米国鉄鋼・アルミニウム関税(Section 232)の現状と企業対応の包括的整理(2025年10月11日現在)

2025年10月11日 アップデート

エグゼクティブサマリー

2025年3月12日に全世界一律25%へ再拡大されたSection 232関税は、6月4日に原則50%へ倍増され、8月には407品目の派生品が追加されました。英国のみ米英経済繁栄取引(EPD)により25%を暫定維持していますが、7月9日以降の見直し条項が付帯されています。ロシア原産アルミニウムには200%の懲罰的関税が継続適用され、含有価額ベースの二行申告とメルト&ポア/スモルト&キャストのISO国コード報告が義務化されています。


現段階での制度状況

関税率の推移と国別取扱い

2025年3月12日発効:全世界一律25%へ統一され、EU・日本・韓国・カナダ・メキシコ・英国の代替取決め及びTRQ(無税枠)が一括終了しました。商務省(BIS)の製品除外プロセスも停止され、一般承認除外(GAE)は3月11日24時をもって失効しています。

2025年6月4日発効:鉄鋼・アルミニウム及び派生品の関税率が50%へ倍増されましたが、英国のみEPD(5月8日署名)に基づき25%を維持しています。大統領布告では、商務長官が7月9日以降、英国のEPD遵守状況に応じてTRQ設定または50%への引上げ権限を有すると規定されています。

ロシア産アルミニウム:2023年3月のProclamation 10522により設定された200%の追加関税が継続適用されています。さらに、2025年6月28日以降、スモルト&キャスト原産国が不明または特定不能な派生アルミニウム製品にも200%関税が適用される運用が開始されました。

適用品目の大幅拡大

派生品の範囲拡張:商務省BISは2025年8月18日、407のHTSUS品目を新たに追加し、Chapter 72/73(鉄鋼)及びChapter 76(アルミニウム)以外の完成品・部材への適用を拡大しました。追加品目には風力タービン、モバイルクレーン、ブルドーザー、鉄道車両、家具、コンプレッサー、ポンプなど産業機器・消費財が含まれます。

含有価額課税の導入:派生品については、鉄鋼・アルミニウム含有部分の価額に対してのみ50%関税を適用し、非金属部分には相互関税(Reciprocal tariff、現行10%)が適用されます。この二重課税構造により、企業はBOM(部品表)精度の向上が必須となっています。

自動車部品の追加プロセス:2025年9月17日、商務省は乗用車・軽トラック向け自動車部品をSection 232対象に追加するための暫定最終規則を公表しました。国内自動車・部品メーカーまたは業界団体が、年4回(1月・4月・7月・10月)の申請期間に追加要請を提出でき、ITA(国際貿易管理局)が60日以内に判断します。


申告実務とコンプライアンス要件

二行申告の義務化

CBPは、派生品の鉄鋼・アルミニウム含有価額と非金属部分を別行で申告する二行仕立て(Two-line entry)を義務化しました。

第1行(非金属部分):Chapter 1-97の通常HTSコード、総申告価額から金属含有価額を控除した金額、製品全体の数量、相互関税・AD/CVD等の適用関税を記載します。

第2行(金属含有部分):同一HTSコード、金属含有価額、数量ゼロ(製品数)、Section 232関税(HTS 9903.81.91等)、金属重量(kg単位)を記載します。金属含有価額が不明または申告価額と同一の場合は、全額に対して232関税を適用し、一行申告となります。

メルト&ポア/スモルト&キャスト報告

鉄鋼:メルト&ポア(溶解・注湯)が行われた国をISO国コードで報告する義務があります。派生品の場合は、原鋼のメルト&ポア国または「OTH」(その他)を記載します。

アルミニウム:スモルト&キャスト(製錬・鋳造)国をISO国コードで報告します。ロシア由来の混入を防ぐため、スモルト&キャスト国が不明な場合は200%関税が適用されるリスクがあります。

米国鋼材活用の特例措置

米国内でメルト&ポアされた鋼材を用いて海外で加工された派生品は、HTS **9903.81.92(関税率0%)**の適用対象となります。この措置は、米国鋼材産業の支援とサプライチェーン再構築を促進する戦略的インセンティブです。

FTZ・ドローバックの制約

FTZ(外国貿易地域):Section 232対象品目をFTZに搬入する場合、Privileged Foreign Statusでの取扱いが必須となりました。3月12日以前にPFSとして搬入された貨物も、消費引取時には232関税が適用されます。

ドローバック不可:Section 232関税は払戻対象外(No drawback)であり、再輸出時の関税還付が認められません。


企業に求められる対応

A. 輸入実務・コンプライアンス体制の再構築

HTSコード総点検:全SKUについて407品目追加を反映したHTS見直しと232該当性の再評価が必要です。特にChapter 73/76以外の派生品の追加指定を確認し、自社製品ポートフォリオへの影響を定量化します。

含有価額算定システム:サプライヤーから鉄鋼・アルミニウム含有価額($/kg)、重量(kg)、メルト&ポア/スモルト&キャスト国のISO国コード、ロシア由来有無の証明書を取得する仕組みを構築します。請求書・BOM・梱包明細を二行申告フォーマットに整合させます。

監査対応準備:CBPは「過少申告には重大な金銭的制裁、輸入特権の喪失、刑事責任を含む厳格な措置を講じる」と明示しており、証跡管理の強化が急務です。

ロシア規制の徹底:アルミニウム製品については、サプライチェーン全体でロシア由来混入リスクを評価し、200%関税回避のためのトレーサビリティを確保します。

B. サプライチェーン・調達戦略の見直し

米国鋼材活用戦略:HTS 9903.81.92(0%)適用により、米国メルト&ポア鋼材を用いた海外加工モデルの経済性を検証します。米国内サプライヤーとの連携強化や、自社設備の米国内増強を検討します。

代替材・リサイクル材の評価:アルミニウムは50%関税による需要破壊リスクが指摘されており、リサイクル材の活用や設計変更による使用量削減を評価します。

現地化・統合の加速:日本製鉄のU.S. Steel買収(2025年6月18日完了)のように、米国内での生産体制統合により232リスクを構造的に回避する選択肢を検討します。

C. 価格・契約条項の整備

サーチャージ条項の高度化:Section 232(50%)、IEEPA相互関税(10%)、中国向けフェンタニル関税(20%)の積上げ/非積上げルールを反映した価格式を導入します。6月4日布告では、232対象の非金属部分に相互関税が適用される運用変更があったため、価格式の見直しが必須です。

イベントドリブン改定条項:BIS派生品追加、関税率変更、EPD運用変更等のトリガーイベント発生時に自動価格改定する契約条項を設定します。

資金繰り対策:50%関税により輸入1件あたりの関税支払額が倍増するため、信用状・担保枠・運転資金の再評価と、Cash Conversion Cycle(CCC)への影響分析が必要です。

D. ガバナンス・継続的監視体制

規制更新の定点観測:BIS派生品追加(次回窓口:2025年10月)、英国EPD実装状況、CBP CSMS更新、木材製品への232拡大(10月14日発効)等を継続監視します。

横断組織の設置:関税・SCM・購買・設計・法務・経理の横断チームを編成し、SKU単位のリスク台帳・シナリオ分析・対策ロードマップを維持します。


具体的企業の対応事例

日本製鉄(Nippon Steel)

2025年6月18日、CFIUSの国家安全保障協定(NSA)に基づきU.S. Steelの買収を完了しました。NSAには「Golden Share」(米国政府が取締役1名を指名し、本社移転・社名変更・生産移転・工場閉鎖等に拒否権を保有)が含まれ、日本製鉄は2028年までに110億ドル(うちペンシルベニア州モンバレー地域に24億ドル)の設備投資を約束しました。この統合により、232輸入関税リスクを回避しつつ米国内供給基盤を強化する戦略を実現しています。

UACJ(アルミ圧延大手)

2025年3月12日の25%関税導入(後に50%へ移行)を受け、価格サーチャージの導入、定期的な価格見直しメカニズム、米国内生産能力の増強方針を明示しました。

自動車OEM

GMは2025年決算説明で、Section 232の50%関税および他関税の重畳がコスト構造を圧迫していると公表しました。トヨタ・ホンダも、米国輸入関税と円高の影響により減益圧力に直面しており、価格戦略・仕向地配分の見直しを進めています。

金属缶製造業界

Can Manufacturers Institute(CMI)は、50%への引上げが食料品・飲料価格の押上げにつながるとして反対を表明しました。

下流産業への波及

8月の派生品追加により、建設機械部品・家具・ポンプメーカーなど400超の品目を扱う企業が新たに対象となり、設計変更・価格見直し・サプライチェーン再編を迫られています。


実務Tips

  1. BOMからの価額抽出:社内BOMシステムから鉄鋼・アルミニウム含有価額を抽出し、請求書項目を二行申告フォーマット(製品行+232行)に整備します。232行には重量(kg)も記載します。
  2. 仕入先証明テンプレート:メルト&ポア/スモルト&キャストのISO国コード、ロシア由来有無、含有価額比率、重量を記載した証明書取得用テンプレートを作成し、全サプライヤーに展開します。
  3. 米国鋼戦略の検証:対象派生品について、米国メルト&ポア鋼+海外加工モデルで**HTS 9903.81.92(0%)**適用の可否を確認します。
  4. 動的価格条項:Section 232・IEEPA・相互関税の非積上げ/積上げルールに対応し、トリガーイベント発生時に自動改定する価格式を導入します。
  5. 規制監視ダッシュボード:BIS派生品追加窓口(10月1日開始)、英国EPD運用状況、CBP CSMSメッセージング、木材製品232(10月14日発効)をウォッチする定点観測体制を構築します。

制度根拠(一次情報)

Proclamation 10896(鉄鋼、2025年2月10日):代替取決め/TRQ終了、製品除外停止、25%統一関税を規定。

Proclamation 10895(アルミニウム、2025年2月10日):同上のアルミニウム版、ロシア産200%継続を明記。

Proclamation(2025年6月3日):鉄鋼・アルミニウム関税50%への引上げ、英国25%維持、含有価額課税・計算ルールを明確化。

BIS Federal Register Notice(2025年8月19日):407品目追加の公示。

CBP CSMS # 64348411(2025年3月7日):鉄鋼の二行申告、ISO国コード報告、TRQ・GAE終了、FTZ/ドローバック実務を提示。

CBP CSMS # 65236374(2025年6月3日):50%への増税に伴う申告指示の更新。

Commerce Interim Final Rule(2025年9月17日):自動車部品の追加プロセス確立。


補足:影響度試算の考え方

鉄鋼含有価額$1,000の輸入品の場合、232関税(50%)により**$500の追加コスト**が発生します。派生品の非金属部分(例:$2,000)には相互関税(10%)=$200が別途適用されるため、合計$700の追加関税となります。BOMの精度向上により金属含有価額を正確に切り分けることが、節税の最重要ポイントです。


この改訂版は、提出された調査内容の正確性を確認した上で、最新の規制動向(自動車部品追加プロセス、木材製品への拡大、不明原産国への200%適用等)、実務詳細(二行申告の具体的記載方法、Golden Shareの詳細等)、企業事例の補強を行いました。

 

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