中国のCPTPP加入申請(2021年9月16日提出)は、申請から時間が経っているにもかかわらず、いまだ「加入交渉を始める」ための加盟国コンセンサスが形成されておらず、アクセッション・プロセスの正式な開始に至っていない状態です。apfccptppportal+1
これは、加盟国側が中国の加入を明確に拒否する決定を行ったというよりも、アクセッション開始を決めるコンセンサスが成立していないため、手続が事実上停滞しているという構図と整理できます。cas+1

1. 直近の公式判断:ウルグアイを優先し、中国は対象外のまま
2025年11月21日に豪州メルボルンで開催された第9回CPTPP委員会(CPTPP Commission)に関する共同声明では、アクセッション手続の進捗について次のように整理されています。gov
- コスタリカ:アクセッション作業部会(AWG)が既に設置されており、2025年12月までに交渉の進捗を報告するよう指示
- オークランド三原則を満たすとみなされる候補として、ウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国を特定
- まずウルグアイとのアクセッション・プロセスを開始し、残る3か国については2026年に、適切と判断されればプロセスを開始
- これに加え、他のアクセッション要請についても検討・議論を継続する意向を表明
この「4つの候補」の中に中国は含まれておらず、共同声明の文脈上も中国は「現時点で優先的にアクセッション交渉を進める対象にはなっていない」と整理するのが自然です。gov
他方で、CPTPPは中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナ、インドネシア等から正式な加入要請を受けていることが、各種レポートでも整理されています(ジェトロ等)。jef+1
2. 「見送り」とは何か:拒否ではなく、交渉開始の合意が作れない状態
CPTPPへの加入は、要請国が申請書を提出しただけでは進まず、CPTPP委員会がアクセッション・プロセスを開始することを決定し、加入作業部会(Accession Working Group: AWG)を設置して初めて本格的な交渉段階に入ります。apfccptppportal
中国の申請日は2021年9月16日と明確ですが、現時点までに中国向けAWGを設置する決定が行われたという公表情報はなく、アクセッション・プロセスが公式に立ち上がったとは言えない状況です。mfat+1
ここで鍵となるのが、アクセッション判断が「オークランド三原則」に基づくこと、および加入に関する決定はすべて締約国のコンセンサスに依存するという点です。cas+1
実際、申請当初からカナダを含む一部加盟国が中国(および台湾)の加入申請への明確な支持表明を控えているとの報道もあり、初期段階から慎重姿勢や政治的配慮が指摘されてきました。peacediplomacy
3. なぜ合意が作れないのか:実務的に効いてくる3つの論点
論点は多岐にわたりますが、企業実務の観点から押さえるべきポイントを3点に整理します。
論点A 「高い水準」を満たし続ける確度
日本政府(外務省)は、CPTPPの高い水準を満たす意図と能力を持ち、かつ既存の通商約束を履行しているかどうかを加入要請国ごとに慎重に見極める、という基本姿勢を示しています。mofa+1
企業実務としては、国有企業・補助金、デジタル貿易、知的財産、労働・環境、透明性・ガバナンスなどの分野で、「制度設計の形式的整合性」だけでなく、その運用実績や履行確度まで含めて評価される、という理解が重要になります。rieti+1
論点B 経済的威圧への警戒(加盟国側の問題意識)
第9回委員会に関する共同声明は、経済的威圧(economic coercion)に対する懸念と反対を明記し、こうした行為はCPTPPの高い水準や加盟国に期待される行動と整合しないと踏み込んでいます。cas+1
この種の文言は特定国名を挙げてはいないものの、加盟候補国を含む各国の行動様式全体が審査対象になりうる、というメッセージとして読み得るため、企業としても中長期リスクの一環として認識しておく価値があります。congress
論点C 地政学とコンセンサスの壁
豪州の有力紙Australian Financial Reviewは、中国のCPTPP申請について「加盟国間でコンセンサスがなく、申請の検討が遅れている」との認識を示しており、在豪中国大使へのインタビューでも同趣旨の質問が投げかけられています。china-embassy
一方で、中国はCPTPP水準との整合性をアピールする目的も含めて、海南自由貿易港のような制度実験を進めていますが、外交官や専門家からは「パイロット・プロジェクトだけでは不十分であり、全国的な制度改革と履行実績が求められる」との懐疑的な見方も示されています。reuters+2
4. 日本企業への実務インパクト:いま起きること/起きないこと
実務的には、当面は「中国がCPTPPに加入していない前提」で制度設計を行うのが合理的です。mfat+1
- 対中輸出
- CPTPPの特恵関税は対中取引には適用されないため、日本から中国向け輸出に関する関税・原産地の設計は、RCEPや日中二国間の制度枠組み等を中心に最適化することになります。congress
- サプライチェーン・原産地設計
- CPTPPの累積原産は原則としてCPTPP締約国間が対象であり、中国原材料の比率が高い製品は、CPTPP特恵の原産地基準を満たしにくくなる可能性があります。meti+1
- むしろ注目すべき「増える可能性が高い国」
- 2025年11月の共同声明では、ウルグアイとのアクセッション・プロセス開始に加え、UAE・フィリピン・インドネシアについて2026年にプロセスを開始し得ることが示されています。trademinister+1
- これらが加入すれば累積原産の組み替えや調達先の多様化が可能となるため、企業にとっては中長期的なサプライチェーン再設計のオプション拡大という、より直接的な実益につながり得ます。jef+1
5. 2026年に向けたチェックポイント
- ウルグアイの加入交渉の進捗
- ウルグアイ向けAWGでの議論内容(センシティブ品目、移行期間、国有企業・サービス市場開放の扱いなど)が、今後の他候補国に対するベンチマークになる可能性があります。gov
- UAE・フィリピン・インドネシアの加入プロセス開始の有無
- 2026年中にアクセッション・プロセスを実際に開始するかどうかは、サプライチェーン戦略や投資戦略の前提条件として注視が必要です。trademinister+1
- 議長国の交代
- 2025年の議長国である豪州から、2026年にはベトナムが議長としてCPTPPの議論を主導する見通しであり、議長国の優先課題や対中スタンスがアクセッション議論のペースに影響し得ます。trademinister
- 中国申請の「棚上げ」継続リスク
- 中国の加入申請そのものが取り下げられたわけではなく、政治・経済環境の変化次第では再び議題として浮上する余地は残りますが、現時点では他の候補に比べ優先順位が低いポジションにとどまっていると評価するのが妥当です。english.scio+1
免責:本稿は各国政府・国際機関・報道等の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・通関判断を代替するものではありません。具体的案件については、協定正文、国内実施法・通達、各国税関当局への照会等により確認してください。
- https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/common-questions
- https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2024/pdf/20240518_cptpp_seimei_en.pdf
- https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-melbourne-21-november-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-21-november-2025
- https://apfccptppportal.ca/accessions/process
- https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20251121_cptpp_seimei_en.pdf
- https://www.jef.or.jp/journal/pdf/259th_Cover_Story_04.pdf
- https://www.jetro.go.jp/ext_images/hungary/pdf/globaltradeandinvestmentreport2025.pdf
- https://peacediplomacy.org/2024/04/02/its-time-for-canada-to-break-the-cptpp-accession-logjam/
- https://www.mofa.go.jp/policy/other/bluebook/2025/pdf/pdfs/3-3.pdf
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- https://www.reuters.com/world/china/china-launches-113-billion-free-trade-experiment-hainan-island-2025-12-18/
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- https://publicprocurementinternational.com/wp-content/uploads/2025/08/2025_34_PPLR_Issue_4_Print_Press-Proof_Offprint.pdf
- https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/news
- https://globaldataalliance.org/wp-content/uploads/2024/08/08012024gdacptpp.pdf
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