アジア主要国の電子CO署名要件と監査対応

最終更新 2026年2月9日

はじめに

電子CO(電子原産地証明書)は、単に紙をPDFに置き換える話ではありません。実務で本当に効いてくるのは、署名や印章が電子化されたときに「真正性を、誰が、どう検証できるのか」、そして「その検証可能性を、監査や事後確認まで含めて維持できるのか」です。WCO(世界税関機構)の調査でも、相手国が電子COを受け入れない主因として、デジタル署名がない、または検証できないことが挙げられています。 (wcoomd.org)

本記事では、アジア主要国を中心に、電子COの署名要件が実務でどう表れるか、そして税関の原産地検証や社内監査に耐える運用設計を、ビジネスマン向けに深掘りします。


1. まず押さえるべき前提

1-1 電子COで監査が見るのは、署名そのものより「検証できる状態」

電子COは偽造や誤用のリスクがゼロになるわけではありません。WCOの事例では、輸入時にスキャン画像として提出された電子COについて、署名や印章が不鮮明で似通って見えたことが端緒となり、遡及確認の結果、真正でないと判断され、特恵が否認されたケースが紹介されています。つまり、電子COをスキャンや画像化すると、検証に必要な要素が失われ、監査上の弱点になり得ます。 (wcoomd.org)

1-2 税関の検証は、輸入者だけで終わらない

例えば日本税関は、特恵適用後の「原産地検証」において、輸入者に情報提供を求め、なお確認できない場合には輸出者や生産者に照会したり、訪問確認を行う場合があると説明しています。検証で原産性が確認できなければ特恵が否認され、追徴やペナルティにつながり得ます。 (税関ポータル)


2. 電子COと署名要件を整理する

2-1 電子化は3段階に分けて考える

電子COの実態は国や協定で異なります。混乱を避けるため、次の3段階で切り分けると運用設計が安定します。

  1. 電子申請
    申請はオンラインだが、最終成果物は紙のCOが中心という運用も残ります(電子化の入り口)。
  2. 電子発給
    当局や商工会議所が電子的に承認し、PDF出力や電子的な印章・署名が付与される段階。
  3. 政府間データ交換
    税関間や単一窓口(Single Window)間でデータが直接やり取りされ、輸入側は参照番号等で照合する段階。WCOも、政府間送受信は第三者を介さないため真正性の担保に資すると整理しています。 (wcoomd.org)

2-2 署名の「形」は1種類ではない

アジアの電子CO実務では、署名は概ね次のタイプで現れます。

  • 電子的に付された署名・印章
    紙に印刷されるが、署名・印章自体が電子的に付与されるタイプ。マレーシアのATIGA Form Dで、技術的事情により「電子的に付された署名と印章付きの紙Form D」を運用した旨の告知があり、このタイプが現場で使われていることが分かります。 (マレーシア国際貿易産業省)
  • デジタルスタンプ、デジタル署名
    PDF等にデジタルスタンプや署名が付与され、検証可能であることが前提。
  • QRコードやURLによる真偽確認
    CO上のQRコードやURLで検証サイトに誘導し、真正性を確認する設計が普及しています(特に商工会議所型のeCO)。 (sccci.org.sg)

3. ASEANを軸に理解する

アジアの電子COを語るとき、ASEANの枠組みを理解すると、周辺国の制度も読み解きやすくなります。

3-1 2024年1月1日から、ATIGA Form Dは電子交換が前提

シンガポール税関は、2024年1月1日付でASEAN加盟国が電子Form Dの完全送信を実施し、加盟国の輸入税関が紙のForm Dを特恵申告で拒否する可能性があると明記しています。ASEAN向け取引では、紙原本を前提にした運用を続けること自体が、通関遅延や特恵否認のリスクになります。 (customs.gov.sg)

3-2 ATIGAのe-Form Dは「参照番号」と「保存義務」が鍵

ATIGAの運用規程(改正OCP)では、特恵申告の際に輸入者がe-Form D参照番号を含む輸入申告を提出し、必要に応じてインボイスや通し船荷証券などの証拠書類も提出すると定めています。 (asean.org)
さらに、電子アーカイブと保存期間について、輸出者や生産者はe-Form D発給日から少なくとも3年間、申請の裏付け記録を保存すること、発給当局も関連文書を少なくとも3年間保存することが規定されています。 (asean.org)

この「参照番号で照合される構造」と「保存義務」が、電子CO時代の監査対応の出発点です。


4. 国別にみる電子COの署名要件と真偽確認

ここからは、主要国の実務で押さえるべきポイントを、署名と監査の観点で整理します。

4-1 シンガポール

ATIGA向け

2024年1月1日以降、ASEAN加盟国間では電子Form Dの完全送信が前提で、紙Form Dが拒否され得る点をまず徹底します。 (customs.gov.sg)

非特恵のeCO

シンガポール中華総商会(SCCCI)は、政府のデジタル化方針の下でブロックチェーン基盤を使ったeCOを導入し、COの真正性を固有のQRコードまたはURLで確認できると説明しています。eCOはデジタルスタンプ、署名、日付が付与される運用も明記されています。 (sccci.org.sg)

監査の観点では、PDFの原本、QRまたはURLで照会した結果の記録(いつ、誰が、どの番号を照合したか)を残すことが重要です。

4-2 マレーシア

マレーシア投資・貿易産業省(MITI)の告知では、ミャンマー側のASWゲートウェイ技術問題により、ATIGA e-Form Dの交換ができない場合に「電子的に付された署名と印章付きの紙Form D」を運用した旨が示されています。紙であっても署名・印章が電子的に付されるケースがあるため、監査では「紙か電子か」よりも「発給当局の真正性をどう担保し、どう検証できるか」が問われます。 (マレーシア国際貿易産業省)

4-3 タイ

タイのe-Form Dは、DFT Smart C/Oで電子申請し、タイ国家単一窓口からASEAN Single Window経由で相手国へ自動送信される仕組みとして整理されています。政府間データ交換型のため、輸入側は参照番号等で照合する設計に寄ります。 (digitalizetrade.org)

監査では、参照番号と輸出入申告、インボイス、船積書類の突合を機械的にできる状態にしておくと強いです。

4-4 インドネシア

インドネシア商業省のe-SKAでは、電子的に適用される署名とスタンプ(Affixed Signature and Stamp)を導入し、物理的接触を減らしつつ発給を効率化すると説明しています。 (e-ska.kemendag.go.id)
また、e-SKAの利用マニュアルでは、e-SKAがINSWやASWで国際的にSKAデータを交換する旨が記載されています。 (e-ska.kemendag.go.id)

ポイントは、電子的に付された署名・スタンプの出所が当局側であることを示せる運用と、照合のための番号管理を徹底することです。

4-5 ベトナム

ベトナムは2024年以降、eCoSysを軸に電子COを拡大しています。MOIT系の通知(Notice 1089)では、eCoSysで電子承認されたCOをカラー印刷し、その印刷物に発給当局の署名・印章とQRコードが組み込まれ、QR等で真正性確認に用いる旨が示されています。 (thuvienphapluat.vn)
一方で、eCoSysのFAQでは、対象11フォームの多くはベトナムと相手国の間に電子データ交換メカニズムがないため、輸入国税関は原本のCOに基づいて特恵判断を行う、と説明されています。つまり「発給は電子、通関は原本提示が前提」という過渡期の設計が残ります。 (ecosys.gov.vn)
さらにJETROも、ベトナムの複数協定でe-CO発給やデータ交換が進む状況を報じています。 (jetro.go.jp)

監査対応としては、QRによる照合ができる状態で原本管理しつつ、相手国の受入れ要件(原本提示か、データ交換か)を取引先と合意しておく必要があります。

4-6 韓国

WCO資料では、韓国商工会議所(KCCI)発給のCOについて、QRコードが税関や商工会議所の公式検証サイトへのリンクとなり、透かしや二次元バーコードなどのセキュリティ要素があることが示されています。 (wcoomd.org)
また韓国税関サイトは、COの方式として当局発給と自己証明を整理し、自己証明は輸出者が署名して宣言する枠組みであることを説明しています。 (customs.go.kr)

実務で重要なのは、当局発給COは公式サイトで検証できる状態を保存すること、自己証明型は「誰が、どの権限で署名したか」を社内統制で担保することです。

4-7 中国

中国側での真正性確認は、税関系とCCPIT系で入口が分かれることがあります。中国税関の原産地証明関連プラットフォームでは、証明書番号等を前提に照会する画面が提供され、運用上の問い合わせ窓口も提示されています。 (origin.customs.gov.cn)
またCCPITのインターネット認証センターでは、証明書番号とシリアル番号等を入力してCO内容の確認ができる旨が示されています。 (ccpitecoo.net)

監査では、CO番号体系の管理、照会結果の記録、そして「スキャンで提出していた」「原本データを廃棄していた」といった失点を防ぐことが重要です。スキャン提出が疑義や否認につながり得る点は、WCOの監査事例が警鐘になっています。 (wcoomd.org)

4-8 インド

インドはDGFTの共通デジタルプラットフォームでCOを一元化しており、電子的でペーパーレスな発給プロセスを掲げ、指定発給機関が同ポータルで業務を行う設計としています。 (coo.dgft.gov.in)
登録マニュアルでは、輸出者がIECを含むデジタル署名証明書を準備し、DSCを挿してIECを入力して登録を進める手順が明記されています。 (coo.dgft.gov.in)

監査対応としては、DSCの名義と権限管理、IEC情報の最新化、ポータル側の移行や運用変更への追随が要点です(ポータル上でも新システム移行や提出義務の告知が掲載されています)。 (coo.dgft.gov.in)

4-9 日本

日本の輸出関連では、JCCIがEPA等に基づく特定原産地証明書について、オンラインの発給システムから電子的に申請するよう案内しています。 (jcci.or.jp)
同ページでは、申告データや立証書類の保存義務が示され、原則5年間、協定によっては3年間と明記されています。保存年限は監査対応の土台になるため、協定別に自社の最長基準で統一するのが安全です。 (jcci.or.jp)
また前述の通り、日本税関の原産地検証は輸入者だけでなく、輸出者や生産者にも照会が及び得ます。輸出側であっても「監査の当事者」になり得る点は、社内で共有しておく必要があります。 (税関ポータル)


5. 監査対応を強くする運用設計

ここからは、国別差を吸収しつつ、監査に強い共通設計を提示します。

5-1 電子CO監査の基本は「真正性」と「原産性」の二段構え

  • 真正性
    そのCOが発給当局の正式なものか。QR、URL、参照番号、検証サイト照会、政府間送信などで裏取りできるか。
  • 原産性
    ルールオブオリジンを満たしているか。BOM、工程、RVC計算、仕入先宣誓、製造記録などで説明できるか。

COがあっても原産性は別途確認され得る点は、日本税関が「証明書を入手しても、輸入者が自ら原産性を確認する必要がある」趣旨の情報提供をしている点からも読み取れます。 (税関ポータル)

5-2 電子署名の検証可能性を落とさない

次の設計を推奨します。

  1. 原本ファイルを必ず保管する
    PDF原本、発給番号、参照番号、発給日、発給機関を案件IDで紐づけます。スキャン画像しか残っていない状態はリスクです。 (wcoomd.org)
  2. 真偽確認ログを残す
    QRや検証サイトで照会した結果について、照会日時、照会者、照会番号、結果を記録します(スクリーンショットでもよいが、原本ファイル保管が前提)。
  3. 協定や国ごとに「受入れ形態」を台帳化する
    政府間データ交換か、印刷原本提示かで、通関時に必要な動作が変わります。例えばベトナムはeCoSys発給でも、相手国とのデータ交換が未整備なら原本が前提になり得ます。 (ecosys.gov.vn)

5-3 保存期間は「協定別の要件」を起点に、社内で最長に寄せる

  • ATIGA e-Form Dは、裏付け記録を少なくとも3年保存する規定があります。 (asean.org)
  • 日本の特定原産地証明書では、原則5年、協定により3年という整理が明記されています。 (jcci.or.jp)

ここで重要なのは、相手国・協定が複数混在する現場では、保存ルールを案件ごとに変えると漏れます。社内規程は最長基準で統一し、例外を作らない方が監査に強くなります。

5-4 税関照会に備える「監査対応パック」を先に作る

税関の照会はスピードが求められます。日本税関の説明でも、文書照会や訪問確認があり得ることが示されており、準備の有無で負荷が大きく変わります。 (税関ポータル)

おすすめの監査対応パック構成は次の通りです。

  1. CO一式
    CO原本、参照番号、発給機関、検証結果ログ
  2. 物流一式
    インボイス、パッキングリスト、B/LまたはAWB、必要なら通し船荷証券
  3. 原産性一式
    BOM、工程表、RVC計算根拠、仕入先宣誓書、製造実績、HSコード根拠
  4. 統制一式
    誰が申請し、誰が承認し、誰が出荷判断したか(権限管理の証跡)

6. よくある失敗と、現場で効く対策

6-1 ASEAN向けで紙Form Dを出し続ける

2024年1月1日以降、加盟国で電子Form Dの完全送信が実施され、紙のForm Dが拒否され得ると明記されています。取引先や通関業者が従来運用のままだと、通関で止まります。 (customs.gov.sg)

対策

  • 取引先に渡す情報を「Form Dそのもの」から「e-Form D参照番号」に切り替える
  • 輸入申告で参照番号を確実に入力できるよう、通関業者との連携手順をSOP化する (asean.org)

6-2 電子COを印刷して、PDF原本を捨てる

印刷物ではデジタル署名の検証ができないケースがあります。監査や事後確認では、原本データがないことが弱点になり得ます。 (wcoomd.org)

対策

  • 原本PDFを保管し、照会ログとセットで保存する
  • 監査提出用に印刷する場合も、原本の所在を明確にする

6-3 スキャン提出や画像共有が常態化している

WCOの事例では、スキャン画像の電子COが偽造の疑いにつながり、否認・調査に発展しています。 (wcoomd.org)

対策

  • 電子COは原本ファイルで受領し、必要なら検証サイトで照合する
  • 画像共有は例外対応とし、例外時はなぜそうしたかを記録する

6-4 インド向けでDSC要件を軽視する

DGFTマニュアル上、IECを含むデジタル署名証明書が登録手順の前提です。 (coo.dgft.gov.in)

対策

  • DSCの名義、期限、保管方法、代理利用の可否を社内ルール化する
  • DGFTポータルの移行告知など、運用変更に追随できるウォッチ体制を置く (coo.dgft.gov.in)

6-5 ベトナムのeCOを「データ交換型」と誤認する

ベトナムはeCoSysで電子承認し、署名・印章とQRが組み込まれた印刷物で真正性確認できる運用を示しています。一方で、対象フォームでは相手国とのデータ交換がない場合、輸入国税関は原本に基づく判断になる、とFAQで説明されています。 (thuvienphapluat.vn)

対策

  • 相手国側が原本提出を前提としているか、通関実務で確認し、取引先と合意しておく
  • QR照会の手順と記録方法をSOPに落とす

7. まとめ

電子COの署名要件は、国ごとに見た目も仕組みも異なります。しかし監査の観点で本質は共通です。

  • 署名や印章が「検証可能」であること
  • 参照番号や検証ログを含め、証跡が残っていること
  • COの真正性と、原産性の裏付けを分けて準備できること

この3点を軸に、協定別の保存要件を最長基準で統一し、部門横断で運用設計すれば、通関遅延や特恵否認のリスクを大きく下げられます。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引に対する法的助言、税務助言、通関助言を構成するものではありません。電子COや特恵申告の取扱いは、適用協定、輸出入国の法令・通関実務、発給機関の運用変更により変動します。実際の運用判断にあたっては、関係当局の最新情報、通関業者、弁護士・税理士等の専門家に必ずご確認ください。

 

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