2026年1月26日、日本の貿易実務において静かですが重要な変化がありました。財務省関税局は、輸入申告に際し「HSコード分類根拠書(通称:ドシエ)」の任意提出を一層積極的に推奨する方針を示しました。
これまでHSコードの決定過程は企業内部の判断に委ねられ、税関には「結論としてのコード」だけが申告されるのが一般的でした。ところが今後は、そのコードを選定した論理的根拠の提示が求められる方向に動いています。これは形式的な申告から、説明責任を伴う判断型の通関へと移行する兆しです。

数字だけでなく「ロジック」を問われる時代へ
税関が推奨するのは、単なるHSコード入力ではなく、それを選定した過程と法的根拠をまとめた文書の添付です。典型的なドシエには以下の内容が含まれます。
- 製品の客観的な仕様(材質、機能、用途)
- 検討したHSコードの候補と除外理由
- 適用した法的根拠(関税率表の解釈に関する通則、類注・部注)
- 参照した過去の事前教示やWCO分類意見など
税関がこのような詳細情報を求める背景には、製品の多様化・AI技術の進展があります。複雑化する貨物を短時間で正確に分類するためには、輸入者自身による「論理の見える化」が不可欠になっています。つまり、税関と企業が同じ視点で審査の起点を共有する仕組みづくりが進んでいるのです。
企業にとってのメリット:防御から戦略へ
一見すると事務負担が増える施策に見えますが、実は企業に大きな利点があります。
- 通関の迅速化。
ドシエによって判断の根拠が明確になれば、審査時に疑義が生じる可能性が下がり、貨物滞留リスクを減らせます。 - 事後調査リスクの軽減。
万一HSコードが誤っていたとしても、合理的な根拠を提出していれば、企業は「正当な注意義務(Reasonable Care)」を果たしたと評価され得ます。これにより、重加算税などの厳罰を回避し、修正申告で済む場合が増えるでしょう。
このようにドシエは、単なる説明書ではなく企業を守る保険であり、同時に通関精度を高める経営戦略ツールでもあります。
「なんとなく分類」からの脱却
これまで多くの現場では、「前回と同じ」「仕入先からそう言われた」といった慣習的判断に頼る傾向がありました。税関の今回の方針転換は、そうした「前例主義」からの脱却を意味します。今後の優秀な貿易担当者には、合理的根拠を文書化できる力が不可欠になります。HSコードの知識だけでなく、「なぜそのコードなのか」を説明できる論理構成力が問われる時代に入りました。
AIとテクノロジーがカギを握る
すべての申告で人手による詳細なドシエ作成を行うのは非現実的です。そこで注目されるのがAIや専門システムの活用です。
商品仕様を入力するだけで、関連通則・類注を自動抽出し、分類根拠を論理的に組み立てるAIツールも登場しています。企業はこうした技術を導入することで、人の判断を強化しつつ業務負担を抑え、コンプライアンスの精度を高めることが可能になります。
まとめ
2026年1月26日は、日本の通関実務が「結果主義」から「プロセス重視」へと舵を切った節目となるかもしれません。
税関のメッセージは明快です。――「あなたの会社の論理を示してください」。
この要求に根拠あるドシエで応えられる企業こそが、通関トラブルの少ない持続的な貿易を実現し、ホワイトな物流体制を築くことができるでしょう。
変化を恐れず、根拠を武器に。新しい通関の時代が、すでに始まっています。
