**IEEPA関税(イーパかんぜい)とは、米国の「国際緊急経済権限法(IEEPA: International Emergency Economic Powers Act)」**に基づき、大統領が国家非常事態を宣言した上で発動する関税のことです。
通常、関税の権限は議会にありますが、この法律を利用することで、大統領が議会の承認を経ずに迅速かつ広範に関税を課すことが可能となります。特に、第2次トランプ政権(2025年〜)において、**「一律関税(ベースライン関税)」や「相互関税」**の法的根拠として全面的に使用されたことで注目されています。
以下に、その仕組みと現状(2025年12月現在)について分かりやすく解説します。
1. IEEPA関税の仕組み
通常の通商法(通商拡大法232条や通商法301条)とは異なり、IEEPAは「安全保障・外交・経済に対する異例かつ重大な脅威」への対処を目的としています。
- 非常事態宣言: 大統領が国家非常事態法(NEA)に基づき、「貿易赤字」「薬物流入(フェンタニル)」「不法移民」などを国家の脅威として宣言します。
- 権限行使: 非常事態への対抗措置として、IEEPAを発動し、対象国との金融取引やモノの移動(輸入)を「規制(Regulate)」します。
- 関税発動: この「規制」権限の解釈を拡大し、輸入品に対して追加関税を課します。
2. 現在の状況(2025年12月時点)
トランプ政権は2025年4月以降、このIEEPAを根拠に以下の関税措置を発動・強化しており、世界経済に大きな影響を与えています。
- 一律関税(Universal Baseline Tariff):
- すべての輸入品に対して**一律10%**の追加関税を課す措置(2025年4月発動)。
- 根拠:恒常的な貿易赤字が米国の安全保障を脅かすという理屈。
- 対中・対特定国関税:
- 中国: 追加関税率を引き上げ(一部品目は60%〜100%超)。
- メキシコ・カナダ: フェンタニルや不法移民対策が進まない場合、25%〜100%の関税を課すと警告・発動。
- 相互関税(Reciprocal Tariff):
- 相手国の関税率が米国より高い場合、同等の税率まで引き上げる措置。
3. 通常の関税との違い
| 特徴 | IEEPA関税 | 通商法301条 / 232条 |
| 発動権限 | 大統領(非常事態宣言が必須) | USTR(通商代表部)や商務省の調査に基づく |
| 対象範囲 | 全品目・全輸入国に適用可能 | 特定の不公正貿易や、特定の品目(鉄鋼など) |
| スピード | 即時発動が可能(調査期間が不要) | 調査・勧告に時間がかかる |
| 目的 | 経済制裁、外交交渉の圧力 | 不公正慣行の是正、国内産業保護 |
4. 論点とリスク
現在、この手法には法的な議論が集中しています。
- 法的妥当性(最高裁で係争中):IEEPAは本来、敵対国への「資産凍結」や「輸出入禁止」を想定した法律であり、「関税(Tariff)」を課す権限が含まれるかは条文上明記されていません。2025年11月には連邦最高裁で口頭弁論が行われ、政権側の「規制(Regulate)には関税も含まれる」という解釈が認められるかどうかが最大の焦点となっています。
- 報復合戦:各国(中国、EU、カナダ等)が報復関税を発動しており、コスト増によるインフレやサプライチェーンの分断が懸念されています。
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック