの工作機械例(MFN4.7%)は、従来の24.7%(20+4.7)から、合算15%へ近づく方向になります。 (JETRO)

合意パッケージの中身 関税だけではない

米国商務省ファクトシートと台湾行政院の発表を突き合わせると、合意の骨格は次の通りです。 (static.poder360.com.br)

1) 相互関税は最大15%

米国側は、台湾品に適用される相互関税は総計15%を超えない枠組みとしています。 (static.poder360.com.br)

2) 232条関税で「最も有利な待遇」を確保

台湾側は、半導体とその派生品、さらに自動車部品や木材等の232条関税について最も有利な待遇を獲得したと説明しています。米国側ファクトシートでも、台湾の自動車部品、木材、木材派生品の232条関税は総計15%を超えないと記載しています。 (ey.gov.tw)

加えて、米国は2026年1月14日付で、特定の先端コンピューティング向けチップに25%の関税を課す措置を公表しており、半導体領域は今後「広い範囲の関税」へ拡大する可能性にも言及しています。ここで台湾側が「最有利待遇」や投資連動の優遇を取りにいった構図が見えます。 (The White House)

3) 例外扱い 医薬品原薬や航空機部品などは相互関税ゼロ

米国側ファクトシートは、ジェネリック医薬品とその原材料、航空機部品、米国内で入手困難な天然資源について相互関税をゼロにするとしています。 (static.poder360.com.br)

4) 投資と信用保証 それぞれ2500億ドル規模

米国側ファクトシートでは、台湾の半導体・テック企業が米国で少なくとも2500億ドルの直接投資を行い、台湾が追加投資を促すために少なくとも2500億ドルの信用保証を提供するとしています。台湾側発表も、企業の自主投資2500億ドルと、政府による信用保証枠最大2500億ドルという二本立てを説明しています。 (static.poder360.com.br)

5) 半導体は投資連動で優遇 一定枠まで免税

米国側ファクトシートは、米国内で新たな半導体生産能力を建設する台湾企業に対し、建設期間中は計画能力の最大2.5倍まで232条関税なしで輸入でき、プロジェクト完了後も新たな米国生産能力の最大1.5倍まで232条関税なしで輸入できると記載しています。 (static.poder360.com.br)

日本企業にとっての見立て

ここから先は、日系企業の実務に引き付けた論点です。

1) 米国市場での競争条件は「台湾が日韓EUと同列」へ

台湾の産業界は、相互関税が15%に下がったことで日韓と同水準になり、競争圧力が緩和されると評価しています。台湾行政院も、工具機や手工具など伝統産業の競争力が高まると述べています。米国市場で日本企業と台湾企業が競合する領域では、価格条件の差が縮む可能性があります。 (JETRO)

2) サプライチェーン再編は加速し得る

投資の主役が半導体とAI関連である以上、米国側の狙いは供給網の米国内回帰です。台湾が「台湾モデル」で産業クラスターを米国に形成すると掲げた点は、部材、装置、化学品、物流まで裾野が広い話です。日系サプライヤーにとっては、米国内での追加需要機会と、台湾側の内製化進展という両面が出ます。 (ey.gov.tw)

3) 最大の注意点は「施行日」と「税番の実装」

台湾側は、関税以外の貿易協議文書は法的精査中で、別途署名し国会手続きに回すとしています。米国側ファクトシートにも、いつからどの税番で実装するかの詳細は読み取りにくい部分があります。輸入者としては、施行日、Chapter 99の付番、CBP通達の更新を見ないままコスト試算を確定させるのは危険です。 (ey.gov.tw)

実務チェックリスト 影響を見誤らないために

  • 対象品目をUS HTSで棚卸しし、現行MFN税率と相互関税の適用関係を品目別に試算する
  • 既契約は、施行日と適用税率の確定前提で価格条項とインコタームズを再点検する
  • 「相互関税ゼロ」扱いの品目は、分類根拠と用途要件を含めて監査耐性を確保する
  • 半導体や装置関連は、232条関税の対象範囲拡大や例外条件の変更に備え、投資計画と輸入計画を連動させる
  • 国別関税権限に関する米国内の司法判断や、追加の大統領令、CBP実務指針の更新を定点監視する (Reuters)

まとめ

台湾の「15%・MFN累加なし」は、表面的な税率引き下げ以上に、米国の半導体政策と関税政策を結び付けた枠組みです。日本企業にとっては、米国市場での競争条件の再調整と、サプライチェーン投資の連鎖という二つの波が同時に来ます。まずは品目別に、現行のMFNと相互関税の関係を確かめ、施行日と実装ルールが出た段階で試算を確定させるのが安全です。 (JETRO)