LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)粉末品を題材に
2026年3月14日
この記事の使い方
本記事は、前回解説した「HSドシエの設計四原則」を実際に記入した場合の具体例を示すものだ。題材として選んだのは、HSC-76で2853.90への分類が明確化されたlithium bis(fluorosulfonyl)imide(以下、LiFSI)の粉末品だ。 製品仕様は、TCI(東京化成工業)・キシダ化学・Heeger Materialsが公開する仕様書および安全データシート(SDS)の公開情報を参照している。tcichemicals+3
記入内容はあくまで教育目的の参考例であり、実際の申告判断は必ず専門家に確認すること。

セクション0:ヘッダー
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ドシエID | HC-CHEM-2026-001 |
| 作成日 | 2026年3月14日 |
| 最終改定日 | 2026年3月14日 |
| 適用HS改正年 | HS2022(2028年改正時に要再評価) |
| 対象国・地域 | 日本(輸入)、米国(輸出)※国別注記あり |
| 申告税番桁数 | 日本:9桁、米国:10桁 |
| 作成部署 | 貿易コンプライアンス部 |
| 作成者 | 〇〇 〇〇 |
| 承認者 | 〇〇 〇〇(部長) |
セクション1:製品同一性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社内品目コード | RAW-LiFSI-01 |
| 製品名(英語) | Lithium bis(fluorosulfonyl)imide |
| 製品名(日本語) | リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド |
| 通称・略称 | LiFSI、LiFSA |
| CAS番号 | 171611-11-3 |
| 化学式 | LiN(SO2F)2 |
| 分子量 | 187.07 |
| 外観 | 白色結晶性粉末 |
| 純度 | ≥99.9%(バッテリーグレード) |
| 水分 | ≤200 ppm |
| 主な不純物規格 | F⁻ ≤100 ppm、SO₄²⁻ ≤50 ppm、Na ≤50 ppm |
| 輸入時の形態 | 固体粉末、単体化学品(溶媒なし)、金属缶密封 |
| 混合物・配合品の該当 | 非該当(単体化学品として輸入) |
| 主な用途 | リチウムイオン電池の電解質塩・添加剤 |
| 危険物区分 | 国連番号 UN1760、Class 8(腐食性)、PG I |
| 写真・図面参照番号 | 別紙 RAW-LiFSI-01-PHO-001 |
heegermaterials+3
セクション2:分類結論
日本(輸入)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 項(4桁) | 28.53 |
| 号(6桁) | 2853.90 |
| 日本国内細分 | 2853.900(「その他」) |
| 品名(税率表上) | その他の無機化合物(第28類のその他の無機化合物) |
| 分類の根拠 | WCO HSC-76分類意見(2026年1月1日適用) |
| 適用関税率(参照先) | 実行関税率表2026年版 第28類 2853.900 にて確認要 |
| 関連規制 | 化審法(化学物質番号 1-1247)、安全保障貿易管理 |
米国(輸出時の参考情報)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| HTS番号 | 2826.90.9000(粉末単体品) |
| 分類根拠 | CBP事前照会 NY N338009(2024年3月) |
| 分類解説 | CBP研究所がフルオロスルホン酸塩と判定し28.26へ整理 |
| 追加申告 | Chapter 99 副番 9903.88.03 の同時申告が必要 |
| 備考 | WCO(2853.90)と米国HTSUS(2826.90)で6桁が異なる。この相違は章境界論点のため、米国向け輸出時は別個に確認が必要 |
customsmobile+1
セクション3:分類ロジック(日本・輸入用)
使用した一般解釈規則(GRI)
通則1(項の規定と関連する部注・類注に基づく決定)および通則6(号の決定)を適用した。[tsukangyo.or]
第28類への帰属確認
第28類は「無機化学品、貴金属・希土類・放射性元素又は同位体の有機化合物及び無機化合物」を対象とする。本品 LiFSI は LiN(SO₂F)₂ という単一の化学式で表される単体化学品であり、混合物でも配合品でもないため、第28類への帰属が成立する。[tsukangyo.or]
競合項の検討と排除
| 候補項 | 見出し語要旨 | 採否 | 排除理由 |
|---|---|---|---|
| 28.26 | フッ化物、フッ化ケイ酸塩、その他の複合フッ素塩 | 不採用 | フルオロスルホニルイミドアニオンはフッ素塩に分類されないとWCOが整理(注:米国CBPは28.26適用。この相違は国別確認が必要) |
| 28.42 | その他の金属の塩およびペルオキソ塩 | 不採用 | 28.42の類注がLi塩を28.53の「その他」に誘導 |
| 38.24 | 化学品混合物・製剤(NES) | 不採用 | 単体化学品として輸入する場合は第28類が優先。溶媒混合品であれば38.24が適用となる点に注意 |
| 2853.90 | その他の無機化合物(その他) | 採用 | 単一の無機イオン化合物として化学的に同定可能であり、他の28類の特定項に該当しないことが確認できた。WCO HSC-76分類意見と整合 |
global-scm+1
決め手となった客観的特徴
本品の分類を2853.90に確定した根拠は「電池材料としての用途」ではなく、化学的組成の客観的事実すなわちリチウム陽イオンとビス(フルオロスルホニル)イミド陰イオンからなる単純なイオン化合物であるという化学構造の同一性だ。 化学式・CAS番号・純度がSDSおよび仕様書で一意に特定できることが、この判断の前提条件となっている。[global-scm]
形態別コード変動リスク(重要)
LiFSIは調達・輸入の形態によってHSコードが変わる。この点は見積条件・契約条件の設計にも直接関わる。[customsmobile]
| 形態 | WCO6桁方向性 | 米国HTSUS(参考) |
|---|---|---|
| 純粋粉末・単体品(≥99%) | 2853.90 | 2826.90.9000 |
| LiFSI + DMC(ジメチルカーボネート)溶液 | 3824.99方向 | 3824.99.9397 |
| LiFSI配合済み電解液 | 3824.99方向 | 別途確認要 |
セクション4:根拠資料リスト
| 資料名 | 参照番号 | 保管場所 |
|---|---|---|
| 製品仕様書(Certificate of Analysis) | DOC-RAW-LiFSI-01-COA-2026 | /留易/原材料/LiFSI/ |
| 安全データシート(SDS)16版 | DOC-RAW-LiFSI-01-SDS-2026 | /規制管理/SDS/ |
| WCO HSC-76 分類意見補遺(ophs76en.pdf) | REF-WCO-HSC76-2853-001 | /分類根拠/WCO/ |
| 米国CBP事前照会 NY N338009(2024年3月) | REF-CBP-N338009 | /分類根拠/US/ |
| 日本実行関税率表2026年版(第28類) | REF-JPN-TARIFF-2026-C28 | /関税率表/ |
| 化審法化学物質番号確認資料 | DOC-CSCL-1-1247 | /規制管理/化審法/ |
| サプライヤー品質証明書 | DOC-SUPP-CERT-2026-001 | /調達/LiFSI/ |
| 輸入インボイス・パッキングリスト | 輸入許可番号と紐付け | /通関/2026/ |
セクション5:申告紐付け(記入例)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 輸入許可番号 | ※実申告時に記入 |
| 申告日 | ※実申告時に記入 |
| 通関業者 | ※実申告時に記入 |
| インボイス番号 | ※実申告時に記入 |
| 適用ロット | ※実申告時に記入 |
セクション6:公式判断の有無
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事前教示(日本税関) | 未取得。高単価品または大量輸入が続く場合は取得を推奨 |
| WCO分類意見 | HSC-76分類意見補遺に2853.90が記録(2026年1月1日適用) |
| 米国BTI相当 | CBP事前照会 NY N338009(2826.90.9000)。日米分類相違を要注意 |
セクション7:変更履歴と更新トリガー
| 変更日 | 変更理由 | 変更内容 | 旧版保管先 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月14日 | 新規作成 | 初版策定 | 該当なし |
次の事象が発生した場合は本ドシエを必ず更新する。
- 純度・水分・不純物規格が変更された場合
- 溶媒混合品または配合電解液として調達形態が変わった場合
- 仕入先・製造工程が変更された場合
- HS2028改正(2028年1月1日発効)の内容が確定した場合
- 日本または輸出先国の税関から分類に関する照会・指摘を受けた場合
日米分類相違への注意点
このドシエで最も重要な実務ポイントは、WCOの分類意見(2853.90)と米国CBPの事前照会(2826.90.9000)が6桁レベルで異なることだ。 同一の白色粉末・純度99%以上の LiFSI に対し、WCOはイオン化合物として28.53へ、米国CBPはフルオロスルホン酸塩として28.26へとそれぞれ整理している。global-scm+1
これは「WCOの国際6桁基準と各国の実装は必ず分けて確認する」という原則の典型例だ。日本向け輸入では2853.90を根拠とし、米国向け輸出では2826.90.9000を根拠とした別のドシエを作成・管理することが必要になる。このような国別差異が存在する品目こそ、ドシエによる根拠の文書化が最も意味を持つ。[customsmobile]
免責事項
本記事は2026年3月14日時点で公開されている情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成されています。掲載したHSコード・関税率・規制情報はすべて参考例であり、実際の申告・輸出入手続きにおける最終判断を構成するものではありません。HS分類・適用関税率・規制対象の該当可否は製品の客観的特徴・輸入形態・調達形態・各国法令の運用によって結論が異なります。実際の申告にあたっては、認定通関業者・弁護士・化学品規制の専門家に必ずご確認のうえ、貴社の責任において行ってください。
