ベラ・バラッサの経済統合5段階:FTA/EPA実務担当者向けガイド

ベラ・バラッサの経済統合5段階:FTA/EPA実務担当者向けガイド

趣旨
段階が上がるほど、域内の自由化が深まり、共通ルール・共通機関・政策協調が増えるのが本質。関税メリットだけでなく、通関の簡素化、規格・認証、人材・資本移動、競争法・補助金規律まで影響が広がります。


1. 自由貿易協定(FTA/広義EPAを含む) / Free Trade Area

要点
加盟国間で原則として関税(と多くの数量制限)を撤廃。ただし対外関税は各国別のため、原産地規則(ROO)で迂回輸入を防止。サービス・投資・知財・調達等まで含む包括協定を日本ではEPAと呼ぶことが多い(バラッサの段階とは別軸)。

代表例

  • USMCA(旧NAFTA)
  • CPTPP
  • RCEP
  • 日EU・EPA
  • ATIGA(通称AFTA:ASEAN域内物品)

実務ポイント(チェックリスト)

  • 対象HS・特恵税率・発効日・移行スケジュール
  • **原産地判定(CTC/VA/特定工程)累積(cumulation)**の可否
  • 原産地証明方式(第三者発給/自己申告/登録輸出者)と保存義務
  • サプライヤー宣誓・BOMトレース体制
  • 複数協定の併用最適化(実効税率×通しやすさ)

2. 関税同盟 / Customs Union

要点
FTAに加え共通対外関税(CET)を採用。域内は自由流通(free circulation)の概念で扱われ、域内相互の売買にROOは通常不要。ただし自由流通であることの証明(Union goodsのステータス)が求められる場合あり。対第三国とのFTA活用では引き続きROO管理が必要。

代表例

  • EU関税同盟
  • SACU(南部アフリカ関税同盟)
  • メルコスール(MERCOSUR)(関税同盟志向だが例外多め)
  • EU–トルコ関税同盟工業品中心多くの農産品は対象外

実務ポイント

  • 域内販売:自由流通化ステータスの確認(通関簡素化・ROO不要)
  • 輸入段階:CET適用でMFN差の追跡負担を低減
  • 第三国向け特恵利用:別途ROO管理が存続
  • 税関手続・分類・評価の共通化対応

3. 共同市場 / Common Market

要点
関税同盟に財(物)・サービス・資本・労働の自由移動を追加。規格・認証・ライセンス等の非関税障壁の撤廃や相互承認が進む。

代表例

  • EU単一市場(Single Market)
  • EEA(EU加盟国+ノルウェー/アイスランド/リヒテンシュタイン)
  • CARICOM CSME
  • EAC共同市場

実務ポイント

  • 人材配置・越境サービス提供・資本移動の許認可簡素化を活用
  • 規格・適合性評価の相互承認で重複試験・認証を削減
  • データ移転・金融パスポート等の横断規制の有無を確認

4. 経済同盟(経済連合) / Economic Union

要点
共同市場に加え、競争政策・通商政策・規制政策の共通化・協調。場合により通貨統合(単一通貨・中央銀行)超国家的機関が立法・執行を担う。

代表例

  • 欧州連合(EU)(単一市場+共通政策、ユーロ圏は通貨統合)
  • EAEU(ユーラシア経済同盟)

実務ポイント

  • 競争法・補助金規律・公共調達などの域内共通ルールに適合
  • 通貨統合域では為替リスク・決済手続が単純化
  • 環境・デジタル・サステナ規制の同時適用に備え、SCM全体を再設計

5. 完全なる経済統合 / Complete Economic Integration

要点
経済同盟を越え、通貨・財政・租税・社会保障まで実質統一し、主権移譲が高度。域内は単一の経済体として機能。バラッサの理論上の到達点で、現実の実例は国家連邦レベルに近い。

代表例(イメージ)

  • 一国内市場(例:米国・カナダの国内市場)に見られる統合度合いが参照像。
  • EUも銀行同盟・財政統合が進めば一層近づく可能性。

実務ポイント

  • 税制・補助金・労働・社会保険がほぼ単一制度となり、拠点・人事・税務の意思決定は国内移転に近い設計へ。

つまずきやすい論点

  • 関税同盟=どこから入れても同じ?
    おおむね正しいが、原産地問題が“消える”のは域内相互取引に限る。対第三国の特恵活用やAD/CVDでは原産地・出荷地・HS適用の論点が残る。
  • 共同市場=完全統合ではない
    人・サービス・資本の自由移動があっても、税制・財政は各国別であることが多い。
  • 名称と実態はズレ得る
    メルコスールのように関税同盟志向でも例外・非関税障壁が残存する場合がある。協定文+運用通達で要確認。
  • EPAの広がりは“段階”と直交
    関税がゼロでも、デジタル・環境・労働等の規制対応コストが無視できないケースが増加。

小さな意思決定フロー

  1. 関税メリットの入口特定:対象HS×仕向/調達で使える協定→特恵税率・発効・移行表
  2. 原産地到達の試算:PSR型(CTC/VA/特定工程)・累積・主要原料の域内化
  3. 証明方式と内部統制:証明様式/自己申告・保存年限・誤記対応・宣誓の年次更新
  4. コスト対効果:関税差額×数量 −(証明・BOM維持・監査対応コスト)
  5. 上位段階の制度活用:関税同盟・共同市場なら規格相互承認/人材・資金の自由を前提に上市スピード最適化

まとめ

  • 5段階は、関税→対外関税共通化→要素移動の自由→共通政策→完全統合の順で深化。
  • FTA/EPA担当は、(1)関税×原産地、(2)税関手続、(3)規格・認証、(4)人材・資本移動、(5)競争法・補助金規律の“層”で評価すると、恩恵とリスクを取りこぼしません。

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

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