【経営者向け】米国・相互関税 対応策案

計画(Plan)

  1. 現状把握(ブリーフィング): 相互関税の仕組み、最新の大統領令、例外規定、そして法的な不確実性を整理します。
  2. 主要論点の特定: 国別の税率差や関税率の変動要因を踏まえ、サプライチェーン設計、通関価格の最適化(ファーストセール)、他の関税措置との関係性など、日本企業特有の論点を明確にします。
  3. 短期対策(30/60/90日): 品目(SKU)別の影響分析から始め、通関実務の最適化、バリューチェーン全体でのコスト削減と資金繰り改善策を迅速に実行します。
  4. 中長期戦略: 生産ラインの再編、関税変動に強い原産国ポートフォリオの構築、さらにインドをハブとした第三国FTA網(対英・UAE・豪など)を活用したグローバルな販路拡大を目指します。
  5. ガバナンスとオペレーション: 関税コストを経営指標に組み込み、社内の責任体制を明確化。税関監査リスクに耐えうる文書管理体制を構築します。
  6. 実務チェックリスト: 通関、価格設定、物流、契約の各分野における具体的な見直しポイントをリスト化します。
  7. 付録: 国別の相互関税率一覧(2025年9月時点)と、具体的なHSコードの取り扱いに関する参考情報を提供します。

1. ブリーフィング:相互関税の基礎知識

1-1. 制度の枠組み(要点)

  • 法的根拠と基本構造: 2025年4月以降、米政権はIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に、**「全世界一律10%のベースライン関税」と、「国別の追加関税」**を導入しました(EO 14257等)。国別税率は米国の外交方針(報復・同盟関係)に応じて調整されます。
  • 国別税率の確定: 7月31日の大統領令(Annex II)により、国別の追加関税率と、それを規定するHSコード(HTSUS 9903.02.xx)が確定しました。
    • : 日本 +15%、韓国 +15%、台湾 +20%、ベトナム +20%、英国 +10% 等。
  • EUへの特例: EU原産品には**「通常関税率(列1)+追加関税率=合計15%」**となるよう税率を調整する特例が適用されます(通常関税率が15%以上の場合は追加関税はゼロ)。
  • 中国の扱い: 複雑な調整を経て、現在は「全世界一律10%」のベースライン関税が適用されています(2025年11月10日まで延長)。ただし、別途301条関税が課される可能性があります。
  • USMCA(カナダ・メキシコ): 域内原産品は相互関税の対象外です。
  • 他の関税との関係:
    • 232条関税(鉄鋼・アルミ等): 対象品目は相互関税の対象外です(非重畳)。
    • 301条関税(対中制裁等): 相互関税と重畳して課される可能性があります。
  • 迂回輸送への罰則: 第三国を経由した迂回輸送と認定された場合、+40%という極めて高い罰則的関税が課されます。
  • 米国原産20%ルール: 製品価額の20%以上が米国原産の場合、その米国原産部分には相互関税が課されません。申告時には、米国原産部分と非米国原産部分を分けて計上する必要があります。
  • 輸送中の貨物(In-transit)への例外: 関税率の変更日をまたぐ海上輸送中の貨物に限り、一定の条件下で旧税率の適用が認められます(航空・陸上輸送は対象外)。

1-2. 法的リスク(2025年9月時点の状況)

連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、IEEPAを根拠とする本関税の合法性に疑義を呈する判断を示しました。しかし、2025年10月14日までその判断の執行を停止しているため、現行の関税は当面維持されます。政権は最高裁に上告する構えであり、最終的な司法判断によっては関税が無効となり、過去に支払った関税が還付される可能性があります。 ⇒ 企業は「関税は継続する」前提で事業を運営しつつ、将来の還付に備えて支払証憑を完璧に保全し、契約書に価格精算条項を設けるという両睨みの対応が必須です。

2. 日本企業にとっての主要論点

  • 原産国ごとの税率差を活かした設計: 同じ製品でも、原産国によって「日本+15%」「ベトナム+20%」「英国+10%」など税率が大きく異なります。製品の設計・開発段階から、最適な原産国・工程配分を組み込んだ**「最適原産国マトリクス」**の作成が重要です。
  • 変動リスクに強いサプライチェーン: 関税率は米国の外交方針(報復・同盟)で短期的に変動します。このリスクに対応するため、**複数の原産国や輸送ルートを持つ「複線型サプライチェーン」**を標準装備する必要があります。
  • 通関価格の最適化(ファーストセール・ルール): 多段階取引(例:製造者→商社→米国輸入者)において、最初の取引価格(製造者→商社)を課税標準として申告できる制度です。課税価格を引き下げることで、従価税である相互関税の負担額も比例して削減できます。ただし、「真正な売買」であることの厳格な証明が求められます。
  • 総関税負担の正確な把握: 総関税額は**「通常関税+301条関税+相互関税」**の合計となります(232条対象品は例外)。この計算を品目(SKU)と原産国の組み合わせごとに常時行い、コストを正確に把握する必要があります。
  • 迂回認定リスクへの備え: 40%の罰則関税を避けるため、原産地を証明する書類(部品表、工程表、原産地証明書)や物流の追跡記録を、税関監査に耐えうるレベルで保管・管理することが不可欠です。

3. 短期対策(30/60/90日プラン)

  • 【30日以内】影響の可視化と防御策
    • 全製品について「SKU×原産国×HSコード」のマトリクスを作成し、総関税負担額を算出。
    • 通関業者に対し、相互関税(EU特例、米国原産20%ルール等)の正しい申告手順を文書で指示。
    • 関税率の変更が予想される時期は、海上輸送を優先し、例外規定の適用外である航空輸送を回避。
    • 顧客・仕入先との間で、関税変動を価格に反映させる**「関税スライド条項」**を含む契約の暫定改定に着手。
    • ファーストセール・ルールの適用候補となる製品を選定し、パイロット導入を開始。
  • 【60日以内】コスト削減とリスク低減
    • 原産地の二元化(例:日本/タイ、台湾/ベトナム)に向けた切替手順書を整備。
    • EU特例が有利に働く品目(高関税率品)を特定し、EU原産品の活用ルールを策定。
    • USMCAを活用したメキシコ/カナダ生産への切り替えの採算性を評価。
  • 【90日以内】構造改革と商流の再設計
    • サプライチェーンの複線化(原産国、港、フォワーダーの二重化)を本格展開。
    • 全ての関税コストを織り込んだ恒久的な価格体系へ移行。
    • ファーストセール・ルールを本格導入し、監査に耐えうる文書管理プロセスを標準化。

4. 中長期の事業戦略

4-1. 原産国ポートフォリオの再編

  • 日本(+15%): 高付加価値品はファーストセール等でコストを吸収。量産品はUSMCA域内や他のアジア諸国での生産も検討。
  • アセアン(タイ+19%, ベトナム+20%): 複数の国で同一製品を生産できる体制を整え、関税率が相対的に有利な国へ生産を振り分ける柔軟性を確保。
  • 中国(現状10%): 対米輸出は301条関税との合計で高率になるリスクがあるため、中国拠点は「米国市場以外」向けの生産・調達ハブとして再定義。
  • インド(+25%): 対米輸出は高関税ですが、後述の通り、第三国向け輸出拠点としての価値が非常に高まっています。

4-2. インドをハブとした第三国FTA網の活用

米国の関税リスクを回避し、新たな成長市場を開拓するため、インドが締結したFTAを戦略的に活用します。

  • 印・英FTA(2025年7月署名): インドで製造・仕上げを行い、関税が大幅に引き下げられる英国市場へ販売する新たなサプライチェーンを構築。
  • 印・UAE CEPA(発効済): インドからの輸出で湾岸・中東市場へのアクセスが容易に。
  • 印・豪 ECTA(発効済): インドを起点にオセアニア市場への展開を加速。

⇒ 戦略: 米国向けで関税負担が重い製品は、インドで生産し、これらのFTAを活用して英国・UAE・豪州市場へ販売先をシフトすることで、グループ全体の売上と利益を確保します。

4-3. 関税エンジニアリング(Tariff Engineering)の導入

設計、税務、オペレーションを統合し、関税コストを構造的に引き下げる取り組みです。

  • 設計段階での最適化: 原産地規則を満たす範囲で、部材調達や加工地を最適に配置。
  • HSコードの最適化: 製品の機能や構成を合法的に変更し、より有利な関税分類の適用を目指す。
  • 通関価格の適正化: ロイヤルティや技術支援費(アシスト)の扱いを事前に整理し、ファーストセール適用の障害とならない契約形態を構築。

5. ファーストセール(First Sale)実装ガイド

  • 概要: 最初の販売価格(製造者→商社)で申告することで課税対象額を圧縮する手法。
  • 3大要件: ①真正な売買(Bona Fide Sale)、②明確な米国向け販売、③独立した当事者間価格(Arm’s Length)であることの証明。
  • 実装ステップ:
    1. 取引スキーム(登場人物、役割)を固定。
    2. 契約、発注、仕様決定、価格決定のプロセスと時系列を文書で整合させる。
    3. 所有権と危険負担が製造者の出荷時点で移転することを契約書(Incoterms等)と実態で示す。
    4. 価格決定の客観的な根拠(見積書、原価計算書など)を保管。
  • 効果: 課税価格が20%下がれば、相互関税(例:+15%)の負担額も20%削減されます。

6. 実務チェックリスト(抜粋)

  • [ ] 税率確認: HSコード、原産国、相互関税(9903.02.xx)、301条/232条の適用の有無をBOM単位で確認したか。
  • [ ] EU特例: 対象品目について、通関業者に正しい計算方法を指示したか。
  • [ ] 米国原産20%: 分割申告の社内標準作業手順書(SOP)は整備されているか。
  • [ ] 輸送モード: 関税率切替時の輸送は、原則「海上」にシフトする計画があるか。
  • [ ] 法的リスク対応: 2025年10月14日以降の変動に備え、価格の精算条項と支払証憑の完全な保管体制は整っているか。

7. 付録:相互関税率の要約表(2025年9月時点)

注:下表は通常関税に「上乗せ」される追加関税率。EUのみ例外方式。

原産国追加関税率 / 方式根拠HSコード(例)備考
日本+15%9903.02.308月7日以降発効。
中国+10%9903.01.25現状はベースライン税率。別途301条関税が課される可能性あり。
EU合計15%方式9903.02.19/20通常税率が15%未満の場合、合計15%になるように追加。15%以上の場合は追加ゼロ。
英国+10%9903.02.66対英輸出は、印・英FTAの活用も有効。
韓国+15%9903.02.56
台湾+20%9903.02.60
ベトナム+20%9903.02.69
インド+25%9903.02.26対米は高率だが、第三国FTAハブとしての価値は高い。
カナダ/メキシコ対象外N/AUSMCA域内は適用除外。

最後に:経営アクションの要約

  • 短期(即時実行): まず、全製品の総関税コストを試算し、影響を可視化してください。その上で、関税変動期は海上輸送を優先し、ファーストセールのパイロット導入で迅速なコスト削減に着手します。
  • 中期(構造改革): 原産地の二重化を進め、関税変動に即応できる体制を構築します。同時に、インドをハブとする英・UAE・豪州への販路拡大で、収益源を多角化します。
  • 長期的視点(経営への組込): 関税エンジニアリング(Tariff Engineering)を製品設計に組み込み、複線型のサプライチェーンと監査に耐えうる文書管理を常態化させ、関税変動を脅威ではなく競争優位の源泉へと転換してください。

【法的留意事項】 現行関税は、司法判断により将来無効となる可能性があります。このリスクに備え、全ての輸入申告について、支払った関税額と、その根拠となる書類をエントリー単位で記録・保管し、契約書に**「関税還付時の価格精算条項」を盛り込む**ことを強く推奨します。

日本への相互関税の現在地と今後の見通し


要約

  • 米国の相互関税導入と日本への影響
    • 米国は4月の大統領令に基づき、一律10%の追加関税を導入。その後の修正により、**日本向けには「15%」**の相互関税が設定されました。
    • 本措置は2025年8月7日通関分から適用されています(HTSコード: 9903.02.30)。
    • なお、既存の通商拡大法232条に基づく追加関税(鉄鋼・アルミニウムは50%、自動車は25%)とは、原則として重複適用されません
  • 施行初期の混乱と実務上の注意点
    • 施行初期に一部で重複課税が発生しましたが、日本政府の働きかけにより、米側は是正と超過分の返還手続きを進めることを確認済みです。
    • 実務においては、改定された大統領令および米国税関・国境警備局(CBP)の最終的なガイダンスを常に確認することが不可欠です。
  • 法的な不確実性
    • 根拠法である国際緊急経済権限法(IEEPA)の有効性について、控訴裁判所が違法との判断を示しました。
    • 10月中旬までの執行猶予期間中に、最高裁判所の判断を待つか、政府が代替の法的根拠(232条の適用拡大など)を模索する可能性があります。
  • 米国以外の動向:EUのCBAM
    • EUや英国は相互関税を導入していませんが、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)が2026年1月1日から本格的に導入(課金開始)されます。鉄鋼、アルミニウム、水素などをEUへ輸出する際に新たなコストが発生します。

対日相互関税の現状サマリー

※社内基準の統一表記で掲載

国名関税率根拠・出所備考
アメリカ15%大統領令(7/31修正)2025年8月7日発効。HTSコード 9903.02.30(相互関税)。<br>232条関税(鉄鋼・アルミ・自動車等)とは原則として積算されない。
  • 出所詳細: 大統領令14257号(4/2)およびその修正(7/31)、ホワイトハウス発表、CBPガイダンス、JETRO解説(重複適用回避の取扱いについて)

実務上の主要確認項目(対米輸出)

  1. 適用関税の優先順位
    • 相互関税(15%): 日本を原産地とする一般品目に適用(HTS 9903.02.30)。
    • 232条関税(国家安全保障): 鉄鋼・アルミニウムに50%、完成車に25%(4/3発効)、自動車部品に25%(5/3発効)。原則として相互関税とは重複適用されない(”unstacking”)。
  2. 輸送中貨物に対する経過措置
    • 2025年8月7日より前に船積みされ、10月5日までに輸入申告された貨物については、従前の関税率(当初の10%など)の適用が可能です。船積日、到着日、申告日を証明する書類を確実に保管してください。
  3. HSコード分類と申告実務
    • 相互関税の対象品目には、専用の追加HSコード(日本向けは 9903.02.30)を付記して申告します。申告の誤りは、二重課税や返金手続きの遅延に直結するため注意が必要です。
  4. 価格設定と契約条項
    • 取引契約書に含まれる関税スライド条項やインコタームズ(FOB/DDP等)を再点検し、関税負担者と、返金が発生した場合の権利帰属を明確に規定してください。
  5. 原産地規則とサプライチェーンの最適化
    • 232条対象の自動車部品では、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の要件を満たす部材の価額を課税対象から除外する制度が存在します。部品表(BOM)における米国調達部材の比率を精査することが有効です。

セクター別の影響と対応策

  • 自動車・自動車部品
    • 影響: 232条関税により25%が適用。相互関税15%は原則として重複しない。
    • 対応策:
      1. USMCA原産資格を活用し、米国調達価額分を非課税扱いとする。
      2. 完成車は米国内生産やCKD/IKD(ノックダウン生産)方式を検討する。
      3. 部品のHSコードを精査し、232条の対象外となる分類の余地を探る。
  • 鉄鋼・アルミニウム
    • 影響: 232条関税により50%が適用(6/3以降)。相互関税は重複しない。
    • 対応策:
      1. 北米市場向けの最終加工地を再設計する。
      2. 代替材料の利用可能性を検討し、ミルシート(鋼材検査証明書)を整備する。
      3. 価格条項に金属市況指数との連動を導入する。
  • 機械・電機・化学品(232条対象外)
    • 影響: 相互関税15%が適用される。
    • 対応策:
      1. 関税還付(Duty Drawback)制度や保税制度を最大限に活用する。
      2. 製品のHSコード分類を最適化し、より低い税率が適用されないか検討する。
      3. 米国内での組立工程を導入し、原産地を米国に変更する(ただし、「実質的変更」要件を満たす必要あり)。
  • 対EU輸出(鉄鋼・アルミニウム・水素など)
    • 影響: CBAMにより2026年1月1日から実際のコストが発生(報告義務は既に開始済み)。
    • 対応策:
      1. サプライヤーから製品の炭素排出原単位データを収集する。
      2. CBAMによるコストを試算し、価格への転嫁を計画する。
      3. 再生可能エネルギーの調達や、CO₂排出量の少ない製法への転換を検討する。

2025年秋〜2026年の見通し(シナリオ別)

  • S1: 相互関税が継続
    • (根拠: IEEPAの有効性維持、または新たな法制化・行政措置による代替)
    • 想定: 日本向け15%が維持され、232条関税も現行水準か、さらに拡大される。
    • 対策: 価格条項、部品表(BOM)、米国内投資戦略を恒久的なものとして再構築する。
  • S2: 司法的判断により相互関税が失効
    • (根拠: 10月以降にIEEPAに基づく措置が停止)
    • 想定: 相互関税は停止されるが、232条関税は別制度として存続する。
    • 対策: 納付済み関税の返還請求権を保全し、232条関税を前提とした販売条件へ移行する。
  • S3: 日米間の個別合意による微修正
    • 想定: 重複課税問題の完全な解消や、自動車・部品の扱い(例: 15%への一本化など)が明確化される。
    • 対策: 政府間の最終合意を待つことなく、社内業務フロー(SOP)や帳票の改訂を先行して準備する。

実務チェックリスト

  • [ ] 船積日と申告日の記録を徹底し、経過措置(8/7–10/5)への該当可否を確認する。
  • [ ] 仕入・販売契約書に関税スライド条項と返金条項を整備する。
  • [ ] HTSコードを再点検し、追加コード(9903.02.30)を正確に申告する体制を構築する。
  • [ ] 部品表(BOM)における米国調達価額のトレーサビリティを確保する(自動車・部品の232条対応)。
  • [ ] 各種FTA(USMCA, CPTPP, 日EU・EPA, 日英EPA)の原産地証明と域内原産割合(RVC)を適切に管理する。
  • [ ] CBAM対象品目の炭素排出量データを収集・試算し、2026年の課金開始に備える。
  • [ ] 関税の過払い等が発生した場合に備え、異議申立て(プロテスト)や事後修正(PSC)の申請フローを整備する。

主要用語と規則

  • 相互関税(Reciprocal Tariff): 米国が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に導入した、相手国別の追加関税。日本向けは15%に設定されている。
  • 232条関税: 米国通商拡大法232条に基づき、国家安全保障を理由に課される追加関税。鉄鋼・アルミニウムは50%、自動車・部品は25%。相互関税とは原則として重複適用されない。
  • 重複課税の是正: 当初の運用で生じた混乱に対し、日米両政府は是正措置を進めており、修正大統領令に基づき超過納付分の返還が見込まれる。最終的な公式文書の確認が必要。

FTA/EPA 原産地証明で日本企業が陥りやすい5つのポイント

FTA/EPAの原産地証明で日本企業が間違えやすい5つのポイントを、原因と実務での対策セットで整理しました。


1. 協定の選択ミス(RCEP/CPTPP/二国間EPA等の取り違え)

  • ありがちな状況: 相手国に複数協定が並立しているのに、最初に見つけた協定のPSR(品目別規則)で判定してしまう。結果、要件不一致や不要に厳しい基準を適用してしまう。
  • リスク: 特恵関税の適用が否認され、追徴課税が発生する。また、事後調査(検認)で指摘を受ける可能性がある。
  • 対策: 輸出先×HSコードごとに**「協定比較表」**(適用される関税率、PSR、証明方式、自己申告の定型文/番号、有効期限など)を整備する。見積段階で最適な協定を確定し、社内承認の必須項目とすることが望ましい。

2. HSコードの誤分類 → 間違ったPSRの適用

  • ありがちな状況: 品名だけでHSコードの上4桁や6桁を判断し、関税率表の**「類注」「部注」や「通則(GRI)」**を確認していない。あるいは、材料や機能のわずかな差異を見落としてしまう。
  • リスク: 適用すべきPSRそのものが別物になり、原産性を満たせなくなる(関税番号変更基準や付加価値基準の要件が変わる)。
  • リスク要因の補足: HSコードは約5年ごとに大きな改正があり、知らないうちに自社製品のHSコードが変更されている可能性もある。
  • 対策: HSコードは仕様書と現物で確認し、必ず「類注」「部注」「通則」まで精読する。分類が難しい品目や変更が多い品目は、専門家レビューや税関への**「関税分類事前教示」**の取得をルール化する。見積時と出荷時でHSコードに相違がないか、チェック体制を構築する。

3. 原産資格の計算ミス(RVC/CTC/加工要件の読み違い)

  • ありがちな状況:
    • RVC(付加価値基準): 計算方式(積上方式 / 控除方式)や、計算の基礎となる価格(EXWかFOBか)を取り違える。非原産材料の価格に含めるべき費用範囲を誤解する。為替換算日が部署ごとに異なり、計算結果がぶれる。
    • CTC(関税番号変更基準): 非原産材料からのHSコードの変更(が、協定で定められたレベル(例:2桁、4桁、6桁)を満たしているかどうかの判定を誤る。
    • その他: デミニミス(僅少の非原産材料を無視できるルール)や、同種の材料をまとめて扱うことのできるルールの適用を誤解する。
  • 対策: 協定ごとに計算用テンプレートを分け、計算式・費用範囲・換算日などを固定化し、ミスを防ぐ。見積書、請求書、BOM(部品表)など、計算の根拠となる証拠書類を案件ごとに整理・保存する。価格改定、工程変更、部材変更など、計算結果に影響する事象が発生した際に、再計算を促す管理表を作成する。

4. 裏付け資料の不足と累積(Accumulation)の誤用

  • ありがちな状況: 国内で調達した材料だからという理由で、証拠なく「原産材料」と見なしてしまう。サプライヤーから入手した原産性証明資料(サプライヤー証明書)の有効期限や、対象となる協定を確認していない。累積(他の協定締約国の産品を自国の原産材料と見なせる制度)を利用する際に、対象国や要求される様式、記載事項を満たしていない。
  • リスク: 事後調査(検認)時に、材料の原産性を立証できず、産品全体の原産性が否認される。
  • 対策: BOM(部品表)の各部材について、原産性(原産か非原産か)、その根拠書類、適用協定、有効期限などをまとめた**「原産性管理マップ」**を作成する。サプライヤー証明書は定期的な更新を徹底し、可能であればロットと紐づけて管理する。累積を利用する場合は、必ず協定の累積条項を読み込み、使用可否と必要な手続き・書式を事前に確認する。

5. 物流・書類運用の要件不備

  • ありがちな状況:
    • 直接輸送の原則: 第三国を経由する際に、保税地域で行った仕分けやラベリングが、協定で許容される「軽微な加工」の範囲を超えてしまい、原産性を喪失する。
    • インボイス: 第三国インボイスを利用する際に、協定で規定された文言や記載欄への記入が漏れる。
    • 証明書・申告文: 自己申告制度において、協定で定められた定型文や、認定輸出者番号/法人番号などの記載が不正確である。
    • その他: 分割輸送や、中継貿易で利用されるバック・トゥ・バック原産地証明書の発給条件を確認しないまま手配してしまう。
  • 対策: 輸送ルートを設計する段階で、協定の「直接輸送の原則」と「非加工証明」の要件を確認する。第三国インボイスの必須記載事項をインボイスの雛形に反映させる。原産地証明書や自己申告文は、協定別のチェックリストを用いて、定型文・番号・署名の要否・有効期限などを複数人で確認する。

HS Code Finderは、HSコードの年次変換もできる

HS Code FinderはHSコードの年次変換もできます。

吊り下げる式のルームランプがあります。HSコードは9405.11。これはLEDを使った者のHSコードとなります。

本来2007年度にはLEDでのHSコードはないのですが、日インドCEPAの利用などでは、無理くりでもHSコードの付番が必要となりますので、2007年次でのHSコードが必要となるのです。

そこで、使って調べてみました。

入力条件(日本語:ユーザー原文のみ)

  • 発光ダイオード(LED)光源とともに専ら使用するように設計されたもの
  • 上記のHSコード9405.11のHSコードを2007に変えてください。

A) 日本語版(JA First)

  1. 結論

推定HS(6桁):(HS2007)9405.10

国別例示(任意):
JP:—
US:—
EU:—

要約:HS2022の「9405.11(天井/壁掛け用の電気式照明器具—LED光源とともに専ら使用するように設計)」は、LED専用の6桁細分が未設のHS2007では、天井/壁掛け用の電気式照明器具を一括する9405.10に相当します。HS2022の条文に9405.11が新設されていること、HS2007では同用途が9405.10とされていることからの逆変換です。Wcoomd+1
確度(%):95%

  1. 根拠

適用通則・注(例:GRI 1, 3(b), 6、類注・部注):

  • GRI 1・6:見出し94.05(照明器具)→号で天井/壁掛け用を特定し、版差は6桁細分で判断。GRI 6は同一レベルの号の文言で分類する旨を規定。Wcoomd
  • HS2022の第94章:9405.11として「LED光源とともに専ら使用するように設計」が明記。Wcoomd
  • HS2007の第94章:天井/壁掛け用の電気式照明器具は9405.10の下に一括(公共の広場・街路用を除く)。Wcoomd

判定ポイント(主用途、主要材質、機能、構成、セット該当性 等):

  • 取付形態=天井/壁掛け用、用途=屋内一般照明(公共広場・街路照明用の種類を除く)。Wcoomd
  • LED専用設計であっても、HS2007ではLEDの細分がないため9405.10に包含。Wcoomd

仮定(入力不足を補う前提):

  • 対象品は天井/壁掛け用の電気式照明器具。
  • 公共の広場・街路照明用の種類ではない。

排他・除外の理由(他の類・項ではない理由):

  • 9405.20(卓上・床置き)ではない(設置形態が天井/壁掛け)。Wcoomd
  • 9405.40(その他の電気式照明器具)は、用途特定(天井/壁掛け)があるため後順位。
  • 8539(電気ランプ類)は光源単体の分類であり、器具(ルミナイア)は94.05で分類。※参考:HTS見出し構成。hts.usitc.gov
  1. 候補比較(日本語表)
候補HS(6)日本語品名主要根拠棄却理由確度%
9405.10天井又は壁掛け用の電気式照明器具(公共の広場・街路用を除く)HS2007の条文に該当。Wcoomd95
9405.20卓上・机上・ベッドサイド・床置き用の電気式照明器具HS2007に別号あり。Wcoomd天井/壁掛け用であれば不適3
9405.40その他の電気式照明器具用途不特定時の包括天井/壁掛け用が特定できるため不適1
8539.xx電気ランプ(LEDランプ等)光源単体の分類器具は94.05で分類1
  1. 争点・注意
  • 「公共の広場又は街路の照明に使用する種類」は9405.10の範囲外(HS2007条文)。該当する場合は別解釈が必要。Wcoomd
  • HSの版(2007/2012/2017/2022)で6桁細分が異なるため、協定や証明書で要求されるHS年版に合わせて表示すること。
  1. 追加で必要な情報
  • 取付形態(天井/壁掛けの確認)。
  • 公共屋外照明用の種類か否か。
  • 実務で使用するHSの版(年次)の指定。
  1. 参考資料・出所
  • WCO:HS2022 第94章(9405.11=LED専用の新細分)。Wcoomd
  • WCO:HS2007 第94章(9405.10の条文)。Wcoomd
  • WCO:General Rules for the Interpretation(GRI 6)。Wcoomd
  • USITC:HTS(章構成・参照)。hts.usitc.gov

HS Code Finderの売り:スマホで使えるので持ち運びできるHSコード判定機

FTA戦略的活用研究会 大阪で印象を聞いたのですが、スマホで判定ができるため、持ち運びができるのはとてもいいという反応。

また、写真での判定情報提供が可能なので、スマホで撮影して、情報をアップロード、結果を待つということもできます。

写真判定はかなりの精度を持っているので、これも売りですね。

アメリカで進行する訴訟:相互関税・緊急関税と対中301条の現状

比較表:私の認識のために整理しました。

項目① 相互関税・緊急関税(IEEPA)② 対中301条(リスト3・4A)
根拠法IEEPA(50 U.S.C. §1701–)等(大統領の緊急権限)1974年通商法 §301/§307+APA
措置の中身ほぼ全輸入に基礎10%+国別11–50%の「相互関税」/加・墨25%、中10→20%の「Trafficking Tariffs」等(EOで変動) 国際貿易裁判所中国向け追加関税(リスト3・4A)
第一審(CIT)違法。IEEPAは関税賦課の一般授権にならないとして恒久差止(2025/5/28, Slip Op. 25-66) 国際貿易裁判所合法。USTRの再説明を維持(2023/3/17, Slip Op. 23-35) 国際貿易裁判所
控訴審(CAFC)2025/8/29 判決:IEEPAに基づく関税権限否定は維持。ただし差止の射程は一部破棄・差戻し(当面の徴収は継続) 連邦控訴裁判所2025/1/8 口頭弁論済。本日(2025/8/30)時点で判決未了(継続徴収) 連邦控訴裁判所
現在の効力徴収継続中(CAFCが控訴中の差止停止→判決でも差止再検討を指示) 連邦控訴裁判所徴収継続中(CITで原告敗訴、差止なし) 国際貿易裁判所
直近の行政府動向相互関税を一時停止・修正するEOが複数発出(例:2025/7/31の修正命令) The White House(省略:本表の争点は“適法性”)

① IEEPA(相互関税・緊急関税)訴訟の要点

  • CIT(2025/5/28):IEEPAの「輸入の規制」権限は関税の恒常的付加を包括授権しないとして、相互関税・Trafficking Tariffsの恒久差止を命令。 国際貿易裁判所
  • CAFC(2025/8/29, 全員合議)IEEPAに関税権限なしの法理は維持。ただし全国差止の範囲等は審理不十分として破棄・差戻し。控訴中に付されていた差止の停止(stay)も示され、現時点では徴収が継続連邦控訴裁判所
  • 実務への当面影響:納税は継続。差戻し後のCITでeBay要件に基づき差止範囲・救済の再検討へ(政府の上告可能性は報道ベース)。大統領令による相互関税の微修正・一時停止も発出済。 連邦控訴裁判所The White House

② 対中301条(リスト3・4A)訴訟の要点

  • CIT(2023/3/17):USTRの手続・再説明を適法と判断し、原告側の主張を退ける。 国際貿易裁判所
  • CAFC2025/1/8 口頭弁論済。本日(2025/8/30)時点で判決未了。従って徴収は継続連邦控訴裁判所

AIを利用したHS Code Finder:FTA戦略的活用研究会で発表して評価をもらった

今週には2回のFTA戦略的活用研究会がありました。

東京と大阪。

HS Code Finderをお披露目し、使用デモを見ていただきました。

特に、検索する情報を参加者から頂き、その結果を見てもらいました。

結果は東京も大阪も全て正解。

大阪では、ご協力頂いた古川さんも参加しての中身確認。

企業に実際に利用してもらうステップに移ることができそうです。

スイスへの「相互関税」:ビジネス実務への影響と対応策

2025年8月28日時点

要点

国名追加関税率根拠法規備考
スイス 🇨🇭39% (相互関税)HTSUS 9903.02.582025年8月7日 0:01 a.m. EDT 発効・通常関税 (Column 1) に上乗せで賦課・経過措置: 8/7前に最終船積みし、10/5前に輸入申告した貨物は +10% (HTSUS 9903.01.25) を適用


最初に押さえるべき3つのポイント

  1. 39%の追加関税: スイス原産品に対し、39%の従価税 (ad valorem) が「相互関税」として課されます。申告にはHTSUSコード 9903.02.58 を使用し、通常関税やその他手数料に上乗せとなります。
  2. 適用開始日: 2025年8月7日 (EDT) から適用されています。ただし、8月7日より前に最終仕向地へ船積みされ、10月5日より前に輸入申告された貨物には、+10% の税率 (9903.01.25) が適用される経過措置があります。
  3. 関連国の扱い: EUに適用される「合計15%ルール」はスイスには適用されません。また、中国 (+10%) とは異なる税率枠が設定されています。迂回輸出 (トランスシップメント) と認定された場合は、+40% のペナルティ関税 (9903.02.01) が課されるため注意が必要です。

1. 制度の概要

  • 法的根拠: 大統領令 EO 14257 (2025/4/2) で「相互関税」の枠組みが創設され、EO (2025/7/31) で国別税率が改定されました。この改定でスイスに 39% の税率 (Annex I) と、国別のHTSUSコード 9903.02.58 (Annex II) が新設され、8月7日に発効しました。
  • 適用範囲: 一部の例外を除き、原則として全てのスイス原産品が対象です。本関税は、通常のHTS税率や、AD/CVD、232条関税など他の全ての関税・手数料と併せて課されます

2. 申告実務と例外規定

申告コード

  • スイス原産品: 9903.02.58 (+39%)
  • 経過措置対象: 9903.01.25 (+10%) (8/7前船積み、かつ10/5前輸入)
  • 迂回輸出と認定された場合: 9903.02.01 (+40%)

主な例外規定

  • 人道物資・情報資料: Chap. 99 の 9903.01.30–.33 に規定される品目は対象外です。
  • 米国原産品: 米国原産部材の価値が全体の20%以上を占める場合、その米国原産価値分は非課税となります (コード 9903.01.34)。非米国価値分のみが課税対象となり、申告は2行に分割する必要があります。
  • Chapter 98 (特別分類): 原則として適用可能ですが、9802 (修理・加工後の再輸入) など一部の規定では、米国外での加工価額等に対して相互関税が課されます。
  • FTZ (保税地域): 2025年4月9日以降に対象貨物をFTZに入庫させる場合、Privileged Foreign Status (PFS)での申請が必須です。

HTSコードの記載順序 (ACE申告時)

CBPは以下の順序を指示しています。

  1. Chapter 98 (該当する場合)
  2. Chapter 99 (各種追加関税)
    • 301条関税 → IEEPA関連 (フェンタニル等) → IEEPA (相互関税) → 232条/201条関税…
  3. Chapter 1-97 (通常の関税分類)

3. コスト計算例

相互関税は、通常関税などと複利計算ではなく、それぞれ加算されます。

  • 申告価額: $10,000
  • 通常関税: 5% → $500
  • 相互関税 (スイス): 39% → $3,900
  • 合計関税額: $500 + $3,900 = $4,400 (その他、税・手数料・AD/CVD等は別途)

4. 企業が取るべきアクションリスト

48時間以内 (即時対応)

  • 対象品目の特定: スイス原産の全輸入品リストを作成し、9903.02.58 の適用要否を判定します。特に、経過措置 (+10%) の対象となる貨物がないか出荷日と到着予定日を確認します。
  • 価格・見積の緊急改定: +39% のコスト増を前提に、販売価格や利益率を再計算します。必要に応じて取引先への通知と、Incotermsの見直しを開始します。

2週間以内

  • 通関プロセスの更新: 通関業者と連携し、HTSコードの記載順序や、Chapter 98/9903.01.34 (米国原産分) の適用可否、TIB (一時輸入)、ドローバック等の運用を確定させます。
  • 契約の見直し: サプライヤーや顧客との契約に、関税サーチャージ条項など価格調整に関する条項の追加・修正を交渉します。

90日以内

  • サプライチェーンの監査: 迂回輸出と見なされるリスクを避けるため、輸送ルートや第三国での加工実態に関する証拠書類を整備します。迂回認定は+40%の重いペナルティとなるため、コンプライアンス監査が不可欠です。
  • 動向監視とシナリオプランニング: スイス政府の対米交渉の進捗を注視し、関税率が変動する可能性に備えます。社内の価格体系や供給網計画を、情勢に応じて更新できる体制を構築します。

5. よくある質問 (FAQ)

  • Q1. 「39%」は、今までの関税が39%に変わるのですか?
    • A. いいえ、「置き換え」ではなく**「上乗せ」**です。通常関税が5%の場合、支払う関税は「5% + 39%」となります。
  • Q2. どのHTSコードで申告すれば良いですか?
    • A. 原則として 9903.02.58 (+39%) です。経過措置の対象となる貨物のみ 9903.01.25 (+10%) を使用します。
  • Q3. 米国製の部品を20%以上使っていれば、関税はかかりませんか?
    • A. 全額免除にはなりません。米国原産価値に相当する部分のみが非課税となり、残りの非米国価値部分には39%が課税されます。申告も2行に分ける必要があります。
  • Q4. EU向けの「合計15%ルール」はスイスにも適用されますか?
    • A. されません。スイスには国別に設定された 39% の税率が直接適用されます。

主な根拠資料

  • White House (2025/7/31): 大統領令。Annex Iでスイスの税率を39%と規定し、Annex IIで 9903.02.58 等を新設。
  • CBP CSMS #65829726 (2025/8/4): 経過措置 (+10%)、EU特則、中国の扱いに関する運用通達。
  • CBP CSMS #64649265 (2025/4/4): Chapter 98の扱い、20%米国原産価値の例外、ACE申告順序に関する通達。
  • Reuters (2025/8/25): スイス政府による関税緩和交渉に関する報道。

免責事項: この文書は一般的な情報提供を目的としており、法務または通関に関する専門的な助言ではありません。実際の申告にあたっては、必ず最新の連邦官報、CBPからの通達、および貴社指定の通関業者の指示に従ってください。

インドへの「相互関税」:現段階でのまとめ

要約

  • インド原産品への米国の追加関税は合計50%。内訳は①相互関税25%(2025年8月7日発効)+②追加25%(対ロシア原油調達を理由とする措置、2025年8月27日 0:01 a.m. EDT発効)。いずれも**通常関税(Column 1)に“上乗せ”**されます。The White HouseReutersGovInfo
  • ②の25%はHTSUS 9903.01.84で申告。在来の25%(相互関税)と併科されます。GovDelivery
  • 一部例外・猶予あり(船積み済みの経過措置、人道物資・情報資料、特定の232対象品、適切なChap.98適用など)。FTZは特恵外国(PFS)での入庫要件ドローバック可GovDeliveryGovInfo

1) 何が起きたのか

  • 2025年4月2日:大統領令EO 14257で「相互関税」枠組みを創設。The White House
  • 2025年7月31日EO 14326(Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates)で各国率を最終化。インド=25%8月7日発効The White House
  • 2025年8月6日:大統領令EO 14329(対ロシア関連の国家緊急権に基づく)で**インド原産品に追加25%**を指示。The White House
  • 2025年8月25日CBP CSMS #66027027で運用通達(9903.01.84、適用開始8月27日、相互関税25%に追加で賦課)。GovDelivery
  • 2025年8月27日:**連邦官報告示(FR 2025-16419)**で実装。0:01 a.m. EDT以降の輸入に適用。GovInfo

2) 計算と申告

  • 関税計算イメージ:通常関税(例:5%)+相互関税25%追加25%合計50%が“上乗せ”。追加分は**“価額に対する”ad valoremで、他の賦課(AD/CVD, 税・手数料)と併存。
    例)申告価額$10,000、通常5%の場合 → $500(通常)+$2,500(相互)+$2,500(追加)=
    $5,500**(他費用別)。GovDeliveryGovInfo
  • 申告コード9903.01.84(追加25%)を相互関税の国別コード等と併記HTS記載順序の指示あり:Chap.98→各種99章(301→IEEPA→232→201…)→本表1–97)。GovDelivery

3) 例外・猶予

  • 経過措置8/27前に最終輸送に載荷9/17 0:01 a.m. EDT前に輸入申告した貨物は、追加25%の対象外(9903.01.85)。GovDelivery
  • 人道物資・情報資料9903.01.88/89)は除外。GovDeliveryGovInfo
  • 特定の232対象等(鉄鋼・アルミ・自動車等)は9903.01.87追加25%の適用外となる区分あり(相互関税や232自体の賦課は別途)。GovDelivery
  • Chap.98の扱い:適切なChap.98で追加25%非課税となる場合あり。ただし9802は**加工・組立価額部分に追加25%**が課税。GovDelivery
  • FTZ8/27以降に入庫する対象品は**Privileged Foreign Status(PFS)**での入庫が必要。消費仕向け時に課税GovDelivery
  • ドローバック:追加25%に適用可GovDelivery

4) 影響領域

  • **影響対象はインドの対米輸出の約55%(約870億ドル)**に及ぶとの推計。繊維・衣料、履物、宝飾、化学品などが特にリスク。Reuters
  • マクロでは米印関係の緊張が指摘され、関税50%の適用で短期的に受注・雇用・価格転嫁の圧力。ポリティコ

5) いますぐの対応

48時間以内

  • HTSライン洗い出し:対米輸出入のHS/HTS9903.01.84・相互関税コードの付番要否を紐付け。**例外該当(9903.01.85–89、232対象、Chap.98)**の棚卸。GovDelivery
  • 受発注・見積の即時改定:**着地コスト+50%**シナリオで粗利・価格を再試算。FOB/CIF条件・INCOTERMSの再設定。GovInfo

2週間以内

  • 通関手順の改修:ブローカーとHTS記載順序CSMS #66027027の運用確認、ACE申告テスト。FTZ利用企業はPFS運用へ切替。GovDelivery
  • Chap.98/9802の適用可能性評価(再加工・修理・組立スキーム)。ドローバックの回収設計。GovDelivery

90日以内

  • 供給網の見直し:第三国加工の原産地規則経由地リスクを監査。トランスシップ回避(違反認定時は**+40%の追加率**など厳罰化)。The White House
  • 価格・契約条項(関税サーチャージ、関税変動条項、フォースマジュール)を更新。為替・在庫・与信の同時管理。

6) よくある質問(FAQ)

Q1. “50%”は複利計算ですか?
A. いいえ。**いずれも価額(dutiable value)に対するad valoremの“上乗せ”**です(通常関税+25%+25%)。GovInfoGovDelivery

Q2. いつから課税?“船積み済み”は?
A. 2025年8月27日 0:01 a.m. EDT(日本時間8/27午後)以降の輸入(消費仕向け)8/27前に最終輸送へ載荷9/17前に輸入した貨物は追加25%の対象外GovInfoGovDelivery

Q3. すべての品目が対象ですか?
A. 原則対象ですが、人道物資・情報資料の除外特定の232対象など例外があります。詳細は該当9903番号・注記で確認してください。GovDeliveryGovInfo

Q4. 交渉で下がる可能性は?
A. 報道ベースでは対話継続の見通しもある一方、現時点(8/28 JST)では50%が有効。最新動向のモニタリングを推奨。ウォール・ストリート・ジャーナルポリティコ


7) 参考(制度の趣旨と定義)

  • 相互関税(Reciprocal Tariffs)とは、相手国の対米関税や障壁に対応して米国が同程度の追加関税を課す考え方。実務上は通常税率に上乗せされます。C.H. Robinson

主要ソース(抜粋)

  • White House:EO 14326(7/31)付属書でインド25%8/7発効The White House
  • White House:EO 14329(8/6)(対ロシア原油関連)で**インド追加25%**を指示。The White House
  • CBP CSMS #66027027(8/25)9903.01.84例外(9903.01.85–89)Chap.98/9802FTZ PFSドローバックHTS記載順序GovDelivery
  • Federal Register / govinfo(8/27)実装告示(FR 2025-16419)適用開始時刻232との関係GovInfo
  • 影響評価(報道)対象は輸出の約55%主要セクターReuters

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