相互関税の裁判(2026年2月14日(土)現在の最新状況)

2026年2月14日(土)現在の最新状況を報告します。

結論から申し上げますと、米連邦最高裁判所は現在も冬期休廷(Winter Recess)期間中であり、「相互関税(Reciprocal Tariffs)」の合憲性をめぐる判決は、本日時点でもまだ下されていません。

しかし、この週末にかけて「判決後の世界」を見据えた実務面での緊張が非常に高まっています。最新のポイントを整理しました。

1. 司法の動静:2月20日が「運命のXデー」

  • 現状: 最高裁は依然として沈黙を保っています。
  • 次の焦点: 判事たちが法廷に集まる休廷明けの2月20日(金)、あるいは週明けの**2月23日(月)**が、判決が言い渡される最短かつ最有力な日程として、全ての法曹・経済メディアが注視しています。
  • 専門家の予測: 判決がここまで遅れているのは、単に「合憲か違憲か」だけでなく、もし違憲とした場合に**「いつまで遡って還付を認めるか(財政破綻を避けるための範囲指定)」**という、極めて複雑な救済措置の議論に時間がかかっているためと推測されています。

2. 実務の最前線:還付準備と「駆け込み提訴」のピーク

  • 還付金の電子化(2月6日〜): 先週から始まった米税関(CBP)による「還付金のACH(電子送金)限定」ルールにより、政府側は**「負けた瞬間に数千億ドルを払い戻す準備」**を完了させています。
  • 企業の動き: 今週、判決で「還付」が認められた際に確実に対象となるよう、世界中の主要メーカーや商社が米国際貿易裁判所(CIT)に相次いで提訴を行いました。この「駆け込み提訴」の波は、2月20日の判決公表直前まで続くと見られています。

3. 外交・政治:トランプ政権による「既成事実化」

  • 個別交渉の継続: インドや北マケドニアに続き、政権側は他の国々とも「米製品の購入」を条件とした個別的な関税引き下げ交渉を継続しています。
  • 狙い: 司法判断が出る前に多くの国と「合意」を成立させることで、たとえ最高裁でIEEPA法(国際緊急経済権限法)の使用が制限されても、実質的な関税網を維持しようとする戦略です。

今後の重要スケジュール

日付出来事・注目点
2月15日(明日)メキシコ・カナダ関税の猶予期限。 裁判とは別枠ですが、北米サプライチェーンに巨大なコスト変動が起きる可能性があります。
2月20日(金)最高裁活動再開。 ここで判決が出るかどうかが最大の焦点です。
2月23日(月)週明けの判決発表予備日。

要約すると、現在は「2月20日の司法判断」に向けた、まさに嵐の前の静けさの状態です。

明日15日はメキシコ・カナダへの関税に関する大きな節目でもあります。

米下院によるカナダ関税終了決議案可決:北米サプライチェーンへの影響と実務的展望

2026年2月14日

2026年2月11日、ワシントンD.C.において北米の貿易環境を左右する重要な政治的決断が下されました。米国下院は、トランプ大統領がカナダに対して課している追加関税を終了させるための共同決議案を、賛成219、反対211の僅差で可決しました。

この決議案は、ニューヨーク州選出の民主党議員であるグレゴリー・ミークス氏によって提出されたものです。この採決結果は、単なる政党間の対立を超えて、米国の通商政策における深刻な不確実性と、今後の北米サプライチェーンにおけるリスク管理の難しさを浮き彫りにしています。本稿では、ビジネスの視点からこのニュースの深層を解説します。


議会が示した拒絶。219対211の僅差が物語る共和党内の亀裂

今回の下院決議で最も注目すべき点は、党議拘束に近い状況にありながら、6人の共和党議員が造反して民主党の決議案に賛成したことです。

通常、トランプ政権の政策は共和党内で強固な支持を得る傾向にありますが、カナダという最も緊密な貿易相手国に対する高関税は、米国国内の製造業や農業、消費財セクターに多大なコスト増を強いています。造反した議員の選挙区の多くは、カナダとの経済的結びつきが強く、関税による副作用が無視できないレベルに達していることを示唆しています。

この結果は、ホワイトハウス主導の強硬な保護主義に対して、立法府の一部が明確なブレーキをかけようとしている象徴的な出来事といえます。


ビジネス界への波紋。USMCA体制とサプライチェーンの不透明感

カナダからの輸入品に課される関税は、自動車部品、エネルギー、アルミニウム、鉄鋼など、米国製造業の根幹を支える資材を直撃しています。今回の下院決議が可決された背景には、産業界からの強い不満とロビー活動があったことは間違いありません。

コスト構造の激変と投資判断の停滞

企業にとって、関税は単なるコスト増ではありません。数ヶ月ごとに通商ルールが変わる可能性があるという不確実性こそが最大の懸念事項です。北米自由貿易協定の後継であるUSMCAの精神に反する形での関税発動は、メキシコやカナダを拠点とするサプライチェーンの信頼性を揺るがしています。今回の決議可決により、一時的な関税撤廃への期待が高まる一方で、政治的対立による混乱が長期化するリスクも再認識されました。


拒否権の壁と今後のシナリオ。実務担当者が注視すべきポイント

下院で可決されたこの決議案ですが、法として成立し、実際に関税が終了するまでの道のりは依然として険しいものがあります。

1. 上院での審議と大統領の拒否権

決議案は次に上院へと送られます。上院で可決されたとしても、トランプ大統領が拒否権を行使することはほぼ確実と見られています。大統領の拒否権を無効化するためには、上下両院で3分の2以上の圧倒的多数の賛成が必要ですが、現状の採決数を見る限り、そのハードルは極めて高いと言わざるを得ません。

2. 政治的なメッセージとしての意味合い

法的な強制力が直ちに発生しなくとも、今回の可決は「象徴的な意味」を強く持っています。2026年に行われるUSMCAの見直し(ジョイント・レビュー)に向けて、議会内にも関税反対の勢力が一定数存在することを示すことで、カナダ側は交渉における強力なカードを手にしました。


結論。ビジネスリーダーが取るべき対応

このニュースを受けて、貿易や物流の担当者は以下の点に留意する必要があります。

まず、カナダ関税が即座に撤廃されることを前提とした予算編成は控えるべきです。依然としてホワイトハウスの権限は強く、関税が継続される可能性が高いのが現実です。

一方で、米国議会内の動きは、将来的な政策修正の予兆でもあります。サプライヤーとの契約において、関税コストの負担割合を柔軟に変更できる条項を盛り込むことや、他地域からの代替調達の検討など、政治リスクを前提とした二段構えの戦略が求められます。ワシントンの政治動向が、企業の損益計算書にこれほど直結する時期はありません。


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

米議会が突きつけた「NO」。トランプ大統領のカナダ関税に対する下院決議可決の衝撃と行方

2026年2月13日 | 北米政治・通商政策

2026年2月11日水曜日、ワシントンD.C.でひとつの歴史的な採決が行われました。

米国下院は、トランプ大統領が国家非常事態権限を行使して発動したカナダに対する追加関税を「終了」させるための共同決議案を、賛成219、反対211の僅差で可決しました。

このニュースは、単なる議会手続きの一幕ではありません。ホワイトハウス主導の強硬な保護主義に対し、立法府が明確な拒絶の意思を示した分水嶺となる出来事です。本稿では、この決議が持つ政治的な意味と、北米ビジネスに及ぼす現実的な影響について解説します。

わずか「8票差」の攻防。共和党からの造反が意味するもの

今回の決議案(H.J. Res)は、下院外交委員会の重鎮である民主党のグレゴリー・ミークス議員(ニューヨーク州選出)によって提出されました。

注目すべきは、その採決結果です。

最終的な票数は賛成219票、反対211票

下院の過半数を握る共和党指導部は、トランプ大統領の政策を支持し、決議案への反対を呼びかけていました。しかし、6名の共和党議員が党議拘束を破り、民主党議員全員と共に「賛成」票を投じました。

この6名の造反は、トランプ政権の岩盤支持層と思われていた共和党内においてさえ、同盟国であるカナダへの無差別な関税攻撃に対する懸念や、地元経済への報復関税リスクに対する危機感が高まっていることを示唆しています。

今後のプロセス。上院の壁と「拒否権」の現実

下院を通過したこの決議案は、次に上院へと送られます。しかし、ここからが本当の戦いです。

1. 上院での審議

上院でも民主党は結束して賛成に回ると見られますが、過半数を確保するためには、下院以上に多くの共和党上院議員の協力が必要です。現在、一部の穏健派共和党議員は関税に批判的ですが、可決に必要な数を確保できるかは予断を許しません。

2. 大統領拒否権の発動

仮に上院でも可決された場合、決議案は大統領デスクへ送られます。CBS Newsなどの報道分析によれば、トランプ大統領はこの決議に対して拒否権(Veto)を行使することが確実視されています。

3. 拒否権を覆せるか

大統領の拒否権を覆し、決議を法として成立させるためには、上下両院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要です。今回の下院採決が「219対211」という僅差であったことを考慮すると、拒否権を覆すための「圧倒的多数」を確保することは極めて困難です。

ビジネスへの影響。関税は「継続」するが、政治リスクは変質した

この決議可決を受けて、企業の貿易担当者はどのように動くべきでしょうか。

関税は即時には止まらない 冷静に認識すべき事実は、この下院決議だけでは法的拘束力が発生しないということです。現時点でカナダ国境における関税徴収は続いており、明日の実務が変わるわけではありません。

USMCA見直しの交渉カード しかし、この決議はカナダ政府にとって強力な交渉カードとなります。「米国内にも関税反対の声が過半数ある」という事実は、現在進行中のUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直し協議において、カナダ側の立場を補強します。

不確実性の長期化 議会と大統領の対立が鮮明になったことで、通商政策の先行きはより不透明になりました。企業は、関税が「大統領令で突然決まり、議会との対立で長引く」という不安定な環境が、2026年中は続くと想定しておく必要があります。

まとめ

2月11日の下院決議は、関税撤廃に向けた決定打ではありませんが、ワシントンの空気が変わりつつあることを告げる警鐘です。

6人の共和党議員が投じた一票は、経済合理性を無視した関税政策には身内からもNOが突きつけられるという、政権への痛烈なメッセージとなりました。ビジネスリーダーは、この政治的な亀裂が今後の政策変更にどうつながるか、上院の動向を注視し続ける必要があります。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

中国の24FTA活用で関税ゼロを実現する:日本企業が知るべき実務戦略


中国は2026年も、31の国・地域と締結した24の自由貿易協定(FTA)に基づく協定税率を継続適用しています。この協定ネットワークによる貿易額は、中国の貨物貿易総額の45%を占めるまでに拡大しており、グローバルに展開する日本企業にとって、戦略的に活用すべき重要な制度インフラとなっています。news.livedoor+1

本記事では、中国のFTA戦略の全貌、協定税率の仕組み、そして日本企業が具体的にどう活用すればコスト競争力を高められるのかについて、実務に直結する視点から詳しく解説します。

中国のFTA戦略が生み出す巨大な経済圏

世界貿易の45%をカバーする協定ネットワーク

2026年1月時点で、中国は31の国・地域と24の自由貿易協定を締結しています。国務院報道弁公室が2025年の貿易活動状況について開いた記者会見では、自由貿易パートナーとの貨物貿易額が中国の貨物貿易総額に占める割合が45%に達していることが明らかにされました。recordchina+1

この数字は、中国にとってFTA活用が例外的な特例措置ではなく、通常のビジネスプロセスに組み込まれた標準的な貿易手法となっていることを意味します。日本企業が中国市場で競争力を維持するには、この協定ネットワークを理解し、積極的に活用することが不可欠です。

34の貿易パートナーとの多層的な関係

中国が締結している24のFTAは、34の貿易パートナーをカバーしています。これには、ASEAN10カ国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが参加するRCEP(地域的な包括的経済連携)協定が含まれます。news.nifty+3

RCEPは2022年1月1日に発効し、世界のGDP、貿易総額、人口の約3割を占める地域の大型協定となっています。日本企業にとっては、日中間で初めて関税削減が実現した歴史的な枠組みであり、これまで活用できなかった対中輸出での関税メリットを享受できるようになりました。[jetro.go]​

継続的に拡大する協定範囲

中国のFTA戦略は静的なものではなく、継続的に拡大しています。2026年1月には中国が31の国・地域との協定を保有していると報じられましたが、これは以前の報告から増加しており、今後もさらなる拡大が見込まれます。news.livedoor+1

中国は2021年にCPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)への加盟を要請しており、これが実現すれば、日本を含むCPTPP加盟国との貿易における関税削減が一層進むことになります。日本企業は、こうした動向を注視しながら、中長期的なサプライチェーン戦略を構築する必要があります。[jipfweb]​

関税制度の基本構造を理解する

中国の関税率は4つの階層で構成される

中国の輸入関税制度は、複数の税率が階層的に設定されており、条件に応じて最も有利な税率が適用される仕組みです。具体的には、次の4つの税率が存在します。beecruise.co+1

最恵国税率(MFN税率)は、WTO加盟国または中国と相互関税協定を結んでいる国からの輸入品に適用される基本的な税率です。これが標準の関税率となります。[beecruise.co]​

暫定税率は、最恵国税率が適用される国・地域からの輸入品に対して、政策目的に沿って特定の品目に限定し、一定期間だけ低い税率を適用するものです。2026年は935品目に暫定税率が設定されています。global-scm+2

協定税率は、中国と特定の国・地域との間の貿易協定や関税優遇協定に基づく関税率です。FTA締結国からの輸入品で、原産地要件を満たす場合に適用されます。digima-japan+1

特恵税率は、中国との間で関税特恵協定を締結している開発途上国に適用される、最恵国税率よりも有利な特例措置です。2026年も、最不発達国43カ国には100%の品目で無税待遇が維持されています。afpbb+2

税率適用の優先順位

実務上、重要なのは税率の優先順位です。複数の税率が適用可能な場合、基本的には最も低い税率が優先されます。ただし、協定税率を適用するには原産地証明が必要であり、暫定税率には品目の条件がありますので、単純に税率の数字だけで判断することはできません。[import-tiger]​

中国は2026年も、24のFTA等に基づく協定税率の適用を継続しており、暫定税率より協定税率の方が低い品目も普通に起こり得ます。このため、暫定税率だけに注目するのではなく、原産地要件を満たすなら協定税率の方が有利なケースを見逃さないことが重要です。global-scm+2

RCEP協定を活用した実践的コスト削減戦略

RCEP協定がもたらす具体的なメリット

RCEP協定は、ASEAN10カ国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加する広域FTAです。日本にとって、中国および韓国との間で初めて関税削減が実現した点が最大の特徴です。wikipedia+1

日本の対中輸出では、品目によって関税率や削減スケジュールが異なりますが、多くの品目で段階的な関税削減が進んでいます。日本の場合、ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド、中国、韓国の3つに譲許内容が分かれており、同一の原産品について相手国ごとに異なる税率が適用されることがあります。[customs.go]​

実際の企業活用事例

RCEPの活用は、理論だけでなく実際のビジネスで成果を上げています。ジェトロが2022年3月に公開した情報によれば、発効からわずか2カ月で4,000件超のRCEP活用が報告されており、日本企業の間で急速に浸透していることがわかります。[jetro.go]​

食肉加工機械を中国に輸出するワタナベフーマック(愛知県名古屋市)の事例では、現在7.0%の関税率がかかる製品について、RCEP協定の発効後、段階的な関税削減を経て11年目に撤廃されることが見込まれています。同社によれば、「最終的に7%の値上げをせずにすむと考えると、逆に大きな値引きにはなると考えられる」としています。[jetro.go]​

中国や韓国から日本への輸入についても、100円ショップのダイソーを運営する大創産業(広島県東広島市)が「輸入全体の大きな割合を占めているなか、RCEPを使うことによって減免税の効果が大きい」と活用を進めています。[jetro.go]​

原産地証明の取得プロセス

RCEP協定の恩恵を受けるには、原産地証明が必要です。これは「その製品が日本で原産性を持っている(原産品である)」ことを証明する手続きです。[shigyo.co]​

具体的なプロセスは以下の通りです。まず、原材料のHSコードを調査し、原産品判定依頼申請書を作成します。次に、原産性を示す資料や申請書を作成し、日本商工会議所へ申請します。日本商工会議所への手数料は無料です。[shigyo.co]​

RCEP協定国内にて同じHSコード、同製品にて生産者の変更がない場合は、一度だけの手続きで今後の輸出時にも使用できます。特定原産地証明書の発給申請は、原産品判定依頼により原産品として判定された産品の輸出者が行います。jcci.or+1

暫定税率と協定税率の二重チェックが生む競争優位

2026年の935品目暫定税率引き下げ

中国は2026年1月1日から、935品目についてWTO最恵国税率(MFN)より低い暫定輸入税率を適用しています。対象には、リチウムイオン電池用再生ブラックパウダー、人工血管、感染症診断キットなどが含まれます。global-scm+2

この暫定税率引き下げは、先端産業の部材調達、グリーン転換の原料確保、医療高度化を同時に進める「ターゲット型の関税設計」といえます。対象品目に該当する企業にとっては、中国市場での価格競争力が大きく向上する機会です。[global-scm]​

暫定税率と協定税率の使い分け

実務上、極めて重要なのが暫定税率と協定税率の比較です。暫定税率より協定税率の方が低い品目は普通に起こり得るため、単純に暫定税率の恩恵だけを見ていると、より有利な協定税率を見逃してしまいます。[global-scm]​

中国は2026年も、24のFTA等(34の貿易パートナー)に基づく協定税率を継続し、これらを適切に比較して最適な税率を選択することが、コスト競争力を最大化する鍵となります。afpbb+1

税率比較だけで終わらず、原産地要件と証明運用(自己申告か、証明書か、保存義務は何か)まで同時に点検するのが定石です。原産地証明の取得には一定の手続きとコストがかかりますが、長期的には大きな関税削減効果が得られます。[global-scm]​

実務チェックリストで漏れを防ぐ

協定税率を最大限に活用するために、以下の実務チェックリストを活用してください。[global-scm]​

第一に、中国側税則の号列まで落として対象判定を行います。日本側のHS6桁一致だけで判断せず、2026年の暫定税率表(附表)で該当する税番があるかを照合します。照合の証跡として、該当箇所のPDF保存や社内台帳化まで行うことが推奨されます。[global-scm]​

第二に、関税割当(タリフクォータ)対象かを確認します。935品目は「関税割当品目を除く」と整理されているため、対象外の取り違いを防ぐ必要があります。[global-scm]​

第三に、協定税率との比較を必ず行います。ここは税率比較だけで終わらず、原産地要件と証明運用まで同時に点検するのが定石です。[global-scm]​

日本企業が取るべき具体的アクションプラン

自社製品のHSコード分類と該当性確認

最初のステップは、自社製品の正確なHSコード分類です。日本のHSコードと中国のHSコードは基本的に6桁まで共通ですが、それ以降の細分番号は国によって異なります。[global-scm]​

中国側の税則号列(細分)で該当判定し、暫定税率の適用対象か、あるいはFTA協定税率の対象かを確認します。ex指定品目は、仕様や用途で分かれることがあるため、製品の詳細な仕様書と照らし合わせた慎重な判断が必要です。[global-scm]​

原産地証明取得体制の構築

RCEP等のFTA協定税率を活用するには、原産地証明の取得が必須です。社内に原産地証明取得のための専門チームを設置するか、外部の専門家(通関士、貿易コンサルタント)を活用する体制を整えます。[shigyo.co]​

原材料のHSコード調査から原産品判定依頼申請書の作成、日本商工会議所への申請まで、一連のプロセスを標準化し、輸出案件ごとにスムーズに処理できる仕組みを作ることが重要です。[shigyo.co]​

RCEP協定国内にて同じHSコード、同製品にて生産者の変更がない場合は、一度だけの手続きで今後の輸出時にも使用できるため、初期の手間を惜しまず確実に取得することが長期的なコスト削減につながります。[shigyo.co]​

価格戦略と顧客交渉への反映

関税削減効果をどう価格戦略に反映するかも重要な経営判断です。暫定税率や協定税率が下がる品目は、インコタームズと関税負担者を再確認した上で、見積の更新と顧客への説明資料を準備します。[global-scm]​

中国側買主が通関する取引でも、関税が下がった分の値引き圧力として返ってくるため、先回りして対応することが有効です。関税削減効果を全て顧客に還元するのか、自社の利益として確保するのか、あるいは一部を価格競争力として市場シェア拡大に投資するのか、戦略的な判断が求められます。[global-scm]​

サプライチェーン全体の最適化

RCEPをはじめとするFTA活用は、単なる関税削減にとどまらず、サプライチェーン全体の最適化につながります。中国輸出が主力の企業は、RCEP利用によるコストダウン提案が有効であり、輸入企業は、仕入先選定で関税ゼロを活かせるかを再検討する機会となります。[yushutsu]​

社内で「RCEP活用チェックリスト」や「原産地管理台帳」を整備することでスムーズな運用が可能になります。また、累積原産地規則(材料が複数のRCEP締約国で生産されても原産品として認められる規定)を活用すれば、より柔軟な調達戦略が可能になります。[yushutsu]​

今後の展望と戦略的インプリケーション

中国のFTA拡大が生む新たな機会

中国のFTA戦略は今後も拡大を続けます。CPTPPへの加盟が実現すれば、日本を含むCPTPP加盟国との貿易における関税削減が一層進みます。また、中国が積極的に推進する「一帯一路」構想の沿線国とのFTA締結も進む可能性があり、日本企業にとっては新たな市場アクセスの機会が生まれます。[jipfweb]​

日本企業は、こうした動向を注視しながら、中長期的なサプライチェーン戦略を構築する必要があります。特に、中国を生産拠点として第三国市場に輸出するビジネスモデルでは、中国が締結するFTAネットワークを最大限に活用することで、グローバルな競争力を高めることができます。

デジタル化による原産地証明の簡素化

RCEP協定では、原産地証明の方法として第三者証明(日本商工会議所による発給)、認定輸出者による自己証明、そして輸入者による自己申告の3つが認められています。今後、デジタル技術の進展により、原産地証明のプロセスがさらに簡素化される可能性があります。[jetro.go]​

電子的な原産地証明や、ブロックチェーン技術を活用したサプライチェーンの透明性向上など、新しい技術の導入により、FTA活用のハードルが下がることが期待されます。日本企業は、こうした技術革新を積極的に取り入れ、競争優位性を確保する必要があります。

米国の保護主義との対比

トランプ政権による高関税政策が米国市場での事業環境を厳しくする一方で、中国が推進するFTA戦略は対照的に自由貿易の拡大を志向しています。日本企業にとって、米国市場と中国市場の両方でバランスの取れた戦略を構築することが重要です。

一方の市場での関税リスクを、他方の市場でのFTA活用によって緩和するという、リスク分散の観点も戦略的に重要です。特に、輸出先市場の多様化とFTAネットワークの戦略的活用は、地政学リスクへの対応としても有効です。

まとめ

中国が31の国・地域と締結した24のFTAに基づく協定税率は、2026年も継続適用されており、これらのFTA貿易額は中国の貨物貿易総額の45%を占めるまでに拡大しています。この巨大な協定ネットワークは、日本企業にとって戦略的に活用すべき重要な制度インフラです。recordchina+1

特にRCEP協定は、日中間で初めて関税削減が実現した歴史的な枠組みであり、すでに多くの日本企業が具体的な成果を上げています。暫定税率と協定税率の二重チェックを行い、原産地証明を確実に取得することで、大きなコスト競争力を獲得できます。jetro+3

日本企業は、自社製品の正確なHSコード分類、原産地証明取得体制の構築、価格戦略への反映、そしてサプライチェーン全体の最適化を通じて、中国のFTA戦略を最大限に活用し、グローバル市場での競争力を高めることが求められています。


免責事項

本記事は2026年2月13日時点で公開されている情報に基づいて作成されています。FTA協定の内容、関税率、原産地規則、手続き要件などは今後変更される可能性があり、本記事の内容が将来にわたって正確であることを保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の企業や個人に対する貿易実務の助言、税務相談、法律相談を意図したものではありません。実際にFTA協定税率を適用する際には、品目分類、原産地要件、証明手続きなど、個別の事情に応じた専門的な判断が必要となります。具体的な輸出入取引や関税申告を行う際には、必ず通関士、貿易実務の専門家、税理士、弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者および関係者は一切の責任を負いかねます。

トランプ関税は誰が本当に負担しているのか:ニューヨーク連銀の衝撃レポートが示す真実


米国のトランプ政権が強力に推進してきた関税政策について、2026年2月12日、ニューヨーク連邦準備銀行が公表した調査報告書が波紋を広げています。「関税は貿易相手国が負担する」というトランプ大統領の主張とは裏腹に、実際には関税の90%を米国の消費者と企業が負担していることが明らかになりました。この事実は、グローバルに事業を展開する日本企業にとって、今後の経営戦略を根本から見直す必要性を示唆しています。newsweekjapan+1

本記事では、ニューヨーク連銀と米議会予算局による最新分析を基に、関税負担の実態、その経済的メカニズム、そして日本企業が直面するリスクと対応策について、ビジネスの現場で役立つ視点から解説します。

ニューヨーク連銀が明らかにした関税負担の実態

90%が米国内で吸収される衝撃の数字

ニューヨーク連銀が2026年2月12日に発表した報告書は、2025年の関税政策の影響を詳細に分析しています。調査対象期間中、米国の平均関税率は2.6%から13%へと急激に上昇しましたが、この追加コストの大部分が米国内で吸収されていたことが判明しました。reuters+1

具体的な数値を見ると、2025年1月から8月にかけて、関税による打撃の94%を米国民が被っていました。この比率は9月から10月には92%に低下し、11月には86%となりましたが、いずれにしても圧倒的多数が米国側の負担となっています。newsweekjapan+1

議会予算局の分析が裏付ける構造的問題

ニューヨーク連銀の調査結果は、米議会予算局(CBO)が2026年2月11日に発表した報告書とも一致しています。CBOの分析によれば、関税負担の内訳は次のように整理されます。reuters+1

外国の輸出企業が負担するのはわずか5%にとどまります。残る95%のうち、米国企業が利益率の引き下げによって輸入価格上昇分の30%を吸収し、最終的に70%が値上げを通じて消費者に転嫁されます。newsweekjapan+1

CBOは「関税の引き上げは輸入品のコストを直接的に増加させ、米消費者と企業の価格を押し上げる」と明確に指摘しています。これは、関税が実質的には自国民への課税として機能していることを意味します。reuters+1

関税パススルーのメカニズムを理解する

価格転嫁率が決定する最終負担者

関税が消費者価格にどの程度転嫁されるかを示す指標が「関税パススルー率」です。この比率は輸入量の価格感応度や市場構造によって異なります。dcer.dentsusoken+1

理論的には、10%の関税が課され、関税パススルー率が60%の場合、輸入価格は6%上昇し、関税負担の6割を米国側が、残り4割を輸出国側が負担することになります。しかし、実際には販売マージンや物流コストが関税賦課後も変化しないわけではなく、輸入品の消費者価格はそのまま6%上昇し、米国消費者の負担となります。dcer.dentsusoken+1

短期的な緩衝材が存在する理由

興味深いことに、関税導入直後は消費者価格への転嫁が比較的穏やかに進む傾向があります。これには複数の要因が関係しています。murc+2

第一に、関税導入前の駆け込み輸出による在庫の存在です。企業は関税発効前に大量に輸入することで、一時的に関税負担を回避できます。第二に、卸売・小売段階でのマージン圧縮です。流通業者が自らの利益を削って価格上昇を抑制しているのです。dcer.dentsusoken+1

2018年の米国の対中関税を分析したCavalloらの研究によれば、当時の関税パススルー率が100%に近かったにもかかわらず、小売価格は関税率ほど上昇しておらず、関税負担の多くを米国の卸売業者や小売業者、流通業者が負担していることが示唆されています。[dcer.dentsusoken]​

時間の経過とともに進む価格転嫁

しかし、こうした緩衝材は一時的なものにすぎません。在庫が枯渇し、企業がマージン圧縮に耐えられなくなると、価格転嫁が本格化します。murc+1

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの分析によれば、関税分の50%程度を価格に転嫁する見込みがあり、先行きは価格転嫁が広がり、コア財価格上昇率が加速すると予測されています。電通総研の研究も、今後はトランプ関税の価格転嫁がさらに進み、物価上昇圧力がかかり、最終的には米国の消費者負担が増していくと指摘しています。dcer.dentsusoken+2

日本企業が直面する具体的な影響

自動車産業への甚大な打撃

トランプ関税の影響は、日本企業に深刻な打撃を与えています。特に自動車産業での影響が顕著です。yomiuri+1

日本の自動車大手7社は、関税の影響で2025年4月から9月の営業利益が約1.5兆円減少すると見込んでいます。これは半年間だけの数字であり、通年ではさらに大きな影響が予想されます。[yomiuri.co]​

自動車および自動車部品には2025年4月3日から追加関税25%が課されており、対米輸出を主力とする企業にとって、利益の大幅な圧縮が避けられない状況です。ソニーグループは2026年3月期に約1,000億円の関税影響を見込んでいます。fmclub+1

幅広い業界に波及する関税の影響

影響は自動車だけにとどまりません。鉄鋼・アルミ製品には2025年6月4日から追加関税50%が課され、2025年8月7日からは新関税15%が適用され、日本食、日本酒、和牛肉など幅広い分野の企業へ影響が及んでいます。[fmclub]​

カシオ計算機は米国向け時計・楽器の一部出荷を停止する対応を取りました。このように、企業は輸出の縮小、生産調整、価格改定など、さまざまな対応を迫られています。[mainichi]​

輸出企業と倒産リスクの増大

日本政府の推計によれば、トランプ関税で輸出に影響が出る日本企業は約1万3,000社に達すると予測されています。また、関税措置により日本国内企業の倒産件数は約3%以上増加する可能性があります。[fmclub]​

中小企業にとって、関税による利益圧縮は経営の存続に直結する問題です。特に対米輸出依存度の高い企業や、利益率の低い業種では、関税負担を吸収する余力が乏しく、事業継続が困難になるケースが増えることが懸念されています。[fmclub]​

日本企業が取るべき戦略的対応

米国内での生産拠点の拡大

関税を回避する最も直接的な方法は、米国内での現地生産への移行です。2017年から2020年の第一次トランプ政権下において、日本企業の対米直接投資は拡大しました。rieti+1

仮に関税措置が継続される場合、現地生産への移行が日本企業の関税回避策の有力な選択肢となります。特にグリーンフィールド投資、つまり工場を米国に新設する投資が望まれます。dir+1

ただし、製造業は政策の不確実性を不安視して投資を減らす傾向にあり、トランプ政権下で対米投資を増やそうと政府が旗を振ったとしても、企業が十分に反応しない可能性もあります。投資判断には慎重な検討が必要です。[rieti.go]​

グローバルサウスとのサプライチェーン強化

米国一辺倒ではなく、サプライチェーンの多様化も重要な戦略です。日本は海外との知的ネットワークを拡充し、グローバルサウスとのサプライチェーン拡大に向けて政策を実行することが必要です。[rieti.go]​

アジア諸国、特にASEAN諸国やインドなどとの経済連携を深めることで、地域のサプライチェーンを分厚くし、技術波及効果や産業集積による規模の経済を生み出すことができます。これにより生産性向上効果も期待できます。[rieti.go]​

価格戦略とコスト管理の見直し

短期的には、価格転嫁と利益率管理のバランスを見極めることが重要です。関税負担を全て消費者価格に転嫁すれば販売数量が減少し、全て自社で吸収すれば利益が圧迫されます。

市場の競争状況、自社製品の価格弾力性、顧客のロイヤルティなどを総合的に分析し、最適な価格戦略を構築する必要があります。また、サプライチェーン全体でのコスト削減、生産効率の向上、製品設計の見直しなど、あらゆる角度からコスト管理を強化することが求められます。

為替リスクとの複合的管理

関税負担に加えて、為替変動リスクも同時に管理する必要があります。円安が進めば対米輸出の価格競争力は向上しますが、円高になれば関税負担に加えてさらなる収益圧迫要因となります。

先物為替予約やオプション取引などのヘッジ手法を活用し、関税負担と為替変動の複合的なリスク管理体制を構築することが重要です。

今後の展望と経営判断のポイント

政治的不確実性への備え

トランプ政権の関税政策は、議会との関係、国際的な交渉状況、米国経済の動向などによって変化する可能性があります。2026年2月10日、米議会下院はトランプ政権の高関税への異議申し立てを禁止する規定を否決しており、政策の不確実性が高まっています。[jp.reuters]​

企業は複数のシナリオを想定し、関税率の変動、適用範囲の拡大または縮小、新たな二国間交渉の進展など、さまざまな可能性に対応できる柔軟な経営体制を整える必要があります。

長期的な競争力強化への投資

目先の関税対応だけでなく、長期的な競争力強化への投資も忘れてはなりません。研究開発への継続的な投資、デジタル技術の活用による生産性向上、人材育成と組織能力の強化など、本質的な競争力を高める取り組みが重要です。

関税という外部環境の変化を、自社のビジネスモデルを見直し、より強靭な経営基盤を構築する機会と捉えることもできます。

情報収集と専門家の活用

関税制度は複雑であり、法律、会計、貿易実務など多岐にわたる専門知識が必要です。社内での情報収集体制を強化するとともに、税理士、弁護士、貿易コンサルタントなどの外部専門家を積極的に活用することが推奨されます。

また、業界団体や政府機関が提供する情報、セミナー、相談窓口なども有効に活用し、最新の動向を把握し続けることが重要です。

まとめ

ニューヨーク連銀の調査が明らかにしたように、トランプ関税の90%は米国の消費者と企業が負担しており、この構造は日本企業にも深刻な影響を及ぼしています。関税は単なる通関時の追加コストではなく、サプライチェーン全体、価格戦略、投資判断、そして企業の収益性に広範な影響を与える経営課題です。newsweekjapan+1

日本企業は、短期的な対症療法にとどまらず、米国内生産の拡大、サプライチェーンの多様化、コスト管理の徹底、そして政治的不確実性に対応できる柔軟な経営体制の構築など、包括的な戦略を展開する必要があります。

関税という逆風の中でも、適切な戦略と実行力によって競争優位性を維持し、さらに強化することは可能です。経営者とビジネスリーダーには、冷静な分析と果断な意思決定が求められています。


免責事項

本記事は2026年2月13日時点で公開されている情報に基づいて作成されています。関税政策、経済情勢、企業業績などは今後変化する可能性があり、本記事の内容が将来にわたって正確であることを保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の企業や個人に対する投資助言、税務相談、法律相談を意図したものではありません。具体的な経営判断や投資判断を行う際には、必ず専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者および関係者は一切の責任を負いかねます。

米国・インド「電撃和解」の深層。25パーセント関税撤廃が示す新たなサプライチェーンの地図

2026年2月12日 | 国際貿易・地政学リスク分析

2026年2月10日、ホワイトハウスとインド首相府から発表された「暫定貿易合意」は、世界中のビジネスリーダーに衝撃を与えました。

トランプ政権が、インドに対して課していた「ロシア産石油購入に対する制裁」としての25パーセントの追加関税を即時撤廃し、さらに相互関税率を大幅に引き下げることで合意したのです。この決定は、単なる二国間の雪解けにとどまらず、グローバルサウスの盟主であるインドを、中国およびロシアから引き剥がし、米国経済圏へ強力に統合しようとする巨大な地政学的シフトを意味します。

本記事では、この合意の裏にある「取引(ディール)」の本質と、日本企業が直面するサプライチェーンへの影響を深掘りします。

1. 合意の核心。「25パーセント関税撤廃」の対価は何だったのか

今回の合意は、非常に明快なギブ・アンド・テイクで成立しています。米国がインドへの市場アクセスを再び開放する代わりに、インドは外交・エネルギー政策の大転換を受け入れました。

ロシア産エネルギーとの決別

最大のポイントは、インドがロシアからの原油輸入を停止すると確約したことです。ウクライナ侵攻以降、インドはロシア産原油の主要な買い手となっていましたが、米国はこの「資金源」を断つために、2025年後半からインド製品に対して懲罰的な高関税を課していました。今回、インドがこの輸入停止を受け入れたことで、関税撤廃の道が開かれました。

5000億ドルの米国製品購入コミットメント

関税撤廃のもう一つの条件は、今後5年間で5000億ドル(約75兆円)規模の米国製品(防衛装備品、LNG、民間航空機など)を購入するという約束です。これにより、米国の貿易赤字削減と、インドの軍事・エネルギーインフラの米国依存化が同時に進行することになります。

2. 「相互関税」の導入とビジネスへの実利

トランプ政権が掲げる「相互貿易法(Reciprocal Trade Act)」の原則に基づき、今回の合意では関税率の数値目標も設定されました。

懲罰的関税から「相互税率」へ

これまで発動されていた25パーセントの追加関税は撤廃され、代わりに両国の関税率を「相互に同水準(18パーセント程度)」に合わせるプロセスが開始されます。

これにより、インドのITサービス、ジェネリック医薬品、繊維製品、宝飾品などは、再び米国市場での価格競争力を取り戻します。一方で、インド市場へ輸出する米国企業(および米国に工場を持つ日本企業)にとっても、インドの高関税障壁が下がるメリットがあります。

3. 日本企業へのインパクト。インド拠点の重要性が急上昇

この米印合意は、日本企業のグローバル戦略に三つの重要な示唆を与えています。

「チャイナ・プラス・ワン」から「インド・ファースト」へ

米国市場向けの輸出拠点として、インドの魅力が劇的に向上しました。中国からの輸出には依然として60パーセント超の関税が課されている中、インドからの輸出関税が正常化したことで、製造拠点のインドシフトは加速します。特に、労働集約型の組立産業においては、インドが唯一無二の選択肢となりつつあります。

エネルギーコストと調達ルートの変化

インドがロシア産原油から米国産エネルギーへシフトすることで、世界的なタンカーの航路やエネルギー需給バランスが変化します。また、インド国内での電力コストや物流インフラへの米国投資が進むことで、現地進出企業の操業環境が改善される可能性があります。

デジタル・サービス貿易の拡大

合意にはデジタル貿易の障壁削減も含まれています。インドの強力なIT人材と米国のテック資本が結びつくことで、AI開発やデータセンター事業において、インドが「世界のバックオフィス」から「イノベーションのハブ」へと進化する速度が早まるでしょう。

まとめ:実利を取るためのスピード感が問われる

「2026年2月10日の合意」は、インド市場のリスクプレミアム(地政学的リスクによるコスト)を大きく引き下げました。

日本企業としては、インドを単なる「将来の市場」として眺める段階を終え、米国市場への輸出ハブとして活用するための具体的な投資判断を下すべき時が来ました。関税という霧が晴れた今、インドビジネスは次の成長フェーズに突入しています。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

SP(特定加工基準)証明書の実務ガイド:必要書類から記入例まで

SP基準(特定加工基準)を利用した原産地証明は、化学品や繊維製品の輸出において重要な手続きです。しかし、単に「証明書を作成すれば終わり」ではありません。税関の検証に耐えうる「エビデンス(根拠資料)」の整備が不可欠です。

この記事では、SP基準の証明書作成に必要な添付書類、すぐに使えるテンプレート、そして間違いやすい記入例までを一挙に解説します。


1. SP証明書の「必要添付書類」一覧

証明書を発行する前に、まず手元に揃えるべきエビデンスを確認しましょう。これらは、万が一の税関調査(検認)の際に提出を求められる重要な書類です。

全品目共通で必要な書類

どの製品カテゴリーでも、以下の書類は必須です。

書類名役割・チェックポイント
BOM(部品表)全材料のHSコード、数量、供給者情報を網羅したリスト。非原産材料を特定する基礎資料です。
製造工程フロー図原料から製品までの全工程を図示したもの。「どの段階で特定加工が行われたか」を可視化します。
製造指図書・仕様書「化学反応の温度設定」や「繊維の織り方」など、特定工程が定義通りに行われたことを裏付ける仕様書です。
生産実績記録担当者、製造日、使用設備が記録された日報やログ。トレーサビリティ(追跡可能性)を確保します。
インボイス・納品書材料の調達元や製品の納入先を証明する商業書類です。

【業種別】さらに必要な専門書類

SP基準が多用される「化学品」と「繊維製品」では、より専門的な記録が求められます。

化学品(HS28-40類)の場合

化学反応、蒸留、精製などの工程を証明する必要があります。

  • 反応記録(バッチレコード): 温度・圧力チャート、触媒の投入記録、反応前後の化学構造式など。
  • 分析データ(試験成績書): 反応生成物の純度(HPLC/GCデータ)、不純物除去率、粒度分布データなど。
  • 化学反応式: 単なる「混合」ではなく、「化学変化」が起きていることを証明する反応式。

繊維・衣類(HS50-63類)の場合

紡績、製織、縫製などの工程を証明します。

  • 工程別作業日報: 紡績機や織機の稼働ログ、染色温度の記録など。
  • 裁断伝票(マーカー): 生地からパーツを裁断した際の記録(型紙配置図)。
  • 外注加工証明: 縫製などを外注した場合の受発注書や請求書。

2. すぐに使える!SP証明書&テンプレート

実務で使用できる標準的なテンプレートの構成案です。WordやExcelで自社用にカスタマイズしてご使用ください。

① 原産地に関する申告(Statement on Origin)テンプレート

用途: 日EU EPAやRCEPなどで自己申告を行う際、インボイス等に記載します。

Statement on Origin

The exporter of the products covered by this document (Exporter Reference No [法人番号など]) declares that, except where otherwise clearly indicated, these products are of [Japan] preferential origin.

Origin Criteria: Specific Process (SP): The following processes were conducted in Japan:

  1. [Specific Process Name] (e.g., Chemical Reaction, Spinning)
  2. [Detailed description if necessary]

Place and Date: [Tokyo, Japan], [11 Feb 2026]

Signature: _____________________________
[Name], [Title], [Company Name]

② サプライヤー証明書(SP基準用)テンプレート

用途: 部材メーカーから「特定加工が行われたこと」の証明を入手する際に使用します。

項目記入内容の例
品名 (Product)Polyester Yarn
HSコード5402.33
実施された特定加工Spinning & Texturing (Extrusion of man-made fibres combined with spinning)
加工実施場所Osaka, Japan
宣誓文「上記情報は真実であり、特定加工工程は上記の場所で実施されたことを宣誓します。また、検証時には証拠を[4-5]年間保存し提供することに同意します。」

3. その記入で大丈夫?よくあるミスと対策

せっかく書類を準備しても、記入ミスで無効になっては意味がありません。特に多いミスをまとめました。

❌ ミス1:基準記号(Origin Criterion)の間違い

  • NG: SP基準なのに「CTC(関税分類変更基準)」や「VA(付加価値基準)」の記号を書いてしまう。
  • 対策: 協定ごとに定められた記号(SP, PS, Cなど)を必ず確認し、正確に記載してください。

❌ ミス2:工程記述が曖昧

  • NG: 単に「Processed in Japan」と書く。
  • 対策: 具体的に!「Spinning and Knitting」や「Distillation(蒸留)」など、協定の規則(PSR)で定義されている用語を使ってください。

❌ ミス3:サプライヤー証明との不整合

  • NG: 最終製品では「化学反応」としているが、材料メーカーの証明書には「混合(Mixing)」としか書かれていない。
  • 対策: 「混合」はSPと認められないケースが大半です。サプライヤーからの証明書が、協定の要件(化学変化など)を満たしているか精査が必要です。

まとめ:保存期間も忘れずに!

SP基準の証明は、技術的な裏付けが必要なため難易度が高めです。しかし、一度しっかりとエビデンスを整備すれば、継続的な輸出の強力な武器になります。

最後に重要なのが「保存義務」です。これらの書類は、協定ごとに3年〜5年間の保存が義務付けられています。税関から「明日の朝までに提出してください」と言われても慌てないよう、ロット番号などで紐付けて整理しておきましょう。

EU-インドFTAの原産地規則:PSRパターン別商品カテゴリー

EU-インドFTAの原産地規則は、品目ごとに異なるPSR(品目別原産地規則)が設定されており、以下の3つの主要パターンがあります。chemexcil+1

パターン1:CTC & VA(両方の基準を満たす必要)

このパターンでは、関税分類変更基準(CTC)付加価値基準(VA)の両方を同時に満たす必要があります。chemexcil+1

対象商品カテゴリー

化学品(HS第28-38類)

典型的なPSR: CTSH + VA 40%moet+1

実務上の意味: 例えばHS第38類の化学製品をインドからEUに輸出する場合、

  1. 非原産材料のHS番号(6桁レベル)が最終製品と異なること
  2. かつ、インドで付加価値40%以上を創出すること

の両方を満たす必要があります。[afleo]​

プラスチック・ゴム製品(HS第39-40類)

  • HS第39類:プラスチック及びその製品[moet.gov]​
  • HS第40類:ゴム及びその製品[moet.gov]​

典型的なPSR: CTSH + VA 40%[moet.gov]​

皮革・革製品(HS第41-43類)

  • HS第41類:原皮及び革[global-scm]​
  • HS第42類:革製品・旅行用具[global-scm]​
  • HS第43類:毛皮及びその製品[global-scm]​

PSR構造: CTH + VA 40%(項レベルでの変更と付加価値)

金属製品(HS第72-83類の一部)

  • HS第73類:鉄鋼製品[jp.reuters]​
  • HS第74-76類:銅・アルミニウム製品
  • HS第82-83類:卑金属製工具・雑製品

PSR構造: CTSH + VA 35-40%

パターン2:CTC または VA(いずれかを満たせばよい)

このパターンでは、関税分類変更基準または付加価値基準のいずれかを満たせば原産性が認められます。jetro+1

対象商品カテゴリー

機械類(HS第84類)

  • HS第84類:原子炉、ボイラー及び機械類[jetro.go]​

典型的なPSR: CTH または VA 40-50%[jetro.go]​

実務上の利点: 機械は複雑な部品構成を持つため、全ての部品でCTH基準を満たすのは困難です。この場合、付加価値基準による証明に切り替えられます。[jetro.go]​

電気機器(HS第85類)

  • HS第85類:電気機器及びその部品[jetro.go]​

典型的なPSR: CTH または VA 40-50%[jetro.go]​

自動車(HS第87類)

  • HS第87類:車両及びその部品reuters+1

PSR構造(推定):

  • 完成車:CTH + VA 45-50%(より厳格)
  • 部品:CTH または VA 40-45%(選択可能)[jp.reuters]​

特記事項: インドは完成車とエンジンを例外品目として保護しており、年間25万台の割合枠内で関税が110%から10%へ段階的削減される特別な扱いとなっています。jetro+1

光学機器(HS第90類)

典型的なPSR: CTH または VA 40%

精密機器(HS第91類)

  • HS第91類:時計及びその部品

典型的なPSR: CTH または VA 40%

パターン3:SP(特定加工基準)の適用

特定の製造工程や技術的作業の実施を求める基準です。他の基準と組み合わせて適用される場合が多くあります。citiindia+2

対象商品カテゴリー

繊維製品(HS第50-63類)

繊維製品は最も複雑なPSR構造を持ち、糸→生地→縫製の各段階で異なる特定加工基準が適用されます。citiindia+2

HS第50-60類(糸・織物):

  • HS第50類:絹及び絹織物
  • HS第51類:羊毛及び繊毛の糸・織物
  • HS第52類:綿の糸・織物
  • HS第53類:その他の植物性紡織用繊維
  • HS第54類:人造繊維の長繊維
  • HS第55類:人造繊維の短繊維

典型的なPSR(糸): 以下のいずれかの特定加工:[citiindia]​

  • 天然繊維の紡績(Spinning of natural fibres)
  • 化学繊維の押出しと紡績の組合せ(Extrusion of man-made fibres combined with spinning)
  • 撚糸と他の機械的操作の組合せ(Twisting combined with any mechanical operation)

典型的なPSR(織物): CTH + 特定加工(織布または編成)jetro+1

HS第61-63類(衣類・製品):

  • HS第61類:編物製の衣類及び同付属品
  • HS第62類:織物製の衣類及び同付属品
  • HS第63類:紡織用繊維のその他の製品

典型的なPSR: CTSH + 裁断・縫製工程(Cut and sew process)jetro+1

特記事項: インドの繊維製品は現在12-16%のEU関税に直面しており、FTA発効後は即時撤廃される予定です。バングラデシュやベトナムなどの競合国との不利を解消する重要分野です。policy.trade.europa+1

食品・農産物(HS第1-24類の一部)

HS第3-8類(農産物):

  • WO(完全生産品)基準が適用されます[afleo]​
  • 当該国で収穫・生産された産品のみが原産品として認められます[afleo]​

HS第16-21類(加工食品):

  • CTH + 特定加工(調理、加熱、発酵など)[tpci]​

化学品における特定加工

化学品(HS第28-38類)では、CTSH + VA基準に加えて、以下の特定加工が要求される場合があります:[global-scm]​

  • 化学反応(Chemical reaction)
  • 精製(Purification)
  • 異性化(Isomerization)
  • 生物工学的プロセス(Biotechnological process)

金属製品における特定加工

鉄鋼製品(HS第72-73類)では、以下の特定加工が要求される場合があります:

  • 溶解・精錬(Smelting and refining)
  • 熱間圧延(Hot rolling)
  • 冷間圧延(Cold rolling)
  • 表面処理(Surface treatment)

協定別PSR比較:インドの主要FTA

品目インド-UAE CEPAインド-日本CEPAEU-インドFTA(推定)
化学品(HS28-31)CTSH + VA 40%[afleo]​CTSH + VA 35%CTSH + VA 40%[chemexcil]​
プラスチック(HS39)CTSH + VA 40%[moet.gov]​CTSH + VA 35%CTSH + VA 40%[moet.gov]​
機械類(HS84)CTH or VA 40%CTH or VA 40%CTH or VA 40-50%[jetro.go]​
電気機器(HS85)CTH or VA 40%CTH or VA 40%CTH or VA 40-50%[jetro.go]​
自動車(HS87)CTH + VA 40%CTH + VA 40%CTH + VA 45-50%(推定)[jp.reuters]​
繊維糸(HS52-55)SP(紡績)[citiindia]​SP(紡績)SP(紡績)+ CTH[citiindia]​
衣類(HS61-62)CTSH + SP(裁縫)[citiindia]​CTSH + SP(裁縫)CTSH + SP(裁縫)[citiindia]​

実務対応のポイント

CTC & VA方式の証拠管理

両方の基準を満たす必要があるため、以下の証拠が必須です:linkedin+1

  1. CTC証明のため:
    • 全ての非原産材料のHS番号(6桁)
    • 最終製品のHS番号(6桁)
    • 分類変更の証明
  2. VA証明のため:
    • FOB/EXW価額の根拠
    • 非原産材料価額の内訳
    • 付加価値計算書

CTC または VA方式の戦略的選択

選択可能な場合、以下の判断基準で有利な方式を選択します:[shikiho.toyokeizai]​

  • CTC基準が有利なケース: 多数の小額部品を使用し、大部分が原産材料の場合
  • VA基準が有利なケース: 高額な非原産材料を使用するが、人件費・加工費が大きい場合[shikiho.toyokeizai]​

SP(特定加工)の証明

特定加工基準では、工程記録が最も重要な証拠となります:[citiindia]​

  • 製造フローチャート
  • 各工程の作業指示書
  • 品質管理記録
  • 設備仕様書(紡績機、織機、縫製機など)

技術ファイルの保管義務

EU-インドFTAでは、自己証明方式を採用しており、輸入者は原産性を証明する「技術ファイル」を5年間保管する義務があります。事後検証(Post Clearance Audit)で証拠を提示できない場合、特恵税率が否認されます。[linkedin]​

業種別の影響評価

高影響業種:CTC & VA型

化学品、プラスチック、医薬品など、CTSH + VA 40%を要求される業種は、両方の証明負担が大きく、実務体制の整備が急務です。[chemexcil]​

中影響業種:CTC or VA型

機械類、電気機器は選択制のため、既存のサプライチェーンに応じて有利な基準を選択できます。柔軟性が高い反面、どちらが有利かの判断には専門知識が必要です。shikiho.toyokeizai+1

特殊対応業種:SP型

繊維製品は、紡績・織布・縫製という各工程での特定加工証明が必須です。工程記録の電子化と、税関検証に耐える品質管理体制の構築が競争力の鍵となります。citiindia+1

EU-インドFTAのPSRは、品目ごとに異なる厳格な基準を設定しており、企業は自社製品のHS番号とPSRパターンを正確に把握し、証拠管理体制を構築する必要があります。特に化学品と繊維製品は複雑な要件があり、早期の実務準備が求められます。global-scm+3

RCEPの電子原産地証明書:段階的なデータ交換の進展


2026年2月現在、アジア太平洋地域の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定において、電子原産地証明書(e-CO)のデータ交換が二国間ベースで段階的に進められています。RCEP協定は2022年1月1日に日本を含む10カ国で発効し、その後韓国、マレーシアが加わり、現在12カ国が締約国となっています。[jetro.go]​[youtube]​

データ交換の現状

シンガポール・中国間の先行実施

シンガポールと中国の間では、RCEP協定に基づく特恵原産地証明書のデータ交換システム(EODES)が2025年12月11日から利用可能になりました。このシステムは2019年11月から運用されており、中国・ASEAN自由貿易協定(ACFTA)などで既に活用されていたものをRCEP協定にも拡張したものです。[jetro.go]​

マレーシア・中国間の取り組み

マレーシアと中国は、RCEP協定とASEAN中国FTA(ACFTA)に基づく原産地証明書の電子データ交換を2026年1月から開始しました。第1フェーズでは、マレーシアから中国への一方向のデータ送信が対象となっており、マレーシアのナショナルシングルウィンドウと中国税関のEODESが接続されています。[global-scm]​

重要な留意点:現時点では、RCEP加盟15カ国すべての間で完全なデータ交換が実現したという公式発表は確認できていません。データ交換は二国間ベースで段階的に導入されている状況です。[jetro.go]​

電子データ交換がもたらす実務上の変化

システム間連携の意義

従来のe-CO運用では、PDF化された証明書をメール送付する「紙の代替」に近い形式が多く見られました。今回進められているのは、輸出国の発給サーバーから輸入国の税関システムへ直接データを伝送するシステム間連携です。[global-scm]​

これにより、輸出国で証明書が発給された瞬間に、輸入国の税関システムでその情報が認識可能になります。貨物が港に到着する前に書類審査を完了させる予備審査制度が、物理的な書類の到着を待つことなく実行できるようになります。[global-scm]​

日本企業が得られる実務的メリット

国際宅配便コストの削減

原産地証明書の原本を海外の輸入者や通関業者へ輸送するための国際宅配便費用が不要になります。1件あたり数千円のコストでも、年間数百~数千件の取引を行う企業にとっては、数百万円単位の直接的なコスト削減につながります。[global-scm]​

リードタイムの短縮

原本の到着待ちによる通関の停滞が解消されます。特に日本から東南アジアや中国への輸出において、貨物は到着しているのに書類が届かないために保税倉庫に留め置かれる「書類待ちリスク」が消滅します。[global-scm]​

証明書の紛失・偽造リスクの解消

税関当局同士が暗号化されたチャンネルで直接データをやり取りするため、証明書の改ざんや紛失、第三者による不正利用のリスクが大幅に低減されます。[global-scm]​

実務担当者が意識すべき留意点

段階的な導入への対応

データ交換は全加盟国で一斉に開始されるわけではなく、二国間ベースで段階的に実施されています。マレーシアと中国間でも初期段階ではマレーシアから中国への一方向のデータ送信が対象であり、完全な双方向交換や他国との相互接続は今後の課題となっています。[global-scm]​

システム対応の準備

社内の貿易管理システムをデータ連携に対応させる、または委託先の通関業者とのデータ共有をシームレスに行うためのIT投資が重要になります。データが即時に税関へ届くため、申告内容に誤りがあった場合の修正対応も迅速性が求められます。[global-scm]​

原産地情報の正確性

一度送られた電子データに誤りがあると、訂正手続きも電子的に行うことになります。不正確なHSコードや原産地判定がそのまま税関側システムに届いてしまうため、アナログな「書き換え」や現物差し替えでごまかす余地はありません。[global-scm]​

各国の運用状況の確認

RCEP加盟国の中には、依然として特定の品目や状況において紙の併用を求める国が残る可能性があります。各国の最新の運用状況を常にアップデートしておく体制が不可欠です。[global-scm]​

日本の原産地証明制度

日本では、RCEP原産地証明の取得は商工会議所のオンライン申請が基本となっており、HSコードや製品別規則の確認が前提となっています。マレーシアや中国間の電子交換は、この流れをさらに一歩進めたものと位置付けられます。jcci+1

免責事項

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。


CBAMとは何か

1. CBAMを一言でいうと

CBAMは、EU域外で生産された高排出型製品がEUに輸入されるとき、製造時に埋め込まれた温室効果ガス排出に相当するコストをEU側で調整し、EU域内生産とのカーボンコスト差を縮める仕組みです。EUは、輸入品にも公正な炭素価格を適用し、域外生産の低炭素化も促す制度として位置づけています。(Taxation and Customs Union)

2. なぜ今CBAMがビジネスに効くのか

2-1. カーボンリーケージ対策が目的

EUが自国内の気候政策を強めるほど、排出規制の緩い国へ生産が移転したり、より高排出な輸入品に置き換わったりするリスクが高まります。CBAMはこのカーボンリーケージを抑え、EUの気候目標が輸入品によって損なわれないようにする狙いがあります。(Taxation and Customs Union)

2-2. EU ETSとのセット設計

CBAMはEU排出量取引制度(EU ETS)の無償割当の段階的縮小と整合するように導入される、とEUが明記しています。つまり、EU域内の炭素コストが強まる局面で、輸入側にも同等のロジックが適用される設計です。(Taxation and Customs Union)

3. 対象となる品目と企業

3-1. 対象セクターはまず6つ

現段階で主対象となるのは、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素です。EUは、炭素集約度が高くカーボンリーケージのリスクが大きい品目から開始すると説明しています。(Taxation and Customs Union)

3-2. 50トン基準と例外

2026年以降の本格運用では、鉄鋼・アルミ・肥料・セメントについて、輸入者ごとの年間累計純重量が50トンを超えると、原則としてCBAMの義務(認可、年次申告、証書の購入・提出など)が発生する整理が明確になっています。(Taxation and Customs Union)
一方で、電力と水素はこの少量免除の対象外という考え方が示されています。(Climate Policy Radar)

3-3. 義務者はEU輸入者だが、日本側も影響を受ける

法的な一次義務はEU側の輸入者(または合意した間接通関代理人)にかかります。(Taxation and Customs Union)
ただし実務上、日本の製造業・商社にとってCBAMは他人事ではありません。理由はシンプルで、EU輸入者が年次申告に必要な排出データを入手できない場合、保守的な値で申告されやすく、価格交渉や取引継続に跳ね返るからです。EUが移行期間を「学習期間」と位置づけ、埋込排出量データを集めて方法論を洗練させる意図を明示している点も、データ提供能力が競争力になることを示唆します。(Taxation and Customs Union)

4. 2023-2025の移行期間と、2026以降の本格運用

4-1. 移行期間(2023年10月1日〜2025年12月31日)

移行期間は、対象品目の輸入者が四半期ごとに埋込排出量を報告するフェーズで、証書購入や支払いは求められません。(Taxation and Customs Union)
EUは、2023年10月1日に移行期間が開始し、最初の報告期限が2024年1月31日であることも示しています。(Taxation and Customs Union)

報告不備や未提出に対しては、未報告排出量1トン当たり10〜50ユーロの範囲でペナルティが科され得る、という説明がEUのFAQにあります。(Taxation and Customs Union)

4-2. 本格運用(2026年1月1日〜)

EUは、2026年1月1日からCBAMが本格的に運用されることを明確にしています。(Taxation and Customs Union)
本格運用では、対象輸入者は排出量を申告するだけでなく、CBAM証書を購入し、対応する枚数を提出する枠組みに移ります。(Business Growth Service)

4-3. 重要日程をひと目で把握する

いつ何が起きるか実務への影響
2026年1月1日本格運用開始認可や申告の準備不足は通関遅延リスク
2026年3月31日まで認可申請の最終期限(対象者)未申請は遅延・ペナルティ・サプライチェーン混乱の恐れ (Taxation and Customs Union)
2027年2月1日からCBAM証書の販売開始2026年輸入分の負担が金銭的に顕在化し始める (Climate Policy Radar)
毎年9月30日まで年次申告と証書提出初回は2027年9月30日(2026年輸入分)になる整理 (Climate Policy Radar)

補足として、2026年輸入分について年次申告と提出が「翌年9月30日まで」なので、初回が2027年9月30日になることは制度設計から直接導けます。(Climate Policy Radar)

5. 何を申告するのか

5-1. 直接排出と間接排出

CBAMは、輸入品に埋め込まれた温室効果ガス排出を扱います。移行期間は直接排出と間接排出の報告が求められると説明されており、さらに移行期間終了後、セメントと肥料は間接排出も制度対象になる方向が示されています。(Taxation and Customs Union)
セクター別の扱いについては、2026年以降、鉄鋼・アルミ・水素は直接排出中心、セメント・肥料は直接と間接の両方を申告する必要がある旨の整理が公的な解説資料にもあります。(researchbriefings.files.parliament.uk)

5-2. 排出量の算定方法と、デフォルト値の扱い

EUは移行期間中、算定方法に一定の柔軟性を持たせており、2024年末までは複数の報告方法があり得ること、デフォルト値による報告は期限付きで認められてきたことを示しています。(Taxation and Customs Union)
この点は実務上重要です。デフォルト値は、サプライヤー実測値より不利に働く可能性があるため、EU向け取引を継続・拡大したい企業ほど、実測データの取得と説明可能性が交渉力になります。(Taxation and Customs Union)

5-3. 検証とデータ責任

本格運用では、年次申告と証書提出の期限が9月30日に設定された理由として、必要情報の収集、排出量が認定検証者により検証されること、必要な証書を購入することに時間が要る点が説明されています。(Climate Policy Radar)
つまり、排出データの遅れや不備は、単なる事務の遅延ではなく、通関と取引継続の遅延に直結します。

6. CBAM証書の価格はどう決まるか

6-1. 価格はEU ETS価格に連動

EUは、CBAM証書価格がEU ETS排出枠のオークション価格を基礎に算定されると示しています。(Taxation and Customs Union)
また、2026年は四半期平均、2027年以降は週次平均で算定するという具体的な運用も提示されています。(Taxation and Customs Union)

6-2. 第三国で支払った炭素価格は控除し得る

輸入品の生産過程で、第三国ですでに炭素価格が支払われていることを証明できる場合、その相当額を控除できる旨がEUの説明にあります。(Taxation and Customs Union)
ここは契約実務の焦点になりやすい部分です。証明の可否は、取引先の制度理解と証跡の整備に依存するため、調達契約の情報提供条項や監査条項とセットで設計した方が安全です。(Climate Policy Radar)

7. 罰則と、現場で起こりうる混乱

7-1. 移行期間の報告ペナルティ

未報告や訂正不十分に対し、未報告排出量1トン当たり10〜50ユーロの範囲でペナルティがあり得ることがEUのFAQで説明されています。(Taxation and Customs Union)

7-2. 本格運用の未提出ペナルティはEU ETSの超過排出ペナルティと同等

本格運用では、必要な証書を期日までに提出しない場合のペナルティが、EU ETSの超過排出ペナルティと同等であることが明記されています。(Climate Policy Radar)
EU ETSの超過排出ペナルティは、1トン当たり100ユーロであるとEUが説明しています。(climate.ec.europa.eu)
さらに重要なのは、ペナルティを払っても、未提出分の証書提出義務自体は消えないという点です。(Climate Policy Radar)

7-3. 認可や申請番号がないと通関で詰まるリスク

EUは、対象品目を一定量以上輸入する場合、輸入時点で認可または申請参照番号が必要で、未対応だと混乱・遅延・ペナルティにつながり得ると明確に注意喚起しています。(Taxation and Customs Union)
これはサプライチェーンのボトルネックになりやすく、貿易実務のKPIに直結します。

8. 日本企業が今すぐ整えるべき実務チェックリスト

ここからは、EU向け輸出・EU現地法人による輸入の双方に効く打ち手です。

8-1. 取引と品目を棚卸しする

1 EUに入る対象セクターがあるかを特定
2 年間数量が50トンを超える可能性があるかを把握
3 電力・水素は少量免除の枠外という前提で別管理 (Taxation and Customs Union)

8-2. 排出データの入手設計を先に決める

1 誰がどの工場のどのデータを出すのかを決める
2 算定方法と根拠資料の型を統一する
3 認定検証を見据え、監査可能な粒度で記録を残す (Climate Policy Radar)

8-3. 契約条項をCBAM対応に更新する

1 排出データ提供の期限、フォーマット、訂正手続
2 不正確データによる損害の分担
3 第三国炭素価格の控除に必要な証跡の提供義務 (Taxation and Customs Union)

8-4. 価格交渉の論点を整理する

CBAMの本質は、カーボンコストが見える化され、価格に転嫁されうることです。EU ETS価格連動で動くため、原材料市況とは別の変動要因が増えます。(Taxation and Customs Union)
実務では、製品価格、物流費、為替に加えて、排出係数とデータ品質が交渉材料になります。

9. よくある誤解

誤解1 CBAMはEUに輸出する日本企業には関係ない

法的義務はEU輸入者側が中心ですが、排出データの提供ができないと、取引条件や継続可否に跳ね返ります。移行期間が「学習期間」であるというEUの説明は、まさにその準備を促すものです。(Taxation and Customs Union)

誤解2 2026年からすぐ支払いが発生する

本格運用は2026年1月1日からですが、証書販売は2027年2月1日からという整理が示されています。(Climate Policy Radar)
一方で、2026年の輸入が将来の負担の母数になる点は変わりません。(Climate Policy Radar)

まとめ

CBAMは、EU ETSと連動して輸入品の埋込排出に炭素コストを乗せ、カーボンリーケージを抑える制度です。(Taxation and Customs Union)
2026年から本格運用に入り、認可、年次申告、証書の購入と提出、未提出時のEU ETS同等ペナルティという、実務負荷と金銭影響が現実になります。
日本企業にとっての勝ち筋は、早い段階で排出データの取得と検証を仕組みに落とし、取引条件に反映できる状態をつくることです。

免責事項
本稿は2026年2月9日時点で入手可能な公表情報に基づく一般的な情報提供であり、法務、税務、通関、会計、投資その他の助言を構成しません。CBAMを含む制度の適用関係、申告実務、契約条項、当局対応は個別事情により結論が異なり、制度や運用は更新され得ます。実際の対応にあたっては、必ず自社の顧問弁護士、通関・税務の専門家、現地の制度担当当局または専門家に相談のうえ判断してください。