日本・メルコスールEPAへの道程:南米の巨大市場を巡る現状とビジネス好機


世界経済のブロック化が進み、サプライチェーンの再構築が急務となる中、日本企業にとって「最後のフロンティア」とも呼べる地域が南米です。中でもブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ(およびボリビア)を擁するメルコスール(南米南部共同市場)は、巨大な食料・資源供給地でありながら、日本との経済連携協定(EPA)がいまだ締結されていない空白地帯です。

本記事では、日本とメルコスールのEPA交渉を取り巻く現在のリアルな状況、直面している課題、そして今後のビジネス展開に与えるインパクトについて解説します。

1. 現在のステータス:正式交渉の手前にある「対話」

まず、もっとも重要な事実確認から入ります。現時点において、日本政府とメルコスールの間で正式なEPA交渉は開始されていません。

しかし、水面下での動きは活発化しています。現状は「経済協力関係緊密化のための対話」というフェーズにあります。

膠着を打破しようとする経済界の動き

日本経団連などの経済界は、長年にわたり政府に対して早期の交渉開始を強く要望してきました。これに対し、政府間では事務レベルでの協議や、産官学による研究会などが断続的に行われてきましたが、正式なテーブルにつく決定打を欠いていたのが実情です。

なぜ今まで進まなかったのか

最大の理由は、双方の産業構造のミスマッチにあります。

・ 日本側の懸念:南米からの安価な農産物(牛肉、小麦、大豆など)の流入による国内農業への打撃。

・ メルコスール側の懸念:自国の工業(特にブラジルの自動車産業や機械産業)が、日本の高品質な製品との競争に晒されることへの警戒。

この「農産物 vs 工業製品」という典型的な対立構造が、長らく交渉開始のハードルとなってきました。

2. 潮目を変える3つの外部要因

しかし、ここ数年で状況は一変しつつあります。もはや「難しいから先送り」とは言っていられない3つの戦略的要因が浮上しているからです。

① 重要鉱物の争奪戦とサプライチェーン

EV(電気自動車)シフトに伴い、リチウムや銅などの「クリティカル・ミネラル(重要鉱物)」の確保が国家安全保障レベルの課題となりました。アルゼンチンやブラジルはこれらの資源大国です。資源外交の観点から、EPAを通じた関係強化は、単なる関税撤廃以上の意味を持ち始めています。

② 中国・アジア諸国の先行

中国は南米において圧倒的なプレゼンスを示しています。ウルグアイなどは中国との二国間FTAを模索する動きを見せており、メルコスール全体としてもアジアへの関心を高めています。また、シンガポールは2023年にメルコスールとの協定に署名し、韓国も交渉を進めています。日本がこれ以上遅れをとることは、南米市場における競争力を恒久的に失うリスクを意味します。

③ EU・メルコスール協定の停滞

メルコスールは長年EUとの協定締結を目指してきましたが、環境問題や欧州の農業保護の観点から批准プロセスが難航しています。この「欧州ルートの停滞」により、メルコスール側がリスク分散として、日本を含むアジア太平洋地域との連携に今まで以上に前向きな姿勢を見せ始めているのです。

3. 日本企業にとってのメリットと勝機

もしEPA、あるいはそれに準ずる経済協定が締結された場合、日本企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

高関税の撤廃による競争力回復

ブラジルなどは伝統的に保護主義的な政策をとっており、自動車や機械部品に高い関税を課しています。EPAによってこれらが撤廃・削減されれば、日本製品の価格競争力は劇的に回復します。

ビジネス環境の透明化

関税以上に現地進出企業を悩ませているのが、複雑怪奇な税制や通関手続き、頻繁なルール変更です。EPAには通常、これらの手続きを透明化し、予見可能性を高める条項が含まれます。法的な安定性が担保されることは、投資判断における最大のリスクヘッジとなります。

食料安全保障の強化

世界的な食料需給が不安定化する中、世界有数の穀倉地帯であるメルコスールとのパイプを太くすることは、日本の食料安全保障にとって極めて合理的です。

4. 今後の展望:ビジネスマンが注視すべきポイント

今後の展開を予測する上で、以下のシナリオが考えられます。

包括的EPAではなく「段階的アプローチ」の可能性

農産物の完全な自由化が難しい場合、重要鉱物やエネルギー、デジタル分野などに限定した「部分的連携」からスタートする現実的な路線が採用される可能性があります。

グローバルサウス外交の中核として

日本政府はグローバルサウスとの連携強化を掲げています。2025年以降、ブラジルがBRICSやG20などでリーダーシップを発揮する場面が増える中、日本は外交的なカードとして経済協定の交渉開始を提案する可能性が高まっています。

結論:準備と注視を

日メルコスールEPAは、まだ「検討中」の段階ですが、動き出せばそのスピードは速いと予想されます。資源エネルギー、商社、自動車関連メーカー、そして食品業界の皆様においては、以下の点を次のアクションとして推奨します。

  1. 現地の法規制やビジネス慣習に関する情報収集を継続する。
  2. 競合となる中国・韓国企業の現地での動きをモニタリングする。
  3. 政府や業界団体の対話プロセスの進捗にアンテナを張る。

南米は「遠い市場」ではなく、日本の次なる成長を支える「戦略的パートナー」になり得る地域です。この交渉の行方は、日本の通商戦略の未来を占う試金石となるでしょう。


次のステップをご提案します

南米市場における、貴社の業界に関連する具体的な競合状況(特に中国企業の進出状況)や、現在の主要な貿易障壁(関税率や規制)について、より詳細なデータをお調べしましょうか。

電子CO時代の新常識。「証明書ライフサイクル」管理が、通関事故を防ぐ最強の防壁になる


電子原産地証明書(電子CO)の導入を、単に**「紙の証明書がPDFに変わるだけ」**と捉えていませんか?もしそう考えているなら、現場はいずれ大きなトラブルに直面することになります。

実務で真に重要になるのは、証明書を「静的な紙」ではなく、状態が変化し続ける「動的なデータ」として捉える視点です。いつ作成され、誰が承認し、現在どのようなステータスにあり、いつ無効化されたのか。この**「証明書ライフサイクル」**の管理こそが、デジタル時代の貿易業務設計の肝となります。

世界税関機構(WCO)のガイドラインにおいても、電子COは「申請・発給が電子的に完結し、真正性の担保(署名等)もデジタルで行われるもの」と定義されており、発行後の検証や無効化まで含めたシステム的な運用が前提とされています。


まず理解すべき2つのライフサイクル

電子COを安全に運用するためには、大きく2つの軸で管理を考える必要があります。

1. COそのもののライフサイクル

申請から発給、利用、そして保存に至るまでの業務プロセスの流れです。電子化により、各プロセスが「データのステータス(状態)」として記録されるため、追跡可能性(トレーサビリティ)が格段に向上します。

2. 電子署名・電子印章(トラスト)のライフサイクル

そのCOが「本物である」ことを技術的に保証する仕組みです。WCOやUN/CEFACTが指摘するように、電子COが拒否される主要因の一つは「署名の検証不能」です。署名の有効期限や、検証可能な環境が整っているかは、COの受理可否に直結する技術的なライフサイクルです。


COライフサイクルを7段階で設計する

ここからは、実務フローに沿って7つの段階ごとのリスクと対策を具体化します。

第1段階 申請:入力品質が全てを決める

電子申請の最大のメリットはスピードですが、それは**「入力ミスの拡散」**も早まることを意味します。WCOも指摘する通り、電子化は申請を容易にしますが、誤ったデータが即座に発給・送信されてしまうリスクと隣り合わせです。

✅ 実務の対策

  • 申請画面に入力する前の**「原票確定」プロセス**を厳格化する(品名、HSコード、原産性判定の事前ロック)。
  • 社内管理番号(インボイス番号等)と、発給システム上のIDを紐付ける管理簿を作成する。
  • 誰が申請し、誰が承認したかという「権限管理」と「ログ保存」を徹底する。

第2段階 審査:システムのロジックに合わせる

ICC(国際商業会議所)は、CO発給における透明性と説明責任を強調しています。電子発給システムでは、紙の時代のような「手書き修正」や「曖昧な記述」はシステムエラーとして弾かれます。発給機関のシステム仕様に合致したデータを準備する必要があります。

✅ 実務の対策

  • 発給機関が要求する裏付け資料(根拠資料)の電子フォーマットを社内で標準化する。
  • 原産地規則(CTC、VA、SPなど)ごとに、必要なデータ項目をテンプレート化しておく。

第3段階 発給:真正性の核(コア)が生成される

この時点で、CO番号、発給日時、電子署名といった、後工程で検証される重要データが確定します。一度発給されたデータは、一文字たりとも修正できません。**修正=再発給(別データの生成)**となるのが電子の鉄則です。

✅ 実務の対策

  • 発給されたPDFやデータは、個人のPCではなく、全社的なサーバーや文書管理システムに即時保管する。
  • 発給データと、申請時の社内データを自動突合し、差異がないか最終確認する。

第4段階 送付と共有:PDF送信か、データ連携か

ここが最大の分かれ道です。日本の一部のEPAのように「PDFファイルをメールで送る」ケースと、ASEANのe-Form Dのように「国同士のシステムでデータを直接送る(ASW)」ケースがあります。WCOも、EDIFACTやXMLなどのデータ交換方式が、自動検証やリスク管理に資すると整理しています。

✅ 実務の対策

  • 相手国や協定ごとに「提出方法(PDFメール添付、システム連携、紙出力して提出など)」をマニュアル化する。
  • 国同士のデータ連携の場合、輸出者は「参照番号」を輸入者に正確に伝えるフローを確立する。

第5段階 通関での利用:ステータスの追跡

輸入通関で使用されたかどうかの管理です。電子データの場合、理論上は「使用済み」「未申告」といったステータス管理が容易になります。特にデータ連携型の場合、輸入国側での受理状況がシステム上で確認できるケースもあります。

✅ 実務の対策

  • 輸入者および通関業者と、CO番号の伝達・確認ルールを取り決める。
  • 社内台帳に「通関使用済み」のチェック欄を設け、二重使用や使い忘れを防止する。

第6段階 検証:オンライン確認が標準に

ICC認定の商工会議所などが運営する検証サイトでは、CO番号やセキュリティコードを入力することで、そのCOが真正なものであるか即座に確認できます。輸入国税関も、紙の偽造を見抜くよりも、システム上のデータ照合(検証)を重視する傾向にあります。

✅ 実務の対策

  • 輸入者任せにせず、輸出者側でも出荷前に検証サイト等で「正しく表示されるか」を確認する手順を組む。
  • 事後調査(検認)の連絡が来た際、即座に原産性の根拠データを取り出せるフォルダ構成にしておく。

第7段階 訂正・再発給・取消:上書きではなく「置換」

ここが紙との最大の違いです。電子COにおいて訂正とは、**「古いCOをシステム上で無効化(取消)し、新しい番号のCOを発行する」**作業を指します。ASEANの運用規定でも、再発給時は旧証明書の取消処理が必須とされています。

✅ 実務の対策

  • 再発給が発生した場合、輸入者と通関業者に対し「古いCO番号は無効になった」ことを確実に伝える緊急連絡ルートを確保する。
  • 社内台帳において、古いCOを「無効(Void)」としてマークし、誤って使用されないよう管理する。

保存と監査対応:保存すべきは「ファイル」だけではない

電子COの保存において、「PDFファイルさえあればいい」という考えは危険です。事後調査(検認)や監査に耐えるためには、以下の情報セットが必要です。

  1. 申請時の入力データおよび添付した根拠資料
  2. 発給された電子COデータ(PDF含む)
  3. 承認や訂正、取消に関するシステム上の履歴(ログ)

ASEAN等の協定や国内法では、数年単位(例:日本では原則5年または7年)の保存義務が課されています。電子データは紙と異なり、保存期間中の「可読性(いつでも読める状態)」を維持することも重要です。

  • 対策①: 保存単位を「COファイル単体」から、インボイスや根拠資料を含めた「案件フォルダ」単位へ拡張する。
  • 対策②: 法定保存期間を満たすバックアップ体制を構築する。

電子CO導入で陥りやすい3つの失敗

1. 紙を出せばなんとかなるという思い込み

シンガポール税関などの案内にもある通り、電子化が全面的に進んだ協定では、正当な理由なく紙の証明書を提出しても拒否される場合があります。

👉 対策:協定および相手国の最新の運用ルール(e-CO必須か、紙も可か)を常時確認する。

2. 再発給時の伝達ミス

修正版(新しいCO)を送ったつもりでも、現場に伝わっておらず、無効化された古いCO番号で申告してしまい、通関が止まるケースです。

👉 対策:再発給時は「新旧番号の対照表」を付けて連絡するルールにする。

3. 検証(事後調査)への準備不足

電子化により発給は早くなりますが、原産性の根拠が不要になったわけではありません。日本税関も警告している通り、根拠が確認できなければ特恵税率は否認されます。

👉 対策:発給スピードに甘えず、根拠資料の整備(ドシエ化)を申請とセットで行う。


まとめ:電子COの本質は「状態管理」への移行

電子COの価値は、単なるペーパーレス化やコスト削減にとどまりません。その本質は、証明書が「物理的な紙」から、検証可能で追跡可能な「データ」へと進化することにあります。

WCOやICCが推進するこの流れに対応するためには、単にシステムを導入するだけでなく、申請から保存、そして万が一の取消に至るまでのライフサイクル全体を、業務フローとして再設計することが求められます。

「データとしての証明書」を正しく管理できる企業こそが、通関トラブルを未然に防ぎ、グローバルなサプライチェーンを安定させることができるのです。

何が起きたのか:新設されたHTS先端半導体などに対して追加関税の骨格

米国は2026年1月15日から、特定仕様の先端半導体などに対して、HTS(米国関税分類)上の新しい追加関税枠を立ち上げました。ポイントは、半導体という広い括りではなく、HTSコードと性能指標で絞り込んだうえで、用途によって課税か非課税かを分ける、という設計になっている点です。(The White House)

以下、ビジネス実務で誤りやすい順に整理します。


1. 何が起きたのか:新設されたHTS追加関税の骨格

2026年1月14日付の大統領布告(通商拡大法232条)により、付属書(Annex)で定義される「Covered Products」に25%の追加関税を課す仕組みが導入されました。適用開始は米東部時間で2026年1月15日午前0時1分以降の輸入申告です。(The White House)

この措置はHTSのChapter 99(いわゆる追加関税などの臨時枠)に新設された見出し番号で実装されています。中心は9903.79.01で、これが今回の「HTS追加関税」の主戦場です。


2. 対象は「半導体一般」ではない:HTSコードと性能で極小化

今回の「半導体(semiconductor articles)」は、まずHTSコードが限定されています。

対象になり得るHTSコード(米国側の定義上の入口)
・8471.50
・8471.80
・8473.30

次に、輸入品が「ロジックIC」または「ロジックICを含む物品」で、かつ性能指標(TPPと総DRAM帯域幅)が次のいずれかを満たす場合に、追加関税の議論に入ります。

性能条件(いずれか)
・TPPが14,000超17,500未満 かつ 総DRAM帯域幅が4,500GB/s超5,000GB/s未満
・TPPが20,800超21,100未満 かつ 総DRAM帯域幅が5,800GB/s超6,200GB/s未満

TPPの計算やDRAM帯域幅の定義も米国側が細かく文章で定義しており、メーカー公表値の扱い方まで書かれています。ここを押さえずに「該当しないはず」と判断すると、通関で止まる典型パターンになります。


3. 新設されたChapter 99見出し番号:課税と非課税は用途で分岐

今回のChapter 99は、ざっくり言うと次のロジックです。

9903.79.01:25%追加関税(本丸)

性能条件を満たす「semiconductor articles」の基本形として、通常税率に加えて25%が上乗せされます。

9903.79.02:同じHTSコード帯だが性能条件を満たさない場合

8471.50/8471.80/8473.30に分類されるが、性能条件を満たさない品目は9903.79.02側で整理されます。実務的には、対象HTSコード帯の貨物は「条件を満たすかどうか」を申告上も切り分ける設計です。

9903.79.03〜9903.79.09:性能条件は満たすが、用途要件で除外

大統領布告は、米国内データセンター用途、修理交換、研究開発、スタートアップ用途、非データセンターの民生用途、非データセンターの民間産業用途、公共部門用途などは関税対象外としています。HTS上はそれぞれ9903.79.03〜9903.79.09に振り分ける設計です。(The White House)

ここで重要なのは、除外用途の定義が一部すでに文章で置かれている点です。例えば「U.S. data center」はAI向けの新規負荷が100MW超などの条件が入っています。研究開発の定義や、スタートアップの定義(米国法上のemerging growth company参照)も明記されています。


4. 関税の重複と優先順位:足し算にならない領域がある

この232条半導体関税は、同じく232条の他品目(鉄鋼・アルミ・自動車等)と重複する場合は、原則として本件が優先され、他の232条は適用しない、という構造になっています。さらに、相互関税など一部のIEEPA系の関税も適用除外と整理されています。(The White House)

一方で、反ダンピング・相殺関税など、別建ての貿易救済関税は引き続き課され得る、というのがChapter 99側の基本姿勢です。


5. 通関実務で効くポイント:CBPガイダンスが示す落とし穴

CBP(米税関)は、エントリー上のHTS番号の並び順と、複数のChapter 99番号を併記する場合のルールを明示しています。複数の追加関税を1つの番号にまとめて計上することは不可で、どのHTS番号にどの税額が紐づくかを分けて報告する必要があります。(GovDelivery)

さらに実務的に効くのが、相互関税の免除申告との関係です。CBPは、8473.30で9903.79.01が適用されるケースでは、相互関税免除のために9903.01.33を使うべき、といった細かい指示を出しています。ここを誤ると、免除の取り回しが崩れます。(GovDelivery)

加えて、次の2点は資金繰りに直撃します。
・ドローバック(関税還付)の対象外
・FTZ(外国貿易地域)に入れる場合、原則としてprivileged foreign扱いが必要 (The White House)


6. 日本企業が今すぐやるべき実務整理

日本側の輸出企業にとって、関税を納めるのは米国の輸入者ですが、契約条件次第で負担は売価に跳ね返ります。特にDDPや価格調整条項が弱い取引では、実害が顕在化します。

最短で効く対応は次の通りです。

  1. 自社品が該当HTS帯(8471.50/8471.80/8473.30)に入っているか、米国側の申告実績で棚卸し
  2. 仕様確認に必要なメーカー資料を、TPPと総DRAM帯域幅の観点で再整理(資料が弱いと通関遅延リスクが上がる)
  3. 用途の確認と証跡設計(どの9903.79.03〜.09で申告するか、輸入者・ブローカーと事前に合意)(The White House)
  4. 申告フローの点検(Chapter 99の順序、相互関税免除番号の使い分け、税額の紐づけ)(GovDelivery)
  5. ドローバック不可を前提に、価格・在庫・FTZ運用の再設計 (The White House)

7. 今後の焦点:Phase 1で終わらない可能性

大統領布告は、今回を二段階の第一段階と位置づけ、交渉の進捗報告(90日)や、より広範な関税・関税相殺プログラムの検討余地を明記しています。2026年7月1日までにデータセンター向け市場のアップデートを行い、措置の見直しを判断する流れも書かれています。(The White House)


米国USMCAの事後請求と還付手続


輸入時にUSMCA優遇を申告し忘れた、またはサプライヤーから原産性の確証が遅れて届いた――こうした場面でも、米国では一定の要件を満たせば、事後にUSMCA優遇を請求し、関税などの還付を受けられます。
実務上のポイントは、「輸入日から原則1年以内」という期限管理と、事後請求に用いる書類の作り込みです。law.cornell+1

本記事では、ビジネス現場で迷いやすい「どの手段を使い」「何を揃え」「どう進めるか」を、USMCA実施規則(19 CFR Part 182)をベースに、整理していきます。govinfo+1


1. USMCA優遇申告は2つのルート

USMCA優遇を享受する方法は、大きく2つのルートに分かれます。


1-1. 輸入時に申告するルート

米国側でUSMCA優遇を輸入時に申告する場合、エントリーサマリー上でHTSUS品目番号に特別プログラム表示の「S」または「S+」を付すことが基本です。[worldtradelaw]​
この輸入時申告は、輸入者・輸出者・生産者のいずれかが作成したUSMCA原産地証明(Certification of Origin)に基づいて行われます。customsmobile+1

USMCAでは、Merchandise Processing Fee(MPF)の免除も、「USMCA優遇の申告がなされていること」を前提として整理されており、輸入時に正しく申告を行うことが最もシンプルな運用です。butzel+1


1-2. 事後に請求して還付を受けるルート

輸入時点でUSMCA申告をしていなかった場合でも、その貨物が「輸入時点でUSMCA原産品となり得た」のであれば、輸入者は輸入日から1年以内に事後請求を行い、過納関税の還付を求めることができます。old.govregs+1
この事後請求は、19 CFR Part 182のSubpart D(Post-importation duty refund claims)に規定されており、いわゆる「1520(d)クレーム」として整理されています。law.cornell+1


2. 期限は「輸入日から1年」

USMCA事後請求の核心は、「輸入日から1年以内」という明確な期限です。govinfo+1
エントリーサマリー作成日や清算日ではなく、「輸入日(date of importation)」を基準として社内管理するのが安全です。
システム上はこの日付に紐づけてリマインドを設けると、期限管理の漏れを防ぎやすくなります。[law.cornell]​


3. 事後請求で求められる「4点セット」

USMCAの事後請求は、港での紙提出・電子提出のいずれでも認められ、次の4点を出す構成になります。[govinfo]​

  1. 当該貨物が輸入時点でUSMCA原産品であった旨の宣言と、対象エントリー番号およびその輸入日
  2. 19 CFR 182.12に準拠したUSMCA原産地証明(Certification of Origin)の写しlaw.cornell+1
  3. エントリーサマリーなどの控えを他者へ提供したか、その有無と提供先に関する情報
  4. 抗議申立て・請願・再清算要請など他の救済手続を既に行っているかどうか、行っている場合はその番号と日付[govinfo]​

実務的につまずきやすいのは、

  • 2)の証明書そのものの要件充足
  • 3)4)の「周辺ステータス確認」

です。
輸入者・通関業者だけで完結しないことも多く、輸出者や生産者まで巻き込んだ情報連携設計をあらかじめ決めておくと、事後請求の処理がスムーズになります。customsmobile+1


4. USMCA原産地証明書(Certification of Origin)の要件

USMCAでは定型フォームは要求されていませんが、記載要件は場合によってはNAFTA時代より煩雑で、証明書の出来が還付可否に直結します。law.cornell+1


4-1. 形式と保有タイミング

USMCA原産地証明は、所定フォームである必要はなく、書面またはCBPが認める電子手段により作成できます。customsmobile+1
USMCA優遇を主張する場合には、請求時点で輸入者が当該証明書を保有していることが前提となり、CBPへの提示義務があります。law.cornell+1

また、証明内容をインボイスなどの他書類に記載することは可能ですが、「USMCA域外で発行された商業書類に載せた証明」は枠外とされています。[customsmobile]​
たとえば日本本社発行インボイスにUSMCA証明文言を載せる運用は、要件不充足のリスクが高く、業務マニュアルで禁止・回避することが望ましいです。[customsmobile]​


4-2. 言語

原産地証明は、英語・フランス語・スペイン語で作成できます。[law.cornell]​
英語以外で作成する場合、CBPが必要と認めれば英訳の提示を求められるため、審査スピード重視なら北米グループで英語ベースに統一しておく方が無難です。[law.cornell]​


4-3. 必須データ要素

USMCA原産地証明には、少なくとも次のような情報を含める必要があります。customsmobile+1

  • 証明者が輸入者・輸出者・生産者のいずれであるか
  • 証明者の氏名・住所および署名者の情報
  • 貨物を特定できる十分な品名記述と、少なくともHS6桁レベルの分類番号
  • USMCA General Note 11に基づく適用原産地規則(例:CTSH、RVCルール等)の明示[govinfo]​
  • 単発(単一出荷)か、複数出荷にまたがるブランケット証明かの区別(ブランケット期間は最長12か月)old.govregs+1
  • 規則で定められた宣誓文言と署名・日付law.cornell+1

特に、HS6桁以上と適用原産地規則の明確な記載は、検証や事後請求時の説得力に直接結びつくため、社内チェックリストに組み込むとよいでしょう。govinfo+1


4-4. 有効期間

適切に作成・署名された原産地証明は、作成日から4年間有効として取り扱われます。old.govregs+2
ただし、USMCA事後請求の期限自体は「輸入日から1年」であり、証明書の有効期間が長くても、事後請求の期限が拡張されることはありません。law.cornell+1


5. どの手段で進めるべきか(PSC/USMCA事後請求/Protest)

USMCA優遇に関連して、現場では複数の手段が並びがちです。以下の表をベースに、用途を整理すると混乱しにくいです。pcbusa+1

5-1. 手段の整理表(わかりやすいフォント・スタイルで運用想定)

目的使う手段主な期限条件向いている局面
まだ清算前のエントリーで、輸入時申告を訂正してUSMCA優遇を反映したいPost Summary Correction(PSC)輸入日から300日以内 かつ 実行清算日(liquidated)の15日前まで(早い方)ship4wd+1未清算エントリーに対し、比較的早くUSMCA未申告に気づいた場合
輸入時にUSMCA申告し忘れた優遇を後から取り戻したいUSMCA事後請求(1520(d)クレーム)輸入日から1年以内law.cornell+1清算済み、またはPSC期間を過ぎたが、当初輸入時点で原産性があった場合
清算結果などCBPの判断そのものを争いたいProtest(抗議申立て)実行清算日から原則180日以内[pcbusa]​分類や評価等で争点があり、CBP判断の是正を求めたい場合

USMCA事後請求は、ほかの救済手段と並行して利用できる独立の「1年内還付請求権」として整理されており、清算済みエントリーについても再清算(reliquidation)を通じて還付を実現し得ます。govinfo+2

一方で、同一エントリーに対して Protest など他の手続が係争中の場合、CBPがUSMCA事後請求の審査を保留する運用もあり得るため、手段とタイミングの組み合わせは慎重に設計すべきです。ecfr+1


6. MPFは事後請求でも還付可能なのか

この点は、社内ルールが古いまま残るケースが多く注意が必要です。

USMCA発効当初、CBPのFAQなどで「1520(d)クレームではMPFの還付は認めない」という案内がされていました(所得再調整法520(d)に基づく返金との整理違いから生じたとも説明されています)。ghy+1
しかし、その後の技術修正(Technical Amendment)により、USMCA事後請求においてもMPFの還付を認める方向で法改正が行われ、その改正はUSMCA発効日である2020年7月1日に遡及適用されました。govinfo+1

実務としては、

  • 対象となる輸入期間
  • 適切な申請経路(1520(d)クレームとして適切に組み込むか)
  • CBPシステム側の処理前提

が絡むため、古いプロジェクトから続くマニュアルや税関業者指示書が「USMCAの事後請求ではMPFは還付されない」と書かれている場合は、最新法令・規則を根拠に見直す価値があります。butzel+1


7. CBP側の処理フロー

CBPがUSMCA事後請求を受領すると、まず対象エントリーの清算ステータスを確認します。

  • 未清算
  • 清算済み
  • 清算が最終確定済み

のいずれであるかを確認の上、判断が進められます。govinfo+1

  • 未清算エントリー:請求が認められれば、清算時にUSMCA優遇を反映させる
  • 清算済みエントリー:請求が認められれば、再清算(reliquidation)によって還付措置を実施するgovinfo+1

事後請求が否認されやすいのは、

  • 1年期限(輸入日から)の徒過
  • 4点セットや他の提出要件の不充足
  • 検証で原産性が否定された場合(例:原産地証明に虚偽または不正確な情報があった場合)ecfr+1

といったケースです。


8. 2026年2月以降、還付は原則電子化へ

「請求はできても、還付が滞る」というリスクを減らすために、還付受領の側を押さえておく必要があります。

CBPは、2026年2月6日以降、原則すべての還付を日本の通関文化でいう「電信送金」に近いAutomated Clearing House(ACH)による電子送金で行う制度へ移行する旨、連邦官報(2025-24171号)で暫定最終規則として公表しました。federalregister+1
これにより、紙の小切手による還付は例外的な場合を除き廃止となり、ほとんどの還付が銀行口座への直接入金として処理されることになります。livingstonintl+1

具体的には

  • ACEポータルでのACH Refund口座の登録
  • 米国外の輸入者を対象に、米国口座の開設、もしくはCBP Form 4811による第三者受領スキームの検討

が論点となります。fedex+2

USMCA事後請求で還付額が大きくなる可能性のある企業ほど、「CBPへの請求手続き」と同等の重要度で、受領側の口座設計と社内承認・統制を、2026年2月6日より前に整えておくことが推奨されます。govdelivery+1


9. 監査・検証に耐えるための最低ライン

USMCA優遇の主張を行う輸入者は、規則上、輸入日から少なくとも5年間、その根拠となる記録と文書を保持する義務があります。worldtradelaw+1
ここに含まれる資料には、単に原産地証明だけでなく、輸送・積み替えに関するトラックレコーディングなどの管理記録も含まれます。ecfr+1

また、USMCA域外を経由した場合など、CBPが条件充足の証拠を求めた際に、それらを提示できないとUSMCA優遇そのものが否認される可能性があります。[ecfr]​
さらに、輸入者は自らの主張の真実性に責任を負うとされ、証明書が不正確または無効と合理的に疑われる事情があれば、即座に申告を訂正し、追徴があれば納付する義務があります。ecfr+1

こうした訂正を自発的に行った場合のペナルティ軽減枠組み(Prior Disclosure 等に相当する整理)も、USMCA規則と一般通関規則の枠組みのなかに盛り込まれています。worldtradelaw+1


10. よくある失敗と具体的な回避策

この章は、現場レベルで実務担当者が「チェックリストやマニュアルに貼り付ける」イメージで書いています。

  • 原産地証明にHS6桁以上の記載がない、または適用原産地規則の記載が曖昧
    → 19 CFR 182.12の必須要素をチェックリスト化し、サプライヤー作成証明フォーマットに組み込む。customsmobile+1
  • ブランケット証明の期間が12か月を超えて設定されている
    → 証明書テンプレートで「最大12か月」と制限を明記し、開始日・終了日の妥当性をシステム/Excelなどでの検証ロジックで補う。govinfo+1
  • 日本本社発行インボイスにUSMCA証明を載せ、USMCA域外発行書類として認められないリスク
    → 専門フォーマットとしての独立証明書を使い、USMCA域内の当事者が作成することを運用で明確に指示する。[customsmobile]​
  • 事後請求で「エントリー控えの提供有無」「抗議・再清算の係属状況」の確認が抜け、CBP側で

タイ政府はEUとのFTA交渉を最優先事項に位置づけ、英国とのFTAも積極推進しています

タイのFTA戦略概要

タイ商務省貿易交渉局は2025年12月、FTA戦略を発表しました。EUとのFTAを最優先とし、韓国やASEANカナダFTAも並行推進します。これによりFTA締結数は17件に達し、貿易カバー率を60%超に高めます。esf+1

第8回EU交渉会合は2026年2月2日から6日までタイで開催予定です。全24章中8章が妥結済みで、年内結了を目指します。政府調達、知的財産、持続可能な貿易が焦点です。pattayamail+1

EU・英国FTAの進捗状況

EUはタイの第4位貿易相手で、2024年の貿易額は435億ドルです。主要輸出品は電子機器、ゴム製品、自動車部品で、輸入は機械や医薬品が中心となります。[jetro.go]​

英国とのFTA交渉はEnhanced Trade Partnershipに基づき、2026年初頭のJETCO会合で加速します。英国商工会議所はEU並みの関税優遇を求め、タイ輸出業者の競争力維持を強調しています。thaiexaminer+1

これらFTA発効で、タイの対EU輸出が強化され、電子部品や食品加工業に恩恵が及びます。[nationthailand]​

ビジネスマンへのビジネス影響

EU市場アクセス向上により、タイ製造業の関税削減が実現します。例えば、自動車部品輸出企業はEUの厳格基準クリアでシェア拡大可能です。jetro+1

英国FTAはBrexit後の代替ルートを提供し、宝石や鶏肉加工品の輸出機会を増やします。サプライチェーン多角化で米国関税リスクを軽減できます。bilaterals+1

投資家はサービス貿易開放を注視し、タイ現地生産で欧州進出を検討すべきです。[nationthailand]​

今後の対応策

企業は第8回交渉監視とルール適合を確認します。商工会議所やJETRO活用で最新情報を入手し、早期市場参入を準備してください。nationthailand+1

FTA活用でGDP押し上げ効果が期待され、2026年貿易額1390億バーツ増の見込みです。[nationthailand]​

韓国への関税25%引き上げ表明を実務で読む。米韓合意「不履行」批判が企業に与える波紋

2026年1月下旬、米国で「韓国からの輸入に対する関税を25%に引き上げる」という発言が報じられました。政治ニュースとして消費すると見落としがちですが、ビジネスの現場では、調達コスト、価格交渉、出荷計画、通関対応が同時に揺れます。

本稿では、報道で示されている論点を整理しつつ、企業が取るべき実務対応を、できるだけ具体的にまとめます。

背景整理 何が起きたのか

報道の共通項を、実務に必要な粒度で並べると次の通りです。

・米韓間で一定の通商合意が成立し、韓国向け関税が引き下げられていた
・その見返りとして、韓国側の対米投資やエネルギー購入などがパッケージとして語られていた
・しかし米側は、韓国側の履行が不十分だと主張し、関税を25%へ引き上げる考えを示した
・韓国側は、正式な通知を受けていないという趣旨の反応も報じられた

この時点で重要なのは、誰の主張が正しいかではありません。企業にとっての本質は、関税が交渉カードとして再び前面に出てきたこと、そして発効日や適用範囲が流動的になり得ることです。

なぜ今、25%なのか。政治より先に見るべき構造

今回の動きは、関税を使って相手国の国内手続きを動かす圧力設計として読むのが実務的です。二国間の合意は、相手国の議会や制度手続きを通らないと実行に移せない場合があります。一方で、米国側は関税を早く動かせる局面がある。ここに非対称性が生まれます。

企業にとっての教訓は次の2点です。

・相手国の国内政治が止まると、関税が再び上がる前例になり得る
・合意の法的形式や国内での位置づけが曖昧だと、実務スケジュールが読みにくくなる

影響を受けやすい業界 自動車だけでは終わらない

報道では、自動車、木材、医薬品などが例として挙げられています。ただし、どこまでが対象になるのかは、表現の幅があり、品目限定なのか、より広範囲に及ぶのかが読み取りにくい局面です。

ここでやってはいけないのは、対象が一部に限られる前提で、対策を遅らせることです。現場は、対象が広い場合の損益耐性まで含めて準備したほうが安全です。

企業が直面する実務論点 契約、価格、通関が同時に揺れる

国別関税の変動は、だいたい次の順番で現場を直撃します。

  1. 取引条件の再交渉
    関税は輸入者負担が原則でも、実際には価格に転嫁されます。関税転嫁条項が弱い契約ほど、短期間で粗利が削られます。
  2. 出荷計画の見直し
    発効日や適用範囲が確定しない局面では、前倒し出荷、在庫積み増し、代替ソース探索が同時進行になります。
  3. 原産地と品目の再点検
    国別関税は原産地判定に依存します。韓国由来とみなされる条件、第三国工程を挟む場合の判断は、サプライチェーン設計そのものに跳ね返ります。
  4. 追加措置との重なり
    制度によっては、別の追加関税と重なり、合算の税負担が想定以上になるリスクがあります。対象品目の棚卸しと影響試算は必須です。

日本企業の見立て 当事者でなくても影響は回り込む

日本企業にとっての主な影響経路は3つあります。

・韓国の対米輸出が鈍ることで、部品や素材の需要構造が変わる
韓国メーカー向けの中間財を供給している企業は、米国向けラインの調整が連鎖し得ます。

・米国市場での競争条件の変化
韓国製品の価格が上がれば、同等品を供給できる企業には商機が生まれます。一方で、韓国企業の現地化が加速すると、調達先が米国内へ移る圧力も強まります。

・北米サプライチェーンの再編コスト
多元化は中長期では強靭化につながりますが、短期では監査、仕様変更、認証、物流設計などのコストが先に発生します。

今すぐやるべき実務チェックリスト

発効日や正式通知が流動的なほど、準備は前倒しが安全です。次のチェックは、今日から始められます。

  1. 対象品目の洗い出し
    自社製品や部材が、韓国原産として米国へ入る経路を棚卸しします。自動車関連、木材関連、医薬品関連は優先度を上げます。
  2. 契約条項の確認
    関税転嫁条項、価格改定トリガー、インコタームズ、引渡し時点を点検し、再交渉が必要な取引を特定します。
  3. 通関面の即応
    品目分類の再確認、原産地を裏づける証憑、米国側輸入者との連絡ルートを整備します。
  4. シナリオを2段で作る
    A: 一部品目のみ25%
    B: 広範な品目が25%
    両方でコスト影響、価格改定の必要幅、代替案を試算します。
  5. 政策カレンダーの監視
    相手国の手続き進捗、米国側の正式な手続き、施行日の公表を追跡し、社内のアラート条件を決めます。

まとめ 政治コメントより先に、現場の耐性を作る

今回の「韓国への関税25%」は、韓国向けニュースであると同時に、合意の国内手続きが遅れれば関税が再び動くというシグナルでもあります。報道時点では、適用範囲や開始時期が読み切れない要素が残り、だからこそ不確実性が最大のコストになります。

企業側が取るべき合理的な動きは、政治的な評価ではなく、対象範囲の棚卸し、契約と通関の即応設計、そして複数シナリオでの損益耐性づくりを前倒しで進めることです。

EUとインドがFTA妥結 人口約20億人市場が動く。広がる「米抜き貿易圏」をビジネスで読み解く

2026年1月27日、EUとインドは自由貿易協定(FTA)の交渉妥結を公式に発表しました。
EU・インド双方にとって過去最大級の通商合意であり、人口規模で約20億人、世界GDPの約4分の1に近い市場を一体としてつなぐ枠組みになると説明されています。

もっとも、現時点では交渉妥結であり、今後は法的精査(リーガルスクラビング)と翻訳を経て、EU側は加盟国および欧州議会、インド側は国内手続きを完了させる必要があります。
このため、企業の実務としては、協定署名・批准から発効まで一定のタイムラグが生じる前提で準備を進めることになります。

今回のFTAは、単に「関税を下げる」だけの合意ではありません。
原産地規則、通関手続き、標準・認証(SPS・TBT)、デジタル貿易、サービス、労働・環境、紛争解決までを含む包括的な枠組みであり、企業の競争条件そのものを更新するタイプの合意として位置づけられています。


1. まず数字でつかむ合意のスケール

1-1. 貿易規模

EUの整理では、EUとインドの物品貿易は2024年時点でおよそ1,200億ユーロ規模とされています(対インド輸入約710億ユーロ、輸出約490億ユーロ)。
インド政府の発表によれば、2024-25年度の物品貿易額は1365億ドル、インドの対EU輸出は約758億ドルという規模感です(年度・通貨が異なるため単純比較はできません)。

1-2. 関税削減の大枠

欧州委員会の chapter‑by‑chapter サマリーによれば、EUは関税項目の90%超(価値ベースで約91%)の関税を撤廃し、インドは関税項目の86%(価値ベースで約93%)を撤廃する方針です。
さらに部分自由化も含めると、貿易価値ベースの自由化カバー率は、インド向けEU輸出が96.6%、EU向けインド輸出が99.3%に達すると整理されています。

EUのファクトシートでは、EUからインド向けの物品輸出の96.6%に対して関税が撤廃または削減され、EU企業は年間最大40億ユーロ規模の関税負担軽減が見込めると説明されています。
この水準は、インドがこれまでいずれのパートナーにも与えてこなかった規模の市場開放だと強調されています。


2. 実務で効く論点は「関税」より「条件」と「ルール」

2-1. 関税は段階撤廃と例外設計が前提

【インド側】

ロイターの要約では、インドはEUとの貿易品目の約30%で関税を即時ゼロにし、EUからの輸出の9割超に対し関税撤廃または削減を行うとされています(品目数と貿易価値が混在して語られるため、一次資料との突き合わせが重要です)。
インド政府のファクトシートでは、インドは対EU輸入について関税項目ベースで約92.1%を自由化対象とし、即時撤廃と5年・7年・10年の段階撤廃を組み合わせる設計であると説明されています。

【EU側】

同じくロイターによれば、EUは協定発効時点でインド製品の約90%に対する関税を撤廃し、7年以内にゼロ関税の対象を約93%まで拡大する見通しです。
EUの平均関税率が現行の約3.8%から約0.1%まで低下するとの試算も報じられており、この点はロイターの推計であることを明示しておく必要があります。

インド政府の発表でも、EU市場に対するインド産品の優遇アクセスが関税項目の約97%(貿易価値ベースで約99.5%)に及ぶとされ、とくに労働集約型セクターを中心に即時ゼロ関税のインパクトが大きいと説明されています。

ビジネス上の結論
企業にとって重要なのは、「関税が下がる」事実そのものよりも、「いつ、どの品目が、どの条件で、どれだけ下がるか」です。
とくに数量枠(TRQ)、段階撤廃の年次スケジュール、例外品目は、価格交渉・供給計画・設備投資の前提条件そのものになります。


2-2. 自動車は最大の象徴。ただし数量枠と価格条件付き

今回の合意で最も注目を集めている分野のひとつが、自動車関税です。
報道ベースでは、インドがEUからの乗用車輸入に課している最大110%の関税を段階的に引き下げ、まず40%程度まで下げた上で、最終的に10%まで低減させる設計とされています。

ロイターなどの報道では、以下のような条件が伝えられています。

  • 年25万台の輸入枠内で、5年かけて関税を10%まで引き下げる。
  • 一定価格(例:1万5千ユーロ)未満の車両は対象外となる。
  • 最終的な数量枠は、内燃機関車16万台、電気自動車(EV)9万台に区分される。
  • 枠外の輸入については、関税の大幅削減は適用されない。
  • CKDキット(ノックダウン輸入)は今回の優遇関税の対象外。
  • EVに対する本格的な関税削減は、協定発効後5年目から始まる。

EU側のファクトシートでも、EU車に対して最終的に10%の関税を適用する一方、年間25万台のクォータ(数量枠)が設定される旨が明記されています。

ここから言えること
完成車ビジネスでは関税引き下げのインパクトが大きい一方、数量枠と価格条件がボトルネックになり得ます。
販売増を前提とした中長期計画ほど、「誰が、どのようなスキームで枠を確保するのか」という実務設計と、部品やサービスを含む全体最適のシナリオが重要になります。


2-3. 原産地規則は「第三国迂回」を塞ぎ、サプライチェーン再設計を迫る

EUのchapter‑by‑chapterサマリーによれば、原産地規則(RoO)は近年のEU FTAと整合的な構造で、「相手国域内で十分な加工が行われた製品のみ」を優遇対象とする原則を採用しています。
また、企業による自己証明(statement on origin)を軸とし、電子的な手続き(ポータル経由の提出・審査)を含む近代的な原産地証明枠組みが導入されると説明されています。

インド政府の説明でも、製品別原産地規則は既存サプライチェーンとの整合性を意識しつつ、自己証明を活用してコンプライアンスコストを抑える方向性が示されています。

実務インパクト
FTAの恩恵は自動的には降ってきません。
原産地要件を満たすように部材調達・生産工程・ロジスティクスを再設計できる企業ほど、優遇税率を前提とした価格競争力を確保しやすくなります。要件を満たせない場合は、従来どおり通常関税が適用される点に注意が必要です。


2-4. 規格と認証の重要度はむしろ上がる

EU側サマリーでは、SPS(衛生植物検疫)分野について、EUは自らの高い保護水準と科学的根拠に基づく厳格な基準を「例外なく」維持することが明記されています。
TBT(貿易の技術的障害)については、WTO協定整合性に加え、新たな技術規則を導入する際に60日間のパブリックコメント期間と、公布から施行まで原則6か月の猶予期間を設けるなど、透明性を高める仕組みが盛り込まれています。

また、適合性評価に関する作業部会を設け、インドの品質管理命令(Quality Control Orders)も継続的な議題として扱うことで、相互の規格・認証制度の調整を図る枠組みが示されています。

ここがポイント
関税が下がるほど、次の差別化要因になるのは「規格適合のスピードとコスト」です。
認証取得、試験体制、監査対応、文書管理などの体制整備は、とくに製造業にとって中長期の競争力に直結する先行投資になっていきます。


2-5. サービスとデジタルは「第二の本丸」

【サービス】

EUサマリーによると、2024年のEU・インド間サービス貿易は約598億ユーロ規模であり、今回の協定はGATSをベースにしつつ、より「現代的」なルールを取り込む設計です。
具体的には、WTOの「サービス国内規制イニシアティブ」の要素の反映、金融サービス分野の枠組み整備、経営陣に関する国籍要件や現地拠点要件の透明性向上、専門職人材の一時的な移動に関する規定などが含まれます。

ロイターは、EUがインドに対して144のサービス分野へのアクセスを認め、インドは金融・海運・通信などを含む102の分野をEUに開放すると報じています。
インド政府も、EU側が144のサービス分野でより深い約束(ディープ・コミットメント)を行ったと説明しています。

【デジタル】

EUサマリーによれば、デジタル貿易章は、消費者保護や事業者の法的安定性の向上に加え、ソースコードの強制開示から企業を保護する規定や、迷惑通信(スパム)対策などを含んでいます。

実務インパクト
製造業であっても、販売・保守・データ分析がデジタル・サービスにシフトするほど、このサービス・デジタル章の重要性は増します。
IT・BPO・プロフェッショナルサービスだけでなく、製造業のサービス化や越境データの取扱い・契約実務にも波及効果が見込まれます。


2-6. サステナビリティと執行は「努力目標」ではなく契約条件へ

EUサマリーによると、「貿易と持続可能な開発(TSD)」章には、気候変動、森林・生物多様性の保護、違法伐採・違法漁業対策、労働者の権利(ILO中核的原則)、ジェンダー平等などが含まれ、法的拘束力と執行メカニズムが付与されます。
紛争解決についても、独立したパネルによる審査、拘束力ある判断、透明性の高い手続きなどを備える枠組みが示されています。

【CBAMの扱い】

ロイターは、EUの炭素国境調整措置(CBAM)について、インドに対して特別な例外は設けない一方、インド企業のカーボンフットプリント検証を支援する技術グループを設置し、EUが約5億ユーロ規模の技術・資金支援を行う枠組みが検討されていると報じています。
鉄鋼分野では、EUの無税輸入枠について、インドに対し年間160万トンの無税アクセスが認められる見通しが示されています。

ビジネス上の含意
脱炭素と人権は、もはや「広報テーマ」ではなく、入札要件・取引条件・監査項目として売上・収益に直結しやすい領域に変わりつつあります。
とくにEU向けサプライチェーンに関わる企業にとっては、排出量データの管理、トレーサビリティ、第三者検証を含む運用を前提とした体制整備が安全側の選択になります。


3. 広がる「米抜き貿易圏」をどう捉えるか

今回の合意を、単にEUとインド(形式的にはEU27か国とインド)の二国間で関税を下げる枠組みとしてのみ見ると、本質を見落としかねません。
ロイターは、この合意が「米国との不安定な関係に備える」文脈で語られている点を指摘しており、協定全体が多極的な経済安全保障戦略の一部として位置づけられていることを伝えています。

同じくロイターは、EUがメルコスールとの通商合意を前進させ、インドも英国・ニュージーランド・オマーンなどとの合意を積み重ねてきた流れの中に、今回の合意を位置づけています。
通商ネットワークを多極化し、特定市場への依存リスクを低減する方向性が読み取れます。

今回のサミットでは、FTAだけでなく、安全保障・防衛パートナーシップの署名、イノベーション拠点やスタートアップ連携、モビリティ枠組みなども並行して合意されました。
EUの安全保障研究機関などは、ウクライナ侵攻や米国の不確実性増大を背景に、EUとインドの関係が「分野別に組み立てるモジュール型のパートナーシップ」に移行しつつあると分析しています。

ビジネスの結論
「米抜き」とは、反米という意味ではなく、市場アクセスとルール形成が複数極に分散して再編されることを指します。
米国の動向が引き続き重要である一方で、米国だけを前提にした供給網・投資最適化は相対的にリスクが高まり、EU・インドを含む多極的なシナリオ設計が不可避になりつつあります。


4. 日本企業が今すぐ着手すべき実務チェックリスト

4-1. 自社品目の関税スケジュールと数量枠を洗い出す

自動車、鉄鋼、農産品・食品は、数量枠や例外、段階撤廃の組み合わせで条件が複雑になりやすい領域です。
EUファクトシートや章別サマリー、インド側のファクトシートなど一次情報に沿って、自社のHSコード別に影響額を試算しておく必要があります。

4-2. 原産地規則から逆算して調達と工程を組み直す

どの国・地域で、どの程度の加工を行えば優遇対象になるのかを、品目別原産地規則から逆算して設計します。
自己証明や原産地確認の運用(ポータル利用、税関監査、検証フロー)まで含めたプロセスを、サプライチェーン・経理・法務の三者であらかじめ描いておくことが重要です。

4-3. 規格・認証・監査の体制を前倒しで整える

関税が下がるほど、規格適合のスピードが競争軸となります。
EUのSPS基準の厳格運用、TBT分野の透明性ルール、適合性評価の作業部会などを前提に、品質保証・法務・営業・ロジスティクスの連携を再設計しておくとよいでしょう。

4-4. 脱炭素と人権に関するデータ運用をサプライチェーン全体で整備する

CBAMや持続可能性条項は、コストだけでなく、取引条件・入札資格に直接的な影響を与えます。
排出量データの収集・算定・検証、トレーサビリティ管理、第三者認証の活用などを含めたサプライチェーン全体の運用設計を、EU向けビジネスの前提条件として位置づける必要があります。

4-5. サービスとデジタルを成長投資の中心に置く

サービス章・デジタル貿易章は、製造業に対しても大きなレバレッジを提供します。
欧州顧客向けの案件でインドのIT・BPO人材を組み込む、欧州の金融・物流事業者と連携してインド市場で三角形のソリューションを組むなど、「EU×インド×自社」の組み合わせを前提にしたビジネスモデル設計が求められます。

4-6. 発効までの時間軸を前提にした体制整備

法的精査と翻訳を経て、双方の批准を完了させるまでには、概ね1年程度を要するとの見立てが各種報道で示されています(具体的な月数は今後のプロセス次第)。
批准過程で文言や付属書が調整される可能性もあるため、最終テキスト公開後に再点検を行う責任部署(貿易実務・法務・経営企画など)をあらかじめ決めておくと、社内対応がスムーズになります。


5. まとめ

EUとインドのFTA妥結は、人口約20億人、世界GDPの約4分の1に近い巨大市場をつなぐだけでなく、デジタル、サービス、サステナビリティ、通関・原産地規則まで含めた「ビジネスのルールセット」を同時に更新する合意です。
米国を含まない形でも通商ネットワークが広がる局面では、企業側もサプライチェーン、投資、コンプライアンスの前提を多極化させることがリスク管理そのものとなっていきます。

中国、鋼材輸出に新たな許可要件 2026年1月から何が変わるのか

2026年1月1日から、中国は一部の鉄鋼製品について輸出時に「輸出許可証」を求める制度を開始します。対象はHS10桁ベースで約300品目とされ、原料から半製品、鋼板・コイル、めっき材、形鋼、鋼管など広い範囲をカバーします。輸出実務に直結するため、調達・販売・物流の現場が先に影響を受けやすいテーマです。 (ジェトロ)

本稿は、2026年1月27日時点で確認できる一次情報と信頼できる報道に基づき、制度の要点と実務対応を整理します。 (中国商务部)

要点サマリー

項目内容
施行日2026年1月1日
根拠文書商務部・海関総署 公告2025年第79号(文書日付は2025年12月9日、公表は12月12日)
対象一部鉄鋼製品(HS10桁で約300品目、詳細は公告添付リスト)
申請に必要な主要書類輸出契約、メーカー発行の製品品質検査合格証明
許可証の発給機関商務部および委託を受けた省級・一部副省級都市の商務主管部門など(企業属性で管轄が分かれる)
実務細則未規定事項は公告2024年第65号に従う

上記は、ジェトロの整理と中国商務部の公告本文に一致します。 (ジェトロ)

1. 何が変わったのか 輸出許可証が必要になる

今回のポイントは「鉄鋼の輸出が全面禁止になる」ではなく、対象品目を輸出する際に、通関前提として輸出許可証を取得し、税関手続で提示できる状態にしておくことが求められる点です。公告2025年第79号は、既存の「輸出許可証管理貨物目録(2025年)」を調整し、鉄鋼製品の一部を当該目録に追加する、と明記しています。 (中国商务部)

実務上は、次のどこかで詰まると出荷が止まります。

  1. 対象品目かどうか(HS10桁の判定、製品仕様の確定)
  2. メーカー品質証明の手当て(発行主体・記載内容・タイミング)
  3. 許可申請の受付・審査(申請窓口の確認、差戻し対応)
  4. 通関時の整合(申告HS、インボイス記載、許可証の一致)

制度は、輸出企業の社内手続ではなく、出荷そのものに影響する運用ルールです。 (中国商务部)

2. 対象範囲は広い 原料から完成品まで

ジェトロは対象をHS10桁で約300品目と整理しています。 (ジェトロ)
JOGMECやCISTECの解説でも、原材料・一次形状品(銑鉄、再生鉄鋼原料、鉄鋼くず等)から、半製品(ビレット、スラブ等)、熱延・冷延、めっき・コーティング、その他鋼材や鋼管まで、産業チェーン全体を網羅する構成である点が強調されています。 (JOGMEC 石炭資源情報)

ここで重要なのは、一般に「鋼材」と聞いて想起する薄板・形鋼だけではなく、半製品やスクラップ類も含み得る設計になっていることです。対象判定を甘く見ると、契約済みの出荷直前にストップするリスクが上がります。 (JOGMEC 石炭資源情報)

3. 申請に必要なもの 契約と品質証明が鍵

公告2025年第79号は、対象品目を輸出する際、輸出契約とメーカー発行の製品品質検査合格証明で許可を申請すると明記しています。 (中国商务部)

この要件は、現場に次の行動を迫ります。

  • 取引スキームの再設計
    例えば、商社が輸出者でメーカーが別の場合、品質証明の入手ルートと責任分界を契約に落とし込む必要があります。
  • 書類の整合管理
    品質証明に紐づくロット、規格、品名、仕様が、インボイスや通関申告とズレると差戻しの原因になります。
  • リードタイムの織り込み
    許可取得の所要日数は案件・地域でブレます。月末集中出荷やスポット案件ほど遅延が表面化しやすくなります。

制度の狙いとして「品質」を前面に出している点は、各種報道でも繰り返し言及されています。 (Reuters)

4. 誰が許可証を出すのか 窓口が分かれる

公告本文は、商務部および委託を受けた省級地方の商務主管部門、さらに一部副省級都市の商務主管部門などが分担して許可証を発行するとしています。加えて、北京で国務院国資委監督下の企業は商務部許可証局が発行し、それ以外は所在地の省級または副省級都市の主管部門が発行する、と管轄分岐も書かれています。 (中国商务部)

ここは日本企業側も無関係ではありません。なぜなら、許可取得の窓口が誤っていると、申請差戻しで出荷遅延になり、そのコストはサプライチェーン全体に転嫁されやすいからです。

5. なぜ今なのか 貿易摩擦と「量は増えたが値は下がる」構造

背景として複数の論点が重なっています。

  • 輸出量の増加と対外摩擦の増加
    JOGMECは、輸出価格の下落や低付加価値品の増加、反ダンピングなど貿易摩擦の増加に触れています。 (JOGMEC 石炭資源情報)
  • 国際的な保護主義の圧力
    ロイターも、増加する中国鉄鋼輸出が各国で反発を招いている点を背景として報じています。 (Reuters)
  • WTO整合性を意識した「監視・管理」手段
    ロイターは、中国商務部が本制度をWTOルールに沿うものと説明していること、輸出量の制限そのものではない旨を述べたことを報じています。 (Reuters)

ビジネス目線での読み方はシンプルです。中国が輸出の蛇口をすぐに締めると断定はできない一方、輸出フローを制度的に追跡し、品質証明を紐づけることで、今後より強い運用(対象拡大、審査厳格化、別制度との連結)に移行できる土台が整う、という点に意味があります。 (中国商务部)

6. 日本企業にとっての実務インパクト

中国から鋼材・鋼材加工品を調達する企業、または第三国向けに中国製鋼材を扱う商社・物流企業は、次の影響を見込むべきです。

  1. 納期リスクの増加
    許可取得が前工程として追加されるため、従来のリードタイム設計が崩れます。スポット輸送や短納期案件ほど影響が出ます。 (中国商务部)
  2. 契約実務の論点増
    契約条件に「輸出許可証の取得と提示」「未取得時の解除・遅延免責」「追加費用負担」「代替調達」などを明確化しないと、揉めやすくなります。
  3. HS判定の重要度が上がる
    対象品目がHS10桁で規定されるため、分類の揺れがそのまま通関可否に響きます。 (ジェトロ)
  4. 品質証明書の標準化圧力
    「メーカー発行の品質検査合格証明」が要件に入ったことで、従来のミルシート運用や検査体系が弱いサプライヤーは遅延要因になります。 (中国商务部)

7. 今日からできるチェックリスト

輸入者・購買側(日本企業)向け

  1. 調達品目が対象かをHS10桁で特定する
    現行のインボイスHSと、実際の仕様を突合する。
  2. サプライヤーに確認する
    対象なら、どの当局窓口で許可申請するのか、申請に必要な品質証明は誰がいつ発行するのか。
  3. 出荷条件を更新する
    出荷前に許可証写しの提出を求め、未取得時の対応(納期延長、代替、キャンセル)を条文化する。
  4. 物流と通関の手順を見直す
    ブッキング前に許可取得状況を確認するゲートを設ける。

輸出者・商社側(中国側サプライヤーを含む)向け

  1. 対象判定のワークフローを固定する
    設計変更・規格変更がある場合、HSと対象判定が変わる前提で管理する。
  2. 品質証明書のテンプレートと発行責任を決める
    ロット、規格、数量、品名が契約・インボイス・申告と一致するように統一する。
  3. 申請窓口を間違えない
    公告にある管轄分岐(商務部許可証局、地方商務主管部門、副省級都市など)を確認する。 (中国商务部)
  4. 細則は公告2024年第65号で補完される前提で読む
    同公告には、許可の申領、許可機関、通関使用回数に関する枠組みが示されています。 (中国商务部)
    ロイターは、鋼材の輸出許可について有効期間や通関での利用回数が論点になる旨も報じています。 (Reuters)

8. 今後の注視点

  • 対象リスト(HS10桁)の改訂有無
    制度開始後に、対象の微調整が入る可能性があります。 (中国商务部)
  • 審査運用の実態
    申請が集中する時期や地域で遅延が恒常化するか。
  • 品質要件の厳格化
    「品質証明が必要」という設計は、将来的に具体的な規格適合や検査要件の強化につながり得ます。
  • 各国の通商措置との連動
    反ダンピングやセーフガードなど対外措置の状況次第で、輸出管理がより政策的に使われる余地があります。 (JOGMEC 石炭資源情報)

メキシコ自動車関税の即時実務整理

2026年1月1日施行の「関税引き上げ」を、経営判断と現場オペレーションに落とす

2025年12月29日、メキシコは官報(DOF)で輸入関税(IGI)を改定する政令を公布し、2026年1月1日から発効しました。対象は1,463の関税分類(タリフライン)に及び、税率は5%から50%まで引き上げられています。改定は多業種に広がりますが、完成車と主要部品が直撃領域で、サプライチェーンの意思決定を即座に迫る内容です。 (Sidof)

本稿では、関税率の事実関係を官報の条文ベースで押さえたうえで、輸出者(サプライヤー)と輸入者(メキシコ側)双方が「今日から何を変えるべきか」を、優先順位付きで整理します。


1 何が変わったのか

ポイントは「特定国向け関税」ではなく、「一般税率(IGI)の底上げ」です。メキシコと自由貿易協定(FTA)がある国であっても、協定の原産地規則を満たせない取引では一般税率が適用されます。つまり、実務上は「FTAを使えない輸入(または使わない輸入)」のコストが上がった、と理解するのが正確です。 (ジェトロ)

施行日は2026年1月1日です。官報の経過規定(Transitorios)で明記されています。 (Sidof)

加えて、同じ経過規定で、メキシコ経済省が「FTAが発効していない国からの輸入」について、国内の投入財確保の観点から追加の制度的手当てを実施し得る旨も書き込まれました。今後、例外措置やプログラムの調整が出る可能性があるため、改定後もウォッチが必要です。 (Sidof)


2 自動車で何が上がったのか

官報本文には、対象のHSコード(メキシコの関税分類)と税率が列挙されています。自動車関連では、完成車(HS 8703、8704)で50%が確認できます。あわせて、自動車部品(HS 8708)でも25%、35%、36%、一部7%など、品目により幅をもって設定されています。 (Sidof)

実務で効く範囲が伝わるよう、代表例を抜粋して示します(全件ではありません)。

区分代表例(メキシコ関税分類)政令で確認できる税率(IGI)コメント
乗用車8703.22.99、8703.23.99 ほか50%乗用車の複数区分で50%が列記
電気乗用車8703.80.01(電気、ただし中古を除く)50%EVでも50%が明記
貨物車8704.21.99、8704.31.99、8704.41.99 ほか50%トラック側も50%が列記
電気貨物車8704.60.02(電気、ただし中古を除く)50%商用EVも対象
部品(例)8708.10.03(バンパー類の一部)25%品目ごとに税率が異なる
部品(例)8708.40.08(ギアボックス用途の鍛造品の一部)35%部材系も対象に含まれる
部品(例)8708.29.06(車体関連の一部)36%25%以外の設定も存在

この改定は、報道上「非FTA国からの完成車が20%前後から最大50%へ」などと説明されることが多く、完成車・部品を中心にコスト上昇が見込まれるという整理は概ね一致します。 (El Economista)


3 経営に効く論点は3つだけ

現場には論点が大量に発生しますが、経営判断としては次の3点に集約できます。

論点1 FTAが使える取引か(使えている取引か)

今回上がったのは一般税率です。従って、同じ部品でも、協定税率で輸入できれば影響は限定されます。一方で、原産地規則が曖昧なまま輸出している、証憑が弱い、サプライヤー宣誓が遅れる、といった状態だと、一般税率適用で一気にコストが跳ねます。 (ジェトロ)

論点2 完成車か、部品か、部材かで打ち手が変わる

完成車は関税が価格に直結します。部品や部材は、メキシコ側の生産(調達)に乗るかどうかで、価格転嫁の構造が変わります。特に8708は税率が一律ではなく、部品表(BOM)単位で「どこが上がるか」を切り分ける必要があります。 (Sidof)

論点3 今後の例外・プログラム調整の余地がある

経過規定で、経済省が投入財確保のための法的手当てを実施し得ることが明記されました。現時点で何が出るかは確定していませんが、メキシコ側のプログラム(産業分野別の優遇制度など)に動きが出る可能性は、実務上の重要リスクです。 (Sidof)


4 即時にやること 72時間で終えるチェックリスト

ここからが本題です。輸出者が主体でも、輸入者(メキシコの通関主体)と握らない限り対策は回りません。最短で回る順番に並べます。

1 該当品目の棚卸し(HSコード起点)

・メキシコ向けの輸出品目を、完成車、主要部品、材料、設備に分ける
・各品目について、メキシコの関税分類(8桁)で通関しているコードを回収する
・官報の改定対象に入っているかを照合する(8703、8704、8708は優先) (Sidof)

ここで重要なのは、社内のHSコードではなく、メキシコ側で実際に申告しているコードに合わせることです。現場では「日本側の品目コード」と「メキシコ側の申告コード」がズレているケースが珍しくありません。

2 原産地の棚卸し(FTA適用可否起点)

・現行取引が協定税率で入っているか、一般税率で入っているかをメキシコ側に確認する
・協定を使っているなら、原産地証憑の型式、保管場所、更新頻度、例外品目の扱いを点検する
・協定を使っていないなら、使えない理由を分類する(原産性不足、証明が間に合わない、体制がない、など)

「FTA締結国だから大丈夫」ではなく、「原産地規則を満たし、証憑が揃い、申告が回っているから大丈夫」です。 (ジェトロ)

3 コスト影響の即時計算(価格改定の根拠を作る)

・対象品目について、関税率、課税価格(CIFベース)、輸入頻度を並べる
・関税増分を、部品単価、車両1台当たり原価、年間影響額に落とす
・誰が負担するか(売価転嫁、仕入値調整、物流条件変更、在庫吸収)を役員判断に上げる

完成車は50%が見える一方、部品は25%以外も存在します。品目別に計算しないと誤差が大きくなります。 (Sidof)

4 契約とインコタームズの見直し(揉める前に線を引く)

・関税増分を誰が負担するかを、契約条項と運用で一致させる
・価格条項の改定ルール(発効日、遡及、在庫の扱い)を明文化する
・メキシコ側での通関主体(輸入者)の責任範囲を明確化する


5 中期で効く打ち手 30日で設計する

短期対応の次は、構造対応です。

A 調達国と生産地の再設計

今回の改定は「非FTAルートのコスト上昇」を意味します。従って、調達国の選定や、メキシコ域内生産、FTA圏内調達への切替が、定石になります。報道でも、非FTA国からの輸入が影響を受ける構図が繰り返し指摘されています。 (Reuters)

B 部品表(BOM)単位での関税最適化

8708の中でも税率は一様ではありません。自社のBOMのどこが改定対象かを特定し、代替可能な部材から順に入れ替えると、費用対効果が出やすいです。 (Sidof)

C 例外・支援策のウォッチ体制

経過規定により、経済省が投入財確保のための制度手当てを行い得ることが明記されています。追加の告示や運用が出た場合、先に気づいた企業がコスト面で優位に立ちます。 (Sidof)


6 まとめ

今回のメキシコ関税改定は、完成車と部品の収益構造を短期間で変え得るイベントです。結論はシンプルで、やるべきことは次の順番です。

・メキシコ側の申告HSコードで改定対象を特定する
・FTA適用の可否を、証憑と申告運用まで含めて点検する
・増分関税を品目別に試算し、価格と契約に落とす
・中期では、調達国、生産地、BOMの再設計に踏み込む
・経済省の追加措置の可能性を前提に、官報・通達を継続監視する (Sidof)

HSコードは番号から説明責任へ:ドシエの必要性が税関により強く推奨される

HSコードは、正しい番号を当てるだけの業務ではなくなりつつあります。製品が高度化し、機能や用途が複合化するほど、分類の論点は増え、判断の揺らぎも起きやすくなります。だからこそ近年は、結論としてのHSコードに加えて、その結論に至った根拠をどれだけ明確に示せるかが、通関スピードや事後対応の負担を左右する局面が増えています。

この流れの中で注目されているのが、HSコード分類根拠書、いわゆるドシエです。ドシエは追加の書類ではありません。経営の視点でいえば、通関停滞、追加照会、事後調査、再分類といった不確実性を下げ、サプライチェーンの時間とコストを安定させるための説明責任インフラです。

税関がドシエを推奨する理由

税関がドシエを重視する背景は、実務上の必要性に集約されます。
第一に、審査を速く正確に進めるためです。仕様や用途の情報が不足すると、税関は照会を増やして確認せざるを得ません。最初から仕様と根拠が整理されていれば、審査の起点が共有され、照会の往復が減り、結果として通関が速くなります。

第二に、判断の一貫性を高めるためです。人や部署、時期によって解釈のブレが出やすい領域ほど、事実と根拠を文書化しておくことで、同じ判断を再現しやすくなります。

第三に、事後調査や紛争のコストを抑えるためです。過去にどんな事実認定をし、どの根拠で結論に至ったかが整理されている企業ほど、説明が短期間で済み、修正が必要な場合でも影響範囲の特定が速くなります。

ドシエに入れるべき中身

ドシエの目的は、難しい文章を書くことではなく、事実と論理を一体で提示できる状態を作ることです。基本の骨格は次のとおりです。

  1. 製品の客観仕様
    材質、構造、機能、用途、製造工程、構成部品、型番体系、性能値など
  2. 証拠資料
    仕様書、図面、写真、カタログ、取扱説明書、SDS、分析成績、工程表など
  3. 候補コードと除外理由
    なぜそのコードで、なぜ他の候補ではないのか。境目となる条件は何か
  4. 法的根拠
    解釈に関する通則、部注・類注、関連する参考資料や先例など

この構造を揃えるだけで、社内承認の速度も、対外説明の再現性も大きく変わります。

ドシエで使うべき言語

ここは輸入と輸出で考え方を分けるのが現実的です。

日本に輸入する場合

日本の税関対応を前提にするなら、日本語で要点が整理されていることが最も有利です。理由は単純で、誤解が減り、照会が短くなりやすいからです。外国語の資料が添付されること自体は珍しくありませんが、少なくとも要点と論点は日本語で押さえておくほうが、結果として通関が安定します。

輸出する場合

輸出側のドシエは、英語が事実上必須になる場面が多いです。相手国の通関関係者、輸入者、通関業者、保税倉庫、監査担当など、関与者が国境を越えて増えるため、共通言語として英語が標準になりやすいからです。
加えて、輸出では自社だけで完結しません。相手先が輸入申告を行う国では、分類の説明責任は輸入者側に置かれるのが一般的です。輸入者が説明できなければ、結果として貨物は止まり、追加照会や保留が発生します。このとき、英語で整理されたドシエがあるかどうかが、輸入者の対応力と通関スピードを左右します。

なお、相手国によっては英語だけで十分とは限らず、現地語の補足が有効な場合もあります。現実解としては、次の二段構えが運用しやすいです。
・社内の正本として日本語版を整備し、意思決定と統制を固める
・対外共有用として英語版を整備し、輸入者や海外拠点と同じ論点で会話できる状態を作る

ここでHSCFが有益になるポイント

ドシエ運用のボトルネックは、知識不足よりも、情報収集と論点整理と文書化です。HSCFが効くのはまさにこの部分です。

  1. 証拠の回収を速くする
    写真、PDF、仕様書など、現場に散らばる材料を起点に検討を始められると、ドシエの土台作りが前に進みます。
  2. 不足情報を対話で特定し、抜けを減らす
    分類が割れる多くの原因は、必要な仕様が欠けていることです。追加確認すべきポイントを早い段階で洗い出せれば、照会されやすい穴を先回りして塞げます。
  3. 候補と分岐点を明示し、除外理由を作りやすくする
    ドシエで最も価値が出るのは、なぜ他のコードではないかの説明です。候補の並列提示と論点の切り分けができると、除外理由が短時間で固まります。
  4. 日英の併用運用に向く
    輸入は日本語、輸出は英語という二重運用は、理屈は正しくても現場負担が重くなりがちです。HSCFを活用して、日本語で統制を固めながら、英語の対外共有版も同じ骨格で整える運用にできると、スピードと再現性が両立します。用語や表現のブレを抑えられることも、海外とのコミュニケーションでは効いてきます。

まとめ

ドシエが重視されるのは、分類の正しさだけでなく、説明可能性が通関速度とコストを左右するからです。税関側にとっても、企業側にとっても、審査の起点となる情報と論理を共有できることが、最大の合理化になります。

そして言語は、輸入は日本語での明確化、輸出は英語での対外共有が鍵になります。輸出では英語のドシエがあるかどうかが、相手国側の通関を動かす実務上の決め手になり得ます。
この二重運用を現場で回すための加速装置として、証拠収集、論点整理、候補比較、文書化を一気通貫で支援できるHSCFは、有益な選択肢になります。