2026年1月26日、日本の貿易実務の現場において、極めて重要な運用変更が静かに、しかし確実に動き出しました。財務省関税局が、輸入申告時におけるHSコード分類根拠書(通称:ドシエ)の任意提出を、これまで以上に強く推奨する方針を打ち出したのです。
これは単なる事務手続きの追加ではありません。これまでの結果としての数字(コード)さえ合っていればよいという時代から、なぜその数字を選んだのかというプロセス(論理)が問われる時代へと、パラダイムシフトが起きたことを意味します。
本記事では、このニュースの背景にある税関の意図と、ビジネスマンが今すぐ着手すべき具体的な対策について深掘りします。

税関が求めているのは正解へのプロセス
今回、税関が推奨を強化したドシエの提出とは、輸入申告書にHSコードを記載する際、その分類に至った論理的な根拠を記した文書を添付することを指します。
これまで、多くの企業はHSコードという結果のみを申告してきました。しかし、製品がハイテク化し、一見しただけでは機能や材質が判別できない物品が急増しています。税関職員がゼロから製品を調査し、コードの正誤を判断するには膨大な時間が必要です。そこで税関は、輸入者側にあらかじめ正解への道筋(ガイドマップ)を提示してもらうことで、審査を効率化しようとしているのです。
根拠書(ドシエ)に記載すべき3つの要素
では、具体的にどのような資料を作成すればよいのでしょうか。税関が期待するドシエには、主に以下の3つの要素が含まれている必要があります。
第一に、客観的な製品仕様です。
カタログのコピーだけでは不十分です。材質の構成比率、主要な機能、使用用途など、分類の決め手となるスペックを明確に整理する必要があります。
第二に、法的根拠の引用です。
これが最も重要です。単に「パソコンだから」という理由ではなく、「関税率表の解釈に関する通則1に基づき、第84類の注5(E)を適用した結果」といったように、関税法上のルール(通則、部注、類注)を引用して論理を構成します。
第三に、参考とした先例です。
過去の事前教示回答事例や、世界税関機構(WCO)の解説書、あるいは類似品に関する他国の分類事例などを記載することで、自社の判断が独りよがりなものではないことを証明します。
企業にとってのメリット:防御から攻撃への転換
一見すると、ドシエの作成は企業にとって負担増に思えるかもしれません。しかし、戦略的な実務担当者にとっては、これは自社を守り、物流を加速させる強力な武器となります。
最大のメリットは、通関リードタイムの短縮です。
ドシエによって分類の根拠が明確に示されていれば、税関検査官が疑義を抱く余地が少なくなります。不必要な質問や検査が減り、結果として貨物がスムーズに許可される確率が飛躍的に高まります。
もう一つのメリットは、事後調査におけるリスク管理です。
数年後に税関の事後調査が入り、万が一、申告していたHSコードが誤りだったと判定された場合でも、事前にしっかりとした根拠書を提出していれば、企業側には「正当な注意義務」を果たした証拠が残ります。これにより、悪質な虚偽申告として重加算税を課されるリスクを回避し、単なる修正申告で済む可能性が高まります。つまり、ドシエは企業のコンプライアンスを守る保険として機能するのです。
なんとなくの分類からの脱却
これまで多くの中小規模の貿易現場では、前回と同じだから、あるいは輸出者がそう言っているから、といった曖昧な理由でHSコードが決められてきました。しかし、今回の税関の動きは、そうした根拠のない分類はもはやリスクでしかないというメッセージでもあります。
今後、優秀な貿易担当者の条件は、単にコード表を検索できることではなく、そのコードである理由を文書化できる能力へとシフトしていくでしょう。
テクノロジーの活用が鍵を握る
とはいえ、すべての輸入案件で詳細なドシエを人間が手書きで作成するのは現実的ではありません。ここで重要になるのが、AIやデジタルの活用です。
製品データを入力すれば、該当する法的根拠を自動的に引用し、論理構成まで含めたドシエの下書きを生成してくれるツールの導入が、企業の競争力を分けることになります。人間はAIが作った論理を最終確認するだけで済むようになれば、業務負荷を増やさずに、コンプライアンスレベルを最高水準に引き上げることが可能です。
まとめ
2026年1月26日を境に、日本の通関実務はプロセス重視へと舵を切りました。税関からの「あなたの会社の論理を見せてください」という問いかけに対し、しっかりとしたドシエで応えられる企業だけが、通関トラブルとは無縁の強固なサプライチェーンを構築できるのです。変化を恐れず、根拠ある申告を武器にビジネスを進化させていきましょう。
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック
