カテゴリー: 原産地証明
FTAのデミニミス規定と米国のデミニミス免税停止について
経営者・実務担当者向け 完全ガイド(2025年9月14日現在)
【1分サマリー】重要ポイント
同じ「デミニミス」でも中身は別物
- FTA/EPAのデミニミス=原産地規則の僅少許容(多くは価額10%、繊維は別建て)→ 継続中。Centre for International Law+4United States Trade Representative+4Global Affairs Canada+4
- 米国のデミニミス=800ドル以下の“無税扱い”(Section 321)。2025/8/29から免税扱いを停止。The White House
現在の取り扱い(要点)
- 宅配・一般貨物(非郵便):ACEで適切な輸入申告+関税・税金・手数料。Entry Type 86は使用不可。GovDelivery
- 国際郵便:定額(80/160/200ドル)または従価(IEEPAレート)。6か月の移行後(~2026/2/28)に従価へ一本化。原産国申告必須。U.S. Customs and Border Protection+2U.S. Customs and Border Protection+2
- USMCA特恵:郵便のEO対象品には適用不可(特恵を使う場合はACEでのエントリーが必要)。U.S. Customs and Border Protection
【詳細解説】米国デミニミス免税の停止
何が変わったか
- 2025/7/30:大統領令14324が公布。19 U.S.C. §1321(a)(2)(C)の無税デミニミス扱いを停止。The White House
- 2025/8/29 0:01(米東部)適用開始。非郵便はACEでエントリー必須、郵便は別建ての課税方式へ。The White House
区分別の運用
1) 宅配・航空・海上(非郵便)
- エントリー:正式/非公式を問わずACEによる申告必須。
- Type 86:ACEが全件リジェクト。Section 321の簡易放出は不可。GovDelivery
2) 国際郵便
- 課税方式:
- 定額:80/160/200ドル/品(有効期間6か月)。
- 従価:有効IEEPAレート(原産国別)。2026/2/28以降は従価のみ。
- 実務:原産国の申告、運送者または**“Qualified Party”による月次納付**。CBPへの新ワークシート提出。U.S. Customs and Border Protection+2U.S. Customs and Border Protection+2
3) USMCA等の特恵関税との関係
- 郵便(EO対象)はUSMCA特恵を主張できない。特恵を使う場合はACEでの適切なエントリーへ。U.S. Customs and Border Protection
【継続中】FTA/EPAのデミニミス規定(原産地の僅少許容)
基本:CTC(関税分類変更)を満たせない**“わずかな非原産材料”について、一定割合以下なら原産扱い**とする救済。数値や計算基準は協定ごとに異なる。
協定 | 閾値(代表) | 特記事項 |
---|---|---|
USMCA | 取引価額(国際運賃除外)または総コストの10% | Art.4.12、繊維は別章。United States Trade Representative |
CPTPP | 製品価額の10% | Annex 3‑Cに例外、繊維は重量10%(Ch.4)。Global Affairs Canada+1 |
日EU・EPA | 10%(ex‑works/FOB) | Art.3.6(Tolerances)、繊維は注記で別規定。Ministry of Foreign Affairs of Japan |
RCEP | 10%(FOB) | Art.3.7、繊維は重量10%。Centre for International Law |
活用のポイント
- **CTC未達の“最後の手段”**として検討。
- 例外付属書(CPTPP Annex 3‑C など)で適用不可品目を必ず確認。
- 繊維は重量基準が多い点に注意(一般品の価額基準と混同しない)。
【役割別】緊急アクションプラン
A. 経営者向け(意思決定の勘所)
- 収益影響の即時計算:旧「800ドル以下」案件の関税・通関費上乗せを反映し、売価・利益を再試算。
- 販売条件の再設計:DDP/DAPの負担、リードタイム(通関)、返品費用を見直し。
- 原産最適化:デミニミス+累積を用い、USJTA等の特恵による関税ゼロ/低率化を設計。
- 統制再構築:ACE申告体制・ボンド・ブローカー契約と**KPI(分類正確性/差止率等)**を整備。
- 社内用語の分離:「原産地のデミニミス」と「米国輸入のデミニミス」を明確区分。
B. 実務担当向け(当面の実装手順)
米国向け:宅配・一般貨物(非郵便)
- Type 86停止前提で非公式/公式エントリーへ切替(ACE)。
- HTS10桁・原産国・売買当事者・インボイス値など前工程で確定。
- 関税・税金・手数料の計算とDDP/DAP別の回収フローを整備。GovDelivery
米国向け:国際郵便
- 課税方式(定額 or 従価)の選択・適用を統一(月単位で変更可/2026/2/28以降は従価のみ)。
- 原産国申告+月次納付の新プロセス(Pay.govワークシート)を実装。
- 特恵が必要な出荷はACEエントリーに切替。U.S. Customs and Border Protection+1
FTA原産判定(共通)
- PSR→CTC判定 → 未達ならデミニミス(10%)を評価(繊維は重量)。
- 例外付属書の適用可否確認。
- 材料内訳・計算書・サプライヤー宣誓等の証憑保管を徹底。
【混同防止】制度比較早見表
項目 | FTA/EPAのデミニミス(原産地) | 米国のデミニミス(輸入時の無税扱い) |
---|---|---|
目的 | 原産地規則の救済(CTC未達の僅少分を許容) | 低額貨物の無税扱い(現在は停止) |
閾値 | 価額10%(繊維は**重量10%**等) | 800ドル以下(免税停止) |
根拠 | 各協定条文(例:USMCA 4.12/CPTPP 3.11/日EU 3.6/RCEP 3.7) | 大統領令14324、CBP告知(Type 86不可) |
実務 | 原産判定・計算・証憑 | ACE申告、郵便の新課税、関税納付 |
GovDelivery+6United States Trade Representative+6Global Affairs Canada+6
【具体例】数値シミュレーション
CPTPP・原産地デミニミス
- FOB:100万円
- CTC未達の非原産材料:9万円
- 判定:9% ≤ 10% → 原産品認定可(例外付属書対象は不可/繊維は重量基準)。Global Affairs Canada
米国向け・宅配(非郵便)
- 価格:200ドルの小包 → 無税枠なし。ACEで申告し、関税等納付。GovDelivery
米国向け・国際郵便(移行期間)
- 課税:80/160/200ドルの定額または従価(2026/2/28以降は従価のみ)。原産国申告が必要。U.S. Customs and Border Protection+1
【主要根拠】(リンクは出典先)
- 米国:免税停止の根拠と適用:大統領令14324(2025/7/30)、連邦官報通知、CBP FAQ。The White House+2Federal Register+2
- 米国:郵便の課税方式と期限:CBPファクトシート(定額80/160/200ドル、2026/2/28以降は従価)。U.S. Customs and Border Protection
- 米国:Type 86の不可:CSMS #66065494(ACEがType 86/Section 321を拒否)。GovDelivery
- USMCA特恵と郵便の関係:CBP FAQ(EO対象の郵便ではUSMCA特恵申告不可)。U.S. Customs and Border Protection
- FTAのデミニミス規定:USMCA 4.12/CPTPP 3.11 & Ch.4(繊維)/日EU・EPA 3.6/RCEP 3.7。Centre for International Law+4United States Trade Representative+4Global Affairs Canada+4
ひとことアドバイス
社内では**「原産地のデミニミス(FTA/EPA)」と「米国輸入のデミニミス(Section 321)」を別ラベルで管理してください。米国向け小口出荷は、通関・価格・販売条件(DDP/DAP)・返品まで含めた即時の設計見直し**が安全です。
本資料は一般的な解説です。個別案件では、該当協定本文・付属書、CBPの最新ガイダンス(CSMS/FAQ)、および連邦官報の実施告示をご確認ください。
初心者向け:検認とは何か
A. 検認とは何か
定義:特恵税率で輸入済みの貨物について、原産性・記載の正確性・積送要件などを輸入国税関が確認する事後確認(Verification)。各EPAの規定と国内法に基づいて実施され、書面照会や(協定により)訪問審査が行われる場合がある。
第三者証明(日本発・CO方式)の連絡経路:
相手国税関 →(外交ルート等)→ 経済産業省 → 日本商工会議所(JCCI)→ 企業
提出資料:対比表・計算ワークシート・工程フロー・商流書類等
自己申告制度(例:日EU・EPA):
輸入者主体の責任で申告し、輸入国税関はまず輸入者から情報を求め、追加が必要な場合に輸出国税関へ行政協力を要請(間接検認)。輸入国税関による輸出者への直接訪問規定はない。
B. 検認で原産性が否認された場合の影響
- 特恵の否認:関税差額の追徴、必要に応じて保証金・担保や行政措置・制裁(各国法令に従う)
- 日EU・EPA:検認中に特恵適用を一時停止し、担保提供等を条件に貨物の引取りを認める規定あり(第3.21条6項)
- 回答なし・不十分な場合:否認決定が可能(第3.24条)
- 国内法上のリスク:輸入者側で追加納付・延滞相当の負担が生じる可能性
C. 協定ごとの検認プロセスの違い(代表例)
日タイEPA(第三者証明)
- 流れ:タイ税関 →(外交ルート)→ 経済産業省 → JCCI → 企業
- 期限:最初の確認3か月以内、追加2か月以内
日メキシコEPA
- 特色:相手国税関が輸出者・生産者へ直接確認可能な規定がある
- 認定輸出者による自己証明も採用
日EU・EPA(自己申告)
- 検認:輸入国税関→輸入者、必要に応じ輸出国税関へ間接検認
- 有効期間:原産地に関する申告は作成日から12か月有効
- 保存義務:輸入者3年、輸出者4年(第3.17条4項、第3.19条)
RCEP
- 証明方法が複線:CO(第三者証明)と輸出者・生産者による原産地申告(DO)
- 加盟国により採用可否が異なる
D. 検認が起こり得るタイミング(保存義務期間)
第三者証明のEPA:起算はCO発給日から。協定別に5年または3年。
- 5年保存:日メキシコ、日マレーシア、日チリ、日タイ、日インドネシア、日フィリピン、日インド、日ペルー、日オーストラリア
- 3年保存:日モンゴル、日ブルネイ、日ASEAN(AJCEP)、日スイス、日ベトナム、RCEP
参考:CO自体の有効期限は別概念。例えば日フィリピンEPAは6か月、その他多くは1年(輸入通関時の提出期限)。ただし、検認は通関後でも保存義務期間内に行われる可能性がある。
E. 原産性が否認された場合の実務インパクト
金額面:
- 特恵無効により通常税率との差額納税
- 延滞・加算相当の負担、行政罰の可能性(各国法令)
- EU・日本双方は、虚偽申告・保存義務違反等に行政措置・制裁を規定(日EU・EPA第3.26条)
通関・物流面:
- 検認中の特恵一時停止・保証要求
- 将来貨物のリスク選別強化
- 与信・納期への影響
社内影響:
- 価格前提の崩壊(逆ざや・返品・値引き交渉)
- 再発防止コスト(様式改修・教育)
F. 日本企業が実際に受ける検認の典型10事例
- 包括期間・複数COの横断検認:特定年の複数出荷を束ね、対比表・工程・商流書類の一括提示を要請
- 型番別単価差×COの品名集約:インボイスは型番別、COは1品名集約。適用基準(CTC/VA)と原産割合の根拠確認
- 第三国インボイス未記載:CO第8欄への記載漏れの有無確認・補足説明を要求
- 積送確認(第三国寄港・積替):非加工・非変更(Non-alteration)の説明としてB/L・通関書類等の提示
- HS誤り・未記載:HSコードの記載不備や齟齬に対する軽微性判断
- 累積の記載不足(AJCEP等):ASEAN第三国材の情報がCOに反映されず、累積根拠の再提示を要請
- 輸送欄の変更:運航変更で船卸港等がCO記載と相違。事情説明で有効扱いとなった実務例
- 住所表記差(輸出者・輸入者):私書箱/本社・工場住所差など、同一法人性の説明で有効扱い
- 日EU・EPAの間接検認:EU税関が輸入者→日本税関→輸出者の順に照会
- 期限徒過/資料不十分:期限内に十分な回答が出せず否認
G. 検認に備える重要ポイント
- 保存設計:協定別3年/5年をCO発給日起算で台帳管理
- 記載精度:COのHSコード・品名・数量・第三国インボイス・積送欄を二重チェック
- 累積・僅少の根拠:累積利用時は相手国原産の根拠書類、僅少規定の閾値と除外規定を協定別に把握
- 自己申告の基本(EU等):原産地に関する申告の12か月有効、輸入者3年・輸出者4年保存
- 期限管理:協定上の公式期限から逆算し、社内SLAを設定
- 事前教示の活用:HSコードや原産地取扱いに不安があれば税関の事前教示(3年間尊重)で安定運用
- 言語・機密:提出資料は必要箇所に英語を付記。機微情報は要同意・機密扱い
③ 実務用チェックリスト
□ 協定特定(第三者証明/自己申告/認定輸出者)
□ 保存年限(CO発給日起算で3年または5年/EU自己申告は輸入者3年・輸出者4年)
□ 資料収集(対比表・計算ワークシート・工程・投入・商流・積送)
□ CO記載(HSコード・品名・数量・第三国インボイス・積送の整合性)
□ 期限逆算(例:日タイ3か月/2か月)
□ 英語化(必要箇所のみ、機密管理)
□ 事前教示(不安点は照会=回答は3年間尊重)
注記:制度・運用は協定条文と相手国国内法により最終判断されます。自社案件では、該当協定条文と最新ガイダンスを都度確認してください。
初心者向け:FTA、EPAの原産地証明の原産地基準
1. 対象品のHSコードの見つけ方
基礎(拠り所)
- HS分類は「関税率表の解釈に関する通則(GIR)」で決めます(通則1〜6)。まずこれを踏まえ、章・部注、項目注を読み、品目の技術実態と照合します。税関総合情報
- HSの6桁構造(2桁=類、4桁=項、6桁=号)を理解して進めます。ジェトロ
実務の進め方(現場フロー)
- 製品仕様の把握:用途・機能・主要材質・構造・動力・加工有無を整理(カタログ/図面/材料表)。
- 類→章→項→号を候補探索:関税率表や解説資料(税関「関税率表解説・分類例規」、WCO Explanatory Notes)で比較します。税関総合情報wcoomd.org
- 通則/GIRと章注・部注、除外規定で候補を絞る(「まず該当する定義、次に除外」)。税関総合情報
- 迷うときは 事前教示(Advance Ruling) を検討:輸入前に税関へ文書照会し、分類の公式回答を得る制度です(公開データベースも有)。税関総合情報+3税関総合情報+3税関総合情報+3
補足:輸出用書類のHSは相手国の6桁が求められる場面があります。最終的には輸入国税関での受理が基準なので、相手側と整合確認を。トムソン・ロイター
2. 原産地規則の見つけ方:日本税関サイトを使う
使うサイト:日本税関「品目別原産地規則 検索画面」
(トップの「EPA・原産地規則ポータル」から到達可)
操作手順
- サイトにアクセスし、**協定(国名/Country)**を選択。
- HSコード4桁または6桁を入力(ドットなし)。
- 検索すると、該当品目の**品目別原産地規則(PSR)**が表示されます。
- 表示は関税譲許の有無に関わらずPSRが出る仕様のため、後述の関税譲許表も要確認。税関総合情報
重要な注意(サイト記載の要旨)
- HSコード版の違いに注意:協定ごとにHS2002/2007/2012/2017/2022など採用版が異なるため、協定が採用する版で検索・読み替えが必要。WCOの相関表リンクも掲載されています。輸入申告は最新版HSを使用。税関総合情報
- 関税譲許の確認:PSRが満たせても、対象品が関税撤廃・削減の譲許対象かは別問題。サイトから日本の実行関税率表や相手国譲許表への案内があります。税関総合情報
3. 原産地基準の読み方
(A) CTC(関税分類変更)系
- CC/CTC=類変更(2桁)、CTH=項変更(4桁)、CTSH=号変更(6桁)。非原産材料のHSが、最終製品の規定桁で別番号になることが条件。
- 除外書きに注意:例「CTH(ただし○○からの変更を除く)」=その番号の非原産材料を使うと変更達成と認めない。日EU・EPAの同軸ケーブル等の例が公開資料にあります。ジェトロ
(B) RVC(域内原産割合)系
- 控除方式RVC:RVC(%)=(FOB−VNM)/FOB×100(VNM=非原産材料価額)。
- MaxNOM(非原産材料最大割合):MaxNOM(%)=VNM/EXW×100。
- 日EU・EPA資料では、RVCはFOB基準、MaxNOMはEXW基準で示され、計算例が図表つきで整理されています。ジェトロ
(C) 加工工程基準(Specific Process, SP)
- 例:**化学反応(CR)**の実施を要件とするなど、特定工程の実施が条件。RCEPの公表資料に定義・例示があります。税関総合情報
(D) 併用・選択
- 多くのPSRは「CTC 又は RVC」の選択ですが、品目・協定によっては両方必要(AND)や工程基準の追加もあります(例示:日印EPAなどの解説)。ジェトロ
4. 気をつけること
- HS版ズレ:協定採用版(HS2012/2017/2022 等)でPSRを読む。必要に応じてWCO相関表で対応関係を確認。税関総合情報
- 関税譲許の有無:PSR表示は譲許と無関係。実行関税率表/相手国譲許表で優遇が存在するかも必ず確認。税関総合情報
- 除外書き・脚注:PSRの括弧書きの除外材料や注記は落とし穴。日EU・EPAの具体例(同軸ケーブル等)を参考に、材料毎のHSを棚卸して該当有無を精査。ジェトロ
- AND/ORの読み取り:選択制か併用要件かで求める証拠が激変。協定文・注釈まで確認。ジェトロ
- 最小限作業の不原産(Insufficient Working):単純な包装・選別等は原産性を与えない扱い。EUの公式解説でも強調されています(日EU・EPAの理解に有用)。trade.ec.europa.eu
- デミニミスや累積の活用:わずかな非原産材料の許容(デミニミス)や累積規定で救済できる場合あり。RCEP資料の図解が実務に有用。税関総合情報
- 価格基準の取り違い:RVCはFOB、MaxNOMはEXWなど、計算の価格基準を誤らない(協定・注記で要確認)。ジェトロ
- 証憑の整備:自己申告・証明書に加え、計算根拠や裏付け資料(原材料の原産性、購買・製造・在庫記録等)を保持。税関ガイドラインも証拠書類の必要性を明示。税関総合情報
- 協定選択の視点:同一相手に複数協定が使えるとき、単に税率だけでなくPSRの難易度や手続負担も比較すると実務最適。Business Growth Service
- 相手国HSの整合:輸入国で受理される6桁かを事前に確認(輸入者・現地税関と照合)。トムソン・ロイター
- 迷う場合:**事前教示(分類/原産地)**を活用し、将来紛争を未然防止。税関総合情報+1
5. 日本税関サイトでの「読み方」
- 画面入力:国名(協定)+HS4または6桁→検索。
- 結果の典型表示:
6. 1ページ・ワークフロー
- HS確定:通則→注解→候補比較→(必要なら)事前教示。税関総合情報+1
- PSR検索:税関サイトで協定×HS検索→PSR・注記を読み込む。税関総合情報
- 判定設計:CTCかRVCかSPか、AND/ORか、除外・デミニミス・累積の有無。税関総合情報ジェトロ
- 証憑整備:BOM・購買証跡、工程記録、RVC計算書、供給者原産声明等。税関総合情報
- 譲許確認:実行関税率表/相手国譲許表で対象か確認。税関総合情報
7. 用語解説
- GIR(通則):HS分類の大原則。税関総合情報
- PSR:品目別原産地規則。CTC/RVC/SPなどで原産性を判定。ジェトロ
- CTC(CC/CTH/CTSH):非原産材料のHSが最終製品に対し規定桁で別番号へ変更。ジェトロ
- RVC/MaxNOM:域内原産割合または非原産材料割合の基準(計算基礎に注意)。ジェトロ
- SP(加工工程):化学反応など特定工程の実施が要件。税関総合情報
- デミニミス/累積:わずかな不適合材料の許容、域内材料の相互みなし。税関総合情報
株式会社ロジスティックはFTA活用のコンサルタント。気軽にご相談ください。
初心者向け:EPAのSP(加工工程基準)完全ガイド
1. SPを理解するための基本用語
まず、原産地規則で頻繁に使われる基本的な用語を確認しましょう。
- PSR(Product-Specific Rule:品目別規則) 産品ごとに定められた原産地要件のことです。多くの場合、関税分類変更基準(CTC)、付加価値基準(VA)、**特定工程基準(SP)**が、単独または複数の選択肢として規定されています。日EU・EPAのPSRは、HSコード2017年版を基準に作成されています。
- SP(Specific Process:加工工程基準) 化学反応、蒸留、紡績、編立、縫製など、産品の製造に不可欠な特定の工程そのものを協定域内で行うことを原産地要件とする基準です。化学品に関するSPの定義は、協定の附属書3-A(原産地手続)の注5に詳述されています。
- 付加価値基準(VA: Value Added) 非原産材料の価額の上限(MaxNOM)や、協定域内で付加された価値の割合(RVC)を定める基準です。SP基準の代替として選択できる品目が多くあります。
- MaxNOM(Maximum value of non-originating materials):非原産材料価額の上限。 計算式例: MaxNOM=VNM÷EXW×100≤規定の割合(%) (VNM: 非原産材料価格, EXW: 工場渡価格)
- RVC(Regional Value Content):域内原産割合。 計算式例: RVC=(FOB−VNM)÷FOB×100≥規定の割合(%) (FOB: 本船渡価格)
- 不十分な加工(Insufficient Working or Processing) 乾燥、包装、ラベルの貼り付け、単なる混合や組立てなど、産品に実質的な変更を加えないと見なされる軽微な作業です。たとえ品目別規則(PSR)の他の要件を満たしても、これらの作業しか行っていない場合は原産性が認められません。
- 非改変の原則(Non-Alteration Rule) 原産品として認められた産品は、日本とEU間の輸送途中で実質的な変更が加えられてはなりません。保管、仕分け、ラベル貼り替えなどのごく限定的な作業のみが許可されます。
- 証明と記録保存 輸出者が作成する原産地に関する申告文(自己申告書、Annex 3-Dに規定)、または輸入者が持つ知識に基づいて原産性を証明します。輸出者は、申告の根拠となる書類を最低4年間保管する義務があります(輸入者は最低3年)。
2. 日EU・EPAにおけるSPの具体例
加工工程(SP)は、産品の分野によって様々なものが規定されています。
- A. 化学品(HS第28~38類など)
- 定義(附属書3-A 注5):分子構造を変化させる「化学反応」、沸点の差を利用する「蒸留」、材料を細かくする「粒度の変更」、不純物を取り除く「精製」、異性体を分離する「異性体分離」、微生物などを利用する「バイオテクノロジー工程」などがSPとして定義されています。
- 注意:単なる溶解、溶媒の除去、結晶水の付加・除去は「化学反応」に含まれません。
- PSRの例(第28~34類、38類など):多くの品目で「CTSH(HSコードの上4桁変更) または 特定のSPの実施 または 付加価値基準(MaxNOM 50%など)」のように、複数の選択肢から一つの要件を満たせば良いとされています。
- 鉱物油(第27類):「蒸留」または「化学反応」の実施がSPとして規定されています。
- バイオ燃料:「トランスエステル化」「エステル化」「水素化処理」といった特定の化学プロセスがSPとされています。
- 定義(附属書3-A 注5):分子構造を変化させる「化学反応」、沸点の差を利用する「蒸留」、材料を細かくする「粒度の変更」、不純物を取り除く「精製」、異性体を分離する「異性体分離」、微生物などを利用する「バイオテクノロジー工程」などがSPとして定義されています。
- B. ゴム製品(HS第40類)
- 再生タイヤ(HS 4012.11~4012.19):使用済みタイヤのトレッド(接地面)を張り替える「リトレッド」がSPとして明確に規定されています。
- C. 繊維・衣類(HS第50~63類)
- 基本原則:繊維分野では、原料から製品になるまでの一連の工程(紡績 → 製織・編立 → 染色・仕上げ → 縫製)のうち、**2つ以上の主要工程(二段階変更、double-transformation)**を経ることを基本としています。
- PSRの例:
- 絹糸(HS 50.04~50.06):繊維の押出+紡績、撚糸+機械加工など。
- 綿織物(HS 52.08~52.12):紡績+製織、製織+染色、糸染+製織、製織+プリントなど、複数の工程の組み合わせが規定されています。
- 編物(HS第60章):編立+染色、編立+縫製など。
- 衣類(HS第61~62章):
- ニット衣料:編立+縫製(裁断を含む)。
- 織物衣料:製織+縫製(裁断を含む)。品目によっては「プリント+縫製」で認められる場合や、併せて**非原産生地の価額上限(例:EXW価格の40%以下)**が定められている場合があるため、個別の条文確認が必須です。
- 繊維の特別規定(附属書3-A 注6~8):最終製品の重量比10%以下の非原産材料を考慮しない「許容差(デミニミス)ルール」など、特別な規定も存在します。
3. SP基準を満たすための証拠書類(例)
SP基準で原産性を証明するためには、該当する工程を実施したことを客観的に示す書類が必要です。
- 全品目に共通する書類
- 部品表(BOM):非原産材料のHSコードと投入量がわかるもの。
- 工程フロー図、製造指図書、作業標準書
- 生産実績記録:ロット番号、製造日、使用設備、外注先の情報など、トレーサビリティを確保できるもの。
- 輸送・保管記録:船荷証券(B/L)、航空貨物運送状(AWB)、通関書類など(非改変の原則を立証)。
- 原産地に関する申告書の写しとその根拠資料(4年間保管)。
- 化学品・鉱物油
- 反応記録:温度、圧力、反応時間、触媒の種類、反応式など。
- 蒸留記録:蒸留塔の運転ログ、温度データなど。
- 分析データ:粒度分布、純度、不純物量の測定結果など、SPの定義を満たすことを示す証跡。
- 繊維・衣類
- 各工程の作業記録:紡績、編立、製織、染色、プリント、縫製などの設備稼働ログや外注契約書。
- 裁断伝票、型紙など。
4. SP基準による原産性判定の実務フロー
以下の手順で確認を進めることで、正確な原産性判定が可能です。
- HSコードの確定:まず、輸入国(EUまたは日本)のHSコードで産品を特定します。
- PSRの確認:附属書3-Bで該当するHSコードのPSRを調べ、SPが選択肢として利用できるか、代替要件(CTC/VA)は何かを確認します。
- SP定義の照合:附属書3-Aの注釈などで、該当するSP(化学反応、蒸留など)の厳密な定義と自社の工程が合致しているかを確認します。
- 加工場所の確認:規定の工程が、日本またはEUの域内で完結していることを確認します(第三国での実施は認められません)。
- 不十分な加工でないことの確認:実施した工程が、不十分な加工に該当しないことを協定条文で確認します。
- 補足要件の確認:PSRに付加価値の上限や許容差ルールが併記されている場合は、それらも同時にチェックします。
- 非改変の原則の立証:輸送途中で実質的な加工が行われていないことを証明する書類を準備します。
- 自己申告書の作成・保存:原産地に関する申告書を作成し、全ての根拠書類とともに4年間保管します。
5. ケーススタディ:SP基準の適用例
- 例1:有機化学品(HS第29類) PSRに「化学反応の実施」があれば、反応式や製造ログで「分子構造を変化させた」ことを立証します。これにより、CTCやVA基準を計算することなく原産性を満たせます。
- 例2:Tシャツ(HS 6109) PSRに「編立および縫製」とあれば、生地の編立とTシャツへの縫製を域内で行った記録(稼働ログ、裁断伝票など)を揃えることで原産性を証明できます。
- 例3:再生タイヤ(HS 4012.11) PSRに「リトレッド」と明記されているため、使用済みタイヤのトレッドを剥がし、新しいトレッドを貼り付けて加硫した工程記録を証拠とします。
6. SP基準を適用する際の主な注意点とよくある間違い
SP基準の適用では、思い込みや誤解によるミスが発生しがちです。以下の点に特に注意してください。
- 「混合」と「化学反応」の混同 単に複数の薬品を混ぜ合わせただけでは「化学反応」にはなりません。分子構造の変化を伴うことが定義であり、単純混合は不十分な加工と見なされる可能性があります。
- 工程の定義を厳密に確認する 「粒度の変更」は、単に砕くだけでなく「管理された方法で特定の粒度分布にすること」が求められるなど、各工程には厳密な定義があります。協定の注釈を必ず確認してください。
- 「プリント工程」の過信 繊維製品において、プリントと縫製だけで原産性が認められるのは、PSRにそのように明記されている特定の品目に限られます。すべての衣類に適用できるわけではありません。
- 代替規則や但し書きの見落とし PSRで要件が「;(セミコロン)」で区切られていれば**選択可能(OR)ですが、「,(カンマ)」や「及び」で繋がれていれば両方を満たす必要(AND)**があります。非原産材料の価額上限などの但し書きも見落とさないようにしましょう。
- 加工場所は協定域内に限定 SPとして認められる工程は、すべて日本またはEUの域内で実施されなければなりません。第三国での委託加工は、SPの根拠には使えません。
- 輸送と記録保存の徹底 輸送中に第三国で実質的な変更が加えられたり、根拠書類の保管義務(輸出者4年)を怠ったりすると、原産性が否認されるリスクがあります。
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初心者向け:EPAのVA(付加価値基準)完全ガイド
1. VA(付加価値基準)を理解するための基礎用語
📌 まずは基本となる用語の意味を正確に押さえましょう。
- Incoterms(インコタームズ)2020: 国際商業会議所(ICC)が定める、売主と買主の費用と危険の範囲を定義した国際貿易取引条件です。契約で
EXW
やFOB
を用いる際は、最新版である2020年版を前提とすることが一般的です。 - EXW(Ex Works / 工場渡し): 売主が自身の施設で物品を買主に引き渡した時点で、義務が完了する条件です。EPAの原産地証明で用いる**「EXW価格」**は、輸送費などを除いた純粋な産品の価格として、各協定で個別に定義されています。
- FOB(Free on Board / 本船渡し): 輸出港で本船に物品を積み込むまでの費用と責任を売主が負う条件です。RCEPやCPTPPなど多くの協定では、RVC計算の基礎となる**「FOB価額」**の定義が条文に明記されています。
- RVC(Regional Value Content / 域内付加価値割合): 産品が協定の域内でどれだけ付加価値を生んだかを示す割合です。計算方法は協定ごとに規定されています。(例:
(FOB - VNM) / FOB
など) - VNM(Value of Non-originating Materials): 非原産材料の価額。産品の生産に使われた、協定の原産資格を満たさない材料の価値を指します。評価方法は協定ごとに異なり、輸入材料のCIF価額(運賃保険料込み価格)などが用いられます。
- VOM(Value of Originating Materials): 原産材料の価額。積上方式(Build-up)で使用します。
- NC(Net Cost / 純費用): CPTPPの自動車関連品目などで用いられる計算基礎で、販売促進費や許容されない支払利息などを除いた総費用を指します。
最重要ポイント: 同じ「RVC」という用語でも、**計算式(控除方式/積上方式)と価額の基礎(FOB/EXW/取引価格など)**が協定によって全く異なります。必ず該当協定の定義を原文で確認してください。
2. 主なVA計算式の種類と採用協定
✅ どの協定でどの計算方式が使えるか、骨格を整理しました。(最終的には品目別規則(PSR)で確定します)
区分 | 計算式(代表的な形) | 主な採用協定 |
控除方式 (Build-down) | RVC = (産品の価額 - VNM) / 産品の価額 × 100 | RCEP, CPTPP, JAEPA(日豪)など多数 |
積上方式 (Build-up) | RVC = (VOM + 直接労務費など) / 産品の価額 × 100 | RCEP, CPTPP など |
純費用方式 (Net Cost) | RVC = (NC - VNM) / NC × 100 | CPTPP(自動車関連品目に限定) |
Focused Value方式 (FV) | RVC = (産品の価額 - FVNM) / 産品の価額 × 100 | CPTPP(特定の指定品目でのみ利用可) |
MaxNOM方式 | VNM / EXW × 100 ≤ しきい値 | 日-EU EPA, 日英CEPA, 日スイスEPA |
取引価格(TV)基準 | RVC = (TV - VNM) / TV × 100 など | 日チリEPA など |
協定固有名称(QVC) | QVC (実質はFOB基準のRVC計算) | 日インドCEPA, 日モンゴルEPA など |
3. 協定ごとの代表的なRVCしきい値(目安)
⚠️ あくまで多くの品目で採用される一般的な数値です。必ずPSRで自社製品の正確なしきい値を確認してください。
- RCEP: 多くの品目で
RVC ≥ 40%
(関税分類変更基準(CTC)との選択)。 - CPTPP: 品目と計算方式ごとに細かく設定(例: 自動車部品で
45%~60%
など)。 - 日-EU EPA:
MaxNOM ≤ 50%
(EXW基準) またはRVC ≥ 55%
(FOB基準) のような選択制が多い。 - AJCEP(ASEAN):
RVC ≥ 40%
またはCTH
(項レベルの関税分類変更)が一般規則。 - JAEPA(日豪): 多くの工業品で
RVC ≥ 40%
が選択可能。 - 日インドCEPA: 一般規則で
CTSH
(号レベルの関税分類変更) +QVC ≥ 35%
。 - 日スイスEPA: EXW基準のMaxNOM方式(例:
VNM ≤ 60% of EXW
≒RVC ≥ 40%
)。 - 日チリEPA: 計算方式によりしきい値が異なる(例: 控除方式なら
45%
、積上方式なら30%
など)。
4. VA(付加価値基準)による原産地証明の基本手順
Step 1:品目別規則(PSR)の特定 輸出産品のHSコード(6桁)を確定させ、対象協定のPSRから「価額の基礎(FOB/EXW等)」「計算式(控除/積上等)」「しきい値」を正確に読み取ります。
Step 2:数値の収集と評価 協定の定義に基づき、FOB
, EXW
等の価額を算定します。また、VNMやVOMも、協定の評価ルール(例: 輸入材料はCIF価格)に従って正確に計算します。
Step 3:計算方式の選択と実行 PSRで複数の計算方式が認められている場合、自社にとって有利な(証明しやすい)方式を選び、RVC(またはMaxNOM)を計算します。
Step 4:しきい値との照合 計算結果が、PSRで定められたしきい値(例: RVC ≥ 40%
)を満たしているかを確認します。
Step 5:付随規定の確認 デミニミス(僅少の非原産材料の許容ルール)、累積(他の締約国の原産材料を利用するルール)、付属品・梱包の扱いなど、計算に影響する付随規定を確認します。
Step 6:証拠書類の整備・保管 計算の根拠となる資料(部品表、原価計算書、仕入先からの証明書、船積書類等)を整備し、協定で定められた期間保管します。
5. 計算具体例
- 例A:RCEP(控除方式)
- 前提: FOB
100,000円
/ VNM55,000円
/ PSRのしきい値RVC ≥ 40%
- 計算:
(100,000 - 55,000) / 100,000 × 100 = 45%
- 結果: 45% ≥ 40% であり、原産品と認められます。
- 前提: FOB
- 例B:日-EU EPA(MaxNOM方式とRVC方式の選択)
- 前提: PSRが
MaxNOM ≤ 50%
(EXW) またはRVC ≥ 55%
(FOB) の選択制。 - ケース: EXW
10,000EUR
/ VNM4,700EUR
- 計算: MaxNOM =
4,700 / 10,000 × 100 = 47%
- 結果: 47% ≤ 50% であり、原産品と認められます。(RVC方式を計算するまでもなく証明完了)
- 前提: PSRが
- 例C:日チリEPA(計算方式で結果が変わる例)
- 前提: PSRが
控除方式 ≥ 45%
または積上方式 ≥ 30%
の選択制。 - ケース: TV(取引価格)
1,000ドル
/ VNM560ドル
/ VOM330ドル
- 計算1(控除方式):
(1,000 - 560) / 1,000 × 100 = 44%
→ 44% < 45% で基準未達。 - 計算2(積上方式):
330 / 1,000 × 100 = 33%
→ 33% ≥ 30% で基準達成。 - 結果: 積上方式を選択することで、原産品と認められます。
- 前提: PSRが
6. 実務上の注意点とよくある間違い
- 価額基礎の混同: 日スイスEPAをFOB基準で計算してしまう(正しくはEXW基準)。日-EU EPAでEXW基準とFOB基準を取り違える。
- しきい値の思い込み: 「RCEPは40%」と記憶し、品目固有の例外規定を見落とす。
- 計算方式の誤用: CPTPPのFV方式で、指定外の非原産材料まで計算に含めてしまう。
- 付属品・梱包の除外: RVC計算に含める規定が多いことを見落とし、計算から除外してしまう。
- 記録保存期間の不足: 協定ごとの保存年限(RCEP:3年, 日-EU:4年など)を守れていない。
- 原価変動の未反映: サプライヤーや為替レートの変動でRVCが基準値を下回る(いわゆる「RVC割れ」)可能性があるため、定期的な見直しが必要です。
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FTA/EPA 原産地証明で日本企業が陥りやすい5つのポイント
FTA/EPAの原産地証明で日本企業が間違えやすい5つのポイントを、原因と実務での対策セットで整理しました。
1. 協定の選択ミス(RCEP/CPTPP/二国間EPA等の取り違え)
- ありがちな状況: 相手国に複数協定が並立しているのに、最初に見つけた協定のPSR(品目別規則)で判定してしまう。結果、要件不一致や不要に厳しい基準を適用してしまう。
- リスク: 特恵関税の適用が否認され、追徴課税が発生する。また、事後調査(検認)で指摘を受ける可能性がある。
- 対策: 輸出先×HSコードごとに**「協定比較表」**(適用される関税率、PSR、証明方式、自己申告の定型文/番号、有効期限など)を整備する。見積段階で最適な協定を確定し、社内承認の必須項目とすることが望ましい。
2. HSコードの誤分類 → 間違ったPSRの適用
- ありがちな状況: 品名だけでHSコードの上4桁や6桁を判断し、関税率表の**「類注」「部注」や「通則(GRI)」**を確認していない。あるいは、材料や機能のわずかな差異を見落としてしまう。
- リスク: 適用すべきPSRそのものが別物になり、原産性を満たせなくなる(関税番号変更基準や付加価値基準の要件が変わる)。
- リスク要因の補足: HSコードは約5年ごとに大きな改正があり、知らないうちに自社製品のHSコードが変更されている可能性もある。
- 対策: HSコードは仕様書と現物で確認し、必ず「類注」「部注」「通則」まで精読する。分類が難しい品目や変更が多い品目は、専門家レビューや税関への**「関税分類事前教示」**の取得をルール化する。見積時と出荷時でHSコードに相違がないか、チェック体制を構築する。
3. 原産資格の計算ミス(RVC/CTC/加工要件の読み違い)
- ありがちな状況:
- RVC(付加価値基準): 計算方式(積上方式 / 控除方式)や、計算の基礎となる価格(EXWかFOBか)を取り違える。非原産材料の価格に含めるべき費用範囲を誤解する。為替換算日が部署ごとに異なり、計算結果がぶれる。
- CTC(関税番号変更基準): 非原産材料からのHSコードの変更(が、協定で定められたレベル(例:2桁、4桁、6桁)を満たしているかどうかの判定を誤る。
- その他: デミニミス(僅少の非原産材料を無視できるルール)や、同種の材料をまとめて扱うことのできるルールの適用を誤解する。
- 対策: 協定ごとに計算用テンプレートを分け、計算式・費用範囲・換算日などを固定化し、ミスを防ぐ。見積書、請求書、BOM(部品表)など、計算の根拠となる証拠書類を案件ごとに整理・保存する。価格改定、工程変更、部材変更など、計算結果に影響する事象が発生した際に、再計算を促す管理表を作成する。
4. 裏付け資料の不足と累積(Accumulation)の誤用
- ありがちな状況: 国内で調達した材料だからという理由で、証拠なく「原産材料」と見なしてしまう。サプライヤーから入手した原産性証明資料(サプライヤー証明書)の有効期限や、対象となる協定を確認していない。累積(他の協定締約国の産品を自国の原産材料と見なせる制度)を利用する際に、対象国や要求される様式、記載事項を満たしていない。
- リスク: 事後調査(検認)時に、材料の原産性を立証できず、産品全体の原産性が否認される。
- 対策: BOM(部品表)の各部材について、原産性(原産か非原産か)、その根拠書類、適用協定、有効期限などをまとめた**「原産性管理マップ」**を作成する。サプライヤー証明書は定期的な更新を徹底し、可能であればロットと紐づけて管理する。累積を利用する場合は、必ず協定の累積条項を読み込み、使用可否と必要な手続き・書式を事前に確認する。
5. 物流・書類運用の要件不備
- ありがちな状況:
- 直接輸送の原則: 第三国を経由する際に、保税地域で行った仕分けやラベリングが、協定で許容される「軽微な加工」の範囲を超えてしまい、原産性を喪失する。
- インボイス: 第三国インボイスを利用する際に、協定で規定された文言や記載欄への記入が漏れる。
- 証明書・申告文: 自己申告制度において、協定で定められた定型文や、認定輸出者番号/法人番号などの記載が不正確である。
- その他: 分割輸送や、中継貿易で利用されるバック・トゥ・バック原産地証明書の発給条件を確認しないまま手配してしまう。
- 対策: 輸送ルートを設計する段階で、協定の「直接輸送の原則」と「非加工証明」の要件を確認する。第三国インボイスの必須記載事項をインボイスの雛形に反映させる。原産地証明書や自己申告文は、協定別のチェックリストを用いて、定型文・番号・署名の要否・有効期限などを複数人で確認する。
HS Code Finderは、HSコードの年次変換もできる
HS Code FinderはHSコードの年次変換もできます。
吊り下げる式のルームランプがあります。HSコードは9405.11。これはLEDを使った者のHSコードとなります。
本来2007年度にはLEDでのHSコードはないのですが、日インドCEPAの利用などでは、無理くりでもHSコードの付番が必要となりますので、2007年次でのHSコードが必要となるのです。
そこで、使って調べてみました。
入力条件(日本語:ユーザー原文のみ)
- 発光ダイオード(LED)光源とともに専ら使用するように設計されたもの
- 上記のHSコード9405.11のHSコードを2007に変えてください。
A) 日本語版(JA First)
- 結論
推定HS(6桁):(HS2007)9405.10
国別例示(任意):
JP:—
US:—
EU:—
要約:HS2022の「9405.11(天井/壁掛け用の電気式照明器具—LED光源とともに専ら使用するように設計)」は、LED専用の6桁細分が未設のHS2007では、天井/壁掛け用の電気式照明器具を一括する9405.10に相当します。HS2022の条文に9405.11が新設されていること、HS2007では同用途が9405.10とされていることからの逆変換です。Wcoomd+1
確度(%):95%
- 根拠
適用通則・注(例:GRI 1, 3(b), 6、類注・部注):
- GRI 1・6:見出し94.05(照明器具)→号で天井/壁掛け用を特定し、版差は6桁細分で判断。GRI 6は同一レベルの号の文言で分類する旨を規定。Wcoomd
- HS2022の第94章:9405.11として「LED光源とともに専ら使用するように設計」が明記。Wcoomd
- HS2007の第94章:天井/壁掛け用の電気式照明器具は9405.10の下に一括(公共の広場・街路用を除く)。Wcoomd
判定ポイント(主用途、主要材質、機能、構成、セット該当性 等):
仮定(入力不足を補う前提):
- 対象品は天井/壁掛け用の電気式照明器具。
- 公共の広場・街路照明用の種類ではない。
排他・除外の理由(他の類・項ではない理由):
- 9405.20(卓上・床置き)ではない(設置形態が天井/壁掛け)。Wcoomd
- 9405.40(その他の電気式照明器具)は、用途特定(天井/壁掛け)があるため後順位。
- 8539(電気ランプ類)は光源単体の分類であり、器具(ルミナイア)は94.05で分類。※参考:HTS見出し構成。hts.usitc.gov
- 候補比較(日本語表)
候補HS(6) | 日本語品名 | 主要根拠 | 棄却理由 | 確度% |
---|---|---|---|---|
9405.10 | 天井又は壁掛け用の電気式照明器具(公共の広場・街路用を除く) | HS2007の条文に該当。Wcoomd | — | 95 |
9405.20 | 卓上・机上・ベッドサイド・床置き用の電気式照明器具 | HS2007に別号あり。Wcoomd | 天井/壁掛け用であれば不適 | 3 |
9405.40 | その他の電気式照明器具 | 用途不特定時の包括 | 天井/壁掛け用が特定できるため不適 | 1 |
8539.xx | 電気ランプ(LEDランプ等) | 光源単体の分類 | 器具は94.05で分類 | 1 |
- 争点・注意
- 「公共の広場又は街路の照明に使用する種類」は9405.10の範囲外(HS2007条文)。該当する場合は別解釈が必要。Wcoomd
- HSの版(2007/2012/2017/2022)で6桁細分が異なるため、協定や証明書で要求されるHS年版に合わせて表示すること。
- 追加で必要な情報
- 取付形態(天井/壁掛けの確認)。
- 公共屋外照明用の種類か否か。
- 実務で使用するHSの版(年次)の指定。
- 参考資料・出所
- WCO:HS2022 第94章(9405.11=LED専用の新細分)。Wcoomd
- WCO:HS2007 第94章(9405.10の条文)。Wcoomd
- WCO:General Rules for the Interpretation(GRI 6)。Wcoomd
- USITC:HTS(章構成・参照)。hts.usitc.gov