実務で最も警戒すべきポイントは2つあります。
1つ目は、通関時の分類(HS)に対する追加資料要求が増え、通関の初速が落ちること。
2つ目は、通関後の事後調査で分類差を指摘され、追徴や手続き負担が増えることです。
タイでは以前から、関税分類の解釈相違がFTA適用可否や追徴に直結しやすいという指摘があります。JETROは、タイ税関の関税分類解釈を起点に、輸入時または事後調査でHS相違を指摘され、過去に遡及して負担が生じる事例に言及しています。(JETRO)
さらに近年は、当局側がデジタル化と監査高度化を進め、HSコードを含む申告の正確性をより厳密に検証する方向性が明確です。タイの税関・税務環境が厳格化し、税関当局が事後調査やAI活用を強化している旨が、PwC Thailandの発信でも説明されています。(PwC)
以下、電子機器パーツに焦点を当てて、何が起きやすいのか、企業はどう備えるべきかを、HSコード実務の観点で整理します。
1. 「厳格化」が意味するもの:現場では何が変わるか
ニュースの見出しが「HSコード解釈の厳格化」である場合、現場で起きやすい変化は概ね次の3類型です。
- 申告時のエビデンス要求が増える
インボイス品名が抽象的、部品用途が曖昧、仕様が不足している場合に、カタログ、仕様書、写真、構成部材、機能説明の追加提出を求められやすくなります。郵便・小口領域でも、タイ向けは2026年1月1日以降、通関電子データの要求が強化され、不十分・不正確だと遅延や返送リスクが高まると日本郵便が注意喚起しています(6桁HS推奨、詳細な品名等)。(郵便局 | 日本郵便株式会社) - 部品か完成品か、複合品かの線引きが厳しくなる
電子部品はモジュール化が進み、「単なる部品」ではなく、特定機能を完結するユニットとして評価されやすい領域です。ここを税関側が厳密に見始めると、分類が変わるだけでなく、必要許認可や税率、FTA適用実務まで連鎖します。 - 事後調査での再判定が増える
タイ当局は事後調査の仕組みを整備し、輸入時は迅速化しつつ、後段で精緻に確認する運用を強めています。(PwC)
この局面では、同一品目を継続輸入している企業ほど、過去分まで一括で影響が出ます。
2. なぜ「電子機器パーツ」が狙われやすいのか
電子機器パーツは、税関分類の観点で「揉めやすい条件」が揃っています。
- 製品の多様化が速く、機能と構造が短期間で変わる
- 部品と完成品の境界が曖昧になりやすい(モジュール、組立品、キット)
- 章またぎ(第84類・第85類・第90類など)が起きやすい
- HSの違いが、関税だけでなく規制(許認可、標準、禁制)やFTA実務に波及しやすい
加えて、タイでは従来から「担当官によりHSコードの解釈が異なる」「判断基準の透明性が課題」といった指摘が、日本側の対外要望の中で繰り返し表面化しています。(jmcti.org)
3. 電子機器パーツで頻出する分類論点(実務での地雷)
ここからは、企業側が社内チェックリストに落とし込みやすい形で、論点を整理します。個別のHS番号断定が目的ではなく、税関から質問される論点を先回りして潰すことが目的です。
論点A 部品(parts)として認められるか
チェック観点
- 当該パーツは、特定の機器に専ら又は主として使用されるか
- 単体で独立した機能を発揮するか(測定、変換、通信、制御など)
- ソフトウェアを搭載し、単体で特定機能を完結するか
- 外観上、完成品の性格が強いか(筐体、表示、入出力、電源等)
用意する証跡
- 用途を特定できる資料(組込先の型式、図面、取付位置、BOM上の位置付け)
- 単体機能の範囲が分かる資料(仕様書、ブロック図、入出力仕様)
- 市販汎用品か専用品かの説明
論点B 複合機能品の「本質」判定
チェック観点
- 複数機能がある場合、主要機能は何か
- 主要機能を支える部材構成は何か(価値、体積、役割)
- 測定機能があるのか、制御機能があるのか、単なる信号変換か
用意する証跡
- 機能説明(何を入力し、何を出力し、何を達成する製品か)
- 構成部材表(主要IC、センサー素子、電源、通信部等)
- 動作モードと使用シーン
論点C 通関・FTAでの「HS不一致」リスク
タイでは、原産地証明書に記載されたHSと、輸入通関で税関が判断するHSが不一致とされ、FTA税率が認められない相談が多いとJETROが指摘しています。(JETRO)
分類厳格化局面では、この不一致が起きる頻度が上がります。
用意する証跡
- FTAで使うHS(協定上の基準年・桁数)と、通関で使うHS(現行税番)の対応関係
- 相手国輸入者と合意したHS見解メモ
- 分類根拠(後述の分類ドシエ)
4. 会社が今日から整備すべき「分類ドシエ」最低限セット
電子機器パーツで通関が止まりやすい会社ほど、HSを「番号」ではなく「判断記録」として持っていません。厳格化局面で効くのは、次のような最低限のドシエです。
- 製品概要:用途、組込先、製品写真
- 機能説明:入力、処理、出力、主要機能
- 仕様書:電気仕様、通信仕様、測定範囲等
- 構成部材:主要部品表、基板実装の有無、ソフトウェア搭載の有無
- 分類ロジック:どの論点で分岐し、なぜその結論か(社内判定メモで可)
- 取引実態:インボイス品名、型番体系、梱包形態、セット有無
- 運用履歴:過去の申告実績、指摘履歴、差戻し履歴
タイでは、事前教示制度の活用が推奨される一方、回答まで時間を要することもある、という現場声もJETROが報告しています。(JETRO)
だからこそ、事前教示を待つ間も「自社の説明責任」を果たせる形に整えることが先決です。
5. タイで揉めたときの実務手順:止めない、燃やさない
1) まずは「分類の争点」を言語化する
税関とのやり取りが長期化する企業は、争点が整理できていないことが多いです。
部品か完成品か、主要機能は何か、どこが章またぎか。争点を1枚にまとめて提出できるようにします。
2) 早期に「事前教示」または「分類判断の相談ルート」に載せる
タイでは、輸入時に関税分類解釈の確認を税関側に依頼する運用も紹介されています。(JETRO)
社内で抱え込まず、輸入者・通関業者と一体で、当局照会の段取りを作るのが現実的です。
3) 係争中でも貨物を止めない選択肢を準備する
分類が確定しない場合でも、保証金を積んで通関を進め、後で結論を受ける運用があります。タイの電子輸入手続きマニュアルでも、HS分類を争う場合の保証金・異議の扱いが説明されています。(ccc.customs.go.th)
6. まとめ:厳格化局面で勝つ会社は「番号」より「根拠」を持つ
電子機器パーツのHS分類は、技術進化で曖昧さが増える一方、税関側はデジタル化と監査高度化で、説明責任の水準を引き上げています。(PwC)
このギャップを埋める最短ルートは、分類ドシエを整備し、部品・複合機能・章またぎの論点を先回りして潰すことです。
厳格化は、正しく準備した企業にとっては「予見可能性を上げるチャンス」にもなります。通関を止めず、追徴を防ぎ、FTAも取りこぼさないために、まずは自社の電子部品トップ品目から、分類根拠の棚卸しを始めてください。
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック