(報道各社・公式資料の突き合わせ。日時は米東部時間。現在: 2025年11月1日)
1. 何が起きたか(結論)
10月30日(木)、米上院はS.J.Res.88(大統領が関税根拠に用いた国家非常事態の終了を求める共同決議)を51対47で可決しました。これは、トランプ政権による世界一律の「相互関税(リシプロカル)」の土台を外す内容です。
共和党からミッチ・マコネル氏、ランド・ポール氏、スーザン・コリンズ氏、リサ・マーカウスキー氏の4名が民主党側に同調し、賛成に回りました。
ただし、決議が直ちに効力を持つわけではありません。下院は少なくとも2026年3月31日まで、この種の関税無効化案件を本会議で採決しない運営ルールを採用しています。仮に下院を通過しても大統領の拒否権行使が見込まれるため、今回の可決は政策的な牽制や象徴的な意味合いが強いとみられています。
2. 「グローバル相互関税」とは
2025年4月2日、大統領が「貿易赤字は国際的緊急事態である」と宣言し、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に発表した関税パッケージ(通称**『リベレーション・デー関税』**)を指します。
主な内容は以下の2点です。
- 全ての国からの輸入品に対し、**一律で10%の「基準関税」**を課す。
- 上記に加え、対象国に応じて追加関税を上乗せする。
その後、7月9日にブラジル(50%)、7月10日にカナダ(最大35%)への個別の上乗せ措置が発表され、国内外で反発が拡大していました。
3. 直近3つの関連採決(上院)
| 日付 | 案件(共同決議) | 票決 | 概要 |
| 10/28 | S.J.Res.81(ブラジル関税の無効化) | 52–48 | 可決 |
| 10/29 | S.J.Res.77(カナダ関税の無効化) | 50–46 | 可決 |
| 10/30 | S.J.Res.88(グローバル相互関税の無効化) | 51–47 | 可決 |
※注: いずれも下院での手続きと大統領署名(または拒否権の無効化)が必要なため、現時点では実際の関税率に変更はありません。
4. 投票の内訳とねらい
10月30日のS.J.Res.88では、共和党のミッチ・マコネル(KY)、ランド・ポール(KY)、スーザン・コリンズ(ME)、リサ・マーカウスキー(AK)の4氏が賛成しました。
過去の同趣旨の決議(4月30日、S.J.Res.49)は49–49の同数となり、副大統領(JD・ヴァンス氏)のキャスティングボートで否決されていました。今回は、共和党からの造反が拡大した形です。
民主党側の推進役は、ロン・ワイデン上院財政委員会ランキングメンバー(筆頭委員)です。IEEPAの(乱用とも指摘される)適用による包括的な関税に対し、議会(特に上院)が持つ貿易権限を回復させることが狙いです。
5. 経済的影響の評価(公表値・推計)
- 税収: 2025年の関税導入以降、8月時点までに新規関税分として約880億ドルの関税収入を計上(イェール大学Budget Labの集計)。
- 家計負担: イェール大学Budget Labの推計では、1世帯あたり年間1,600ドルの短期的な実質所得損失(代替効果考慮後)。
- GDP: Tax Foundationの推計では、今後10年のGDPを0.5%程度押し下げるとされています。
これらの数字は、関税が「海外へのコスト転嫁」ではなく、国内価格に転嫁されやすい傾向を改めて示しています。
6. 今後のシナリオと法廷闘争
- 司法の動き: IEEPAを使用した包括関税に対し、企業側が違憲性を問い提起した訴訟が連邦控訴裁判所で審理中です。司法判断が政策の持続可能性を大きく左右します。
- 下院の動き: 現行の運営ルールにより、下院は少なくとも2026年3月31日まで上院可決分を棚上げにできる状態です。よって当面は実体経済・貿易実務に即時の変更は生じない見込みです。
7. 日本・企業サイドの実務ポイント
- 上院可決は、直ちに関税撤廃を意味しない実務上の輸入税率は現状維持です。請負価格・見積り・在庫の前提を即座に変更しないことが重要です。
- 政策リスクは縮小傾向上院で3件連続(ブラジル・カナダ・グローバル)の無効化決議が可決されたことで、包括関税への政治的抵抗は明確になりました。これは価格交渉や契約条項(関税トリガー条項など)での交渉材料になり得ます。
- 用語の整理「グローバル相互関税」とは、『リベレーション・デー関税』パッケージ(全品目10%基準+国別上乗せ)を指します。日本向け輸出も原則対象という設計思想です。ただし、今回の上院決議が実効力を持つ(=関税が無効化される)には、下院可決と大統領署名が前提です。
8. 参考タイムライン
- 2025/4/2: 国家非常事態宣言(『リベレーション・デー関税』発表、基準10%)
- 2025/4/30: 上院の初回無効化決議(S.J.Res.49)、49–49の同数となり副大統領の投票で否決
- 2025/7/9: ブラジル関税50%を発表(8月1日発効予定)
- 2025/7/10-11: カナダ関税35%を発表(8月1日発効予定)
- 2025/10/28–30: 上院がブラジル→カナダ→グローバルの順に3決議を連続可決
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