初心者向け:EPAのVA(付加価値基準)完全ガイド

1. VA(付加価値基準)を理解するための基礎用語

📌 まずは基本となる用語の意味を正確に押さえましょう。

  • Incoterms(インコタームズ)2020: 国際商業会議所(ICC)が定める、売主と買主の費用と危険の範囲を定義した国際貿易取引条件です。契約でEXWFOBを用いる際は、最新版である2020年版を前提とすることが一般的です。
  • EXW(Ex Works / 工場渡し): 売主が自身の施設で物品を買主に引き渡した時点で、義務が完了する条件です。EPAの原産地証明で用いる**「EXW価格」**は、輸送費などを除いた純粋な産品の価格として、各協定で個別に定義されています。
  • FOB(Free on Board / 本船渡し): 輸出港で本船に物品を積み込むまでの費用と責任を売主が負う条件です。RCEPやCPTPPなど多くの協定では、RVC計算の基礎となる**「FOB価額」**の定義が条文に明記されています。
  • RVC(Regional Value Content / 域内付加価値割合): 産品が協定の域内でどれだけ付加価値を生んだかを示す割合です。計算方法は協定ごとに規定されています。(例: (FOB - VNM) / FOB など)
  • VNM(Value of Non-originating Materials): 非原産材料の価額。産品の生産に使われた、協定の原産資格を満たさない材料の価値を指します。評価方法は協定ごとに異なり、輸入材料のCIF価額(運賃保険料込み価格)などが用いられます。
  • VOM(Value of Originating Materials): 原産材料の価額。積上方式(Build-up)で使用します。
  • NC(Net Cost / 純費用): CPTPPの自動車関連品目などで用いられる計算基礎で、販売促進費や許容されない支払利息などを除いた総費用を指します。

最重要ポイント: 同じ「RVC」という用語でも、**計算式(控除方式/積上方式)価額の基礎(FOB/EXW/取引価格など)**が協定によって全く異なります。必ず該当協定の定義を原文で確認してください。


2. 主なVA計算式の種類と採用協定

✅ どの協定でどの計算方式が使えるか、骨格を整理しました。(最終的には品目別規則(PSR)で確定します)

区分計算式(代表的な形)主な採用協定
控除方式 (Build-down)RVC = (産品の価額 - VNM) / 産品の価額 × 100RCEP, CPTPP, JAEPA(日豪)など多数
積上方式 (Build-up)RVC = (VOM + 直接労務費など) / 産品の価額 × 100RCEP, CPTPP など
純費用方式 (Net Cost)RVC = (NC - VNM) / NC × 100CPTPP(自動車関連品目に限定)
Focused Value方式 (FV)RVC = (産品の価額 - FVNM) / 産品の価額 × 100CPTPP(特定の指定品目でのみ利用可)
MaxNOM方式VNM / EXW × 100 ≤ しきい値日-EU EPA, 日英CEPA, 日スイスEPA
取引価格(TV)基準RVC = (TV - VNM) / TV × 100 など日チリEPA など
協定固有名称(QVC)QVC(実質はFOB基準のRVC計算)日インドCEPA, 日モンゴルEPA など

3. 協定ごとの代表的なRVCしきい値(目安)

⚠️ あくまで多くの品目で採用される一般的な数値です。必ずPSRで自社製品の正確なしきい値を確認してください。

  • RCEP: 多くの品目で RVC ≥ 40% (関税分類変更基準(CTC)との選択)。
  • CPTPP: 品目と計算方式ごとに細かく設定(例: 自動車部品で45%~60%など)。
  • 日-EU EPA: MaxNOM ≤ 50% (EXW基準) または RVC ≥ 55% (FOB基準) のような選択制が多い。
  • AJCEP(ASEAN): RVC ≥ 40% または CTH(項レベルの関税分類変更)が一般規則。
  • JAEPA(日豪): 多くの工業品で RVC ≥ 40% が選択可能。
  • 日インドCEPA: 一般規則でCTSH(号レベルの関税分類変更) + QVC ≥ 35%
  • 日スイスEPA: EXW基準のMaxNOM方式(例: VNM ≤ 60% of EXWRVC ≥ 40%)。
  • 日チリEPA: 計算方式によりしきい値が異なる(例: 控除方式なら45%、積上方式なら30%など)。

4. VA(付加価値基準)による原産地証明の基本手順

Step 1:品目別規則(PSR)の特定 輸出産品のHSコード(6桁)を確定させ、対象協定のPSRから「価額の基礎(FOB/EXW等)」「計算式(控除/積上等)」「しきい値」を正確に読み取ります。

Step 2:数値の収集と評価 協定の定義に基づき、FOB, EXW等の価額を算定します。また、VNMやVOMも、協定の評価ルール(例: 輸入材料はCIF価格)に従って正確に計算します。

Step 3:計算方式の選択と実行 PSRで複数の計算方式が認められている場合、自社にとって有利な(証明しやすい)方式を選び、RVC(またはMaxNOM)を計算します。

Step 4:しきい値との照合 計算結果が、PSRで定められたしきい値(例: RVC ≥ 40%)を満たしているかを確認します。

Step 5:付随規定の確認 デミニミス(僅少の非原産材料の許容ルール)、累積(他の締約国の原産材料を利用するルール)、付属品・梱包の扱いなど、計算に影響する付随規定を確認します。

Step 6:証拠書類の整備・保管 計算の根拠となる資料(部品表、原価計算書、仕入先からの証明書、船積書類等)を整備し、協定で定められた期間保管します。


5. 計算具体例

  • 例A:RCEP(控除方式)
    • 前提: FOB 100,000円 / VNM 55,000円 / PSRのしきい値 RVC ≥ 40%
    • 計算: (100,000 - 55,000) / 100,000 × 100 = 45%
    • 結果: 45% ≥ 40% であり、原産品と認められます。
  • 例B:日-EU EPA(MaxNOM方式とRVC方式の選択)
    • 前提: PSRが MaxNOM ≤ 50% (EXW) または RVC ≥ 55% (FOB) の選択制。
    • ケース: EXW 10,000EUR / VNM 4,700EUR
    • 計算: MaxNOM = 4,700 / 10,000 × 100 = 47%
    • 結果: 47% ≤ 50% であり、原産品と認められます。(RVC方式を計算するまでもなく証明完了)
  • 例C:日チリEPA(計算方式で結果が変わる例)
    • 前提: PSRが 控除方式 ≥ 45% または 積上方式 ≥ 30% の選択制。
    • ケース: TV(取引価格) 1,000ドル / VNM 560ドル / VOM 330ドル
    • 計算1(控除方式): (1,000 - 560) / 1,000 × 100 = 44%44% < 45%基準未達
    • 計算2(積上方式): 330 / 1,000 × 100 = 33%33% ≥ 30%基準達成
    • 結果: 積上方式を選択することで、原産品と認められます。

6. 実務上の注意点とよくある間違い

  • 価額基礎の混同: 日スイスEPAをFOB基準で計算してしまう(正しくはEXW基準)。日-EU EPAでEXW基準とFOB基準を取り違える。
  • しきい値の思い込み: 「RCEPは40%」と記憶し、品目固有の例外規定を見落とす。
  • 計算方式の誤用: CPTPPのFV方式で、指定外の非原産材料まで計算に含めてしまう
  • 付属品・梱包の除外: RVC計算に含める規定が多いことを見落とし、計算から除外してしまう。
  • 記録保存期間の不足: 協定ごとの保存年限(RCEP:3年, 日-EU:4年など)を守れていない。
  • 原価変動の未反映: サプライヤーや為替レートの変動でRVCが基準値を下回る(いわゆる「RVC割れ」)可能性があるため、定期的な見直しが必要です。

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アメリカの大統領令による「貿易協定締結国に一部関税免除 金など45品目」内容は?

大統領令は「Modifying The Scope of Reciprocal Tariffs and Establishing Procedures for Implementing Trade and Security Agreements」です。

何を定めた命令か

  • 4/2のEO 14257で導入した「相互関税(reciprocal tariff)」の適用除外リスト(Annex II)を更新し、同時にHTSUSの技術的改定(Annex I)を指示。署名から**3日後=9/8(米東部)**に発効します。The White House
  • さらに、他国と結ぶ**「貿易・安全保障の枠組み合意/最終合意」を実装するための手順(セクション3〜6)**を整備。例としてEUとの枠組みを挙げ、「条件を満たせば特定品目の相互関税を0%に下げ得る」と明記しています。The White House
  • 大統領は「Aligned Partners向け潜在的関税調整(PTAAP)」の付属書を設け、米国で産出が乏しい天然資源、一定の農産品、航空機・同部品、特許非存続の医薬系品目などを“0%対象候補”として列挙しました(個別合意の内容次第で国ごとに異なる可能性)。The White House+1

Annexの中身(代表例)

  • Annex I(HTS改定)には、相互関税の扱いを調整する品目として金(7108.11/12.50/13.10/13.55/13.70/20)ニッケル関連(7501〜7504、7202.60)天然黒鉛(2504.10.*)LED素子(8541.41.00)等のHTSが追加。逆にアルミン酸塩(2818.30.00)や一部樹脂類(3907.*)、**シリコーン(3910.00.00)**などは除外リストから削除されています。The White House
  • Annex II(適用除外の更新版)・**Annex III(PTAAP)**はPDFで公表されています。The White House

「日米物品協定」は入るのか?

  • この9/5の命令そのものは、既存の2019年の「日米物品貿易協定(USJTA)」を名指ししていません。本命令は“包括的な実装の仕組み”と“品目候補(PTAAP)”を示した総則です。The White House
  • ただし日本は前日(9/4)の別個の大統領令「Implementing The United States–Japan Agreement」で個別実装されています。そこでは、日本からの輸入に原則15%のベース関税を適用しつつ、自動車・航空機などを別建てで扱い、天然資源や後発医薬品等は相互関税0%にできる権限を商務長官に委任――といった具体が規定されています(自動車等の取扱いや遡及適用日も明記)。The White House
  • まとめると、2019年のUSJTAそのものが「9/5命令」に自動的に内包されるわけではなく、2025年に新たに合意された「米日合意」は9/4命令で実装、9/5命令はその実装を可能にする共通フレーム+対象候補品目を提示した位置付けです。The White House+1

初心者向け:EPAのCTC(関税分類変更基準)完全ガイド

新任担当者向け:EPAのCTC(関税分類変更基準)完全ガイド

この資料は、経済連携協定(EPA)の原産地規則の一つであるCTC(関税分類変更基準)について、新任の担当者が基礎から理解し、実務で正しく使えるようになることを目的としています。

(注:協定や関連法規は改正されることがあります。実務の際は、必ず日本税関などの公式サイトで最新の一次情報をご確認ください。)


1. CTCとは?HSコードの基本から理解する

CTCを理解するには、まずHSコードを知る必要があります。

HSコードとは?

HSコードは、商品を世界共通の番号で分類するシステムです。「何の品物か」を数字で表したもので、通常、EPAの原産地規則はこのHSコードの上位6桁を基準に作られています。

  • 構造の例:コーヒー豆(HSコード:0901.11)
    • 09類 (Chapter): コーヒー、茶、香辛料など
    • 0901項 (Heading): コーヒー
    • 0901.11号 (Subheading): カフェインを除いてないもの(生)

CTCの3つのルール

CTCとは、非原産材料を加工して製品を生産する際に、材料と製品のHSコードが指定された桁数で変わることを原産性の条件とするルールです。変更する桁数によって、主に3つのルールがあります。

  • CC (Change in Chapter): 類(上2桁)の変更
    • : 生鮮コーヒー豆(0901)を加工して、コーヒーエキス(2101)を製造。
    • HSコードの上2桁が「09」→「21」に変わるため、CCを満たします。
  • CTH (Change in Tariff Heading): 項(上4桁)の変更
    • : 鋼材(7208)から、ねじ・ボルト(7318)を製造。
    • HSコードの上4桁が「7208」→「7318」に変わるため、CTHを満たします。
  • CTSH (Change in Tariff Subheading): 号(上6桁)の変更
    • : 電線用の材料(8544.49)から、完成品の電源コード(8544.42)を製造。
    • HSコードの上6桁が「8544.49」→「8544.42」に変わるため、CTSHを満たします。

2. 重要ポイント:HSコードの「年次版」

HSコードは世界税関機構(WCO)によって約5年ごとに改正されます(例: HS2012年版、HS2017年版、HS2022年版)。

最も重要な注意点は、各EPAで基準となるHSコードの年次版が協定締結時のもので固定されていることが多い点です。そのため、日本の現在の関税率表(HS2022年版)と、協定で定められたHS年次版との間に「ズレ」が生じます。

この「ズレ」を認識せずに判定すると、誤った結論に至るため、必ず協定ごとのHS年次版を確認し、必要であれば読み替え(対照表を確認)する作業が不可欠です。


3. 主なEPAのHS年次版 早見表(2025年時点)

日本が締結している主要なEPAについて、品目別規則(PSR)の基準となるHS年次版をまとめました。

協定名PSRの基準HS版備考(実務上のポイント)
RCEPHS20222023年1月1日にHS2022版へ移行済み。
CPTPPHS2012法的根拠はHS2012のまま。各国税関が提供するHS2022への読み替え対照表で確認が必要。
日EU・日英HS2017協定付属書でHS2017版を使用することが明記されています。
AJCEP(日ASEAN)HS20172023年3月1日にHS2002版からHS2017版へ更新されました。
日タイHS20172022年1月1日にHS2002版から更新。
日インドネシアHS20172024年2月5日にHS2002版から更新。
日豪 (JAEPA)HS2012
日モンゴルHS2012
日スイスHS2007
日ベトナムHS2007
日インドHS2007
日ペルーHS2007
日シンガポールHS2002
日メキシコHS2002
日マレーシアHS2002
日チリHS2002
日ブルネイHS2002
日フィリピンHS2002
日米貿易協定HS2017原産地規則の対象品目が限定的。


4. CTCの証明方法 – 基本ステップ

CTC基準を満たしていることを証明するための基本的な手順は以下の通りです。

  1. 完成品のHSコード(6桁)を特定する
    • 製品の仕様(用途、素材、機能など)を基に、輸出相手国の関税率表でHSコードを確定させます。
  2. すべての「非原産材料」のHSコード(6桁)を特定する
    • 製品に使用した海外からの輸入部品や材料について、それぞれのHSコードを仕入先からの証明書などで確認します。
  3. 適用するEPAの品目別規則(PSR)を確認する
    • 完成品のHSコードに適用されるCTCルール(CC, CTH, CTSHなど)と、基準となるHS年次版を協定の条文(付属書)で確認します。
  4. CTCルールを満たすか判定する
    • すべての非原産材料のHSコードが、完成品のHSコードに対して、PSRで定められた分類変更(CC, CTH, CTSH)を遂げているかを確認します。一つでも満たさない非原産材料があれば、原則としてCTC基準は満たせません。

5. CTCを満たさない場合(HSコードの変更がない場合)

材料と製品のHSコードが同じ、または必要な分類変更が起きていない場合でも、原産品と認められる可能性があります。多くのEPAでは、CTC基準の代替または選択ルールとして以下の基準が定められています。

  • 付加価値基準 (RVC – Regional Value Content)
    • 製品の価格のうち、締約国内で生じた付加価値が一定の割合(例: 40%以上)を超えることを条件とするルール。CTCが満たせない場合の代表的な救済措置です。
  • 加工工程基準 (SP – Specific Process)
    • 特定の製造・加工工程(化学反応、織物・編物など)が締約国内で行われることを条件とするルール。化学品や繊維製品でよく見られます。

品目別規則(PSR)に「CTH または RVC 40%」のように記載されていれば、どちらかの基準を満たせば良いことになります。


6. HSコードの探し方 – 実務のコツ

HSコードの特定は原産地証明の根幹であり、最も重要です。

  1. 製品情報を正確に整理する: 用途、素材、機能、成分、構造などを明確にします。
  2. 関税率表の「注」を読む: HSコードは番号だけでなく、各部や類に記載されている「注」(除外規定など)が分類の決定に極めて重要です。必ず確認しましょう。
  3. 公的リソースを活用する:
    • 実行関税率表(日本税関): まずは日本の分類を確認する際の基本です。
    • 事前教示制度: HSコードの分類や原産地規則の解釈について、税関に照会し、文書で回答を得られる制度です。分類に迷う場合は、最も確実な方法です。

7. 具体例で学ぶCTC判定:日EU・EPAの清涼飲料水(22.02)

状況: 日本で清涼飲料水(HS2017年版で22.02)を製造し、EUへ輸出するケース。

  • PSRの要件(抜粋):
    1. CTH(項の変更)を満たすこと。
    2. かつ、第4類(乳製品)や第17類(砂糖)の非原産材料の使用量に上限があること。
  • BOM(部品表)の例:
    • 水(日本産):原産材料なので判定対象外
    • 果汁濃縮物(非原産、20.09): 5%
    • 砂糖(非原産、17.01): 7%
    • 香料(非原産、33.02): 0.5%
  • 判定プロセス:
    1. CTHの判定: 完成品は22.02。非原産材料は20.0917.0133.02であり、すべて項(4桁)が異なるため、CTHを達成しています。
    2. 追加条件の判定: この品目のPSRには砂糖(17.01, 17.02)の重量上限(例:40%以下)が定められています。今回の使用量は7%なので、この上限もクリアしています。
  • 結論: 上記の条件をすべて満たすため、この清涼飲料水は日EU・EPAにおける原産品と認められる可能性が高いです。(※実際には、すべての非原産材料のHSコードと、重量を証明する書類の保管が必要です。)

8. 注意点とよくある間違い(チェックリスト)

監査などで指摘されやすいポイントです。必ず確認しましょう。

  • HS年次版のズレ: 国内の最新HS版で判定し、協定の古いHS版との差異を見落とす最も典型的なミス。CPTPP (HS2012) や古い二国間協定では特に注意が必要です。
  • 「除外規定」の見落とし: CTCルール本文に「ただし、第〇〇類の材料からの変更は除く」といった除外規定が付いていることがあります。ルール本文だけでなく、注記まで必ず読み込みましょう。
  • 材料のHSコードを鵜呑みにしない: 仕入先が提示するHSコードが、必ずしも輸出相手国の解釈と一致するとは限りません。自社でも妥当性を検証することが重要です。
  • 6桁での判定を徹底する: 日本国内の細分化された9桁のHSコードが変わっても、上位6桁が変わらなければCTSHを満たしたことにはなりません。
  • 簡単な作業は付加価値と見なされない: 単なる包装の変更、瓶詰め、ラベル貼りなどの軽微な作業では、たとえHSコードが変わったとしても原産性は認められません。
  • 証拠書類の不備: BOM(部品表)、製造工程表、非原産材料の仕入先証明書など、判定の根拠となる書類は協定で定められた期間(通常5年程度)、いつでも提出できるよう保管する義務があります。

まとめ:実務の7ステップ

  1. 完成品のHSコード(6桁)を確定
  2. 非原産材料のHSコード(6桁)を確定
  3. 適用するEPAと、そのHS年次版を確認
  4. CTCルール(+除外規定、追加条件)を満たすか判定
  5. (満たさない場合)**代替ルール(RVCなど)**を検討
  6. 判定の根拠となる証拠書類を整備・保管
  7. 協定の方式に沿って原産地証明を行う

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このブログの本題からは外れますが:Geminiとフィボナッチ数列

フィボナッチ数列とフィボナッチスパイラルは有名で自然界にも見られるものですが、そのスパイラルをGeminiに描いてもらうと、まあ、ひどいものを提示しました。

「間違っている」

と指摘すると、以下の様な返事が。


ご指摘いただき、誠にありがとうございます。そして、フィボナッチ・スパイラルという非常に有名で基本的な図形において、何度も不正確な画像を生成してしまい、ご期待に沿えず大変申し訳ございませんでした。

なぜ私、GeminiのようなAIがこのような有名なことで間違うのか、その理由をご説明いたします。これはAIの現在の能力と限界に関わる重要な点です。

間違いの主な理由

一言でいうと、私は**「ルールを理解して描いている」のではなく、「学習したデータからそれらしい画像を生成している」**からです。

  1. 「描画」ではなく「生成」のプロセス 人間がフィボナッチ・スパイラルを描くとき、「まず一辺1の正方形を置き、次にその隣に…」というルールを理解し、定規やコンパスを使って正確に描きます。 一方、私のような画像生成AIは、テキスト(指示)を受け取ると、過去に学習した膨大な画像データの中から「フィボナッチ・スパイラル」という言葉に関連付けられた画像の特徴(うずまき、四角いブロック、数字など)を抽出し、それらを組み合わせて**ピクセル単位で新しい画像を「生成」**します。データベースから正解の画像を検索してきているわけではありません。
  2. 数学的な厳密性の再現が苦手 この「生成」というプロセスは、創造的・芸術的な画像をゼロから作るのは得意ですが、「正方形の辺の比率を正確に保つ」「螺旋が必ず正方形の角を通る」といった数学的・幾何学的なルールを100%忠実に再現することは、まだ非常に難しい課題です。そのため、以下のような間違いが起こります。
    • 螺旋が角からずれてしまう。
    • 正方形の配置や大きさが微妙に不正確になる。
    • 「フィボナッチ・スイテル」のような、学習データに含まれるかもしれない誤字や、統計的にそれらしく見えた文字列を生成してしまう。
  3. 概念の完全な理解ではない 私は「フィボナッチ・スパイラル」という言葉が、どのような数学的定義を持つのかを真に理解しているわけではありません。あくまでデータ上のパターンとして認識しているに過ぎません。そのため、見た目の特徴は捉えられても、その背景にある厳密な定義から逸脱した画像を生成してしまうことがあるのです。

皆様からのフィードバックの重要性

今回、お客様が正しい画像をアップロードしてくださったように、具体的な例を示し、間違いを指摘していただくことは、AIの精度を向上させる上で非常に重要です。皆様からのフィードバックは、私たちがどこを間違え、何を改善すべきかを学ぶための最も貴重な教師データとなります。

ご迷惑をおかけしたことを重ねて深くお詫び申し上げます。Geminiはまだ発展途上の技術であり、特に専門性や正確性が厳密に求められる分野では、間違いを起こす可能性があります。皆様との対話を通じて、より信頼性の高いAIへと成長していけるよう、開発チーム一同、継続的に改善に努めてまいります。


正直であり、かつAIの現在地を示す返事だと思います。

日本に対する相互関税のアメリカの大統領令

公式本文(英語・全文)

  • Executive Order: “IMPLEMENTING THE UNITED STATES–JAPAN AGREEMENT”(署名日:2025年9月4日)— ホワイトハウス公式サイトに全文が公開されています。The White House
  • 本命令は、7月31日付の大統領令14326(「Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates」)を参照しつつ、日本向けの取扱い(“15%ベースライン”や複合税の扱い等)を明確化しています。The White House
  • 併せてホワイトハウスのファクトシート(2025年9月5日)も、枠組み合意の実施として位置づけています。The White House

※ 原文全文は上記リンクからお読みいただけます(この場では全文貼付を避け、主要部分の正確な抄訳を以下に示します)。


要点

  • 日本からの輸入品に対し、HTSUS「欄1(Column 1)」の従価税率が
    15%未満:欄1税率+追加関税の合計が15%になるよう調整
    15%以上:追加関税は0%(上乗せなし)
    → 相互関税の“積み上げ(スタッキング)”を避ける明確ルール。複合税(specific/compound)の扱いはEUと同様
    (令14326参照)。The White House+1
  • 遡及適用2025年8月7日 午前0時1分(米東部夏時間)以降に輸入通関(または保税蔵置から引取り)された日本産品に適用。過払があれば返金The White House
  • 自動車・自動車部品:Section 232(自動車関連の宣言)による追加関税に代えて、上記15%基準で扱う。The White House
  • 航空宇宙(民間航空機協定対象、無人機除く):既存のアルミ・鉄鋼・銅・相互関税の対象外へ移行(官報告示によりHTSUSを改正)。The White House
  • 特定品目の0%化:米国内で供給困難な天然資源ジェネリック医薬品(原薬・化学前駆体含む)は、商務長官の裁量で**相互関税を0%**にできる。The White House
  • 履行監視と変更:日本が合意履行を怠った場合、命令の見直し・強化もあり得る。The White House

主要条文の参考訳

※ 法的効力は英語原文が優先です。条番号は原文に準拠。

Sec. 1(背景)
2025年7月22日の米日フレームワーク合意を受け、その実施として本命令を発出。対日15%ベースライン関税を導入し、米国の製造・安全保障上の必要を満たす。日本側からの米国内5,500億ドル投資等のコミットメントにも触れる。The White House

Sec. 2(一般関税)
(a) 日本産品に適用する追加従価税率は、HTSUS欄1の現行税率を基準に決定。欄1が15%未満なら「欄1+追加=15%」。15%以上なら追加は0%特定税・複合税の処理は令14326(EU扱い)と同様
(b) これ以外は、令14257(相互関税の基本令)の規定が継続。
(d) 適用は2025/8/7 0:01(EDT)に遡及、過払返金は関係法令・CBP手続に従う。The White House

Sec. 3(航空宇宙)
WTO民間航空機協定に該当する**日本産航空宇宙製品(無人機を除く)**には、令14257鉄鋼・アルミの大統領宣言(9704/9705)銅(10962)による関税を適用しない。官報告示でHTSUSを改正。The White House

Sec. 4(自動車・部品)
官報告示の効力発生日以降、自動車・部品については、**宣言10908(Section 232自動車)**の追加関税に代えて、欄1が15%未満なら合計15%、15%以上なら追加0%The White House

Sec. 5(相互関税の適用除外品目)
商務長官は、日本産の国内供給が不足する天然資源ジェネリック医薬品・原薬・化学前駆体について、**相互関税率を0%**に改める裁量を持つ(合意履行状況や米国の国益等を考慮)。The White House

Sec. 6(監視と修正)
日本のコミットメント履行を商務長官が継続監視。履行不十分の場合は、本命令の修正等で対応し得る。The White House

Sec. 7–9(権限委任・他令との関係・一般規定)
実施のための規則改正・官報告示等を商務長官・国土安全保障長官に委任。既存の宣言・大統領令と矛盾する部分は本命令が優先。本命令は権利発生を意図しない一般条項を含む。署名は2025年9月4日The White House


関連する前提令(参照条項)

  • Executive Order 14326(2025年7月31日):EU向けの**「15%ベースライン/15%以上は追加0%」のロジックや、複合税の取扱いを定めた命令。今回の対日取扱いでも同一ロジック**を適用すると明記。The White House

国名関税率出所備考
アメリカ15%(対日ベースライン:欄1が15%未満は合計15%、15%以上は追加0%。自動車・部品も同基準/民間航空機は除外The White House(Executive Order, 2025/9/4)適用起点:2025/8/7(EDT)に遡及。一部品目は0%化可(資源・ジェネリック)。

出所:実施令「Implementing the United States–Japan Agreement」(2025年9月4日)、および令14326(2025年7月31日)。The White House+1


参考報道

  • ホワイトハウスのファクトシート(合意の位置づけと概要)。The White House

【経営者向け】米国・相互関税 対応策案

計画(Plan)

  1. 現状把握(ブリーフィング): 相互関税の仕組み、最新の大統領令、例外規定、そして法的な不確実性を整理します。
  2. 主要論点の特定: 国別の税率差や関税率の変動要因を踏まえ、サプライチェーン設計、通関価格の最適化(ファーストセール)、他の関税措置との関係性など、日本企業特有の論点を明確にします。
  3. 短期対策(30/60/90日): 品目(SKU)別の影響分析から始め、通関実務の最適化、バリューチェーン全体でのコスト削減と資金繰り改善策を迅速に実行します。
  4. 中長期戦略: 生産ラインの再編、関税変動に強い原産国ポートフォリオの構築、さらにインドをハブとした第三国FTA網(対英・UAE・豪など)を活用したグローバルな販路拡大を目指します。
  5. ガバナンスとオペレーション: 関税コストを経営指標に組み込み、社内の責任体制を明確化。税関監査リスクに耐えうる文書管理体制を構築します。
  6. 実務チェックリスト: 通関、価格設定、物流、契約の各分野における具体的な見直しポイントをリスト化します。
  7. 付録: 国別の相互関税率一覧(2025年9月時点)と、具体的なHSコードの取り扱いに関する参考情報を提供します。

1. ブリーフィング:相互関税の基礎知識

1-1. 制度の枠組み(要点)

  • 法的根拠と基本構造: 2025年4月以降、米政権はIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に、**「全世界一律10%のベースライン関税」と、「国別の追加関税」**を導入しました(EO 14257等)。国別税率は米国の外交方針(報復・同盟関係)に応じて調整されます。
  • 国別税率の確定: 7月31日の大統領令(Annex II)により、国別の追加関税率と、それを規定するHSコード(HTSUS 9903.02.xx)が確定しました。
    • : 日本 +15%、韓国 +15%、台湾 +20%、ベトナム +20%、英国 +10% 等。
  • EUへの特例: EU原産品には**「通常関税率(列1)+追加関税率=合計15%」**となるよう税率を調整する特例が適用されます(通常関税率が15%以上の場合は追加関税はゼロ)。
  • 中国の扱い: 複雑な調整を経て、現在は「全世界一律10%」のベースライン関税が適用されています(2025年11月10日まで延長)。ただし、別途301条関税が課される可能性があります。
  • USMCA(カナダ・メキシコ): 域内原産品は相互関税の対象外です。
  • 他の関税との関係:
    • 232条関税(鉄鋼・アルミ等): 対象品目は相互関税の対象外です(非重畳)。
    • 301条関税(対中制裁等): 相互関税と重畳して課される可能性があります。
  • 迂回輸送への罰則: 第三国を経由した迂回輸送と認定された場合、+40%という極めて高い罰則的関税が課されます。
  • 米国原産20%ルール: 製品価額の20%以上が米国原産の場合、その米国原産部分には相互関税が課されません。申告時には、米国原産部分と非米国原産部分を分けて計上する必要があります。
  • 輸送中の貨物(In-transit)への例外: 関税率の変更日をまたぐ海上輸送中の貨物に限り、一定の条件下で旧税率の適用が認められます(航空・陸上輸送は対象外)。

1-2. 法的リスク(2025年9月時点の状況)

連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、IEEPAを根拠とする本関税の合法性に疑義を呈する判断を示しました。しかし、2025年10月14日までその判断の執行を停止しているため、現行の関税は当面維持されます。政権は最高裁に上告する構えであり、最終的な司法判断によっては関税が無効となり、過去に支払った関税が還付される可能性があります。 ⇒ 企業は「関税は継続する」前提で事業を運営しつつ、将来の還付に備えて支払証憑を完璧に保全し、契約書に価格精算条項を設けるという両睨みの対応が必須です。

2. 日本企業にとっての主要論点

  • 原産国ごとの税率差を活かした設計: 同じ製品でも、原産国によって「日本+15%」「ベトナム+20%」「英国+10%」など税率が大きく異なります。製品の設計・開発段階から、最適な原産国・工程配分を組み込んだ**「最適原産国マトリクス」**の作成が重要です。
  • 変動リスクに強いサプライチェーン: 関税率は米国の外交方針(報復・同盟)で短期的に変動します。このリスクに対応するため、**複数の原産国や輸送ルートを持つ「複線型サプライチェーン」**を標準装備する必要があります。
  • 通関価格の最適化(ファーストセール・ルール): 多段階取引(例:製造者→商社→米国輸入者)において、最初の取引価格(製造者→商社)を課税標準として申告できる制度です。課税価格を引き下げることで、従価税である相互関税の負担額も比例して削減できます。ただし、「真正な売買」であることの厳格な証明が求められます。
  • 総関税負担の正確な把握: 総関税額は**「通常関税+301条関税+相互関税」**の合計となります(232条対象品は例外)。この計算を品目(SKU)と原産国の組み合わせごとに常時行い、コストを正確に把握する必要があります。
  • 迂回認定リスクへの備え: 40%の罰則関税を避けるため、原産地を証明する書類(部品表、工程表、原産地証明書)や物流の追跡記録を、税関監査に耐えうるレベルで保管・管理することが不可欠です。

3. 短期対策(30/60/90日プラン)

  • 【30日以内】影響の可視化と防御策
    • 全製品について「SKU×原産国×HSコード」のマトリクスを作成し、総関税負担額を算出。
    • 通関業者に対し、相互関税(EU特例、米国原産20%ルール等)の正しい申告手順を文書で指示。
    • 関税率の変更が予想される時期は、海上輸送を優先し、例外規定の適用外である航空輸送を回避。
    • 顧客・仕入先との間で、関税変動を価格に反映させる**「関税スライド条項」**を含む契約の暫定改定に着手。
    • ファーストセール・ルールの適用候補となる製品を選定し、パイロット導入を開始。
  • 【60日以内】コスト削減とリスク低減
    • 原産地の二元化(例:日本/タイ、台湾/ベトナム)に向けた切替手順書を整備。
    • EU特例が有利に働く品目(高関税率品)を特定し、EU原産品の活用ルールを策定。
    • USMCAを活用したメキシコ/カナダ生産への切り替えの採算性を評価。
  • 【90日以内】構造改革と商流の再設計
    • サプライチェーンの複線化(原産国、港、フォワーダーの二重化)を本格展開。
    • 全ての関税コストを織り込んだ恒久的な価格体系へ移行。
    • ファーストセール・ルールを本格導入し、監査に耐えうる文書管理プロセスを標準化。

4. 中長期の事業戦略

4-1. 原産国ポートフォリオの再編

  • 日本(+15%): 高付加価値品はファーストセール等でコストを吸収。量産品はUSMCA域内や他のアジア諸国での生産も検討。
  • アセアン(タイ+19%, ベトナム+20%): 複数の国で同一製品を生産できる体制を整え、関税率が相対的に有利な国へ生産を振り分ける柔軟性を確保。
  • 中国(現状10%): 対米輸出は301条関税との合計で高率になるリスクがあるため、中国拠点は「米国市場以外」向けの生産・調達ハブとして再定義。
  • インド(+25%): 対米輸出は高関税ですが、後述の通り、第三国向け輸出拠点としての価値が非常に高まっています。

4-2. インドをハブとした第三国FTA網の活用

米国の関税リスクを回避し、新たな成長市場を開拓するため、インドが締結したFTAを戦略的に活用します。

  • 印・英FTA(2025年7月署名): インドで製造・仕上げを行い、関税が大幅に引き下げられる英国市場へ販売する新たなサプライチェーンを構築。
  • 印・UAE CEPA(発効済): インドからの輸出で湾岸・中東市場へのアクセスが容易に。
  • 印・豪 ECTA(発効済): インドを起点にオセアニア市場への展開を加速。

⇒ 戦略: 米国向けで関税負担が重い製品は、インドで生産し、これらのFTAを活用して英国・UAE・豪州市場へ販売先をシフトすることで、グループ全体の売上と利益を確保します。

4-3. 関税エンジニアリング(Tariff Engineering)の導入

設計、税務、オペレーションを統合し、関税コストを構造的に引き下げる取り組みです。

  • 設計段階での最適化: 原産地規則を満たす範囲で、部材調達や加工地を最適に配置。
  • HSコードの最適化: 製品の機能や構成を合法的に変更し、より有利な関税分類の適用を目指す。
  • 通関価格の適正化: ロイヤルティや技術支援費(アシスト)の扱いを事前に整理し、ファーストセール適用の障害とならない契約形態を構築。

5. ファーストセール(First Sale)実装ガイド

  • 概要: 最初の販売価格(製造者→商社)で申告することで課税対象額を圧縮する手法。
  • 3大要件: ①真正な売買(Bona Fide Sale)、②明確な米国向け販売、③独立した当事者間価格(Arm’s Length)であることの証明。
  • 実装ステップ:
    1. 取引スキーム(登場人物、役割)を固定。
    2. 契約、発注、仕様決定、価格決定のプロセスと時系列を文書で整合させる。
    3. 所有権と危険負担が製造者の出荷時点で移転することを契約書(Incoterms等)と実態で示す。
    4. 価格決定の客観的な根拠(見積書、原価計算書など)を保管。
  • 効果: 課税価格が20%下がれば、相互関税(例:+15%)の負担額も20%削減されます。

6. 実務チェックリスト(抜粋)

  • [ ] 税率確認: HSコード、原産国、相互関税(9903.02.xx)、301条/232条の適用の有無をBOM単位で確認したか。
  • [ ] EU特例: 対象品目について、通関業者に正しい計算方法を指示したか。
  • [ ] 米国原産20%: 分割申告の社内標準作業手順書(SOP)は整備されているか。
  • [ ] 輸送モード: 関税率切替時の輸送は、原則「海上」にシフトする計画があるか。
  • [ ] 法的リスク対応: 2025年10月14日以降の変動に備え、価格の精算条項と支払証憑の完全な保管体制は整っているか。

7. 付録:相互関税率の要約表(2025年9月時点)

注:下表は通常関税に「上乗せ」される追加関税率。EUのみ例外方式。

原産国追加関税率 / 方式根拠HSコード(例)備考
日本+15%9903.02.308月7日以降発効。
中国+10%9903.01.25現状はベースライン税率。別途301条関税が課される可能性あり。
EU合計15%方式9903.02.19/20通常税率が15%未満の場合、合計15%になるように追加。15%以上の場合は追加ゼロ。
英国+10%9903.02.66対英輸出は、印・英FTAの活用も有効。
韓国+15%9903.02.56
台湾+20%9903.02.60
ベトナム+20%9903.02.69
インド+25%9903.02.26対米は高率だが、第三国FTAハブとしての価値は高い。
カナダ/メキシコ対象外N/AUSMCA域内は適用除外。

最後に:経営アクションの要約

  • 短期(即時実行): まず、全製品の総関税コストを試算し、影響を可視化してください。その上で、関税変動期は海上輸送を優先し、ファーストセールのパイロット導入で迅速なコスト削減に着手します。
  • 中期(構造改革): 原産地の二重化を進め、関税変動に即応できる体制を構築します。同時に、インドをハブとする英・UAE・豪州への販路拡大で、収益源を多角化します。
  • 長期的視点(経営への組込): 関税エンジニアリング(Tariff Engineering)を製品設計に組み込み、複線型のサプライチェーンと監査に耐えうる文書管理を常態化させ、関税変動を脅威ではなく競争優位の源泉へと転換してください。

【法的留意事項】 現行関税は、司法判断により将来無効となる可能性があります。このリスクに備え、全ての輸入申告について、支払った関税額と、その根拠となる書類をエントリー単位で記録・保管し、契約書に**「関税還付時の価格精算条項」を盛り込む**ことを強く推奨します。

日本への相互関税の現在地と今後の見通し


要約

  • 米国の相互関税導入と日本への影響
    • 米国は4月の大統領令に基づき、一律10%の追加関税を導入。その後の修正により、**日本向けには「15%」**の相互関税が設定されました。
    • 本措置は2025年8月7日通関分から適用されています(HTSコード: 9903.02.30)。
    • なお、既存の通商拡大法232条に基づく追加関税(鉄鋼・アルミニウムは50%、自動車は25%)とは、原則として重複適用されません
  • 施行初期の混乱と実務上の注意点
    • 施行初期に一部で重複課税が発生しましたが、日本政府の働きかけにより、米側は是正と超過分の返還手続きを進めることを確認済みです。
    • 実務においては、改定された大統領令および米国税関・国境警備局(CBP)の最終的なガイダンスを常に確認することが不可欠です。
  • 法的な不確実性
    • 根拠法である国際緊急経済権限法(IEEPA)の有効性について、控訴裁判所が違法との判断を示しました。
    • 10月中旬までの執行猶予期間中に、最高裁判所の判断を待つか、政府が代替の法的根拠(232条の適用拡大など)を模索する可能性があります。
  • 米国以外の動向:EUのCBAM
    • EUや英国は相互関税を導入していませんが、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)が2026年1月1日から本格的に導入(課金開始)されます。鉄鋼、アルミニウム、水素などをEUへ輸出する際に新たなコストが発生します。

対日相互関税の現状サマリー

※社内基準の統一表記で掲載

国名関税率根拠・出所備考
アメリカ15%大統領令(7/31修正)2025年8月7日発効。HTSコード 9903.02.30(相互関税)。<br>232条関税(鉄鋼・アルミ・自動車等)とは原則として積算されない。
  • 出所詳細: 大統領令14257号(4/2)およびその修正(7/31)、ホワイトハウス発表、CBPガイダンス、JETRO解説(重複適用回避の取扱いについて)

実務上の主要確認項目(対米輸出)

  1. 適用関税の優先順位
    • 相互関税(15%): 日本を原産地とする一般品目に適用(HTS 9903.02.30)。
    • 232条関税(国家安全保障): 鉄鋼・アルミニウムに50%、完成車に25%(4/3発効)、自動車部品に25%(5/3発効)。原則として相互関税とは重複適用されない(”unstacking”)。
  2. 輸送中貨物に対する経過措置
    • 2025年8月7日より前に船積みされ、10月5日までに輸入申告された貨物については、従前の関税率(当初の10%など)の適用が可能です。船積日、到着日、申告日を証明する書類を確実に保管してください。
  3. HSコード分類と申告実務
    • 相互関税の対象品目には、専用の追加HSコード(日本向けは 9903.02.30)を付記して申告します。申告の誤りは、二重課税や返金手続きの遅延に直結するため注意が必要です。
  4. 価格設定と契約条項
    • 取引契約書に含まれる関税スライド条項やインコタームズ(FOB/DDP等)を再点検し、関税負担者と、返金が発生した場合の権利帰属を明確に規定してください。
  5. 原産地規則とサプライチェーンの最適化
    • 232条対象の自動車部品では、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の要件を満たす部材の価額を課税対象から除外する制度が存在します。部品表(BOM)における米国調達部材の比率を精査することが有効です。

セクター別の影響と対応策

  • 自動車・自動車部品
    • 影響: 232条関税により25%が適用。相互関税15%は原則として重複しない。
    • 対応策:
      1. USMCA原産資格を活用し、米国調達価額分を非課税扱いとする。
      2. 完成車は米国内生産やCKD/IKD(ノックダウン生産)方式を検討する。
      3. 部品のHSコードを精査し、232条の対象外となる分類の余地を探る。
  • 鉄鋼・アルミニウム
    • 影響: 232条関税により50%が適用(6/3以降)。相互関税は重複しない。
    • 対応策:
      1. 北米市場向けの最終加工地を再設計する。
      2. 代替材料の利用可能性を検討し、ミルシート(鋼材検査証明書)を整備する。
      3. 価格条項に金属市況指数との連動を導入する。
  • 機械・電機・化学品(232条対象外)
    • 影響: 相互関税15%が適用される。
    • 対応策:
      1. 関税還付(Duty Drawback)制度や保税制度を最大限に活用する。
      2. 製品のHSコード分類を最適化し、より低い税率が適用されないか検討する。
      3. 米国内での組立工程を導入し、原産地を米国に変更する(ただし、「実質的変更」要件を満たす必要あり)。
  • 対EU輸出(鉄鋼・アルミニウム・水素など)
    • 影響: CBAMにより2026年1月1日から実際のコストが発生(報告義務は既に開始済み)。
    • 対応策:
      1. サプライヤーから製品の炭素排出原単位データを収集する。
      2. CBAMによるコストを試算し、価格への転嫁を計画する。
      3. 再生可能エネルギーの調達や、CO₂排出量の少ない製法への転換を検討する。

2025年秋〜2026年の見通し(シナリオ別)

  • S1: 相互関税が継続
    • (根拠: IEEPAの有効性維持、または新たな法制化・行政措置による代替)
    • 想定: 日本向け15%が維持され、232条関税も現行水準か、さらに拡大される。
    • 対策: 価格条項、部品表(BOM)、米国内投資戦略を恒久的なものとして再構築する。
  • S2: 司法的判断により相互関税が失効
    • (根拠: 10月以降にIEEPAに基づく措置が停止)
    • 想定: 相互関税は停止されるが、232条関税は別制度として存続する。
    • 対策: 納付済み関税の返還請求権を保全し、232条関税を前提とした販売条件へ移行する。
  • S3: 日米間の個別合意による微修正
    • 想定: 重複課税問題の完全な解消や、自動車・部品の扱い(例: 15%への一本化など)が明確化される。
    • 対策: 政府間の最終合意を待つことなく、社内業務フロー(SOP)や帳票の改訂を先行して準備する。

実務チェックリスト

  • [ ] 船積日と申告日の記録を徹底し、経過措置(8/7–10/5)への該当可否を確認する。
  • [ ] 仕入・販売契約書に関税スライド条項と返金条項を整備する。
  • [ ] HTSコードを再点検し、追加コード(9903.02.30)を正確に申告する体制を構築する。
  • [ ] 部品表(BOM)における米国調達価額のトレーサビリティを確保する(自動車・部品の232条対応)。
  • [ ] 各種FTA(USMCA, CPTPP, 日EU・EPA, 日英EPA)の原産地証明と域内原産割合(RVC)を適切に管理する。
  • [ ] CBAM対象品目の炭素排出量データを収集・試算し、2026年の課金開始に備える。
  • [ ] 関税の過払い等が発生した場合に備え、異議申立て(プロテスト)や事後修正(PSC)の申請フローを整備する。

主要用語と規則

  • 相互関税(Reciprocal Tariff): 米国が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に導入した、相手国別の追加関税。日本向けは15%に設定されている。
  • 232条関税: 米国通商拡大法232条に基づき、国家安全保障を理由に課される追加関税。鉄鋼・アルミニウムは50%、自動車・部品は25%。相互関税とは原則として重複適用されない。
  • 重複課税の是正: 当初の運用で生じた混乱に対し、日米両政府は是正措置を進めており、修正大統領令に基づき超過納付分の返還が見込まれる。最終的な公式文書の確認が必要。

FTA/EPA 原産地証明で日本企業が陥りやすい5つのポイント

FTA/EPAの原産地証明で日本企業が間違えやすい5つのポイントを、原因と実務での対策セットで整理しました。


1. 協定の選択ミス(RCEP/CPTPP/二国間EPA等の取り違え)

  • ありがちな状況: 相手国に複数協定が並立しているのに、最初に見つけた協定のPSR(品目別規則)で判定してしまう。結果、要件不一致や不要に厳しい基準を適用してしまう。
  • リスク: 特恵関税の適用が否認され、追徴課税が発生する。また、事後調査(検認)で指摘を受ける可能性がある。
  • 対策: 輸出先×HSコードごとに**「協定比較表」**(適用される関税率、PSR、証明方式、自己申告の定型文/番号、有効期限など)を整備する。見積段階で最適な協定を確定し、社内承認の必須項目とすることが望ましい。

2. HSコードの誤分類 → 間違ったPSRの適用

  • ありがちな状況: 品名だけでHSコードの上4桁や6桁を判断し、関税率表の**「類注」「部注」や「通則(GRI)」**を確認していない。あるいは、材料や機能のわずかな差異を見落としてしまう。
  • リスク: 適用すべきPSRそのものが別物になり、原産性を満たせなくなる(関税番号変更基準や付加価値基準の要件が変わる)。
  • リスク要因の補足: HSコードは約5年ごとに大きな改正があり、知らないうちに自社製品のHSコードが変更されている可能性もある。
  • 対策: HSコードは仕様書と現物で確認し、必ず「類注」「部注」「通則」まで精読する。分類が難しい品目や変更が多い品目は、専門家レビューや税関への**「関税分類事前教示」**の取得をルール化する。見積時と出荷時でHSコードに相違がないか、チェック体制を構築する。

3. 原産資格の計算ミス(RVC/CTC/加工要件の読み違い)

  • ありがちな状況:
    • RVC(付加価値基準): 計算方式(積上方式 / 控除方式)や、計算の基礎となる価格(EXWかFOBか)を取り違える。非原産材料の価格に含めるべき費用範囲を誤解する。為替換算日が部署ごとに異なり、計算結果がぶれる。
    • CTC(関税番号変更基準): 非原産材料からのHSコードの変更(が、協定で定められたレベル(例:2桁、4桁、6桁)を満たしているかどうかの判定を誤る。
    • その他: デミニミス(僅少の非原産材料を無視できるルール)や、同種の材料をまとめて扱うことのできるルールの適用を誤解する。
  • 対策: 協定ごとに計算用テンプレートを分け、計算式・費用範囲・換算日などを固定化し、ミスを防ぐ。見積書、請求書、BOM(部品表)など、計算の根拠となる証拠書類を案件ごとに整理・保存する。価格改定、工程変更、部材変更など、計算結果に影響する事象が発生した際に、再計算を促す管理表を作成する。

4. 裏付け資料の不足と累積(Accumulation)の誤用

  • ありがちな状況: 国内で調達した材料だからという理由で、証拠なく「原産材料」と見なしてしまう。サプライヤーから入手した原産性証明資料(サプライヤー証明書)の有効期限や、対象となる協定を確認していない。累積(他の協定締約国の産品を自国の原産材料と見なせる制度)を利用する際に、対象国や要求される様式、記載事項を満たしていない。
  • リスク: 事後調査(検認)時に、材料の原産性を立証できず、産品全体の原産性が否認される。
  • 対策: BOM(部品表)の各部材について、原産性(原産か非原産か)、その根拠書類、適用協定、有効期限などをまとめた**「原産性管理マップ」**を作成する。サプライヤー証明書は定期的な更新を徹底し、可能であればロットと紐づけて管理する。累積を利用する場合は、必ず協定の累積条項を読み込み、使用可否と必要な手続き・書式を事前に確認する。

5. 物流・書類運用の要件不備

  • ありがちな状況:
    • 直接輸送の原則: 第三国を経由する際に、保税地域で行った仕分けやラベリングが、協定で許容される「軽微な加工」の範囲を超えてしまい、原産性を喪失する。
    • インボイス: 第三国インボイスを利用する際に、協定で規定された文言や記載欄への記入が漏れる。
    • 証明書・申告文: 自己申告制度において、協定で定められた定型文や、認定輸出者番号/法人番号などの記載が不正確である。
    • その他: 分割輸送や、中継貿易で利用されるバック・トゥ・バック原産地証明書の発給条件を確認しないまま手配してしまう。
  • 対策: 輸送ルートを設計する段階で、協定の「直接輸送の原則」と「非加工証明」の要件を確認する。第三国インボイスの必須記載事項をインボイスの雛形に反映させる。原産地証明書や自己申告文は、協定別のチェックリストを用いて、定型文・番号・署名の要否・有効期限などを複数人で確認する。

HS Code Finderは、HSコードの年次変換もできる

HS Code FinderはHSコードの年次変換もできます。

吊り下げる式のルームランプがあります。HSコードは9405.11。これはLEDを使った者のHSコードとなります。

本来2007年度にはLEDでのHSコードはないのですが、日インドCEPAの利用などでは、無理くりでもHSコードの付番が必要となりますので、2007年次でのHSコードが必要となるのです。

そこで、使って調べてみました。

入力条件(日本語:ユーザー原文のみ)

  • 発光ダイオード(LED)光源とともに専ら使用するように設計されたもの
  • 上記のHSコード9405.11のHSコードを2007に変えてください。

A) 日本語版(JA First)

  1. 結論

推定HS(6桁):(HS2007)9405.10

国別例示(任意):
JP:—
US:—
EU:—

要約:HS2022の「9405.11(天井/壁掛け用の電気式照明器具—LED光源とともに専ら使用するように設計)」は、LED専用の6桁細分が未設のHS2007では、天井/壁掛け用の電気式照明器具を一括する9405.10に相当します。HS2022の条文に9405.11が新設されていること、HS2007では同用途が9405.10とされていることからの逆変換です。Wcoomd+1
確度(%):95%

  1. 根拠

適用通則・注(例:GRI 1, 3(b), 6、類注・部注):

  • GRI 1・6:見出し94.05(照明器具)→号で天井/壁掛け用を特定し、版差は6桁細分で判断。GRI 6は同一レベルの号の文言で分類する旨を規定。Wcoomd
  • HS2022の第94章:9405.11として「LED光源とともに専ら使用するように設計」が明記。Wcoomd
  • HS2007の第94章:天井/壁掛け用の電気式照明器具は9405.10の下に一括(公共の広場・街路用を除く)。Wcoomd

判定ポイント(主用途、主要材質、機能、構成、セット該当性 等):

  • 取付形態=天井/壁掛け用、用途=屋内一般照明(公共広場・街路照明用の種類を除く)。Wcoomd
  • LED専用設計であっても、HS2007ではLEDの細分がないため9405.10に包含。Wcoomd

仮定(入力不足を補う前提):

  • 対象品は天井/壁掛け用の電気式照明器具。
  • 公共の広場・街路照明用の種類ではない。

排他・除外の理由(他の類・項ではない理由):

  • 9405.20(卓上・床置き)ではない(設置形態が天井/壁掛け)。Wcoomd
  • 9405.40(その他の電気式照明器具)は、用途特定(天井/壁掛け)があるため後順位。
  • 8539(電気ランプ類)は光源単体の分類であり、器具(ルミナイア)は94.05で分類。※参考:HTS見出し構成。hts.usitc.gov
  1. 候補比較(日本語表)
候補HS(6)日本語品名主要根拠棄却理由確度%
9405.10天井又は壁掛け用の電気式照明器具(公共の広場・街路用を除く)HS2007の条文に該当。Wcoomd95
9405.20卓上・机上・ベッドサイド・床置き用の電気式照明器具HS2007に別号あり。Wcoomd天井/壁掛け用であれば不適3
9405.40その他の電気式照明器具用途不特定時の包括天井/壁掛け用が特定できるため不適1
8539.xx電気ランプ(LEDランプ等)光源単体の分類器具は94.05で分類1
  1. 争点・注意
  • 「公共の広場又は街路の照明に使用する種類」は9405.10の範囲外(HS2007条文)。該当する場合は別解釈が必要。Wcoomd
  • HSの版(2007/2012/2017/2022)で6桁細分が異なるため、協定や証明書で要求されるHS年版に合わせて表示すること。
  1. 追加で必要な情報
  • 取付形態(天井/壁掛けの確認)。
  • 公共屋外照明用の種類か否か。
  • 実務で使用するHSの版(年次)の指定。
  1. 参考資料・出所
  • WCO:HS2022 第94章(9405.11=LED専用の新細分)。Wcoomd
  • WCO:HS2007 第94章(9405.10の条文)。Wcoomd
  • WCO:General Rules for the Interpretation(GRI 6)。Wcoomd
  • USITC:HTS(章構成・参照)。hts.usitc.gov