EUが原産地証明の「真偽確認」を明文化:2025年3月3日改訂ガイダンスが示す実務の勘所


欧州委員会の税関・間接税総局(DG TAXUD)は、2025年3月3日付で「優遇原産地ルール(Preferential Rules of Origin)に関するガイダンス」を更新しました。今回の改訂では、原産地証明の真偽確認(verification of proofs of origin)を専門に扱う新しい章「Section C」が追加されたことが大きな特徴です。

一見すると制度の説明書が増えただけに見えますが、企業実務にとっては、いつ、誰が、どんな手順で原産地証明を確認しに来るのかが具体的に言語化されたという意味で、非常に重要な内容となっています。

そもそも原産地証明の真偽確認とは何か

EUのFTAや特恵制度で関税優遇を受けるには、輸入申告時の特恵申請を原産地証明書類で裏づける必要があります。ガイダンスでは、特恵申請は「原産地に関する書類」または「輸入者の知識(importer’s knowledge)」によって支えられるべきものと整理されています。

この「真偽確認」とは、税関が事後的に次の点を確認するプロセスを指します。

  1. その貨物が本当に協定上の原産品としての条件を満たしているか
  2. 原産地証明書類が真正か(改ざんや不整合がないか)
  3. 直送条件など、協定で定められた他の要件も満たしているか

新章Cは、この確認プロセスをどのように運用するかを、手続きとして明確にまとめた章です。

今回の更新で追加されたハイライト

DG TAXUDの発表によれば、今回の改訂ではEU加盟国と第三国の間でやり取りされる照会プロセスの詳細や、輸入者の知識に関する実務的な整理が扱われています。

加えて、改訂PEM(汎欧地中海)原産地規則や、最近発効したEU・チリ暫定貿易協定など、最新のルール変更を反映した点も強調されています。

真偽確認のタイミング:輸入時と輸入後の二段構え

ガイダンスでは、真偽確認の入口を「輸入申告時」と「輸入後」に分けて説明しています。輸入申告の受理段階でチェックが始まることもあれば、輸入許可のあとに税関が検証に入ることもあります。

また、検証対象の選び方は、疑わしい点がある場合の「合理的疑義」に基づくものだけでなく、定期的な「無作為抽出」もあり得ると整理されています。

企業側の視点では、原産地証明は提出して終わりではなく、後日の監査に耐えうる根拠資料を常に整備しておく必要があるということです。

新章Cの構造:照会の方向性は2つ

新章Cでは、照会がどの方向に流れるかによって手続きを区分しています。

区分照会の方向想定されるシーンの例
C.2第三国からEU加盟国へ日本などの輸出先国が、EU側が発行したEUR.1やREX登録番号の真偽をEU当局に確認する
C.3EU加盟国から第三国へEU税関が輸入された商品の原産性に疑義を持ち、日本の税関など輸出国の当局に確認を求める

どちらのケースでも、企業実務においては期限付きの照会対応が発生する可能性がある点が共通しています。

C.3 EU加盟国が第三国へ照会する際の実務上の注意

EU側が輸入申請を検証対象に選ぶ場合、EU税関はまず原産地証明を精査します。協定によっては、輸出国当局へ照会する前に、輸入者に対して追加情報の提出を求める場合があります。

特にEU・日本EPAなどを含む一部の類型では、輸出国当局への照会に進む前に、輸入者からの回答のみで検証を完了できる可能性がある点が重要です。

合理的疑義の例としては、証明書上のスタンプの相違、破損、判読困難といった「書類の外観品質」に関する論点も挙げられています。

輸入者の知識(importer’s knowledge)による検証ルート

輸入者の知識に基づいて特恵申請を行う場合、輸入国側の当局が輸入者に対して直接検証を行うと明示されています。つまり、輸出国の税関を通さず、輸入者が直接すべての責任を負うことになります。

この制度を利用するには、輸入者自身が原産性を立証できる証憑を保持し、一定期間保存しなければなりません。輸出者が作成したステートメントを単に流用するだけでは不十分であり、情報提供のあり方を事前に契約などで取り決めておくことが推奨されています。

明日からの実務で活用すべき対応チェックリスト

  • 根拠資料のファイル化製造工程、BOM(部品表)、原価計算書など、結論に至る根拠一式を後日の書類審査を前提に整備してください。
  • 証明書類の外観チェック判読性、記載漏れ、スタンプの鮮明さなど、形式的な不備が合理的疑義の入口にならないよう出荷前に点検します。
  • 直送条件の証憑管理経由地がある場合、非改変要件を満たすための証憑も原産地資料と一緒に保管しておきましょう。
  • 保存期間の徹底少なくとも3年以上の保存を基本とし、協定ごとの保存義務期間を再確認してください。
  • 社内導線の整備税関からの照会は回答期限が厳格です。担当窓口や、英語での説明資料の準備、承認ルートをあらかじめ決めておきます。

まとめ

今回のDG TAXUDガイダンス更新は、原産地証明の真偽確認プロセスを可視化し、企業が直面する否認リスクを具体的に示しました。

EUとの取引で関税優遇を活用するなら、証明書を発行して完結とするのではなく、後日の検証に耐えうる根拠と体制をセットで構築することが、実務上の最短ルートとなります。


 

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