メキシコの関税分類等に関する事前教示(Advance Ruling)制度の実務概要

(本記事の確認日:2025年10月10日)

本稿では、メキシコの関税分類(HSコード)などに関する「事前教示(Advance Ruling/スペイン語:Resolución anticipada)」制度の概要と実務について解説します。

本稿の情報は、T-MEC(USMCA)第7章の国内実施規定である官報(DOF)告示、およびメキシコ税務庁(SAT)の公式ウェブサイトに掲載されている手続様式「E13」などを基に整理しています。


1. 担当機関と関連情報

メキシコの税関当局(autoridad aduanera)は、2022年1月以降、財務省傘下の独立機関である**国家税関庁(ANAM)が担っています。一方で、事前教示制度を含む税関関連手続きの申請窓口や審査実務は、従来通り税務庁(SAT)**の所管部局が担当しています。

制度の詳細は、以下の公式サイトで確認できます。

申請資格や審査手順といった制度の根幹は官報(DOF)に、具体的な申請窓口や必要書類などの実務情報はSATのウェブサイトにそれぞれ記載されています。


2. 申請プロセス

(1) 申請資格 メキシコの輸入者、T-MEC締約国(米国・カナダ)の輸出者または生産者、および正当な理由を持つその他の者が申請できます。代理人による提出も可能です。

(2) 対象事項

  • 関税分類(HSコード)
  • 関税評価方法の適用基準
  • 原産地判定(T-MEC協定上の原産品か否か)
  • その他、当事国間で合意した事項

※関税評価については、適用する「評価方法」の判断が対象であり、具体的な課税価格の決定は対象外です。

(3) 提出先 申請様式「E13」に必要書類を添付し、SATの下記担当部局へ提出します。

  • 原産地関連: ACAJACE (Administración Central de Apoyo Jurídico de Auditoría de Comercio Exterior)
  • 関税分類・評価関連: ACNCE (Administración Central de Normatividad en Comercio Exterior)

(4) 申請後の流れ 申請はスペイン語で行います。審査の過程で、追加情報やサンプルの提出を求められることがあります。なお、すでに紛争中または審査中の同一案件は受理されません。

(5) 結果の通知と不服申立 審査結果は**書面(Resolución anticipada)**で通知されます。法定期間(後述)内に通知がない場合は「不作為(=申請が認められなかった)」とみなされ、不服申立(revocación)、行政訴訟(TFJA)、アムパロ(憲法訴訟)といった法的手続きへ進むことができます。


3. 主な申請情報・必要書類

申請様式「E13」およびDOF規則77~78条で定められている主な記載事項・添付書類は以下の通りです。

  • 当事者情報
    • 申請者(輸入者/輸出者/生産者)の名称、住所、連絡先、通知を受け取るメールアドレス
    • 代理人が提出する場合は、その権限を証明する書類
  • 関連手続きの状況申告
    • 同一事項に関する原産地検証、既存の事前教示、各国での訴訟・不服申立の有無
  • 事実関係の詳細
    • 申請の目的・背景、T-MEC第7.5条(4)項に基づく申請動機、貨物の概要
  • 技術情報(特に関税分類の申請で必須)
    • 貨物の性状、組成、状態、特性、製造工程、輸入時の包装形態、用途(最終的な使われ方)、商慣習上の名称や技術名
    • 図面、写真、カタログ、サンプルなど(必要に応じて材料情報も)
  • 原産地関連情報
    • 生産工程の説明、使用材料の内訳とその根拠など、協定で定められた情報
    • ※様式E13の提出要領に詳細な記載があります。代表者の権限証明書、身分証明書、サンプル等の添付が必要です。

4. 審査期間

  • 原則120日以内 T-MEC第7.5条(6)項に基づき、申請に必要な情報がすべて受理されてから最長120日以内に事前教示が発出されます。期限を過ぎても発出されない場合は「不作為」とみなされ、不服申立が可能です。
  • 注意点 SATのウェブサイトには「審査期間は適用される条約・協定に依存する」との注記があります。T-MEC以外の協定に基づいて申請する場合は、該当する協定の規定も併せて確認してください。

5. 事前教示の効力と有効期間

  • 効力発生日 発出日、または裁定書で指定された日から有効です。
  • 有効期間 明確な有効年数は定められておらず、法令改正や裁定の変更・撤回がない限り有効です。ただし、法令の改廃、申請内容の事実関係の変更、情報の誤りや虚偽などが判明した場合は、変更または撤回される可能性があります。
    • 変更・撤回は原則として将来に向かってのみ効力を持ちますが、虚偽申請など悪質な場合は遡及して適用されることがあります。
  • 法的拘束力 当局が発出した書面による事前教示は、申請者から提示された事実関係と同一の貨物が輸入される際、その関税分類や原産地などの税関手続きにおいて尊重され、通関時の予見可能性を高める役割を果たします。

6. 費用

  • 手数料:無料(Trámite gratuito) SATの公式ウェブサイトに明記されています。
  • その他 サンプルの送料、書類の翻訳費用、外部機関の試験成績書の取得費用など、申請資料の準備にかかる実費は申請者負担となります。

7. 実務上の留意点

  • 不受理となるケース 申請案件と同一の事項が、すでに他の審査や不服申立の対象となっている場合、当局は理由を付して申請を拒否することができます。
  • 通知方法 SATの電子通知システム(Buzón Tributario)、対面、書留郵便などで通知されます。
  • 不服申立の制度 審査庁への異議申立(revocación)、行政裁判所への提訴(TFJA)、憲法訴訟(amparo)の三段階の仕組みがあります。
  • 使用言語 申請はスペイン語で行います。外国語の資料には、スペイン語翻訳の添付が推奨され、場合によっては要求されます。
  • 関連制度との違い(重要) 国内向けの手続きである「技術会合(Juntas técnicas de clasificación arancelaria)」や「分類・NICO照会(Consulta de Clasificación Arancelaria y del Número de Identificación Comercial)」は、条約に基づく国際的な「事前教示(Advance Ruling)」とは異なる制度ですので、混同しないよう注意が必要です。

■ すぐに使える!実務チェックリスト

  • [書類準備] 申請様式「E13」の必須項目と、DOF規則77~78条が要求する記載要件(関連手続きの状況、事実関係、通知先など)を漏れなく記載する。
  • [関税分類] 組成(%)、製造工程、用途、構造などを明確にし、図面・写真・カタログ・サンプルを添付して、類似品との違いを具体的に示す。
  • [原産地] 使用した材料の内訳、加工工程、適用される原産地規則の条文(協定の該当付表など)を整理し、申請内容と事実が同一であることを証明する。
  • [工程管理] 当局からの追加資料要請に迅速に対応できるよう、技術・調達・品質管理部門との連携体制を整えておく。120日という法定上限を念頭に置き、万が一の不作為に備えた不服申立のスケジュールも計画に含める。

■ まとめ(要点早見表)

項目内容
申請窓口SAT(担当:ACAJACE/ACNCE)。様式「E13」で申請。
対象事項関税分類(HSコード)、関税評価の方法、原産地判定など。
審査期間必要情報がすべて揃ってから120日以内。期間内に発出されない場合は不服申立が可能。
効力発出日から有効。法令改正や裁定の変更・撤回まで有効(原則として遡及適用なし)。
費用無料(ただし、資料準備に伴う実費は申請者負担)。

 

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