A. 検認とは何か
定義:特恵税率で輸入済みの貨物について、原産性・記載の正確性・積送要件などを輸入国税関が確認する事後確認(Verification)。各EPAの規定と国内法に基づいて実施され、書面照会や(協定により)訪問審査が行われる場合がある。
第三者証明(日本発・CO方式)の連絡経路:
相手国税関 →(外交ルート等)→ 経済産業省 → 日本商工会議所(JCCI)→ 企業
提出資料:対比表・計算ワークシート・工程フロー・商流書類等
自己申告制度(例:日EU・EPA):
輸入者主体の責任で申告し、輸入国税関はまず輸入者から情報を求め、追加が必要な場合に輸出国税関へ行政協力を要請(間接検認)。輸入国税関による輸出者への直接訪問規定はない。
B. 検認で原産性が否認された場合の影響
- 特恵の否認:関税差額の追徴、必要に応じて保証金・担保や行政措置・制裁(各国法令に従う)
- 日EU・EPA:検認中に特恵適用を一時停止し、担保提供等を条件に貨物の引取りを認める規定あり(第3.21条6項)
- 回答なし・不十分な場合:否認決定が可能(第3.24条)
- 国内法上のリスク:輸入者側で追加納付・延滞相当の負担が生じる可能性
C. 協定ごとの検認プロセスの違い(代表例)
日タイEPA(第三者証明)
- 流れ:タイ税関 →(外交ルート)→ 経済産業省 → JCCI → 企業
- 期限:最初の確認3か月以内、追加2か月以内
日メキシコEPA
- 特色:相手国税関が輸出者・生産者へ直接確認可能な規定がある
- 認定輸出者による自己証明も採用
日EU・EPA(自己申告)
- 検認:輸入国税関→輸入者、必要に応じ輸出国税関へ間接検認
- 有効期間:原産地に関する申告は作成日から12か月有効
- 保存義務:輸入者3年、輸出者4年(第3.17条4項、第3.19条)
RCEP
- 証明方法が複線:CO(第三者証明)と輸出者・生産者による原産地申告(DO)
- 加盟国により採用可否が異なる
D. 検認が起こり得るタイミング(保存義務期間)
第三者証明のEPA:起算はCO発給日から。協定別に5年または3年。
- 5年保存:日メキシコ、日マレーシア、日チリ、日タイ、日インドネシア、日フィリピン、日インド、日ペルー、日オーストラリア
- 3年保存:日モンゴル、日ブルネイ、日ASEAN(AJCEP)、日スイス、日ベトナム、RCEP
参考:CO自体の有効期限は別概念。例えば日フィリピンEPAは6か月、その他多くは1年(輸入通関時の提出期限)。ただし、検認は通関後でも保存義務期間内に行われる可能性がある。
E. 原産性が否認された場合の実務インパクト
金額面:
- 特恵無効により通常税率との差額納税
- 延滞・加算相当の負担、行政罰の可能性(各国法令)
- EU・日本双方は、虚偽申告・保存義務違反等に行政措置・制裁を規定(日EU・EPA第3.26条)
通関・物流面:
- 検認中の特恵一時停止・保証要求
- 将来貨物のリスク選別強化
- 与信・納期への影響
社内影響:
- 価格前提の崩壊(逆ざや・返品・値引き交渉)
- 再発防止コスト(様式改修・教育)
F. 日本企業が実際に受ける検認の典型10事例
- 包括期間・複数COの横断検認:特定年の複数出荷を束ね、対比表・工程・商流書類の一括提示を要請
- 型番別単価差×COの品名集約:インボイスは型番別、COは1品名集約。適用基準(CTC/VA)と原産割合の根拠確認
- 第三国インボイス未記載:CO第8欄への記載漏れの有無確認・補足説明を要求
- 積送確認(第三国寄港・積替):非加工・非変更(Non-alteration)の説明としてB/L・通関書類等の提示
- HS誤り・未記載:HSコードの記載不備や齟齬に対する軽微性判断
- 累積の記載不足(AJCEP等):ASEAN第三国材の情報がCOに反映されず、累積根拠の再提示を要請
- 輸送欄の変更:運航変更で船卸港等がCO記載と相違。事情説明で有効扱いとなった実務例
- 住所表記差(輸出者・輸入者):私書箱/本社・工場住所差など、同一法人性の説明で有効扱い
- 日EU・EPAの間接検認:EU税関が輸入者→日本税関→輸出者の順に照会
- 期限徒過/資料不十分:期限内に十分な回答が出せず否認
G. 検認に備える重要ポイント
- 保存設計:協定別3年/5年をCO発給日起算で台帳管理
- 記載精度:COのHSコード・品名・数量・第三国インボイス・積送欄を二重チェック
- 累積・僅少の根拠:累積利用時は相手国原産の根拠書類、僅少規定の閾値と除外規定を協定別に把握
- 自己申告の基本(EU等):原産地に関する申告の12か月有効、輸入者3年・輸出者4年保存
- 期限管理:協定上の公式期限から逆算し、社内SLAを設定
- 事前教示の活用:HSコードや原産地取扱いに不安があれば税関の事前教示(3年間尊重)で安定運用
- 言語・機密:提出資料は必要箇所に英語を付記。機微情報は要同意・機密扱い
③ 実務用チェックリスト
□ 協定特定(第三者証明/自己申告/認定輸出者)
□ 保存年限(CO発給日起算で3年または5年/EU自己申告は輸入者3年・輸出者4年)
□ 資料収集(対比表・計算ワークシート・工程・投入・商流・積送)
□ CO記載(HSコード・品名・数量・第三国インボイス・積送の整合性)
□ 期限逆算(例:日タイ3か月/2か月)
□ 英語化(必要箇所のみ、機密管理)
□ 事前教示(不安点は照会=回答は3年間尊重)
注記:制度・運用は協定条文と相手国国内法により最終判断されます。自社案件では、該当協定条文と最新ガイダンスを都度確認してください。
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