注目

【解決】HSコード特定にまだ悩んでる?AIが即検索!「HS Code Finder」登場

「この商品のHSコードがわからない…」 「専門知識が必要で、特定に時間がかかりすぎる…」 「CTCでの原産地証明の準備が大変…」

そんな貿易実務の”悩み”を解決するため、株式会社ロジスティックはAIを活用したHSコード付番システム「HS Code Finder (HSCF)」を開発しました。

専門知識ゼロでも「AI」が解決

「HS Code Finder」は、これまでの複雑な検索作業を一切不要にします。

  • カンタン検索: 普段お使いの自然な言葉で検索できます。
  • 画像・ファイル対応: スマートフォンの写真や仕様書ファイルをアップロードするだけで、AIがHSコードを提案します。
  • 業務効率アップ: 複雑なCTC(関税分類変更基準)での原産地証明など、HSコード特定にかかる時間を大幅に短縮します。

ぜひ、この「速さ」と「簡単さ」を体験してください

「本当にAIで簡単になるの?」 「自社の商品でも正しく検索できる?」

その疑問に、無料のデモンストレーションでお答えします。 実際の画面をご覧いただきながら、HSCFの精度と利便性をぜひご体感ください。

【デモンストレーション形式】 (ご希望の方法をお選びいただけます)

  1. 御社へ訪問してのデモンストレーション
  2. Web会議でのデモンストレーション

無料デモのお申し込みはこちら(約1分で入力完了) 

▼「HS Code Finder」の機能詳細はこちら


HSCFのセミナービデオ:詳しくわかります

セミナー資料

ATIGA改訂:署名プロセス最終盤とe‑Form D完全電子化がビジネスにもたらす影響

ATIGA改訂とe‑Form D完全電子化が、ASEANビジネスをこの先10年レベルで変えていきます。


1. いま何が起きているのか(ごく簡単に)

  • 2025年10月26日
    クアラルンプールで開催された第47回ASEAN首脳会議の場で、ASEANは
    ASEAN物品貿易協定(ATIGA)」の**第2次改正議定書(Upgraded ATIGA/ATIGA 3.0)**に署名しました。(Vietnam National Trade Repository)
  • 同じ首脳会議で、ティモール=レステがASEANの11番目の加盟国として正式に加入し、ASEANは「11カ国体制」になりました。(ASEAN Main Portal)
  • 一方、2024年1月1日からは、ATIGAの原産地証明書であるForm Dの完全電子化(e‑Form D)が、従来の10加盟国すべてで本格運用開始。輸入側税関は紙のForm Dによる特恵関税申請を原則として拒否できるルールに移行しました。(ASEAN Main Portal)

つまり、

「協定そのもの(ATIGA)がアップグレードされ、
それを支えるインフラ(e‑Form D・ASW)が完全デジタルに切り替わった」

という、制度とシステムの両方が同時に更新されつつある局面にあります。

本記事では、ビジネスパーソン向けに

  1. ATIGA改訂(ATIGA 3.0)で何が変わるのか
  2. e‑Form D完全電子化の実務インパクト
  3. 日本企業・多国籍企業が「今やるべきこと」

を、できるだけ平易な言葉で整理します。
※2025年12月4日時点の公表情報に基づいています。実務適用時は必ず各国当局・専門家の最新情報をご確認ください。


2. ATIGAとは何か ― ASEAN域内貿易の「土台」

2-1. 基本情報

  • 正式名称:ASEAN Trade in Goods Agreement(ATIGA)
  • 署名:2009年2月26日、タイ・チャアム(ASEAN Main Portal)
  • 発効:2010年5月17日(WIPO)
  • 役割:ASEAN自由貿易地域(AFTA)の「物品貿易」を担う中核協定で、
    域内の関税撤廃・削減や通関手続のルールを一括して定める枠組みです。(RTAIS WTO)

ATIGAの結果、ASEAN域内貿易にかかる関税は

  • 2020年時点で約98.6%の品目で関税が完全撤廃され、(ASEAN Main Portal)
  • ASEAN6(ブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ)ではほぼ99%以上の品目がゼロ関税になっています。(Timor-Leste Customs Authority)

つまりATIGAは、「ASEAN域内は関税面ではほぼ単一市場」と言える状態をつくった協定です。
そのうえで、今後は関税以外の非関税障壁・手続コストの削減
が主戦場になっています。(ERIA)


3. 第1次改訂(2019年):自己証明スキーム(AWSC)の導入

3-1. First Protocolの中身

ATIGAはすでに一度改訂されています。

  • 名称:First Protocol to Amend the ASEAN Trade in Goods Agreement(第一次改正議定書)
  • 署名:2019年1月22日(ハノイ)(WTO Center)
  • 発効:2020年9月20日(10加盟国すべてが批准完了)(Ministry of Trade and Industry)

主な目的は、ASEAN-wide Self-Certification(AWSC)スキームの実装です。
これは、

条件を満たした輸出者(Certified Exporter)が、
自社で原産地を自己証明できるようにする仕組み

で、従来の「当局発給COのみ」を補完するものです。(Apolat Legal)

AWSCにより、理論上はFTA利用のスピードと柔軟性が上がるはずですが、
実務ではいまでも

  • 従来型のCO Form D
  • 自己証明(AWSC)
  • 将来を見据えたe‑Form D

が並行する過渡期の運用が続いていました。

そこに今回の「ATIGA 3.0(第2次改訂)+e‑Form D完全電子化」が重なり、
ようやく**「紙とハンコ前提」の世界から、本格的なデジタル貿易インフラへ移行するフェーズ**に入ってきた、という位置づけです。


4. 今回のATIGA改訂(ATIGA 3.0)のポイント

4-1. 第2次改正議定書(Second Protocol)の署名状況と発効タイミング

  • 名称:Second Protocol to Amend the ASEAN Trade in Goods Agreement
    (アップグレードATIGA/ATIGA 3.0と呼ばれることが多い)(ASEAN-BAC)
  • 2025年10月26日
    第47回ASEAN首脳会議(マレーシア・クアラルンプール)の場で
    ASEAN経済大臣が第2次改正議定書に署名し、ASEAN事務総長に引き渡しました。(Vietnam National Trade Repository)
  • ただし、11月時点の公表情報によれば
    10加盟国のうち8カ国が署名済みで、残る2カ国は2025年11月中の署名が見込まれる」とされています。(LinkedIn)
  • 議定書の規定では、
    **「全ASEAN加盟国の署名完了から18か月後に発効」**とされています。(Vietnam National Trade Repository)

👉 このため現時点(2025年12月4日)では、正式な発効日はまだ確定していない状態です。
ビジネスとしては「2027年前後から本格適用が始まる可能性が高い」と見て準備しておくのが現実的です(ただし最終的な日付はASEAN公式の告示を要確認)。

4-2. ATIGA 3.0の中身(公表情報ベースの整理)

ASEANや各国当局・関係機関が公表している説明を総合すると、
ATIGA 3.0 の柱は大きく次の4つです。(ASEAN-BAC)

  1. 貿易円滑化・通関の高度化
    • AEO(認定事業者)制度の相互承認による貨物の迅速通関
    • 電子的な原産地証明(e‑Form D)とデジタル文書の受入れ拡大
    • WTO TFA(貿易円滑化協定)を上回るレベルの「TFAプラス」措置
  2. ルールの近代化と新分野の取り込み
    • 循環型経済(circular economy)
    • 再生品・再製造品(remanufactured goods)
    • 貿易と環境
    • 食料安全保障
    • サプライチェーン・コネクティビティ
    • 人道危機時の貿易(trade in humanitarian crises) など
  3. 既存分野の強化
    • 内国民待遇・市場アクセス
    • 原産地規則(Rules of Origin)
    • 貿易救済(セーフガード・アンチダンピング等)
    • 中小企業(MSME)の支援
    • 経済・技術協力の枠組強化
  4. 紛争解決・透明性の向上
    • ATIGAに基づく紛争解決メカニズムの新設・迅速化
    • 通知義務・協議手続の明確化により、企業から見た予見可能性を高める狙い

特に、マレーシア政府やASEAN側のコメントでは、

  • 「貨物の通関を『より速く・より安く』する」
  • 「MSME(中小企業)のサプライチェーン参加機会を拡大する」

といった実務寄りのメリットが強調されています。(PortCalls Asia)


5. e‑Form D完全電子化の実態

5-1. e‑Form Dとは?

Form Dは、ATIGAに基づく特恵関税を享受するための原産地証明書です。
その電子版がe‑Form Dで、ASEAN Single Window(ASW)を介して各国税関間でやり取りされます。(Singapore Customs)

ASWは、

  • 各国のNational Single Window(NSW)をつなぐ域内共通の電子プラットフォームで、
  • 当初はe‑Form Dのみを対象に運用され、今後ACDD(ASEAN Customs Declaration Document)や検疫関連証明書などへ拡大していく構想です。(WTS Global)

5-2. 2024年1月1日から何が変わったのか

ASEANおよび各国税関の公表によると、

  • 2024年1月1日から
    **10加盟国すべてでe‑Form Dの発給・受入れが完全実施(full implementation)**されました。(ASEAN Main Portal)
  • これに伴い、
    • シンガポール関税庁は
      2024年1月1日以降、すべてのASEAN加盟国が電子Form Dの完全送受信を開始したため、輸入税関は紙のForm Dを優遇関税の申請に対して拒否し得る。」と明言しています。(Singapore Customs)
    • タイのe‑Form Dプロジェクト説明でも
      2024年1月1日時点で10加盟国すべてが電子Form Dの完全送信を実施しており、紙のForm Dは原則受け付けない」とされています。(Digitalize Trade)

実務的には、

「ATIGAを使ってASEAN域内に輸出する場合、原則として
e‑Form Dを発給し、ASW経由で相手国税関に送ることが必須」

という世界に切り替わった、と理解して差し支えありません。

なお、ASWは現時点ではATIGAのForm Dのみが対象で、
他のFTA(RCEP、ASEAN+1 FTAなど)の原産地証明は別ルートで処理されています。(WTS Global)


6. ATIGA改訂 × e‑Form D完全電子化で何が変わるか

ここからは、少し踏み込んでビジネス実務への影響を整理します。

6-1. 通関リードタイムとキャッシュフローが大きく変わる

ATIGA 3.0では、AEO制度の相互承認や電子証明書の活用によって、
貨物の事前審査とリスク評価を強化し、到着後の検査・照合を減らす方向が打ち出されています。(PortCalls Asia)

e‑Form Dは、

  • COの偽造・誤入力リスクを下げる
  • 事前に電子データとして税関に届くため、貨物到着前の審査がしやすい

という特性があり、ASW+AEOと組み合わさることで、

「船が着く頃には関税評価がほぼ終わっている」

という世界に近づきます。

これはそのまま

  • 在庫回転日数の短縮
  • 港湾・倉庫での滞留コスト削減
  • キャッシュフロー改善(関税・消費税の支払いタイミング前倒し抑制)

につながります。

6-2. コンプライアンスリスクの「見える化」が進む

電子化により、各国税関は

  • e‑Form Dに記載された内容
  • 輸入申告データ
  • 過去の輸出入実績

データベースで突合・分析しやすくなります。

その結果、

  • 原産地規則(RoO)の誤適用
  • 関連当事者取引の価格設定
  • 品目分類(HS)誤り

などが後日一括して検証されやすくなるため、

「とりあえずCOを取っておこう」的な運用は、徐々にリスクが高くなる

と考えるべきです。

逆に言えば、社内で

  • サプライチェーンごとのRoO判定ロジック
  • コスト構成のトレース
  • ERP/貿易管理システムと連動した記録管理

をきちんと整備しておけば、税関からの照会・監査にも対応しやすくなり、
「守りながら攻めるFTA活用」がしやすくなります。

6-3. MSME(中小企業)のチャンスが広がる

ATIGA 3.0では、条文上もMSME支援が明示的に位置づけられ、
サプライチェーンへの参入機会を拡大することが目的として挙げられています。(ASEAN-BAC)

e‑Form Dの完全電子化により、

  • 原産地証明の申請・管理コストが下がる
  • サプライヤーがオンラインで必要情報を共有しやすい

という効果が期待でき、**中小サプライヤーでも「ATIGAを前提とした価格提示」**がしやすくなります。


7. 日本企業・多国籍企業が「今」やるべき実務チェックリスト

7-1. FTA利用状況の棚卸し

  • 自社グループで
    • どの拠点から
    • どの国へ
    • どの協定(ATIGA/RCEP/ASEAN+1 FTAなど)
      を使って輸出しているかを一覧化。
  • ATIGAを使っている取引について、どこまでe‑Form D+ASWベースで運用しているかを確認。

7-2. 原産地管理プロセスの「電子化前提」への作り替え

  • 部材レベルの原産地情報を
    • サプライヤーポータル
    • ERP/PLM
      のどこで保持するのかを明確化。
  • RoO判定ロジック(RVC計算、CTH基準など)をシステム化し、
    Excelベースの属人運用を減らす。
  • AWSC(自己証明)を使っている・使う予定がある場合は、
    e‑Form D運用との役割分担(どの取引は自己証明/どの取引はe‑Form D)を整理。

7-3. 現地NSW・ASWへの接続体制の確認

  • 各ASEAN拠点が利用している
    • National Single Window(NSW)
    • e‑PCOシステム(マレーシアのePCOなど)(DagangNet)
      のアカウント・権限管理を棚卸し。
  • シンガポールやタイなど、完全電子化を厳格に運用している税関については、
    e‑Form Dの送信手順・再発行・取消手順まで実務として落とし込む。(Singapore Customs)

7-4. 社内教育・ベンダーとの役割分担

  • 営業・サプライチェーン・経理・法務を巻き込んで、
    • 「ATIGA 3.0で何が変わるか」
    • 「e‑Form D完全電子化で何ができるようになるか」
      社内共通言語にする。
  • フォワーダーや通関業者に丸投げしている部分について、
    • どこまでを外部に委託し
    • どこからを自社が責任を持つか
      を改めて線引きする。

8. まとめ:2〜3年で「ASEANでのものづくり・物流の前提」が変わる

  • ATIGAはすでにほぼ全品目の関税をゼロにしている協定であり、
    今回の改訂(ATIGA 3.0)は、
    **「関税以外のコストとリスクをどこまで下げられるか」**に焦点を当てたアップグレードです。(ASEAN-BAC)
  • e‑Form Dの完全電子化は、
    すでに2024年1月1日から10加盟国で現実に動いている仕組みであり、
    今後はATIGA 3.0の各種貿易円滑化措置と組み合わさることで
    通関・原産地管理の「デジタル前提」が一気に標準化していきます。(ASEAN Main Portal)
  • ティモール=レステの加盟によりASEANは11カ国体制となりましたが、
    ATIGAやe‑Form Dへの正式な参加は別途プロセスが必要になる見込みで、
    こちらも今後のフォローが必要です。(ASEAN Main Portal)

ビジネスとして重要なのは、「発効を待ってから動く」のではなく、
「発効する頃には社内のプロセス・システムが追いついている状態」にしておくことです。


EU鉄鋼セーフガードの兆しを読む――2026年以降を見据えたビジネスパーソンの視点

EU鉄鋼セーフガードの兆しを読む
――2026年以降を見据えたビジネスパーソンの視点


※本記事は、2025年12月時点で公開されているEU・業界団体等の資料に基づいています。


1. まず「EU鉄鋼セーフガード」を30秒でおさらい

EUの鉄鋼セーフガードは、「輸入が急増して域内産業に深刻な被害が出そうなとき、一時的に輸入を抑えるための非常ブレーキ」です。WTO協定に基づくセーフガード措置の一種で、EUでは主に次のような仕組みになっています。

  • 対象:26品目カテゴリーの鉄鋼製品
  • 形式:関税割当(TRQ)+超過分25%関税
  • 内容:2015〜2017年の平均輸入実績をベースに関税割当枠を設定し、その枠内は無税、枠を超えた輸入には25%の追加関税

この制度は、2018年の米国による鉄鋼セクション232関税(25%)をきっかけに、EU市場に鉄鋼がなだれ込む「迂回輸出」を防ぐ目的で導入されました。


2. いまEUセーフガードはどこまで来ているのか

2-1. 2026年6月までは現行セーフガードが継続

EUは2024年6月の調査を経て、鉄鋼セーフガードを2026年6月30日まで2年間延長することを決定しました。

  • 延長期間:2024年7月1日〜2026年6月30日
  • 形式:これまで同様、TRQ+超過分25%関税
  • 理由:
    • 世界的な鉄鋼過剰設備と中国等からの輸出増
    • 他地域の保護措置(米国など)によるEU市場への迂回輸出
    • EU内の需要減少と価格下落

EU自身、「この措置は2018年の最初の発動から数えて最長8年で終了する」と明言しており、現在のセーフガードは2026年6月で打ち切りが原則です。

2-2. 2025年から運用は一段とタイトに

「延長したからしばらく現状維持だろう」と見るのは危険です。
2024年末に開始された「機能見直し(functioning review)」を経て、2025年3月に公表された実施規則2025/612により、運用がタイト化しています。

さらに3月25日、欧州委員会は輸入制限強化を発表しました。

主なポイントは以下の通りです。

  • 関税割当(TRQ)の水準をおおむね15%程度削減
  • 国別枠の「余り」を他国に回すといったキャリーオーバー(持ち越し)を禁止
  • 輸入圧力が高く需要が低迷している品目では、より厳しい管理
  • 枠を超えた分には引き続き25%の追加関税

つまり、同じルールの名前でも、実質的な輸入の「門」はじわじわ狭まっている状況です。

2-3. 2026年以降は「新たな鉄鋼輸入政策」へ?

2026年6月で今のセーフガードは終わる――はずなのに、EUはすでに「その先」の構想を打ち出し始めています。

2025年7月、欧州委員会は今後の鉄鋼保護策に関するコンサルテーションを開始し、セーフガード終了後も何らかの保護メカニズムが必要だとの立場を示しました。

続いて2025年10月7日、現行セーフガードに代わる新たな鉄鋼輸入政策の提案を公表。法律事務所の分析によれば、その骨子は次の通りとされています。

  • 無税枠(TRQ)の大幅削減
    • 2024年比で約47%減(年間1,830万トン程度に上限)
  • 超過関税の引き上げ
    • 25% → **50%**へ引き上げ
  • 「melt and pour(溶解・鋳造地)」のトレーサビリティ義務
    • どの国で溶かされ、鋳造された鋼材かの証明を求め、迂回輸出を防止
  • 対象:現在セーフガードの対象となっている26品目カテゴリーにほぼそのまま適用
  • 発効予定:2026年7月以降(EU議会・理事会での審議・修正を経て最終決定)

重要なのは、これはまだ「提案」であり、確定ではないという点です。しかし、方向性としては、

「現行セーフガードより、さらに厳しい恒常的な輸入管理」

に向かっているシグナルとして読むことができます。


3. EUは何を恐れているのか:政策の「読み方」

3-1. 背景にあるのは「世界的な過剰設備」と中国

EUがセーフガード延長と新しい保護策に踏み切ろうとしている背景には、世界的な鉄鋼過剰設備があります。

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)のファクトシートによると:

  • 中国の鉄鋼輸出は2024年に1.3億トン規模
  • EU向け輸入のシェアは2024年に**27%**まで上昇
  • 2008年以降、EU鉄鋼産業では約9.5万人の雇用が失われた
  • 2024年だけで約1,800万人トン相当の能力が閉鎖

さらに、米国がEU産鉄鋼への関税(25%→50%)を再強化したことで、米国向けが閉ざされた分の鉄鋼がEU市場へ迂回するリスクも高まっています。

EUから見ると、
「このまま何もしなければ、輸入に市場を奪われ、脱炭素投資どころではなくなる」
という危機感が明確です。

3-2. グリーンスチールと産業政策

大手鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルも、**「グリーンスチール投資には、より強力な貿易防衛が必要だ」**と公然と主張しています。

  • エネルギーコストの高止まり
  • 中国などからの低価格輸入
  • 顧客がグリーンスチールに十分なプレミアムを払いたがらない

こうした事情から、EUは2025年に「Steel and Metals Action Plan」を打ち出し、グリーンディールとの整合を取りつつ、鉄鋼産業への支援と保護を強める方向に舵を切っています。

3-3. 「鋼材ユーザー」側からの強い反発

一方、機械・電機・自動車など鋼材を大量に使う下流産業は、新たなセーフガード案に強く反発しています。

欧州のテクノロジー産業団体Orgalimは、「新しいEU鉄鋼セーフガードは欧州の製造業競争力を損なう」として強く反対するポジションペーパーを公表しました。

  • 鋼材ユーザーのコスト増
  • 特殊鋼などEU内で十分作れない製品の供給不安
  • 四半期ごとの割当枠管理による頻繁な枯渇リスク
  • 「melt and pour」ルールによる事務負担の増加

などを理由に、提案の修正や撤回を求めています。

ポイントは、EU内部で「鉄鋼メーカー vs 鋼材ユーザー」の綱引きが激しくなっているということです。これは最終的な制度設計に大きく影響するため、日本企業としてもウォッチすべき重要な「兆し」です。


4. 日本企業にとっての「痛点」はどこか

4-1. 日本からEU向け鋼材輸出

Akin Gumpの分析では、2025年7〜9月期のデータで、冷延鋼板(CRC)や溶融亜鉛めっき鋼板(HDG)などの主要品目について、日本を含む複数国がTRQ枠を9割〜ほぼ100%使い切っていると指摘されています。

ここに、

  • 2025年のTRQ削減(約15%)
  • 2026年以降の47%削減・50%関税案

が重なると、次のようなリスクが現実味を帯びてきます。

  1. 枠の早期枯渇 → 期中に一気に50%関税ゾーンへ
  2. 「残余枠」を狙うグローバルな競合との争奪戦激化(キャリーオーバー禁止で余裕も減少)
  3. 価格転嫁が難しいFOB契約では、サプライヤー側のマージン圧迫

日本の高級鋼材・自動車向け鋼板などは「ニッチかつ高付加価値」であるがゆえに、EU市場へのアクセスが限定されると代替市場を探しにくいという構造的な弱点もあります。

4-2. EU域内で鋼材を調達する製造業

欧州に生産拠点を持つ日系の自動車メーカーや建機・産業機械メーカーは、域内調達価格の上振れリスクに向き合う必要があります。

  • EU内の鉄鋼価格が、アジアに比べて常に割高になりやすい
  • グリーンスチールへの転換コストも上乗せされる
  • サプライヤーがセーフガードを理由に価格交渉力を強める可能性

サプライチェーンとしては、

「どの工程でどの鋼材をEU由来にするのか」
「どこまでをアジアから輸入し、どこからをEU内生産・調達とするのか」

といった、生産・調達の線引きを再設計する必要が出てきます。

4-3. 商社・トレーディングビジネス

鉄鋼トレーダーや商社にとっては、

  • 第三国経由のスキームが「melt and pour」ルールで塞がれるリスク
  • TRQの国別・品目別配分の変化に応じたポートフォリオ組み替え
  • EU・英国・中東など複数市場を見ながらの物量の再配分

といった実務的な対応が必要になります。


5. 兆しをどう読むか:実務者向け「ウォッチポイント」

EU鉄鋼セーフガードの今後を読むうえで、ビジネスパーソンが押さえておきたい「チェックポイント」は次の5つです。

① EU官報・欧州委員会(DG TRADE)の動き

  • 実施規則(Implementing Regulation)の改正
  • DG TRADEのニュースリリースやコンサルテーション告知

→ 法令ベースでルールが動きそうな「前触れ」を早期に把握。

② 業界団体のポジションペーパー

  • EUROFER(鉄鋼メーカー)
  • Orgalimなど鋼材ユーザー団体

→ どの程度「強い措置」が政治的に許容されるかを読む材料。

③ TRQ消化率と輸入統計

  • HSコード別・原産国別の輸入量
  • 各カテゴリーのTRQ消化率(枠の埋まり方)

→ 自社が関わる品目の「枠の混み具合」を常時モニター。

④ 米国・中国を中心とした他国の貿易政策

  • 米国の鉄鋼関税(再導入・引き上げなど)
  • 中国・東南アジアの輸出動向、設備増設計画

→ 他地域の一手が、EUへの迂回輸入圧力として跳ね返る。

⑤ EU域内の政治・雇用情勢

  • 大手製鉄所の閉鎖・リストラ報道
  • 各国政府・地方政府の支援・救済策

こうしたニュースが増えるほど、「より強い保護措置を求める声」が政治的に力を持ちやすくなります。


6. 2026年までに日本企業がやっておきたい5つのアクション

最後に、ビジネスパーソンの立場から見た「実務的な打ち手」を5つに整理します。

1. 自社製品を「HSコード×セーフガードカテゴリー」で棚卸し

  • 自社が扱う鋼材・鋼材を含む製品を、
    • HSコード
    • EUセーフガードのカテゴリー
      にマッピングし、「どの枠に乗っているのか」を可視化する。

2. 主要サプライヤー別のコストシミュレーション

  • 日本・韓国・EU内・第三国など、サプライヤー別に
    • TRQ枠内/枠外
    • 25%(現行)/50%(提案段階)の関税
      を前提とした原価シミュレーションを作成しておく。

3. 長期契約の価格条項(price adjustment clause)の見直し

  • セーフガードや新規輸入規制を「価格調整事由」として明示
  • 枠の急激な枯渇で関税が跳ね上がった場合のコスト分担ルールを合意しておく

4. 調達・生産の地理的分散

  • EU向け需要のうち、
    • どこまでを**EU域内生産(ローカル・フォー・ローカル)**で賄うか
    • どこまでを輸入でカバーするか
  • 中東・ASEANなど他地域への販売先転換シナリオも含め、複数パターンを事前に検討しておく。

5. 社内の「通商アラート」仕組みづくり

  • 法務・経営企画・サプライチェーン・営業を横串でつないだ小さなタスクフォースを設ける
    • EU官報・DG TRADEの更新
    • 業界団体の声明
    • TRQ消化率
      を月次〜四半期でレビューし、経営陣への簡易レポートを定例化する。

7. おわりに:セーフガードを「守り」で終わらせない

EU鉄鋼セーフガードは、単なる貿易規制ではなく、

  • グローバルな過剰設備
  • 米中・米EUの通商摩擦
  • グリーンスチールへの投資負担
  • EUの産業政策と政治・雇用

といった大きな潮流が交差する「縮図」です。

**2026年までの2年弱は、「現行セーフガードの最終章」であると同時に、「その先の新ルールへの助走期間」**でもあります。

  • ルールが決まってから慌てて対応するか
  • 兆しの段階から構造を読み、打ち手を仕込んでおくか

この差が、数年後の利益水準や市場シェアに大きく響いてきます。

この記事が、EU鉄鋼セーフガードの「兆し」を読み解き、
守りと攻めを両立させる通商戦略を考える一助になれば幸いです。


EU、米国との15%関税合意に「安全弁」を要求──ビジネスへの実務的インパクト

2025年7月末にまとまった米欧の関税合意をめぐり、EU加盟国が「安全弁(セーフガード)」の導入を求めています。ポイントは、米国に対する関税引き下げ・撤廃を一気に進める一方で、将来もし米国からの輸入が急増し、自国産業に打撃を与えそうになった場合には、EU側が関税を元に戻せる仕組みを法律の中に埋め込もうとしている点です。Reuters+1

本稿では、この15%関税合意の中身と、EUが求める「安全弁」の実像、日本のビジネスパーソンが押さえておくべきポイントを整理します。


1. そもそも「米EU15%関税合意」とは何か

まず合意の骨格を簡単に整理します。

  • 合意時期
    • 2025年7月27日、米国とEUが関税交渉で枠組み合意に到達。Reuters Japan

米国側(対EU)

  • EUから米国に輸入される**ほぼ全てのEU製品に最大15%の「基本関税」**を適用。
  • これには、従来27.5%の高関税がかかっていた自動車や自動車部品、半導体、医薬品なども含まれます。15%は上限であり、既存の関税率に上乗せされる形ではありません。Reuters Japan+2Reuters+2
  • 一方で、航空機・同部品、特定の化学品、特定のジェネリック医薬品、半導体製造装置、一部の農産物、天然資源・重要素材などについては、米欧双方が関税ゼロとする枠組みも導入されました。Reuters Japan
  • EU製の鉄鋼とアルミニウム(および銅)には50%関税が維持され、これらについては今後も協議が続く形です。Reuters Japan+1

EU側(対米国)

  • 米国からの工業製品に対する関税を原則ゼロにし、さらに一部の水産物・農産品には、一定数量まで無税とする関税割当が設けられます。Reuters+1
  • 併せて、米国産LNG(液化天然ガス)などのエネルギー製品を今後数年間で大規模に購入することも合意に含まれています。Reuters Japan+1

結果として、**「米国はEU製品に一律15%、EUは米国製工業品の関税をほぼゼロ」**という、やや非対称な構図になっています。日本のシンクタンクからも、EU側に厳しい条件だとの指摘が出ています。nli-research.co.jp


2. EUが求める「安全弁」とは何か

今回ニュースになっているのは、この合意をEU法制として実装するにあたり、加盟国が追加条件として「安全弁」を要求している点です。

EU加盟国がまとめた共通方針の主なポイントは以下の通りです。Reuters+2ГМК+2

(1) 輸入急増時のセーフガード(安全弁)

  • 米国からの輸入が急増し、EU産業に「重大な損害、またはそのおそれ」が生じた場合、
    • EUは、米国に対する関税引き下げ・撤廃を一部または全面的に停止できる。
    • どこまで戻すか(関税率、対象品目)は、ケースごとに調整。

欧州委員会(European Commission)は、加盟国から要請があった場合に調査を行い、必要なセーフガード措置を提案します。

(2) 欧州委員会によるモニタリングと報告義務

  • 欧州委員会は、関税変更がEU市場に与える影響を継続的にモニターし、
  • 遅くとも2028年末までに影響評価の報告書を取りまとめます。
    • これは、次の米大統領選直後にあたるタイミングで、政権交代リスクも意識したスケジュールとみられます。Reuters+1

(3) 欧州議会が検討する追加条件

欧州議会(European Parliament)は、以下のような追加措置を検討しています。Reuters+2ГМК+2

  • 18カ月のサンセット条項(自動失効条項)案
    • 合意後18カ月を経過した時点で自動的に見直し・再承認を求める仕組み。
  • 米国側の「約束違反」への対応メカニズム
    • 米国が一方的に追加関税を課すなど合意から逸脱した場合、EUが迅速に対抗措置を取れる制度を求めています。
  • 50%関税がかかる「派生品」への対処
    • 米国は、合意後に約400超の鋼鉄・アルミ関連製品(風力タービンやバイクなど)を50%関税の対象としました。
    • 欧州議会側は、米国がこれを撤回しない限り、EU側も同種の米国製品に対する関税を維持すべきだと主張しています。Reuters+1

要するに、EUは「関税は下げるが、いざというときは元に戻せる保険をしっかりかけておきたい」というのが今回の「安全弁」の本質です。


3. EUがここまで警戒する背景

EUが慎重姿勢を崩さない背景には、少なくとも三つの懸念があります。Reuters+2AP News+2

(1) 米国側の政策運営への不信感

  • トランプ政権は、合意後も追加関税をちらつかせるなど、対外関税政策を機動的かつ政治的に使ってきました。
  • 実際、合意から2週間後に、一部の鉄鋼・アルミ関連製品を15%ではなく50%関税の対象に切り替えた例もあります。AP News
  • 「合意しても、いつ上書きされるか分からない」という不信感が、セーフガードやサンセット条項を求める動きにつながっています。

(2) EU国内産業への影響懸念

  • EUは米国製工業品の関税をほぼゼロにするため、米国製品がEU市場に大量流入する可能性があります。Reuters+1
  • 特に、電機・機械、化学、農業・食品など、競争力が拮抗している分野では、EU企業の価格競争が一段と厳しくなりかねません。
  • 「安全弁」がなければ、政治的にもこの合意を国内に説明しづらいという事情があります。

(3) 合意の実効性・持続性への疑問

  • 日本の研究機関からは、「合意内容が曖昧で、米国が誠実に履行するか不透明」「トランプ大統領の恣意的な関税発動リスクが残る」といった指摘も出ています。nli-research.co.jp
  • EUとしては、長期的に見てこの合意が持続可能かどうか、大きな疑問符を付けざるを得ない状況です。

4. どのビジネスがどう影響を受けるのか

ここからは、ビジネスパーソン目線でのインパクトを整理します。

4-1. EU企業:自動車は一息つくが、全体では「重い15%」

  • 自動車・自動車部品
    • 米国向け関税が27.5%から15%に下がることで、欧州自動車メーカーは月あたり約5〜6億ユーロ規模の関税負担が軽くなるとされています。AP News
    • ただし、コストは依然として高く、合意前の「一桁台の関税水準」と比べると、価格競争力は大きく削がれたままです。AP News
  • 鉄鋼・アルミ・銅
    • これらは依然として50%関税が維持され、当面は「重課税+数量調整」が続く見通しです。Reuters Japan+1
  • その他の工業品
    • EUから米国への輸出は15%の固定関税負担が続く一方で、米国製品はEU市場で関税ゼロとなるため、価格面では米国企業が有利になりやすい構図です。Reuters+1

4-2. 米国企業:EU市場でのプレゼンス拡大チャンス

  • 工業製品全般でEU側関税が撤廃されるため、米国企業はEU市場へのアクセスコストが大きく低下します。Consilium+1
  • 特に、機械・エネルギー関連製品、IT機器などは、価格競争力をテコにシェア拡大を狙いやすい環境になります。

4-3. 日本企業・日本の投資家への示唆

日本は別途、米国と15%相互関税の枠組みで合意しているとされますが、今回の米欧合意は、**「米国の通商軸がEUへ大きく傾いている」**ことを改めて示すものです。nli-research.co.jp

日本企業・投資家にとってのポイントを挙げると:

  1. 「米国-EU」軸でのサプライチェーン再構築
    • 米欧間の関税がある程度固定化されたことで、米国・EUの二極をベースに生産・販売拠点を再配置する動きが強まる可能性があります。
    • 例えば、欧州に工場を持つ日本企業は、**「EU発→米国向けの輸出に15%関税がかかる前提で、どこまで採算が合うか」**を再計算する必要があります。
  2. 第三国としての「相対的な不利・有利」を再点検
    • 米欧の間で関税が一定の枠組みに固定されると、日本やアジア諸国から見たとき、製品・サービスごとに**「米国を経由した方が得か」「EUから出した方が得か」**といった比較が変わってきます。
    • 高付加価値品は関税よりも技術・ブランドが決定要因になりますが、価格敏感な分野ではサプライチェーンの設計が競争力に直結します。
  3. 為替・資本市場を通じた影響
    • 米欧関税問題が落ち着けば、一時的に市場ボラティリティが低下する可能性がある一方、合意の先行きが不透明なままなら、リスクオフ局面でドル高・ユーロ安といった動きが広がる局面もあり得ます。
    • グローバルに事業展開する日本企業は、為替シナリオを複数持っておくことが重要です。

5. 実務家として今チェックしておきたいこと

最後に、企業のビジネスパーソンが「明日から何を見ておくべきか」を、チェックリスト形式でまとめます。

  1. 自社・取引先の輸出入フローの棚卸し
    • 「EU→米国」「米国→EU」の取引がどの程度あるか、品目別・金額別に洗い出す。
    • 関連する欧州子会社・米国子会社の役割も合わせて整理。
  2. 価格・契約条件への反映方針
    • 15%関税を前提にした価格設定・契約条件の見直しが必要かを検討。
    • 関税負担を「どこまで価格転嫁できるか」「どこまで自社で吸収するか」の方針をあらかじめ決めておく。
  3. EUの「安全弁」の最終姿をフォローする
    • 欧州議会での審議は今後数カ月にわたり続く見込みです。サンセット条項や追加のセーフガードがどこまで盛り込まれるかで、合意の「寿命」と安定度が大きく変わります。Reuters+2ГМК+2
    • 特に、長期契約や大型投資を検討している企業は、最終法案の内容が確定するまで慎重な姿勢が望まれます。
  4. 「米国リスク」だけでなく「EUリスク」もセットで考える
    • これまでは「トランプ政権の関税リスク」に目が行きがちでしたが、今後はEU側が安全弁を引き金に関税を戻すリスクも織り込む必要があります。
    • 米欧関係を「一枚岩」と見るのではなく、「政治情勢次第でルールが再交渉される関係」として捉えることが現実的です。

6. まとめ

  • 米EU15%関税合意は、米国がEU製品に最大15%の関税を課す一方で、EUが米国製工業品の関税をほぼゼロにするという、やや非対称なディールです。Reuters Japan+2Consilium+2
  • EUは、この合意を受け入れる代わりに、「輸入急増時に関税を元に戻せるセーフガード」「2028年までの影響評価」「18カ月のサンセット条項案」など、安全弁を法制度上に組み込もうとしています。Reuters+2ГМК+2
  • 日本のビジネスパーソンにとって重要なのは、
    • 自社の米欧向けビジネスにどの程度影響が出るかを棚卸しし、
    • 関税変化を前提にした価格・サプライチェーンの設計を見直し、
    • 米欧の政治・通商関係の揺れを前提とした複数シナリオを用意しておくことです。

米欧の関税問題は、一見すると遠い話のようでいて、日本企業の現場にもじわじわ影響してきます。
ニュースの「見出し」で終わらせず、自社のビジネスにとっての意味合いを翻訳しておくことが、これからの国際ビジネスには欠かせません。

サプライヤ証明書への押印は「不要」

サプライヤ証明書への押印は「不要」であり、問題ありません。

1. 押印がないことの問題性について

問題ありません。 経済産業省および日本商工会議所(日商)は、貿易手続きの円滑化やテレワーク推進の観点から、サプライヤ証明書を含む多くの書類について押印を不要とする運用を一般化しています。 特に自動車業界の標準システム(JAFTAS)などでも「押印なし」で統一されており、メーカー各社もこれにならって独自の証明書フォーマットでも「押印不要」とするケースが増えています。

2. 真贋(本物であるか)を問われた場合の証明方法

押印がない文書の真贋をどのように証明するかについては、以下の点が根拠となります。

  • 入手経路の記録(メール等) 「誰から送られてきたか」が重要です。今回のようにメーカーの担当者からメールで直接送付されたという事実(メールの送受信履歴)が、その文書が真正な発行元から提供されたものであることの証拠となります。このメールは証明書とセットで大切に保管してください。
  • 事後確認(検認)への対応 税関等から真贋や内容の正当性を疑われた場合、最終的には書類上のハンコの有無ではなく、「発行元(サプライヤ)がその内容について責任を持てるか」が問われます。これを「検認」と呼びますが、メーカーは証明書を発行した以上、税関からの問い合わせに対応する義務を負います。 「押印がないから無効」と判断されることはなく、「内容に疑義がある場合は発行元に確認する」というプロセスで処理されます。

米国232関税50%へ:施行と例外の現実


1. 232条関税とは何か ― トランプ2.0でどう変わった?

1-1. 232条の基本

  • 根拠:1962年通商拡大法232条
  • 目的:国家安全保障を理由とした特定品目への関税・輸入規制
  • 特徴:
    • 関税率・期間に上限なし
    • 商務省(BIS)の調査で「安全保障を脅かす」と判断された場合にのみ発動(Bloomberg.com)

第1次トランプ政権(2018年)で、鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税が始まりましたが、当時は各国との交渉で適用除外やTRQ(無税枠)、製品除外制度が広く存在しました。(Reuters Japan)

第2次トランプ政権(2025年)はここを**「原則フル適用」へ振り切った**のが最大の違いです。


1-2. 2025年のざっくりタイムライン

主に鉄鋼・アルミに関する流れを整理すると:

  1. 2月10日:一律25%&例外の原則撤廃を宣言
    • 鉄鋼・アルミに対し、全世界一律25%
    • カナダ・メキシコ・ブラジルなどへの適用除外・無税枠・個別製品除外を原則撤回(Reuters Japan)
  2. 3月12日:25%体制が正式発効(Reuters Japan)
  3. 4月5日:全輸入に「相互関税(Reciprocal Tariff)」10%導入
    • 根拠法は1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)
    • 全輸入に一律10%のベースライン関税を課す枠組みがスタート(MIAC)
  4. 6月4日:鉄鋼・アルミ(+派生品)を原則50%へ引き上げ
    • 232鉄鋼・アルミの税率が**25% → 50%**へ倍増
    • 同時に、**派生品(機械・建機・家具など)**への適用ルールを整備
  5. 8月:派生品407品目を追加
    • 風力タービン、モバイルクレーン、ブルドーザー、鉄道車両、家具、ポンプなどが新たに対象化
  6. 11月:232条は4分野体制に
    JETROの整理では、2025年11月時点で232関税は以下の4分野:(JETRO)
    • 鉄鋼・アルミ・銅:50%
    • 乗用車・トラック・同部品:25%
    • 木材・木製品:10〜25%
    • 上記に、相互関税10%やフェンタニル関税などが“別レイヤー”で乗る構造

見出しの「50%」は、**鉄鋼・アルミ・銅(とその派生品の金属部分)**にかかる232条関税を指している、と理解すると整理しやすくなります。


2. 25%から50%へ:制度設計のポイント

2-1. 25%フェーズ:例外の「総ざらい」

3月12日に発効した25%フェーズでは、従来の232の“抜け道”が一気に塞がれました。

  • EU・日本・韓国・カナダ・メキシコ・英国などとの代替取決め/TRQ(無税枠)を一括終了
  • 製品除外プロセス(BISへの個別申請)、一般承認除外(GAE)も停止
  • 結果として、「鉄鋼・アルミは基本的に25%がフルにかかる」状態へ

ここでまず、「国別・製品別の柔らかい例外はほぼ消えた」という前提が固まりました。


2-2. 50%フェーズ:鉄鋼・アルミ・銅+派生品

6月4日の布告で、構図がさらに一段シフトします。

  1. 鉄鋼・アルミ本体:50%
    • 従来25%だった232関税を50%へ倍増
    • 232対象である限り、IEEPAの相互関税(10%)は同じ価額部分には重ねがけされない(優先順位上、232が優先)(JETRO)
  2. 銅:新たに50%
    • 232の対象分野として銅も追加(50%)(JETRO)
  3. 派生品(完成品・部材):“金属部分だけ50%”方式
    • BISの8月通知で、407のHTS品目が新たに対象に追加
    • 例えば、「鉄を含む建設機械」「アルミを含む家具」「ポンプ・コンプレッサー」などが該当
    • 課税ルールがポイントで、
      • 鉄鋼・アルミ・銅を含む部分の価額 × 50%(232)
      • 残りの非金属部分には相互関税10%など通常の関税
        → 232と相互関税を同じ価額に二重にかけない代わりに、価額を切り分けて別々に課税する設計です。

3. 「例外」はどこに残っているのか

見出しでは「例外」と書かれていますが、2025年の再設計を踏まえると、

「ザル抜けの特例」ではなく、「かなり条件の厳しい制度的例外」

に姿を変えた、と理解した方が現実に近いです。

3-1. 国別例外:ほぼ英国のみ

現時点で目立つ国別例外は**英国とのEPD(経済繁栄取引)**です。

  • 鉄鋼・アルミについて、英国は25%に据え置き
  • ただし、
    • 7月9日以降、商務長官がTRQ設定または50%への引き上げを決定できる条項つき
    • 定期的な見直しが明記されており、「恒久免除」ではない

一方、日本・EU・韓国・カナダ・メキシコ向けの従来TRQや代替取決めは停止済みで、国別に“きれいに免除される”ケースは極めて限定的です。


3-2. 品目別・制度別の例外

(1) 乗用車・同部品の「15%キャップ」

自動車分野の232関税(25%)は、一般税率との合計が15%を超えないように調整されるという特殊ルールがあります。(JETRO)

  • 一般税率が15%未満:
    一般税率+232自動車関税 = 15%になるように課税
  • 一般税率が15%以上:
    232自動車関税はゼロ(かからない)

例えば日本製乗用車バンパーの例(一般税率2.5%)では、
2.5%+12.5%(232)=15% という整理が示されています。(JETRO)

※中・大型トラック部品はこの15%キャップの対象外で、2.5%+25%=27.5%になる、という試算が紹介されています。

(2) 米国鋼材を使った場合の「0%」ルート

鉄鋼分野では、米国で溶解・注湯(Melt & Pour)された鋼材を海外で加工した派生品について、HTS 9903.81.92により**232関税0%**とする特例が設けられています。

  • 実務上は、
    • 米国内サプライヤーからの証明書
    • メルト&ポアのISO国コード
    • その鋼材が実際にどの製品に使われたかのトレーサビリティ
      が求められ、かなり“証拠書類に強い”企業でないと使いこなせない優遇です。

(3) ロシア原産/原産国不明アルミの200%

  • ロシア原産アルミニウムは200%の232追加関税が継続中
  • 2025年6月以降は、「スモルト&キャスト国が不明なアルミ派生品」にも200%を適用する運用が始まりました。

これは「例外」というより、「情報が足りないと極端なペナルティが飛んでくる」ルールです。


3-3. 重複関税の「優先順序」と IEEPA との関係

232条と他の追加関税(相互関税10%やフェンタニル関税など)が重なる場合、
米国は2025年4月から**「どれを優先して適用するか」という優先順位ルール**を導入しています。(JETRO)

優先順位のイメージ(抜粋):

  1. 232自動車・トラック・同部品(25%)
  2. 232アルミ・鉄鋼・銅50%、232木材10〜25%
  3. フェンタニル関税(カナダ35%、メキシコ25%)
  4. その下にIEEPA相互関税10% 等

そしてポイントは、

「232条関税の対象となる価額部分には、IEEPA相互関税はかからない」

と整理されていることです。(JETRO)

ただし、派生品のように価額を「金属部分」と「非金属部分」に割って二行申告するケースでは、

  • 金属部分 → 232の50%
  • 非金属部分 → 一般税率+IEEPA相互関税10% など

という形で、同じ貨物の中で“別の行”に別々の制度が乗っているイメージになります。


4. 実務で直面する3つの現実

制度をなぞるだけでは、なぜ企業が苦しんでいるのかが見えません。
現場の声から見える「3つの現実」を整理します。

4-1. 二行申告と「含有価額」の地獄

CBPは、232派生品について**「二行申告(Two-line entry)」**を義務化しました。

  • 第1行(非金属部分)
    • 通常のHTSコード
    • 「総価額 − 金属含有価額」
    • 数量
    • 一般税率+相互関税など
  • 第2行(金属部分)
    • 同じHTSコード
    • 「金属含有価額」
    • 数量は0(製品個数)
    • 232用の追加HTS(9903.81.91等)+重量(kg)

ここでボトルネックになるのが、

「鉄鋼・アルミ・銅の『含有価額』をどう算定するか」

です。
JETROのヒアリングでも、「鉄の定義が条文上十分に明確でなく、自社で合理的にルールを決めて申告しているが、正確な算定は極めて難しい」という在米日系メーカーの声が紹介されています。(JETRO)

結果として、

  • 社内BOMから金属重量・単価を引き出すシステム構築
  • サプライヤーからの含有価額証明テンプレート配布
  • 監査に備えた証跡管理

といった**「通関のためのデータ整備」自体が、大きなプロジェクト**になっています。


4-2. 通関コストとキャッシュフローへの直撃

JETROのレポートによれば、追加関税の多重化により、

  • 関税額が従来の10〜15倍に膨らみ、
  • 通関業者が一時立替するキャッシュが限界に近づいている

という声も出ています。(JETRO)

また、232はドローバック(再輸出時の関税払戻し)の対象外であり、FTZ(外国貿易地域)に搬入しても、消費引取のタイミングで232が課される運用です。

輸出前提なら「あとで戻るから」と割り切れていた関税が、完全なコスト化+キャッシュアウトとして効いてくる点は、財務的にも無視できません。


4-3. 契約・価格条項の更新が間に合わない

関税構造がここまで動的になると、販売価格や長期契約も作り直しが迫られます。グローバルSCMの専門家は、企業対応として以下を提案しています:

  • サーチャージ条項の高度化
    • 232(50%)、相互関税(10%)、対中関税、フェンタニル関税など
    • 「どの組み合わせのときに価格式をどう変えるか」を契約に明文化
  • イベントドリブン価格改定条項
    • 例:
      • 「BISが232対象品目を追加した場合」
      • 「232税率または国別枠組みに変更があった場合」
    • → 発生時に自動で再交渉・見直しが走る仕組み
  • 関税以外の“行政手続きコスト”の扱い
    • 通関業務の工数増・システム投資・監査対応コストは
      「原価に含めていいのか/別枠のフィーとするのか」
    • JETROの調査では、これらのコストを販売価格に転嫁するのは困難との声も多い。(JETRO)

5. 日本企業が今すぐ整理すべき5つのアクション

最後に、ビジネスマン向けに「明日から何をするか」を5点に絞ります。

5-1. SKU単位で「232マップ」を作る

  • 自社が扱う全SKUについて
    • どの232分野(鉄鋼・アルミ・銅/自動車/木材)に該当しうるか
    • 派生品リスト407品目への該当有無
    • 50%・25%・10〜25%のどのレイヤーが乗るか
      を一覧化する。
  • 特に、
    • 鉄鋼・アルミ・銅を含む建機・産業機械・家具
    • 自動車/トラック向け部品
      は、**複数の232が重なりやすい“ホットスポット”**です。(JETRO)

5-2. BOMとサプライヤー証明を「232対応版」にアップグレード

  • BOM上で最低限持つべき情報:
    • 金属ごとの重量(kg)
    • 金属部分の価額($/kg × kg)
    • メルト&ポア/スモルト&キャスト国(ISOコード)
    • ロシア由来有無
  • サプライヤーには、
    • 上記を記載するテンプレート証明書
    • 原産国が不明なままだと200%関税になりうるリスク
      をセットで説明し、「出さないと買わない」レベルのメッセージが必要です。

5-3. サプライチェーン再構築の“試算”だけは走らせる

  • **米国鋼材+海外加工で0%(HTS 9903.81.92)**が使えるなら、
    • 米国内鋼材調達 → USMCA域内加工 → 米国最終組立
      のようなモデルで、232リスクを構造的に抑えられます。
  • 実際、日本製鉄によるU.S. Steel買収のように、
    「米国内生産体制を取りにいく」動きはすでに現実になっています。

すぐ投資はしないとしても、
「現行サプライチェーン vs US/USMCAローカル化案」のN年後NPV比較
だけは、財務と一緒に走らせておく価値があります。


5-4. 契約・価格式を「トランプ関税2.0」仕様にする

  • 新規契約:
    • 232・相互関税・301条関税・フェンタニル関税など
    • どの税が変わったら価格をどう変えるかを条文化
  • 既存長期契約:
    • 「force majeure」や「hardship」だけでは232のような税制変動には弱いケースが多いので、
    • 相手先と協議し、“関税条項だけ”をアップデートする交渉を検討

5-5. 社内に「関税タスクフォース」をつくる

  • メンバー:
    • SCM/調達
    • 通関・貿易実務
    • 経理・財務
    • 事業部(営業・プロダクト)
    • 法務・コーポレート
  • 役割:
    • SKUごとの232リスク台帳を維持
    • 新しい232発動や派生品追加が出るたびに、影響シミュレーション
    • 価格・契約・サプライチェーンに落とし込む「社内ハブ」になる

おわりに:50%という“数字”だけを見ない

232関税50%という数字は確かにインパクトがあります。
しかし、ビジネスにとって本当に重要なのは、

  1. 25%から50%に上がったことそのものより、
  2. 「例外」がほぼ制度化され、条件の厳しいルールに変わったこと
  3. 232・相互関税・その他追加関税が“レイヤー構造”で重なるようになったこと

です。

特に日本企業にとっては、

  • うちは完成品だから232は関係ない
  • これまで免除だったから今回も大丈夫

といった感覚は、ほぼ通用しなくなっていると考えた方が安全です。

USMCA再検証と中南米関税再編の動向

北米・中南米でいま、「USMCA再検証」と「関税再編」が同時進行しており、自動車・部品を含む製造業サプライチェーンにとっては、2030年代まで影響し得る大きな転換点になりつつあります。
ここでは、日本のビジネスマン向けに、なにが起きているのか/何がリスクか/いま何を準備すべきかを整理します。


1. USMCA再検証:2026年レビューと「サンセット条項」の正体

1-1. 2026年の「共同見直し」と2036年サンセット

USMCAは、16年の有効期間+6年ごとの見直しという仕組みを持つ協定です。

  • 発効:2020年7月1日
  • 初回の「共同見直し(joint review)」:2026年7月1日
  • 協定の有効期限:2036年7月1日(発効16年後) (CSIS)

USMCA第34.7条では:

  • 2026年レビューで、3か国が「延長したい」と書面で確認すれば、そこからさらに16年間延長(2036→2052年) (whitecase.com)
  • 逆に、2026年で延長意思がそろわない場合:
    • 協定自体は2036年までは継続
    • その間、毎年レビューを続ける義務があり、いずれかのタイミングで3か国が延長に合意すれば、その時点から再度16年延長 (Steptoe)

つまり、「2026年にUSMCAがいきなり終わる」わけではありません。ただし、2026年のレビュー結果次第で「2036年以降のルール」が見えなくなる可能性があり、これは長期投資・拠点戦略にとって大きな不確実性となります。


1-2. 2026年レビューで議論になりそうな論点

各種専門家レポートを見ると、以下の論点が焦点になると見られています。(CSIS)

  1. 自動車・部品の原産地規則(ROO)と域内含有率
    • エンジン、トランスミッション、バッテリーなど主要部品の「地域価額含有率(RVC)」要件は、既に高水準。
    • OEM・部品メーカーからは「コスト負担が大きい」「サプライヤーの選択肢が狭まる」との声も強い。
    • 一方で、米国側は「さらなる国内回帰」「対中国依存低減」を重視しており、より厳格化を求める可能性も。
  2. 労働・環境・強制労働条項の運用強化
    • 労働章の急速な適用(特にメキシコの工場)や、強制労働関連の輸入制限は、サプライチェーン全体にコンプライアンスコストを上乗せ。
    • 2026年レビューでは、通報制度の拡充や対象産業の拡大が議論される可能性。
  3. デジタル貿易・サービスルールのアップデート
    • データローカライゼーション、AI・クラウドサービスを巡る規律強化。
    • 物流・サプライチェーンのデジタル化が進む中で、関税だけでなく“非関税ルール”の変更リスクも増大。

1-3. 日系企業にとっての具体的リスク

自動車・部品メーカーを中心に、日系企業が直面し得る主なリスクは次の通りです。

  1. 長期投資の「回収期間」とUSMCAのタイムラインのズレ
    • EV工場やギガファクトリーなど、投資回収期間が10〜15年に及ぶ案件では、
      「2036年までのルールは見えているが、その先は見えない」という状態が続く可能性。
    • 2026年レビューで延長の方向感が見えない場合、**北米投資の意思決定に“割増しリスクプレミアム”**が必要になる。
  2. ルール変更に伴う“原産地証明のやり直し”リスク
    • 原産地規則が改定された場合、調達BOM・工程表・サプライヤー宣誓書の全面見直しが発生。
    • 「メキシコ組立→米国輸出」のモデルなどは、USMCAの適用可否が価格競争力を左右するため、ちょっとしたルール変更でもマージンに大きく響く。
  3. “政治リスク”としてのUSMCA
    • サンセット条項は、実務的には「定期的に再交渉が起こり得る」ことを意味し、
      米国大統領選・議会構成次第でトーンが変わる、政治変動に直結する貿易枠組みになっている。
    • 投資委員会向け説明や社内稟議では、「関税リスク」だけでなく、
      “USMCA再交渉リスク”を明示しておくことが求められるフェーズに入っています。

2. 中南米「関税再編」:メキシコ・ブラジルを中心に何が変わるか

2-1. メキシコ:非FTA国向け自動車関税最大50%案と1,400品目の増税

メキシコ政府は、2026年経済パッケージの一環として、
FTAを締結していない国(中国・インド・一部アジア諸国など)からの輸入品に対する大幅な関税引き上げ案を提示しました。(Reuters)

主なポイント:

  • 自動車(完成車)
    • 非FTA国からの乗用車輸入関税を、現行レベルから**最大50%**まで引き上げる案。
    • 対象には中国車が事実上含まれ、米国からの圧力に応えた“対中けん制”と解釈されている。
  • 約1,400〜1,463品目の輸入品
    • 鉄鋼、繊維、電子機器、自動車部品など広範な品目で、最大35%(一部50%)までの関税引き上げを可能にする法改正案。(The Journal Record)
  • 中国商務省はこれに反発し、「メキシコの対中輸入抑制策」として強く批判。(中国商務部)

実務的な読み方

  • メキシコは、USMCAの枠内で「対中輸入を絞る」ことで、対米交渉のカードを増やしているとも言えます。
  • 非FTA国からメキシコに直接輸出する完成車・部品ビジネスは、価格競争力を一気に失う可能性が高い。
  • 一方で、日墨EPA・日メキシコFTAを持つ日本企業にとっては、相対的な優位性が高まるシナリオもあり得る。

2-2. ブラジル:EV・自動車を中心とした関税見直し

ブラジルでは、EVやハイブリッド車の輸入関税に関する見直しが進んでいます。

  • 現行:
    • HEV:28%、BEV:25%(CKD/SKDも完成車と同率)(Argus Media)
  • 方針:
    • 2027年1月までに、HEV/BEVともに輸入関税を35%に統一・引き上げ
    • 一部のCKD/SKD向けに、上限額付きの免税枠を設定する動きも報じられている。(electrive.com)

加えて、ブラジル政府はインフレ抑制策として一部の基礎食品の輸入関税を撤廃しており、
**「消費者物価対策としての減税」と「産業保護としての増税」が並走している」のが特徴です。(フィナンシャル・タイムズ)


2-3. なぜ中南米の関税がここまで動いているのか

背景には、以下の3つの要因が絡み合っています。

  1. 中国からの輸出攻勢への警戒
    • 中国は国内EVシフトにより余剰となったガソリン車を、ラテンアメリカ・東欧・東南アジアなどへ大量輸出しているとの報道。(Reuters)
    • メキシコやブラジルは、この“安価な中国車の洪水”から国内産業を守るべく、関税引き上げで対応。
  2. 米国との関係と「対中包囲網」への参加圧力
    • 米国は自国の関税政策に加え、同盟国・近隣国にも対中依存低減を求める方向。
    • メキシコの関税引き上げ案は、**USMCAパートナーとしての“同調アピール”**という側面も持つ。
  3. 財政・産業政策としての関税
    • インフレ対応で一部食品関税を下げる一方、自動車・鉄鋼などで関税を引き上げ、
      財政収入と雇用維持を両立させたいという各国共通の思惑がある。

3. 北米×中南米をどう見るか:日本企業の視点

3-1. 3つの時間軸で整理する

  1. 短期(〜2026年)
    • メキシコの関税引き上げ法案がいつ・どの水準で成立するか。
    • USMCA 2026年レビューに向けた各国のポジション取り。
    • → 「現行案件の採算への影響」と「新規案件の条件見直し」が論点。
  2. 中期(2027〜2030年)
    • メキシコの新関税水準が定着し、非FTA国→メキシコ輸出モデルが縮小
    • ブラジルEV関税の引き上げが、域内生産・現地投資の誘因として働く可能性。
    • → 「どの国をハブに中南米をカバーするか」という拠点戦略の再設計が必要。
  3. 長期(2030〜2036年)
    • 2036年USMCAサンセットが、もう一度「延長か、条件付き延長か」という議論を呼ぶ。
    • → いま仕込む投資が、「2036年以降もUSMCA前提で続くのか」を常にチェックする必要。

3-2. 実務として今すぐやっておきたいチェックリスト

① HSコード+関税率マッピングの見直し

  • メキシコ向け主要製品について:
    • HSコード(少なくとも4桁〜6桁レベル)ごとに、
      • 現行MFN関税
      • FTA適用後の税率(日本・EU・USMCAなど)
      • 2026年以降に想定される新税率(案ベース)
        を一覧にしておく。
  • 中南米各国向けの**「関税影響シミュレーション用Excel」**を社内標準フォーマット化すると、社内説明が楽になります。

② サプライチェーンの“北米依存度”と“メキシコゲートウェイ依存度”の棚卸し

  • どの製品が「メキシコ経由で北米・中南米に出ているか」を可視化。
  • 特に、
    • 中国・ASEAN原産の部材を使い、メキシコで組立→北米/ラ米に輸出
      といったスキームは、USMCAレビュー+メキシコ関税引き上げの両方の影響を受けるゾーン。

③ 契約条件への「関税変動条項」の織り込み

  • 2026年USMCAレビューやメキシコ関税改正に備え、
    • 「関税率がX%以上変動した場合、価格調整協議を行う」
    • 「FTA/EPA適用不可となった場合の責任分担」
      などを、長期供給契約にあらかじめ盛り込んでおく。

④ 社内ガバナンス:通商・法務・事業の連携体制

  • USMCA再検証や中南米関税再編は、単なる通関現場の問題ではなく、事業戦略レベルのテーマ
  • 通商担当だけでなく、
    • 経営企画
    • 海外事業統括
    • 法務・リスク管理
      を巻き込んだクロスファンクショナルチームでモニタリングする体制を作る価値があります。

4. まとめ:北米と中南米は「別々」ではなく一体で見るフェーズへ

  • USMCA 2026年レビューは、2036年サンセットを見据えた「長期ルールの入り口」を決めるプロセス。
  • メキシコ・ブラジルを中心とする中南米関税再編は、対中輸出攻勢・米国との関係・国内雇用保護という複数の思惑が交錯しながら進行中。
  • 日本企業にとっては、
    • 「北米=USMCA」「中南米=個別FTA」という従来の見方から、
    • **「北米(USMCA)+中南米(メキシコ・ブラジル・周辺国)の一体サプライチェーン設計」**へと発想を切り替えるタイミングに来ています。

いまのうちに、HSコード・原産地規則・関税シナリオを整理し、「もしUSMCA条件がこう変わったら/メキシコ関税がこの水準まで上がったら」というシミュレーションを回しておくことで、2026年以降の不確実性に対しても、社内で納得感のある意思決定ができるようになるはずです。


HS2022の次の年をAIに尋ねる

AIの回答が今でも間違うことが多い。現行HSコードの年次は2022だが、次回はHS2028。しかし、AIの回答は間違う。

気を付けなければ、

Gemini 3 Pro

結論から申し上げますと、HS2028ではなく、「HS2027」が正解です。
HSコード(世界税関機構・WCOが定めるもの)は、原則「5年ごと」に改定されます。
改定のサイクル

  • 前回:HS2017
  • 現在:HS2022(2022年1月1日発効)
  • 次回:HS2027(2027年1月1日発効予定)
  • 次々回:HS2032(予定)
    展示会でのトーク・戦略への活かし方
    現在開発されている「HS Code Finder Gemini」にとって、この情報は「製品の将来性」をアピールする良い材料になります。
    アピール案:

「2027年にはまた大規模な『HS2027改正』が控えています。紙の表を買い直して覚え直すのは大変ですが、このAIなら2027年版へのアップデートも自動で対応します(※予定であれば)。」

このように伝えることで、「今だけのツールではなく、将来の法改正リスクもヘッジできるツール」としての価値が高まります。

ChatGPT GPT Thinking

はい、その認識で大丈夫です。
現行の HS2022 の次の年次版は「HS2028」です。

なぜ HS2028 なのか(ごく簡単に)

  • 本来は 5年ごと:
    HS2012 → HS2017 → HS2022 → HS2027(予定) というサイクルでした。
  • しかし、コロナ禍などで見直し作業が遅れ、
    今回のサイクルだけ 6年に延長され、発効年が 2028年1月1日にスライドしました。
  • WCO のハーモナイズド・システム委員会(HSC)の公式ニュースでも、
    HS 2028 Nomenclature の改正案を審議・採択した」と明記されています。

そのため、ビジネス文書やブログ、社内説明では:

現行:HS2022(第7版)
次期:HS2028(第8版、2028年1月1日発効予定)

と書くのが、2025年時点での最新かつ公式情報に沿った整理になります。

【2025年11月版】主要国の関税・制裁・輸出管理トレンドと「1年間の猶予」


2025年11月時点の「最新告示」に基づき、ビジネスパーソンが押さえるべき貿易管理のトレンドを整理します。

結論から言うと、現在の潮流は以下の3本柱です。ただし、米中間の規制合意により、一部の規制に「1年間の猶予(一時停止)」が生じたことが最大のニュースです。

  1. 「米中50%ルール」の一時停止:サプライチェーン分断の決定打となるはずだった規制が、2026年11月まで凍結。
  2. 「対ロシア・イラン包囲網」の完成:G7とEUはエネルギー・金融・海運(シャドーフリート)への制裁を最高レベルに引き上げ。
  3. EUの「環境・ハイテク要塞化」:CBAM(炭素国境調整)の義務化と、AI・量子技術などの独自管理が進行。

本記事は2025年11月29日時点の公表情報に基づく整理です。最終判断は必ず原文・専門家の確認を経て行ってください。


1. 米国:対中関税と輸出管理は「一時休戦」へ

1-1. 対中301関税:除外178品目の延長 & 新たな措置の一時停止

USTR(米通商代表部)は、対中301条関税のうち178品目の関税除外を2026年11月10日まで延長しました。これらは2025年11月29日で失効予定でしたが、11月1日発表の米中経済・貿易合意を受け、土壇場で延長が決まりました。()ustr+1
対象は産業用ポンプ・モーター、医療関連機器、一部のソーラー製造設備などで、企業のコスト増回避に繋がります。()ey+1

また、同じ合意に基づき、中国の海運・物流・造船セクターを標的とした新たな301措置(追加関税等)についても、2025年11月10日から1年間の発動停止が告示されています。()ustr+1

👉 実務ポイント
301関税対象品を扱う企業は、「自社のHSコードが延長リスト(178品目)に含まれるか」を再確認してください。また、今後1年間の米中協議の行方次第で関税率が変動する可能性があるため、契約上の価格調整条項を見直す良い機会です。

1-2. BIS輸出管理:米国版「50%ルール」も1年間停止

【重要修正】
2025年9月30日、米商務省BISは**「Affiliates Rule(50%ルール)」**と呼ばれる暫定最終規則を発表しました。これはEntity List等の規制対象を「50%以上所有する子会社」に自動拡張する厳しい内容です。()sidley+1
しかし、この規則も11月4日、米中合意の一環として「2026年11月まで施行を一時停止する」ことが発表されています。()thompsonhinesmartrade

当初は「リスト記載企業のグループ会社すべてが自動的に規制対象」となるリスクが高まりましたが、現在は1年間の猶予期間に入っています。

👉 実務ポイント
「直ちに対応が必要」という緊急度は下がりましたが、BISはこの1年を使ってルールを微調整する見込みです。中国等の取引先について「親会社がEntity Listに載っていないか」という資本関係の洗い出し(KYC)は、この猶予期間中に済ませておくべきでしょう。

1-3. 対ロシア・イラン:エネルギー制裁の「総仕上げ」

対中規制が休戦する一方、対ロシア・イラン制裁は強化の一途です。
米国・EU・英国は連携し、ロシアのLNGプロジェクト(Arctic LNG 2等)や、制裁逃れを行う「シャドーフリート(影の船団)」への指定を拡大しています。()finance.europa+1


2. EU:第19次対ロシア制裁 & CBAMの「50トン免除」

2-1. 対ロシア第19次制裁パッケージ(2025年10月23日採択)

欧州委員会は第19次対ロシア制裁を採択し、規制の網をさらに広げました。()skadden+1

  • LNG輸入禁止の拡大:ロシア産LNGのEU域内への輸入禁止措置を導入。
  • 金融制裁の強化:ロシアのSPFS(金融メッセージングシステム)に関連する銀行・インフラを追加指定。
  • 所有・支配基準の明文化:50%未満の出資でも「実質的支配」がある場合を制裁対象とする基準を明確化。

2-2. デュアルユース品目リストの改正(2025年11月)

2025年11月14日、EUはデュアルユース(軍民両用)輸出管理リストを改正しました。()gov+1
従来の国際レジーム(ワッセナー等)に加え、半導体製造装置、量子技術、先端計算機などを対象とする**「500番台」の独自品目コード**を導入しています。

👉 実務ポイント
EU向けにハイテク製品を輸出する日本企業は、製品が新設の「500番台」に該当しないか、パラメータシートや該非判定書の更新が必要です。

2-3. CBAM(炭素国境調整):小口輸入の「50トン免除」

2026年の本格稼働に向け、2025年10月には制度を簡素化する改正規則(EU規則 2025/2083)が発効しました。()eurometal+1

  • 50トン・デミニミス(免除):対象品目の年間輸入量が**「事業者あたり50トン以下」**の場合、CBAM義務が免除されます。(※電力・水素は除く)()sustainabilityinbusiness+1
  • これにより、中小規模のサンプル出荷や補修部品等の輸出における事務負担が大幅に軽減されます。

3. 中国:「報復措置」の一時停止と管理強化の裏側

3-1. 「中国版50%ルール」とレアアース規制も一時停止

中国商務部・税関総署は2025年11月7日、告示第70号を発表し、直前の10月〜11月に打ち出していた以下の厳しい輸出規制を2026年11月10日まで一括して停止しました。()resilinc+1

  • 停止された規制
    • レアアース、リチウム電池、人工黒鉛等の輸出管理強化(告示55-58号等)
    • 中国版「50%ルール」(外国企業への域外適用・再輸出規制を含む告示61・62号)

これは米国の「BIS 50%ルール停止」に対するバーター(交換条件)措置であり、米中双方が「相手企業のグループ会社網を寸断する規制」を同時に引っ込めた形です。()gvw

👉 実務ポイント
中国からのレアアースやバッテリー材料の調達リスクは、2026年11月まで一旦落ち着きます。しかし、あくまで「停止」であり「撤回」ではないため、調達先の多様化(チャイナ・プラス・ワン)を進める時間は、この1年しかありません。


4. 日本:対ロシア制裁とエネルギー安全保障

4-1. ロシア産原油の価格上限引き下げ

日本政府は2025年9月、G7・EUと足並みを揃え、ロシア産原油の価格上限(プライスキャップ)を従来の60ドルから47.60ドルへ引き下げました。()discoveryalert+1
実質的な輸入はほぼないため直接的な影響は限定的ですが、海上保険の付保要件に関わるため、海運・保険業界は厳格な運用が求められます。

4-2. サハリン・プロジェクトの維持

一方で、サハリン1・2については方針を変えていません。経産省は2025年11月にも「日本のエネルギー安全保障上、極めて重要」との立場を崩しておらず、米英の制裁強化の中でも、特例的な維持を図る姿勢を示しています。([の文脈参照])


5. 英国:制裁の独自色と「Sanctions Hub」

5-1. ロシア大手石油・シャドーフリートへの制裁

英国は2025年10月15日、**Lukoil(ルクオイル)とRosneft(ロスネフチ)**というロシア石油大手2社を資産凍結対象に追加し、さらにシャドーフリート関連船舶への制裁も拡大しました。()mayerbrown+1
これにより、英国系金融機関や保険会社を経由する取引のリスク許容範囲が極めて狭まっています。

5-2. 輸出管理の改正と「Sanctions Hub」

英国は2025年12月16日施行の輸出管理改正で、EU同様の「500番台」品目を導入します。()gov
また、複雑化する制裁情報を検索できる公式ツール「Sanctions Hub」の運用を強化しており、実務者は「Consolidated List」だけでなく、このHubでのクロスチェックが推奨されます。


6. まとめとアクションリスト

1年間の「猶予期間」をどう使うか

米中双方が「50%ルール」等の決定的な規制を2026年11月まで棚上げしたことで、ビジネスには1年間の猶予が生まれました。この期間にやるべきは以下の3点です。

  1. サプライチェーンの資本関係マッピング(KYC)
    • 今のうちに、中国・ロシア等の取引先について「誰が50%以上出資しているか」を調査しておく。2026年に規制が復活した際、即座に影響範囲を特定できるようにするためです。
  2. 「500番台」品目の該非判定
    • EU・英国向け輸出製品が、新設された量子・半導体関連の規制スペックに抵触しないかを確認する。
  3. CBAMデータの整備(50トン超の企業)
    • EU向け輸出が年間50トンを超える場合は、2026年の本格義務化に向け、CO2排出量データの算定フローを確立する。

2025年は「規制の激化」から「一時的な休戦と準備」のフェーズに入りました。この静けさが続く間に、体制を整えることが肝要です。


※本記事は2025年11月29日時点の情報を整理したものです。個別取引においては必ず各国の最新法令をご確認ください。

  1. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-extends-exclusions-china-section-301-tariffs-related-forced-technology-transfer-investigation
  2. https://www.roic.ai/news/ustr-extends-178-china-301-tariff-exclusions-through-november-2026-11-26-2025
  3. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/ustr-extends-product-exclusions-subject-to-section-301-tariffs-through-29-november-2025
  4. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/11/ustr-extends-product-exclusions-china-section-301-tariffs.html
  5. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-suspension-action-section-301-investigation-chinas-targeting-maritime-logistics-and
  6. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/11/ustr-announces-one-year-suspension-of-section-301-countermeasures-targeting-chinas-maritime-logistics-and-shipbuilding-sectors/
  7. https://www.sidley.com/en/insights/newsupdates/2025/10/us-commerce-department-bureau-of-industry-and-security-adopts-50-percent-rule-for-export-controls
  8. https://www.hklaw.com/en/insights/publications/2025/10/bis-expands-impact-of-us-export-controls-with-50-percent-rule
  9. https://finance.ec.europa.eu/news/eu-adopts-19th-package-sanctions-against-russia-2025-10-23_en
  10. https://www.arnoldporter.com/en/perspectives/advisories/2025/10/uk-and-us-impose-major-new-sanctions-on-russian-oil-sector
  11. https://www.skadden.com/insights/publications/2025/11/eu-adopts-19th-sanctions-package
  12. https://www.gov.uk/government/publications/notice-to-exporters-202530-updates-to-export-control-regulations/nte-202530-updates-to-export-control-regulations
  13. https://www.hoganlovells.com/en/publications/eu-updates-dualuse-control-list-new-controls-on-emerging-technologies-and-shift-in-export-control
  14. https://eurometal.net/eu-adopts-cbam-amendment-introducing-50-mt-exemption-and-simplified-reporting/
  15. https://fn.legal/en/cbam-amendment-regulation-entered-into-force/
  16. https://www.sustainabilityinbusiness.blog/2025/10/new-cbam-simplified-rules-finalized-time-for-companies-to-prepare-for-compliance/
  17. https://resilinc.ai/blog/chinas-export-pause-reveals-trade-policy-supply-chain-risk/
  18. https://www.cirs-group.com/en/chemicals/china-temporarily-suspends-export-controls-on-key-raw-materials-including-rare-earths-lithium-batteries-and-diamond
  19. https://www.gvw.com/en/news/blog/detail/china-export-control-update
  20. https://discoveryalert.com.au/russian-oil-price-cap-2025-japan-g7-sanctions/
  21. https://www.reuters.com/business/energy/japan-cuts-price-cap-russian-oil-4760-additional-sanction-2025-09-12/
  22. https://www.mayerbrown.com/en/insights/publications/2025/10/uk-weekly-sanctions/uk-weekly-sanctions-update-week-of-october-13-2025
  23. https://www.lw.com/en/insights/sanctions-update-eu-uk-sanctions-target-russian-lng-major-russian-companies
  24. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/01/2025-21671/notice-of-product-exclusion-extensions-chinas-acts-policies-and-practices-related-to-technology
  25. https://www.ghy.com/trade-compliance/section-301-tariff-exclusions-further-extended-through-november-29-2025/
  26. https://www.chrobinson.com/es-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-02-2025-client-advisory-section-301-tariff-exclusions-extended-through-ovember-2025/
  27. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/301-investigation-china-shipbuilding-maritime-logistics
  28. https://www.mofo.com/resources/insights/251001-bis-adopts-50-percent-affiliates-rule-implications
  29. https://www.ashurst.com/en/insights/overview-of-the-eus-19th-sanction-package/
  30. https://policy.trade.ec.europa.eu/news/2025-update-eu-control-list-dual-use-items-2025-09-08_en
  31. https://www.businesstimes.com.sg/international/global/us-extends-one-year-tariff-exclusions-some-chinese-industrial-goods-part-trade-truce
  32. https://www.clarkhill.com/news-events/news/china-hits-pause-on-rare-earth-export-controls-and-what-it-means-for-supply-chains/
  33. https://www.china-briefing.com/news/chinas-rare-earth-export-controls-impacts-on-businesses/
  34. https://globaltradealert.org/state-act/95168-china-temporary-suspension-of-additional-export-controls-for-rare-earth-related-technologies
  35. https://finance.yahoo.com/news/japan-cuts-price-cap-russian-143000860.html
  36. https://research.hktdc.com/en/article/MjE2NTI4MjQ4NA
  37. https://english.mofcom.gov.cn/News/SpokesmansRemarks/art/2025/art_c202dcc0433d476db52b1e7f7fe53926.html
  38. https://sustainability.slaughterandmay.com/post/102lr0h/eu-cbam-amended-to-exclude-90-of-importers-but-include-99-of-emissions
  39. https://energynews.oedigital.com/crude-oil/2025/09/12/japan-increases-sanctions-on-russia-by-reducing-the-price-of-russian-oil-to-4750
  40. https://www.gov.uk/government/publications/list-of-russia-sanctions-targets-15-october-2025/list-of-russia-sanctions-targets-15-october-2025

メキシコ関税法改正:2026年1月施行へ――電子通関ファイルと罰則強化で「見える化」される貿易実務


1. 何が起きたのか:19年の大改正、2026年1月から本格スタート

2025年11月19日、メキシコ政府は官報(Diario Oficial de la Federación)で「関税法(Ley Aduanera)の改正・追加・削除」を定める大きな政令を公布しました。対象条文はなんと113条に及びます。(info.expeditors.com)

この改正は、

  • 2026年1月1日に原則施行
  • 一部の条文は施行後1か月または3か月後に段階的に適用

というスケジュールになっています。(dlapiper.com)

改正の狙いとして、各種解説では共通して次の点を挙げています。

  • 通関手続のデジタル化・トレーサビリティの徹底
  • 税関当局(SAT・ANAM)の統制強化と税収拡大
  • 密輸・過少申告・虚偽原産地証明など「huachicol fiscal(税の抜け穴)」への対策 (GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

日本企業にとっては、「関税率が上がる」話ではなく、通関実務の管理・証憑・ITシステムが一気に重くなる改正と理解するのが出発点です。

なお、日本語で「メキシコ関税法」と呼ばれることが多い法律は、ここでいう**「Ley Aduanera(税関法)」です。
別に
関税率表を定める「一般輸入・輸出税法(LIGIE)」の改正案(約1,400品目の関税引き上げ)は、今回とは別トラック**で進んでおり、後述のとおり審議が先送りされています。(dlapiper.com)


2. 改正の3つの柱

2-1. 電子通関ファイルの中身が激変:契約書・支払証憑まで必須に

今回の改正で、電子通関ファイル(expediente electrónico aduanero)に保管すべき資料の最低要件が、質・量ともに大きく引き上げられました。

KPMG や各種法律事務所の解説では、以下のような書類が**「最低限」**求められるとされています。(KPMG)

  • インボイス、B/Lなど従来の通関書類に加え
  • 電子税務証憑(CFDI)
  • 国内輸送用のCFDI+Carta Porte補完(車両・ルート・ドライバー情報を含む)(alvarezandmarsal.com)
  • 送金明細・銀行振込記録
  • 保険料・運賃・その他通関関連コストの支払証憑
  • 売買・委託加工・リースなど関連契約書一式
  • 価値申告・バリュエーション分析(Transfer Pricing との整合が問われる部分)

さらに、通関ファイルと在庫管理システム・監視カメラ・トラッキング情報を連動させた「統合電子システム」の義務化が、保税蔵置場やRFE(Recinto Fiscalizado Estratégico)などにも課されます。これらのシステムには、税関当局がリモートで常時アクセスできることが要求されています。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

👉 日本企業への含意

  • 「インボイス+パッキングリストさえあれば通関できる」という世界は終わりに近づいている
  • メキシコ子会社の会計・契約・物流情報を、通関ファイルに一元紐づける体制が必要
  • 日本本社側も、契約スキームや価格決定ロジックを説明できる形で文書化しておかないと、監査で突かれやすくなる

2-2. 通関業者(ブローカー)・倉庫・物流事業者への規制強化

(1) 「一生モノ」だった通関士ライセンスが20年更新制+3年ごとの認証に

これまで、メキシコの通関業者(agente aduanal)は、実務上「終身ライセンス」とも言える形で活動してきました。
しかし改正後は、以下のように制度が大きく変わります。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

  • 通関士ライセンスの有効期間:20年(同期間の更新可)
  • ライセンスは個人的かつ譲渡不可
  • 3年ごとの技術認定(試験・更新)が義務化
  • 公職にある者は、通関士ライセンスを取得・維持できない
  • 繰り返しの違反や重い犯罪での訴追・起訴で、停止・取消のリスクが大幅増

さらに、これまで存在した**「荷主が虚偽情報を出した場合はブローカーは免責」という条項が削除**され、
荷主の誤った申告に対しても、通関業者が連帯責任を負う方向に転じています。(alvarezandmarsal.com)

>その結果、通関業者は「自分を守るために、荷主へのデューデリジェンスと社内監査を強化せざるを得ない」と各所で指摘されています。(dlapiper.com)

(2) 倉庫・保税区画へのハイレベルなシステム要件

保税蔵置場やRFEなどの施設については、電子在庫管理・ビデオ監視・リアルタイム追跡などのシステム導入が、許可要件として明文化されます。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

  • 税関電子システムとの相互接続(インターオペラビリティ)
  • 当局への24時間リモートアクセス
  • 物流・在庫データと通関ファイルの一致性

を求められるため、IT投資なしに倉庫ビジネスを続けることは難しくなります。

(3) 物流・ECオペレーターにも直接規制

Expeditors のまとめによれば、改正は以下のようなプレイヤーにも直接影響を与えます。(info.expeditors.com)

  • 輸入貨物を保管する一般倉庫
  • 航空・宅配便などのクーリエ事業者(簡易通関スキームの明文化)
  • 越境ECプラットフォーム(登録義務や上限の見直し)

👉 日本企業への含意

  • ブローカー側がリスクを嫌い、書類の要求水準や質問のレベルが一段と厳しくなる
  • 「今まで付き合いでやってくれていた」ブローカーが、リスクの高い貨物の取扱いを断る可能性も
  • メキシコ側の倉庫・3PLに対し、システム要件・コンプライアンス状況を確認するデューデリジェンスが必要

2-3. 罰則・税務リスクの大幅強化

関税法そのものに加え、連邦税法典(Código Fiscal de la Federación)の改正もセットで行われ、
密輸・脱税・虚偽申告に対する行政・刑事リスクがかなり強化されています。(dlapiper.com)

代表的なポイントは以下の通りです。

  • 制限品・禁止品の輸入や、非関税措置(NOM・衛生規制・許可等)の不履行に対して
    貨物価値の250〜300%に相当する罰金が科され得る(dlapiper.com)
  • 価値申告(Manifestación de Valor)や電子価格証明(COVE)での誤り
    ⇒ 1件あたり約29,000〜53,500ペソの罰金(約25〜45万円規模)(alvarezandmarsal.com)
  • ラベリング違反、申告住所に貨物が存在しない場合など、新たな差押え(embargo)事由が追加(alvarezandmarsal.com)
  • FTA上の特恵関税を不正に得るための虚偽原産地証明について、
    税法典上の**「脱税」「虚偽申告」等の刑事リスク**が明確化(dlapiper.com)

👉 日本企業への含意

  • RCEP・日メキシコEPA・USMCA原産地証明などをメキシコ側が利用する場合、
    日本本社が出すサプライヤー証明や原産地情報に虚偽・過失があると、メキシコ側で刑事リスクに直結する可能性
  • 移転価格税制のみならず、関税バリュエーションの整合性が、これまで以上に重要な経営課題になる

3. IMMEX・RFEなど製造優遇スキームへの直撃

今回の改正は、単なる「通関ルール改正」にとどまらず、IMMEX・RFEといった製造優遇スキームに特に厳しいメッセージを発しています。(dlapiper.com)

3-1. RFE(Recinto Fiscalizado Estratégico)

  • RFEへの貨物導入にあたり、関税保証口座や信用状による保証義務を明文化(dlapiper.com)
  • 貨物の加工・保管・分配等を行う場合、実際に工程が行われたことを示す技術・会計資料を保持しなければならない
  • RFEが港・税関と隣接していない場合、認定された「認定商業パートナー(socio comercial certificado)」のみが輸送・通関を実施可(dlapiper.com)

3-2. IMMEX(マキラ)企業

  • IMMEX間の移転取引について、**拡張版の通関ファイル(Article 59 V)**を作成・保管する義務
    • 通常の通関書類に加え、工程資料・原材料使用実績・会計記録などを含めて一体管理 (dlapiper.com)
  • 在庫管理・工程トレーサビリティ・リモート監査に対応できるシステム導入が必須

DLA Piper は、これらの改正を踏まえ、2026年にメキシコの貿易税収が約1517億ペソから2547億ペソに増加するとの政府見通しを紹介しており、その相当部分が監査・検査強化による追加徴収と見られています。(dlapiper.com)

👉 日本企業への含意

  • メキシコでの組立・加工拠点(マキラ・IMMEX工場)を持つ企業は、最優先で影響分析が必要
  • 工場内の在庫管理・実績データと、通関データ・会計データの**「三位一体」管理**が求められる
  • RFEを活用した在庫バッファ・再輸出スキームは、保証や証憑負担の増加を前提に再設計すべき段階

4. 「関税率引き上げ法案(LIGIE改正)」との関係

今回の関税法(Ley Aduanera)改正とは別に、メキシコ政府は一般輸入・輸出税法(LIGIE)の大改正案も提出しています。

  • 1,463の関税分類を改正し、主にFTAのない国(中国など)からの輸入品に35%前後の高関税を課す構想(Eje Central)
  • しかし、このLIGIE改正案は、議会での審議が先送りされ、現行会期末の2027年8月31日まで棚上げされる可能性があるとDLA Piperは指摘しています。(dlapiper.com)
  • とはいえ、大統領は緊急権限に基づき個別に関税を引き上げる権限を維持しており、完全にリスクが消えたわけではありません。(dlapiper.com)

したがって、

  • 「2026年1月に変わるのは主に手続と罰則」
  • 「関税率そのものの大幅引き上げ(LIGIE改正)は、別の政治日程で動き続けている」

という二重の時間軸でメキシコリスクを見ておく必要があります。


5. 日本企業が今からやるべき5つのチェックポイント

最後に、日本のビジネスマンの視点で、2026年1月までに最低限チェックしたいポイントを整理します。

5-1. メキシコ側の「電子通関ファイル」体制の棚卸し

  • メキシコ法人がどの程度、
    • CFDI+Carta Porte
    • 契約書・見積り・支払証憑
    • バリュエーション資料
      一元的に保管・紐づけできているかを確認
  • ERP・WMS・TMS と通関システムが「バラバラ」になっている場合、
    2025年のうちに統合作業をどこまで進められるかが勝負

5-2. 通関ブローカーとの関係性の再構築

  • 改正後は、ブローカーも自らのライセンスを守るために保守的になります
  • 現在取引しているブローカーに対し:
    • 改正関税法への対応方針
    • 必要書類の増加や、質問項目の変化
    • 社内監査(due diligence)の頻度
      事前にすり合わせておくことが重要です

5-3. IMMEX・RFE利用スキームの総点検

  • 工場の在庫・工程データと通関データが、
    「いつでも監査対応できるレベル」でリンクしているかを確認
  • RFE利用を検討・利用中の企業は、
    • 保証口座・信用状のコスト
    • 限定された輸送業者・通関業者の利用制約
      を考慮してビジネスケースの再計算が必要です

5-4. 原産地証明・バリュエーションのガバナンス強化

  • 日本本社が発行する
    • サプライヤー証明
    • 原産地証明用の情報
    • 移転価格ポリシー
      が、メキシコでの通関・税務監査に耐えうる文書になっているか再点検
  • 特に、虚偽原産地証明に対する刑事リスクが明確化されたため、
    FTA/EPA対応部門と税務・コンプライアンス部門の連携が必須です。(dlapiper.com)

5-5. メキシコを「低コスト拠点」とだけ見ない

  • 改正は明らかに、「税関・税務コンプライアンスが重い国」としてのメキシコを前提にした制度設計です
  • 中国+1、USMCA向け生産拠点としての魅力は依然高いものの、
    「安い・緩いからメキシコ」という発想は通用しなくなるタイミングと言えます

6. まとめ:2026年のメキシコは「通関DX+監査強化」元年

  • 2025年11月19日に公布された関税法改正は、113条を一気にいじる大規模な制度変更であり、
    2026年1月1日から本格施行されます。(info.expeditors.com)
  • 中心テーマは
    • 電子通関ファイルとITシステムの義務化・高度化
    • 通関業者・倉庫・IMMEX/RFEへの規制強化
    • 罰則・刑事リスクの大幅引き上げ
      であり、実務の透明性と当局の監視能力を一気に高める内容です。
  • 関税率そのものをいじるLIGIE改正案(約1,400品目の高関税化)は、
    議会で先送りされたとはいえ、政治状況次第で再浮上し得るリスクとして残っています。(dlapiper.com)

日本企業としては、

「関税率はまだ上がっていないから安心」ではなく、
「通関・税務コンプライアンスの管理レベルを2026年仕様に引き上げる」

という発想で準備を進めることが重要です。


※本記事は、KPMG、DLA Piper、Alvarez & Marsal、Mijares、Expeditors など複数の専門家レポートを比較・確認したうえで、ビジネス向けに要約したものです。個別案件への適用には、必ず現地の専門家・顧問弁護士等の助言を受けてください。(KPMG)

HS Code Finder デモンストレーションのご案内

革新的なツールであっても、実務にフィットしなければ意味がありません。

導入前のミスマッチを防ぐためにロジスティックでは、HSCFの操作性や機能を事前に検証できる「トライアル環境」を提供しています。