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セミナー資料

「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ


「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ

2025年12月、インド政府はメキシコとの**Preferential Trade Agreement(PTA:特恵貿易協定)**締結を提案し、すでにオンライン会合を経て技術協議フェーズに入ったと報じられています。 この動きは「新規FTA交渉のスタート」というよりも、2026年1月1日から段階的に適用される、最大50%のメキシコ輸入関税引き上げへの実務的な危機対応と位置づける方が現実的です。timesofindia.indiatimes+3

いま何が起きているか(3行要約)

  • メキシコ議会は、FTA未締結国からの一部輸入品について、5〜50%の関税を課す法案を承認し、約1,400品目が対象となる見通しです(主に自動車、部品、繊維、鉄鋼、プラスチック、履物など)。reuters+2
  • インドは、自国の対メキシコ輸出(2024年輸出額約57億ドル)のうち、およそ20億ドル規模が今回の関税で打撃を受け得ると試算し、**PTAによる部分的な関税優遇で“穴を開ける”**戦略を示しています。tradingeconomics+2
  • 背景には、USMCA(2026年見直し)をにらんだ米国の対中強硬路線と、それに歩調を合わせたメキシコのサプライチェーン再編・国内産業保護という政治経済文脈があります。table+2

背景:メキシコの“非FTA国向け”関税引き上げの狙い

今回の措置は、特定国のみを狙い撃ちするというより、「メキシコとFTAを持つか否か」で世界を二分する設計になっています。 USMCA、CPTPP、日墨EPAなどの協定パートナーは優遇または現状維持となる一方、インド、中国、韓国、タイなど非FTA国は高関税MFN枠に押し込まれ、競争力が大きく低下する構図です。aa+2

メキシコ政府は、この関税引き上げの目的として、国内産業・雇用の保護、貿易不均衡の是正、特にアジア製品からの輸入代替と北米サプライチェーンへの組み込み強化を掲げています。 併せて、財政赤字の縮小に向けた関税収入増も副次的な目的とされています。financialpost+3


影響の輪郭:どの業界が“刺さる”のか

報道ベースで、メキシコが高関税対象として想定している主なセクターは以下の通りです。reuters+2

  • 自動車・二輪・部品(完成車、部品、関連金属)reuters+2
  • 繊維・衣料・履物reuters+2
  • 鉄鋼・その他金属製品gmk+2
  • プラスチック、ゴム・皮革製品、その他工業製品aa+2

インドの対メキシコ輸出は、2024年時点で約57億〜57.3億ドル規模とされ、このうち自動車、部品、繊維、鉄鋼など約20億ドル相当が新関税で大きな影響を受け得るとインド政府は見込んでいます。timesofindia.indiatimes+2


核心論点:なぜ「FTA」ではなく「PTA」なのか

インド当局者の発言から読み取れるロジックを整理すると、次の3点に収斂します。tradingview+2

  1. WTOで争いにくい構造
    メキシコは、WTOにおける譲許表(bound rate)の範囲内でMFN税率を引き上げる形をとっており、形式上はWTO義務に反しない設計です。 インド側も、「MFNベースの引き上げである以上、WTOでの法的救済の余地は限定的」とコメントしています。tradingview+1
  2. 包括的FTAは時間切れリスクが大きい
    包括的FTA交渉は、サービス、投資、政府調達、知財など幅広い分野が交渉対象となり、通常は数年単位を要します。 一方、メキシコの新関税は2026年1月1日から適用開始予定であり、このタイムラインにフルスコープFTAを間に合わせる現実性は低いと見られています。indiainmexico+3
  3. PTAなら“影響品目だけ”を優先的に救える
    PTAは、関税譲許の範囲を特定品目や限定セクターに絞り込み、関税ショックが大きい品目群に的を絞った救済設計が可能です。 インド当局者も、PTAを「影響緩和のための迅速な解決策」と位置付けており、まずは貨物貿易にフォーカスした限定的スキームから着手する構想と報じられています。economictimes+2

PTAが動き出した場合、企業実務はどう変わるか

PTAは「締結=ゴール」ではなく、「締結=実務負荷の立ち上がり」です。企業側で特に重要になる論点は次の3つです。

  1. 対象品目の線引き(自社SKUが入るか)
    PTAは、影響の大きいHS品目に絞って関税優遇を設定する設計になりやすく、品目リストに載る/載らないで明暗が分かれます。 企業としては、HSコード×原産国別に「PTA対象・非対象」を瞬時に判定できる体制が必要です。reuters+1
  2. 原産地規則(ROO)と証明の“必須化”
    関税優遇の適用には、PTAで定める原産地規則を満たし、インボイスや原産地証明書等で原産性を立証することが前提条件となります。 インド製品であっても、部材が多国籍にまたがる場合は、BOMレベルでのトレースとサプライヤー宣誓の取得がボトルネックになり得ます。itj.dgciskol+1
  3. 中継・積替え取引への監視強化リスク
    今回の関税引き上げの政治的背景には、米国が問題視する**迂回(trans-shipment)**対策やサプライチェーンの透明性強化があります。 PTAを通じた優遇が広がるほど、メキシコ税関は書類・物流経路の整合性チェックを強化し、コンプライアンス体制の差が実務リスクの差として顕在化する可能性があります。table+2

日本企業にとっての“見落としやすい示唆”

日本企業は、「日墨EPA」「CPTPP」といった枠組みにより、メキシコ向け輸出で相対的に有利なポジションを維持しているケースが少なくありません。 しかし、次のようなケースでは、今回のインド・メキシコPTA構想とメキシコ関税引き上げの影響を軽視すべきではありません。indiainmexico+1

  • メキシコ拠点がインドから部品・素材を調達している場合
    関税引き上げがそのままインプットコスト増に直結し、価格転嫁・設計変更・調達先多角化が不可避となる可能性があります。businesstoday+2
  • メキシコ市場でインド企業と競合している場合
    一時的には、インド製品が高関税で不利になり、日本製品が優位に立つ可能性があります。 しかし、PTAによってインド製品の関税負担が軽減されれば、「関税差による優位性」が短期間で失われるシナリオを織り込む必要があります。businesstoday+3

企業の打ち手(今日からできる順)

  • HSコード×原産国×契約条件ベースの影響試算
    どのHSにどの関税率がかかるのか、インド経由品がどの程度コスト上昇するのかを早期に可視化します。reuters+1
  • 価格条項・インコタームズ・再交渉条項の棚卸し
    関税負担がどこに帰属する契約かを洗い出し、価格見直しやサプライチェーン再設計の余地を確認します。newindianexpress+1
  • 原産地証明スキームの設計
    BOM精査、サプライヤー宣誓・定期監査、トレース体制の整備など、PTA適用に耐えうる証憑基盤を準備します。itj.dgciskol+1
  • 代替調達・代替生産シナリオの検討
    メキシコとFTAを持つ国からの調達・生産への切り替え余地を検証し、インド依存度の高い部材の「第二ソース」を確保します。financialpost+1
  • 業界団体・現地商工会との情報ライン構築
    品目リストや具体的税率の最終確定、PTAのスコープについて、一次情報を継続的に取得できるチャネルを確保します。timesofindia.indiatimes+1

今後の見通し:短期はPTA、長期はFTA(ただし政治次第)

インドとメキシコは、すでにオンライン会合を通じてPTAの技術協議を開始しており、短期的には**「高関税の影響が大きい品目をPTAでピンポイント救済する」方向**が現実的と見られます。tradingview+2

一方で、より包括的なFTAに発展するかどうかは、2026年USMCA見直しを含む対米関係、対中政策、メキシコ国内産業保護の政治力学に大きく左右されます。 企業としては、「短期:PTAによる部分的な関税差」「中長期:FTAや北米サプライチェーン再編による構造変化」の両方を織り込んだシナリオプランニングが必要です。bloomberg+4


本稿は公開情報に基づくビジネス上の一般的解説であり、特定の取引・案件に対する法務・税務・通関上の助言を構成するものではありません。具体的な案件については、協定正文・国内実施法・通関実務を確認のうえ、専門家への相談を推奨します。

  1. https://www.reuters.com/world/india/india-talks-with-mexico-over-tariffs-threatening-2-billion-exports-2025-12-15/
  2. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-talks-india-mexico-open-dialogue-to-blunt-tariff-shock-preferential-pact-on-the-table/articleshow/125976849.cms
  3. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/mexicos-senate-approves-tariff-hikes-chinese-other-asian-imports-2025-12-11/
  4. https://www.aa.com.tr/en/americas/mexican-senate-approves-up-to-50-tariffs-on-imports-from-china-asian-nations/3768289
  5. https://financialpost.com/news/mexico-50-tariffs-chinese-asian-imports
  6. https://tradingeconomics.com/india/exports/mexico
  7. https://table.media/en/china/news-en/mexico-import-tariffs-against-china-and-other-asian-countries
  8. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-11/mexico-aligns-with-us-on-tougher-tariffs-on-chinese-asian-goods
  9. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-tariff-hike-hit-1-billion-india-car-exports-despite-automaker-lobbying-2025-12-11/
  10. https://gmk.center/en/news/mexico-approves-tariff-increases-on-chinese-and-other-asian-imports/
  11. https://www.tradingview.com/news/reuters.com,2025:newsml_L1N3XL083:0-india-proposes-trade-deal-to-counter-sharp-tariff-hike-by-mexico/
  12. https://economictimes.com/news/economy/foreign-trade/why-mexico-slapped-50-tariff-on-india-how-it-matters/articleshow/125916395.cms
  13. https://www.indiainmexico.gov.in/public_files/assets/pdf/India-Mexico_Trade_Commercial_Relations_june.pdf
  14. http://itj.dgciskol.gov.in/hsLagNXcDNZLrfxnFiuzppuA3ckWhBLyT8a0cJ41.pdf
  15. https://www.businesstoday.in/india/story/india-mexico-trade-faces-new-headwinds-amid-threat-of-up-to-50-tariff-on-asian-goods-506267-2025-12-11
  16. https://www.newindianexpress.com/business/2025/Dec/12/mexico-to-impose-up-to-50-tariff-on-indian-exports
  17. https://www.reuters.com/business/tariffs/
  18. https://www.facebook.com/etnow/posts/50-tariff-india-engaged-with-mexico-over-unilateral-hike-fta-talks-soon-read-/1274343104724591/
  19. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-deficit-narrows-november-deficit-drops-to-24-53-billion-compared-to-41-68-billion-in-october-check-details/articleshow/125974431.cms
  20. https://tradingeconomics.com/mexico/imports/india

マレーシア原産地証明制度:対米輸出における「MITI一元化」と審査厳格化への転換

マレーシアの貿易実務において、原産地証明(CO)の潮目が大きく変わりました。一言で言えば、

「性善説に基づく“自己申告・商工会議所発給”の時代から、
対米リスク管理を前提とした“MITI直接審査”の時代への回帰」

です。

特に2025年5月から開始された「対米輸出向け非特恵原産地証明(NPCO)のMITI発給一元化」は、米国トランプ政権下の「相互関税(Reciprocal Tariff)」や迂回輸出対策を強く意識した措置です。

本稿では、この制度変更の背景と、日本企業が直面する実務への影響を整理します。


1. これまでのマレーシア:自証化と民間委任の10年

1-1 本来の「二層構造」

マレーシアでは長らく、COの種類によって発給機関が分かれていました。

  • 特恵原産地証明書(PCO):FTA税率適用用。MITI(投資貿易産業省)が主管・認証。
  • 非特恵原産地証明書(NPCO):一般用。MITIから権限を委任された商工会議所・業界団体(MICCI, MCCM等)が発給。

1-2 「緩和」に見えたこれまでの流れ

過去10年は、ASEAN全体で「貿易円滑化」がキーワードでした。

  • ATIGA自己証明制度(AWSC):認定輸出者が自ら原産性を証明。
  • 電子化(ASW):Form Dなどのデータ交換によるペーパーレス化。

この流れの中で、「原産地証明は“紙の審査”から“デジタル・事後確認”へ移行する」という空気が醸成されていたのは事実です。

1-3 水面下での「監査強化」

しかし、2019年の法改正でマレーシア税関はポストクリアランス監査(PCA)の追徴期間を3年から6年に延長するなど、水面下では「原産地=徴税・コンプライアンスの対象」とする準備を着々と進めていました [1][2]。


2. 2025年の転換点:MITIによる対米NPCOの「権限取り戻し」

2-1 対米輸出COは「MITIのみ」へ

2025年5月5日、MITIは以下の重要方針を発表し、翌5月6日より即時適用しました [3][4]。

  1. 対米輸出(US-bound)のNPCOは、MITIが唯一の発給機関となる。
  2. これまでNPCOを発給していた商工会議所・業界団体の対米向け発給権限は停止される(※他国向けの発給権限は維持)。

2-2 背景:トランプ政権下の「24%相互関税」と迂回輸出

この決定の引き金は、米国による対中関税の回避地としてマレーシアが利用される「原産地ロンダリング(Origin Washing)」への懸念です。
現地報道(The Edge等)によれば、米国が提案する「最大24%の相互関税(Reciprocal Tariff)」の交渉において、マレーシア側が「自国の原産地管理は適正である(中国製品の迂回ではない)」ことを証明し、関税適用を除外・軽減させるための信用担保措置としての意味合いが強いとされています [1]。

2-3 実務へのインパクト:「形式」から「実態」へ

これまで商工会議所経由で、比較的簡易な書類審査で取得できていた対米COは、今後MITIによる厳格な審査対象となります。

  • 書類審査の深化: 単なるインボイス確認だけでなく、コスト構造や製造工程の確認が行われる。
  • 監査の連動: MITIとマレーシア税関(RMCD)が連携し、不正なトランシップメント(積み替え)の摘発を強化する [3][5]。

3. 具体的な変更点と厳格化ポイント(実務イメージ)

3-1 「コスト分析(Cost Analysis)」の提出義務化

商工会議所(MICCI)のコメントや現地報道によれば、今後はNPCOであっても、PCO並みの「コスト分析」「製造原価計算書」の提出・保管が求められる可能性が高まっています [1]。
「何を・どこから・いくらで調達し、どう加工したか」を数字で証明できなければ、COは発給されません。

3-2 「単純工程」のリスク増大

以下のようなビジネスモデルは、MITIの審査で「原産性なし」と判断されるリスクが極めて高くなります。

  • 単純な組み立て(Simple Assembly)
  • 輸入・再梱包・ラベリングのみ(Repacking/Labeling)
  • 最小限の加工(Minimal Operation)

これらは「マレーシア原産」とは認められず、対米輸出時に中国製(または他国製)として申告する必要が出てくる可能性があります。

3-3 リードタイムの不確実性

MITIへの申請集中により、初期段階では審査遅延やシステムトラブルが懸念されます。商工会議所も「MITIの業務量増加による遅れ」を懸念材料として挙げています [6]。出荷スケジュールには十分な余裕を持つ必要があります。


4. 日本企業・日系サプライヤーがとるべき対応

4-1 マレーシア拠点の「商流」棚卸し

自社のマレーシア拠点が以下のどのパターンに当てはまるか再確認してください。

パターンリスク度対応策
A. 現地製造(一貫生産)製造工程図、BOM、原価計算書をMITI提出用に整備する。
B. ノックダウン生産・組立付加価値基準(25%~など)を満たすか、詳細な原価計算を行う。
C. 三国間・倉庫在庫販売「マレーシア原産」の主張を取り下げ、真の原産国での申告を検討する。

4-2 「特恵(PCO)」と「非特恵(NPCO)」のダブルスタンダード管理

  • 対ASEAN/日本輸出: 従来通り、FTA(ATIGA/AJCEP等)の自己証明やPCOを活用し、関税削減を狙う(円滑化トレンド)。
  • 対米輸出: MITIの厳格な審査に耐えうるNPCO申請書類(BOM、コスト内訳)を準備する(厳格化トレンド)。

この「二極化」に対応できる社内体制が必要です。

4-3 現地パートナー(通関業者・商社)への丸投げ禁止

「通関業者がうまくやってくれるはず」という認識は危険です。MITIと税関は連携して事後調査(Post Clearance Audit)を行います。

  • CO申請の根拠資料(製造フロー、コスト計算)は自社で保持する。
  • 現地パートナーが「どのようなロジック」で原産地を申告しているか確認する。

5. 結論:サプライチェーンの「原産地説明力」が問われる

マレーシアにおける今回の変更は、単なる手続きの変更ではなく、「米中対立・保護主義下における生き残り戦略」です。マレーシア政府は、自国が「中国製品の抜け穴」と見なされ、米国から包括的な制裁関税を受けることを避けるため、なりふり構わず原産地管理を強化しています。

日本企業としては、「COが取れるか」というテクニカルな視点だけでなく、「自社のサプライチェーンは、米国税関やMITIに対して胸を張って『マレーシア製』と説明できる実態があるか」という本質的な問い直しが求められています。

引用:
[1] The State of the Nation: Spotlight on Certificate of Origins as Malaysia moves to weed out ‘pass-through’ exports https://theedgemalaysia.com/node/754896
[2] MITI to be sole issuer of non-preferential certificates of origin to US … https://international.astroawani.com/malaysia-news/miti-be-sole-issuer-nonpreferential-certificates-origin-us-may-6-2025-519458
[3] [PDF] miti will be the sole issuer of non-preferential certificates of origin for https://www.miti.gov.my/miti/resources/Media%20Release/%5BFINAL2%5D_MITI_Press_Statement_MITI_to_Tighten_Controls_on_Issuance_of_Certificate_of_Origin_for_US_Exports_2025-05-05.pdf
[4] Malaysia centralises export certification to US in new Anti-Transshipment measure https://www.thevibes.com/articles/news/107815/malaysia-centralises-export-certification-to-us-in-new-anti-transshipment-measure
[5] MITI WILL BE THE SOLE ISSUER OF NON … https://ambercourier.com/miti-will-be-the-sole-issuer-of-non-preferential-certificates-of-origin-for-exports-to-the-united-states-from-6-may-2025/
[6] MICCI backs Miti’s appointment as sole issuer of NPCO for US … https://www.thestar.com.my/business/business-news/2025/05/06/micci-backs-miti039s-appointment-as-sole-issuer-of-npco-for-us-bound-exports
[7] Non-Preferential Certificate of Origin (NPCO) https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/npco
[8] Malaysia Tightens Certificate of Origin Requirement Amid … https://chinascope.org/archives/37539
[9] MP urges govt to take over certificate of origin issuance from … https://theedgemalaysia.com/node/753964
[10] MITI’S ANNOUNCEMENT ON NPCO FOR EXPORTS TO THE US 63 … https://www.mpma.org.my/circulars-and-announcements/2024-circulars/miti-s-announcement-on-npco-for-exports-to-the-us-63-2025
[11] Preferential Certificate of Origin (PCO) https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/3911
[12] MICCI BACKS MITI’S APPOINTMENT AS SOLE ISSUER OF NPCO FOR US-BOUND EXPORTS https://web11.bernama.com/en/news.php?id=2420349
[13] Malaysia Tightens Certificate Of Origin Rules For US-Bound Exports … https://www.businesstoday.com.my/2025/05/05/malaysia-tightens-certificate-of-origin-rules-for-us-bound-exports-to-curb-transshipment-abuse/
[14] How to Apply for a Certificate of Country of Origin (COO) in Malaysia? https://www.richardweechambers.com/how-to-apply-for-a-certificate-of-country-of-origin-coo-in-malaysia/
[15] Miti to be sole issuer of certificates of origin for US-bound shipmentswww.thestar.com.my › news › nation › 2025/05/05 › miti-to-be-sole-issuer… https://www.thestar.com.my/news/nation/2025/05/05/miti-to-be-sole-issuer-of-non-preferential-certificates-of-origin-for-us-bound-shipments
[16] Ministry of Investment, Trade and Industry https://www.miti.gov.my/index.php/announcements/view/875
[17] MICCI Backs MITI’s Appointment As Sole Issuer Of NPCO For US-bound Exports https://www.bernama.com/en/news.php?id=2420349
[18] Ministry taking over certificates of origin issuance to … – NST Online https://www.nst.com.my/business/economy/2025/05/1211768/ministry-taking-over-certificates-origin-issuance-curb-origin
[19] Breaking News! Important Update for Malaysian Exporters to the … https://www.instagram.com/p/DJYflqDtzZk/
[20] Malaysia halts trade groups from issuing certificates for US exports … https://www.malaymail.com/news/malaysia/2025/05/05/malaysia-halts-trade-groups-from-issuing-certificates-for-us-exports-amid-tariff-concerns/175662

EU「少額小包への一律関税」導入が示す転換点──2026年7月、越境ECの“勝ち筋”が変わる

EUは2026年7月1日から、150ユーロ未満の少額小包(主に越境EC経由)に対して、品目カテゴリごとに固定で3ユーロの関税を課すことで政治合意に達した。 これは、恒久制度が整うまでの暫定的な措置と位置づけられているが、越境ECモデルにとっての意味合いは小さくない。euagenda+2
一言でいえば、「少額×分散×直送」で成立していた国際通販モデルが、制度設計レベルから見直される転換点になっている。maintax+1


忙しい方向け:まず押さえる3行

  • 何が起きる?:EU域外からEU消費者に届く150ユーロ未満の小口貨物に、品目カテゴリ(tariff heading)ごと固定3ユーロの関税(暫定)がかかる。reuters+1
  • なぜ今?:少額小包が爆発的に増え、EU側が「公正競争・安全・詐欺・環境」の観点から現行枠組みの限界を明示した。taxation-customs.europa+2
  • 企業は何をする?:価格競争だけでなく、物流設計・商品構成・税務/通関データ品質で勝負が決まる局面に入り、準備スピードがそのまま競争力差になる。eunews+1

1. 何が決まったのか:制度の「読み違い」を潰す

2026年7月1日:固定3ユーロの暫定関税

EU理事会は、2026年7月1日以降、150ユーロ未満の小口貨物に対し、固定3ユーロの関税を適用することで合意したと発表している。politis+2
ここで重要なのは、単に「3ユーロが一律で上乗せされる」ではなく、「どの単位で3ユーロがかかるのか」という設計である。reuters

理事会の説明や報道によれば、この固定3ユーロは、小包(consignment)に含まれる品目カテゴリ、すなわち関税分類(tariff heading/6桁HS水準)ごとに課される想定とされる。euagenda+1

  • 同じカテゴリの商品だけで構成された小包なら、固定3ユーロで収まるケースが多い。
  • 異なる関税分類の商品を詰め合わせると、分類数に応じて3ユーロが積み上がる可能性がある。

したがって、この設計は商品構成(SKU設計)と物流設計(同梱ルール)に直接ひもづく論点になる。europeannewsroom+1

対象は「IOSS登録の域外販売者」が関与するフローが中心

固定関税の主な適用対象は、EUのIOSS(Import One-Stop Shop)に登録している非EU販売者・プラットフォームを通じてEUに直送される小包であると説明されている。eunews+1
各種解説では、こうした直送越境ECの小包が、EU域外からEUに届く少額小包のおよそ9割超を占めるとされており、結果として「越境EC由来の少額小包の大半(約93%規模)が今回の措置の主対象」というイメージになる。europarl.europa+1

「取扱手数料(handling fee)」とは別モノ

近い文脈で議論されている2ユーロ水準の「取扱手数料(handling fee)」案と、今回の固定3ユーロ関税は別枠の制度であることを、理事会・委員会の双方が明確に区別している。europarl.europa+2
取扱手数料については、通関現場の処理コスト回収などを狙いとする案が提示され、欧州議会も「WTO整合性」「負担主体(プラットフォーム負担)」などの観点から検討を求めているが、導入時期や最終仕様は現時点では確定しておらず“議論継続中”の段階にある。france24+1


2. なぜ今なのか:EUが「制度疲労」を認めた瞬間

低額小包は「物流」ではなく「社会インフラ負荷」になった

欧州委員会のコミュニケーションを引用した欧州議会の資料では、150ユーロ未満の低額貨物は2024年に約46億個(1日あたり約1,200万個)に達し、2023年は23億個、2022年は14億個と、ほぼ指数的に増加していると整理されている。longbridge+1
同資料では、2024年時点で150ユーロ未満の越境EC貨物の約91%が中国発とされ、特定の国・プラットフォームへの依存が急速に進んだ点も指摘されている。reuters+1

これだけのボリュームになると、税関・規制当局は「すべてを物理的に検査する」のではなく、「リスク判定のためのデータをどう集約・分析するか」が中心課題になり、EUがデータハブ構想やプラットフォーム責任強化に舵を切る理由がここにある。maintax+1

“過少申告”がビジネスモデルとして組み込まれた

EU理事会は、現行ルールのもとで、少額小包の最大約65%が輸入関税やVATを回避する目的で過少評価されているとの推計に言及している。europarl.europa+1
まじめに価値申告をしている事業者ほど不利になる構造であり、EUが今回の措置を「公正競争」と「消費者保護」の観点から正当化しているのは、このゆがみを是正する意図が強いからだと理解できる。euagenda+1


3. 「転換点」の本質:3つのゲームチェンジ

転換点①:少額免税(de minimis)依存の価格戦略が崩れる

EUはこれまで、150ユーロ未満の貨物には関税免除(いわゆるde minimis)を認める一方、VATは別途課税・申告対象とする仕組みを採ってきた。taxation-customs.europa
今回の3ユーロ固定関税は暫定措置だが、欧州委員会と加盟国は、2026年に150ユーロの関税免除閾値自体を撤廃し、中長期的には通常の関税体系に移行させる方針を明示している。maintax+2

転換点②:勝負所が「調達原価」から「通関データ×物流設計」へ

EU税関改革は、EU Customs Data Hub を中核に、越境ECを含む通関プロセスを“データ駆動”で管理する構想となっている。taxation-customs.europa
この環境では、HS/関税分類の精度、商品属性データの整備レベル、IOSSを含む税務・通関プロセス、SKU構成と同梱ルールといった要素が、そのまま粗利と在庫回転率を左右する経営変数になる。eunews+1

転換点③:プラットフォームが“販売チャネル”から“準税関主体”に近づく

欧州委員会の税関改革資料では、オンラインプラットフォームを「関税・VAT義務の履行を確実にする主要アクター」と位置づけており、消費者や運送会社に寄っていた責任を、プラットフォームにシフトする方向性が示されている。europarl.europa+1
マーケットプレイス依存度が高い企業ほど、プラットフォーム側のコンプライアンス要件、データ提出仕様、追加コストの転嫁ルールが業績に直結しやすくなり、「どのプラットフォームとどう組むか」が戦略論点になる。europarl.europa+1


4. 日本企業への実務インパクト:論点は「EU向けD2C/越境ECをやっているか」

影響が大きい企業

  • EU向けに単価の低い商品をD2Cで大量出荷している。
  • 「送料無料」「低額での“ちょい足し”」をフロントに出したビジネスモデル。
  • アソート比率が高く、1注文内に複数カテゴリ商品を混在させがち(=関税分類が増えやすい)。

固定3ユーロは、商品単価が低いほど実質税率が跳ね上がりやすく、とりわけ「関税分類ごと」の設計は詰め合わせ販売へのインパクトが大きい。reuters+1

影響が相対的に小さい企業

  • そもそもEU向けビジネスがB2B中心(まとまったロットで輸出し、従来から関税と通関を織り込んでいる)。
  • 高単価帯で、関税が粗利構造に与える影響が限定的。
  • EU域内の在庫(倉庫・代理店)から出荷しており、B2Cは域内販売が中心(ただし輸入時の関税設計は引き続き最適化が必要)。

こうした企業でも、今後の閾値廃止とデータ要件強化を前提に、輸入時の関税評価・分類やプラットフォームとのデータ連携の見直しは必要になる。eunews+1


5. いま経営としてやるべきこと:チェックリスト(実務寄り)

2026年7月1日までには時間があるように見えて、SKU再設計・システム改修・価格改定を同時に進めるにはタイトなスケジュールである。reuters+1

  1. 注文データを「関税分類の数」で棚卸しする
  • EU向け注文のうち、150ユーロ未満の比率はどの程度か。
  • 1注文あたり、何種類の関税分類(tariff heading)が混在しているか。
  • 低単価SKUほど、3ユーロ×分類数の追加コストで採算割れしないか。

ここは経理・ロジス・EC運営の連携が不可欠であり、分類データは現場、採算判断は経理、制度解釈は貿易・税務がそれぞれ担うことになる。reuters+1

  1. 「同梱ルール」を売り方(バンドル)まで含めて再設計
  • “ついで買い”セットが、結果として関税分類数を増やしていないか。
  • カート設計(レコメンド)が、複数分類の混在を誘発していないか。
  • セット商品を可能な範囲で「同一分類中心」に寄せられないか。

関税分類の判断・申告は専門性が高いため、通関業者・税務専門家と連携し、誤分類や過少申告を避けつつSKU設計を見直すことが前提となる。euperspectives+1

  1. IOSS/VAT運用と「データ品質」をKPI化する
    IOSSは、150ユーロ以下の輸入B2C取引に関するVAT申告・納付を簡素化する仕組みとして既に運用されている。vatai+1
    今後はここに関税計算・リスク分析用データが重なり、EU Customs Data Hubを通じて当局側のデータ活用が進むため、商品属性(材質・用途・原産地など)を通関に使える粒度で持てているか、マーケットプレイス/3PL/配送会社に渡すデータ仕様を誰が管理しているか、といった点を社内KPIとして可視化する必要がある。eunews+1
  2. “取扱手数料”を織り込んだ複線シミュレーション
    欧州委員会と欧州議会では、3ユーロ関税とは別に、少額小包に対する取扱手数料(例:2ユーロ案)が検討されているが、導入時期・設計は未確定である。europarl.europa+2
    そのため、
  • 固定関税のみの場合、
  • 固定関税+取扱手数料が追加される場合、
  • 2028年前後に恒久制度へ移行した後の関税水準・計算方法の変化、

といった複数シナリオで粗利・価格政策を事前試算しておくと、制度確定時の意思決定スピードを高められる。reuters+2


6. まとめ:これは“関税3ユーロ”の話ではない

固定3ユーロは、個々の取引レベルでは「数百円程度」のニュースに見えるかもしれない。euperspectives+1
しかし本質は、EUが越境ECを「放任」から「統治」へ移行させる過程の第一歩であり、2026年の暫定関税と2028年前後のデータハブ本格稼働の間に、プラットフォーム責任・データ品質・同梱設計が競争力の中核へと組み込まれていくという構図にある。longbridge+1

EU向けビジネスを持つ企業にとっては、「税率が少し上がる」という見方ではなく、「勝ち方の前提が変わる」局面として、設計と実装を前倒しで進めることが重要になる。europeannewsroom+1

  1. https://www.reuters.com/world/china/eu-impose-3-euro-duty-small-e-commerce-parcels-july-2026-2025-12-12/
  2. https://euagenda.eu/news/906861
  3. https://taxation-customs.ec.europa.eu/news/e-commerce-150-eur-customs-duty-exemption-threshold-be-removed-2026-2025-11-13_en
  4. https://www.europarl.europa.eu/topics/en/article/20250708STO29516/eu-targets-low-value-imports-via-e-commerce-platforms
  5. https://www.eunews.it/en/2025/12/12/from-1-july-e3-duties-on-parcels-under-e150-arriving-from-non-eu-countries/
  6. https://en.politis.com.cy/globe/globe-europe/974185/eu-imposes-eur3-duty-on-small-parcels-under-eur150-ending-duty-free-imports
  7. https://europeannewsroom.com/from-1-july-next-year-the-eu-will-introduce-a-customs-duty-of-three-euros-on-orders-via-e-commerce-websites/
  8. https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20250704IPR29453/managing-the-influx-of-substandard-goods-from-non-eu-web-shops
  9. https://longbridge.com/en/news/266579872
  10. https://maintax.org/news/e150-customs-duty-exemption-threshold-to-be-removed-as-of-2026/
  11. https://www.vatai.com/blog/eu-customs-duty-exemption-removed-2026
  12. https://www.france24.com/en/live-news/20251212-eu-agrees-three-euro-small-parcel-tax-to-tackle-china-flood
  13. https://www.scmp.com/news/china/article/3336292/eu-targets-chinas-shein-and-temu-new-fees-low-value-parcels
  14. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/how-eu-plans-crack-down-low-value-e-commerce-goods-china-2025-11-19/
  15. https://www.x7trade.com/blog/eu-to-remove-150-duty-free-threshold-by-2026
  16. https://europeannewsroom.com/small-chinese-parcels-entering-the-eu-will-be-taxed-3-euros-from-july-2026/
  17. https://www.avalara.com/blog/en/europe/2025/11/eu-end-150-customs-duty-exemption-2026.html
  18. https://euperspectives.eu/2025/12/eu-to-introduce-e3-duty-on-small-online-orders-from-july-2026/
  19. https://www.floship.com/blog/heads-up-the-eu-is-abolishing-the-e150-duty-free-threshold-in-2026/
  20. https://www.forbes.com/sites/aleksandrabal/2025/11/17/eu-moves-to-end-150-customs-duty-exemption-for-low-value-imports/

中南米と南アジアで進む通商再編の要点(深掘り):企業の勝ち筋は「近さ×ルール×脱炭素」


※本稿は 2025年12月13日時点の公開情報に基づき、(1)公式一次情報、(2)主要報道、(3)時系列と用語の整合――の 3段階チェック を通したうえで、ビジネス向けに再構成・校正した完成稿です。reuters+1


いま起きていることを一言で

世界の貿易は「自由化が進む一直線の時代」から、「地政学・産業政策・環境規制で条件が変わる“分岐の時代”」に移ったと整理できる。WTOのモニタリングでも、地政学要因と結びついた貿易の分断(fragmentation)が強まる一方、世界全体が一斉に近距離化(near-shoring)へ移ったとまでは言えない、という評価が示されている。policy.trade.europa
この「分岐」が、中南米(特にメキシコと南米)と南アジア(特にインドと周辺国)で、通商ルールとサプライチェーンの組み替えを加速させている。gov+1


今日の結論(忙しい人向け)

  • 中南米は「北米統合のメキシコ」と「EU接近が進む南米」に二極化しつつある。USMCA(米・墨・加)を軸に、“北米向けの最適地”としてメキシコの重要性が上がる一方、対中・対アジアの扱いが政策論点になっている。reuters+1
  • 南アジアは「インドを中心にFTA網を広げる動き」と「周辺国の制度変更(例:バングラデシュのLDC卒業)」「湾岸・ベンガル湾の物流再設計」が同時進行し、“インド市場”と“インド経由の外需”が一体で動き始めている。reuters+2
  • 両地域に共通するのが、EUのCBAM(炭素国境調整)や森林破壊規制など、脱炭素関連ルールが“新しい関税”のように効き始めている点であり、ルール対応力が価格や品質と同程度に競争力の源泉となる。reuters+1

第1部:中南米——「メキシコ中心の北米統合」と「南米のEU接近」

  1. メキシコは“北米の工場”として、存在感が一段上がった
    メキシコは米国の主要な貿易相手国の一つであり、米国向けサプライチェーン再設計のうえで「外せない国」として位置づけられている。reuters
    地政学リスクを踏まえた投資・供給網の見直し(いわゆるニアショアリング)の中で、メキシコの重要性が高まったとする分析も増えている。reuters
  2. 2026年USMCAレビューは「ルールの厳格化リスク」
    USMCAには6年ごとの共同レビュー条項があり、最初の共同レビューは2026年7月1日に予定されている。epthinktank
    このレビューは、原産地規則や域内調達比率、迂回輸出対策などが政治テーマになりやすく、北米向け出荷品ほど調達設計が制度イベントの影響を受けやすい。epthinktank
  3. メキシコの追加関税は「対中・対アジア設計の修正」を迫る
    2025年12月、メキシコ議会は中国や一部アジア諸国からの輸入品に対する関税を、2026年から最大50%まで引き上げる法案を承認したと報じられている。reuters
    対象は自動車・部品、鉄鋼、繊維、プラスチックなど幅広く、「中国に強硬」というより、USMCAの枠内で北米供給網の域外依存度をどう管理するかが政策軸になっていると解釈できる。reuters
  4. ロジスティクス投資が「勝者」を分ける:港湾拡張は前兆
    通商再編は、協定や関税だけでなく港・鉄道・国境インフラにも表れる。メキシコでは主要港の拡張や国境インフラ強化が進んでおり、太平洋側ゲートウェイの能力増強を狙った長期投資が報じられている。reuters
    生産移転や新規投資を検討する企業にとっては、税制優遇より先に“物流の詰まり”がボトルネックとなる場合が多く、「近さ」を実際のリードタイム短縮につなげられるかは港湾・陸送・国境通過設計で決まる。reuters
  5. 南米は「EUとの結節」が太くなる:EU–メルコスール、EU–チリ
    南米側では、2024年12月にEUとメルコスールがパートナーシップ協定の交渉妥結を共同発表し、政治レベルの合意に達したと説明している。gov+1
    EU–チリについても、2025年に刷新協定の署名・暫定適用が進み、鉱物・再エネなどを含む先進的枠組みとしてEU公式に位置づけられている。policy.trade.europa
  6. 投資環境は「機会と制約が同居」
    ECLACの分析などを引用する報道では、2024年の中南米向けFDIが前年比プラスとなる一方で、新規投資フローの伸び悩みや構造改革の遅れが指摘されている。reuters
    市場規模だけでなく、規制・物流・治安・電力・人材などの実装条件を細かく評価することが、企業の投資判断では不可欠になっている。reuters

第2部:南アジア——「インドのFTA拡張」と「周辺国の制度転換」

  1. インドは“FTAで市場アクセスを取りに行く”フェーズ
    インドと英国は、2025年7月24日に包括的経済・通商協定(CETA)を署名し、関税削減やサービス・投資ルールの整備を含む大型協定として位置づけられている。jcp.bujournals+2
    この協定は、関税だけでなく原産地規則、デジタル、知財、政府調達など取引コストに関わるルールを包括的にカバーし、英国・インド双方のビジネスに新たなアクセスを与えると評価されている。jcp.bujournals+1
  2. インド–EFTA TEPAは「投資とサプライチェーン」を結ぶ
    インドとEFTAはTEPAを締結しており、2025年10月1日に発効したと公表されている。economicdiplomacy+3
    対EU交渉が長期化する中で、EFTAなど合意しやすい相手との高水準協定を先行させることで、企業にとっての立地・調達オプションが現実的に広がっている。india-briefing
  3. EU–インド交渉は「自動車・鉄鋼・炭素」が焦点
    EU–インドのFTA交渉は、直近報道で自動車・鉄鋼・CBAMの扱いをめぐり年内妥結は困難との見方が示されている。ie+1
    南アジアでは、FTAが追い風となる分野と、環境・規制強化が逆風となる分野が併走しており、業種別に見える景色が大きく異なる。ie+1
  4. バングラデシュのLDC卒業は輸出モデルの再計算を迫る
    バングラデシュは、国連決議に基づき2026年11月24日にLDC(後発開発途上国)から卒業する予定とされている。un+2
    LDC卒業はポジティブな節目である一方、関税優遇・原産地証明・輸出コストなどの条件が変わるため、特にアパレルなどで「バングラデシュ製=関税面で有利」という前提を再計算する必要が出てくる。nypm.mofa+1
  5. ベンガル湾の“足回り”:BIMSTECの連結強化
    2025年4月のBIMSTEC首脳会合(バンコク)では、ベンガル湾を軸とした経済統合・連結性強化が確認され、海上輸送協力の強化も議題となった。policy.trade.europa
    SAARCが政治要因で十分に機能しにくい中、BIMSTECのような実務寄り枠組みが物流・通関改善に寄与すれば、インドおよび周辺国を束ねた供給網設計の自由度が高まる。policy.trade.europa

第3部:両地域に共通する「新・通商コスト」——脱炭素とデューデリジェンス

  1. EUのCBAM:2026年から“炭素コスト”が貿易条件に
    EUはCBAMについて、2023〜2025年を移行期間(排出量報告中心)、2026年から本格的な金銭負担を伴う制度として運用するスケジュールを示している。policy.trade.europa
    EU向け輸出企業だけでなく、EU向けサプライチェーンに組み込まれた企業も、取引先から排出量データ提出を求められ、応じられない場合は価格交渉力の低下など間接的な影響を受ける。policy.trade.europa
  2. EUの森林破壊規制(EUDR)は“トレーサビリティ”を強制
    EUDRについては、運用負担への懸念を受けて、欧州議会が適用開始を1年延期する案を支持し、大規模事業者は2026年12月末、小規模事業者は2027年6月末が新たな適用時期の目安とされている。europarl.europa+1
    中南米の牛肉・大豆、南アジアの木材・ゴム等を含む幅広いサプライチェーンで影響が予想され、「価格が合えば買う」から「原産地と森林破壊リスクが証明できるものしか買えない」へのシフトが進む。reuters

第4部:日本企業の実務アクション——「二つのハブ+ルール対応」を設計する

アクション1:市場別に「最終組立地」と「域内調達」を分けて設計する

  • 北米向け:USMCAレビューやメキシコの対中・対アジア関税引き上げを前提に、原産地規則・域内比率と部材調達先を再点検する。epthinktank+1
  • 欧州市場向け:南米(EU–チリ、EU–メルコスール)と南アジア(インドのFTA網)を「候補地の束」として比較し、EPA・CBAM・EUDRの組み合わせで最適地を検討する。gov+2

アクション2:「環境データ」と「原産地」を、コストではなく競争力として先に作る

CBAMやEUDRは、「報告や証明ができる企業だけが参加できる市場」を広げる方向に動いている。reuters+1
工場・工程別の排出量データやロット単位のトレーサビリティは、後追いでは構築に時間がかかるため、先行的にシステム化することが交渉力とマーケットアクセスの両方で優位性となる。reuters+1

アクション3:2026年の制度イベントを前提に“契約と在庫”を組む

  • 2026年USMCA共同レビュー(北米向け)。epthinktank
  • 2026年CBAM本格化(EU向け)。policy.trade.europa
  • 2026年11月24日のバングラデシュLDC卒業(南アジア調達)。un+1

これらはサプライチェーン設計だけでなく、価格改定条項、データ提供義務、監査権限など契約条件の見直しとも直結する。nypm.mofa+1


すぐ使えるチェックリスト(社内打ち合わせ用)

  • 北米向け製品のBOMを、原産地・HS分類・USMCA域内調達比率の3軸で棚卸ししたか。epthinktank
  • メキシコ拠点/メキシコ経由取引について、2026年からの対中・対アジア輸入関税の影響を部材別に試算したか。reuters
  • EU向け(またはEU向けサプライヤー向け)の取引で、CBAM対応として排出量データ提出体制を構築しているか。policy.trade.europa
  • 森林破壊規制対象コモディティ(牛肉、大豆、パーム油、木材等)がサプライチェーンに含まれ、そのトレーサビリティと証明方法を確認しているか。reuters
  • 南アジア調達について、バングラデシュLDC卒業後の関税優遇縮小を織り込んだ中期コスト比較を行ったか。un+1

おわりに:通商再編は「国の話」ではなく「企業の設計課題」

中南米と南アジアは、どちらも成長ポテンシャルが高い一方で、通商ルールと環境規制の変化が速い市場である。gov+2
勝ち筋は、一国集中ではなく、(1)最終組立地の選択、(2)原産地・環境データの整備、(3)制度イベントの織り込みを、経営と現場(調達・物流・法務・ESG)が一体で回す「設計課題」として扱うことである。gov+3

※本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の法務・税務・通関判断は、必ず専門家と協議のうえ決定してください。

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ソースを確認

  1. https://www.reuters.com/world/uk/britain-india-sign-free-trade-pact-during-modi-visit-2025-07-23/
  2. https://www.india-briefing.com/news/india-efta-tepa-2025-trade-benefits-tariffs-investment-40110.html/
  3. https://www.reuters.com/world/european-parliament-supports-year-long-deforestation-law-delay-2025-11-26/
  4. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/mexicos-senate-approves-tariff-hikes-chinese-other-asian-imports-2025-12-11/
  5. https://www.gov.br/mre/en/content-centers/statements-and-other-documents/factsheet-mercosur-european-union-partnership-agreement-december-6-2024
  6. https://epthinktank.eu/2024/12/20/ratification-scenarios-for-the-eu%E2%80%91mercosur-agreement/
  7. https://nypm.mofa.gov.bd/en/site/page/LDC-Graduation-1
  8. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/mercosur/eu-mercosur-agreement_en
  9. https://www.un.org/ldcportal/content/bangladesh-graduation-status
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  11. https://jcp.bujournals.com/articles/india-uk-free-trade-agreement-an-assessment
  12. https://supplychaincompliance.bakermckenzie.com/2025/10/03/switzerland-iceland-norway-lichenstein-tepa-between-efta-and-india-enters-into-force-on-1-october-2025-a-key-milestone-for-trade-relations/
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  35. https://bbf.digital/bangladeshs-ldc-graduation-2026-or-delay-to-2032
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  37. https://economictimes.com/news/economy/foreign-trade/mexico-approves-tariff-hikes-on-imports-from-china-india-and-other-asian-countries/articleshow/125900687.cms
  38. https://www.aist.org/report-mexico%E2%80%99s-senate-approves-tariff-hikes-on-china,-other-asian-countries
  39. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/mercosur/eu-mercosur-agreement/text-agreement_en
  40. https://mexiconewsdaily.com/news/china-mexico-50-tariffs/

【2025年12月合意】米英「医薬品ゼロ関税・薬価改革パッケージ」の全貌と実務インパクト


2025年12月1日、米英両政府は医薬品貿易および薬価に関する歴史的な合意を発表しました。これは単なる「関税撤廃」のニュースではありません。**「米国市場へのアクセス権」と引き換えに「英国の医療制度(NHS)が相応の対価を支払う」**という、極めて戦略的かつ実利的な取引(ディール)です。

本記事では、この合意が医薬品のサプライチェーン、薬価戦略、そして日本企業の投資判断に与える影響を解説します。

1. 「米英医薬品合意」の核心:何を交換したのか?

合意の要点は、**「英国が米国の要求通りに薬価・医療支出を引き上げる代わりに、米国は英国製医薬品を『追加関税』の脅威から完全に保護する」**というバーター取引です。

米国側のコミットメント:完全なゼロ関税の保証

  • 対象: 英国原産の医薬品、原薬(API)、医療技術。
  • 内容: 少なくとも3年間、関税を0%に固定。
  • 特記事項: 通常のWTO関税だけでなく、通商拡張法232条(国家安全保障)に基づく追加関税や、通商法301条(不公正貿易)に基づく調査・報復措置からの免除を確約。

英国側のコミットメント:市場の魅力向上

  • 薬価支出の拡大: 新規医薬品への純支出を約25%増額(過去20年で最大規模)。
  • NICE評価基準の緩和: 費用対効果の閾値(Threshold)を引き上げ、高額薬を採用しやすくする。
  • VPAGリベートの引き下げ: 2026年のリベート率を**14.5%**へ大幅に引き下げ、さらに向こう3年間は15%を上限とするキャップ制を導入。

この合意は、本年5月に進展した「米英経済繁栄協定(EPD)」の具体的成果として位置づけられています。

2. なぜ今「ゼロ関税」が重要なのか?(WTOとの違い)

「医薬品の関税はWTO協定でもともとゼロではないか?」という疑問はもっともです。1994年のWTO医薬品協定(ゼロ・フォー・ゼロ)により、主要国間の医薬品関税は原則撤廃されています。

しかし、2025年の地政学リスクは「WTOの外」にあります。

米政権は「医薬品の海外依存は安全保障リスク(232条)」あるいは「各国の薬価統制は米国へのただ乗り(フリーライド)」であるとして、WTO税率とは別枠の10〜100%の追加関税を課す構想を掲げてきました。

今回の合意のビジネス上の価値は、**「英国だけが、この追加関税リスクから『制度的に』免除された」**という点にあります。EUや日本からの輸出が潜在的な追加関税リスク(あるいは既に発動された措置)に晒される中、英国は「確実な避難所(Safe Haven)」としての地位を確保しました。

3. 英国市場の変化:NICE改革とVPAG修正

英国は米国市場へのアクセスを守るため、自国の医療財政ルールを大きく変更します。

3-1. NICE(医療技術評価機構)の基準緩和

費用対効果評価(HTA)の厳格さで知られるNICEですが、今回の合意により新薬の承認基準となる「閾値」を引き上げます。

  • 変更内容: 1QALY(質調整生存年)あたりの許容コストを、従来の2万〜3万ポンドから、2万5千〜3万5千ポンドへ上方修正。
  • 影響: これまで「高すぎる」として償還を拒否されていたがん治療薬、希少疾患薬、遺伝子治療などが、NHSで採用される可能性が飛躍的に高まります。

3-2. VPAG(自発的制度)リベート率の適正化

製薬業界にとって最大の朗報は、売上の一部を政府に返還する「VPAG」制度の見直しです。

  • 現状(2025年): 新薬に対するリベート率は**22.9%**まで高騰し、英国でのイノベーション投資を阻害する要因となっていました。
  • 合意後(2026年〜): リベート率は**14.5%**へ急低下し、さらに3年間は「上限15%」が保証されます。これにより、英国事業の予見可能性(Predictability)と利益率が大幅に改善します。

4. サプライチェーンと投資への実務インパクト

4-1. 「対米輸出ハブ」としての英国

英国製造拠点の競争優位性は明確です。

  • 関税コスト差: 他国(EU・日本等)からの対米輸出に追加関税が課されるシナリオにおいて、英国産(0%)は圧倒的なコスト競争力を持ちます。
  • 規制調和: GMP相互承認(MRA)の活用により、査察コストも最小化されています。

4-2. 投資判断のポイント

ModernaやBMSなどが英国への追加投資を表明していますが、各社は以下のバランスを見て判断する必要があります。

  • プラス要因: 対米アクセスの保証、英国内の薬価環境改善。
  • リスク要因: ゼロ関税の保証期間が現時点では「少なくとも3年間」であること。また、VPAGの15%という水準は欧州他国と比較して依然として低くはないこと。

5. 日本・アジア企業にとっての機会とリスク

チャンス:3つの視点

  1. 対米輸出ルートの再構築:高マージンの新薬やバイオシミラーについて、追加関税リスクのある日本・EU拠点ではなく、英国拠点での製造・最終包装(Secondary Packaging)を行うことで関税を回避するスキーム。
  2. 英国市場での再挑戦:過去にNICEで償還不可となった製品や、採算性から投入を見送った希少疾患薬の再申請検討。
  3. CDMO・エコシステム活用:英国のCDMO(開発製造受託機関)への委託需要増を見越した提携や投資。

リスク:2つの懸念

  1. 3年後の「クリフ」リスク:米国の政権交代や方針転換により、3年後にゼロ関税枠組みが延長されないリスク。投資回収期間のシミュレーションには保守的なシナリオが必要です。
  2. 英国財政の持続可能性:薬価支出を25%増やすことによるNHS財政への圧迫が、将来的に別の形での規制強化(処方制限など)につながる可能性があります。

6. ビジネスパーソンが今すぐ行うべきアクション

  1. 関税インパクトの試算(P/Lシミュレーション):自社の主力対米輸出品について、「現状ルート(日本/EU発)」と「英国経由ルート」での関税・物流コスト総額を比較する。特に「セーフガード関税」が発動された場合の感度分析を行う。
  2. 英国薬価戦略のアップデート:新しいNICE閾値(£25k-£35k/QALY)とVPAGリベート(15% Cap)を前提に、英国での上市計画とプライシングを見直す。
  3. サプライチェーンのオプション検討:完全な工場移転ではなく、英国のパートナー企業(CDMO等)を活用した「製造の一部英国化」による原産地規則(Rules of Origin)クリアの可能性を探る。

おわりに

今回の合意は、医薬品ビジネスにおいて**「貿易政策」と「薬価政策」が不可分になった**ことを象徴しています。英国は「高い薬価(=イノベーションへの対価)」を受け入れることで、「産業の安全(=対米アクセス)」を買いました。

今後、日米間や日欧間でも同様の「管理貿易的アプローチ」が議論される可能性があります。ヘルスケア産業の担当者は、薬事規制だけでなく、通商政策の動向を注視する必要があります。


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医薬品の関税動向:なぜ「ほぼ無税」のはずなのに通商リスクが高まっているのか


医薬品の関税動向:なぜ「ほぼ無税」のはずなのに通商リスクが高まっているのか

医薬品産業は、世界的に見れば「関税優遇」を受けてきた数少ない分野です。geneva-network
それでもいま、米国発の関税再編や新興国の保護政策によって、グローバル製薬ビジネスの前提が静かに変わりつつあります。unctad+1

世界の医薬品関税の現在地

WTO データを基にした推計では、医薬品に対する世界の平均 MFN 適用税率は約 2.1%に過ぎない一方、各国が WTO に約束している上限(約束税率)の平均は約 22%とされています。geneva-network
さらに、米国・EU・日本など主要な先進国は、ウルグアイ・ラウンドで合意した「医薬品ゼロ・フォー・ゼロ・イニシアティブ」に参加し、多くの医薬品およびその化学中間体の関税を撤廃してきました。geneva-network

結果として、

  • 先進国市場:完成医薬品・主要中間体は関税 0% が標準
  • 世界平均:実際に課されている関税は 2% 前後
  • ただし法的には 20%超まで引き上げ可能な余地が残る

という構図になっています。geneva-network
この「適用税率は低いが、約束税率との乖離が大きい」状態が、今後の地政学的緊張や財政悪化の局面で、医薬品にも関税カードが切られる余地を生んでいます。geneva-network

コロナ後の潮目:一時免税から選択的ゼロ関税へ

COVID‑19 パンデミック期には、多くの国がワクチンや検査キット等に対する関税を一時的に引き下げ、医療物資の安定供給を優先しました。geneva-network
その後、非常事態を脱した各国の措置は、恒久的ゼロ関税化・期間限定の優遇措置・従来税率への回帰といった複数パターンに分かれつつあります。geneva-network

企業側から見ると、「コロナ対応で一度 0% まで下がった関税」が、今後も維持されるのか・いつ元に戻るのかが国ごとに異なっており、長期の価格・供給契約を組む際の前提条件を揺らがせる要因となっています。geneva-network

米国発ショック:高関税時代の中で医薬品は「別枠」

関税全体は急上昇、その中で医薬品は供給安全保障の対象に

2025 年、米国は「貿易赤字是正」を掲げ、追加 10% 関税と国別の上乗せ措置を組み合わせた新たな関税パッケージを導入し、途上国を含む多くの国に対して平均関税が 2.8% から 25%超に達し得る新制度を運用し始めました。unctad
この「高関税時代」のなかで、医薬品は、対外的には関税カードの対象でありながら、国内的には不足リスクを避けるべき戦略物資という二重の位置づけになっています。dcatvci+1

米国のジェネリック医薬品は、完成品と原薬の両方でインドおよび中国への依存度が高く、両国からの供給が米国のジェネリック薬全体の 7〜8 割を占めるとする分析もあります。uscc+2
医薬品に高関税を課せば、既に懸念されている医薬品不足をさらに悪化させるとの警鐘も上がっており、結果として医薬品は他産業よりも慎重な扱いを受けています。ft+1

代表的な二国間・地域協定

  • 米英:ゼロ関税と新薬支出 25%増
    米国と英国は、英国産の医薬品・原薬・医療機器に対する関税を少なくとも 3 年間 0% とする一方で、英国側が新しい治療への公的支出(価格閾値を含む)を約 25% 引き上げることで合意したと報じられています。bbc+3
    この合意は、英国の輸出品を米国の高率関税から保護する代わりに、英国の薬価・支出側が調整される「ゼロ関税と薬価政策のパッケージ」として位置づけられます。apnews+1
  • 米 EU:ジェネリックは極めて低い関税へ
    2025 年 8 月の米 EU 共同声明および通商当局の説明では、ジェネリック医薬品やその原料・前駆体に対する米国関税を、ゼロまたはゼロに近い水準で維持・調整する方針が示されています。dcatvci
    同時に、多くの EU 向け製品については 15% 程度の関税上限が設定される一方、医薬品分野はより低い税率枠が別立てされており、「高関税の中での低関税枠」として扱われています。unctad+1
  • 韓国:ジェネリックはゼロ、バイオシミラーはグレー
    米韓間の交渉では、韓国製医薬品に対して MFN ベースで 15% の上限を確認しつつ、ジェネリック(コピー薬)についてはゼロ関税を維持することが合意され、懸念されていた大幅な関税引き上げが回避されたと報じられています。biz.chosun+1
    一方で、バイオシミラーなどバイオ医薬品のコピー薬については扱いが明示されておらず、今後の通商交渉での論点として残されています。chosun+1

新興国市場:医薬品は依然「5〜10%関税ビジネス」

インド:対米輸出はほぼ無税、国内では 5〜10% 課税

米国から見ると、2025 年時点でインド産医薬品に対する平均関税は約 0.01% とされ、主要輸入品目の中でも最も低いグループに属しています。india-briefing
一方、インドは米国産医薬品に対して 5〜10% 程度の関税を課しているとの指摘があり、インドの全品目ベース MFN 平均適用税率は 2023 年時点で 17% と主要国の中でも高い水準です。euagenda+1

2025 年には、米国がインド製品全般に対して 50% までの「報復関税」を適用し得る枠組みを導入しましたが、医薬品・一部セクターは対象外とされ、医薬品輸出に対する直接の打撃は限定的と報じられています。newindianexpress+3
ビジネス的には、「インド → 米国」は関税よりも数量規制・品質規制リスクが支配的であり、「米国 → インド」は 5〜10% の関税を価格にどう転嫁するかが収益に大きく影響します。ddnews+1

ブラジルなど:非農産品平均 9% クラス

ブラジルの MFN 適用税率を見ると、非農産品の単純平均は約 9% であり、その中に医薬品も含まれます。papers.ssrn+1
多くのラテンアメリカ・アジア新興国でも、医薬品は 5〜10% クラスの関税収入源かつ国内産業保護の対象として位置付けられており、完成品輸入か原薬輸入+現地製剤かといった事業モデルの選択が競争力を左右します。euagenda+1

実務インプリケーション:4つの論点

① ジェネリック・バイオ・原薬でリスクが異なる

  • ジェネリック
    米国・EU・英国・韓国など主要市場では、ジェネリック医薬品について「ゼロまたはゼロに近い関税」を維持する方向性が共有されつつあります。biz.chosun+3
    その代わりに、薬価引き上げや新薬への公的支出増、投資・雇用コミットメントなど、非関税面での条件がセットになるケースが増えています。theguardian+2
  • バイオ医薬品・バイオシミラー
    米韓のように、ジェネリックだけゼロ関税が明記され、バイオシミラーの扱いが意図的に曖昧にされている例も出てきており、「化学合成薬とバイオ医薬品で関税を差別化する」可能性があります。chosun+1
  • 原薬・中間体
    先進国間では、ゼロ・フォー・ゼロに含まれる原薬・中間体も多い一方で、新興国では原薬・中間体に一定の関税を残し、将来的な引き上げ余地を確保しているケースもあります。india-briefing+2
    API 供給拠点の偏在リスクと合わせて、調達先の国別関税・約束税率を長期的にモニタリングする必要があります。euagenda+1

② 「ゼロ関税」の裏の取引条件を見る

米英・米 EU の事例が示すように、ゼロ関税はもはや無条件の「善」ではなく、薬価・公的支出・投資・雇用などのコミットメントとパッケージで交渉されます。apnews+2
自社が享受する関税メリットと、その見返りとして相手国が負担する薬価・財政・投資条件をセットで読み解き、自社ビジネスモデルにとって中長期的にプラスかどうかを評価する視点が不可欠です。theguardian+2

③ 新興国の 5〜10% 関税を前提条件として設計する

インド・ブラジルなどの新興国では、医薬品に対する 5〜10% 前後の関税が当面続くとみなす方が現実的です。ddnews+2
そのうえで、原薬輸入+現地製剤、完成品輸入+現地販売、ライセンスアウトなど、関税・税制・規制をトータルで見た最適な組み合わせを国ごとに設計することが求められます。india-briefing+1

④ 関税だけでなく「約束税率」と政治リスクを監視する

現在の平均適用税率が 2.1% と低くても、約束税率は平均 22% まで余地があるため、政策変更次第で医薬品に対する関税が引き上げられる潜在リスクは残ります。geneva-network
特に、米国を中心とした報復関税や国別追加関税が他産業で拡大するなか、「医薬品だけゼロ」という状態が政治的に批判されれば、医薬品分野にも選択的な関税引き上げが波及する可能性があり、今後も重要なリスクファクターとなり得ます。dcatvci+1


以上を踏まえると、医薬品関税は「低いから安心」ではなく、「低いからこそ政治・外交・薬価政策と連動して変動し得る領域」であり、サプライチェーン設計や価格戦略において継続的なモニタリングが不可欠と言えます。unctad+2

  1. https://geneva-network.com/wp-content/uploads/2021/06/2021-how-tariffs-impact-access-to-medicines-SHORT.pdf
  2. https://unctad.org/news/mapping-size-new-us-tariffs-developing-countries
  3. https://www.india-briefing.com/news/us-india-tariff-50-percent-new-rules-impact-exporters-39458.html/
  4. https://prosperousamerica.org/u-s-dangerously-reliant-on-high-risk-imported-drug-supply/
  5. https://www.uscc.gov/sites/default/files/2019-11/Chapter%203%20Section%203%20-%20Growing%20U.S.%20Reliance%20on%20China%E2%80%99s%20Biotech%20and%20Pharmaceutical%20Products.pdf
  6. https://americanaffairsjournal.org/2024/02/foreign-government-subsidies-and-fda-regulatory-failures-are-causing-drug-shortages-in-the-united-states-heres-how-to-fix-it/
  7. https://www.theguardian.com/business/2025/dec/01/uk-us-agree-zero-tariff-pharmaceuticals-deal
  8. https://www.bbc.com/news/articles/cn0k520v4xro
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  10. https://apnews.com/article/uk-us-pharmaceuticals-tariff-deal-ea38985e971bf9aedd73f9def7985462
  11. https://www.dcatvci.org/features/global-impact-us-tariffs-pharma/
  12. https://www.chosun.com/english/industry-en/2025/10/30/KMY4QMQ7CZE6VMJIQ7GW27PEIU/
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  14. https://www.newindianexpress.com/business/2025/Aug/26/us-issues-draft-notice-to-enforce-50-tariffs-on-india-from-aug-27-pharma-electronics-exempted
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  16. https://papers.ssrn.com/sol3/Delivery.cfm/SSRN_ID4070499_code4928395.pdf?abstractid=4070499&mirid=1
  17. https://euagenda.eu/publications/download/104794
  18. https://geneva-network.com/wp-content/uploads/2021/06/2021-how-tariffs-impact-access-to-medicines.pdf
  19. https://www.ft.com/content/b5ed8bf5-fdd2-462b-a92c-96f0d985a685
  20. https://www.chosun.com/english/industry-en/2025/05/21/N5SSKJ4BBBHMNPA2XQVN6RAQJM/
  21. https://www.nationalacademies.org/read/13386/chapter/8
  22. https://www.koreatimes.co.kr/business/companies/20250220/korean-biotechs-on-alert-over-trumps-tariff-threats
  23. https://www.navlindaily.com/article/28401/korean-biopharma-breathes-sigh-of-relief-over-u-s-tariff-deal-still-uncertain-about-biosimilars
  24. https://www.seattletimes.com/opinion/u-s-dependence-on-china-for-medicine-is-a-major-problem/
  25. https://www.statnews.com/2025/10/06/onshoring-tariffs-pharmaceuticals-biosimilars-generics-efficiency/
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  27. https://insights.citeline.com/scrip/business/strategy/us-tariffs-major-korean-biopharma-firms-ready-different-strategic-responses-HTMKHPAKWJBCLN72UAURX77SEM/
  28. https://kpmg.com/kpmg-us/content/dam/kpmg/pdf/2023/generics-2030.pdf
  29. https://www.taxtmi.com/news?id=63292
  30. https://freemarketfoundation.com/how-tariffs-impact-access-to-medicines/
  31. https://www.ndtv.com/india-news/any-tariff-on-pharma-will-hit-india-as-40-exports-go-to-us-report-9049267
  32. https://www.linkedin.com/posts/willydunbar_2021-how-tariffs-impact-access-to-medicines-shortpdf-activity-7267925003432595456-70PA
  33. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666776221001964
  34. https://unctad.org/topic/trade-analysis/tariffs/tariff-dashboard
  35. https://accesstomedicinefoundation.org/medialibrary/2022-access-to-medicine-index-1668514375.pdf
  36. https://www.dhl.com/content/dam/dhl/global/microsites/dhl-nyu/pdf/dhl-trade-atlas-2025-analytical-chapters-only.pdf
  37. https://www.europarl.europa.eu/document/activities/cont/201201/20120130ATT36575/20120130ATT36575EN.pdf
  38. https://ustr.gov/sites/default/files/files/reports/2025/2025%20Trade%20Policy%20Agenda%20WTO%20at%2030%20and%202024%20Annual%20Report%2002282025%20–%20FINAL.pdf
  39. https://asia.nikkei.com/economy/trade-war/trump-tariffs/indian-exporters-say-50-us-tariff-impossible-to-cope-with
  40. https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2018/11/pharmaceutical-innovation-and-access-to-medicines_g1g98d77/9789264307391-en.pdf

2025年、鉄鋼・金属サプライチェーンを揺さぶる関税再編――現場のビジネスマンが押さえるべきポイント


世界の鉄鋼・金属市場は、ここ数年で「自由貿易」から「管理貿易+安全保障+脱炭素」へと、完全にカラーが変わりました。
とくに鉄鋼・アルミ・銅などの金属は、各国の産業政策や安全保障、気候変動政策の”ど真ん中”にあるため、関税・セーフガード・税還付の見直しが立て続けに起きています。
この記事では、「鉄鋼・金属」にフォーカスした関税動向を整理しつつ、製造業・商社・加工業などのビジネスマンが、実務上なにをチェックすべきかをコンパクトにまとめます。

1. ざっくり言うと:鉄鋼・金属の関税は「高止まり+環境要件付き」の時代へ

直近の大きな流れだけ整理すると、次の3つです。

  • 米国:セクション232関税(鉄鋼・アルミ)の大幅引き上げ
    2025年6月、米国は鉄鋼・アルミに対するセクション232関税を、原則25%→50%に倍増。英国など一部を除き、USMCA域内(メキシコ・カナダ)も対象となったことが最大の衝撃です 。strtrade+1
  • EU:輸入鋼材への関税率引き上げ+関税枠(TRQ)の大幅縮小
    欧州委員会は、2026年から適用する新たな制度案として、無関税枠の数量を2024年比で約47%削減し、枠超過分には50%関税を課す方針を打ち出しています 。secnewgate+1
  • 中国:アルミ・銅などの輸出税還付(リベート)を廃止
    中国は2024年12月1日から、アルミ・銅など主要金属の輸出税還付を廃止・縮小し、実質的な輸出インセンティブを削除しました 。english.www+1

これに加えて、**EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)や、米国との交渉材料としてのメキシコの対中輸入高関税(最大50%)**など、鉄鋼・金属を直撃する制度が連鎖的に動いています 。ttnews

2. 米国:Section 232関税の再強化

対米ビジネスは「50%関税前提」が新常態

  • 何が起きているのか
    2025年6月4日以降、米国の鉄鋼・アルミ輸入にかかるセクション232関税は、原則50%に引き上げられました。
    特筆すべきは、これまで免除対象だったメキシコやカナダからの輸入にも50%が適用された点です 。英国向けについては25%に据え置かれていますが、それ以外の供給国にとっては極めて厳しい状況となっています 。また、対象品目は素材だけでなく、釘やワイヤーなどの派生製品(Derivatives)にも拡大しており、HSコードごとの確認が不可欠です。whitecase+1
  • ビジネスマン視点:なにが変わる?
    • 対米輸出モデルの再設計が必須
      50%の関税コストを吸収できる高付加価値品か、それとも米国内生産(現地化)に切り替えるか。事業戦略レベルの二択を迫られています。
    • 「melted and poured(溶解・鋳造)」ルールの厳格化
      原産地判定において「どの国で溶かし、どこで鋳造したか」の証跡管理が義務化されています。中国産鋼材が第三国で加工されて流入することを防ぐ狙いがあり、ミルシートのトレーサビリティが税率を左右します 。eurometal

3. EU:輸入鋼材への「量&価格」ダブル防衛+CBAM

新しい鉄鋼防衛策(セーフガード後継案)

  • 鉄鋼防衛策の激変
    EUは、2026年6月で終了する現行セーフガード措置に代わる新スキームとして、以下の厳しい提案を行っています 。euperspectives+1
    • 無関税枠(TRQ)を約33百万トン → 18.3百万トンへ約47%削減
    • TRQを超えた輸入には、従来の25% → 50%の関税
    • 枠の「繰り越し(Carry-over)」廃止
      つまり、**「輸入量を半減させ、超過分には倍のペナルティを課す」**という強烈な保護政策です。背景には、中国等の過剰生産に対するEU域内産業の危機感があります。
  • CBAMで「CO2コスト」も上乗せ
    これと並行してCBAMが進行しており、2026年からは本格的な課金フェーズに入ります。枠内(無関税)で輸入できたとしても、CO2排出量に応じた炭素コストの支払いが必須となります。

4. 中国:輸出税還付見直しで、アルミ・銅のグローバル供給に変化

輸出税還付(リベート)廃止・縮小

  • 何が起きたか
    中国は2024年12月1日より、アルミ半製品・銅製品などの輸出税還付(13%)を廃止しました 。これは長年、中国製品の価格競争力を支えていた「補助金的」な仕組みでしたが、これを撤廃することで、実質的な輸出価格の引き上げ(またはメーカーのマージン悪化)を招いています。bsstainless+1
  • ビジネスへの影響
    • LME価格および実勢価格の上昇
      還付廃止分を価格転嫁する動きが進んでおり、中国材の「安さ」というメリットが薄れています 。think.ing
    • 調達ソースの分散
      中国一辺倒だった非鉄金属の調達は、東南アジアや中東、リサイクル材へのシフトが加速しています。

5. メキシコ:対中高関税は「対米交渉」の切り札

北米サプライチェーン再編の正念場

  • 背景にある「対米交渉」
    2025年12月現在、メキシコ議会では中国などFTAを持たない国からの輸入に最大50%の関税を課す法案が審議されており、12月8日には下院委員会を通過しました 。bloomberg+1
    この動きの最大の動機は、米国によるメキシコ産鉄鋼への50%関税(6月発動)を解除してもらうことにあります。メキシコは「中国からの迂回輸出ルート(Backdoor)」を自ら塞ぐ姿勢を示すことで、米国からの制裁関税免除(Relief)を勝ち取ろうとしています 。financialpost
  • なにがポイントか
    • 「中国→メキシコ→米国」ルートの完全遮断
      メキシコでの加工を前提とした中国材ビジネスは、メキシコ側の入口で50%、米国側の入口でも原産地規則で弾かれるという「二重の壁」に直面します。
    • 生産拠点の再考
      メキシコが「北米の工場」としての地位を維持できるか、それとも米国南部への回帰が進むか、この法案の成立と米国の反応(関税解除の有無)が2026年の分水嶺となります。

6. 鉄鋼・金属ビジネスマンのための「明日からの」実務チェックリスト

最後に、今すぐ着手すべき実務アクションを整理します。

  1. 関税エクスポージャーの再計算(特にUSMCA圏)
    米国向けだけでなく、メキシコ・カナダ向けの輸出についても、現在の50%関税が適用されるのか、迂回防止措置に抵触しないかをHSコード単位で精査する。
  2. 契約・価格条件(インコタームズ)の防衛
    DDP条件での契約は、突発的な関税コスト(50%)を売り手が被るリスクがあるため極力避ける。「関税率の変更は買い手負担(Pass-through)」とする条項の明記が必須。
  3. 「中国離れ」の在庫戦略
    中国の還付廃止とメキシコの対中関税により、中国材の流動性が低下しています。東南アジアやインドなど、第二・第三のソース確保を急ぐとともに、TRQ枠が逼迫する前の「期初(1月・4月)の輸入枠確保」が勝負になります。
  4. 「Melted & Poured」とCO2データのセット管理
    「どこで溶かしたか(原産地)」と「CO2はどれくらいか(CBAM)」、この2つのデータがないと、欧米市場では土俵にすら上がれない時代です。サプライヤーからのミル証明書取得プロセスをデジタル化・厳格化しておくことが、将来のコスト削減に直結します。

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ソースを確認

  1. https://www.whitecase.com/insight-alert/trump-administration-increases-steel-and-aluminum-section-232-tariffs-50-and-narrows
  2. https://financialpost.com/pmn/business-pmn/mexico-to-hike-china-tariffs-raising-hopes-of-us-steel-relief
  3. https://www.ttnews.com/article/mexico-china-raise-tariffs
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  11. https://think.ing.com/articles/the-commodities-feed-lme-aluminium-jumps-after-china-ends-export-tax-rebate/
  12. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-08/mexico-to-hike-china-tariffs-raising-hopes-of-us-steel-relief
  13. https://www.china-briefing.com/news/navigating-chinas-latest-export-tax-rebate-adjustments-implications/
  14. https://apps.fas.usda.gov/newgainapi/api/Report/DownloadReportByFileName?fileName=UCO+Export+Tax+Rebate+Terminated_Beijing_China+-+People%27s+Republic+of_CH2024-0149.pdf
  15. https://www.metal.com/en/newscontent/103044495
  16. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/06/fact-sheet-president-donald-j-trump-increases-section-232-tariffs-on-steel-and-aluminum/
  17. https://www.argusmedia.com/es/news-and-insights/latest-market-news/2730867-mexico-to-raise-auto-import-tariffs-to-50pc
  18. https://www.reuters.com/markets/commodities/china-cut-or-cancel-export-tax-rebates-products-including-aluminium-copper-2024-11-15/
  19. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/06/amendment-to-imports-of-aluminum-and-steel-increases-232-tariffs-to-50/
  20. https://www.bruegel.org/first-glance/eu-should-moderate-its-steel-protection-plan

世界の鉄鋼・金属に「50%関税」と「グリーン関税」が同時に迫っている――2025年末時点で何が起きていて、何を準備すべきか


修正文(全体)

世界の鉄鋼・金属に「50%関税」と「グリーン関税」が同時に迫っている
――2025年末時点で何が起きていて、何を準備すべきか

2025年末、鉄鋼・金属を取り巻く関税環境は、これまでとは別世界と言えるレベルに変化しつつあります。
大きく整理すると、次の3つの壁が同時に立ち上がっています。

  • 50%クラスの超高関税(米国の Section 232 など)strtrade+1
  • セーフガード/TRQ+「melted & poured」などの原産地縛りreuters+1
  • EU CBAM に代表される「グリーン関税」+その周辺拡張europa

鉄鋼メーカーだけでなく、鋼材・アルミ・銅を大量に使う自動車・機械・建設・家電メーカーにとっても、仕入れ価格・調達経路・原産地証明のあり方を根本的に見直さざるを得ない局面です。
以下、主要地域ごとの動きを整理しつつ、日本企業としての打ち手を考えます。


1. 米国:232条は「50%」へ、対象も素材から製品へ拡大

1-1. 鉄鋼・アルミ:一律50%(英国のみ25%)

2025年6月、トランプ政権は Section 232 関税を鋼 25%・アルミ 10%から、ほぼ一律 50%へ引き上げる大統領布告を発出しました。whitehouse+1
2025年6月4日以降、英国を除く全ての国(カナダ・メキシコ等を含む)からの鉄鋼・アルミ輸入に 50%の 232 条関税が適用され、英国のみ通商合意に基づき 25%据え置きとなっています。thompsonhinesmartrade+2

  • 2018年:鋼 25%/アルミ 10%
  • 2025年2月:再就任後に 25%関税を再導入
  • 2025年6月:それを原則 50%に引き上げ(英国は 25%)whitehouse+1

同年夏以降、対象を「鋼・アルミを多く含む二次製品(機械、芝刈り機など)」に広げる動きもあり、「鋼そのもの」だけでなく「鋼・アルミを含む製品」にも 232 関税が波及しつつあります(対象品目は告示・HSベースで随時追加)。bis+1

1-2. 銅にも 232 関税拡大の動き

2025年末時点では、鋼・アルミに加え、一部の銅関連製品についても Section 232 の枠組みを用いた追加関税の導入・拡大が議論されており、特定の半製品や加工品に高率の関税が課されるケースが出てきています(対象 HS・税率は告示ごとに要確認)。whitecase+1
対象は主に半製品や一部の銅加工品で、スクラップなど原料段階は除外される方向が中心とされ、FTA の有無を問わず広範な国・地域が検討対象になっています。strtrade+1

銅・アルミを多く使う配電機器・EV 関連部品・精密機器にとって、「鋼→アルミ→銅」と金属全体に 232 関税・高関税の波が広がりつつある点は押さえておく必要があります。cfr+1

1-3. EU との新枠組みと“相互関税”構図

EU との新たな貿易枠組みでは、自動車・半導体など多くの工業品関税を 15%を上限に管理する一方で、鋼・アルミ・一部金属については EU から米国への輸出に高関税が残る構図が示されています。cfr+1
EU からの鉄鋼・アルミ輸出には、事実上高率の関税負担が固定される一方、EU 側も米国製品に対する報復関税や追加措置を維持しており、「鋼・金属だけ別枠で高関税」という相互関税の構図が鮮明になっています。wikipedia+1


2. EU:2026年までは25%セーフガード、その後は「50%案」+CBAM

2-1. 現行:2026年6月まで続くセーフガード TRQ(超過分25%)

EU の鉄鋼セーフガードは、2026年6月30日までの延長が正式に決定されています。europa+1
仕組みは、品目別・国別の関税割当(TRQ)を設定し、枠内は通常関税(多くはゼロ)、枠超過分には 25%の追加関税を課すというものです。reuters+1

2025年春以降、輸入急増への対応として、一部カテゴリーで残余枠への国別キャップ導入や未使用枠のキャリーオーバー制限など、TRQ の運用を引き締める改定が行われており、形式上の枠構造を維持しつつ“実効的な無税枠”を絞り込む方向に動いています。eeas.europa+1

2-2. 2026年7月からの新案:枠47%削減+超過分50%案

2025年10月、欧州委員会は現行セーフガードに代わる新しい鉄鋼防衛制度案を公表しました。eurometal+1
主な骨子は次の通りです。

  • 全体 TRQ(無税枠)を約 3,300 万トン → 約 1,800 万トンへ、約 47%削減
  • 枠超過部分の追加関税率を現行 25% → 50%に引き上げる案
  • 「melted and poured(溶解・鋳造)」の産地申告義務化
  • 未使用枠の持越し原則禁止と、対象品目拡張の裁量を欧州委員会に付与
  • 想定発効:2026年7月1日~2031年(2027年に見直し条項)europa+1

これに対し、EU の金属ユーザー団体などは「50%は過度であり、現行と同じ 25%にとどめるべき」と強く反対しており、2026年に向けて“25%か 50%か”を巡る政治・業界ロビーが続いています。orgalim

2-3. フェロアロイ向けセーフガードと細分化の流れ

さらに EU は、フェロクロムなどフェロアロイ向けに 3 年間の TRQ 制度を導入し、2022–24年平均輸入量より 25%低い水準で割当を設定する案を示しています。spglobal+2
TRQ 超過分については、追加課徴金等により実質的な追加負担を課す仕組みを検討しており、今後の制度設計次第では、鉄鋼全体の「50%案」と整合する形に吸収される可能性もあります。argusmedia+1

つまり、EU は「鉄鋼全体を一本のセーフガードで守る」段階から、「フェロアロイ・特殊鋼など細かいピースごとに個別の防御ラインを引く」段階へ移行しつつあると言えます。eurometal+1

2-4. CBAM:2026年から“CO₂コスト”を上乗せする第3の関税

これに重なるのが CBAM(炭素国境調整メカニズム)です。
対象セクターは、鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力・水素など 6 分野からスタートします。europa

  • 2023–25年:移行期間(報告義務のみ)
  • 2026年1月1日:本格稼働し、輸入者は埋込 CO₂ 量に応じて CBAM 証書を購入・償却europa

2025年のレビューでは、自動車のドア、家電、工具など「鋼を多く含む下流製品」に対象を拡大する案が議論されており、今後の立法プロセス次第で対象範囲が広がる可能性があります。europa
したがって、EUに鋼材を輸出する場合だけでなく、自動車車体系部品・家電・機械など「鋼を大量に使う完成品」も、2026年以降は関税+セーフガード(または新 TRQ)+CBAM という三重コストを意識せざるを得ない局面になり得ます。reuters+1


3. カナダ・英国:25%“中国鋼”サーチャージとセーフガード

3-1. カナダ:「melted & poured in China」に25%サーチャージ

カナダは 2024 年に中国産鋼・アルミに 25%サーチャージを導入したのに続き、2025年7月31日から、「中国で溶解・鋳造された鋼・アルミ」を含む一定の製品に対して追加 25%サーチャージを課す措置を導入しました。gazette+2
ここでの対象は、「中国製」と表示されていなくても、鋼が中国で melted & poured されていれば 25%サーチャージの対象となる点が特徴です。cbsa-asfc+1

その結果、サプライチェーン上に中国由来の鋼が紛れ込んでいると、通常関税+反ダンピング・相殺関税+25%サーチャージが累積し得る構造となります。ey+1
中国側は WTO 協定違反だと強く反発し、農産品などへの報復関税も発動しているため、鉄鋼を含むカナダ–中国間の貿易は政治リスクを含め非常に不安定になっています。pcb+1

3-2. 英国:EU型セーフガードを維持、枠超過25%

英国は EU 離脱後も、EU とほぼ同じ内容の鉄鋼セーフガード(TRQ+枠超過 25%)を維持しており、2026年6月30日までの延長が推奨・手続き中です。gov+2
TRQ 枠内は通常関税(多くはゼロ)、枠超過分は 25%関税という構造で、EU・米国など他市場の制限により余剰鋼材が英国に殺到するのを防ぐことが主目的です。gov+1

一方、英国から米国への鋼・アルミ輸出については、他国向け 50%と比べると軽減されているものの、2025年以降も Section 232 に基づく 25%関税が概ね維持されており、以前の TRQ ベースの広範な免除は基本的に失われています。thompsonhinesmartrade+1


4. メキシコ:5〜50%の暫定関税+「最大50%案」でハブ化抑制

4-1. 2024年:5〜50%の暫定輸入関税(鋼・アルミ含む)

メキシコは 2024 年 4 月以降、544 品目に対して 5〜50%の暫定輸入関税を導入しました。trade+1
対象には鋼・アルミ・木材・プラスチック・電機部品・輸送用機器などが含まれており、主なターゲットは中国など自由貿易協定を締結していない国からの輸入です。bbvaresearch+1

目的は、国内産業保護に加え、米国の 232 条・301 条への“対抗カード”として、自国の通商ポジションを強化することにあります。trade+1

4-2. 2025年:最大50%の恒久案(鋼材・金属も含む)へ

さらに 2025 年秋には、2026 年経済パッケージの一環として、約 1,463 の HS 類別について関税法(TIGIE)の上限税率を 35〜50%まで設定可能にする改正案が議会に提出されています。internationaltradecomplianceupdate+1
鋼・アルミ・自動車部品・電子機器などが主要なターゲットとされ、対象は中国・インド・韓国・タイ・インドネシアなど FTA を持たないアジア諸国が中心です。internationaltradecomplianceupdate+1

2025年12月時点では、あくまで「最大 50%まで設定可能とする案」の段階ですが、メキシコ産業界の強い反発を受け、鋼材・自動車部品については段階的な引き上げや税率水準の修正が検討されていると報じられています。bbvaresearch+1
この動きは、「中国製鋼・金属をメキシコ経由で USMCA 市場に流し込む“ハブ化”」を防ぎたい米国の意向と、「国内鉄鋼・製造業を守りたい」メキシコ政府の思惑が一致した結果と見ることができます。trade+1


5. 3つのキーワードで見る「鉄鋼・金属の関税時代」

ここまでの動きをビジネスの視点で整理すると、次の 3 点がキーワードになります。

キーワード①:50%クラスの“懲罰的”関税の常態化

  • 米国 Section 232:鋼・アルミに原則 50%(英国のみ 25%)whitehouse+1
  • EU 案:2026 年以降、TRQ 枠超過分の追加関税を 25%→50%に倍増する提案eurometal+1
  • メキシコ:最大 50%まで関税を設定可能とする法案を提出internationaltradecomplianceupdate+1

「25%ですら重い」と言われていた時代から、「50%クラスが普通に俎上に載る時代」へとパラダイムが変わりつつあると考えるべき局面です。

キーワード②:“melted & poured”と「原産地の二重管理」

  • カナダ:「中国で溶解・鋳造された鋼・アルミ」を含む場合に 25%サーチャージgazette+1
  • EU 新案:「melted & poured」情報の申告義務化により、供給源をミルレベルでトレースeurometal+1
  • 米国:232 関連の免除スキームや政府調達等で、「米国で melted & poured された鋼」を優遇する運用が各所で採用されているstrtrade+1

従来の「最終実質加工地=原産地」だけを見ていればよい世界から、「どこで溶かしたか/鋳造したか」まで問われる世界にシフトしていると言えます。

キーワード③:「鉄鋼×CO₂」の CBAM が第3の関税に

  • EU CBAM:2026 年から、鉄鋼・アルミなど 6 セクターで CO₂ 排出量に応じた支払い義務europa
  • レビューでは、自動車のドア・家電・工具など「鉄を多く含む完成品」まで対象を広げる案が議論中europa

その結果、EU 向け輸出では、通常関税+セーフガード/新 TRQ(25〜50%)+CBAM という「三重の負担」が重なり得る構造になっています。reuters+1


6. 日本の鉄鋼・金属ビジネスが今やるべき5つのこと

① 市場別に「50%リスク」をマッピングする

  • 米国向け:自社の鋼材・鋼材を含む製品に 232 条 50%(または 25%)が現在・将来かかり得るかを一覧化する。whitehouse+1
  • EU 向け:現行セーフガードの TRQ 枠の利用状況と、2026 年以降に「枠 47%削減+50%案」が通った場合の採算性をシミュレーションする。eurometal+1
  • メキシコ・カナダ向け:中国由来の鋼・アルミを使っていないか、サプライチェーン単位で可視化し、追加サーチャージ・高関税リスクを把握する。gazette+1

どの案件に 50%クラスのリスクが乗るのかを、顧客別・プロジェクト別に棚卸ししておくことが第一歩です。

② “melted & poured”情報を取れるサプライチェーンに切り替える

カナダや EU 向けでは、「melted & poured」情報が取れないと、サーチャージ対象になったり TRQ 枠を使えなかったりするリスクがあります。gazette+1
サプライヤーに対し、溶解・鋳造地点を明記したミルシート/証明書を標準フォーマットで取得し、ERP や貿易管理システム上でロット単位に紐づけて管理する体制が重要です。

日本発の鋼材だけでなく、第三国からの鋼材→日本で加工→輸出という流れも多いため、「二重・三重の原産地情報」を追跡できる仕組みを設計することが求められます。

③ CBAM 前提で「CO₂情報」まで設計に組み込む

2026 年以降、EU 向けには t-CO₂/t 鋼など CO₂ 排出原単位の提示が求められるため、製鉄所レベルだけでなく、製品・グレード別の CO₂ データが必要になる可能性があります。europa
自社の CBAM 対応だけでなく、「日本製鋼材を用いることで EU 顧客の CBAM 負担がどれだけ減るか」を定量的に示せれば、営業面での差別化要素にもなり得ます。

結果として、「安いが高 CO₂」の鋼は、関税+CBAM を含めた総コストでは割高になるシナリオも現実的です。europa

④ 価格条件・契約条項に「関税セーフティバルブ」を入れる

232 条 50%や EU の 50%案のように、「契約期間中に関税が倍増する」ケースは、もはや珍しくありません。whitehouse+1
契約条件に次のような条項を織り込んでおくことで、一方的にコストを被るリスクを減らせます。

  • 特定関税(232 条、セーフガード、相殺関税など)の新設・引き上げ時の再交渉条項
  • HS コード・原産地変更や CBAM 負担増が必要になった場合の価格見直し条項

⑤ 「相互関税」前提で、通商モニタリングをルーティン化

鉄鋼・金属は、米国 vs EU、米国 vs カナダ・メキシコ、カナダ vs 中国、EU vs 中国など、複数の対立軸で“相互関税”が飛び交う代表業種になりました。pcb+1
したがって、次のような「通商インフラ」を社内に組み込むことが、鉄鋼・金属ビジネスにとっての新しい必須条件になりつつあります。

  • 経営会議・投資委員会の前に、関税・セーフガード・CBAM の最新状況をアップデートする定例プロセスを設ける
  • 米国 232 条、EU セーフガード/新 TRQ、CBAM、メキシコ・カナダの措置を月次でモニタリングする「通商・関税ダッシュボード」を構築するtrade+1

おわりに:鉄鋼・金属は「一番早く嵐が到来した」業種

鉄鋼・金属分野は、

  • 50%クラスの高関税
  • 原産地の二重・三重チェック(melted & poured 等)
  • CO₂ を価格に織り込む CBAM

といった新しい通商ルールが最初に本格適用される“実験場”になっています。gazette+2
ここで構築した「高関税+melted & poured+CBAM を前提にしたサプライチェーン・価格設計」は、今後アルミ・銅・バッテリー・化学品など他の素材ビジネスにも横展開できる「型」になる可能性があります。trade+1

2026 年に向けて、自社の鉄鋼・金属ビジネスを「関税 3.0 時代」の標準仕様にどこまでアップデートできるか。
それが、次の 10 年の競争力を左右する重要な分岐点になりつつあると言えます。whitehouse+1

  1. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/06/fact-sheet-president-donald-j-trump-increases-section-232-tariffs-on-steel-and-aluminum/
  2. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/section-232-tariffs-on-steel-aluminum
  3. https://www.reuters.com/markets/commodities/eu-plans-cut-steel-import-quotas-hike-tariffs-2025-10-01/
  4. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2293
  5. https://gazette.gc.ca/rp-pr/p2/2025/2025-08-13/html/sor-dors154-eng.html
  6. https://www.trade.gov/market-intelligence/mexico-tax-and-tariff-increase-2024
  7. https://www.internationaltradecomplianceupdate.com/2024/04/23/mexico-ministry-of-economy-published-in-the-federal-official-gazette-an-amendment-to-the-tariff-schedule-of-the-general-import-and-export-duties-law-tigie-for-its-acronym-in-spanish/
  8. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/06/adjusting-imports-of-aluminum-and-steel-into-the-united-states/
  9. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/06/section-232-aluminum-and-steel-tariffs-increased-to-50-except-for-uk-significant-changes-made-to-calculating-and-stacking-of-tariffs/
  10. https://www.bis.gov/press-release/department-commerce-adds-407-product-categories-steel-aluminum-tariffs
  11. https://www.whitecase.com/insight-alert/trump-administration-increases-steel-and-aluminum-section-232-tariffs-50-and-narrows
  12. https://www.cfr.org/article/guide-trumps-section-232-tariffs-nine-maps
  13. https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
  14. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2698
  15. https://www.eeas.europa.eu/delegations/t%C3%BCrkiye/commission-proposes-plan-protect-eu-steel-industry-unfair-impacts-global-overcapacity_en?s=230
  16. https://eurometal.net/meps-international-understanding-the-eus-steel-defence-proposal/
  17. https://orgalim.eu/wp-content/uploads/New-EU-steel-safeguards-a-devastating-threat-for-European-steel-users.pdf
  18. https://www.spglobal.com/commodity-insights/en/news-research/latest-news/metals/111325-ecs-proposed-safeguard-to-curb-eu-ferroalloy-imports-by-25
  19. https://eurometal.net/eu-proposes-trq-to-reduce-ferro-alloy-imports-by-25-percent/
  20. https://gmk.center/en/news/eu-introduces-quotas-to-restrict-imports-of-ferroalloys/
  21. https://www.argusmedia.com/en/news-and-insights/latest-market-news/2754260-eu-states-to-vote-on-trq-variable-duty-alloy-safeguard
  22. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/publications/cn-ad/cn25-28-eng.html
  23. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/canada-imposes-additional-surtaxes-on-certain-steel-and-aluminum-goods
  24. https://www.pcb.ca/news/canada-introduces-several-new-measures-to-protect-canadian-steel-and-aluminum
  25. https://www.gov.uk/government/calls-for-evidence/steel-trade-measures/steel-trade-measures-call-for-evidence
  26. https://www.gov.uk/government/publications/trade-remedies-notices-tariff-rate-quotas-on-steel-goods/trade-remedies-notice-202512-safeguard-measure-tariff-rate-quota-on-steel-goods
  27. https://bssa.org.uk/tra-recommends-steel-safeguard-measure-be-extended-to-2026/
  28. https://www.bbvaresearch.com/wp-content/uploads/2024/05/aranceles_240517_eng.pdf

米印関税協議の12月ラウンドで何が起きるのか──最大50%関税と「二本立て交渉」の行方を、ビジネスの現場目線で整理してみます


1. 12月協議のスケジュールと全体像

まずは事実関係をざっくり整理します。

日程
米国通商代表部(USTR)の高官団が、12月9〜11日前後にインドを訪問し、実質的な本格協議は10〜11日に行われる見通しです。reuters
インド側や一部報道では「10〜12日の3日間協議」と説明されており、実務協議と取りまとめセッションを含めて3日分の枠を確保していると理解するのが妥当です。metroindia

参加プレーヤー
米国側:リック・スウィッツァーUSTR次席代表(Deputy USTR)が代表。reuters+1
インド側:ラジェシュ・アグラワル商務次官(Commerce Secretary)が首席交渉官として対応すると報じられています。metroindia

交渉の「器」(フォーマット)

  • 二国間貿易協定(BTA)第1トランシュをまとめる交渉
  • 「相互関税(reciprocal tariffs)」問題を切り離して処理するための枠組み交渉
    (対印25%の相互関税と、ロシア産原油購入に紐づく25%の「オイル関税」という二層構造の整理)ey+2

インド商務省は「年内に第1トランシュを決着させたい」と繰り返し発言しており、今回の12月ラウンドは「詰め」の色彩が強い局面と見るのが現実的です。metroindia


2. なぜここまでこじれたのか:50%関税の現状

2-1. 50%関税の中身

2025年夏以降、米印の関税問題は一気にエスカレートしました。cnbc+2
2025年8月初旬、トランプ大統領はインドからの輸入品に25%の追加関税を発動し、その後さらに25%を上乗せしたことで、多くのインド製品が実質50%課税の対象となっています。theguardian+3

目的とされるのは、

  • インドによるロシア産原油の継続輸入に対する制裁
  • 米国が貿易赤字を抱える国に対して進める「相互主義的関税」政策の一環
    という二つの側面です。whitehouse+3

経済紙の報道によれば、インド側の試算では、2024年の輸出額ベースで約482億ドル相当の対米輸出が、この50%関税の影響を受け得るとされています。thedailystar

2-2. 通貨・マクロへのインパクト

この関税ショックは、為替や資本フローにも跳ねています。tradingeconomics+2
2025年12月初旬、ルピーは対ドルで1ドル=90ルピー台に乗せ、史上最安値圏まで下落しました。rediff+2

背景として指摘されている要因は、

  • 最大輸出市場である米国向け輸出の減速(最大50%関税による採算悪化)
  • それに伴う外国株式投資の流出(年初来で数十億ドル規模のネット売り)
  • FDIの伸び鈍化や外貨需要超過
    などです。tradingeconomics+2

インド最大手銀行の一つであるHDFCは、「対米通商合意が早期にまとまらなければ、ルピーは92まで下落する可能性がある」と警鐘を鳴らしています。ts2+1

2-3. 「関係は良かったはず」からの反転

ここまでこじれる直前まで、米印はむしろ「雪解けムード」にありました。
2023年6月、WTO上の6件の係争を一括解決し、インドは米国の鉄鋼・アルミへの232条関税に対する報復関税を撤廃しました。thedailystar+1

2024年1月の第14回米印貿易政策フォーラム(TPF)では、

  • 通関・サプライチェーン
  • 医薬品・医療機器
  • デジタル貿易・データ保護
  • ITハードの輸入規制
    など幅広い分野で協力ロードマップが整理されています。reuters+1

ところが、ロシア産原油をめぐる政治要因をきっかけに、「232条の一件落着」から一転して新たな関税戦争に入ってしまった、という構図です。ey+2


3. 12月協議で浮上しそうな論点の芽

ここからが、ビジネスの観点で最も重要なポイントです。
12月ラウンドで具体的にどのような論点がテーブルに載りそうか、「芽」の段階も含めて整理します。thedailystar+2

論点①:50%関税の「出口」をどう描くか

今回の協議の最大テーマは、言うまでもなく50%関税の扱いです。thedailystar+1

インド側の狙いは、

  • 「オイル関税」25%の早期撤廃
  • 残り25%の「相互関税」についても、段階的引き下げスケジュールを確保すること
    とされています。metroindia+1

米国側は、ロシア産原油問題が絡むため一括撤廃には慎重で、代わりに一定の対ロシア行動を条件とした「スナップバック条項付きの緩和」を検討する可能性があります。theguardian+2

報道ベースでは、インド商務省が「まずは枠組み合意(tariff framework deal)で、関税問題のガードレールを先に敷く」と説明しており、12月ラウンドで「即時解決」よりも「出口の設計図」が示される公算が高いと見られます。thedailystar+1

論点②:セクター別「バーター」の構図

関税全体を下げる代わりに、どの分野で相互に市場を開放するかが、実務的には最大の交渉材料になります。metroindia+1

インド側が関税引き下げを求める分野

  • 労働集約型輸出:繊維・衣料、革製品、宝飾(宝石・ジュエリー)、靴・玩具など
  • 一部農産品・水産品:えび・魚介類、油糧種子、ぶどう・バナナなどthedailystar

米国側がインド市場の開放を求める分野

  • 工業製品・高付加価値製造業:産業機械・部品、EVを含む自動車、石化製品
  • 農産品・食品:乳製品、りんご・ナッツ類(ツリーナッツ)、一部GM作物
  • ワイン・アルコール飲料 などthedailystar

ビジネスとしては、

  • どの分野から先に関税が引き下げられそうか
  • どの分野が最後まで政治カードとして残されそうか
    を見極めることで、自社の投資やサプライチェーン再編の優先順位をつけやすくなります。thedailystar

論点③:ロシア産原油と「戦略的自律」

今回の関税問題の根底には、インドによるロシア産原油輸入があります。cnbc+2

米国は、ロシア産原油の割安輸入がロシアの軍事行動を間接的に支えていると批判し、50%関税の半分を「ロシア油へのペナルティ」と位置づけています。cnbc+2
インドはエネルギー安全保障を理由に、「誰とどう付き合うかは主権の問題」と主張し、「戦略的自律(strategic autonomy)」を重ねて強調しています。thedailystar

12月協議のテーブルでも、関税そのもの以上に「どの程度までロシアとのエネルギー取引を続けるか」という政治・安全保障の議論が、経済交渉の裏テーマとして動く可能性があります。ey+2

ビジネス面では、

  • 対ロシア依存度の高いサプライチェーン
  • 原油・ガス価格がコスト構造に占める比重
    が、米印関係の「地政学的温度」に左右される点を意識しておく必要があります。ts2+2

論点④:通貨・金利・マクロ安定性への副作用

ルピー安と資本流出は、すでにインド企業・投資家にとって現実的な懸念材料になっています。rediff+2
12月協議の結果は、

  • 「関税緩和シナリオ」:ルピー安に一定の歯止めがかかり、インド株・債券への資金回帰が期待される
  • 「決裂または先送りシナリオ」:ルピー90〜92レンジの長期化と、インド企業の海外調達コスト上昇
    という形でマクロ環境に直結する、という見方が出ています。ts2+1

外からは「関税問題」として語られがちですが、企業の立場からは、為替・金利・資本コストの問題として捉える方が実務的です。rediff+2

論点⑤:関税を超えた「非関税・デジタル」アジェンダ

12月協議の公式アジェンダはまだ詳細が公表されていませんが、2024年のTPF共同声明で掲げられたテーマを踏まえると、少なくとも以下のような「芽」が常に背景にあります。reuters+1

  • ITハードの輸入管理(コンピュータ・サーバー・タブレットなど)
  • 医療機器の価格規制と基準
  • 医薬品サプライチェーン(API・KSMの分散)
  • デジタル貿易・個人データ保護(DPDPA)
  • 通関のデジタル化・貿易円滑化reuters+1

これらは「12月で一気に決着する」性質のテーマではありませんが、「関税問題が一段落したあと、どこに規制・標準の焦点が移るか」という意味で、中長期の論点の芽としてウォッチ対象になります。reuters+1


4. ビジネスマンが今から押さえたい3つの視点

最後に、「自社ビジネスにどう関係してくるのか」という観点から、チェックポイントを3つに絞ります。tradingeconomics+2

① どのセクターが「最初に」関税緩和の候補になるか

自社や主要取引先の事業が、

  • インド側の要望リスト(繊維・宝飾・労働集約型製造・一部農水産品など)に含まれるのか
  • 米国側の要望リスト(EV・高級車・石化・乳製品・果物・ナッツ類など)に含まれるのか
    を一度棚卸ししておく価値があります。thedailystar

どちらの「陣営」に乗っているかによって、

  • 関税引き下げのタイミング
  • 求められる規制対応や品質標準
    が変わってくるためです。thedailystar

② 為替・資本コストのシナリオを「米印関係」とセットで見る

インドに生産・開発拠点を持つ企業は、

  • ルピー90〜92レンジが半年〜1年続く前提のPLシナリオ
  • 「関税緩和→資本流入回復」でルピーが落ち着くシナリオ
    の少なくとも二本立てを準備しておくと、意思決定がしやすくなります。ts2+1

調達・販売をドル建てで行っている場合、関税よりも為替インパクトの方が効くケースもあるため、あえて「通貨リスク中心」でシナリオ設計を行う割り切りも有効です。tradingeconomics+1

③ 「ポスト関税」の規制・デジタル議論に先回りする

関税が落ち着いた後には、

  • データローカライゼーション
  • デジタル取引に対する税・規制
  • 医療・IT・EVなどの技術・安全基準
    が次の交渉テーマとなる可能性が高いと見られています。reuters+1

今回の12月ラウンドを、「関税問題だけでなく、その先のアジェンダの入り口」と位置づけて情報収集しておくことで、中長期の戦略設計で差をつけやすくなります。reuters+1


5. まとめ:12月協議は「終わり」ではなく大きな節目

押さえておきたいのは、

  • 日程:12月10〜11日(前後も含めた3日枠)
  • 主役:BTA第1トランシュ+関税枠組み合意
  • 背景:最大50%の対印関税、ルピー安、ロシア産原油をめぐる地政学的要因
    という構図です。reuters+4

この枠組みを頭に入れておくと、ニュースが出た際に「自社にとってプラスかマイナスか」を判断しやすくなります。
12月ラウンドですべてが解決する可能性は高くありませんが、

  • 関税引き下げの道筋が見えてくるかどうか
  • どのセクターが「先に」動きそうかのヒントが得られるか
    という意味で、ビジネスにとって重要な節目になると考えられます。tradingeconomics+2
  1. https://www.reuters.com/world/india/deputy-us-trade-representative-visit-india-december-10-11-2025-12-08/
  2. https://www.metroindia.net/news/articlenews/india-us-to-begin-day-trade-talks-from-dec-32713
  3. https://www.cnbc.com/2025/08/06/trump-trade-india-tariffs-russia.html
  4. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/us-imposes-additional-tariffs-on-india-for-buying-oil-from-russia
  5. https://tradingeconomics.com/india/currency
  6. https://www.theguardian.com/us-news/2025/aug/27/trump-tariff-india-russian-oil-purchase
  7. https://www.rediff.com/business/report/rupee-touches-rs-90-a-dollar-for-first-time-in-early-trade/20251203.htm
  8. https://www.reuters.com/world/india/trump-imposes-extra-25-tariff-indian-goods-ties-hit-new-low-2025-08-06/
  9. https://www.reuters.com/world/us/ustrs-greer-trump-would-love-stake-every-company-thats-doing-well-2025-09-30/
  10. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/08/fact-sheet-president-donald-j-trump-addresses-threats-to-the-united-states-by-the-government-of-the-russian-federation/
  11. https://www.thedailystar.net/news/world/news/how-floundering-india-us-talks-led-high-tariffs-3971891
  12. https://www.rediff.com/money/report/rupee-touches-rs-90-a-dollar-for-first-time-in-early-trade/20251203.htm
  13. https://ts2.tech/en/usd-to-inr-today-3-december-2025-rupee-breaks-%E2%82%B990-per-dollar-whats-driving-the-slide-and-where-could-it-go-next/
  14. https://www.deccanherald.com/india/us-india-to-hold-trade-talks-on-december-10-11-3823923
  15. https://www.reuters.com/world/india/trump-says-us-getting-close-reaching-trade-deal-with-india-2025-11-10/
  16. https://money.rediff.com/amp/news/market/us-india-trade-talks-dec-10-11-agreement-expected/38269220251208
  17. https://www.china-briefing.com/news/trump-xi-meeting-outcomes-and-implications/
  18. https://www.reddit.com/r/WorldNewsHeadlines/comments/1pcua7y/rupee_falls_to_a_new_low_crosses_90mark_against/
  19. https://www.investing.com/news/world-news/us-trade-officials-to-visit-india-for-trade-talks-from-tuesday-3943927
  20. https://www.reddit.com/r/StockMarketIndia/comments/1pgepmi/us_diplomat_to_visit_india_from_december_711_to/

中国のレアアース輸出許可「簡素化」の真相――何が変わり、何が変わらないのかを整理する


2025年12月4日、中国商務部は「レアアース関連品目の輸出許可を簡素化している」と発表しました。報道では「輸出許可の簡素化」として大きく取り上げられていますが、その実態は**規制緩和というより「運用の柔軟化」**に近いものです。(Reuters)

具体的には、新たに**「一般ライセンス(general licence)」という仕組みを使い、特定の海外顧客向けに1年間有効な輸出許可**を出すことで、同じ相手への繰り返しの出荷については、毎回の個別申請を不要または大幅に簡略化する、という内容です。(Reuters Japan)

一方で、2025年4月以降に導入された厳格な輸出管理そのものが撤廃されるわけではありません。規制の「骨格」は残したまま、信頼できる顧客・用途について手続きだけを軽くするのが今回のポイントです。(Reuters Japan)

この記事では、

  • 2025年に何が起きてきたのか(規制強化の流れ)
  • 今回の「簡素化」で具体的に何が変わるのか
  • 世界のサプライチェーン、日本企業へのインプリケーション

を、できるだけ噛み砕いて整理していきます。


1. レアアースと中国の支配力をざっくり整理

レアアース(希土類)は17元素の総称で、EVモーターや風力発電の発電機、サーボモーター、HDD、軍事レーダーなどに使われる高性能永久磁石の材料として不可欠です。(IEA)

国際エネルギー機関(IEA)の分析によると、2024年時点で中国は、

  • レアアース鉱石の生産:世界の約60%
  • 分離・精製(中間加工):約91%
  • 焼結型レアアース永久磁石の生産:約94%

を占めており、磁石の段階ではほぼ「一極集中」と言ってよい状況です。(IEA)

EUの場合、年間約2万トンの永久磁石を消費していますが、そのうち1.7〜1.8万トンを中国から輸入しているとされています。(The Guardian)

このため、中国がレアアースの輸出管理を強化すると、EVから防衛産業まで世界中のサプライチェーンが一気に揺れる、という構図になっています。


2. 2025年の規制強化の流れ(簡潔タイムライン)

2-1. 4月4日:重希土7元素などへの輸出管理導入

2025年4月4日、中国政府は**7種類の重希土(テルビウム、ジスプロシウムなど)と、その酸化物・合金・関連磁石を輸出管理の対象とし、輸出に両用品目輸出許可(dual-use license)**を義務づけました。(IEA)

  • レアアース磁石の輸出は4〜5月にかけて急減
  • 多くの自動車メーカーが磁石を確保できず、工場稼働率の引き下げや一時停止を余儀なくされたと報告されています。(IEA)

2-2. 10月9日:海外製品も巻き込む「域外適用」的な拡張

10月9日、中国商務部は公告2025年第61号・第62号を公表し、レアアース原材料・設備・関連技術について、さらに踏み込んだ輸出管理を導入しました。(JETRO)

主なポイントは以下の通りです。

  • 中国国外の企業・個人が、中国原産の一部レアアース品目や磁石を、第三国へ再輸出する場合でも、中国商務部発行の両用品目輸出許可が必要
  • 中国のレアアース採掘・製錬・磁石製造などの技術を用いて、海外で製造された製品についても、一定条件下で中国側の輸出許可が必要になる**「域外適用」的なルール**を導入(China Briefing)
  • 軍事目的や、輸出管理リスト・ウォッチリスト掲載の輸入業者・エンドユーザー向けの輸出は、原則として許可しないと明記(JETRO)

つまり、中国から直接出る貨物だけでなく、**「中国起源のレアアース」や「中国技術を使った製品」**が世界を回る際にも、中国の許可が必要になり得る設計です。

IEAもこの10月の措置について、レアアース関連製品・部品・アセンブリを広く対象とすることで、エネルギー・自動車・防衛・半導体など多くの戦略産業のサプライチェーンに重大なリスクをもたらすと分析しています。(IEA)

2-3. 規制強化の結果:価格高騰とサプライチェーン混乱

こうした規制の強化により、

  • 4〜5月の輸出量の急減
  • 欧州など輸入側でのレアアース価格高騰(中国国内価格の最大6倍に達したケースも)(IEA)
  • EVや産業用モーター向け磁石の供給不安

といった問題が顕在化しました。

EUは、中国による重要原材料の「武器化」への懸念から、**「ReSourceEU」**という約30億ユーロ規模の戦略を打ち出し、調達先の多角化・リサイクル・国内鉱山開発などを進める方針を発表しています。(The Guardian)


3. 11月〜12月:輸出許可「簡素化」の中身

3-1. 11月:新たなライセンス制度を業界に事前説明

11月7日付のロイター日本語記事によれば、中国商務部は一部のレアアース輸出企業に対し、新たなライセンス制度の設計に着手したことを伝え、業界向けの説明会で必要書類の概要などを示しました。(Reuters Japan)

  • 新ライセンスの有効期間は1年
  • 輸出拡大につながる可能性がある一方、
    4月に導入された広範な輸出規制の撤廃ではないことが強調されています。(Reuters Japan)
  • 防衛など機密分野に関わるユーザー向けの許可取得は、むしろより難しくなる可能性が高いとの見方も示されています。(Reuters Japan)

この時点では、まだ「制度設計中」であり、企業側は必要書類の準備や顧客からの情報収集を進めている段階でした。(Reuters Japan)

3-2. 12月初旬:一般ライセンスの発給が始動

12月に入ると、いよいよ具体的な動きが報じられます。

  • 12月2日:
    中国が新しい「簡素化された輸出ライセンス」の第1弾を発給したと報道。対象は、
    • JL Mag Rare Earth
    • 寧波韻昇(Ningbo Yunsheng)
    • 北京中科三環高技術(Beijing Zhong Ke San Huan High-Tech)
      といった大手レアアース磁石メーカー3社。(MINING.COM)
  • 12月4日:
    商務部の定例会見で、「中国は一般ライセンスなどの円滑化措置を積極的に活用し、二重用途品目の合法的な貿易を促進している」と説明。
    さらに、**「レアアース関連品目の輸出許可申請が民生用である限り、政府は速やかに承認してきた」**と報道官がコメントしています。(Reuters)

ここで言う**「一般ライセンス(general licence)」**とは、

  • 特定の輸出者→特定の顧客(または顧客グループ)
  • 有効期間:1年間
  • その期間中の複数出荷をカバー(出荷ごとの個別許可申請が不要または大幅に簡略)

といった形の包括許可です。(MINING.COM)

一方で、

  • 既存の両用途ライセンス制度(dual-use licensing)はそのまま維持
  • 一般ライセンスの対象は、現時点では主に大手レアアース企業に限られる

ことも明確にされています。(Reuters)

3-3. 「簡素化」の効果:輸出量は目に見えて回復

12月8日に発表された中国税関データでは、2025年11月のレアアース輸出が前月比26.5%増の5,493.9トンと急増し、2カ月連続の増加となりました。1〜11月累計では前年同期比11.6%増です。(Reuters Japan)

  • 4月の規制導入で数カ月続いた混乱のあと、
    10月末の米中首脳会談でレアアース輸出加速で合意 → 一般ライセンス発給 → 輸出増加
    という流れが数字にも表れています。(Reuters Japan)

EU商工会議所は、この新しいライセンス制度が**「バイヤーに安定性と予見可能性をもたらす」**として一定の歓迎を示しつつも、依然として申請手続きの透明性や遅延リスクへの懸念を表明しています。(MINING.COM)


4. 何が「簡素化」され、何が変わっていないのか

4-1. 簡素化されたポイント

① 出荷ごとの申請 → 顧客単位の包括許可

従来:

  • 輸出ごとに個別の許可申請が必要
  • 申請のたびにエンドユーザー情報や用途説明の書類を用意する必要があり、
    その都度審査・判断が行われていた

今回の一般ライセンス:

  • 一定の条件を満たす輸出者と顧客の組み合わせに対して、1年間有効な包括許可を付与
  • 期間中の個々の出荷に対する書類作成・審査の負担が大きく軽減
  • 特に大量・定期的な取引を行う自動車・家電・産業機械向けの磁石にとって、リードタイム短縮が期待されます。(MINING.COM)

② 民生用途についての実務上の「グリーン・チャンネル」化

商務部報道官は、
民生用のレアアース関連輸出申請は、すべて適時に承認してきた」と述べています。(Reuters)

一般ライセンスは、この方針を制度面から裏付けるもので、

  • 民生用途でコンプライアンス要件を満たす顧客・輸出者に対しては、
    安定的に輸出を続けられるルートを用意する
    というメッセージと言えます。

4-2. 変わっていない(むしろ強化されている)ポイント

① 規制対象品目と「安全保障」重視の姿勢はそのまま

  • 4月4日に導入された重希土7元素+関連化合物・磁石の輸出管理(IEA)
  • 10月9日の公告第61号・62号による、原材料・設備・技術・海外製品を含む広範な管理(JETRO)

これらの法的枠組みは一切撤廃されていません。

② 軍事用途・ハイリスク顧客向けはむしろ厳格

公告や関連解説では、

  • 軍事用途が含まれる輸出
  • 中国の輸出管理リスト・ウォッチリスト掲載の輸入業者・エンドユーザー向け輸出

については、**原則として許可しない(=事実上の禁輸に近い扱い)**としています。(JETRO)

一般ライセンスの主な対象は民生用途であり、防衛・高度軍事技術に関わるユーザーについては、依然として厳しい個別審査+不許可リスクが残ります。(Reuters Japan)

③ 域外適用(海外製品への影響)も継続

10月の措置で導入された、

  • 「中国起源のレアアースを含む海外製品」
  • 「中国のレアアース関連技術を用いて海外で製造された製品」

に対する中国側ライセンス義務も、2025年12月以降に順次適用範囲が拡大される方向です。(China Briefing)

一般ライセンスで出荷がスムーズになったとしても、**「どこで、どの技術で作った、どれだけ中国起源が含まれるか」**という情報開示を求められる構図は、今後も変わりません。


5. なぜ今、輸出許可を簡素化したのか

いくつか要因が重なっています。

5-1. 米中首脳会談での政治的ディール

報道によれば、今回の一般ライセンス導入は、10月末に韓国で行われたトランプ米大統領と習近平国家主席の首脳会談での合意事項の一つでした。(Reuters)

  • 米国側:レアアース・磁石の供給不安で自動車・防衛産業への影響が懸念
  • 中国側:米国の追加関税などへの対抗措置として輸出規制カードを切りつつも、「信頼できる供給国」としてのイメージも維持したい

その折衷として、
**「規制の枠組みは維持しつつ、民生用途や信頼できる顧客向けには輸出を加速する」**という一般ライセンスが位置づけられたと見るのが自然です。(MINING.COM)

5-2. EUなどからの「脱中国」圧力

EUは、レアアースや永久磁石の調達の約9割を中国に依存している現状から、ReSourceEUという30億ユーロ規模の戦略を打ち出し、場合によっては**「企業に対して調達先の多角化を法的に義務づける」**可能性にも言及しています。(The Guardian)

中国としても、あまりに強硬な輸出統制を続ければ、

  • EU・米国・日本・豪州などが本気で代替サプライチェーン構築に動く
  • 中長期的には、自国のレアアース産業の需要基盤を失う

リスクがあります。

一般ライセンスによる「緩和のポーズ」は、
**「安全保障上のレバーは握り続けつつ、過度なデカップリングを避ける」**ためのバランス調整と見ることができます。(IEA)


6. 世界のサプライチェーンへの影響

6-1. 短期的には「一息つける」方向

  • 大手磁石メーカー3社が一般ライセンスを取得したことで、
    彼らからの供給を受ける自動車・家電・産業機械メーカーは、リードタイムや出荷の滞留リスクが緩和される見込みです。(MINING.COM)
  • 11月の輸出量回復からも、実際にボトルネックがかなり解消されつつあることがうかがえます。(Reuters Japan)

6-2. 中長期的には「リスクはむしろ見える化されただけ」

一方で、

  • 規制対象品目は拡大済み
  • 軍事・高度技術用途への輸出禁止方針は明確
  • 域外適用により、海外の加工拠点や再輸出にも中国の許可が絡む

という構図は変わっていません。(China Briefing)

今回の簡素化をきっかけに、

  • 「誰が一般ライセンスの対象になっているのか」
  • 「どの用途・エンドユーザーならスムーズに許可が出るのか」
  • 「どのラインが依然として高リスクなのか」

が、企業側から見るとよりはっきり可視化されたとも言えます。

IEAも、中国のレアアース支配力と輸出規制のエスカレーションが、エネルギー・自動車・防衛・AIデータセンターなど幅広い産業に継続的なリスクをもたらすと指摘しており、今回の一般ライセンスはそのリスクを一時的に和らげる措置に過ぎないと見るべきでしょう。(IEA)


7. 日本企業・投資家への practical な示唆

最後に、日本の製造業・商社・投資家の立場から、実務的に意識しておきたいポイントをまとめます。

7-1. サプライチェーンの「どこで中国にひっかかるか」を棚卸し

  • 原材料(酸化物・金属)
  • 中間製品(磁石、ターゲット材など)
  • 完成品(モーター、アクチュエーター、電子部品)

のどの段階で、

  • 中国原産レアアースがどれだけ含まれるか
  • 中国の技術・設備を使っているか

なるべく定量的に把握しておくことが重要です。

10月の措置により、海外で製造された製品でも、中国起源のレアアースが一定割合以上含まれていれば、中国の輸出ライセンスが必要になるケースがあります。(China Briefing)

7-2. 取引先の「ライセンスステータス」を確認

  • 主要な磁石・材料メーカーが一般ライセンスを取得しているか
  • そのライセンスの対象顧客に自社・自グループが含まれているか
  • 軍事・デュアルユース色が濃い用途の場合、どの程度の審査・遅延リスクがあるか

を、取引先・現地法人を通じて確認しておくと、調達リスクの見積もり精度が上がります。

一般ライセンスの有無は、今後**「調達先を選ぶ際の条件」**の一つになっていく可能性があります。(MINING.COM)

7-3. 中・長期的な「脱一極依存」戦略

  • 代替サプライヤー(非中国産レアアース、代替磁石)の開拓
  • レアアースリサイクル・磁石回収スキームへの投資
  • レアアース使用量を減らす設計(モーター構造や制御技術の工夫)

などは、中期的な競争力とレジリエンスの両面で重要性が高まっています。

EUや米国も同様の方向に政策資金をつけ始めているため、「レアアース依存を下げる技術・ビジネス」は、今後も政策的な追い風を受けやすい領域と考えられます。(The Guardian)


8. まとめ

  • 2025年12月の「レアアース輸出許可の簡素化」は、
    一般ライセンスという1年有効の包括許可を導入し、民生用途を中心に輸出プロセスをスムーズにする措置。(Reuters)
  • しかし、4月以降の厳格な輸出管理や、10月の域外適用的なルールはそのまま維持されており、安全保障を軸にしたコントロールの枠組みはむしろ強化されたまま。(JETRO)
  • 短期的には供給不安が和らぎ、輸出量も回復しているが、
    中長期的には「中国レアアースへの過度な依存」という構造リスクは依然として大きい。(Reuters Japan)
  • 日本企業としては、
    1. どこで中国に依存しているかの棚卸し
    2. 取引先のライセンス状況の把握
    3. 中長期の脱一極依存・リサイクル・代替技術戦略
    を組み合わせて、**「中国の一挙手一投足に振り回されにくい体制」**を構築していくことが、これまで以上に重要になってきます。

この記事の内容をもとに、もし「自社のこの部品はどこが危なそうか」「この業界への影響をもう少し具体的に知りたい」といったテーマがあれば、業種や立場を教えてもらえれば、さらに絞った整理もできます。