メキシコ「最大50%関税案」とIMMEXの行方:実質負担への影響と対策


メキシコ「最大50%関税案」とIMMEXの行方:実質負担への影響と対策

メキシコの関税政策は、「非FTA諸国(特に中国)からの輸入阻止」と「国内製造業の保護」へ向けて大きく舵を切っています。

重要なのは、ニュースで報じられる「名目関税率」だけを見るのではなく、**「IMMEX(輸出製造業優遇)という『盾』がどこまで機能するか」**を見極めることです。

本レポートでは、以下の4ステップで実質的なビジネス影響と対策を整理します。

  1. 関税政策の現状: 何が変わろうとしているのか
  2. IMMEXの基本機能: なぜこれまで関税がかからなかったのか
  3. 実質負担の構造: 「関税×IMMEX」の組み合わせでコストはどう決まるか
  4. 日本企業の対策: 今すぐ確認すべき5つのチェックポイント

1. メキシコ関税案:何が変わろうとしているのか

メキシコ政府は「関税の引き上げ」と「優遇の縮小」をセットで進めています。

1-1. 2024年の既定路線:544品目への一時関税(継続中)

2024年4月、メキシコ政府は鉄鋼、アルミ、繊維、電機、家具など544品目に対し、5〜50%の一時輸入関税を導入しました(2026年4月まで有効)。

  • 対象: 中国・韓国・インドなどのFTA非締約国原産品。
  • 狙い: アジア製品の流入抑制と、MFN(最恵国待遇)税率の底上げ。

1-2. 繊維・アパレルの「優遇封じ」(2024年末〜)

2024年12月の政令により、繊維・アパレル分野でより踏み込んだ措置が取られています。

  • 高関税化: 糸・生地15%、衣類35%(非FTA原産)。
  • IMMEX制限: 多くの品目が「一時輸入禁止リスト(Annex I)」に追加。
    • 意味合い: 「IMMEXを使えば無税」という逃げ道を塞ぎ、強制的に関税を払わせる構造への転換です。

1-3. 2025年の新提案:最大50%関税案(シェインバウム政権)

2025年9月提出の2026年経済パッケージには、さらなる関税強化案が含まれています。

  • 対象拡大: 自動車、同部品、電機、プラスチックなど約1,400〜1,500品目。
  • 税率: 中国製自動車などの関税を、WTO協定上限(バウンドレート)に近い**最大50%**まで引き上げる構想。
  • 現状: 議会で審議・修正協議中ですが、「対アジア輸入抑制」という政策の方向性は不可逆的です。

2. IMMEXとは何か:基本メカニズムの確認

IMMEXは、**「輸出することを条件に、輸入時の税金を免除・繰り延べる制度」**です。

  • 関税(IGI): 原則0%(一時輸入扱いのため)。
  • 付加価値税(VAT 16%): 「VAT認証」を取得していれば、支払いは発生せずキャッシュアウトなし(即時税額控除)。

つまり、これまでは「中国から部品を入れても、IMMEXで加工して米国へ輸出するなら、メキシコでの関税コストはゼロ」というのが基本ルールでした。今回の関税案は、この前提を揺るがすものです。


3. 「関税案 × IMMEX」で決まる実質負担構造

「関税が50%になる」といっても、全ての企業が即座に50%支払うわけではありません。

「IMMEXという『盾』が使えるか」、そして**「製品がどこへ向かうか」**で負担は4つのパターンに分かれます。

パターン別・実質負担マトリクス

ケース状況関税(IGI)負担VAT(16%)実質影響
A. 一般輸入IMMEXなしで輸入し、メキシコ国内販売5〜50% (激増)支払い【直撃】 仕入コストが即座に跳ね上がる。価格転嫁できなければ赤字転落のリスク。
B. IMMEX
(100%輸出)
部品を輸入・加工し、全量を米国へ輸出原則 0%免除【軽微】 制度上は影響なし。ただし在庫管理・原産地証明などのコンプライアンスコストは増大。
C. IMMEX
(一部国内販売)
輸入・加工後、一部をメキシコ国内市場へ国内販売分に
5〜50%適用
支払い【要注意】 国内販売に転用(Change of Regime)する時点で、引き上げ後の高関税を支払う必要あり。国内比率が高いほど痛手。
D. IMMEX禁止品
(繊維等)
繊維・アパレルなど「Annex I」指定品目35%等 (支払い)支払い【構造崩壊】 IMMEX利用不可=一時輸入不可。輸出目的であっても輸入時に関税発生。「往復無税」モデルの終焉。

【重要ポイント】

最大の懸念は、繊維業界で起きた「IMMEX利用禁止(Annex Iへの追加)」や「Rule 8(優遇関税枠)の厳格化」が、将来的に鉄鋼、自動車部品、電機など他業界へ波及するかどうかです。


4. 日本企業の実務インプリケーションと打ち手

「うちはIMMEXだから関係ない」という油断は禁物です。以下の5つの視点で、サプライチェーンの再点検を行ってください。

① HSコードと「禁止リスト」の照合

  • 自社の取り扱い品目のHSコードが、2024年の544品目、および最新の関税引き上げ案に含まれているか。
  • さらに重要な点として、「IMMEX禁止リスト(Annex I)」や「センシティブ品目(Annex II)」に含まれていないかを確認してください。ここに入ると、IMMEXのメリットが剥奪されます。

② 「国内販売比率」のコスト試算

  • IMMEX工場であっても、メキシコ国内の自動車メーカーや小売店に納入(みなし輸出ではなく、国内転用)している場合、その分については**「引き上げ後の新関税率」**でコスト計算をし直す必要があります。

③ サプライチェーンの「非FTA依存度」の可視化

  • 中国、韓国、インド、ASEAN(CPTPP非加盟国)からの調達部材を洗い出してください。
  • これらをメキシコ現地、米国、または日本・ベトナムなどFTA締約国からの調達に切り替えるコストと、高関税を甘受するコストを天秤にかける必要があります。

④ USMCA原産地規則との整合性(対米輸出の場合)

  • メキシコ側で関税を回避できても、最終製品がUSMCAの原産地規則(RVC/CTC)を満たせなければ、**米国輸入時にMFN関税(対中制裁関税含む)**が課されます。
  • 「メキシコでの関税回避」と「米国での関税回避」をセットで設計する必要があります。

⑤ コンプライアンス体制の強化

  • IMMEXやVAT認証の維持条件が厳格化されています。在庫差異や輸出期限の徒過は、即座に認証取り消し(=関税・VATの即時課税)につながるリスクがあります。在庫管理システムの精度向上が急務です。

まとめ:メキシコは「関税高止まり+制度厳格化」フェーズへ

メキシコ政府のメッセージは明確です。

「輸出のための加工なら優遇する(IMMEX)。だが、単なる輸入販売や、優遇制度の抜け穴利用は徹底的に封じる」

日本企業としては、関税率の数字そのものに一喜一憂するのではなく、**「自社の商流がIMMEXという防波堤の内側にあるか、外側にあるか」**を冷静に見極め、調達ルートの再設計を行う段階に来ています。

※本回答は2025年11月23日時点の情報を基に構成しています。具体的な税率や適用開始日については、必ずメキシコ連邦官報(DOF)および現地の通関・税務専門家にご確認ください。

 

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