紙の押印から「検証できる証拠」へ。e-CO時代の実務ポイント
電子CO(e-CO)が普及すると、通関が速くなる一方で、監査の質問は鋭くなります。問われるのは、原産地の中身だけではありません。
その電子COは本物か。後から改ざんされていないか。第三者が検証できる形で証拠が残っているか。ここで核になるのがPKI署名です。
本稿では、電子CO監査で必ず出る論点を、法的要件と技術要件の接点として整理します。特に、日本の電子署名法、EUのeIDAS、国際モデル(UNCITRAL)を並べて、ビジネス現場が押さえるべきポイントを実務に落とします。

この記事でわかること
・電子COが受け入れられない典型理由と、監査で問われる構造
・PKI署名が担保できること、担保できないこと
・日本、EU、国際モデルに共通する「署名の要件」を実務用に分解する方法
・輸出者側で整備すべき監査証跡チェックリスト
目次
- 電子COで何が変わったのか
- 監査が見る論点は4つに集約できる
- PKI署名の役割:できること、できないこと
- 法的要件の整理:日本、EU、UNCITRAL
- 電子CO監査に強い運用設計
- よくある落とし穴
- すぐ使えるチェックリスト
- まとめ
1. 電子COで何が変わったのか
電子COは、申請から発給、提示までの流れがデジタル化されたCOです。ここでの本質は、PDFで届くことではありません。真正性と完全性を、第三者が後から検証できることです。
WCOが公表した電子COのデジタル化に関する調査では、相手国で電子COが受け入れられない理由として、デジタル署名がない、署名を検証できない、必須データ要素が不足している、協定が電子的交換を前提にしていない、などが例示されています。電子COの議論は、最初から監査と検証の話を含んでいる、ということです。
2. 監査が見る論点は4つに集約できる
電子CO監査の質問は多岐に見えますが、実は次の4つに収れんします。
2-1. 真正性
そのCOは権限ある発給者が発給したものか。なりすましではないか。
2-2. 完全性
発給後に内容が変わっていないか。改ざんは検知できるか。
2-3. 否認防止
誰が、どの権限で、いつ承認したか。後から否認できない形になっているか。
2-4. 追跡可能性と証跡
申請、審査、承認、発給、訂正、取消、再発給まで、説明できるログが一貫しているか。
この4点を満たす設計に、技術としてのPKI署名が直結します。
3. PKI署名の役割:できること、できないこと
EUの公式FAQでも、法概念としての電子署名と、暗号学的なデジタル署名は区別されます。実務で電子COの「検証」を成立させるには、PKIを用いたデジタル署名が中核になりやすい、と整理されています。 (European Commission)
3-1. PKI署名でできること
・完全性:署名後の変更が検知できる
・真正性の強化:証明書チェーンと鍵管理が適切なら、発給主体の推認が強くなる
・第三者検証:受領側が公開鍵で独立に検証できる
3-2. PKI署名でもできないこと
・内容の真実性そのもの:署名が付いていても、原産性の中身が真実かは別問題
・受入れの保証:相手国の制度や協定、運用が整っていないと拒否され得る
4. 法的要件の整理:日本、EU、UNCITRAL
制度が違っても、署名が満たすべき機能は似ています。ここでは、条文の表現差を、実務で使える要件に翻訳します。
4-1. 日本:電子署名法が軸にする2要件と推定効果
日本の電子署名法は、電子署名を次の2要件で定義します。
・作成者を示す措置であること
・改変の有無を確認できる措置であること (日本法令外国語訳データベース)
さらに、本人が必要な符号や物件を適切に管理して行った電子署名が付された電磁的記録は、真正に成立したものと推定される、としています。ここは監査対応の核心で、鍵管理と権限管理が弱いと、推定の前提が揺らぎます。 (日本法令外国語訳データベース)
実務翻訳
・誰の署名かを特定できる
・改ざんを検知できる
・鍵の管理と権限設計が監査の主戦場になる
4-2. EU:eIDASは「証拠能力」と「レベル設計」で整理する
eIDASでは、電子署名は電子であることや、適格署名でないことだけを理由に、法的効果や証拠としての採用可能性を否定されない、と定めています。加えて、適格電子署名は手書き署名と同等の法的効果を持ちます。 (EUR-Lex)
さらに実務で重要なのが、発給主体が組織である場合の考え方です。欧州委員会の公式FAQは、自然人の署名に加え、法人の文書の出所と完全性を示す電子シールの概念を整理しています。 (European Commission)
実務翻訳
・受領側は、署名のレベルと検証可能性を見て判断する
・発給者が組織の場合、署名かシールかの設計が論点になる
・PKIを使うことで、改ざん検知と検証可能性の要件を満たしやすい (European Commission)
補足:長期検証
同FAQは、電子タイムスタンプの意味や、将来の検証に耐えるための長期検証(LTV)を説明しています。電子COでも、監査が数年後に来る前提なら、発給時点の検証材料を残す設計が重要になります。 (European Commission)
4-3. 国際モデル:UNCITRALは「信頼性」を分解して説明できる
UNCITRALモデル法は、電子署名が署名要件を満たすかを、状況に応じた信頼性として整理します。具体的には、署名作成データが署名者に紐づくこと、署名時に署名者の管理下にあること、変更が検知できること、といった要素です。 (国際貿易法連合 الأمم المتحدة )
実務翻訳
・国が違っても通じる説明軸として、監査や取引先説明に強い
・署名要件を機能要件として文書化し、社内統制に落とし込める
5. 電子CO監査に強い運用設計
ここからは輸出者の立場で、監査に強い設計を具体化します。
5-1. 受領側が自力で検証できる導線を用意する
電子COは、検証できて初めて価値が出ます。ICCはCOの真正性確認のためのオンライン検証プラットフォームを提供しており、検証導線の整備が国際実務の一部になっています。 (ICC – International Chamber of Commerce)
実務の要点
・検証方法が相手国税関、銀行、取引先で再現できるか
・検証に必要な情報がCO上に揃っているか(番号、QR、検証ページ等)
・検証結果を保存できる運用になっているか
5-2. 鍵管理と権限管理を監査項目として設計する
日本法の推定効果は、本人管理が前提です。EUでも上位レベルでは、署名者のコントロールと改ざん検知が要件になります。 (European Commission)
実務の要点
・申請者と承認者の分離
・発給権限の付与、変更、停止の記録
・署名鍵の保管方法(HSM等の利用有無を含む)
・失効や更新があった場合の追跡
5-3. セキュリティ運用の基準線を持つ
信頼サービスの領域では、ETSIがTSPの運用と管理の一般要求事項を整理し、セキュリティ管理とサイバーセキュリティの一般要求に触れています。電子COの外部サービスを使う場合、こうした基準線を参照しながら、委託先の統制水準を点検すると説明しやすくなります。 (ETSI)
6. よくある落とし穴
落とし穴1:PDFで届いたから安心
WCOの調査が示す通り、署名がない、検証できない、データが欠けている、という理由だけで受け入れられないことがあります。PDFであることと、検証可能であることは別です。
落とし穴2:スキャンや画像化で証拠力が落ちる
検証の軸は原本ファイルです。スキャンや画像化は、検証可能性を落としやすい設計です。
落とし穴3:長期検証を考えず、数年後に検証不能になる
証明書の失効や期限切れが起きると、発給時点で正しかったことを後から示しにくくなります。タイムスタンプや長期検証の考え方を、保存設計に取り込むのが安全です。 (European Commission)
7. すぐ使えるチェックリスト
取引前
・相手国で電子COが受け入れられる条件を確認(制度、協定、運用)
・相手が検証できる方法を確認(検証サイト、手順、必要情報) (ICC – International Chamber of Commerce)
発給から受領まで
・申請データと裏付け資料(原産根拠)の紐づけを維持
・承認権限の分離とログ整備
・訂正、取消、再発給のルールと証跡を統一
受領後の保全
・原本ファイルを改変不能な形で保管
・検証結果を保存(検証日時、結果、証明書情報の要点)
・長期検証を前提に、タイムスタンプや検証材料の保存方針を決める (European Commission)
委託先や外部サービス利用時
・鍵管理、権限管理、セキュリティ運用の説明資料を入手
・一般要求事項の基準線を参照し、監査で説明できる状態にする (ETSI)
8. まとめ
電子COの実務で問われるのは、原産性だけではなく、文書の真正性と完全性を検証できること、そして説明可能な監査証跡が残っていることです。
WCOが挙げる不受理理由は、まさにそこを突いています。
日本は作成者の特定と改ざん検知を定義に据え、適切な鍵管理を前提に推定効果を与えます。 (日本法令外国語訳データベース)
EUはeIDASで証拠能力とレベル設計を整理し、組織発給の観点では電子シールの概念も押さえる必要があります。 (EUR-Lex)
国際的な説明にはUNCITRALの要件分解が有効です。 (国際貿易法連合 الأمم المتحدة )
現場の最短アクションは、検証導線の整備、鍵と権限の統制、原本と検証結果の保存。この3点を手順書に埋め込むことです。
注
本稿は一般情報です。実務適用は、対象国の法令、協定、当局運用、発給機関ルールにより変わります。重要案件は法務と通関実務での確認を推奨します。
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