ファーストセール制度が事実上廃止?

新法案が成立した場合に日本企業が受ける影響は?

「最終売買評価法(Last Sale Valuation Act)」が成立した場合、日本企業が長年関税コスト削減手法として活用してきた「ファーストセール(First Sale for Export: FSFE)」制度が事実上廃止され、米国への輸出ビジネスにおける関税負担が大幅に増加するという深刻な影響を受けます。

これまで多段階の取引(例:メーカー → 日本商社 → 米国輸入者)においては、サプライチェーン上のより前の段階の低い取引価格(ファーストセール価格)を関税の課税価格として申告することが認められていました。しかし、法案成立後は「米国の輸入者との最終取引価格(セカンドセール価格)」に一本化されるため、仲介する商社のマージン分にも関税がかけられるようになります

業種別の具体的な影響は以下の通りです。

  • 商社・流通業(最も直接的な打撃) 商社のマージン分が新たな課税対象となるため、これまでのビジネスモデルが成り立たなくなる可能性があります。商社を介さない直接取引への移行や、米国現地法人を輸入者に据えた内部取引への組み替えなど、サプライチェーンの全面的な再設計が求められます
  • アパレル・繊維・電子機器(最大の影響を受けるセクター) これらの分野はファーストセールを広く活用しているため、現行の節税効果が丸ごと失われる可能性があります。特に関税評価額の大幅な上昇により、負担増が直撃します。
  • 自動車・製造業(追い打ちとなるコスト増) すでに鉄鋼・アルミニウムや自動車・自動車部品などに高額な関税が課されている中、課税価格の引き上げはさらなるコスト増につながります。大量輸入を行う製造業では、数百億円単位での関税負担増に発展する恐れがあります。

企業が直面する実務への影響: 本法案による影響を最小限に抑えるため、該当する日本企業は今すぐ以下の対応を迫られます。

  1. 自社および商社経由の取引におけるファーストセール活用の実態洗い出し
  2. 課税価格が最終売買価格に引き上げられた場合の関税増加額のシミュレーション
  3. 法務・財務部門と連携した取引構造の見直し検討

また、仮に法案が成立しなかった場合でも、米国の関税政策は関税回避への締め付けやコンプライアンスを厳格化する方向に向かっているため、日本企業にはより透明性の高い取引価格の開示と柔軟なサプライチェーン設計が不可欠となります。

法案が成立する可能性や今後のスケジュールは?

現時点では、本法案はあくまで「提出段階」であり、正式な立法プロセスはこれから始まります。2026年2月11日に上院で提出されたばかりであり、成立までにはいくつかの段階を経る必要があります。

今後のスケジュール(成立までのプロセス): 法案が正式に成立するためには、以下のステップをすべてクリアしなければなりません。

  1. 上院での審議・可決(委員会付託から本会議採決へ)
  2. 下院での審議・可決
  3. 大統領の署名

成立する可能性と今後の見通し: 共和党と民主党の議員が共同で提出した超党派の法案ではありますが、原案のままスムーズに成立するかどうかは不透明であり、審議の過程で激しい議論や内容の修正が行われる可能性が高いと予測されています。その主な理由は以下の通りです。

  • 過去の廃止案はすべて頓挫している: 過去にも「ファーストセール」を廃止しようとする行政上の動きは複数回ありましたが、いずれも関係業界からの強い反対により実現しなかったという歴史があります。
  • 強力な反対運動の形成: 米国繊維工業会などが法案を支持する一方で、貿易専門のロースクール(ST&R)が法案に反対する業界連合の形成に動いており、今後の審議では賛否両派が激突することが予想されています。
  • 内容修正の可能性: PwCの分析でも、今回も関係業界からの強い働きかけ(ロビー活動)によって、法案の内容が見直されたり、修正されたりする可能性は十分にあるとされています。

したがって、今後の動向としては、委員会付託や本会議採決などのタイミング(法案番号 S.3841)を継続的にモニタリングしていく必要があります。ただし、仮に法案が修正されたり成立しなかったりした場合でも、米国の関税政策自体が「関税回避スキームへの締め付け強化と透明性の向上」へと向かっているため、注視が必要な状況に変わりはありません。