米国史上最大の通関詐欺和解:Ceratizit社に5400万ドル罰金


米国史上最大級と報じられた通関詐欺和解とは何か

Ceratizit社 5400万ドル決着が示す通関コンプライアンスの新常識
なぜこのニュースがビジネスに効くのか

2025年12月、米司法省は、タングステンカーバイド製品の米国内ディストリビューターであるCeratizit USA LLC(ノースカロライナ州シャーロット)が、未払い関税等をめぐる虚偽請求取締法(False Claims Act)に基づく民事案件について、5,440万ドルの支払いに合意したと発表しました。 これは、False Claims Actに基づく関税関連案件としては過去最大級の和解額と報じられており、通関分野における民事責任リスクの水準を象徴する事案です。 論点は、中国原産品に対するSection 301追加関税の回避、誤ったHSコード申告、原産地表示義務違反という、通関実務の中核そのものであり、申告の「結果責任」が改めて可視化されたといえます。finance.yahoo+2


事案の全体像

司法省および和解契約書によると、問題とされたのは主に次の3点です。grcreport+2

  1. 原産地の虚偽申告
    中国で製造されたタングステンカーバイド製品が台湾を経由して米国に輸入される過程で、原産地を台湾と申告し、中国原産品に課されるSection 301関税の支払いを免れたとされています。 対象期間は2020年8月から2024年3月までとされており、この間、中国製品を台湾原産と表示して輸入したとのアレゲーションが示されています。wttlonline+2
  2. HSコードの誤申告による関税低減
    和解契約書によれば、本来は工具用タングステンカーバイド製品(TCPs)をHTSコード8209.00.00(一般税率約4.6%)で申告すべきところ、HTSコード8311.90.00(一般税率Free)として申告したとされています。 対象期間は2015年6月頃から2024年3月までとされており、約9年にわたり関税率の低いコードへの誤分類が継続したと主張されています。hts.usitc+3
  3. 原産地表示義務違反とマーキングデューティ
    一部貨物について、原産地表示(country-of-origin marking)を欠いたまま米国内に供給し、本来支払うべきマーキングデューティを支払っていないとのアレゲーションが含まれています。 対象期間は2019年5月から2024年3月とされ、原産地ラベリングと追加関税負担の双方が問題化しました。justice+1

経緯を時系列で整理

  • 2015年6月頃から
    HSコードの誤申告による関税低減が始まったとされています(タングステンカーバイド製品を8311.90.00として申告)。justice+1
  • 2019年5月頃から
    原産地表示を欠いた貨物の輸入とマーキングデューティ不払いが問題になった期間とされています。grcreport+1
  • 2020年8月〜2024年3月
    中国製品を台湾原産として申告し、Section 301追加関税を回避したとされる期間です。wttlonline+1
  • 2022年10月
    内部通報者(リレイター)がFalse Claims Actのqui tam条項に基づく民事訴訟を提起したことが、和解契約書で示されています。finance.yahoo+2
  • 2025年12月
    司法省が和解を公表しました。支払総額は5,440万ドルであり、このうち内部通報者には約975万ドルの報奨金が支払われると報じられています。justice+2

なお、司法省は2025年8月に省庁横断の「Trade Fraud Task Force」を立ち上げ、関税逃れを含む貿易不正の摘発強化を明言しており、本件はその流れの中で象徴的な大型案件と位置付けられています。mdm+2


和解条件のポイント

和解契約書によれば、Ceratizitは総額5,440万ドルを支払うことに合意しており、そのうち約2,720万ドルはレストリビューション(政府の損失回復に充てられる性格)として位置付けられ、残額は民事制裁金等として扱われます。 また、支払額には一定の利息条件が付されている点も明記されています。justice+1

一方で、和解はCeratizitによる違法行為を認めるものではなく、司法省が主張する内容はあくまでアレゲーションであり、裁判による確定的な違法認定が行われたわけではない点も明確にされています。news.bloomberglaw+1


日本企業の実務に置き換えると、どこが危ないか

この案件が突き付けるリスクは、米国向け輸出企業だけでなく、米国に輸入者・販売子会社・ディストリビューターを持つ企業全般に直接響くものです。grcreport+1

  • 原産地は輸送経路ではなく実質で決まる
    第三国経由の物流自体は違法ではないものの、原産地の判断は実質的な製造国や実質的変更の有無で行われます。 経由国を形式的に原産地として申告する運用は、Section 301関税のような追加関税が絡む場面では最も危険な「地雷」となります。customsmobile+3
  • HSコードは価格ではなくルールで決まる
    税率がFreeのコードに「寄せたくなる」誘惑は常にありますが、分類は技術仕様と品目定義・通則に基づき決定されます。 本件のように長期間にわたり誤分類が継続すると、過少納付関税が累積し、一気に巨額の追徴・和解額に跳ね上がる可能性があります。usitc+4
  • 原産地表示は後回しにすると高くつく
    原産地表示義務の欠落は、単なるラベルミスにとどまらず、マーキングデューティという追加負担や、在庫隔離・リワークコストに連鎖し得ます。 製品本体・包装・同梱書類を含めた一貫した表示設計と、その監査プロセスの構築が不可欠です。justice+1
  • 内部通報が巨額回収の入口になる
    本件は内部通報者がqui tam訴訟を提起し、その結果として政府が介入し、回収額の一部が通報者報奨金として支払われる典型パターンです。 通関・関税領域でも、内部通報が現実の経営リスクとなっていることを示す象徴的な事案といえます。finance.yahoo+2

すぐに着手できる再発防止のチェックポイント

ビジネスマン向けに、優先度の高いポイントを整理すると、以下のとおりです。mdm+1

  • 原産地判定の根拠を、製造工程ベース(部材構成・加工内容・実質的変更)で文書化する。
  • 第三国経由取引について、物流スキームと通関申告上の原産地ロジックが整合しているかを定期的に検証する。
  • HSコードは、誰が・どの根拠で決定し、いつ見直すか(図面・仕様変更時など)を明文化し、監査可能なプロセスとする。
  • 原産地表示(本体・包装・ラベル・取扱説明書)の設計レビューを出荷前工程に組み込み、マーキングデューティ発生リスクを事前に抑制する。
  • 米国子会社や通関業者に丸投げせず、輸出者側でもインボイス・仕様書・バインディングルーリング等の証跡を一元管理し、自ら検証できる体制を整える。

まとめ

Ceratizit社の5,440万ドル和解は、関税逃れが疑われた論点が「原産地」「HSコード」「表示義務」という通関コンプライアンスの基本要素に集中していた点で、どの業界にも高い再現性を持つ事案です。 米国当局はTrade Fraud Task Forceの創設などを通じて貿易不正の取り締まり強化を明言しており、通関コンプライアンスはコスト削減のためのオプションではなく、事業継続の基盤として再設計すべき局面に入っています。mdm+2

  1. https://www.justice.gov/opa/pr/ceratizit-usa-llc-agrees-pay-544m-settle-false-claims-act-allegations-relating-evaded-0
  2. https://finance.yahoo.com/news/record-breaking-settlement-ceratizit-usa-214600318.html
  3. https://www.grcreport.com/post/ceratizit-to-pay-54-4-million-to-settle-allegations-of-evaded-customs-duties
  4. https://www.justice.gov/opa/media/1421296/dl
  5. https://www.wttlonline.com/stories/austrian-firm-settles-duty-evasion-case-for-544-million,14607
  6. https://hts.usitc.gov/search?query=8209000060
  7. https://rulings.cbp.gov/ruling/n343124
  8. https://www.mdm.com/news/legal-regulatory-issues-in-wholesale-distribution/cohort-legal/doj-settles-with-2-u-s-distributors-over-tariff-evasion-goods-smuggling/
  9. https://news.bloomberglaw.com/litigation/ceratizit-to-pay-54-4-million-in-fca-customs-duties-doj-deal
  10. https://www.customsmobile.com/rulings/docview?doc_id=NY+N238531&highlight=NY+N238531
  11. https://ustr.gov/sites/default/files/enforcement/301Investigations/Tariff%20List%20(83%20FR%2047974,%20as%20amended%20and%20modified%20by%2083%20FR%2049153).pdf
  12. https://www.usitc.gov/publications/docs/tata/hts/bychapter/1000c82.pdf
  13. https://hts.usitc.gov/reststop/file?release=currentRelease&filename=Chapter+82
  14. https://www.mlex.com/mlex/trade/articles/2424344/us-settles-with-north-carolina-firm-accused-of-evading-duties-on-chinese-tungsten
  15. https://www.mofa.go.jp/files/100096004.pdf
  16. https://www.freightamigo.com/en/blog/hs-code/hs-code-for-tungsten-carbide/
  17. https://hoodline.com/2025/12/charlotte-based-ceratizit-usa-settles-for-54-4m-in-customs-duty-evasion-allegations-under-false-claims-act/
  18. https://hts.usitc.gov/search?query=8311900000
  19. https://hts.usitc.gov/search?query=9903.01.25
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