エグゼクティブ・ブリーフ(2025年10月19日/JST)
何が決まったか(超要約)
対象品目と関税率
中・大型トラック(クラス3~8)および部品に25%、バスに10%の関税を賦課。国家安全保障(通商拡大法232条など)を法的根拠とする大統領布告により発効します。
発効日時
米東部夏時間(EDT)2025年11月1日0:01(日本時間11月1日13:01)
USMCA適格車両の取り扱い
USMCA特恵要件を満たすトラックは、米国コンテンツを除く価値部分のみに25%を課税します(米国コンテンツ分は免除)。商務省への申請・承認プロセスが必要です。
USMCA適格部品
課税方式が連邦官報で確定するまで一時的に対象外とします(ただしCKD/EKD等のノックダウン・キットは常に課税対象)。
相殺プログラム(オフセット)
米国内で最終組立したMHDVについて、メーカーは車両価値の3.75%相当を関税相殺枠として2030年10月31日まで積み上げ可能です。エンジンメーカーにも同等制度を設定します。自動車分野の既存相殺制度も2030年まで延長されます。
関税の重ね掛け(スタッキング)
本布告の対象品は、鋼・アルミ・銅・自動車・木材等のセクター関税や相互関税との重ね掛けを回避します。ただし、素材・非対象部材に対する別関税は継続します。
業界インパクトの含意
メキシコ組立比率が高いOEMは原則コスト増となります。ただし米国部材比率(U.S. content)を高めて証明できれば実効税率を低減可能です。米国内組立は3.75%相殺により相対優位となります。メキシコが米向けトラック輸出の最大供給国である点から、サプライチェーン再配置圧力は強まります。
影響の見える化(簡易式とシナリオ)
USMCA適合トラック(メキシコ/カナダ組立)の関税額目安
実効関税 ≒ 25% × (1 − 米国コンテンツ比率)
計算例
- トラック価額:180,000ドル
- 米国コンテンツ:30%
- 実効税率:25% × 70% = 17.5%
- 関税額:約31,500ドル
※米国コンテンツの定義・算定は商務省の承認が必要です。虚偽申告には同型全量に対し全額25%適用の制裁条項があります。
米国内最終組立の相殺効果
相殺枠=車両価値の3.75%を、輸入部品の232関税等の負担とネット相殺に活用可能です(エンジンも同様)。
実務上の重要ポイント(法令運用)
USMCA適格部品の猶予措置
課税方式確立前は25%非課税とします(ただしCKD/EKDは課税対象のまま)。連邦官報告示を待つ必要があります。
FTZ(外国貿易ゾーン)の取り扱い
特恵外国(Privileged Foreign)ステータスでの入庫が必須となります。国内移出時に当該関税が適用されます。
車齢による除外
25年以上前の車両は対象外です(8702のバス含む)。
法的基盤と訴訟リスク
232条に加え、IEEPA・1974年通商法604条も布告に明記されています。関連の緊急関税に対する司法審査は別途進行中ですが、今回の主軸は232条です。訴訟リスクはあるものの、短中期での即時停止は見込み薄です。
経営サイドのアクション・チェックリスト(今週~来月)
財務/価格
調達/生産
- 米国コンテンツ比率の早急な実測(BOM展開、原価データの米国起源切り出し)。USMCAとは定義が異なる点に注意
- CKD/EKD活用案件は構成見直し(対象固定)
- メキシコ組立→米国組立の再配分や米国部材の置換に関する投資判断(6~18か月)
通関/ロジスティクス
法務/渉外
メーカー別インパクト(要点サマリ)
評価軸
①北米の最終組立拠点、②メキシコ依存度、③短期コスト影響、④中期の戦略余地(米国化・相殺活用)
Daimler Truck NA(Freightliner/Western Star)
米国+メキシコ(サルティージョ/サンティアゴ)に主力工場。CascadiaやM2のメキシコ生産比率が高く、メキシコ依存度は高めです。USMCA適合でも非米国分に25%で実効税率が上昇します。米国内組立シフト、米国部材比の引上げ、3.75%相殺の活用で対応可能です。
PACCAR(Kenworth/Peterbilt)
米国主力+メキシコ生産も一定の割合を占めます。メキシコ依存度は中~高です。四半期あたり7,500万ドル規模の関税コスト増との報道があります。USMCA部材化・米国化を進めつつ、米国内組立分には相殺3.75%で影響緩和が可能です。
Navistar(International/親会社Traton)
メキシコ・エスコベードが大規模輸出拠点、米テキサス(サンアントニオ)等も拡張中です。メキシコ依存度は高めで、メキシコ発の非米国分に25%がヒットします。米国内拠点の活用拡大、米国部材化で実効税率低減余地があります。
Volvo Trucks North America / Mack
米国生産中心(VA/PA)でメキシコ依存度は低いです。完成車輸入は限定的で直接打撃は小さく、非USMCA部品の25%リスクは残りますが、米国内組立×相殺3.75%でむしろ相対優位となります。
Stellantis(Ram 3500などHDピックアップ)
メキシコ・サルティージョでHDピックアップ(クラス3相当中心)を生産します。メキシコ依存度は高く、USMCA適合でも非米国分に25%、価格転嫁圧力が生じます。米国コンテンツの引上げ、サプライヤー米国化で実効税率を圧縮できます。
Ford(Super Duty、F-650/750)
米国(KY/OH)組立中心でメキシコ依存度は低いです。完成車の直接影響は限定的で、相殺3.75%活用でネット有利となります。カナダ増産計画がある場合はUSMCA扱い+非米国分課税ルールの精査が必要です。
GM(Silverado HD/ Sierra HD)
米国(フリント)+カナダ(オシャワ)で生産します。メキシコ依存度は中程度で、カナダ組立はUSMCA前提でも非米国分に25%の可能性があります。米国内組立比率向上と相殺で影響緩和が可能です。
Isuzu(北米:N/Fシリーズ)
米国組立(ミシガン→SCへ拡大)が進行中です。メキシコ依存度は低く、完成車輸入依存が小さいため直接影響は限定的です。ただし日本発ボディ/キャブ等の非USMCA部品が25%対象となるリスクがあります。米国内一貫体制の加速でネット優位化が可能です。
Hino(トヨタ系)
米国(WV)で中型組立を行います。メキシコ依存度は低く、完成車輸入は限定的で相殺3.75%のポジティブ効果があります。エンジンは外部調達中心に移行済みで、非USMCA部品の管理が論点となります。
Tesla Semi / その他米系ZEV
米国内生産のためメキシコ依存度はありません。直接影響は軽微で、部材の原産地管理・232素材関税の最適化が主眼となります。
参考情報
メキシコは米向けMHDVの最大供給国で、政策発表後の報道もメキシコ依存OEMのコスト上振れを強調しています。
直近90日で経営が押さえるべき「3つの分岐点」
1. 米国コンテンツの定義運用と承認速度
「USMCA適合+非米国分のみ課税」の実効値が各社で大きく異なる可能性があります。商務省の運用方針とプロセス速度が重要です。
2. 部品課税方式の連邦官報告示
発効までUSMCA部品は一時免除ですが、方式確定で非米国分への25%が動き出します。告示内容とタイミングが業務に直結します。
3. 法的争点(232条/IEEPA周辺)の進展
全面無効化までは距離がありますが、周辺セクターとの整合や適用除外の余地に注目する必要があります。
参考:発表と報道(一次情報と主要メディア)
一次情報
主要報道
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック