スイスへの「相互関税」:ビジネス実務への影響と対応策

2025年8月28日時点

要点

国名追加関税率根拠法規備考
スイス 🇨🇭39% (相互関税)HTSUS 9903.02.582025年8月7日 0:01 a.m. EDT 発効・通常関税 (Column 1) に上乗せで賦課・経過措置: 8/7前に最終船積みし、10/5前に輸入申告した貨物は +10% (HTSUS 9903.01.25) を適用


最初に押さえるべき3つのポイント

  1. 39%の追加関税: スイス原産品に対し、39%の従価税 (ad valorem) が「相互関税」として課されます。申告にはHTSUSコード 9903.02.58 を使用し、通常関税やその他手数料に上乗せとなります。
  2. 適用開始日: 2025年8月7日 (EDT) から適用されています。ただし、8月7日より前に最終仕向地へ船積みされ、10月5日より前に輸入申告された貨物には、+10% の税率 (9903.01.25) が適用される経過措置があります。
  3. 関連国の扱い: EUに適用される「合計15%ルール」はスイスには適用されません。また、中国 (+10%) とは異なる税率枠が設定されています。迂回輸出 (トランスシップメント) と認定された場合は、+40% のペナルティ関税 (9903.02.01) が課されるため注意が必要です。

1. 制度の概要

  • 法的根拠: 大統領令 EO 14257 (2025/4/2) で「相互関税」の枠組みが創設され、EO (2025/7/31) で国別税率が改定されました。この改定でスイスに 39% の税率 (Annex I) と、国別のHTSUSコード 9903.02.58 (Annex II) が新設され、8月7日に発効しました。
  • 適用範囲: 一部の例外を除き、原則として全てのスイス原産品が対象です。本関税は、通常のHTS税率や、AD/CVD、232条関税など他の全ての関税・手数料と併せて課されます

2. 申告実務と例外規定

申告コード

  • スイス原産品: 9903.02.58 (+39%)
  • 経過措置対象: 9903.01.25 (+10%) (8/7前船積み、かつ10/5前輸入)
  • 迂回輸出と認定された場合: 9903.02.01 (+40%)

主な例外規定

  • 人道物資・情報資料: Chap. 99 の 9903.01.30–.33 に規定される品目は対象外です。
  • 米国原産品: 米国原産部材の価値が全体の20%以上を占める場合、その米国原産価値分は非課税となります (コード 9903.01.34)。非米国価値分のみが課税対象となり、申告は2行に分割する必要があります。
  • Chapter 98 (特別分類): 原則として適用可能ですが、9802 (修理・加工後の再輸入) など一部の規定では、米国外での加工価額等に対して相互関税が課されます。
  • FTZ (保税地域): 2025年4月9日以降に対象貨物をFTZに入庫させる場合、Privileged Foreign Status (PFS)での申請が必須です。

HTSコードの記載順序 (ACE申告時)

CBPは以下の順序を指示しています。

  1. Chapter 98 (該当する場合)
  2. Chapter 99 (各種追加関税)
    • 301条関税 → IEEPA関連 (フェンタニル等) → IEEPA (相互関税) → 232条/201条関税…
  3. Chapter 1-97 (通常の関税分類)

3. コスト計算例

相互関税は、通常関税などと複利計算ではなく、それぞれ加算されます。

  • 申告価額: $10,000
  • 通常関税: 5% → $500
  • 相互関税 (スイス): 39% → $3,900
  • 合計関税額: $500 + $3,900 = $4,400 (その他、税・手数料・AD/CVD等は別途)

4. 企業が取るべきアクションリスト

48時間以内 (即時対応)

  • 対象品目の特定: スイス原産の全輸入品リストを作成し、9903.02.58 の適用要否を判定します。特に、経過措置 (+10%) の対象となる貨物がないか出荷日と到着予定日を確認します。
  • 価格・見積の緊急改定: +39% のコスト増を前提に、販売価格や利益率を再計算します。必要に応じて取引先への通知と、Incotermsの見直しを開始します。

2週間以内

  • 通関プロセスの更新: 通関業者と連携し、HTSコードの記載順序や、Chapter 98/9903.01.34 (米国原産分) の適用可否、TIB (一時輸入)、ドローバック等の運用を確定させます。
  • 契約の見直し: サプライヤーや顧客との契約に、関税サーチャージ条項など価格調整に関する条項の追加・修正を交渉します。

90日以内

  • サプライチェーンの監査: 迂回輸出と見なされるリスクを避けるため、輸送ルートや第三国での加工実態に関する証拠書類を整備します。迂回認定は+40%の重いペナルティとなるため、コンプライアンス監査が不可欠です。
  • 動向監視とシナリオプランニング: スイス政府の対米交渉の進捗を注視し、関税率が変動する可能性に備えます。社内の価格体系や供給網計画を、情勢に応じて更新できる体制を構築します。

5. よくある質問 (FAQ)

  • Q1. 「39%」は、今までの関税が39%に変わるのですか?
    • A. いいえ、「置き換え」ではなく**「上乗せ」**です。通常関税が5%の場合、支払う関税は「5% + 39%」となります。
  • Q2. どのHTSコードで申告すれば良いですか?
    • A. 原則として 9903.02.58 (+39%) です。経過措置の対象となる貨物のみ 9903.01.25 (+10%) を使用します。
  • Q3. 米国製の部品を20%以上使っていれば、関税はかかりませんか?
    • A. 全額免除にはなりません。米国原産価値に相当する部分のみが非課税となり、残りの非米国価値部分には39%が課税されます。申告も2行に分ける必要があります。
  • Q4. EU向けの「合計15%ルール」はスイスにも適用されますか?
    • A. されません。スイスには国別に設定された 39% の税率が直接適用されます。

主な根拠資料

  • White House (2025/7/31): 大統領令。Annex Iでスイスの税率を39%と規定し、Annex IIで 9903.02.58 等を新設。
  • CBP CSMS #65829726 (2025/8/4): 経過措置 (+10%)、EU特則、中国の扱いに関する運用通達。
  • CBP CSMS #64649265 (2025/4/4): Chapter 98の扱い、20%米国原産価値の例外、ACE申告順序に関する通達。
  • Reuters (2025/8/25): スイス政府による関税緩和交渉に関する報道。

免責事項: この文書は一般的な情報提供を目的としており、法務または通関に関する専門的な助言ではありません。実際の申告にあたっては、必ず最新の連邦官報、CBPからの通達、および貴社指定の通関業者の指示に従ってください。

インドへの「相互関税」:現段階でのまとめ

要約

  • インド原産品への米国の追加関税は合計50%。内訳は①相互関税25%(2025年8月7日発効)+②追加25%(対ロシア原油調達を理由とする措置、2025年8月27日 0:01 a.m. EDT発効)。いずれも**通常関税(Column 1)に“上乗せ”**されます。The White HouseReutersGovInfo
  • ②の25%はHTSUS 9903.01.84で申告。在来の25%(相互関税)と併科されます。GovDelivery
  • 一部例外・猶予あり(船積み済みの経過措置、人道物資・情報資料、特定の232対象品、適切なChap.98適用など)。FTZは特恵外国(PFS)での入庫要件ドローバック可GovDeliveryGovInfo

1) 何が起きたのか

  • 2025年4月2日:大統領令EO 14257で「相互関税」枠組みを創設。The White House
  • 2025年7月31日EO 14326(Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates)で各国率を最終化。インド=25%8月7日発効The White House
  • 2025年8月6日:大統領令EO 14329(対ロシア関連の国家緊急権に基づく)で**インド原産品に追加25%**を指示。The White House
  • 2025年8月25日CBP CSMS #66027027で運用通達(9903.01.84、適用開始8月27日、相互関税25%に追加で賦課)。GovDelivery
  • 2025年8月27日:**連邦官報告示(FR 2025-16419)**で実装。0:01 a.m. EDT以降の輸入に適用。GovInfo

2) 計算と申告

  • 関税計算イメージ:通常関税(例:5%)+相互関税25%追加25%合計50%が“上乗せ”。追加分は**“価額に対する”ad valoremで、他の賦課(AD/CVD, 税・手数料)と併存。
    例)申告価額$10,000、通常5%の場合 → $500(通常)+$2,500(相互)+$2,500(追加)=
    $5,500**(他費用別)。GovDeliveryGovInfo
  • 申告コード9903.01.84(追加25%)を相互関税の国別コード等と併記HTS記載順序の指示あり:Chap.98→各種99章(301→IEEPA→232→201…)→本表1–97)。GovDelivery

3) 例外・猶予

  • 経過措置8/27前に最終輸送に載荷9/17 0:01 a.m. EDT前に輸入申告した貨物は、追加25%の対象外(9903.01.85)。GovDelivery
  • 人道物資・情報資料9903.01.88/89)は除外。GovDeliveryGovInfo
  • 特定の232対象等(鉄鋼・アルミ・自動車等)は9903.01.87追加25%の適用外となる区分あり(相互関税や232自体の賦課は別途)。GovDelivery
  • Chap.98の扱い:適切なChap.98で追加25%非課税となる場合あり。ただし9802は**加工・組立価額部分に追加25%**が課税。GovDelivery
  • FTZ8/27以降に入庫する対象品は**Privileged Foreign Status(PFS)**での入庫が必要。消費仕向け時に課税GovDelivery
  • ドローバック:追加25%に適用可GovDelivery

4) 影響領域

  • **影響対象はインドの対米輸出の約55%(約870億ドル)**に及ぶとの推計。繊維・衣料、履物、宝飾、化学品などが特にリスク。Reuters
  • マクロでは米印関係の緊張が指摘され、関税50%の適用で短期的に受注・雇用・価格転嫁の圧力。ポリティコ

5) いますぐの対応

48時間以内

  • HTSライン洗い出し:対米輸出入のHS/HTS9903.01.84・相互関税コードの付番要否を紐付け。**例外該当(9903.01.85–89、232対象、Chap.98)**の棚卸。GovDelivery
  • 受発注・見積の即時改定:**着地コスト+50%**シナリオで粗利・価格を再試算。FOB/CIF条件・INCOTERMSの再設定。GovInfo

2週間以内

  • 通関手順の改修:ブローカーとHTS記載順序CSMS #66027027の運用確認、ACE申告テスト。FTZ利用企業はPFS運用へ切替。GovDelivery
  • Chap.98/9802の適用可能性評価(再加工・修理・組立スキーム)。ドローバックの回収設計。GovDelivery

90日以内

  • 供給網の見直し:第三国加工の原産地規則経由地リスクを監査。トランスシップ回避(違反認定時は**+40%の追加率**など厳罰化)。The White House
  • 価格・契約条項(関税サーチャージ、関税変動条項、フォースマジュール)を更新。為替・在庫・与信の同時管理。

6) よくある質問(FAQ)

Q1. “50%”は複利計算ですか?
A. いいえ。**いずれも価額(dutiable value)に対するad valoremの“上乗せ”**です(通常関税+25%+25%)。GovInfoGovDelivery

Q2. いつから課税?“船積み済み”は?
A. 2025年8月27日 0:01 a.m. EDT(日本時間8/27午後)以降の輸入(消費仕向け)8/27前に最終輸送へ載荷9/17前に輸入した貨物は追加25%の対象外GovInfoGovDelivery

Q3. すべての品目が対象ですか?
A. 原則対象ですが、人道物資・情報資料の除外特定の232対象など例外があります。詳細は該当9903番号・注記で確認してください。GovDeliveryGovInfo

Q4. 交渉で下がる可能性は?
A. 報道ベースでは対話継続の見通しもある一方、現時点(8/28 JST)では50%が有効。最新動向のモニタリングを推奨。ウォール・ストリート・ジャーナルポリティコ


7) 参考(制度の趣旨と定義)

  • 相互関税(Reciprocal Tariffs)とは、相手国の対米関税や障壁に対応して米国が同程度の追加関税を課す考え方。実務上は通常税率に上乗せされます。C.H. Robinson

主要ソース(抜粋)

  • White House:EO 14326(7/31)付属書でインド25%8/7発効The White House
  • White House:EO 14329(8/6)(対ロシア原油関連)で**インド追加25%**を指示。The White House
  • CBP CSMS #66027027(8/25)9903.01.84例外(9903.01.85–89)Chap.98/9802FTZ PFSドローバックHTS記載順序GovDelivery
  • Federal Register / govinfo(8/27)実装告示(FR 2025-16419)適用開始時刻232との関係GovInfo
  • 影響評価(報道)対象は輸出の約55%主要セクターReuters