「カナダ—インドネシア包括的経済連携協定(CEPA)」現状整理

概要

協定の現状: 2025年9月24日、オタワで両国がCEPAに署名。協定ステータスは「署名済(未発効)」。international

発効見込み: 2026年に発効予定(各国の国内批准・実施法整備が前提)。pm

関税撤廃の規模:

  • カナダ側:インドネシア産品に対する90.5%の関税を撤廃
  • インドネシア側:85.8%の品目ヘディング(HSヘディング)を自由化
  • カナダの対インドネシア輸出の95%以上で関税削減または撤廃効果xinhuanet+1

※測定単位(関税分類の粒度)が異なるため、数値の直接比較には注意が必要

実施スケジュール

現在(署名後〜発効前): 関税・通関手続きは現行通り。企業はHSコード単位での影響分析や原産地管理の準備段階 。international

2026年発効後: 即時撤廃品目は0%に、段階的削減品目は年次スケジュールに従い低下。具体的な品目別スケジュールおよび品目別原産地規則(PSR)は協定本文・附属書で確認可能 。international

関税・原産地・通関手続き

関税撤廃・削減: 物品市場アクセス章に基づき実行。輸出入許可の透明性強化、新規輸入ライセンス規律も盛り込み 。international

原産地規則(ROO):

  • 累積(accumulation)対応、生産累積見直し条項あり
  • 原産地証明、保存義務、事前教示、検認、罰則、当局間協力を含む
  • 証明方式の詳細(様式・自己証明可否等)は協定本文に従うinternational

通関手続き・貿易円滑化: WTO貿易円滑化協定を基盤とし、通関の簡素化・標準化・電子化等を規定 。international

サービス・投資・デジタル分野

投資: ISDS(投資家対国家紛争処理)を含む保護・待遇規律を整備。ネガティブリスト方式採用、インドネシア側には透明性向上のための3年移行期間。発効3年後のオファー改善見直しも規定 。international

金融サービス: 独立章として、市場アクセス・内外無差別・最恵国待遇に加え、強固なプルーデンシャル例外(金融安定確保のための裁量)を明記 。international

電子商取引: 越境データ流通、データローカライゼーション規律、ソースコード開示、オープンガバメントデータ、個人情報保護等を含み、デジタル貿易の予見可能性向上を図る 。international

政府調達: 透明性・協力等の手続き規律を整備し、将来の市場アクセス拡大に向けた交渉条項を含む 。international

国有企業(SOE): インドネシアにとって初の包括的SOE規律(無差別・商業的考慮・規制の中立性・透明性等)を導入 。international

労働・環境: 水準引き下げ競争防止、気候・生物多様性・プラスチック等の課題への取り組み、責任ある企業行動を盛り込み 。international

優先課題の二国間対話

重要鉱物: 高いESG基準の下で供給網強靭化・技術協力を推進 。international

SPS(衛生植物検疫): カナダ産牛肉とインドネシア産ツバメの巣の市場アクセス課題解消に向けた覚書を活用 。international

紛争解決: 透明性の高い国家間紛争解決(当事者提出、審理、最終報告の公開等)。international

有望セクター(公表情報ベース)

カナダ側有望品目(対インドネシア): 小麦、カリ(肥料)、木材、大豆等—完全実施で価格競争力が向上 。pm

インドネシア側有望品目(対カナダ): 繊維・履物・家具・加工食品・軽電機・自動車部材・ツバメの巣等。6,500超のタリフラインが優遇対象 。xinhuanet

企業実務対応チェックリスト

  1. HSコード特定: 主要SKUのHS6桁〜10桁を確定し、CEPA関税スケジュール(附属書)に照合。段階削減の年次率と即時撤廃判定を準備
  2. 原産地要件(PSR)リスク評価: 自社の部材構成・工程で原産資格を満たせるかを検証。累積条項の活用余地も試算
  3. 原産地管理プロセス整備: 証明書式/自己証明の可否、保存期間、検認対応を社内規程・システムに組み込み
  4. 通関・物流見直し: 発効後の申告手順・原産地申告文言・事前教示の取得計画を立案
  5. サービス・投資規制確認: インドネシア側ネガティブリストの参入制限・外資比率・現地要件を精査
  6. データ・IT対応: 越境データ移転・ローカライゼーション規律に適合するクラウド/拠点設計を検討
  7. 重要鉱物・SPS案件化: 鉱物・食品関連企業は二国間対話を活用し、規制・承認の前倒しを狙うinternational

よくある質問

Q1. いつから特恵税率を使えますか?
A. 発効(2026年)以降です。発効日前の出荷には適用されません 。pm

Q2. 自社品目が即時0%になるか知りたい
A. HSコード別の撤廃・削減スケジュールを確認する必要があります。正式な附属書に基づき判定してください 。international

Q3. 原産地証明は誰が作成しますか?
A. 原産地手続き章に証明・保存・検認・事前教示等の運用が規定されています。自社の役割分担に応じた体制整備が必要です 。international

Q4. セーフガードやAD/CVDは?
A. WTOの権利義務を再確認しており、アンチダンピング・相殺関税・グローバルセーフガードの枠組みは維持されます 。international

追加の注目点

安全保障・経済の包括連携: 署名当日、防衛協力協定など複数のMoUも同時締結。サプライチェーン(重要鉱物等)や人材協力の観点で、民間案件への波及可能性 。pm

数値の解釈: 90.5%(カナダ)と85.8%(インドネシア)は、それぞれ関税撤廃対象と自由化対象(ヘディング単位)で、母数・単位が異なるため単純比較は不適切 。setkab

参考資料

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  2. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/indonesia-indonesie/cepa-apeg/background-contexte.aspx?lang=eng
  3. http://www.xinhuanet.com/english/asiapacific/20250925/0626b5c9037a40bfa3be41f522915e87/c.html
  4. https://setkab.go.id/en/indonesia-canada-sign-agreements-on-trade-defense-business/
  5. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/indonesia-indonesie/cepa-apeg/summary-negotiated-resume-negociations.aspx?lang=eng
  6. https://search.open.canada.ca/qpnotes/record/dfatd-maecd,00014-2025
  7. https://voi.id/ja/news/518008
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  9. https://www.thebusinesscouncil.ca/publication/bcc-and-kadin-indonesia-sign-mou/
  10. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/07/e4c84586ae7275ed.html
  11. https://www.reuters.com/world/americas/canada-boost-indonesia-exports-diversify-non-us-trade-says-minister-2025-09-24/
  12. https://www.canada.ca/en/global-affairs/news/2025/09/minister-sidhu-meets-with-indonesias-minister-of-trade.html
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  14. https://www.fibre2fashion.com/news/textile-news/canadian-pm-announces-new-trade-agreement-with-indonesia-305483-newsdetails.htm
  15. https://www.pm.gc.ca/en/news/statements/2025/09/24/joint-statement-bilateral-meeting-between-prime-minister-canada-mark-carney
  16. https://www.nna.jp/news/2843591
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  23. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/iacepa/iacepa-text/Pages/iacepa-annex-2-a-schedules-of-tariff-commitments
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  25. https://catts.eu/preferential-trade-updates-august-2025/
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  27. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/trade-commerce/tariff-tarif/2025/html/countries-pays-eng.html
  28. https://www.thejakartapost.com/business/2025/09/25/ri-canada-ink-trade-pact-amid-us-pressure.html
  29. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-meetings-civil-society/csd-negotiations-comprehensive-economic-partnership-agreement-cepa-between-eu-and-indonesia-2025-09-16_en
  30. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/indonesia/eu-indonesia-agreements/key-elements-eu-indonesia-trade-agreement-and-investment-protection-agreement_en
  31. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/trade-commerce/tariff-tarif/2025/html/admin-eng.html

ATIGA改訂の内容

エグゼクティブサマリー

ATIGAアップグレードは、ASEAN域内の物品貿易をデジタル・持続可能社会に対応させる包括的な近代化改訂です 。2025年5月に交渉が実質妥結し、「ATIGA改正第二議定書」として2025年10月26-28日の第47回ASEANサミット(マレーシア・クアラルンプール)で署名予定です 。発効は各国の国内手続完了後となります 。

改訂の柱は、非関税措置の透明性向上原産地規則の簡素化通関のデジタル化・ペーパーレス化AEO・事前教示等のTFA+要素SPS/TBT強化(GRP導入含む)、および環境・循環経済やMSME支援等の新分野の包含です 。

交渉ステータスとタイムライン

交渉妥結: 2025年5月25日のAECC(ASEAN経済共同体理事会)会合でATIGAアップグレード交渉の妥結が正式確認されました 。

署名予定: 第二議定書は2025年10月26-28日の第47回ASEANサミットで署名予定です 。マレーシアが議長国として開催します 。

発効見通し: 署名後、各国で批准・国内実装手続きを経て発効します。具体的な発効条件・移行期間は議定書テキスト及び各国通達で確定されるため、企業は官報・税関通達の継続的モニタリングが必要です 。

改訂の主要内容

関税・市場アクセス/非関税措置

現在のATIGAは既に98.6%の品目で関税撤廃を達成しているため、今後の焦点は非関税障壁の解消にあります 。改訂では、定量規制の不実施確認、輸入ライセンス・輸出規制・輸出補助金の規律強化、通知・透明性要件、是正メカニズムの整備を図ります 。

原産地規則の近代化

**「シンプル・ビジネスフレンドリー」**を基本原則として、PSR(付加価値基準・関税分類変更基準・加工工程基準の組合せ)、累積活用、証明手続きの明確化を進めます 。特に、e-Form D/ASWの活用拡大、原産地申告制度、検認・免除閾値・記録保存義務の整備により、事務負担・リードタイム削減が期待されます 。

通関・貿易円滑化の強化

WTO貿易円滑化協定(TFA)を上回る水準(TFA+)を目指し、自動化・標準化・簡素化事前教示制度(品目分類・評価・原産地規則)、AEO制度ペーパーレス化、エクスプレス貨物、ASW/ACTS高度化を柱とする包括的拡充を行います 。

SPS・TBT・GRP強化

SPS(衛生植物検疫措置): WTO-SPS協定の再確認に加え、同等性認定の迅速化、国際基準活用、意思決定情報共有、国内手続公表、技術協議メカニズムを強化します 。

TBT・GRP(良好規制慣行): WTO-TBT協定のTBT+実装、国際規格使用・相互承認、GRP原則適用、ACCQ(ASEAN基準・品質協議会)連携を推進します 。

新分野の導入

環境・持続可能性: 多国間環境協定履行確認、各国規制主権保持、循環経済促進を明記します 。

MSME支援: 中小零細企業の市場アクセス・情報・デジタル化支援を制度化します 。

企業への影響と対応準備

重要な変化点

非関税措置への対応: 通関・検査・規格・検疫手続きのコスト・時間短縮が期待される一方、透明性・通知要件の遵守強化が求められます 。

原産地規則の高度化: ASW/e-Form D・原産地申告・記録保存要件整備によりリードタイム短縮が期待されますが、サプライチェーン情報のトレーサビリティがより重要になります 。

準備チェックリスト

制度対応:

  • 2025年10月署名後の官報・通達監視体制構築
  • 社内原産地判定SOP及び記録保存規程のATIGA改訂対応更新

サプライチェーン管理:

  • PSRデータ整備(部材別原産・非原産区分、RVC計算、累積活用方法)
  • e-Form D/ASW利用拡大及び自己申告要件確認

貿易円滑化:

  • 事前教示活用計画作成及びAEO取得・維持の費用対効果評価
  • ペーパーレス化対応(権限管理・監査ログ整備)

品質・環境管理:

  • SPS/TBT手続変更点の製品カテゴリー別棚卸
  • 循環経済・環境データ(再生材比率等)管理システム構築

今後の展望

第47回ASEANサミットでの署名により、ASEAN域内貿易の新たな段階が始まります 。企業は署名後に公表される議定書正文及び各国実施通達を注視し、段階的実装に備える必要があります 。特に、デジタル化・持続可能性・サプライチェーン強靭化といった今後のトレンドに対応した貿易実務への移行が重要となります 。

REX(登録輸出者)システムに関する企業向け実務ガイド

皆様からREXに関する関心が多いことから、今回まとめてみました。

はじめに:日本企業にとっての結論
日EU・EPAを利用して日本からEUへ輸出する場合、REX登録は不要です。6,000ユーロを超える貨物で原産地を自己申告する際の「輸出者参照番号」には、EUのREX番号ではなく、**日本の「法人番号」**を記載します(未付番なら空欄可。住所の記載で代替可)。Taxation and Customs Union


1. REX(登録輸出者)システムとは?

REX(Registered Exporter)は、原産地自己申告を可能にするための輸出者登録制度です。EU側の輸出者GSP受益国の輸出者が、REX番号をインボイス等の**Statement on origin(原産地に関する申告)**に記載して特恵を申請する仕組みです。Taxation and Customs Union


2. REXが必要となる主なケース(日本からの輸出以外)

輸出ルート適用される制度/協定6,000ユーロ超の場合の要件
EU → 日本 などEUが締結するFTA(例:EU–Japan、CETA、UK TCA等)EU側輸出者にREX登録が必要(自己申告で特恵申請)。EU Trade+1
GSP受益国 → EUGSP(一般特恵)受益国の輸出者にREX登録が必要(自己申告で特恵申請)。Taxation and Customs Union

したがって、REXは**「EU側が輸出者」または「GSP受益国が輸出者」のときに関係し、日本からEUへ輸出する場合には直接関係しません**。Taxation and Customs Union


3. 日EU・EPAにおける日本の輸出者の対応

3.1 輸出者参照番号には「法人番号」を記載

  • 自己申告文(Statement on origin)をインボイス等に記載する際、**日本側輸出者の輸出者参照番号は「法人番号(13桁)」**です。Taxation and Customs Union
  • 未付番の場合空欄可で、住所を「場所及び日付」欄に記載して輸出者を識別できます。Taxation and Customs Union
  • EU税関による照合のため、国税庁「法人番号公表サイト(英語版)」に社名・所在地が表示されるよう設定しておくことを推奨します。Taxation and Customs Union

3.2 6,000ユーロ閾値の考え方

  • EU側輸出者6,000ユーロ以上でREXが必要、未満は不要。EU Trade
  • 日本側輸出者はREX不要で、基本は法人番号を用います(未付番時は空欄可)。「日本側に6,000ユーロ超=番号必須」という定めは明文化されていませんTaxation and Customs Union

3.3 代替手段:輸入者の知識(Importer’s knowledge)
輸出者の自己申告に代えて、EU側輸入者の知識に基づき特恵申請することも可能です。輸入者は原産性を示す資料を保持・提示できる必要があります。Taxation and Customs Union


4. 実務上のチェックリストと注意点

4.1 原産地自己申告文(Statement on origin)の記載【重要】

  • **PSR(CTH、RVC等)の“具体語”を書き込む必要はありません。一方で、附属書3‑Dの注記(4)に従い、A/B/C/D/Eの「コード」(例:A=完全生産、B=品目別規則充足、E=寛容差 等)は該当すれば記載します。多くのケースでは「B」**になります。wko.at+1
  • 輸出者参照番号(日本側=法人番号)原産地(EUまたはJapan)、**有効期間(複数出荷の場合)**など、附属書3‑Dで定める要素を満たすこと。Taxation and Customs Union
  • 保存義務:自己申告文と原産性に係る記録は最低4年間保存。Taxation and Customs Union

4.2 取引先(EUの輸入者)からREX番号を求められた場合
REXはEU側輸出で使う番号であり、日本からEUへの輸出では法人番号を用いる旨を説明します。必要に応じて、**法人番号公表サイト(英語版)**の掲載で確認可能にします。Taxation and Customs Union

4.3 用語の混同に注意

  • REX番号EU側GSP受益国側登録輸出者番号(自己申告のため)。Taxation and Customs Union
  • 法人番号日本側輸出者が日EU・EPAで輸出者参照番号として用いる番号。Taxation and Customs Union
  • EORI番号EU域内で通関手続を行う事業者の登録番号(REXとは用途が異なる)。EU Trade

5. まとめ

  • REXの基本EU側輸出者GSP受益国の輸出者6,000ユーロ超の貨物で自己申告する際に用いる登録番号EU Trade+1
  • 日本企業の対応日本→EUではREX不要輸出者参照番号=法人番号を記載(未付番時は空欄可・住所で代替)。Taxation and Customs Union
  • 実務最重点PSRの具体語(CTH等)の記載は不要だが、A/B/C/D/Eのコード必要に応じ記載裏付け資料の4年間保存法人番号の英語表記公開を徹底。wko.at+1

確認(根拠)

  • 日本側=法人番号/EU側=REX、輸出者参照番号の空欄許容と住所記載の代替、保存期間4年、自己申告文の構成要素:EU–Japan EPA 共同ガイダンスTaxation and Customs Union
  • EU側輸出者のREX要否(6,000ユーロ閾値)Access2Markets「Statement on origin」。EU Trade
  • EU–Japan(双方)での自己申告フレーム、EU側輸出はREX登録が前提/日本側は法人番号:Access2Markets EU–Japanページ。EU Trade
  • GSPはREX必須:欧州委「GSP」ページ(受益国輸出者はREXで自己申告)。Taxation and Customs Union
  • 附属書3‑D注記(4)のコード(A/B/C/D/E)官報版 附属書3‑DおよびAccess2Marketsの記載。wko.at+1
  • **輸入者の知識(Importer’s knowledge)**の要件:EU–Japan EPAガイダンス(Importer’s knowledge)Taxation and Customs Union

アフリカをほぼカバーするFTA:AfCFTA解説

AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)解説

1. AfCFTAの概要

AfCFTA(African Continental Free Trade Area)は、アフリカ連合(AU)が主導する大陸規模の自由貿易協定で、物品・サービスの自由化に加え、投資、競争政策、知的財産、デジタル貿易、女性・若者の貿易参画など段階的に統合を進める包括的枠組みです。署名:2018年3月21日(キガリ)/発効:2019年5月30日/貿易運用開始:2021年1月1日。African Union+1

2. 経済規模(イメージ)

対象市場は人口約13億人、名目GDP約3.4兆米ドル。AfCFTAは加盟国数で世界最大の自由貿易圏と位置付けられます。World Bank

3. 参加状況(2025年9月時点の公的・準公的資料による整理)

  • 署名55か国中54か国が署名(未署名はエリトリア)。African Union
  • 批准・寄託(State Parties)49か国(2025年6月および9月の南ア政府提出資料)。DTIC+1
  • 最近の動き(例)リベリア2023年批准・2024年に寄託、実施戦略を2025年8月公表/マダガスカル2024年11月に批准Ministry of Commerce & Industry+2UNECA+2
  • 主な未批准ベナン、リビア、ソマリア、南スーダン、スーダン(エリトリアは未署名)。DTIC
    ※最新個別状況はAU・AfCFTA事務局やtralacのステータスページで適宜確認するのが実務的です。Tralac

4. 主要な沿革

  • 2018/03:協定署名(キガリ)。
  • 2019/05:22か国の批准到達により発効。
  • 2021/01:物品等の貿易運用開始(各国の準備状況に応じ段階的)。
  • 2022/10:**GTI(Guided Trade Initiative)**開始(当初7か国、のち拡大)。African Union+2WCOE SARP SG+2
  • 2024/12e‑Tariff BookRoOモジュールを拡充。
  • 2025/06:RoOモジュールの機能強化をWCOが告知。World Customs Organization+1

5. 原産地規則(RoO)と証明プロセス(実務ポイント)

  • ルール体系:**物品貿易議定書の付属書2(Annex 2)**に一般規定と品目別規則(Appendix IV)が定められています。累積(Article 8)により全てのState Partiesを単一領域とみなす取扱いが可能です。African Union+1
  • 証明方法
    1. AfCFTA様式の原産地証明書(CoO)(指定当局発給)
    2. 原産地宣言(インボイス等)承認輸出者による自己申告、または小口貨物総価額5,000米ドル以下)は非承認輸出者でも可。宣言文言・署名等はAnnexの定めに従います。World Customs Organization+2cuts-international.org+2
  • 実務ツールAfCFTA e‑Tariff Bookで**関税率と該当PSR(品目別RoO)**を横断検索可能。World Customs Organization

6. 関税撤廃のルール(モダリティ)

  • 90%(非センシティブ品目)非LDCは5年、LDCは10年で撤廃
  • 7%(センシティブ品目)非LDCは10年、LDCは13年で撤廃
  • 3%(除外品目):撤廃対象外(ただし輸入価値の集中回避等の条件・見直し規定あり)
    これらはAnnex 1の譲許表に反映され、各国が年次で段階的に実施します。UN Trade and Development (UNCTAD)+1

7. 運用の現状と進捗

  • RoO合意状況約92.4%の関税行で合意。未了は主に繊維・衣類と自動車で、2026年2月の妥結を目標に交渉継続。DTIC
  • 優遇貿易の開始・拡大GTIを通じて試行→対象国が段階拡大。さらに、24か国が譲許表を官報化しAfCFTA下の優遇で実際に輸出入を開始(南アは2024/1/31開始)。DTIC
  • サービス:優先5分野(金融・通信・運輸・観光・ビジネス)で多くの国が初期オファーを提出、EACの約束表官報化、南アの約束表は2025年3月に内閣承認済(検証・採択手続き中)。DTIC
  • 運用インフラNTBオンライン通報・解消メカニズム(tradebarriers.africa)、**African Trade Observatory(ATO)**などの運用ツールが整備。Trade Barriers Africa+1

8. 抱えている主な課題(実務への影響)

  • ルール未整備領域の残存:繊維・衣類、自動車のRoO未確定が一部取引の制約に。DTIC
  • 関税実施・整合の足並み:各国の官報化・税関システム改修の進度差(譲許表の年次実施の追随が必要)。DTIC
  • NTB・行政運用のばらつき:国境手続、規格適合、重複認証等の非関税障壁が残存し、NTBメカニズムの活用が鍵。Trade Barriers Africa
  • 既存RECとの重複:RECはAfCFTAのビルディングブロックと位置付けられる一方、重複加盟による規則の多層化が実務の複雑性を高める。AfricanLII+1
  • 決済・通貨面の制約:域内決済のコスト・ドル依存。PAPSSの本格展開(16中央銀行・140超の商業銀行接続等)が進むが、浸透には時間を要する。Afreximbank
  • インフラの不足:物流・電力等のギャップが大きく、AfCFTAの効果最大化には投資拡大が不可欠。UN Trade and Development (UNCTAD)

付録:実務担当者のチェックリスト

  1. HS品目特定→e‑Tariff Bookで相手国の関税・PSR確認。必要なら代替サプライヤー/工程設計でRoOを満たす。World Customs Organization
  2. 証拠書類整備:BoM、原材料原産証跡、工程記録、原価計算、貨物書類等。
  3. 証明方法の選択:原則CoO承認輸出者原産地宣言を活用。小口(≤5,000USD)は非承認でも宣言可。World Customs Organization+1
  4. GTI/相手国の運用状況を確認(譲許表の官報化、RoO合意有無)。DTIC
  5. 通関でのトラブルNTBポータルに通報/フォロー。Trade Barriers Africa
  6. 決済:可能ならPAPSS等で現地通貨決済を検討。Afreximbank

出典(主要)

ベラ・バラッサの経済統合5段階:FTA/EPA実務担当者向けガイド

ベラ・バラッサの経済統合5段階:FTA/EPA実務担当者向けガイド

趣旨
段階が上がるほど、域内の自由化が深まり、共通ルール・共通機関・政策協調が増えるのが本質。関税メリットだけでなく、通関の簡素化、規格・認証、人材・資本移動、競争法・補助金規律まで影響が広がります。


1. 自由貿易協定(FTA/広義EPAを含む) / Free Trade Area

要点
加盟国間で原則として関税(と多くの数量制限)を撤廃。ただし対外関税は各国別のため、原産地規則(ROO)で迂回輸入を防止。サービス・投資・知財・調達等まで含む包括協定を日本ではEPAと呼ぶことが多い(バラッサの段階とは別軸)。

代表例

  • USMCA(旧NAFTA)
  • CPTPP
  • RCEP
  • 日EU・EPA
  • ATIGA(通称AFTA:ASEAN域内物品)

実務ポイント(チェックリスト)

  • 対象HS・特恵税率・発効日・移行スケジュール
  • **原産地判定(CTC/VA/特定工程)累積(cumulation)**の可否
  • 原産地証明方式(第三者発給/自己申告/登録輸出者)と保存義務
  • サプライヤー宣誓・BOMトレース体制
  • 複数協定の併用最適化(実効税率×通しやすさ)

2. 関税同盟 / Customs Union

要点
FTAに加え共通対外関税(CET)を採用。域内は自由流通(free circulation)の概念で扱われ、域内相互の売買にROOは通常不要。ただし自由流通であることの証明(Union goodsのステータス)が求められる場合あり。対第三国とのFTA活用では引き続きROO管理が必要。

代表例

  • EU関税同盟
  • SACU(南部アフリカ関税同盟)
  • メルコスール(MERCOSUR)(関税同盟志向だが例外多め)
  • EU–トルコ関税同盟工業品中心多くの農産品は対象外

実務ポイント

  • 域内販売:自由流通化ステータスの確認(通関簡素化・ROO不要)
  • 輸入段階:CET適用でMFN差の追跡負担を低減
  • 第三国向け特恵利用:別途ROO管理が存続
  • 税関手続・分類・評価の共通化対応

3. 共同市場 / Common Market

要点
関税同盟に財(物)・サービス・資本・労働の自由移動を追加。規格・認証・ライセンス等の非関税障壁の撤廃や相互承認が進む。

代表例

  • EU単一市場(Single Market)
  • EEA(EU加盟国+ノルウェー/アイスランド/リヒテンシュタイン)
  • CARICOM CSME
  • EAC共同市場

実務ポイント

  • 人材配置・越境サービス提供・資本移動の許認可簡素化を活用
  • 規格・適合性評価の相互承認で重複試験・認証を削減
  • データ移転・金融パスポート等の横断規制の有無を確認

4. 経済同盟(経済連合) / Economic Union

要点
共同市場に加え、競争政策・通商政策・規制政策の共通化・協調。場合により通貨統合(単一通貨・中央銀行)超国家的機関が立法・執行を担う。

代表例

  • 欧州連合(EU)(単一市場+共通政策、ユーロ圏は通貨統合)
  • EAEU(ユーラシア経済同盟)

実務ポイント

  • 競争法・補助金規律・公共調達などの域内共通ルールに適合
  • 通貨統合域では為替リスク・決済手続が単純化
  • 環境・デジタル・サステナ規制の同時適用に備え、SCM全体を再設計

5. 完全なる経済統合 / Complete Economic Integration

要点
経済同盟を越え、通貨・財政・租税・社会保障まで実質統一し、主権移譲が高度。域内は単一の経済体として機能。バラッサの理論上の到達点で、現実の実例は国家連邦レベルに近い。

代表例(イメージ)

  • 一国内市場(例:米国・カナダの国内市場)に見られる統合度合いが参照像。
  • EUも銀行同盟・財政統合が進めば一層近づく可能性。

実務ポイント

  • 税制・補助金・労働・社会保険がほぼ単一制度となり、拠点・人事・税務の意思決定は国内移転に近い設計へ。

つまずきやすい論点

  • 関税同盟=どこから入れても同じ?
    おおむね正しいが、原産地問題が“消える”のは域内相互取引に限る。対第三国の特恵活用やAD/CVDでは原産地・出荷地・HS適用の論点が残る。
  • 共同市場=完全統合ではない
    人・サービス・資本の自由移動があっても、税制・財政は各国別であることが多い。
  • 名称と実態はズレ得る
    メルコスールのように関税同盟志向でも例外・非関税障壁が残存する場合がある。協定文+運用通達で要確認。
  • EPAの広がりは“段階”と直交
    関税がゼロでも、デジタル・環境・労働等の規制対応コストが無視できないケースが増加。

小さな意思決定フロー

  1. 関税メリットの入口特定:対象HS×仕向/調達で使える協定→特恵税率・発効・移行表
  2. 原産地到達の試算:PSR型(CTC/VA/特定工程)・累積・主要原料の域内化
  3. 証明方式と内部統制:証明様式/自己申告・保存年限・誤記対応・宣誓の年次更新
  4. コスト対効果:関税差額×数量 −(証明・BOM維持・監査対応コスト)
  5. 上位段階の制度活用:関税同盟・共同市場なら規格相互承認/人材・資金の自由を前提に上市スピード最適化

まとめ

  • 5段階は、関税→対外関税共通化→要素移動の自由→共通政策→完全統合の順で深化。
  • FTA/EPA担当は、(1)関税×原産地、(2)税関手続、(3)規格・認証、(4)人材・資本移動、(5)競争法・補助金規律の“層”で評価すると、恩恵とリスクを取りこぼしません。

新たに合意されたEFTA-メルコスールFTA

EFTA-メルコスールFTA:企業が押さえるべき戦略的ポイント

2019年8月に実質合意に至ったこのFTAは、約3億人の市場へのアクセスを劇的に改善する可能性を秘めています。企業の皆様が今すぐ準備すべき実務上の要点を、専門的かつ分かりやすく解説します。


エグゼクティブ・サマリー:協定の全体像

本協定は、EFTA加盟国(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)とメルコスール加盟国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)間の貿易・投資を活性化させる包括的な枠組みです。

  • 市場アクセス:双方の輸出の95%を超える品目で関税が撤廃・削減されます。特に、医薬品、機械、化学品などEFTA側の主要輸出品に対するメルコスールの高関税が段階的に引き下げられます。
  • 原産地規則(ROO):特筆すべきは、**EU域内で生産された材料を協定上の原産材料とみなせる「拡張累積」**制度です。これにより、欧州全体を視野に入れたサプライチェーンの最適化が可能になります。原産地証明は、認定輸出者による自己申告制度が採用され、手続きの迅速化が図られます。
  • 貿易円滑化:事前教示制度(税番、原産地、課税価格について税関に事前の法的拘束力のある回答を求める制度)や通関手続きの電子化が盛り込まれ、貿易の透明性と予見可能性が向上します。
  • サービス・投資:金融、通信、専門家の一時的な移動(モード4)を含む幅広いサービス分野での市場アクセスが改善されます。投資については、商業拠点設立(モード3)時の内国民待遇が基本となりますが、各国の留保事項には注意が必要です。
  • 政府調達:これまで参入が難しかったメルコスールの中央政府機関の調達市場が開放されます。ブラジルやアルゼンチンでは、入札に参加できる契約金額の閾値(基準額)が段階的に引き下げられます。
  • 知的財産(IP):スイスの有名チーズ「グリュイエール」など、100を超える地理的表示(GI)が保護対象となり、ブランド価値の保護が強化されます。
  • 貿易と持続可能な開発(TSD):環境保護や労働者の権利に関する規定も盛り込まれ、ホルモン剤不使用の食肉生産や、成長促進目的での抗生物質使用の段階的廃止などが定められています。違反に関する紛争は、専門家パネルによる勧告の公表を通じて解決が図られます。
  • スイス企業への効果:協定が完全に履行されれば、スイスからメルコスールへの輸出の約96%が無税となり、年間1億8,000万スイスフラン(約300億円)規模の関税削減効果が見込まれています(スイス連邦経済省SECO試算)。

条文別:企業が押さえるべき実務ポイント

1. 物品関税:いつ、どれだけ下がるのか?

  • 撤廃スケジュール:関税は、即時撤廃(発効と同時)、または4年、8年、10年、15年といった期間をかけて段階的に引き下げられます。チーズやチョコレートなど一部のセンシティブ品目には、低関税を適用する輸入割当(TRQ)が設定されます。
  • 対象品目と削減幅の例
    • 医薬品:最大14%の関税が段階的に撤廃。
    • 機械類:14~20%の高関税が段階的に撤廃。
    • 化学品:最大18%の関税が段階的に撤廃。
    • 自動車部品:14~18%の関税が主に長期(10年や15年)で撤廃。
    • 繊維製品:最大35%という極めて高い関税が段階的に削減・撤廃。
  • アクション:自社製品のHSコード(8桁レベル)を特定し、協定付属書で関税撤廃スケジュール(カテゴリ)を確認することが不可欠です。

2. 原産地規則(ROO):サプライチェーンの鍵

  • 最重要ポイント「EU拡張累積」:貴社のサプライチェーンにEUの部材が含まれていても、一定の条件(品目別規則がEFTA-メルコスール間とEFTA-EU間で同等であることなど)を満たせば、その部材を「EFTA原産」として最終製品の原産性を判断できます。これにより、欧州全域での柔軟な部材調達が可能になります。
  • 実務上の手続き:原産地証明は、税関から事前に承認を受けた「認定輸出者」が、自らインボイスなどの商業書類上に原産地を記載する自己申告制度が基本となります。事後検認に備え、原産性を証明する書類の保管が義務付けられます。

3. 政府調達:新たなビジネスチャンス

  • 市場開放のインパクト:ブラジルやアルゼンチンの中央政府機関が発注する物品やサービスの入札に、EFTA企業が参加しやすくなります。
  • 主要国の閾値(段階的引き下げ後)
    • ブラジル:物品・サービスはSDR130,000、建設サービスはSDR5,000,000。
    • アルゼンチン:物品・サービスはSDR130,000、建設サービスはSDR5,000,000。
    • SDRはIMFの特別引出権。1SDR≒約215円(2025年9月時点の参考レート)。
  • アクション:対象となる政府機関のリストと、自社製品・サービスが除外対象になっていないかを確認し、入札情報へのアクセス方法を確立しましょう。

セクター別・即戦力の着眼点

セクター主な変更点今すぐ取るべきアクション
医薬・ヘルスケアメルコスールの高関税(最大14%)が撤廃。政府調達で病院・保健省案件が対象に。HSコード別に削減スケジュールを特定し、価格戦略に反映。認定輸出者資格の取得準備。
産業機械・部品14–20%の関税が削減され、価格競争力が大幅に向上。EU拡張累積の活用を前提にサプライチェーンを見直し。PSR(品目別規則)の適合性を確認。
化学品最大18%の関税削減。TBT(貿易の技術的障害)章で将来の規制協力も規定。PSR(付加価値基準/関税番号変更基準)を確認し、原産性管理体制を構築。必要に応じて事前教示を取得。
自動車部品14–18%の関税が主に長期スケジュールで削減。現地の完成車メーカー(OEM)等と関税削減分を反映した価格改定の交渉準備。
食品(チーズ等)無関税または低関税の輸入枠(TRQ)が設定され、即時的な市場アクセスが改善。TRQの申請プロセス(相手国側)を確認。GI保護対象リストをチェックし、自社製品の表示に問題がないか点検。

Google スプレッドシートにエクスポート



発効までの見通し(重要)

  • 批准手続き:協定の発効には、各締約国での国内議会の承認などが必要です。
  • 二国間での段階的発効少なくともEFTA加盟国のいずれか1カ国と、メルコスール加盟国のいずれか1カ国が批准手続きを完了した時点で、その2国間で協定が先行して発効します(手続き完了の通知から3ヶ月後の月の初日)。その後、批准を終えた国から順次、協定の適用対象が拡大していきます。
  • スイスの動向:スイス連邦議会での審議は2026年以降となる見込みです。企業としては、どの国の組み合わせで最初に発効するのか、最新の動向を注視することが重要です。

初心者向け:FTA、EPAの原産地証明の原産地基準

1. 対象品のHSコードの見つけ方

基礎(拠り所)

  • HS分類は「関税率表の解釈に関する通則(GIR)」で決めます(通則1〜6)。まずこれを踏まえ、章・部注、項目注を読み、品目の技術実態と照合します。税関総合情報
  • HSの6桁構造(2桁=類、4桁=項、6桁=号)を理解して進めます。ジェトロ

実務の進め方(現場フロー)

  1. 製品仕様の把握:用途・機能・主要材質・構造・動力・加工有無を整理(カタログ/図面/材料表)。
  2. 類→章→項→号を候補探索:関税率表や解説資料(税関「関税率表解説・分類例規」、WCO Explanatory Notes)で比較します。税関総合情報wcoomd.org
  3. 通則/GIR章注・部注除外規定で候補を絞る(「まず該当する定義、次に除外」)。税関総合情報
  4. 迷うときは 事前教示(Advance Ruling) を検討:輸入前に税関へ文書照会し、分類の公式回答を得る制度です(公開データベースも有)。税関総合情報+3税関総合情報+3税関総合情報+3

補足:輸出用書類のHSは相手国の6桁が求められる場面があります。最終的には輸入国税関での受理が基準なので、相手側と整合確認を。トムソン・ロイター


2. 原産地規則の見つけ方:日本税関サイトを使う

使うサイト:日本税関「品目別原産地規則 検索画面」
(トップの「EPA・原産地規則ポータル」から到達可)

操作手順

  1. サイトにアクセスし、**協定(国名/Country)**を選択。
  2. HSコード4桁または6桁を入力(ドットなし)。
  3. 検索すると、該当品目の**品目別原産地規則(PSR)**が表示されます。
  4. 表示は関税譲許の有無に関わらずPSRが出る仕様のため、後述の関税譲許表も要確認。税関総合情報

重要な注意(サイト記載の要旨)

  • HSコード版の違いに注意:協定ごとにHS2002/2007/2012/2017/2022など採用版が異なるため、協定が採用する版で検索・読み替えが必要。WCOの相関表リンクも掲載されています。輸入申告は最新版HSを使用。税関総合情報
  • 関税譲許の確認:PSRが満たせても、対象品が関税撤廃・削減の譲許対象かは別問題。サイトから日本の実行関税率表相手国譲許表への案内があります。税関総合情報

3. 原産地基準の読み方

(A) CTC(関税分類変更)系

  • CC/CTC=類変更(2桁)、CTH=項変更(4桁)、CTSH=号変更(6桁)。非原産材料のHSが、最終製品の規定桁で別番号になることが条件。
  • 除外書きに注意:例「CTH(ただし○○からの変更を除く)」=その番号の非原産材料を使うと変更達成と認めない。日EU・EPAの同軸ケーブル等の例が公開資料にあります。ジェトロ

(B) RVC(域内原産割合)系

  • 控除方式RVC:RVC(%)=(FOB−VNM)/FOB×100(VNM=非原産材料価額)。
  • MaxNOM(非原産材料最大割合):MaxNOM(%)=VNM/EXW×100。
  • 日EU・EPA資料では、RVCはFOB基準MaxNOMはEXW基準で示され、計算例が図表つきで整理されています。ジェトロ

(C) 加工工程基準(Specific Process, SP)

  • 例:**化学反応(CR)**の実施を要件とするなど、特定工程の実施が条件。RCEPの公表資料に定義・例示があります。税関総合情報

(D) 併用・選択

  • 多くのPSRは「CTC 又は RVC」の選択ですが、品目・協定によっては両方必要(AND)や工程基準の追加もあります(例示:日印EPAなどの解説)。ジェトロ

4. 気をつけること

  • HS版ズレ:協定採用版(HS2012/2017/2022 等)でPSRを読む。必要に応じてWCO相関表で対応関係を確認。税関総合情報
  • 関税譲許の有無:PSR表示は譲許と無関係。実行関税率表/相手国譲許表優遇が存在するかも必ず確認。税関総合情報
  • 除外書き・脚注:PSRの括弧書きの除外材料注記は落とし穴。日EU・EPAの具体例(同軸ケーブル等)を参考に、材料毎のHSを棚卸して該当有無を精査。ジェトロ
  • AND/ORの読み取り:選択制か併用要件かで求める証拠が激変。協定文・注釈まで確認。ジェトロ
  • 最小限作業の不原産(Insufficient Working):単純な包装・選別等は原産性を与えない扱い。EUの公式解説でも強調されています(日EU・EPAの理解に有用)。trade.ec.europa.eu
  • デミニミスや累積の活用:わずかな非原産材料の許容(デミニミス)や累積規定で救済できる場合あり。RCEP資料の図解が実務に有用。税関総合情報
  • 価格基準の取り違い:RVCはFOB、MaxNOMはEXWなど、計算の価格基準を誤らない(協定・注記で要確認)。ジェトロ
  • 証憑の整備:自己申告・証明書に加え、計算根拠や裏付け資料(原材料の原産性、購買・製造・在庫記録等)を保持。税関ガイドラインも証拠書類の必要性を明示。税関総合情報
  • 協定選択の視点:同一相手に複数協定が使えるとき、単に税率だけでなくPSRの難易度や手続負担も比較すると実務最適。Business Growth Service
  • 相手国HSの整合:輸入国で受理される6桁かを事前に確認(輸入者・現地税関と照合)。トムソン・ロイター
  • 迷う場合:**事前教示(分類/原産地)**を活用し、将来紛争を未然防止。税関総合情報+1

5. 日本税関サイトでの「読み方」

  • 画面入力:国名(協定)HS4または6桁→検索。
  • 結果の典型表示:
    • CTH/CTSH/CC=関税分類変更(変更レベルに注意)
    • RVC◯◯%MaxNOM◯◯%=付加価値系(計算基礎FOB/EXWに注意)
    • **CR(Chemical Reaction)**等=工程基準
    • (○○からの変更を除く)等=除外(その材料は原産であることが前提)
    • 注記や脚注は必ず確認(AND/OR関係、例外、定義)
    • (注意)関税譲許の有無は別途確認税関総合情報ジェトロ

6. 1ページ・ワークフロー

  1. HS確定:通則→注解→候補比較→(必要なら)事前教示。税関総合情報+1
  2. PSR検索:税関サイトで協定×HS検索→PSR・注記を読み込む。税関総合情報
  3. 判定設計:CTCかRVCかSPか、AND/ORか、除外・デミニミス・累積の有無。税関総合情報ジェトロ
  4. 証憑整備:BOM・購買証跡、工程記録、RVC計算書、供給者原産声明等。税関総合情報
  5. 譲許確認:実行関税率表/相手国譲許表で対象か確認。税関総合情報

7. 用語解説

  • GIR(通則):HS分類の大原則。税関総合情報
  • PSR:品目別原産地規則。CTC/RVC/SPなどで原産性を判定。ジェトロ
  • CTC(CC/CTH/CTSH):非原産材料のHSが最終製品に対し規定桁で別番号へ変更。ジェトロ
  • RVC/MaxNOM:域内原産割合または非原産材料割合の基準(計算基礎に注意)。ジェトロ
  • SP(加工工程):化学反応など特定工程の実施が要件。税関総合情報
  • デミニミス/累積:わずかな不適合材料の許容、域内材料の相互みなし。税関総合情報

株式会社ロジスティックはFTA活用のコンサルタント。気軽にご相談ください。

初心者向け:EPAのSP(加工工程基準)完全ガイド

1. SPを理解するための基本用語

まず、原産地規則で頻繁に使われる基本的な用語を確認しましょう。

  • PSR(Product-Specific Rule:品目別規則) 産品ごとに定められた原産地要件のことです。多くの場合、関税分類変更基準(CTC)付加価値基準(VA)、**特定工程基準(SP)**が、単独または複数の選択肢として規定されています。日EU・EPAのPSRは、HSコード2017年版を基準に作成されています。
  • SP(Specific Process:加工工程基準) 化学反応、蒸留、紡績、編立、縫製など、産品の製造に不可欠な特定の工程そのものを協定域内で行うことを原産地要件とする基準です。化学品に関するSPの定義は、協定の附属書3-A(原産地手続)の注5に詳述されています。
  • 付加価値基準(VA: Value Added) 非原産材料の価額の上限(MaxNOM)や、協定域内で付加された価値の割合(RVC)を定める基準です。SP基準の代替として選択できる品目が多くあります。
    • MaxNOM(Maximum value of non-originating materials):非原産材料価額の上限。 計算式例: MaxNOM=VNM÷EXW​×100≤規定の割合(%) (VNM: 非原産材料価格, EXW: 工場渡価格)
    • RVC(Regional Value Content):域内原産割合。 計算式例: RVC=(FOB−VNM)÷FOB​×100≥規定の割合(%) (FOB: 本船渡価格)
  • 不十分な加工(Insufficient Working or Processing) 乾燥、包装、ラベルの貼り付け、単なる混合や組立てなど、産品に実質的な変更を加えないと見なされる軽微な作業です。たとえ品目別規則(PSR)の他の要件を満たしても、これらの作業しか行っていない場合は原産性が認められません
  • 非改変の原則(Non-Alteration Rule) 原産品として認められた産品は、日本とEU間の輸送途中で実質的な変更が加えられてはなりません。保管、仕分け、ラベル貼り替えなどのごく限定的な作業のみが許可されます。
  • 証明と記録保存 輸出者が作成する原産地に関する申告文(自己申告書、Annex 3-Dに規定)、または輸入者が持つ知識に基づいて原産性を証明します。輸出者は、申告の根拠となる書類を最低4年間保管する義務があります(輸入者は最低3年)。

2. 日EU・EPAにおけるSPの具体例

加工工程(SP)は、産品の分野によって様々なものが規定されています。

  • A. 化学品(HS第28~38類など)
    • 定義(附属書3-A 注5):分子構造を変化させる「化学反応」、沸点の差を利用する「蒸留」、材料を細かくする「粒度の変更」、不純物を取り除く「精製」、異性体を分離する「異性体分離」、微生物などを利用する「バイオテクノロジー工程」などがSPとして定義されています。
      • 注意:単なる溶解、溶媒の除去、結晶水の付加・除去は「化学反応」に含まれません。
    • PSRの例(第28~34類、38類など):多くの品目で「CTSH(HSコードの上4桁変更) または 特定のSPの実施 または 付加価値基準(MaxNOM 50%など)」のように、複数の選択肢から一つの要件を満たせば良いとされています。
    • 鉱物油(第27類):「蒸留」または「化学反応」の実施がSPとして規定されています。
    • バイオ燃料:「トランスエステル化」「エステル化」「水素化処理」といった特定の化学プロセスがSPとされています。
  • B. ゴム製品(HS第40類)
    • 再生タイヤ(HS 4012.11~4012.19):使用済みタイヤのトレッド(接地面)を張り替える「リトレッド」がSPとして明確に規定されています。
  • C. 繊維・衣類(HS第50~63類)
    • 基本原則:繊維分野では、原料から製品になるまでの一連の工程(紡績 → 製織・編立 → 染色・仕上げ → 縫製)のうち、**2つ以上の主要工程(二段階変更、double-transformation)**を経ることを基本としています。
    • PSRの例
      • 絹糸(HS 50.04~50.06):繊維の押出+紡績、撚糸+機械加工など。
      • 綿織物(HS 52.08~52.12):紡績+製織、製織+染色、糸染+製織、製織+プリントなど、複数の工程の組み合わせが規定されています。
      • 編物(HS第60章):編立+染色、編立+縫製など。
      • 衣類(HS第61~62章)
        • ニット衣料:編立+縫製(裁断を含む)。
        • 織物衣料:製織+縫製(裁断を含む)。品目によっては「プリント+縫製」で認められる場合や、併せて**非原産生地の価額上限(例:EXW価格の40%以下)**が定められている場合があるため、個別の条文確認が必須です。
    • 繊維の特別規定(附属書3-A 注6~8):最終製品の重量比10%以下の非原産材料を考慮しない「許容差(デミニミス)ルール」など、特別な規定も存在します。

3. SP基準を満たすための証拠書類(例)

SP基準で原産性を証明するためには、該当する工程を実施したことを客観的に示す書類が必要です。

  • 全品目に共通する書類
    • 部品表(BOM):非原産材料のHSコードと投入量がわかるもの。
    • 工程フロー図、製造指図書、作業標準書
    • 生産実績記録:ロット番号、製造日、使用設備、外注先の情報など、トレーサビリティを確保できるもの。
    • 輸送・保管記録:船荷証券(B/L)、航空貨物運送状(AWB)、通関書類など(非改変の原則を立証)。
    • 原産地に関する申告書の写しとその根拠資料(4年間保管)。
  • 化学品・鉱物油
    • 反応記録:温度、圧力、反応時間、触媒の種類、反応式など。
    • 蒸留記録:蒸留塔の運転ログ、温度データなど。
    • 分析データ:粒度分布、純度、不純物量の測定結果など、SPの定義を満たすことを示す証跡。
  • 繊維・衣類
    • 各工程の作業記録:紡績、編立、製織、染色、プリント、縫製などの設備稼働ログや外注契約書。
    • 裁断伝票、型紙など。

4. SP基準による原産性判定の実務フロー

以下の手順で確認を進めることで、正確な原産性判定が可能です。

  1. HSコードの確定:まず、輸入国(EUまたは日本)のHSコードで産品を特定します。
  2. PSRの確認:附属書3-Bで該当するHSコードのPSRを調べ、SPが選択肢として利用できるか、代替要件(CTC/VA)は何かを確認します。
  3. SP定義の照合:附属書3-Aの注釈などで、該当するSP(化学反応、蒸留など)の厳密な定義と自社の工程が合致しているかを確認します。
  4. 加工場所の確認:規定の工程が、日本またはEUの域内で完結していることを確認します(第三国での実施は認められません)。
  5. 不十分な加工でないことの確認:実施した工程が、不十分な加工に該当しないことを協定条文で確認します。
  6. 補足要件の確認:PSRに付加価値の上限や許容差ルールが併記されている場合は、それらも同時にチェックします。
  7. 非改変の原則の立証:輸送途中で実質的な加工が行われていないことを証明する書類を準備します。
  8. 自己申告書の作成・保存:原産地に関する申告書を作成し、全ての根拠書類とともに4年間保管します。

5. ケーススタディ:SP基準の適用例

  • 例1:有機化学品(HS第29類) PSRに「化学反応の実施」があれば、反応式や製造ログで「分子構造を変化させた」ことを立証します。これにより、CTCやVA基準を計算することなく原産性を満たせます。
  • 例2:Tシャツ(HS 6109) PSRに「編立および縫製」とあれば、生地の編立とTシャツへの縫製を域内で行った記録(稼働ログ、裁断伝票など)を揃えることで原産性を証明できます。
  • 例3:再生タイヤ(HS 4012.11) PSRに「リトレッド」と明記されているため、使用済みタイヤのトレッドを剥がし、新しいトレッドを貼り付けて加硫した工程記録を証拠とします。

6. SP基準を適用する際の主な注意点とよくある間違い

SP基準の適用では、思い込みや誤解によるミスが発生しがちです。以下の点に特に注意してください。

  • 「混合」と「化学反応」の混同 単に複数の薬品を混ぜ合わせただけでは「化学反応」にはなりません。分子構造の変化を伴うことが定義であり、単純混合は不十分な加工と見なされる可能性があります。
  • 工程の定義を厳密に確認する 「粒度の変更」は、単に砕くだけでなく「管理された方法で特定の粒度分布にすること」が求められるなど、各工程には厳密な定義があります。協定の注釈を必ず確認してください。
  • 「プリント工程」の過信 繊維製品において、プリントと縫製だけで原産性が認められるのは、PSRにそのように明記されている特定の品目に限られます。すべての衣類に適用できるわけではありません。
  • 代替規則や但し書きの見落とし PSRで要件が「;(セミコロン)」で区切られていれば**選択可能(OR)ですが、「,(カンマ)」や「及び」で繋がれていれば両方を満たす必要(AND)**があります。非原産材料の価額上限などの但し書きも見落とさないようにしましょう。
  • 加工場所は協定域内に限定 SPとして認められる工程は、すべて日本またはEUの域内で実施されなければなりません。第三国での委託加工は、SPの根拠には使えません。
  • 輸送と記録保存の徹底 輸送中に第三国で実質的な変更が加えられたり、根拠書類の保管義務(輸出者4年)を怠ったりすると、原産性が否認されるリスクがあります。

ロジスティックはFTAの原産地証明のプロフェッショナル。お困り事はロジスティックまで。

FTA/EPA 原産地証明で日本企業が陥りやすい5つのポイント

FTA/EPAの原産地証明で日本企業が間違えやすい5つのポイントを、原因と実務での対策セットで整理しました。


1. 協定の選択ミス(RCEP/CPTPP/二国間EPA等の取り違え)

  • ありがちな状況: 相手国に複数協定が並立しているのに、最初に見つけた協定のPSR(品目別規則)で判定してしまう。結果、要件不一致や不要に厳しい基準を適用してしまう。
  • リスク: 特恵関税の適用が否認され、追徴課税が発生する。また、事後調査(検認)で指摘を受ける可能性がある。
  • 対策: 輸出先×HSコードごとに**「協定比較表」**(適用される関税率、PSR、証明方式、自己申告の定型文/番号、有効期限など)を整備する。見積段階で最適な協定を確定し、社内承認の必須項目とすることが望ましい。

2. HSコードの誤分類 → 間違ったPSRの適用

  • ありがちな状況: 品名だけでHSコードの上4桁や6桁を判断し、関税率表の**「類注」「部注」や「通則(GRI)」**を確認していない。あるいは、材料や機能のわずかな差異を見落としてしまう。
  • リスク: 適用すべきPSRそのものが別物になり、原産性を満たせなくなる(関税番号変更基準や付加価値基準の要件が変わる)。
  • リスク要因の補足: HSコードは約5年ごとに大きな改正があり、知らないうちに自社製品のHSコードが変更されている可能性もある。
  • 対策: HSコードは仕様書と現物で確認し、必ず「類注」「部注」「通則」まで精読する。分類が難しい品目や変更が多い品目は、専門家レビューや税関への**「関税分類事前教示」**の取得をルール化する。見積時と出荷時でHSコードに相違がないか、チェック体制を構築する。

3. 原産資格の計算ミス(RVC/CTC/加工要件の読み違い)

  • ありがちな状況:
    • RVC(付加価値基準): 計算方式(積上方式 / 控除方式)や、計算の基礎となる価格(EXWかFOBか)を取り違える。非原産材料の価格に含めるべき費用範囲を誤解する。為替換算日が部署ごとに異なり、計算結果がぶれる。
    • CTC(関税番号変更基準): 非原産材料からのHSコードの変更(が、協定で定められたレベル(例:2桁、4桁、6桁)を満たしているかどうかの判定を誤る。
    • その他: デミニミス(僅少の非原産材料を無視できるルール)や、同種の材料をまとめて扱うことのできるルールの適用を誤解する。
  • 対策: 協定ごとに計算用テンプレートを分け、計算式・費用範囲・換算日などを固定化し、ミスを防ぐ。見積書、請求書、BOM(部品表)など、計算の根拠となる証拠書類を案件ごとに整理・保存する。価格改定、工程変更、部材変更など、計算結果に影響する事象が発生した際に、再計算を促す管理表を作成する。

4. 裏付け資料の不足と累積(Accumulation)の誤用

  • ありがちな状況: 国内で調達した材料だからという理由で、証拠なく「原産材料」と見なしてしまう。サプライヤーから入手した原産性証明資料(サプライヤー証明書)の有効期限や、対象となる協定を確認していない。累積(他の協定締約国の産品を自国の原産材料と見なせる制度)を利用する際に、対象国や要求される様式、記載事項を満たしていない。
  • リスク: 事後調査(検認)時に、材料の原産性を立証できず、産品全体の原産性が否認される。
  • 対策: BOM(部品表)の各部材について、原産性(原産か非原産か)、その根拠書類、適用協定、有効期限などをまとめた**「原産性管理マップ」**を作成する。サプライヤー証明書は定期的な更新を徹底し、可能であればロットと紐づけて管理する。累積を利用する場合は、必ず協定の累積条項を読み込み、使用可否と必要な手続き・書式を事前に確認する。

5. 物流・書類運用の要件不備

  • ありがちな状況:
    • 直接輸送の原則: 第三国を経由する際に、保税地域で行った仕分けやラベリングが、協定で許容される「軽微な加工」の範囲を超えてしまい、原産性を喪失する。
    • インボイス: 第三国インボイスを利用する際に、協定で規定された文言や記載欄への記入が漏れる。
    • 証明書・申告文: 自己申告制度において、協定で定められた定型文や、認定輸出者番号/法人番号などの記載が不正確である。
    • その他: 分割輸送や、中継貿易で利用されるバック・トゥ・バック原産地証明書の発給条件を確認しないまま手配してしまう。
  • 対策: 輸送ルートを設計する段階で、協定の「直接輸送の原則」と「非加工証明」の要件を確認する。第三国インボイスの必須記載事項をインボイスの雛形に反映させる。原産地証明書や自己申告文は、協定別のチェックリストを用いて、定型文・番号・署名の要否・有効期限などを複数人で確認する。