米国「相互関税」制度 12月時点の運用確認ポイント


米国「相互関税」制度 12月時点の運用確認ポイント

通関現場でいま起きていることと、企業が外せない実務チェックリスト

2025年の米国通商政策は、「税率いくらか」という話よりも、「どの文書で、いつから、どの申告コードで動くのか」を最後まで追えるかどうかが勝負になっています。 とりわけ「相互関税」は、大統領令で枠組みが動き、HTSUS第99章の追加コードで実装されるため、社内の理解が追いつかないと、過払い・申告誤り・事後調査リスクが一気に顕在化します。 以下では、12月時点の制度の骨格を押さえたうえで、ビジネスパーソンが社内に指示しやすい「運用確認ポイント」を、通関と収益影響の観点から整理します。govdelivery+4


1. そもそも「相互関税」は何として動いているのか

米国の相互関税は、2025年4月2日の大統領令14257(番号は仮に付されており、実務上は後続の修正・補足も含めて読む必要があります)を起点に、国家緊急事態権限を根拠として関税を調整する枠組みとして整理されました。 具体的な税率は、HTSUS第99章の見出し(9903.02.xxなど)の追加コードで運用され、通常の1〜97章の分類に「上乗せ」または「置換」される形で適用されます。cassidylevy+2

その後、2025年7月31日の大統領令とそれを受けたCBPガイダンスにより、8月7日12時01分(米東部時間)から適用される国別の相互関税率と申告コードの運用が明確化されました。 関係文書では、国別税率が0%から15%(一部の国はそれより高率)までのレンジで設定され、表にない国には基準率(多くの実務解説は10%を想定)を適用する整理が示されています。dimerco+3

重要なのは、これは単なる「税率のニュース」ではなく、「申告実務の仕様変更」だということです。 輸入申告では、通常の品目分類(1〜97章)に加え、第99章の相応しいコードを正しく付番して初めて、意図した税率で課税されます。buckland+2


2. 12月時点の特徴は「合意で税率ロジックが変わる」こと

相互関税は、単純な「国別一律上乗せ」ではなく、交渉・合意の内容に応じて「合計税率の上限・下限」を設定するロジックへ置き換わるケースが増えています。 実務上は、対象国を「相互関税の計算ロジック別」に分類して整理することで、申告ミスを減らすことができます。geodis+2

代表例がEUです。EU原産品については、Column 1(一般税率)が15%以上の品目には追加相互関税を課さず、15%未満の品目については「一般税率+相互関税=15%」となるように調整する特則が、第99章見出し9903.02.19/9903.02.20として明記されています。govdelivery+2

日本についても、相互関税がMFN税率(Column 1)と連動し、15%を基準にロジックが分岐する仕組みが、CBPの通知・民間通関解説で一貫して示されています。 さらに12月時点では、韓国との「戦略的貿易・投資協定(Korea Strategic Trade and Investment Deal)」の関税要素が、連邦官報告示を通じてHTSUS改正として順次実装されています。westernoverseas+5


3. 企業が必ず押さえるべき運用確認ポイント

3-1. 適用関税の「足し算ルール」を誤解しない

初期のCBPガイダンスでは、ベースラインの関税と相互関税を一律に単純加算するのではなく、MFN税率と相互関税率の組み合わせ方が国・品目ごとに定義されていることが明確にされています。 EU・日本など一部の国では、「合計15%ルール」のように、最終税率のキャップ・フロアが決まっており、単純な「MFN+α」という理解では誤差が生じます。dimerco+3

このロジックを誤解すると、原価計算が体系的にずれ、営業見積・価格改定・顧客交渉など、収益関連の前提が崩れます。 ここは通関担当だけでなく、経理・営業とも共有すべきポイントです。geodis+1

3-2. 原産地の定義が「税率のスイッチ」になる

相互関税は国別税率で運用されるため、原産地判定がそのまま税率スイッチになります。 さらに、意図的・実質的な迂回輸出と認定された場合には、通常の相互関税とは別枠の追加関税(例:40%)が課され得るとするガイダンスも公表されており、CBPは迂回認定時に第99章コードを9903.02.01などの高率項目に切り替えて課税する運用を案内しています。jsconnor+2

したがって、サプライチェーンの上流段階から、原産地の根拠資料を「説明できる形」で整備することが不可欠です。 単なる原産地証明書の有無では不十分であり、製造工程・加工実態・トレーサビリティに基づいて、迂回と誤解されないストーリーを示せるかどうかが問われます。jsconnor+1

3-3. 第99章コードの付与ミスは「過払い」か「追徴」になる

EU向けの相互関税では、Column 1が15%以上か未満かによって、9903.02.19と9903.02.20のどちらを使用するかが分かれます。 ここを誤ると、不要な15%を多く払うか、逆に不足分が事後調査で追徴されるか、いずれかのリスクが生じます。buckland+3

日本品については、CBP通知と民間の通関実務解説によれば、Column 1が15%以上の場合は9903.02.72(追加0%)、15%未満の場合は9903.02.73(合計15%)を使用する整理が示されています。 併せて、Section 232対象品(鉄鋼・アルミ・銅、自動車・自動車部品など)は相互関税の対象から除外され、引き続き9903.01.33など従来のSection 232コードを使用するように指示されています。customscourt+4

3-4. 日付条件は「船積み」と「通関」の二段階で管理する

2025年7月31日の大統領令では、8月7日以前に最終輸送モードで積み込まれ、10月5日までに輸入申告が完了した貨物について、旧税率を適用できる経過措置が設けられました。whitehouse+1

この種の経過措置は、「船積み基準」と「輸入申告基準」という二つのタイミングをまたぐため、輸出側の船積み管理と輸入側の通関管理を分断すると漏れが生じます。 フォワーダー・ブローカー・輸入者の三者が、対象貨物リストを同じ定義・同じデータで共有することが必須です。fedex+1

3-5. 還付・ドローバックの余地を最初から織り込む

相互関税についても、一定条件のもとでドローバック(還付)が認められることが、初期のガイダンスや各種実務解説で明確にされています。 税率や対象国が頻繁に変わる局面では、過払いが起きやすく、後追いで回収できる権利を確保するために、輸入時点から証憑・データを適切に保存する設計が現実的です。 この領域は、財務・税務と通関担当が連携してルール化する必要があります。dimerco+1

3-6. 記録保存は「5年」を標準に、監査対応型で組む

複数の追加関税が並行して適用される中で、通関実務が不透明になりやすいこと、また将来の還付や事後調査に備えて通関書類の保存が重要であることは、各種実務レポートや日本語解説でも繰り返し指摘されています。 米国側の一般的な保存期間(5年)を前提に、監査対応型のファイル体系を組むことが望ましいとされています。geodis

ここでいう書類は、インボイスやB/Lだけでは不十分で、第99章コード選定の根拠、原産地判定メモ、分類根拠、社内決裁ログなどを含めた「説明パッケージ」を整えることがポイントです。buckland+1

3-7. 係争リスクを踏まえ、権利保全の姿勢を決める

IEEPA権限を用いて広範な相互関税を課すこと自体が、憲法・通商法の観点から争点となっている訴訟も係属しており、控訴審を経て最高裁に持ち込まれる可能性が示唆されています。 無効判断が出た場合でも、その効力の遡及範囲や差止の射程が争点となり得るため、企業としては「過払いの可能性」と「どの手続で権利を保全するか」をあらかじめ決めておくことが現実的です。cassidylevy+1


4. 12月時点の社内向けチェックリスト

  • 対象国ごとに、相互関税のロジック(単純上乗せ型/合計15%型など)を分類し、一覧表にする。govdelivery+1
  • 品目分類(1〜97章)と第99章コードの組み合わせルールを社内で文書化し、ブローカー任せにしない。jsconnor+1
  • Section 232対象の有無を確認し、相互関税から除外される場合の申告コード(例:9903.01.33)の運用を明確化する。jsconnor+2
  • 原産地根拠をサプライチェーン上流まで遡って整備し、迂回輸出認定による高率追加関税リスク(例:40%)を抑え込む。govdelivery+1
  • 経過措置など日付条件の対象貨物を抽出し、船積み・通関の両方のプロセスで共通管理する。whitehouse+1
  • ドローバックや還付の可能性を見越して、関係書類・データを輸入時から体系的に回収する。dimerco+1
  • 書類保存を5年基準で統一し、監査・還付・係争のいずれにも対応できるファイル構成とする。geodis
  • 連邦官報、ホワイトハウス発表、CBP通達(CSMSやGovDelivery)を定点監視し、変更を社内手順・マスターデータに即時反映する体制を作る。federalregister+2

まとめ

米国の相互関税は、税率そのものよりも、第99章コード運用と、合意に伴うロジック変更、さらに日付条件と原産地の説明責任が実務の主戦場になっています。 12月時点では、「制度は常に動くもの」として前提を置き直し、過払いと追徴の双方を抑え込む社内統制に落とし込めるかどうかが、企業のコストとリスクを分ける状況にあります。cassidylevy+3

注:本稿は一般情報であり、個別案件に対する法的助言ではありません。具体的な申告・還付・不服申立てについては、通関業者や米国通商・関税の専門家と連携して判断してください。geodis

  1. https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/07/2025ReciprocalTariffs_7.31.eo_.pdf
  2. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3ec7b5e
  3. https://www.westernoverseas.com/updated-guidance-on-japan-agreement/
  4. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
  5. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/04/2025-21940/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-us-korea-strategic-trade-and-investment-deal
  6. https://www.cassidylevy.com/news/modifications-to-reciprocal-tariffs-signal-further-development-in-trump-trade-policy/
  7. https://hts.usitc.gov/search?query=European+Union
  8. https://dimerco.com/news-press/us-tariff-update-2025/
  9. https://www.buckland.com/wp-content/uploads/2025/09/Buckland-Tariffs-Presentation-New-U.S.-Tariff-Reality-September-2025.pdf?x64846
  10. https://jsconnor.com/tariffs/cbp-issues-guidance-on-increased-reciprocal-tariffs/
  11. https://www.customscourt.com/updated-tariff-guidance-u-s-japan-agreement-brings-15-baseline-rate/
  12. https://info.expeditors.com/newsflash/cbp-publishes-guidance-on-tariffs-and-duties-for-imports-from-japan
  13. https://www.govinfo.gov/app/details/FR-2025-12-04/2025-21940
  14. https://www.fedex.com/content/dam/fedex/us-united-states/International/United_States_-_South_Korea_trade_deal_implementation.pdf
  15. https://jsconnor.com/tariffs/updated-guidance-on-new-tariff-structure-for-products-of-japan/
  16. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3f2c91c
  17. https://www.federalregister.gov/public-inspection/2025-21940/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-us-korea-strategic-trade-and-investment-deal
  18. https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/16/2025-17908/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-united-states-japan-agreement
  19. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/fact-sheets/2025/november/fact-sheet-united-states-and-korea-agree-korea-strategic-trade-and-investment-deal
  20. https://www.chrobinson.com/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-17-2025-client-advisory-us-japan-agreement-implementation-trade-agreement-tariff-modifications/

米国史上最大の通関詐欺和解:Ceratizit社に5400万ドル罰金


米国史上最大級と報じられた通関詐欺和解とは何か

Ceratizit社 5400万ドル決着が示す通関コンプライアンスの新常識
なぜこのニュースがビジネスに効くのか

2025年12月、米司法省は、タングステンカーバイド製品の米国内ディストリビューターであるCeratizit USA LLC(ノースカロライナ州シャーロット)が、未払い関税等をめぐる虚偽請求取締法(False Claims Act)に基づく民事案件について、5,440万ドルの支払いに合意したと発表しました。 これは、False Claims Actに基づく関税関連案件としては過去最大級の和解額と報じられており、通関分野における民事責任リスクの水準を象徴する事案です。 論点は、中国原産品に対するSection 301追加関税の回避、誤ったHSコード申告、原産地表示義務違反という、通関実務の中核そのものであり、申告の「結果責任」が改めて可視化されたといえます。finance.yahoo+2


事案の全体像

司法省および和解契約書によると、問題とされたのは主に次の3点です。grcreport+2

  1. 原産地の虚偽申告
    中国で製造されたタングステンカーバイド製品が台湾を経由して米国に輸入される過程で、原産地を台湾と申告し、中国原産品に課されるSection 301関税の支払いを免れたとされています。 対象期間は2020年8月から2024年3月までとされており、この間、中国製品を台湾原産と表示して輸入したとのアレゲーションが示されています。wttlonline+2
  2. HSコードの誤申告による関税低減
    和解契約書によれば、本来は工具用タングステンカーバイド製品(TCPs)をHTSコード8209.00.00(一般税率約4.6%)で申告すべきところ、HTSコード8311.90.00(一般税率Free)として申告したとされています。 対象期間は2015年6月頃から2024年3月までとされており、約9年にわたり関税率の低いコードへの誤分類が継続したと主張されています。hts.usitc+3
  3. 原産地表示義務違反とマーキングデューティ
    一部貨物について、原産地表示(country-of-origin marking)を欠いたまま米国内に供給し、本来支払うべきマーキングデューティを支払っていないとのアレゲーションが含まれています。 対象期間は2019年5月から2024年3月とされ、原産地ラベリングと追加関税負担の双方が問題化しました。justice+1

経緯を時系列で整理

  • 2015年6月頃から
    HSコードの誤申告による関税低減が始まったとされています(タングステンカーバイド製品を8311.90.00として申告)。justice+1
  • 2019年5月頃から
    原産地表示を欠いた貨物の輸入とマーキングデューティ不払いが問題になった期間とされています。grcreport+1
  • 2020年8月〜2024年3月
    中国製品を台湾原産として申告し、Section 301追加関税を回避したとされる期間です。wttlonline+1
  • 2022年10月
    内部通報者(リレイター)がFalse Claims Actのqui tam条項に基づく民事訴訟を提起したことが、和解契約書で示されています。finance.yahoo+2
  • 2025年12月
    司法省が和解を公表しました。支払総額は5,440万ドルであり、このうち内部通報者には約975万ドルの報奨金が支払われると報じられています。justice+2

なお、司法省は2025年8月に省庁横断の「Trade Fraud Task Force」を立ち上げ、関税逃れを含む貿易不正の摘発強化を明言しており、本件はその流れの中で象徴的な大型案件と位置付けられています。mdm+2


和解条件のポイント

和解契約書によれば、Ceratizitは総額5,440万ドルを支払うことに合意しており、そのうち約2,720万ドルはレストリビューション(政府の損失回復に充てられる性格)として位置付けられ、残額は民事制裁金等として扱われます。 また、支払額には一定の利息条件が付されている点も明記されています。justice+1

一方で、和解はCeratizitによる違法行為を認めるものではなく、司法省が主張する内容はあくまでアレゲーションであり、裁判による確定的な違法認定が行われたわけではない点も明確にされています。news.bloomberglaw+1


日本企業の実務に置き換えると、どこが危ないか

この案件が突き付けるリスクは、米国向け輸出企業だけでなく、米国に輸入者・販売子会社・ディストリビューターを持つ企業全般に直接響くものです。grcreport+1

  • 原産地は輸送経路ではなく実質で決まる
    第三国経由の物流自体は違法ではないものの、原産地の判断は実質的な製造国や実質的変更の有無で行われます。 経由国を形式的に原産地として申告する運用は、Section 301関税のような追加関税が絡む場面では最も危険な「地雷」となります。customsmobile+3
  • HSコードは価格ではなくルールで決まる
    税率がFreeのコードに「寄せたくなる」誘惑は常にありますが、分類は技術仕様と品目定義・通則に基づき決定されます。 本件のように長期間にわたり誤分類が継続すると、過少納付関税が累積し、一気に巨額の追徴・和解額に跳ね上がる可能性があります。usitc+4
  • 原産地表示は後回しにすると高くつく
    原産地表示義務の欠落は、単なるラベルミスにとどまらず、マーキングデューティという追加負担や、在庫隔離・リワークコストに連鎖し得ます。 製品本体・包装・同梱書類を含めた一貫した表示設計と、その監査プロセスの構築が不可欠です。justice+1
  • 内部通報が巨額回収の入口になる
    本件は内部通報者がqui tam訴訟を提起し、その結果として政府が介入し、回収額の一部が通報者報奨金として支払われる典型パターンです。 通関・関税領域でも、内部通報が現実の経営リスクとなっていることを示す象徴的な事案といえます。finance.yahoo+2

すぐに着手できる再発防止のチェックポイント

ビジネスマン向けに、優先度の高いポイントを整理すると、以下のとおりです。mdm+1

  • 原産地判定の根拠を、製造工程ベース(部材構成・加工内容・実質的変更)で文書化する。
  • 第三国経由取引について、物流スキームと通関申告上の原産地ロジックが整合しているかを定期的に検証する。
  • HSコードは、誰が・どの根拠で決定し、いつ見直すか(図面・仕様変更時など)を明文化し、監査可能なプロセスとする。
  • 原産地表示(本体・包装・ラベル・取扱説明書)の設計レビューを出荷前工程に組み込み、マーキングデューティ発生リスクを事前に抑制する。
  • 米国子会社や通関業者に丸投げせず、輸出者側でもインボイス・仕様書・バインディングルーリング等の証跡を一元管理し、自ら検証できる体制を整える。

まとめ

Ceratizit社の5,440万ドル和解は、関税逃れが疑われた論点が「原産地」「HSコード」「表示義務」という通関コンプライアンスの基本要素に集中していた点で、どの業界にも高い再現性を持つ事案です。 米国当局はTrade Fraud Task Forceの創設などを通じて貿易不正の取り締まり強化を明言しており、通関コンプライアンスはコスト削減のためのオプションではなく、事業継続の基盤として再設計すべき局面に入っています。mdm+2

  1. https://www.justice.gov/opa/pr/ceratizit-usa-llc-agrees-pay-544m-settle-false-claims-act-allegations-relating-evaded-0
  2. https://finance.yahoo.com/news/record-breaking-settlement-ceratizit-usa-214600318.html
  3. https://www.grcreport.com/post/ceratizit-to-pay-54-4-million-to-settle-allegations-of-evaded-customs-duties
  4. https://www.justice.gov/opa/media/1421296/dl
  5. https://www.wttlonline.com/stories/austrian-firm-settles-duty-evasion-case-for-544-million,14607
  6. https://hts.usitc.gov/search?query=8209000060
  7. https://rulings.cbp.gov/ruling/n343124
  8. https://www.mdm.com/news/legal-regulatory-issues-in-wholesale-distribution/cohort-legal/doj-settles-with-2-u-s-distributors-over-tariff-evasion-goods-smuggling/
  9. https://news.bloomberglaw.com/litigation/ceratizit-to-pay-54-4-million-in-fca-customs-duties-doj-deal
  10. https://www.customsmobile.com/rulings/docview?doc_id=NY+N238531&highlight=NY+N238531
  11. https://ustr.gov/sites/default/files/enforcement/301Investigations/Tariff%20List%20(83%20FR%2047974,%20as%20amended%20and%20modified%20by%2083%20FR%2049153).pdf
  12. https://www.usitc.gov/publications/docs/tata/hts/bychapter/1000c82.pdf
  13. https://hts.usitc.gov/reststop/file?release=currentRelease&filename=Chapter+82
  14. https://www.mlex.com/mlex/trade/articles/2424344/us-settles-with-north-carolina-firm-accused-of-evading-duties-on-chinese-tungsten
  15. https://www.mofa.go.jp/files/100096004.pdf
  16. https://www.freightamigo.com/en/blog/hs-code/hs-code-for-tungsten-carbide/
  17. https://hoodline.com/2025/12/charlotte-based-ceratizit-usa-settles-for-54-4m-in-customs-duty-evasion-allegations-under-false-claims-act/
  18. https://hts.usitc.gov/search?query=8311900000
  19. https://hts.usitc.gov/search?query=9903.01.25
  20. https://www.usitc.gov/tata/hts/archive/0000/000c82.pdf

米国の相互関税・関連301動向

本日の週次アップデートです。過去72時間の一次ソースだけで「米国の相互関税・関連301動向」を要点整理しました。

発表日発効日施策/対象対象HS/HTS公式URL
2025-12-102026-01-01開始(段階適用:2027-01-01=10%、2028-01-01=15%)セクション301:ニカラグア由来(CAFTA-DR非原産)に段階的追加関税。既存の相互関税18%等と累積可HS個別指定なし(原則「ニカラグア産すべて」うちCAFTA-DR原産除外)USTR発表。(United States Trade Representative)
2025-12-12 公示追って実施通知(FR告示参照)上記301実施のFederal Register告示(段階適用の実装手続)同上USTR/FR告知(要旨)。(C.H. Robinson)
2025-11-262026-11-10まで延長対中301「除外」178件の延長(産業・医療品等)該当HTSは除外リスト明細参照USTR発表/報道。(United States Trade Representative)
2025-04-05/09(参考)運用中IEEPAに基づく「相互関税」9903.01.34のCBP実務:米国起源価額20%以上は米国分を非課税計算。申告行分割の要件HTS 9903.01.34(相互関税)CBPガイダンスFAQ。(U.S. Customs and Border Protection)

補足メモ

  • ニカラグア措置は「CAFTA-DR非原産」のみ追加関税対象。CAFTA-DR原産は新設関税の適用外だが、相互関税18%(IEEPA)やMFNが別途乗る点に留意。サプライチェーン設計では、原産地判定と相互関税の“積み上げ”を前提にシミュレーションが必要です。(United States Trade Representative)
  • 申告実務では、相互関税の課税ベースは「米国起源価額を除く非米国分」。エントリーを米国分と非米国分で2行に分けるCBP運用が明示。(U.S. Customs and Border Protection)

日・バングラデシュEPA大筋合意が示す「次の一手」関税だけではない、投資・デジタル・政府調達まで含む新ルールをどう使うか

2025年12月22日、日本政府はバングラデシュとの経済連携協定(EPA)が大筋合意に至ったことを公表しました。外務大臣とバングラデシュ暫定政権の商業顧問との電話会談で合意を確認し、今後は署名に向けて協力していくとしています。(Ministry of Foreign Affairs Japan)
経済産業省も、2024年3月に交渉開始を決定し、2025年12月22日に大筋合意に至ったことを整理しています。条文などの詳細は後日公表予定です。(Ministry of Economy, Trade and Industry)

ビジネスの現場で重要なのは、これが「関税が下がるニュース」にとどまらない点です。公式の概要資料を見ると、物品の関税だけでなく、投資、電子商取引、政府調達、知的財産、国有企業、補助金、競争、労働、透明性など、企業活動の前提となるルールが一体で整備される設計です。
以下では、特に企業の売上とコストに直結する論点に絞って深掘りします。

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1 まず押さえるべき結論
今回のEPAは、日本企業にとって「バングラデシュ市場で勝つための価格条件」と「現地で動くための制度条件」を同時に取りにいった合意

EPAは一般に、関税撤廃だけでなく、投資や人の移動、知財、競争政策などを含む幅広い枠組みです。外務省もEPAとFTAの違いとして、EPAがより広い分野のルールと協力要素を含むことを明示しています。(Ministry of Foreign Affairs Japan)
今回の合意もまさにその設計で、現地で商売を作る人ほど効いてきます。

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2 物品市場アクセスのインパクト
鉄鋼、機械、自動車部品、食品の「価格競争力」が中長期で変わる

公式概要資料には、バングラデシュ側の高関税品で関税撤廃が進むと明記されています。特に象徴的なのが鉄鋼です。

・鉄鋼は最大56.6%の関税があり、約9割の品目で18年以内に撤廃
・自動車部品はタイヤやエンジンなど、多くの品目で15年以内に撤廃
・乗用車(完成車)は、将来にわたり他国に劣後しない特恵待遇を確保

ここでのポイントは「即時ゼロ」ではなく「段階的」であることです。とはいえ、最大56.6%という水準が示す通り、関税は価格に直撃します。例えば、同じ製品・同じ物流コストでも、関税の扱いが変われば、見積りの勝率が変わる。特に、インフラ、建設、製造業向けの素材・部材・設備は、導入のたびに比較されるため、数%の差が意思決定を左右します。

もう一つ見逃せないのが、日本側の輸出重点品目です。日本側は、国内の重要品目は守りつつ、輸出攻勢をかける品目で関税撤廃を取りにいっています。

・コメなど重要5品目を含む多くの品目を関税削減・撤廃から除外
・一方で、和牛肉、ぶり、たい、ほたて、りんご、ぶどう、緑茶、醤油などを中心に、即時から18年以内の関税撤廃を獲得

食品メーカーや商社にとっては、単なる嗜好品ではなく、外食・ホテル・小売の上位セグメントを押さえる入口になります。現地の中間層拡大と、日系企業が関与するインフラ投資の増加が重なると、食の需要は連動して伸びやすいからです。

さらに全体像として、物品市場アクセスのカバレッジも大きい。

・バングラデシュは、日本からの輸入額の約83%を無税に
・日本は、バングラデシュからの輸入額の約91%を無税に

ここは、営業部門だけでなく、調達・経理・SCM部門にも重要です。無税化の対象かどうかで、製品別の損益が変わり、ひいては供給網の組み替え判断が変わるためです。

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3 対日調達の論点
アパレルの「関税ゼロの継続」が、調達戦略の安定材になる

日本の輸入側から見たとき、バングラデシュは繊維衣料の比重が極めて大きい取引相手です。公式資料では、バングラデシュから日本への輸入の84%が繊維衣料、9%が皮革・履物という構造が示されています。

この文脈で重要なのが、バングラデシュのLDC卒業です。LDC卒業後は、これまでの特恵関税(原則無税)を前提にしたビジネスモデルが揺らぐ可能性があります。ジェトロは、国連総会決議に基づきバングラデシュが2026年11月にLDC卒業予定であること、卒業により特別特恵関税の適用がなくなる点を整理しています。(JETRO)
外務省のLDC解説ページでも、バングラデシュは2026年に卒業予定と明記されています。(Ministry of Foreign Affairs Japan)
国連機関(UNCTAD)も、国連総会が2026年の卒業を推奨したことを示しています。(UN Trade and Development (UNCTAD))

今回のEPA概要資料では、日本市場へのアクセスとして「繊維製品への関税は即時撤廃(現行はLDC特恵で無税)」と書かれています。要するに、現状のゼロ関税を制度的に固定する狙いが読み取れます。

調達担当者の観点では、ここが最大の安心材料です。チャイナプラスワンや供給網分散を進める企業にとって、関税条件が読めることは、工場選定や長期契約の前提になります。関税が読めなければ、最終的に価格転嫁できず、サプライヤー再編の手間が増えるからです。

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4 関税以上に効く「ルール整備」
投資、電子商取引、政府調達、透明性が、現地のやりにくさを減らす方向

今回の概要資料が示すもう一つの柱がルールです。物品の関税だけでは、実務は動きません。通関、契約執行、政府案件、デジタル取引、ガバナンスなど、日々の摩擦がコストになるからです。

資料では、投資、電子商取引、政府調達、知的財産、国有企業、補助金、競争、労働を含む幅広い分野でルールを整備するとしたうえで、例として次のような項目が挙げられています。

・政府調達の市場アクセスを相互に約束
・電子商取引で、ソースコードの移転およびアクセス要求の禁止を規律
・透明性、税関手続・貿易円滑化などで汚職・腐敗防止に関する規律
・労働、透明性、国有企業などは独立の章で規律

これらは、設備産業、IT、プラント、物流、商社など、現地の制度と付き合う企業ほど効果が大きい領域です。特に政府調達は、インフラ関連や公共サービス関連のビジネスに直結します。デジタル領域では、ソースコードの扱いが明文化されるだけでも、システム提供やSaaS展開の心理的ハードルが下がります。

加えて、サービス分野の自由化も明確です。

・バングラデシュは、WTO分類に基づく約150のサービス分野のうち約100分野で自由化を約束
・従来は16分野のみ約束だった

対象として、コンピュータ関連サービス、建設・エンジニアリング、運送サービスなどが例示されています。
この部分は、製造業だけでなく、ITベンダー、建設、物流、専門サービスの企業にとってもチャンスです。

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5 企業が今からやるべきこと
発効前から勝負は始まっている。準備の差が、最初の案件の差になる

大筋合意はゴールではなく、実務のスタート地点です。条文や附属書(関税率表、原産地規則、サービスの約束表など)の公表はこれからで、署名と国内手続きを経て発効に至ります。経産省も条文等は後日公表予定としています。(Ministry of Economy, Trade and Industry)
したがって、現時点でおすすめできる動きは、交渉結果の確定を待つのではなく、確定した時に最短距離で動ける状態を作ることです。

実務向けチェックリスト(最小構成)

1 自社の対象品目を特定する
輸出入ともに、HSコードで棚卸しをして、関税撤廃の対象か、段階が何年なのかを確認できる形にしておく。

2 価格式を関税前提から組み替える
関税が下がるほど、競合は値下げしてきます。自社だけが据え置くと利益は出るが案件が取れない、という状態になりがちです。いつ、どの市場で、どの製品を攻めるかの優先順位を先に決める。

3 原産地規則と証明の運用を前倒しで設計する
特恵を使うには、原産性の証明と書類運用が必須です。調達先が複数国にまたがる企業ほど、調達設計の段階で詰めないと、現場が回りません。

4 現地パートナーと政府案件の目線合わせをしておく
政府調達やインフラ関連を狙う場合、現地企業とのコンソーシアム、施工体制、アフターサービスまで含めて、EPA発効後の提案型営業を想定しておく。

5 調達側は長期契約の前提条件を見直す
バングラデシュからの調達を増やすなら、関税だけでなく、納期、監査、労務・人権、トレーサビリティなどの要件も同時に強化される前提で設計する。EPAには労働分野の章が独立して設けられる方向性が示されています。

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6 まとめ
このEPAは、バングラデシュを「コスト調達先」から「成長市場」へ引き上げる土台になり得る

今回の大筋合意は、鉄鋼や自動車部品など、バングラデシュの高関税領域での関税撤廃を中長期で取りにいく一方、日本からの重点輸出品目(和牛、水産物、果物、緑茶、醤油など)を押し込む内容が見えます。
同時に、投資、電子商取引、政府調達、透明性などのルール整備によって、現地での事業運営コストを下げる方向性が示されています。

そしてLDC卒業が見えているバングラデシュにとって、対日輸出の制度条件を確保する意味も大きい。日本側にとっては、調達の安定化と、グローバルサウスでの市場開拓を同時に進める材料になります。(JETRO)

条文と附属書が公表される瞬間から、実務の競争が始まります。関税率表を見てから動くのではなく、見た瞬間に動ける体制を作っておく。これが、今回のニュースを事業成長に変える最短ルートです。

参考情報
1 外務省:日・バングラデシュ経済連携協定の大筋合意(報道発表)(Ministry of Foreign Affairs Japan)
2 外務省:日・バングラデシュEPA概要資料(大筋合意の概要)
3 経済産業省:日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)(Ministry of Economy, Trade and Industry)
4 ジェトロ:バングラデシュのLDC卒業予定とEPA交渉状況(JETRO)
5 UNCTAD:国連総会が2026年の卒業を推奨した旨の整理(UN Trade and Development (UNCTAD))

AANZFTA改訂をビジネスで使い切るネガティブリスト導入と原産地規則アップデートの実務ポイント

第1章 AANZFTAアップグレードの全体像

AANZFTA第2議定書(Upgrade)は、2023年8月に署名され、2025年4月21日に効力を発生しました。cil.nus
もっとも、「全締約国一斉」ではなく、批准を終えた国同士の取引から順次新ルールが適用されるため、旧ルールとの二重運用期間がしばらく続きます。dfat+1

現時点で、豪州、ニュージーランド、ブルネイ、ラオス、マレーシア、シンガポール、ベトナムなどでアップグレード発効済みと整理されており、タイなどは指定日から順次加わる形です。businesschamberqld+1
さらに、累積等の一部規定については、国ごとに適用除外や遅行適用が通知されているため、「国名だけ」で判断せず、実際の取引相手同士で第二議定書が発効しているか、関連条文がフル適用かどうかまで確認する必要があります。customs+1

日本はAANZFTAの当事国ではありませんが、ASEAN・豪州・NZに拠点を持ち、現地法人から域内輸出・サービス提供・投資を行う日系企業にとって、今回のアップグレードはコストとリスクに直結します。mfat+1
本社側の投資判断やサプライチェーン設計でも、「どの組み合わせに新ルールが乗るか」を押さえているかどうかで、意思決定の質に差が出ます。mfat

第2章 ネガティブリスト導入をどうビジネスで使うか

1 ネガティブリスト化の中身

サービス貿易の約束方法には、大きくポジティブリストとネガティブリストの二つがあります。oia.pmc+1

  • ポジティブリスト方式
    開放する分野だけを列挙するため、「書いていない分野」は読み替え・行政解釈に依存しやすく、外資から見ると不透明さが残りがちです。regulation
  • ネガティブリスト方式
    原則として全分野を開放したうえで、例外的に残す制限を「留保」としてリスト化する方式で、どの規制が残るかを一覧で把握しやすくなります。aph+1

アップグレードAANZFTAでは、サービス分野の市場アクセスについてネガティブリスト方式を導入し、従来ポジティブリストだった当事国はネガティブリストへ移行することが義務付けられています。oia.pmc+1
投資分野についても、全ての当事国がネガティブリストでコミットメントをスケジュールする形に整理され、方式の統一と透明性の向上が意図されています。oia.pmc+1

さらに、アップグレード協定には、将来の一方的な自由化を一定範囲で固定化するラチェットメカニズムや、MFN条項の強化・整合など、サービス・投資の制度アーキテクチャを近年のメガFTA水準に近づける要素が組み込まれています。mfat+1

2 ビジネス側から見たネガティブリストの価値

ネガティブリストの最大の価値は、「どこまで自由化されるか」よりも、「どこに制限が残るか」が具体的に見えることです。aph+1
進出形態や案件ごとの採算検証で、次のような問いに対して、条文・留保ベースで答えを出せるようになります。

  • 業種・サブセクターごとに、外資規制・出資比率制限・合弁義務が残るかどうか
  • 支店設置か現地法人か、少数持分か完全子会社かなど、参入形態ごとの規制の違い
  • 役員・幹部の国籍・居住要件、プロフェッショナル資格要件といった人材面のハードル
  • ライセンス・認可・登録などの事前規制がどの程度残っているか

ASEANは同じASEANといっても、各国で規制の癖・行政運用が大きく異なります。aanzfta.asean+1
ネガティブリストは、現調チームや法務だけでなく、事業部・投資審査会議が「国・業種・形態」の組み合わせごとにリスクを瞬時に比較できるようにすることで、新規案件のGo/No-go判断をスピードアップさせます。aph+1

3 ラチェット条項の現実的な使い方

アップグレードでは、選択されたセクターについて、将来の一方的な規制緩和を固定化するラチェットメカニズムが導入されました。oia.pmc+1
これは、ある国がサービス・投資規制を自主的に緩めた場合、原則としてその緩和水準を協定コミットメントとしてロックインし、後戻りしにくくする枠組みです。oia.pmc

ただし、ラチェットは万能ではありません。対象分野・対象措置は留保のつくり方に左右され、あらゆる規制緩和が自動的にロックインされるわけではありません。mfat
経営サイドにありがちな「ネガティブリスト+ラチェット=全面的な自由化加速」という期待は危険で、実務としては次が現実的な対応になります。

  • 留保表を読み、ラチェットがかかる領域と、なお裁量的規制余地が残る領域を切り分ける
  • 各国で実際に規制が変わった際に、即座にビジネスモデル・価格設定・出資構造へ反映できるインテリジェンス体制を用意する
  • M&AやJV、長期サービス契約では、「規制変更時の価格調整・再協議・解除」条項を入れておき、ラチェットを見越したオプションを契約レベルで確保する

これにより、規制緩和が起きたタイミングで、競合より早く参入モデルや出資比率を引き上げることができ、ラチェットを「攻めの要素」として活用できます。aph+1

第3章 原産地規則アップデートの核心

1 アップグレード原産地規則の全体像

原産地規則は、AANZFTAの関税メリットを取るかどうかを決める「収益スイッチ」であり、アップグレードではこのスイッチの構造自体がアップデートされています。dfat+1
ニュージーランドのナショナルインタレスト分析などによれば、原産地規則章には新規条文・改正条文が多数追加され、品目別原産地規則(PSR)は数百件規模で見直されています。mfat

ABFのカスタムズノーティスによると、2024年3月1日からAANZFTAのPSRはHS2022の品目分類に基づく新バージョンが導入されており、これはFTA合同委員会が2023年5月にHS2022のPSR付属書を承認したことを受けたものです。abf
同時に、累積、直送・経由規定、原産地証明の方法、輸入後の還付請求手続きなど、運用面の改善もパッケージで導入されています。miti+1

実務的に効くポイントは、おおよそ次の五点に整理できます。

  • 完全累積の導入・拡張により、域内各国を組み合わせたサプライチェーン設計がしやすくなること
  • 直送・経由に関する規定・証憑要件が明確化され、ハブ経由輸送の不確実性が減ること
  • 証明書ベース一択から、自己証明・電子原産地証明など複数の証明方法が併存すること
  • 輸入後の原産確認に基づく還付請求が可能になり、ポストクリアランスでメリットを取り返しやすくなること
  • PSRがHS2022に整合し、HS変更に伴う「分類のズレ」やPSR適用ミスを減らす設計になっていること

2 完全累積が変えるサプライチェーン設計

累積とは、協定域内で行われた加工や使用された原材料を「一つの原産性判断」の中に足し込める仕組みで、原産品として扱える範囲を広げる道具です。miti+1
AANZFTAアップグレードでは、域内各国の材料・加工・付加価値を広く累積できる完全累積に近い形が導入され、どの累積条項を適用するかは当事国ごとの参加状況・留保によって左右されます。mfat+1

例えば、部材をマレーシアで調達し、ベトナムで主要加工を行い、シンガポール拠点を経由して豪州へ輸出するような分業型サプライチェーンでは、累積を正しく使えば原産地判定が格段に取りやすくなります。miti
一方で、どの国間で第二議定書が発効しているか、累積条項がその組み合わせに適用されるかを誤解すると、「原産性を満たしているつもりで証明書を出したが、実際には要件未達だった」という事故が起き得ます。mfat+1

ここは、社内で次のような整備をしておくと事故率が大きく下がります。

  • 主要取引国の組み合わせごとに、「第二議定書発効状況」と「累積条項の適用可否」を図示したマトリクスを作る
  • 累積前提で組んだBOM・原価計算に、国別の参加状況が変わった場合のアラートを組み込む
  • 調達・SCM・通関チームで同じ累積の前提を共有し、バラバラの解釈で証明・申告をしないようにする

3 直送要件の実務的なクリアの仕方

原産地規則でトラブルになりやすいのが、第三国経由時の「直送要件」の解釈です。mfat
アップグレードでは、直送・経由・積み替えに関する規定・証憑要件が明確化され、保税倉庫での限定的な作業など、許容される範囲を明記する方向で整理されています。abf+1

実務では、次のような対策が効果的です。

  • よく使う物流ルートごとに、直送要件を満たすために必要な書類(B/L、倉庫証明、インボイス、在庫管理記録など)を標準セットとして定義しておく
  • フォワーダー・3PLとの契約・SOPに、「原産性維持に必要な書類・情報の取得」を明示的に組み込み、単なる輸送委託で終わらせない
  • 保税区域で行う可能性のある作業(検品、ラベリング、再梱包など)を棚卸しして、どこまでが「許容される加工」かを規定と突き合わせ、作業指示書に落とし込む

こうしておくと、ハブ港変更や緊急の振替輸送が発生しても、原産性が崩れない範囲で運用でき、後から「直送要件を満たしていない」と否認されるリスクを抑えられます。abf+1

4 証明方法のアップデートとコンプライアンス

豪州政府の案内によれば、アップグレード後も従来型の原産地証明書は維持されつつ、自社による原産地自己申告や電子的な原産地証明の利用余地が拡大します。abf+1
また、第三者インボイスが用いられる場合の取り扱いについても、「合理的な範囲の情報提供」で足りるとするなど、書類作成の摩擦を下げる方向性が示されています。dfat+1

自己証明は、発行コストやリードタイムを削減できる一方、誤りがあった際の責任が企業側に直接跳ね返りやすいという特徴があります。mfat
したがって、営業現場が「楽だから全部自己証明に切り替える」と走るのではなく、次のような線引きが現実的です。

  • 自己証明を使う品目と、引き続き第三者発行の証明書を使う品目を分ける
  • 自己証明を行う品目については、BOM・原価計算・原産性ロジックを内部監査可能な形で固定し、改ざん防止・変更管理のルールを整える
  • 輸入側で税関事後調査が入った場合を見据え、原産性判断の根拠書類を一定期間保管するレコードキーピングルールを更新する

これにより、「関税メリットは取れたが、後から否認されて追徴とペナルティ」という最悪のパターンを避けながら、証明コストの削減を利益に変えられます。abf+1

5 PSRとHS2022:分類ミスをどう防ぐか

ABFの通達によれば、AANZFTAのPSRは2024年3月1日以降、HS2022に基づくコードに再構成されており、一定期間は旧HS2017表記の原産地証明も受け入れる経過措置が設けられています。ftalliance+1
ASEAN側の告知でも、AANZFTAのPSRをHS2022で検索できるオンラインツールが提供されており、実務者はHS2022コードから直接PSRを引けるようになっています。aanzfta.asean+1

落とし穴は、HSの移行が「単なるコードの言い換え」ではない点です。abf

  • サブヘディングの分割・統合により、適用されるPSRそのものが変わる
  • 旧HSベースの証明書と、新HSベースの輸入申告のコードが整合しない
  • 社内システム・BOMが旧HS前提のまま残り、原産性判定ロジックが実態とズレる

これを避けるためには、「全品目一斉」ではなく、収益インパクトの大きい順に重点的に対応するのが現実的です。

  • 主力輸出入品目から順にHS2022への再分類を行い、それに応じてPSRを引き直す
  • コード変更があった品目は、原産性判定を再実行し、必要なら原材料構成や生産プロセスを見直す
  • サプライヤーに対して、HS表記の統一と、HS2022ベースの原産地証明・自己申告フォーマットへの移行を要請する

こうした「上から順に潰す」やり方であれば、リソースを極端に増やさずに通関トラブルを抑えつつ、PSRの更新を利益に結び付けられます。aanzfta.asean+1

第4章 経営と現場が今すぐやるべきチェック

ここからは、「明日から何をするか」という観点で、サービス・投資とモノ(原産地・通関)に分けて整理します。

A サービス・投資(ネガティブリスト側)

  • 自社の提供サービスを棚卸しし、まず売上比重の高い分野について、相手国の留保表を読みにいく
  • 進出形態(支店・現法・JV・フランチャイズ・委託)ごとに、出資規制・人の移動規制・ライセンス要件を分解して把握する
  • 規制変更があった場合、ラチェットが効く領域かどうかを法務・経営企画が判定できる体制を整え、事業部に通知するフローを決める
  • 長期契約には、規制変更時の再協議・価格調整・解除に関する条項を標準化し、投資先国ごとのリスクプロファイルに応じて微修正する

ネガティブリストは、「読めば武器、読まなければ何も起きない」ツールです。aanzfta.asean+1
結局のところ、留保表を読める体制と、読んだ内容を案件に落とし込む運用があるかどうかが、競争力の差になります。mfat

B モノ・サプライチェーン(原産地側)

  • 主力品目からHS2022整合を進め、PSRを再確認する(ABFノーティス・各国通達・PSR Finderをセットで参照)aanzfta.asean+1
  • 累積の適用関係を、主要取引国の組み合わせごとに図示し、営業・SCM・通関が共通の前提で動けるようにするmiti
  • 物流ルートごとに、直送要件を満たす証憑セット(B/L、倉庫証明、在庫記録など)を標準化し、フォワーダーとの契約に組み込むabf
  • 自己証明を導入する場合、BOM・原価計算・証憑保管ルールを先に整え、対象品目を限定しながら段階的に広げるmfat
  • 未批准国が絡む取引については、旧AANZFTAルールまたは他FTA(RCEPなど)運用が残る前提で手順を二重化し、「どの契約にどのルールを使うか」を明示するdfat+1

特に最後の「二重運用」は、2025年以降しばらく現場負荷の中心になり得ます。customs+1
国内システムや業務マニュアルで「AANZFTA=一つのルール」という前提が残ったままだと、誤適用や見落としが起きやすいため、「相手国別に旧・新ルールを自動判別するフラグ」を持たせるなど、設計レベルの見直しが有効です。

第5章 よくある誤解と失敗パターン

  • 誤解1 発効したから全締約国で新ルールが一斉適用される
    実際には、批准を完了した国同士の取引で順次適用され、未批准国が絡む取引では旧ルールが残ります。customs+1
  • 誤解2 ネガティブリスト化=即座に全分野が自由化
    ネガティブリストは制限を見える化する仕組みであり、自由化の範囲は留保次第です。ラチェットも対象分野に限られ、万能ではありません。oia.pmc+1
  • 誤解3 HS更新はコード表示を変えるだけ
    実際にはPSRの内容や適用関係、社内システムの判定ロジックまで波及し、経過措置期間中は旧HSと新HSが混在するため、整合設計をしないと通関トラブルの温床になります。miti+1

まとめと実務メッセージ

AANZFTAアップグレードは、サービス・投資ではネガティブリストとラチェットにより透明性と将来の自由化期待を高め、モノでは累積・直送・証明方法・PSR更新によって現代的なサプライチェーンに合わせた枠組みに近づけるものです。oia.pmc+1
ただし、企業にとっての実益は自動的には降ってこず、「どの取引に新ルールが乗るのか」「留保表とPSR・HSをどう読み替えるか」を社内で設計し直すことが必要です。mfat+1

やるべきことを一言でまとめると、次の三つです。

  • どの国同士の取引に第二議定書が適用されるか、社内で一覧化する
  • サービス・投資では、主要ビジネス分野について留保表を読み、ラチェットを含めた規制プロファイルを整理する
  • モノでは、HS2022整合・PSR再判定・累積と直送要件・証明方法を前提に、原産性判定ロジックと証憑運用を再設計する

これができれば、AANZFTAは「知っている条文」から「利益とリスクをコントロールする仕組み」に変わり、ASEAN・豪州・NZをまたぐビジネスにおいて、他社より一歩先のポジションを取ることが可能になります。abf+1

本稿は一般的な情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。具体的な適用にあたっては、取引国の最新運用や税関実務、社内の証憑状況を踏まえ、必要に応じて現地専門家への確認を行うことを推奨します。mfat+1

  1. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/aanzfta/asean-australia-new-zealand-free-trade-agreement
  2. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/asean-australia-new-zealand-free-trade-agreement-aanzfta/upgrading-aanzfta
  3. https://www.abf.gov.au/help-and-support-subsite/CustomsNotices/2024-07.pdf
  4. https://cil.nus.edu.sg/databasecil/2023-second-protocol-to-amend-the-agreement-establishing-the-asean-australia-new-zealand-free-trade-area/
  5. https://www.dfat.gov.au/news/aanzfta-upgrade-enters-force
  6. https://businesschamberqld.com.au/article/new-rules-for-exporters-brunei-lao-pdr-malaysia-singapore-australia-and-new-zealand/
  7. https://www.customs.govt.nz/customs-information-and-legislation/legislation/international-agreements/free-trade-agreements/asean-australia-new-zealand-free-trade-area-agreement-aanzfta
  8. https://www.mfat.govt.nz/assets/Trade-agreements/AANZFTA/AANZFTA-upgrade-National-Interest-Analysis.pdf
  9. https://oia.pmc.gov.au/sites/default/files/posts/2023/08/AANZFTA%20Impact%20Analysis.docx
  10. https://www.regulation.govt.nz/assets/RIS-Documents/ris-mfat-asean-mar09.pdf
  11. https://www.aph.gov.au/-/media/02_Parliamentary_Business/24_Committees/244_Joint_Committees/JSCT/2023/Second_Protocol_ASEAN_NZ_FTA/1_AANZFTANational_Interest_Analysis.pdf
  12. https://aanzfta.asean.org/aanzfta-sector-portals/trade-in-services-sector
  13. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/aanzfta/official-documents/official-documents
  14. https://www.miti.gov.my/miti/resources/Preferential%20Certificate%20of%20Origin/Announcement/Announcement_-_AANZFTA_PSR_in_HS_2022.pdf
  15. https://www.abf.gov.au/importing-exporting-and-manufacturing/fta/free-trade-agreements/asean
  16. http://www.ftalliance.com.au/newsdetails/31261
  17. https://aanzfta.asean.org/product-specific-rules-finder/
  18. https://www.aseanbriefing.com/news/what-the-aanzfta-second-protocol-means-for-asean-trade/
  19. https://vntr.moit.gov.vn/news/viet-nam-thailand-and-the-philippines-to-implement-the-obligations-of-transposing-services-schedules?page=21
  20. https://indonesia.embassy.gov.au/jakt/MR25_022.html

相互関税(追加関税) 最新一覧(2025年12月22日)

作成計画(→この順で実行済み)

  1. 対象の定義:米国の「相互関税(Reciprocal Tariff)」=IEEPA権限に基づく**追加の従価税(追加関税)**として公表されている国別税率(または計算ルール)を一覧化。
  2. 一次情報の確認:国別税率の“最新版”は、原則としてホワイトハウスの大統領令(Annex)で確認。国によって後日の合意・通知で上書きされるため、中国/日本/韓国/スイス/リヒテンシュタイン/カナダ/メキシコ/EUは個別の最新文書も確認。
  3. 前日差分チェック:直近(過去数日)のWhite House Presidential Actions と Federal Register の関係文書を確認し、前日(2025-12-21)→本日(2025-12-22)で新たな改定が出ていない前提で差分欄を作成。
  4. 指定順で表に整形:国名/関税率/出所/備考(前日差異)で出力。

調査結果の要点(確認)

  • 多くの国の国別税率は **2025-07-31 の大統領令(Annex I)**に基づく(発効は同令の規定により7日後扱い)。 (The White House)
  • ただし、中国は(「上乗せ」分を停止して)10%の追加関税にする扱いが継続(~2026-11-10までの停止期間の言及あり)。 (The White House)
  • 日本は「品目のMFN税率(Column 1)」と合算して合計15%になるよう追加関税を調整(15%以上の品目は追加0%)。 (The White House)
  • 韓国も同様に、(MFNまたはKORUS税率)と合算で15%となる仕組み(15%以上は追加0%)。 (Federal Register)
  • スイス/リヒテンシュタインも、Column 1 と合算で15%となる仕組み(15%以上は追加0%)+一部品目は相互関税の適用除外あり。 (Federal Register)
  • カナダ/メキシコは、既存のフェンタニル/移民関連IEEPA関税が優先され、この相互関税の枠組みでは実質“適用外”として扱われる(USMCA適合は0%等)。 (The White House)
  • 前日(2025-12-21)からの差異:本日(2025-12-22)時点で、上記の国別相互関税ロジックを変更する新規文書は確認できず、**全行「前日差異なし」**とした(直近の更新はスイス/リヒテンシュタイン関連の2025-12-18通知など)。 (Federal Register)

相互関税(追加関税) 最新一覧(指定順)

注:ここでの「関税率」は、原則として “追加の従価税率”。EU/日本/韓国/スイス/リヒテンシュタインは**品目のHTS税率(Column 1)との合算で15%**になるよう追加税率が決まるため、国単位で単一%になりません。 (The White House)

国名関税率出所備考
Algeria30%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし(最終反映: 2025-07-31) (The White House)
Angola15%同上前日差異なし (The White House)
Bangladesh20%同上前日差異なし (The White House)
Bosnia & Herzegovina30%同上前日差異なし (The White House)
Botswana15%同上前日差異なし (The White House)
Brazil10%同上前日差異なし(※別枠の対ブラジル追加関税が存在し得る点は要注意) (The White House)
Brunei25%同上前日差異なし (The White House)
Cambodia19%同上前日差異なし (The White House)
Cameroon15%同上前日差異なし (The White House)
Canada*(相互関税は適用外扱い)WH Fact Sheet(2025-04-02)既存IEEPA(フェンタニル/移民)優先:USMCA適合0%、非適合25%等。前日差異なし (The White House)
Chad15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
China*10%(上乗せ停止中の扱い)WH EO(2025-11-04)「高率の相互関税を停止し、10%追加関税に」+停止は~2026-11-10の言及。前日差異なし(最終反映: 2025-11-04) (The White House)
Côte d’Ivoire15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
DR Congo15%同上前日差異なし (The White House)
EU品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)WH EO 14326(2025-07-31)合計15%になるよう調整。前日差異なし (The White House)
Falkland Islands10%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Fiji15%同上前日差異なし (The White House)
Guyana15%同上前日差異なし (The White House)
India25%同上前日差異なし (The White House)
Indonesia*19%同上前日差異なし (The White House)
Iraq35%同上前日差異なし (The White House)
Israel15%同上前日差異なし (The White House)
Japan*品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)WH EO(2025-09-04)合計15%になるよう調整。前日差異なし(最終反映: 2025-09-04) (The White House)
Jordan15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Kazakhstan25%同上前日差異なし (The White House)
Laos40%同上前日差異なし (The White House)
Lesotho15%同上前日差異なし (The White House)
Libya30%同上前日差異なし (The White House)
Liechtenstein品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)FR Notice(2025-12-18)スイスと同枠で「合計15%」ロジック+一部品目除外。前日差異なし(最終反映: 2025-12-18) (Federal Register)
Madagascar15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Malawi15%同上前日差異なし (The White House)
Malaysia19%同上前日差異なし (The White House)
Mauritius15%同上前日差異なし (The White House)
Mexico*(相互関税は適用外扱い)WH Fact Sheet(2025-04-02)既存IEEPA(フェンタニル/移民)優先:USMCA適合0%、非適合25%等。前日差異なし (The White House)
Moldova25%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Mozambique15%同上前日差異なし (The White House)
Myanmar40%同上前日差異なし (The White House)
Namibia15%同上前日差異なし (The White House)
Nauru15%同上前日差異なし (The White House)
Nicaragua18%同上前日差異なし (The White House)
Nigeria15%同上前日差異なし (The White House)
North Macedonia15%同上前日差異なし (The White House)
Norway15%同上前日差異なし (The White House)
Pakistan19%同上前日差異なし (The White House)
Philippines19%同上前日差異なし (The White House)
Serbia35%同上前日差異なし (The White House)
South Africa30%同上前日差異なし (The White House)
South Korea品目別(MFNまたはKORUS<15%→追加で「15%-税率」、≥15%→追加0%)FR Notice(2025-12-04)合計15%になるよう調整+一部(民間航空機等)除外。前日差異なし(最終反映: 2025-12-04) (Federal Register)
Sri Lanka20%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Switzerland品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)FR Notice(2025-12-18)合計15%になるよう調整+一部品目除外。前日差異なし(最終反映: 2025-12-18) (Federal Register)
Syria41%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Taiwan20%同上前日差異なし (The White House)
Thailand19%同上前日差異なし (The White House)
Tunisia25%同上前日差異なし (The White House)
Vanuatu15%同上前日差異なし (The White House)
Venezuela15%同上前日差異なし (The White House)
Vietnam20%同上前日差異なし (The White House)
Zambia15%同上前日差異なし (The White House)
Zimbabwe15%同上前日差異なし (The White House)

補足(運用上の注意)

  • 多くの国で表示している%は、HTS上の通常関税(MFN等)に“追加”される相互関税です。
  • さらに、品目によっては(鉄鋼・アルミ、自動車・部品、銅、医薬品、半導体、木材等)相互関税の対象外/別制度の関税対象になり得ます(例示はホワイトハウス資料に列挙)。 (The White House)

米国がニカラグア製品に段階的な301条関税を決定2026年は実質猶予、2027年以降にコストが上がる構図


米国がニカラグア製品に段階的301条関税を決定

米国はニカラグアに対する301条調査を受け、CAFTA-DRの原産要件を満たさないニカラグア産品に段階的な追加関税を導入することを決定しました。ustr+1
税率は2026年に0%で開始し、2027年に10%、2028年に15%となる設計で、既存の相互関税18%と重なることで総負担が大きくなり得ます。trade+1


1. 何が決まったのか

USTRの発表および官報に示された決定内容の骨子は次のとおりです。govinfo+1

  • 2026年1月1日から新たな301条関税を導入するが、税率は0%で開始する
  • 2027年1月1日に301条関税を10%に引き上げる
  • 2028年1月1日に301条関税を15%に引き上げる
  • いずれも、当該日以降に「消費のために輸入される、又は保税蔵置場から引き取られる」貨物に適用されるとされるgeodis+1
  • 対象は、ドミニカ共和国・中米・米国自由貿易協定(CAFTA-DR)の原産地要件を満たさないニカラグア産品(CAFTA-DR非原産品)とされるustr+1
  • 追加関税は他の関税措置(いわゆる相互関税18%など)が存在する場合、それらに上乗せされ得るtradecomplianceresourcehub+1
  • ニカラグア側の行動に応じて、税率水準やスケジュールの修正可能性をUSTRが示しており、将来の上振れリスクを内包しているgovinfo+1

ここで重要なのは、この301条関税が「ニカラグア産品一律」ではなく、「CAFTA-DR上の“原産品”ではないもの」に絞られている点です。govinfo
同じニカラグア生産品でも、CAFTA-DR原産として認定されれば301条追加分は回避し得る一方、非原産と判断されれば301条関税が課される二分構造になります。greenworldwide+1

参考として、税率の段階スケジュールは以下のとおりです。geodis+1

適用開始日301条追加関税率対象
2026年1月1日0%CAFTA-DR非原産のニカラグア産品govinfo
2027年1月1日10%同上govinfo
2028年1月1日15%同上govinfo

制度上は2026年から始まるものの、0%でのスタートとなるため、実務的には2026年が「助走期間」、2027年以降がコストインパクトの本番という構図になります。ustr+1


2. 301条の枠組みと今回の狙い

通商法301条は、米国の通商に不当な負担を与える「不当・不合理・差別的」な外国政府の措置に対し、追加関税などの対抗措置をとり得る枠組みです。congress+1
今回USTRは、ニカラグアの労働権・人権・法の支配に関する政策・慣行が不合理であり、米国の通商を負担・制約していると判断し、301条関税を発動したと説明しています。ustr+1

実務的には、通商摩擦の対象が「関税水準」だけでなく、労働・人権・ガバナンスなどの非関税領域へ広がっていることを示す事案とも評価できます。ustr+1
調達・生産委託の現場にとっては、価格だけでなく、人権・コンプライアンス面の評価がサプライヤー選定に直結する局面が一段と強まったと言えます。ustr+1


3. 調査開始から最終決定までの時系列

今回の追加関税は、短期間で決まったものではなく、以下のようなプロセスを経ています。ustr+1

  • 2024年12月10日:USTRがニカラグアに関する301条調査を開始ustr+1
  • 2025年10月20日:USTRが、最大100%の追加関税やCAFTA-DR優遇の停止等を含む対抗措置案を公表し、検討オプションとして提示reuters+1
  • 2025年11月19日まで:パブリックコメントを募集し、2000件超の意見が寄せられるgovinfo
  • 2025年12月10日:USTRが最終報告・アクションを公表し、「CAFTA-DR非原産品を対象とする段階的関税」を採用する方針を明示thompsonhinesmartrade+1
  • 2025年12月12日:官報に「アクション通知」が掲載され、影響を限定しつつ圧力を高める設計として「CAFTA-DR非原産に限定」「2年の段階導入(0%→10%→15%)」の趣旨が説明されるgovinfo+1

官報では、コメントで賛否が拮抗したこと、複数業種から除外要望が出たことに触れたうえで、「CAFTA-DR非原産に限定すること」「2年かけて税率を引き上げること」により、混乱を抑えつつ企業にサプライチェーン移管の時間を与える判断をしたとされています。greenworldwide+1


4. 米国・ニカラグアの貿易規模と影響業種

USTRの国別ページによると、2024年の米国の対ニカラグア財輸入は46億ドル、財輸出は27億ドルで、財貿易総額は約74億ドルとされています。ustr
サービスを含めた米国とニカラグアの総貿易額は87億ドルとされ、米国側の財貿易赤字は19億ドルです。ustr

JETROは、USITC統計に基づき、米国の対ニカラグア輸入の主要品目として、点火用配線、綿製Tシャツ、金地金、葉巻たばこ、綿製セーター・プルオーバー、コーヒーなどを挙げています。jetro
官報では、繊維・アパレル、葉巻、コーヒー、家具、医療機器、牛肉・食肉、カカオ、キャッサバ粉、園芸、米、シーフードなど、多様な産業から除外要請が出ていたことが列挙されており、これらの分野で影響への懸念が強かったことがうかがえます。govinfo

日本企業にとっても、例えば「米国向け製品をニカラグアで組立・縫製し、第三国素材を多く使用しているケース」や「ニカラグア経由調達により原産判定が複雑化しているケース」では、CAFTA-DR原産判定の結果が米国側のコストに直結する構造になります。greenworldwide+1


5. 見落としがちな論点:相互関税18%との二重構造

今回の301条関税は、既存の相互関税などに上乗せされ得ると説明されています。tradecomplianceresourcehub+1
相互関税そのものは、2025年4月2日の大統領令に基づく世界的な「レシプロカル関税」措置の一部であり、その後の7月31日付大統領令で国別税率が修正され、ニカラグアは18%に設定されています。whitehouse+1

米国商務省系のTrade.gov解説でも、2025年4月2日に相互関税が発表され、ニカラグアが18%の相互関税対象国とされ、その水準がCAFTA-DRの無税メリットを事実上打ち消すものだと説明されています。trade
そのうえで、CAFTA-DR非原産品については2027年以降、ここに301条関税10%/15%が上乗せされる可能性があるため、「相互関税+301条関税」という二重構造のコストを前提にした設計が必要になります。trade+1


6. 企業が今すぐ確認すべきポイント

官報は、2年の段階導入により、企業がCAFTA-DR域内の他国へ生産を移転する時間を確保する意図を明記しています。govinfo
2026年の税率0%は「猶予」であり、2027年以降のコスト上昇に備えて、2026年中に以下の点を洗い出すことが肝要です。greenworldwide+1

ニカラグア関連の米国向け取引の棚卸し

  • ニカラグア由来の完成品・部材・半製品のリストアップ
  • 米国側のImporter of Record(輸入者)の特定
  • どの品目がCAFTA-DR原産として運用されているか/できていないかの整理greenworldwide+1

原産判定・証拠書類の整備

  • BOM、工程表、仕入先証明、原産地証明の運用状況の確認
  • グループ会社や委託先任せにせず、監査可能な形で証跡を整理することgreenworldwide+1

今回の301条関税は「CAFTA-DR原産か否か」で課税の有無が分かれるため、原産管理の精度が粗利に直結します。chrobinson+1

価格・契約条項の見直し

  • 2027年・2028年の関税上昇を織り込んだ価格改定条項(関税転嫁・再交渉条項・サーチャージ等)の検討
  • インコタームズと通関コスト負担者の再確認
  • 関税コストがどのPLに落ちるかを契約上明確化することgeodis+1

生産・調達の「逃げ道」の設計

  • CAFTA-DR域内他国への生産移転・拠点分散(官報も企業が移転できる時間を確保する意図に言及)greenworldwide+1
  • 原材料・生産プロセスの見直しによるCAFTA-DR原産要件の充足
  • 物流ルートとして「ニカラグア経由」を続ける妥当性の再評価govinfo+1

政策の上振れリスクを前提としたモニタリング

  • USTRは、ニカラグア側の改善状況に応じて税率やスケジュールの変更を行い得ると明記しており、今後も通知や追加ガイダンスのフォローが必須です。ustr+1

7. ざっくり試算:2027年以降のコスト感

最後に、追加関税のインパクトを把握するための簡易的な計算例です。実際の税額はHS/HTS分類、通常関税率、優遇の有無、評価方法等により変動しますが、「相互関税+301条関税」のオーダーを確認する目的です。trade+1

前提

  • 相互関税:18%(ニカラグアに対して設定されたレシプロカル関税)sullcrom+1
  • 301条関税:2028年に15%(CAFTA-DR非原産品が対象)ustr+1

ケースA:課税価格100(他の税なしと仮定)

  • 相互関税 18% → 18
  • 301条関税 15% → 15
  • 追加関税合計 → 33

この場合、非原産品のまま米国へ輸入すると、2028年時点では「相互関税+301条追加関税だけで課税価格の33%」の上乗せとなり得ます。trade+1
したがって、「CAFTA-DR原産として301条部分を回避できるか」「それでも残る相互関税18%を価格設計で吸収・転嫁できるか」が、調達・販売戦略の最重要ポイントになります。trade+2


8. 2026年は準備年、2027年が分水嶺

  • 米国はニカラグア産品のうち、CAFTA-DR非原産品に対して301条追加関税を段階導入する(2026年0%、2027年10%、2028年15%)。ustr+1
  • この301条関税は、既存の相互関税18%等に上乗せされ得るため、累積負担が大きくなる可能性がある。tradecomplianceresourcehub+1
  • 官報は、「影響を限定しつつ圧力を高める設計」として、対象をCAFTA-DR非原産に限定し、2年の段階導入で企業の移転時間を確保する趣旨を説明している。govinfo
  • 日本企業の実務上の急所は、原産判定・証跡整備・価格/契約設計・代替生産/調達設計・政策モニタリングの5点に集約される。greenworldwide+1

2026年の0%は「助かった」ではなく「準備せよ」というシグナルであり、2027年の10%時点でどこまで原産管理とサプライチェーン再設計を終えられるかが、粗利を守れるかどうかの分水嶺になると考えられます。greenworldwide+1

  1. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-12-12/pdf/2025-22690.pdf
  2. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/december/ustr-section-301-action-nicaraguas-acts-policies-and-practices-relating-labor-rights-human-rights
  3. https://www.trade.gov/country-commercial-guides/nicaragua-import-tariffs
  4. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-trade-representative-announces-new-tariffs-nicaraguan-imports-not
  5. https://www.tradecomplianceresourcehub.com/2025/12/11/trump-2-0-tariff-tracker/
  6. https://www.greenworldwide.com/new-section-301-action-on-nicaragua-establishes-phased-tariffs-for-non-cafta-dr-imports/
  7. https://www.congress.gov/crs_external_products/IF/PDF/IF11346/IF11346.28.pdf
  8. https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2024/december/ustr-initiates-section-301-investigation-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-labor-rights
  9. https://www.ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2024/december/ustr-initiates-section-301-investigation-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-labor-rights
  10. https://www.reuters.com/world/americas/us-proposes-trade-measures-against-nicaragua-over-labor-rights-2025-10-20/
  11. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/october/tariff-increase-cafta-dr-suspension-among-possible-actions-against-nicaragua
  12. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/12/ustr-announces-section-301-tariffs-on-nicaragua/
  13. https://www.govinfo.gov/app/details/FR-2025-12-12/2025-22690
  14. https://ustr.gov/countries-regions/western-hemisphere/nicaragua
  15. https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/wto-fta/news/pdf/w_c_monthly_report-202511.pdf
  16. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/further-modifying-the-reciprocal-tariff-rates/
  17. https://www.sullcrom.com/SullivanCromwell/_Assets/PDFs/Memos/Tariffs-Tracker-Updated-Modified-Reciprocal-Tariff-Rates.pdf
  18. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-ustr-announce-phased-section-301-tariffs-nicaraguan-goods-outside-cafta/
  19. https://passportglobal.com/us-tariff-rates-by-country-2025/
  20. https://www.ey.com/en_vn/technical/tax/tax-and-law-updates/customs-global-trade-alert-april-2025-trump-administration-executive-action-alert-implications-for-vietnam-businesses
  21. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2024/12/tnf-ustr-initiates-section-301-investigation-nicaragua-labor-human-rights.html
  22. https://www.cmtradelaw.com/2024/12/ustr-launches-section-301-investigation-of-nicaraguas-labor-and-human-rights-practices/
  23. https://unctad.org/system/files/official-document/ditcinf2025d3.pdf
  24. https://www.supplychainbrain.com/articles/42986-ustr-announces-15-tariffs-against-nicaragua-over-human-rights-abuses
  25. https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
  26. https://www.straitstimes.com/world/USTR-proposes-100-tariffs-on-Nicaraguan-goods-after-finding-labor-abuses
  27. https://www.whitecase.com/insight/ustr-opens-unprecedented-section-301-investigation-nicaraguan-labor-rights-practices
  28. https://www.as-coa.org/articles/tracking-trump-and-latin-america-trade-tariffs-threatened-mexico-over-water-sharing
  29. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/12/2025-22690/notice-of-action-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-to-labor-rights-human-rights-and
  30. https://www.federalregister.gov/d/2025-22690
  31. https://info.expeditors.com/newsflash/ustr-announces-section-301-action-on-nicaragua
  32. https://www.nnrglobal.com/insight/new-section-301-tariffs-on-products-of-nicaragua/
  33. https://havanatimes.org/news/us-proposes-axing-nicaragua-from-cafta-adding-100-tariffs/
  34. https://nicotineinsider.com/2025/10/21/nicaragua-faces-100-tariffs-after-ustr-report/
  35. https://www.chrobinson.com/it-it/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-ustr-announce-phased-section-301-tariffs-nicaraguan-goods-outside-cafta/
  36. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/december/tariffs-other-enforcement-actions-possible-against-imports-from-nicaragua
  37. https://marcasur.com/en/noticia/united-states-announces-phased-tariff-measures-on-noncafta-nicaraguan-imports-5059&f=12-2025
  38. https://geodis.com/us-en/us-proposes-trade-sanctions-against-nicaragua-over-labor-and-human-rights-concerns
  39. https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases

CBPが公表した「重複関税(Tariff Stacking)の解除」ガイドを深掘り:対象範囲・優先順位・還付実務まで(ビジネス向け)

CBPが公表した「重複関税(Tariff Stacking)の解除」ガイドを深掘り:対象範囲・優先順位・還付実務まで(ビジネス向け)

※本稿は、一次資料(Executive Order 14289/Federal Register告示/CBPのCSMS通達/ジェトロ解説)に基づき、内容の整合・用語統一・読みやすさの観点で複数回見直したうえで、全体を校正しています。regulations.justia+4


1. 「重複関税(スタッキング)」とは何か。何が“解除”されたのか

米国向け輸出・輸入、とくに北米サプライチェーンで問題になっていたのが、「同じ輸入貨物に複数の追加関税が重なって課される(tariff stacking)」という状況です。business.gmu+1

この問題に対し、大統領令「Executive Order 14289(Addressing Certain Tariffs on Imported Articles)」は、特定の追加関税について「どの順番でどれを適用し、どれを排除するか」という**優先順位(single‑duty rule)**を定め、重複(スタッキング)を原則として排除する仕組みを導入しました。federalregister+2

CBP(米国税関・国境警備局)は、この大統領令を実務に落とし込む形でCSMS通達(CSMS #65054270 ほか)を発出し、適用順序と、過去に「重複で支払われた」部分の還付手続きについて具体的なガイダンスを示しています。macmap+2

重要なのは、これは「米国のあらゆる関税を軽くする」ものではなく、「EO 14289が対象として定めた5つの追加関税の重複」を解消する制度だという点です。通常の基本関税やSection 301、AD/CVD、その他の税・手数料は、依然として別枠で課され得ます。internationaltradeinsights+2


2. 対象は「5つの追加関税」:まずここを押さえる

CBPのガイダンス(CSMS #65054270)は、EO 14289の対象となる**5つの大統領措置(presidential actions)**を明示しています。govdelivery+2

  • Section 232 自動車・自動車部品(232 Auto/Auto Parts)
  • IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく対カナダ措置(いわゆる「IEEPA Canada」:対カナダの違法薬物・国境治安関連関税)
  • 同じく対メキシコ措置(「IEEPA Mexico」)
  • Section 232 アルミニウム関税(232 Aluminum)
  • Section 232 鉄鋼関税(232 Steel)regulations.justia+2

実務的には、まず自社の米国向け輸入(米国内拠点の調達を含む)が、

  • 自動車・自動車部品に該当するのか
  • 鉄鋼・アルミニウム(およびその派生品)に該当するのか
  • 原産国がカナダ/メキシコで、IEEPA由来の追加関税の対象になり得るのか

を棚卸しするところからスタートします。ghy+2


3. 本題:優先順位(どれが適用され、どれが外れるか)

3‑1. 2025年5月版(CSMS #65054270):EO 14289の基本ルール

Federal Registerの告示とCSMS #65054270では、「同じ貨物が複数の対象関税に“subject to”となる場合、どの順番で判定し、どれを残すか」が示されています。internationaltradeinsights+2

要点を実務向けに整理すると、次のとおりです(2025年6月3日までの枠組み)。

  • まず 232 自動車・自動車部品に該当するかを判定し、該当する場合は他の4つ(IEEPAカナダ/メキシコ、232鉄鋼・アルミ)は上乗せしない
  • 自動車・部品でない場合、つぎに IEEPA(カナダ/メキシコ) に該当するかを判定し、該当する場合は 232 鉄鋼・アルミは上乗せしない
  • IEEPAにも該当しない場合に、最後に 232 アルミ/232 鉄鋼を判定する。
  • 232 鉄鋼と 232 アルミについては、同じ貨物に対し両方が適用され得る(鋼とアルミの両方の含有価値を持つ派生品など)という点が特に明記されています。macmap+2

ここでいう「subject to」は、当該措置の下で正味の追加関税額が0%を超える(免除や例外ではない)場合を指す、とCBPは補足しています。internationaltradeinsights+1

また、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の原産資格の有無が、IEEPA関税の「subject to」判定に影響し得ることも、CBPの解説や外部解説で繰り返し触れられています。USMCA原産となればIEEPAの対象外となり、その結果、232側が優先されるケースが出てきます。ghy+2

3‑2. 2025年6月4日以降(CSMS #65236574):優先順位が“改定”された点に注意

2025年6月3日に署名された鉄鋼・アルミ輸入調整の大統領布告(Section 232関係のProclamation)を受け、CBPはCSMS #65236574で優先順位(tariff stackingのルール)を改定しています。millerco+2

新しい優先順位(2025年6月4日 0:01(米東部夏時間)以降にエントリーされた貨物)では、次の順番で判定するよう指示されています。internationaltradeinsights+2

  1. 232 自動車・自動車部品(232 Auto/Auto Parts)
  2. 232 アルミニウム(232 Aluminum)
  3. 232 鉄鋼(232 Steel)
  4. IEEPA カナダ
  5. IEEPA メキシコ

この改定により、**232 アルミ/232 鉄鋼に該当する貨物については、IEEPA(カナダ・メキシコ)を上乗せしない(232側を優先する)**という整理が、CSMS内でより明確になりました。chrobinson+2

実務上の結論は、「同じHSコード・同じサプライチェーンの品目でも、輸入日(エントリー日)によって適用される追加関税の組み合わせが変わり得る」ということです。したがって、社内分析や還付検討は、少なくとも「2025年3月4日~6月3日」と「6月4日以降」で区切って行うのが安全です。geodis+1


4. いつから遡れるか:還付(Refund)の基本ルール

4‑1. 遡及適用の起点は「2025年3月4日」

Federal Registerの告示およびCSMSガイダンスは、EO 14289(およびその改定)の適用対象を「2025年3月4日以降に消費仕向けで輸入された貨物(または保税倉庫から引き出された貨物)」とし、その時点まで遡ってスタッキング解消のルールを適用する旨を明記しています。millerco+2

ジェトロの解説も同様に、「2025年3月4日以降の輸入分について、重複して課されていた関税の見直し・還付申請が可能」と整理しています。millerco+1

4‑2. 還付請求は「PSC」か「Protest」:清算(Liquidation)前後で分岐

CBPは、還付請求の手段を明確に2つに分けています。govdelivery+1

  • 未清算(unliquidated)のエントリー:
    Post Summary Correction(PSC)で修正・還付を申請。
  • 清算済み(liquidated)だが異議申立期間内のエントリー:
    19 U.S.C. 1514 に基づく Protest(異議申立て)で対応。一般にはCBP Form 19を使用し、清算日から180日以内が基本的な申立期限と整理されています。millerco+1

4‑3. 「何でも還付」ではない:対象外も明確

EO 14289の対象外となる関税については、同令に基づく還付は認められないことが、Federal RegisterおよびCSMSで繰り返し注意喚起されています。federalregister+2

具体的には、以下のような負担は、今回の「スタッキング解除」の枠外として扱われます。

  • 通常関税(HTSUS column 1/column 2の基本税率)
  • Section 301追加関税
  • 別の大統領令・法律に基づく追加関税(EO 14289で列挙されていないもの)
  • 反ダンピング(AD)・相殺関税(CVD)
  • その他、IEEPAに基づくがEO 14289のリスト外の措置 などfederalregister+2

加えて、CBPは「232 自動車・自動車部品」については優先順位の最上位であり、EO 14289によるスタッキング解消の結果として還付対象となるケースは想定されない、とする説明も行っています(最初から最上位で課されているため)。macmap+1


5. ビジネス現場で“損しない”ための実務チェックリスト(6ステップ)

ここからは、通関実務だけでなく経営・財務インパクトも踏まえ、還付と今後の最適設計の両方を意識した動き方を6ステップで整理します。

ステップ1:対象期間を確定(まずは3/4以降、次に6/4で区切る)

  • 2025年3月4日以降の輸入エントリー/保税引取りを抽出する。
  • 2025年6月4日以降は優先順位が変更されるため、「3/4~6/3」と「6/4以降」で分析を分ける。internationaltradeinsights+3

ステップ2:「重複して払った可能性があるエントリー」を洗い出す

  • 同一エントリーで、EO 14289対象の5措置に属する追加関税が複数計上されていないかをチェック(期間別に)。
  • 通関業者(Customs Broker)からACEデータやエントリーサマリーを入手し、対象関税コード・税額を一覧化すると効率的です。geodis+2

ステップ3:USMCA適用可否を再点検(“subject to”判定が変わる)

  • USMCA原産判定の見直しにより、IEEPA(カナダ/メキシコ)の「subject to」判定が変わり、232側に倒れるケースがあります。
  • CBPおよび外部解説は、USMCA適用がスタッキング判定に影響する点を明示しており、この再点検は還付・将来設計の両面で重要です。ghy+2

ステップ4:還付インパクトを財務目線で試算(キャッシュフローに直結)

  • 「理論上の率」ではなく、実際に支払った追加関税額(対象5措置分のみ)ベースで試算する。
  • 還付対象は、EO 14289の優先順位に反して二重に課されていた分のみであり、Section 301やAD/CVDなど対象外の負担を混ぜないことが重要です。govdelivery+2

ステップ5:清算ステータスで手段を決定(PSCかProtestか)

  • 未清算エントリー → Post Summary Correction(PSC)で修正・還付請求。
  • 清算済みエントリー → Protest(19 U.S.C. 1514、通常180日ルール)で対応。ジェトロ等もこの整理で解説しています。millerco+2

ステップ6:再発防止(次の輸入から“最初から正しい税額”にする)

  • CBPは、EO 14289のもとでも輸入者の reasonable care(合理的注意)義務は維持されるとし、誤りがある場合はCBP窓口やACEヘルプデスクへの相談を案内しています。fedex+2
  • 社内的には、
    • ブローカーへのインストラクション更新(優先順位・対象5措置の適用ロジックを共有)
    • 品目マスター(HTS分類)と原産地判定フロー(USMCA・232・IEEPA)の再設計
    • 追加関税の判定ロジックを「輸入日/エントリー日」も含めてシステム実装
    まで落とし込むことで、「将来分を最初から正しい税額で申告」という状態に近づけることができます。internationaltradeinsights+2

6. 実務でよくある誤解(ここを外すと還付どころかリスク)

誤解1:スタッキング解除=関税が全般的に下がる
→ 対象はEO 14289が列挙した5措置の重複整理だけで、通常関税・Section 301・AD/CVD等は別枠のままです。regulations.justia+2

誤解2:とりあえずまとめて還付申請すればよい
→ 還付の可否は、「対象5措置の二重課税かどうか」と「清算ステータス(PSC/Protest)」次第です。手続きの要件を外すと、却下や後日のペナルティリスクにつながります。macmap+2

誤解3:232鉄鋼と232アルミは必ずどちらか一方
→ EO 14289とCBPガイダンスは、「232 Steelと232 Aluminumは同一貨物に同時適用され得る」と明記しており、鋼とアルミの両方の含有価値を持つ派生品では両方が課税対象になり得ます。internationaltradeinsights+2


7. “ガイド”を使いこなす:CBPの「Unstacking Certain Tariffs Chart」という補助ツール

2025年後半、CBPは、どの大統領措置がどの組み合わせで適用され得るかを一覧で確認できる「Unstacking Certain Tariffs Chart」(ファクトシート/スプレッドシート形式)を公表しました(法的拘束力はなく、あくまで情報提供であり、最終判断は法令・官報・布告が優先)。fedex+1

GHYなどの外部解説が示す実務的な使い方はシンプルです。ghy

  • 自社品目に該当しそうな行(HTS・措置分類)を探す。
  • 行を横に読み、各関税措置が「YES/条件付きYES/NO」となっているかを確認する。
  • そこで「YES」だからといって自動的に課税確定とはせず、例外条項やUSMCA適用状況などを一次資料(EO 14289・Federal Register・CSMS)で必ず裏取りする。

この種のチャートを活用すると、

  • 「どの部門が何を確認すべきか」の社内合意を取りやすくなる。
  • ブローカーとの議論が「そもそも課税か否か」から「どの条件を満たせば/外せばよいか」に進み、コミュニケーションコストを下げられる。

といった形で、実務のスピードと精度の両方に効きます。fedex+1


まとめ:経営としての“最適解”は「還付+再設計」を同時に進めること

CBPの「重複関税(tariff stacking)の解除」ガイドは、制度紹介にとどまらず、過去分のキャッシュ(還付)と今後の原価(追加関税負担)に直結するテーマです。govdelivery+1

経営として押さえるべきポイントは、次の3点に集約できます。

  • 対象は5つの措置に限定されており、かつ2025年6月4日以降は優先順位が変わるため、「3/4~6/3」と「6/4以降」で別々に分析すること。internationaltradeinsights+1
  • 2025年3月4日以降に遡及適用され、未清算はPSC、清算済みはProtest(180日)で還付を狙うこと。millerco+1
  • Section 301やAD/CVDなど対象外の負担を混ぜず、対象5措置だけを切り出して精査すること。federalregister+2

この枠組みを踏まえれば、「過去分の還付」と「今後の正しい関税設計」を同時並行で進めることが、北米ビジネスにとっての合理的な“最適解”になります。

  1. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e0a63e
  2. https://regulations.justia.com/regulations/fedreg/2025/05/20/2025-09066.html
  3. https://www.federalregister.gov/documents/2025/05/20/2025-09066/notice-of-implementation-of-addressing-certain-tariffs-on-imported-articles-pursuant-to-the
  4. https://www.ghy.com/trade-compliance/guidance-on-executive-order-issued-to-prevent-tariff-stacking-on-us-imports/
  5. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/cbp-guidance-feeder-vessels-transit-tariff-dates
  6. https://business.gmu.edu/news/2025-07/addressing-certain-tariffs-imported-articles-executive-order-14289
  7. https://macmap.org/OfflineDocument/USADMIN/Measure_Extraordinary_USA_35.pdf
  8. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/05/cbp-issues-guidance-on-prioritization-of-articles-subject-to-more-than-one-tariff-under-eo-14289/
  9. https://millerco.com/sites/default/files/2025-06/Section-232-Steel-and-Aluminum-Tariff-Rate-Increase-to-50-and-Tariff-Stacking-Changes-June-3-2025.pdf
  10. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/06/amendment-to-imports-of-aluminum-and-steel-increases-232-tariffs-to-50/
  11. https://www.chrobinson.com/de-de/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/06-04-2025-client-advisory-adjusting-imports-of-steel-and-aluminum-into-the-united-states/
  12. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e36e5e
  13. https://millerco.com/sites/default/files/2025-05/CBP-Clarification-of-Tariff-Stacking-Rules-and-Refund-Opportunity-May-16-2025.pdf
  14. https://www.fedex.com/content/dam/fedex/us-united-states/International/upload/Regulatory_News_-_Addressing_Certain_Tariffs_on_Imported_Articles.pdf
  15. https://blog.coleintl.com/tradenews/cbp-issues-guidance-on-tariff-stacking-under-executive-order-14289
  16. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/05-21-2025-client-advisory-cbp-issues-guidance-on-tariff-prioritization-under-executive-order-14289/
  17. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/addressing-certain-tariffs-on-imported-articles/
  18. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
  19. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-05-20/html/2025-09066.htm
  20. https://asafishing.org/wp-content/uploads/2025/06/Tariff-Action-Cheat-Sheet-V31-5-26-2025.pdf

カナダ「鋼材派生品」に25%追加関税(2025年12月26日施行)— 何が変わり、実務で何をすべきか

結論から言うと、提示いただいたブログ草稿は、制度の「骨格」と実務イメージはかな​


1. まず結論:今回の「25%」は、下流の完成品・部材に刺さる

カナダ政府は2025年12月26日から、指定された「鋼材派生品(steel derivative products)」に対して、輸入品の通関価額(value for duty)の全額に25%の追加関税(surtax)を課します。しかも原則として、**全ての国・地域からの輸入が対象(from all countries)**です。orders-in-council.canada+1

これにより、これまで「鋼材(ミル製品)そのもの」中心だった関税リスクが、ボルト・ナット、ワイヤー、プレハブ建築、風力タワー、金属家具などの完成品寄りの品目にまで広がります。coleintl+1

重要なのは、「鋼材部分の価額」ではなく「製品全体の通関価額」に対して25%が乗ることです。通関価額には貨物価格に加え、輸送費・保険料等が含まれ得るため、評価の仕方次第で着地コストは想定以上に跳ね上がります。pcb+1


2. 「対象品目」は何か:建設・インフラ×部材×金属製品が中心

対象は、カナダ財務省が公表したリストに記載された関税番号(Tariff Item/HSコード)で指定されており、説明文はあくまで目安、法的な範囲はカラム1のTariff Itemで決まると明記されています。canada+1

実務的に「刺さりやすい」代表カテゴリを、ビジネス影響がイメージしやすい形に並べると、概ね次のようなイメージです(※例示。最終判断は必ず公式リストで照合)。

  • 構造物・建設系(HS 7308、9406 など)
    例:橋梁部材、塔、鉄骨構造、風力タワー、プレハブ建築coleintl+1
  • ワイヤー・ロープ・金網・チェーン類(HS 7312、7314、7315 など)
    例:ワイヤーロープ、金網、チェーンcanada+1
  • ファスナー(HS 7317、7318 など)
    例:釘、ねじ、ボルト、ナット、ワッシャーcoleintl+1
  • ばね・鋳物・その他金属製品(HS 7320、7325、7326 など)canada+1
  • 金属フレームの椅子・金属家具・照明部材(HS 9401、9403、9405 など)coleintl+1

さらに注意すべきは、「鋼材派生品」という名称からは連想しにくい完成品・半製品も含まれている点です。たとえばドア・窓、家具、照明器具用部材など、一般に「鉄鋼製品」としては認識されにくい品目も対象に含まれるため、「うちは鉄鋼メーカーではないから関係ない」という決めつけは危険です。canada+1


3. 例外(除外)を押さえる:7つの“逃げ道”と、見落としポイント

カナダ財務省のバックグラウンダーおよび Steel Derivative Goods Surtax Order では、25%のsurtaxが適用されないケースが明確に列挙されています。実務上はここが大きな分かれ目です。osler+2

主な「適用除外」は、次のとおり整理できます(要約)。

  • 既存のsurtaxの対象になっている貨物
    例:対中国のsurtax、対米国の鉄鋼・アルミ関連surtax、鉄鋼TRQ関連のsurtax等の対象貨物は、本25%の重複適用(スタック)の対象外。canada+1
  • カジュアル貨物(旅行者の携帯品等)canada
  • Chapter 98 に分類される特定用途・特例扱い貨物(他に対象Tariff ItemがあってもChapter 98分類であれば除外)canada
  • 2026年7月1日より前に輸入され、自動車(車体/シャシ/部品・付属品)製造用途に使用する貨物osler+1
  • 2026年7月1日より前に輸入され、航空機・地上飛行訓練機・宇宙機(およびそれらの部品)用途に使用する貨物osler+1
  • Tariff item 7308.20.00 の特定の風力タワーで、オンタリオ–マニトバ州境より西側のエネルギープロジェクト向けに設置するものosler+1
  • 施行日に「カナダへ輸送中(in transit)」の貨物tid+1

加えて、国内調達が困難など例外的事情がある場合のremission(減免)申請は、ケースバイケースで検討するとされています。制度の存在自体が重要であり、対象となり得る企業は早めに「国内調達困難性」「経済への影響」等を説明できる資料を準備しておく余地があります。chrobinson+1


4. なぜカナダはここまで踏み込むのか:米国市場の閉鎖と国内市場への振り向け

今回の25%は単発の関税ではなく、カナダ政府が進める鉄鋼政策パッケージの一部です。背景には、米国による高関税・輸入制限の強化を受けて、カナダ市場への貿易迂回を防ぎ、自国の鉄鋼産業向け需要を確保する狙いがあります。youtube​pm+1

大きく見ると、政策のポイントは次の2点に整理できます。

  • 鉄鋼(ミル製品)側では、関税割当(TRQ)を縮小し、割当超過分に最大50%のsurtaxを課す枠組みを強化wtocenter+2
  • それだけでは下流(派生品)で「輸入完成品への置き換え」が進むため、派生品にも25%のグローバルsurtaxを広げるpm+1

首相府の説明によれば、派生品関税は「カナダ国内で生産されている派生品」を起点に設計されており、対象リストは市場環境に応じて更新し得るうえ、初期リストだけでも数十億カナダドル規模の輸入に影響すると見込まれています。これは「一度決まって終わり」の制度ではなく、運用次第で対象が拡張され得る枠組みと理解した方が安全です。newswire+2

また、国境当局(CBSA)による順守(コンプライアンス)強化も同時に打ち出されており、誤ったHS分類や虚偽申告をより厳格に是正する姿勢が示されています。これは、実務的には事後調査リスクの上昇として意識する必要があります。canada+1


5. 企業へのインパクト:利益を削るのは「25%」そのものより“連鎖”

インパクト①:着地コストが一気に25%上がる(しかも全額ベース)
「通関価額の全額×25%」は、見積・契約の設計が甘いとダイレクトに粗利を削ります。特に、DDP(関税込み持込)や実務的に売り手側が関税負担を被りやすいスキームでは、利益を一気に圧迫しかねません。pcb+2

インパクト②:価格交渉が“今すぐ”起きる
施行日が明確なため、カナダ側バイヤーは、高い確率で次のようなアクションを検討します。

  • 価格改定(値上げ受け入れ/値下げ要請の再交渉)
  • 供給条件変更(関税負担者・価格調整条項の見直し)
  • 代替サプライヤー探索(カナダ国内化、FTA域内化、別素材・別仕様へのシフト)chrobinson+2

インパクト③:「適用除外・減免の証憑」が競争力になる
今回の制度は、自動車・航空宇宙用途、in transit、風力タワーの地域限定など、除外条件が比較的具体的に定義されています。条件を満たせる企業にとっては、用途証明や輸送証憑をきちんと揃えることで、25%負担を回避しコスト競争力を維持できる可能性があります。osler+1


6. 明日から使える:ビジネス向け“実務チェックリスト”10

実務対応として、輸出者・輸入者・商社がすぐに着手できる基本ステップを10項目に整理します。

  1. 自社品目をHS10桁レベルまで棚卸しする(カナダ輸入時の分類ベースで整理)。canada
  2. 財務省公表の公式リスト(Tariff Item)と突合し、対象・非対象を一次判定する。orders-in-council.canada+1
  3. 対象の場合、「既存の中国向け・米国向け・鉄鋼TRQ関連など他のsurtaxの対象になっていないか」を確認し、本25%との重複がないか整理する。canada+1
  4. 自動車・航空機・宇宙用途等の用途要件で除外を狙える場合、カナダ側での用途証明フロー(契約記載、エンドユーザー証明、製造工程の裏付け等)を設計する。osler+1
  5. in transit 除外を活用する貨物は、B/Lや船積書類で「施行日時点で輸送中」であることを示せるか事前に点検する。tid+1
  6. 見積りは「製品価格」ではなく通関価額ベースで再試算し、輸送費・保険料等も含めた負担増を洗い出す。pcb+1
  7. 契約書に**関税変動条項(tariff pass-through/price adjustment)**があるか確認し、なければ条項追加を検討する。
  8. Incotermsを再点検し、誰が関税を負担するのか(DDP/DAP/FCA等)を契約書面上も明確にしておく。
  9. 国内調達が困難な場合や特別な事情がある場合、remission申請の可能性を検討し、「代替調達の難しさ」「経済・雇用への影響」等の主張骨子を準備する。chrobinson+1
  10. 対象リストが更新され得ることを前提に、財務省・首相府・CBSAの公表情報を定期モニタリングする運用を社内ルールに組み込む。pm+2

7. 今後の注目点:この制度は“拡張”があり得る

  • 対象リストは「カナダ国内で生産されている派生品」を起点に設計され、今後の市場環境に応じて更新され得るとされています。pm+1
  • 鉄鋼(ミル製品)側ではTRQが動いており、輸入戦略を考える際は「ミル製品のTRQ+TRQ超過50%surtax」と「派生品25%surtax」を一体として見る必要があります。blakes+2
  • カナダは米国の関税政策に強く影響を受ける構造にあり、今後の米加通商交渉の展開次第で、remissionやその他周辺制度の運用が変わる可能性があります。pfcollins+2

まとめ:本質は「カナダ向け完成品の関税リスクが制度化された」こと

今回の本質は、25%という数字そのもの以上に、対象が「鋼材(ミル製品)」ではなく、ボルト・ワイヤ、構造物、プレハブ建築、金属家具といった**派生品(完成品・部材)**へ広がった点にあります。coleintl+2

経営としては「関税が上がった」という一事象ではなく、見積・契約・通関・証憑・調達の一連の業務設計そのものを、「カナダ向けは25%surtax前提の市場になった」と捉え直すイベントと位置付けるのが安全です。canada+1

免責:本稿は公開情報に基づく一般情報であり、個別案件の該当性(HS分類、用途要件、申告・証憑要件、減免可否など)は、必ずカナダ側の通関実務(CBSA運用)および専門家の助言により確認してください。chrobinson+1

  1. https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/12/list-of-steel-derivative-products-subject-to-25-per-cent-tariffs-effective-december-26-2025.html
  2. https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/12/government-implements-new-measures-to-protect-canadas-steel-industry.html
  3. https://orders-in-council.canada.ca/attachment.php?attach=47872&lang=en
  4. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-government-canada-announces-tariffs-steel-derivative-product/
  5. https://www.tid.gov.hk/en/tradecircular/2025/ci10702025.html?categoryId=18
  6. https://blog.coleintl.com/tradenews/canada-publishes-list-of-steel-derivative-products-subject-to-25-percent-tariff
  7. https://www.osler.com/en/insights/updates/canada-further-shuts-its-market-to-steel-imports/
  8. https://www.blakes.com/insights/us-canada-tariffs-timeline-of-key-dates-and-documents/
  9. https://web.wtocenter.org.tw/downFiles/13151/419197/00ymjxNd5CXtX0J111118sEykfiCSaW6jraE0HqG0RuAlS11111JdeYIGQgvq1u6d1TKXirDdCilIUGC7cO8Z1jBnf2994hw==
  10. https://www.newswire.ca/news-releases/prime-minister-carney-announces-new-measures-to-protect-and-transform-canada-s-steel-and-lumber-industries-814911145.html
  11. https://www.pwc.com/ca/en/services/tax/publications/tax-insights/canada-tariff-rate-quotas-surtaxes-imports-2025.html
  12. https://www.pm.gc.ca/en/news/news-releases/2025/11/26/prime-minister-carney-announces-new-measures-protect-and-transform
  13. https://www.youtube.com/watch?v=TV6Strj0m88
  14. https://www.pcb.ca/news/ca-release-list-of-steel-derivative-products-subject-to-tariffs-on-dec-26th
  15. https://pfcollins.com/new-25-tariff-assessment-on-steel/
  16. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-government-canada-announces-tariffs-steel-derivative-product/
  17. https://info.expeditors.com/newsflash/canada-to-impose-25-tariff-on-steel-derivative-products
  18. https://www.youtube.com/watch?v=9lwd4bmQy5Q
  19. https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/ca/pdf/tnf/2025/12/ca-importers-temporary-remissions-set-to-end-in-2026.pdf
  20. https://www.willsonintl.com/archives/news/prime-minister-carney-announces-new-measures-to-protect-and-strengthen-canadas-steel-industry

カナダ「鋼材派生品」へ一律25%追加関税が発効──“素材”から“完成品・部材”へ広がる新リスク(2025/12/26施行)


2025年12月26日、カナダは鋼材そのものではなく、鋼材を多用する「鋼材派生品(Steel Derivative Goods)」の一部について、輸入時に一律25%の追加関税(surtax)を課し始めました。 対象は米国や中国など特定国に限られず「全ての国」からの輸入であり、建設・エネルギー案件(風力タワー、橋梁、プレハブ建築ユニット等)のほか、工業用途で広く用いられるワイヤー/チェーン/ファスナー(ねじ・ボルト等)、さらには金属フレーム椅子・金属家具・建物用金物にまで及びます(一部の風力タワーは地域限定の除外あり)。


要点サマリー(実務でまず押さえる4点)

国名税率・内容出所備考
カナダ25%(追加関税 / surtax)Steel Derivative Goods Surtax Order政令スケジュールに列挙された「鋼材派生品」が対象
カナダ25%(課税ベースは通関価額全額)Steel Derivative Goods Surtax OrderCustoms Act 47〜55条に基づく value for duty に対し 25%を課税
カナダ2025年12月26日施行Steel Derivative Goods Surtax Order施行日当日に「輸送中(in transit)」の貨物は適用除外
カナダ例外・猶予あり(自動車・航空宇宙などは 2026/7/1 まで一部除外)Finance Canada 公表リスト既存サーチャージ対象品は原則「二重課税」しない設計

1) 何が変わったのか:今回の追加関税の「設計」

今回の措置は、閣議決定(Order in Council)に基づく Steel Derivative Goods Surtax Order であり、スケジュール(品目リスト)に該当する輸入品に対し、通関価額(value for duty)に対して一律 25% の surtax を課すものです。 ここでいう value for duty は、Customs Act 47〜55条に基づく価額決定ルールに従って算出される通関価額であり、追加関税はその全額を課税ベースとします。

ここで重要なのは次の2点です。

  • 「鋼材含有量」ではなく、製品の通関価額 全額 に 25%を乗せる設計
    → 価格インパクトを過小評価しやすく、DPU/DDP 等の契約条件や見積りを再点検する必要があります。
  • Chapter 99(カナダの特別措置用コード)に付け替えても回避できない構造
    → Chapter 99 のタリフ・アイテムで申告した場合でも、もとの分類がスケジュール掲載のタリフ・アイテムに該当すれば surtax 対象とされます。

2) 対象はどこまで広い?──“完成品・部材”に刺さる品目群

対象は、Finance Canada が公表した「タリフ・アイテム(HS)」指定により決まり、説明文はあくまで参考情報であり、最終的な範囲はタリフ・アイテム自体によって確定します。 代表的な品目を、ビジネスインパクトが出やすい順に整理すると次の通りです。

(A) 建設・インフラ・エネルギー(案件単位で金額が大きい)

  • 構造物・部材(橋梁、塔、ドア/窓枠等):7308.10/20/30/90
  • プレハブ建築(鋼製モジュール含む):9406.20 ほか

(B) “地味に効く”製造業の定番(コスト転嫁が難しい)

  • ストランドワイヤー/ロープ/ケーブル:7312
  • 有刺鉄線・フェンス類、金網・ネット:7313、7314
  • チェーン類:7315
  • くぎ・ねじ・ボルト・ナット・ワッシャー:7317、7318

(C) 家具・建材・部品(完成品側に波及)

  • 金属フレームの椅子:9401.71/79
  • オフィス用金属家具、家具部品:9403.10、9403.99
  • 建物用金物(取付金具等):8302.41.90

注意点として、リストには「プラスチック製建具(3925.20)」のように、一見すると鉄鋼製品に見えない分類も含まれているため、先入観で除外せず、HS ベースで網羅的に洗い出すことが重要です。


3) 例外・猶予(ここを外すと“余計に払う”)

公表されている主な適用除外・猶予は次の通りであり、実務上は用途・期間を裏づける証憑をどこまで整備できるかがカギになります。

  • 既に他のサーチャージ対象の品(例:China Surtax Order 2024、United States Surtax Order (Steel and Aluminum 2025) 等)
    → 原則として「二重課税しない」設計。
  • Chapter 98(特別分類)は対象外
    → Chapter 98 のタリフ・アイテムに分類される貨物は、他のタリフ・アイテムに該当していても surtax を課さない。
  • 自動車(車両・シャシ・部品/付属品)向け用途:2026年7月1日以前の輸入は除外
  • 航空機・宇宙(航空機・地上飛行訓練機・宇宙機等)向け用途:2026年7月1日以前の輸入は除外
  • 特定の風力タワー(7308.20.00):オンタリオ–マニトバ境界以西のエネルギー案件向けは除外
  • 施行日(2025/12/26)時点で「輸送中(in transit)」の貨物は除外

さらに、国内での調達が困難な場合など、例外的事情によりカナダ経済への深刻な悪影響が見込まれるケースでは、関税免除(remission)申請を個別に審査するとされています。 完全な「ゼロ回答」ではなく、救済の可能性を残す制度設計といえます。


4) なぜ今「派生品」なのか:背景は“迂回流入”と内需防衛

カナダ政府は、米国による鉄鋼・アルミ関税や中国などへのサーチャージの影響で、鋼材が第三国・派生品ルートを通じてカナダ市場に流入するリスクを強く意識しており、国内産業保護とグリーン投資推進を目的とした新パッケージの一環として鋼材派生品への 25% 関税を導入しました。 その中には、輸入管理の強化、TRQ 見直し、国境でのコンプライアンス強化など複数の措置が含まれています。

当局側の問題意識として、「鋼材そのもの」への規制だけでは、完成品・部材に形を変えた輸入を十分に抑えられない点が強調されています。 そのため、今回のリストは、構造物・ファスナー・ワイヤー・家具・プレハブ等のいわゆる「下流製品」をピンポイントで対象にした設計になっています。


5) 日本企業(輸出・現法)へのインパクト:どこが痛いか

影響①:見積りが“25%上振れ”しやすい(しかも全額課税)

カナダ向けにねじ・ボルト・金属フレーム椅子・プレハブユニット等を輸出している場合、輸入者側コストを通じて 25% の追加負担がストレートに効いてきます。 契約条件が DDP など輸入関税を輸出側が負担するスキームの場合、日本側が追加コストを吸収せざるを得ないケースも想定されます。

影響②:建設・再エネ案件で「コスト+納期」両面の変動

風力発電や大型インフラ案件のように、対象 HS の部材単価・数量が大きいプロジェクトでは、総コストへの影響が顕著になります。 一方で、特定地域向け風力タワー等の例外もあるため、案件所在地・用途・設置条件を証明できるかどうかが、プロジェクト単位での差別化要素になります。

影響③:取締り強化で「分類・原産地・用途」が監査点に

政府は、カナダ国境サービス庁(CBSA)に専任のコンプライアンス体制を設け、虚偽申告の検知・是正を強化する方針を打ち出しています。 これまでグレーな運用でしのいでいた企業ほど、事後の更正(B2 更正)や追徴課税リスクが高まることが想定されます。


6) すぐやる実務チェックリスト(現場が動きやすい順)

  • 品目の当たりを付ける(HS/タリフ・アイテム照合)
    → 7308/7312/7317/7318/9406 あたりが出てきたら「要注意」としてスケジュールと突き合わせる。
  • 例外該当性(用途・期限・輸送中)を棚卸し
    → 自動車・航空宇宙用途は「2026/7/1 以前の輸入」が条件であり、発注書・製造指図書・用途宣誓書・BOM 等で裏づけが必要。
  • 通関価額(value for duty)を再点検
    → 25%は「価額全体」に乗るため、移転価格ポリシーやロイヤルティなど加算要素の取り扱いの違いが関税負担に直結します。
  • 契約(インコタームズ)・価格条項を確認
    → Duty 負担者・価格改定条項・関税変動条項がない取引は、短期的にトラブルに発展しやすい。
  • 代替調達・仕様変更(ねじ/ワイヤー/家具/プレハブ)を検討
    → 「カナダ国内製」への置き換えを促すインセンティブ設計である点を踏まえ、競合が動き出す前にサプライチェーン再編を検討。
  • 顧客(カナダ輸入者)と「誰が申告・誰が立証」するか決める
    → 例外適用は、最終的に証憑を整理・提出できる当事者が有利になるため、責任分担をあらかじめ明確化。
  • リスト更新のモニタリング運用を作る
    → 政府はリスト更新の可能性を示唆しており、更新頻度が上がるほど属人的チェックでは限界があるため、定期的なモニタリング体制を仕組み化する必要があります。

7) まとめ:今回の本質は「カナダ向け完成品の関税リスクが一段上がった」こと

2025年12月26日以降、カナダは鋼材「派生品」に対し、一律 25% の追加関税を全世界からの輸入品に適用します。 課税ベースは通関価額の全額であるため、見積り・契約・価格転嫁設計が甘いと、利益が一気に圧迫される構造です。

一方で、自動車・航空宇宙向けの時限除外(〜2026/7/1)や in transit 除外、特定風力タワーの地域限定除外、さらには remission の個別申請など、一定の「逃げ道」も用意されています。 実務上の勝負どころは、これらの例外を的確に読み取り、用途・期間・物流条件を示す証憑をどこまで前倒しで整えるかにあります。

※本稿は公開情報に基づく一般的な情報であり、実際の該当性判断(分類・用途・申告方法等)は、カナダ側の通関実務(CBSA 運用)も踏まえ、現地通関業者・専門家と個別にすり合わせてください。