米日「相互関税」運用ガイド:現行エントリー処理の実務ポイント

米国の相互関税制度において、税率そのものより「エントリーで何をどう申告するか」が実務上の成否を分けます。

特に日本は、日米合意の実装により「合計15%」ロジックとChapter 99コード体系が段階的に切り替わり、過去の手順のままでは過払い・申告エラー・還付遅延が発生しやすい状況です。

CBPはCSMS等でエントリー方法のガイダンスを段階的に更新しており、本稿では「現行ルール」をビジネス実務視点で整理します。


制度の流れ:更新タイムライン

2025年4月5日 0:01 (ET)

相互関税の基本運用が開始。Chapter 99による申告が実務ルール化され、エントリーにはChapter 99の二次分類が必須に。

2025年7月22日

トランプ大統領が日米間の枠組み合意を発表。日本からの輸入品に対する相互関税率を15%とすることで合意。

2025年8月7日 0:01 (ET)

国別税率(Annex I)へ移行。日本を含む国別の9903.01.xx体系から9903.02.xx体系に切替。輸送中貨物向けの経過措置(10%扱い・9903.01.25等)も提示。

2025年9月4日

日米合意を実装する大統領令(EO 14345)により、日本向け税率ロジックが「MFN(Column 1)を含めて合計15%」に変更され、8月7日以降のエントリーに遡及適用。

2025年9月16日 0:01 (ET)

日本向けの新コード9903.02.72/9903.02.73がACEに展開。旧コードからの切替と遡及修正の手順が明確化。自動車・自動車部品向けの9903.94.40〜9903.94.43も同日実装。

2025年9月23日

Replacement dutyの申告方法が更新(CSMS #66319804)。9903.02.73や9903.94.41/.43について「Column 1分と差分を分けてChapter 99側に載せる」現行手順が明示。


まず押さえる税率ロジック

日本品の基本ロジック

日本原産品の相互関税は、HTSUS Column 1(一般税率)が15%以上なら追加ゼロ、15%未満なら合計が15%になるよう調整されます。

簡潔に言えば、「実効税率はColumn 1と15%の高い方」です。

従量税・複合税の扱い

Column 1が従量税や複合税の場合、CBPはColumn 1税額を通関価格で割って従価換算し、その換算税率が15%以上かどうかでロジックを判定する方針を明示しています。

例:1kgあたり50セントの従量税で、通関価格が10ドルの場合、従価換算税率は5%(50セント÷10ドル)となります。


現行エントリー処理:判断ステップ

1. 原産地「Japan」の確定

相互関税は原産地ベースで適用されるため、原産地判定が曖昧なままHSだけを先に固めるとChapter 99との整合が崩れます。

日本原産であることを、インボイス記載、製造工程、原産地証明などで説明可能な状態にしておくことが前提です。

2. 相互関税の対象外かを先に確認

日本原産でも、Section 232対象など相互関税の適用外とされる領域があります。

鉄鋼、アルミニウム、銅に関するSection 232関税の対象品は、相互関税から除外されます(ただし、後述の自動車・自動車部品は別枠で15%ロジックが適用)。

3. 一般品(自動車等以外)のChapter 99選定

日本原産の一般品に対する相互関税は、Column 1が15%以上の場合は9903.02.72(追加ゼロ)、15%未満の場合は9903.02.73(合計15%に調整)の2択です。

このロジックは、2025年8月7日 0:01以降の輸入に遡及して適用されるため、それ以前の申告分を含めた棚卸しと修正が必要です。

4. 自動車・自動車部品の特則

日本原産の自動車・自動車部品については、Section 232側で「合計15%ロジック」が組まれ、専用のHTSUS 9903.94.40〜.43を使用します。

自動車(乗用車・ライトトラック):

  • Column 1が15%以上:9903.94.40
  • 15%未満(合計15%):9903.94.41

自動車部品:

  • Column 1が15%以上:9903.94.42
  • 15%未満(合計15%):9903.94.43

5. 輸送中例外(8月7日前船積み・10月5日まで通関)

8月7日の国別税率切替時、すでに輸送中の貨物向けに、10月5日までの経過措置が設定されています。

要件を満たす貨物については、相互関税率ではなく10%扱いとし、9903.01.25を用いる整理が示されています。


「現行ルール」の肝:税額をどこに載せるか

1. Chapter 99の申告は必須

相互関税の実装以降、対象貨物であれば必ずChapter 99の二次分類を少なくとも1つ申告することが求められます。

適用対象なら対象コード、例外なら例外コード(9903.01.25等)を申告する設計で、Chapter 1〜97だけでは不完全と見なされます。

2. Replacement dutyの申告方法(2025年9月23日更新)

日本向けでReplacement dutyとされるのは、以下のコードです:

  • 9903.02.73(一般品で合計15%)
  • 9903.94.41/.43(自動車・部品で合計15%)

CSMS #66319804では、これらReplacement dutyの申告方法が更新され、Column 1分と15%との差分をChapter 99側に計上し、Column 1分はChapter 1〜97側で計上する方式が明示されました。

9903.02.73の申告方法:

  • Column 1分の税額をChapter 1〜97で計上
  • 差分(15%到達分)をChapter 99側に計上

9903.94.41/.43の申告方法: 自動車・部品についても同様に、Column 1分を車両・部品側(Chapter 87等)に、差分をChapter 99側に載せる

例: HTSUS 8703.22.01(Column 1税率2.5%)の日本製自動車の場合

  • 8703.22.01で2.5%分の税額を計上
  • 9903.94.41で12.5%(15% – 2.5%)分の税額を計上

3. ドローバックを狙う場合の設計

Section 232部分はドローバック対象外という前提のもと、Column 1部分のみドローバックを確保したい場合、税額の載せ方を意図的に分ける必要があります。

CBPは日本車の例として、Column 1分を車両側に、差分(15%到達分)をChapter 99側に計上する方法を示しており、ドローバック運用企業はこの設計を事前に通関フローへ織り込む必要があります。


ACEエラーと紐づけ崩れを防ぐポイント

1. HTSの並べ順(Sequencing)

複数のChapter 98/99コードを併用する場合、CBPはHTSの並べ順を明示しています。

基本順序:

  1. Chapter 98
  2. Chapter 99の追加関税(301 → フェンタニル関連 → 相互関税 → 232などの順)

順番が違うだけでACEがエラーとなったり、税額紐づけが崩れる典型例があるため、ブローカー指示書に順番を明記しておくことが重要です。

2. 税額の紐づけ(同一行で混ぜない)

CBPは、複数HTSUSを同一エントリー行で申告する場合、税額を正しいHTSUSに紐づけ、別HTSUSと合算しないことを求めています。

Replacement dutyでColumn 1分と差分を分けて計上する考え方も、この「税額を正しいHTSUSに紐づける」という思想を徹底するための運用です。

3. 米国原産コンテンツ20%以上の扱い(該当時)

相互関税では、20%以上の米国原産コンテンツを含む場合、その部分を除外するために行分割を求める設計があり、該当時は2行に分けて申告(HTSUS 9903.01.34を使用)する必要があります。

インボイスの書き方からブローカー指示書まで一体で設計しないと、実務上の行分割が崩れやすいため注意が必要です。


遡及適用と過払い回収:PSC・Protestの整理

日米合意の実装により、2025年8月7日以降の輸入について、新ロジックでの遡及適用が発生します。

その結果、「正しいHTSUS見出しと税率ロジック」でエントリーを再設計し、過払い分を回収する局面が避けられません。

CBPは、修正と還付の導線を次のように整理しています:

未清算(Unliquidated)で既に見積税額を納付済み: Post Summary Correction(PSC)で税率・Chapter 99コード等を更新し、還付を得る。

清算済み(Liquidated): 19 U.S.C. 1514に基づくProtestで還付を求める。

Replacement dutyの載せ方を誤った可能性: CSMSでは、PSCでエントリー情報を更新するよう促されており、誤った行設計を放置しないことが推奨されています。

キャッシュフローへの影響が大きいため、「どのエントリーが、どのロジックで、どのコードに載っているか」を早期に棚卸しできるかが勝負です。


企業向けチェックリスト(最低限)

☑ 日本原産判定の根拠を、品目単位で説明できる状態か

☑ 当該品目が相互関税適用除外(鉄鋼・アルミ・銅のSection 232品など)に該当しないか先に判定しているか

☑ Column 1が従量税・複合税の品目で、従価換算による15%判定を落としていないか

☑ 9903.02.72/.73、9903.94.40〜.43など、日本向けの現行コードを正しく使い分けているか

☑ 9903.02.73や9903.94.41/.43で、Column 1分と差分を分けた「現行の載せ方」になっているか(PSC対象エントリーが残っていないか)

☑ HTS並べ順(98→99、301→フェンタニル→相互→232…)を、ブローカー指示書に明記しているか

☑ 8月7日前船積み・10月5日まで通関の輸送中例外貨物(9903.01.25等)を取りこぼしていないか

☑ 遡及対象エントリーについて、清算状況に応じてPSCとProtestのどちらで回収するかを仕分け済みか


おわりに

相互関税の実務は、「税率はいくらか」よりも、Chapter 99を軸にしたエントリー設計と遡及対応の設計が主戦場です。

2025年9月23日のガイダンス更新では、特に9903.02.73等のReplacement dutyについて、税額をどの行・どのコードに載せるかまで踏み込んで整理されました。

まずは、自社の対米輸出品を「一般品」「自動車・部品」「Section 232対象(相互関税除外)」「輸送中例外」に棚卸しし、ブローカーの申告ロジックと社内マスタを最新CSMS準拠で統一することが、最短で効果が出る一手となります。


参考資料:

  • Executive Order 14345 (September 4, 2025)
  • Federal Register Notice (September 16, 2025)
  • CSMS #66319804 (September 23, 2025)
  • CSMS #66242844
  • 19 U.S.C. 1514

最高裁で無効でも終わらない関税:米政府の「代替関税ルート」と企業の備え

米国の広範なIEEPA関税(1977年国際緊急経済権限法に基づく関税)が、米連邦最高裁の判断で違法とされる可能性があります。

多くの企業は「関税がなくなれば負担が軽くなる」と期待しますが、現実はそう単純ではありません。焦点は「IEEPA関税が止まるかどうか」以上に、**「止まっても別ルートで再課税され得る」**点に移っています。

米通商代表部(USTR)のグリアー代表は、最高裁がIEEPA関税を違法と判断した場合でも、約2,000億ドル規模の関税収入を他の法的手段を使って再現することは可能だとの見方を示しています。

以下では、いま何が争点なのか、米政府が準備している「代替関税ルート」は何か、そして日本企業が実務で何を整えるべきかを整理します。

米国最高裁によるIEEPA関税の無効化判断が迫る中、企業は関税撤廃を期待するだけでなく、複雑な法的再編への備えを急ぐ必要があります。米政府は、たとえ現在の法的根拠が否定されても、232条や301条といった別の法律を活用して関税を再構築する「代替ルート」を既に検討しています。既払金の還付手続きは極めて不透明であり、企業には証憑の徹底管理と、新たな課税シナリオを前提とした契約の見直しが求められます。単なる税率の変動以上に、根拠法が次々と切り替わる不確実性のリスクを直視し、実務基盤を強固にすることが不可欠です。この動向は、将来的な調達戦略や財務計画の抜本的な再考を迫る重要な局面となっています。

1. 争点:IEEPA関税は「大統領権限の範囲内」か

争点は、1977年の国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、大統領が広範な関税を課す権限を持つのかという一点に集約されています。

具体的な論点は以下の2つです。

  • IEEPAが今回のような大規模・包括的な関税を授権しているのか
  • 仮に授権しているとしても、「重大な経済・政治的影響」を伴う措置について立法権を過度に委任しており違憲ではないか(メジャー・クエスチョン・ドクトリンの観点)

連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、IEEPAは今回のような広範な関税権限までは認めていないとして、大統領権限の逸脱だと判断しました。

政府は最高裁へ上告し、最高裁は2025年11月に口頭弁論を実施。判断は2025年末から2026年初にかけて見込まれています。

2. 重要なのは「無効になった後」:返金と再課税が同時に起こり得る

最高裁がIEEPA関税を違法と判断すれば、将来に向けた同種の関税賦課は止まる可能性が高まります。

しかし、すでに支払った関税が自動的に全額返金されるかどうかは不透明です。返金のスキームが行政手続なのか司法手続なのかも、現時点では明確ではありません。

ナショナル・ロー・レビューや各種法律事務所の分析では、返金には以下のプロセスが必要になる可能性が指摘されています。

  • 行政的なリファンド・プロセス
  • 個別輸入者による訴訟を通じた申立て

USTRのグリアー代表も、関税返金の時期は財務省および税関・国境警備局(CBP)の判断次第であり、具体的なスケジュールは「分からない」と述べています。

つまり企業は、二正面作戦を迫られています。

  • 返金可能性に備えて書類・証憑を整える
  • IEEPAとは別の法的根拠による新たな関税発動にも備える

3. 米政府の「代替関税ルート」:主な候補4つ

各種報道やシンクタンク・法律家の分析で、代替ルートとして繰り返し挙がるのは、主に次の4つの枠組みです。

代替関税ルートの全体像

ルート法律・条文ねらい・特徴企業にとっての意味
232条通商拡大法1962年232条国家安全保障を理由に品目・セクター別に輸入制限や追加関税を課す対象品目は絞られるが、自動車・半導体・医薬品など戦略分野は直撃し得る
301条通商法1974年301条不公正貿易慣行への対抗措置としての追加関税などを発動調査に時間はかかるが、一度発動されると長期化・制度化しやすい
122条通商法1974年122条大きな貿易・国際収支不均衡への短期的な一律関税・数量制限期間は最長150日だが、広く最大15%までの一律課税が可能で「つなぎ措置」になり得る
338条1930年関税法338条差別的・不合理な対米措置への報復関税最大50%まで追加関税を課し得るうえ、手続要件が比較的軽く、迅速な報復カードになりやすい

各ルートの詳細

232条(国家安全保障)

商務省の調査(国家安全保障への影響評価)を経て発動されるため、IEEPAのような即時・包括的な課税ツールではありません。

現政権は232条をテコに、自動車・鉄鋼・アルミ、今後は半導体・医薬品・重要鉱物などの戦略分野への関税・輸入制限を拡大しており、「狭く深く」積み増すシナリオが現実味を帯びています。

301条(不公正貿易慣行)

不公正な貿易慣行を対象に、USTRの調査と報告を経て、追加関税・数量制限等を講じる伝統的なツールです。

問題認定と調査ロジックが必要な分、IEEPAほどの即応性はありませんが、一度発動されると恒常的な対中追加関税のように長期化しやすい特徴があります。

122条(短期一律)

通商法1974年122条は、大きく深刻な国際収支赤字や貿易不均衡に対して、大統領が最大15%の一律関税または輸入制限を、最長150日間課す権限を与えています。

150日を超える延長には議会の同意が必要とされるため長期ツールとしては制約がありますが、最高裁判断直後の「つなぎ措置」として広範な課税を一時的に復元するカードになり得ると分析されています。

338条(報復)

1930年関税法338条は、特定国が米国商業に対して「差別的」「不合理」な扱いを行っている場合、追加関税を最大50%まで引き上げることを認める規定です。

国際貿易委員会(ITC)等の手続を経るパターンもありますが、IEEPAに比べると迅速で、政治的にも「報復」カードとして使いやすいと評価されています。

各ルートの性格の違い

  • IEEPA:「広く薄く」
  • 232条:「狭く深く」
  • 301条:「調査ベースで長期化」
  • 122条・338条:「短期あるいは即応のつなぎ・報復」

4. 企業実務で今起きている課題:「関税コスト」より「不確実性コスト」

最高裁判断が近づくほど、企業は次の三重苦に直面します。

  1. IEEPA関税が維持されるのか、将来に向けて止まるのかが読みにくい
  2. 止まった場合でも、すでに払った関税の返金スキームとタイミングが見えない
  3. IEEPA関税が止まっても、232条・301条・122条・338条など別根拠で再課税される可能性がある

この不確実性は、単なる税率水準の問題ではなく、調達戦略、価格転嫁、在庫ポリシー、契約条件、キャッシュフロー管理に直接影響します。

米国内でも、関税還付が財政収支・市場に与える影響や、代替関税の立ち上げに伴う混乱リスクが繰り返し指摘されています。

5. 日本企業が今すぐ整えるべきチェック項目

「勝ち筋が見えにくい局面で損失を最小化する」ための実務的な備えを紹介します。

(1) 契約を「関税が揺れる前提」に見直す

  • 関税発生・変更時の価格改定条項(自動改定か協議か)の明確化
  • 関税率や根拠法(IEEPA・232・301・122・338等)の変更をトリガーとする再交渉条項の設定
  • インコタームズと輸入者(Importer of Record)の責任分担を改めて契約上明示

こうした条項があるかどうかで、急な再課税時の価格交渉余地と紛争リスクが大きく変わります。

(2) 返金に備え、申立て可能性を潰さない

最高裁の判断内容と、その後の行政通知・CBPガイダンスによっては、自動返金ではなく、行政的クレームや訴訟を通じた返金申立てが必要になるシナリオが想定されています。

以下の資料を「将来の返金請求にも耐える粒度」で保全しておくことが不可欠です。

  • 通関申告書
  • 支払関税の記録
  • HSコード(品目分類)
  • 原産地
  • 評価の根拠資料

USTRは返金時期について、財務省とCBP次第であり見通せないと明言しており、「返金は来るが、いつか分からない」前提で備える必要があります。

(3) 代替ルート別に「当たりやすい品目」を想定する

232条:自動車、鉄鋼・アルミ、半導体、医薬品、重要鉱物など国家安全保障関連セクターが中心

301条:過去の対中追加関税のように、特定国の不公正慣行(補助金、知財侵害など)に紐づいた品目群

122条:貿易不均衡や国際収支問題を口実に、最大15%・150日の一律関税が想定され、幅広い品目に「薄く広く」効く可能性

338条:自国への差別的措置を理由とした報復で、対象国・品目を選んで最大50%までの追加関税が課され得る

自社の品目群ごとに、「どの条文で狙われやすいか」を棚卸しし、想定税率・対象範囲・期間をシナリオとして整理しておくことが重要です。

(4) 財務は「返金が来ない・遅れる」ケースも織り込む

返金スキームや時期が不透明な以上、「全額返金前提」で会計処理や価格政策を組むのはリスクが高いと指摘されています。

会計上の見積り、引当、資金計画、販売価格・調達先の見直しは、「返金なし/大幅遅延」シナリオでも事業が持ちこたえられる設計になっているか、ストレステストが必要です。

結び:最高裁は通過点、「根拠法が変わっても回る業務設計」へ

最高裁がIEEPA関税を止めるかどうかは大きな分岐点ですが、それ自体は通過点にすぎません。

IEEPAが違法とされても、政権が232条・301条・122条・338条などの別の法的根拠を組み合わせて関税を再構成するシナリオは、米国内の専門家の間でも現実的なオプションとして議論されています。

企業にとっての最適解は、「IEEPA関税が終わる期待」に賭けることではなく、「根拠法が変わっても回る業務設計」に移行することです。

通関実務、契約、調達、価格、在庫・財務を、不確実性を前提とした二段構え(返金対応+再課税対応)で組み替える局面に入っています。


免責事項:本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別案件については、米国の通商弁護士、通関士、税務専門家と連携のうえでご判断ください。

中国が2026年に935品目で輸入関税を引下げへ


中国が2026年に935品目で輸入関税を引き下げ

2025年12月29日、中国国務院関税税則委員会は「2026年関税調整方案」を公表し、2026年1月1日から一部品目の輸入関税率と税目を調整することを発表しました 。柱となるのは、935品目に対してWTO最恵国税率(MFN)より低い「暫定輸入税率」を設定することです 。binance+2

この発表は、中国向けに「先端部材・グリーン関連素材・医療関連製品」を輸出する日本企業にとって、年明け直後の価格競争力と販売機会を左右する重要なイベントとなります 。cna+1

何が変わるのか:制度面の要点

935品目で暫定税率を設定

対象は、重要部材や先端材料、グリーントランスフォーメーション関連の資源性商品、医療製品などで、MFNより低い税率が適用されます 。binance+1

税目自体も見直し

本国子目を増設し、税則税目総数は8,972に拡大します 。例として、インテリジェント生体模倣ロボット(智能仿生机器人)、バイオ航空燃料(生物航空煤油)、林下山参などが挙げられています 。news.cnyes+1

一部は暫定税率を取りやめ、MFNへ戻す

国内産業の供給需給などを踏まえ、小型モーター(微型電机)、捺染機(印花机)、硫酸などは暫定税率を取り消し、MFNを適用する方向が示されています 。cna+1

どの領域が狙い撃ちか:3つの政策軸

先端産業の基盤づくり(科技自立自強)

中国は、現代化産業体系の構築に資する「重要部品・先進材料」の輸入コストを下げる狙いを明示しています 。完成品ではなく、ボトルネックになりやすい部材・材料の調達コストを軽くし、国内の高度化を進める設計です 。news.cnyes+2

日本企業にとっては、半導体製造装置周辺、精密部材、先端材料など、仕様が厳しい領域ほど商機になりやすい一方、型番単位での該当確認が重要になります。

グリーン転換(電池・資源循環)

象徴例として挙がったのが、リチウムイオン電池向けの再生黒粉(ブラックマス)です 。これは単発の優遇ではなく、「資源性商品の暫定税率引下げ」という政策軸の一部として位置づけられています 。binance+2

EVや蓄電池のサプライチェーンでは、原料や中間材の関税が数ポイント動くだけで、調達先やリサイクル工程の採算が変わります。中国市場向けの素材・化学・装置企業は、販売だけでなく、現地拠点の調達コスト見直しにも直結します。

医療・民生(ヘルスケアの高度化)

人工血管や感染症関連の診断キットなど、医療の高度化とアクセス改善につながる品目も対象に含まれます 。cna+1

医療分野は、規制承認や販売チャネルの壁が高い一方、関税引下げは現地病院・代理店との価格交渉を動かす材料になり得ます。

具体例:公表資料で確認できる暫定税率(代表例)

下表は、財政部サイトに添付された「附1 进口商品暂定税率表」に記載のある代表例です。実務上は、品目の該当可否と、表中のex(号列の一部条件適用)に注意して確認してください。

品目例(中文表記)税則号列2026年MFN2026年暫定税率ビジネス上の見立て
锂离子电池用再生黑粉ex 382499996.5%3%電池リサイクル、正極材周辺のコストに影響 cna+1
未焙烧的黄铁矿250200003%0%資源性原料の調達コスト低下を後押し binance
診断用試薬(マラリア)382211003%0%医療検査領域で価格競争力が改善 binance
感染症の診断试剂盒(肝炎A/B/C、HIV、梅毒等)ex 382219003%0%検査キット分野で輸入コストが軽くなる binance
人造血管ex 902139004%2%医療機器・インプラントで採算改善余地 cna+1

日本企業の実務アクション:年明け前後にやるべきこと

自社品の中国側号列での突合

日本のHS6桁だけでは不十分です。中国側の税則号列(細分)で該当判定し、暫定税率の適用対象か確認します。ex指定品目は、仕様や用途で分かれることがあります。

価格交渉の材料化

暫定税率が下がる品目は、インコタームズと関税負担者を再確認した上で、見積の更新と顧客への説明資料を準備します。中国側買主が通関する取引でも、値引き圧力として返ってくるため、先回りが有効です。

協定税率との二重チェック

中国は2026年も、24のFTA等(34の貿易パートナー)に基づく協定税率を継続し、最不発達国43か国には100%税目で無税待遇を維持するとしています 。暫定税率だけでなく、原産地要件を満たすなら協定税率の方が有利なケースもあり得ます。news.cnyes+1

品目改編リスクの点検

税目や本国子目の見直しは、分類ミスや申告差異の火種になります 。中国向けに輸出入が多い企業ほど、マスタと通関委託先のコード体系を年初に一斉点検した方が安全です。binance

まとめ

今回の935品目の引下げは、単なる景気刺激というより、先端産業の部材調達、グリーン転換の原料確保、医療高度化を同時に進める「ターゲット型の関税設計」といえます 。cna+2

対中ビジネスでは、該当品目の突合と価格戦略の更新を、2026年1月1日の適用開始に間に合わせることが最大の実務ポイントとなります 。binance


  1. https://www.binance.com/ja/square/post/34358904320226
  2. https://www.cna.com.tw/news/acn/202512290209.aspx
  3. https://news.cnyes.com/news/id/6291766
  4. https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/us_tariff/pdf/04_1118.pdf
  5. https://www.etnet.com.hk/www/tc/ashares/news_detail.php?newsid=ETN351229774&page=1&category=%E5%85%A8%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E
  6. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/08/32996371811ccb00.html
  7. https://kuno-cpa.co.jp/china_blog/china-value-added-tax-law/
  8. https://tw.stock.yahoo.com/news/%E5%A4%A7%E9%99%B82026%E5%B9%B4%E9%97%9C%E7%A8%85%E8%AA%BF%E6%95%B4%E6%96%B9%E6%A1%88%E5%87%BA%E7%88%90-ecfa%E7%B9%BC%E7%BA%8C%E6%8C%89%E8%A6%8F%E5%AE%9A%E5%AF%A6%E6%96%BD-093333166.html
  9. https://www.recordchina.co.jp/b944805-s12-c20-d0189.html
  10. https://www.tmi.gr.jp/uploads/2025/01/31/TMI_China_News_January_2025.pdf

台湾のCPTPP加入は今どこまで進んでいるか


2025年末時点の検討状況と、企業が押さえるべき論点

台湾は2021年9月22日、CPTPP(TPP11)への加入を寄託国ニュージーランドに正式要請しました。ds-b
しかし2025年末時点で、台湾向けの「加入作業部会(Accession Working Group:AWG)」を設置するとの公式決定は確認できておらず、加入プロセスは“申請受理後の静止状態”にとどまっています。liskul+1

2025年11月21日にオーストラリア・メルボルンで開催されたCPTPP委員会の共同声明でも、今後の優先対象として挙げられたのはウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国であり、台湾(および中国)への直接言及はありませんでした。liskul
台湾外交部は、この点について「台湾の申請が公正に処理されていない」として遺憾の意を表明しています。liskul

以下では、台湾加入の「検討が進みにくい構造」を、CPTPPの手続と直近の公式文書・報道から整理します。ds-b+1


1. 前提:CPTPP加入は「申請=交渉開始」ではない

CPTPPは新規加入を受け入れる枠組みを持ちますが、申請が受理された時点で自動的に交渉が始まるわけではなく、加盟国が委員会で合意しない限り、AWGは設置されません。ds-b
加盟国が採択した「Accession Process(加入プロセス)」では、少なくとも次のようなポイントが明確化されています。ds-b

  • 申請(Accession Request)を受理した後、加盟国は合理的な期間内に交渉開始の可否を協議する。
  • 交渉開始で合意すれば、AWG(加入作業部会)を設置し、加入条件やスケジュールを交渉する。
  • 合意に至らない場合でも、申請国は加盟国との協議(consultations)を継続でき、委員会は後日あらためてAWG設置を判断し得る。

このため、申請後にAWGが設置されない状態は「正式な拒否」ではなく、「コンセンサス不足により入口で止まっている状態」と理解するのが実務的です。ds-b


2. 台湾加入の現在地:公式タイムラインと2025年共同声明

2021年9月:台湾が正式申請

カナダ政府が公表するCPTPP関連タイムラインによれば、台湾(正式名称:Separate Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu)は2021年9月22日、ニュージーランドに対しCPTPPへの加入要請を提出しています。liskul+1

2024年11月:コスタリカは前進、台湾はAWG設置に至らず

2024年11月28日にカナダ・バンクーバーで開かれたCPTPP委員会の共同声明では、コスタリカについてAWGを設置し、加入交渉に入ることが合意されました。ds-b
この判断は、加盟国が新規加入の基本原則として共有する「オークランド三原則(Auckland Principles)」に基づくと説明されています。ds-b

同時期の報道では、台湾についてはAWG設置が見送られ、台湾側が「政治的圧力に屈した」との不満を示したことが伝えられています。liskul

2025年11月:優先順位が明文化され、台湾は対象外のまま

2025年11月21日にメルボルンで開催されたCPTPP委員会の共同声明は、今後の加入拡大について次の点を明確にしました。liskul

  • コスタリカのAWGに対し、2025年12月の会合で進捗報告を行うよう指示し、早期決着を目指す。
  • オークランド三原則に沿う将来の加入候補として、ウルグアイ、UAE、フィリピン、インドネシアの4か国を特定。
  • まずウルグアイとの加入プロセスを開始し、残り3か国については2026年に「適切であれば」プロセスを開始すると明記。
  • これらの決定は「他の申請の検討を妨げるものではない」としつつ、2026年前半にも会合を開いて必要な追加決定を行う意向を示す。

ただし、共同声明本文は台湾と中国に一切触れておらず、台湾外交部は「台湾の申請が再び取り上げられなかった」ことに強い不満と遺憾を表明しています。liskul
結果として、台湾は申請国でありながら、「優先して交渉を進める4か国」には含まれていない、という位置付けが公式文書上も明確になりました。liskul


3. なぜ台湾は進まないのか:検討が止まる3つの構造要因

ここからは、CPTPPの公式文書に「理由」が明示されているわけではありませんが、公開情報と各国発言から見える構造要因を3点に整理します。ds-b+1

要因1 コンセンサス要件の重さ(政治的要素)

オークランド三原則の一つは、新規加入の判断が、加盟国全員のコンセンサスに依存する点です。ds-b
台湾の案件については、中国との関係も含めて各国の立場が分かれやすく、加盟国が足並みをそろえにくいことが、台湾側の発言や国際報道から繰り返し指摘されています。liskul

台湾外交部も「政治的圧力に左右されず、台湾の実績と高水準を評価すべきだ」と訴えており、政治要因がCPTPP委員会での合意形成のハードルを押し上げている構図がうかがえます。liskul

要因2 申請国の増加と“順番付け”の制度化

2024年以降、CPTPPは協定自体の「一般見直し(General Review)」と並行して、複数の加入申請をどのような順番と基準で扱うかを制度的に整理してきました。ds-b
2024年5月の共同声明では、将来の加入を公正かつ効率的に議論するため、加盟国間で情報共有や意見交換を行う常設的な非公式フォーラム(informal standing forum)の設置が記載されています。ds-b

その延長線上で、2025年11月の共同声明は「オークランド三原則に合致する4申請国」を特定し、ウルグアイからプロセスを開始、残り3か国は2026年に検討するという工程表を示しました。liskul
台湾はこの“優先レーン”に入っておらず、「申請済みだが、いつプロセスに乗るかが未定の国」として扱われているのが現状です。liskul

要因3 “高水準”確保に向けた実務・コンプライアンス面の厳格化

CPTPP加盟国は、新規加入国に対し「高水準の自由化」とともに、実務面での信頼性も重視しており、2025年11月声明でも、違法な迂回輸出(transhipment)や関税回避を防ぎ、継続的なコンプライアンス監視を行う重要性が強調されています。liskul
台湾政府は、関税や投資、デジタル貿易などでCPTPP水準に整合する法制整備を進めていると繰り返し発信していますが、加盟国が「いつ、どの場で、それをどう検証するか(AWGの場を含めて)」については、まだ政治的合意に至っていません。liskul

このため、技術的・法的な準備だけでは解決しきれない「政治・安全保障と通商ルールが交差する領域」で、合意形成が滞っていると整理できます。liskul


4. 日本企業への実務インパクト:現在と将来で切り分ける

今起きないこと:CPTPP特恵を前提にできない

2025年末時点で台湾はCPTPPに未加入であり、日本と台湾の取引にCPTPP特恵(関税削減、域内累積原産など)を前提とすることはできません。ds-b+1
当然ながら、原産地規則の累積も台湾は対象外であり、日本企業は日台二国間あるいは他協定(例:日台の投資協定等)を前提にサプライチェーンを設計する必要があります。ds-b

将来起こり得ること:加入後の設計余地

仮に台湾が将来CPTPPに加入すれば、日本企業にとっては次のような変化が生じます。ds-b+1

  • 台湾向け輸出でCPTPP特恵税率が利用可能になることによる価格競争力の変化。
  • 電機・精密機器・電子部品など、台湾を主要な調達拠点とする産業で、CPTPPの原産地規則に基づいた「域内累積」を再設計できる余地。
  • 台湾企業をサプライチェーンの中核に据えつつ、CPTPP域内の第三国向け輸出における原産地証明戦略を最適化できる可能性。

もっとも、現時点の公式工程表には台湾向けAWG設置のタイムラインは明記されておらず、企業としては「加入前提の投資や組替え」を先行させることはリスクが大きい状況です。liskul

したがって当面の実務としては、「台湾は未加入」を前提に制度設計を行いつつ、台湾の扱いが変化する兆候をウォッチし、シナリオ別の原産地戦略をあらかじめ検討しておく、というスタンスが合理的です。liskul


5. 2026年前半が最初の山場:企業が見るべきチェックポイント

2025年11月の共同声明は、2025年12月の会合に加え、2026年前半にもCPTPP委員会の会合を開き、必要に応じて追加決定を行う意向を示しています。liskul
台湾にとっては、このタイミングが「議題に取り上げられるかどうか」を確認する最初の明確な観測点となります。liskul

企業が注視すべきポイントは次の通りです。liskul

  • 2026年前半の会合後に公表される公式文書で、台湾に関する言及や位置づけに変化があるか(例:協議の進展、AWG設置の検討に言及があるか)。
  • 新たなAWGが立ち上がる場合、その対象国の組み合わせと説明ロジック(オークランド三原則との関係や、経済・安全保障面の言及など)。
  • 加入審査において、違法な迂回輸出や関税回避防止、継続的な履行監視といったコンプライアンス論点がどの分野で強調されるか(特に電機・機械・デジタル分野)。

これらを経営・調達・通商部門の共通KPIとしてモニタリングし、台湾がCPTPPプロセスに乗った場合に備えて、原産地戦略・工場配置・調達方針の複数シナリオをあらかじめ描いておくことが、2025年末時点で企業が取り得る現実的なアクションと言えます。

地域別に見るFTAの累積ルール進化

サプライチェーン設計と関税最適化の新しい常識

サプライチェーンが多国間にまたがるほど、FTAの原産地規則は「使えるのに使えない」状態に陥りがちです 。そこで重要になるのが累積(cumulation, accumulation)です。累積は、複数国に分散した調達や加工を「ひとつの経済圏のもの」として扱えるようにし、原産性を満たしやすくします 。近年は、この累積が各地域でアップデートされています。mag.wcoomd

ポイントは、単に累積があるかどうかではなく、どの範囲まで足せるのか、どの国同士で使えるのか、いつから適用か、証明実務はどう変わるか、です。

累積とは何か

累積は一言で言えば「原産性の合算ルール」です。ただし、中身は複数の型があります。ビジネスでは、次の違いがコストに直結します。

双方累積(Bilateral Cumulation)
協定当事国同士で、相手国産の原産材料を自国産として扱える基本的な累積です 。mag.wcoomd

対角累積(Diagonal Cumulation)
同一の原産地ルールが連結する複数のFTAネットワーク内で、第三国の原産材料も合算できます。代表例が欧州周辺のPEM(Pan-Euro-Mediterranean)です 。taxation-customs.europa

全累積(Full Cumulation)
最も踏み込んだ形態で、最終的に原産材料になり切っていない中間材でも、域内で行った加工や付加価値の一部を積み上げて原産性に寄与させます 。WCOも、累積が貿易やバリューチェーンに影響する重要要素であると整理しています。aanzfta.asean

この「どこまで足せるか」が、地域別の実務差になります。

アジア太平洋

RCEP:域内原産材料の横断利用と将来の拡張検討

RCEPは双方累積規定を持ち、ある締約国で原産と認められる材料を別の締約国の生産に使った場合、最終加工国の原産として扱える設計です 。mag.wcoomd

加えて、重要なのは将来の拡張レビュー条項です。RCEPは、全署名国に発効した日から累積の適用範囲を「域内で行われた生産や付加価値全体」まで広げること(全累積)を検討するレビューを開始し、開始から5年以内に結論を出すと定めています 。RCEPは2022年1月に発効しているため、このレビューは既に進行中です 。aric.adb+1

実務上の示唆は明確です。部材調達をRCEP域内に寄せ、加工工程を分散しても、将来的には原産判定を一本の枠組みで整理できる余地が広がります 。mag.wcoomd

ASEAN域内(ATIGA):部分累積を明文化

ATIGAは「域内原産材料の合算」に加え、材料のRVCが40%に満たない場合でも、20%以上の実質域内価値があれば比例配分で累積できる仕組み(部分累積、Partial Cumulation)を置いています 。wtocenter

これは、サプライヤーが完全な原産材料を作れない場合でも、一定の域内加工があるなら原産判定に寄与させられる、という実務救済策です 。wtocenter

AANZFTA:全累積を制度として拡張、参加国の扱いに注意

AANZFTAの第2改正議定書は2025年4月21日に発効し、全累積(Full Cumulation)の運用ガイドラインが整備されました 。全累積では、参加国(Participating Party)間で、非原産材料に対する域内の加工や付加価値までRVC計算に取り込む考え方が明確化されています 。aanzfta.asean

重要なのは運用の複雑性です。全累積規定は発効から180日後(2025年10月頃)に適用開始となりますが、当事国は参加国(PP)と非参加国(NPP)に分かれます 。デフォルトでは全当事国が参加国ですが、発効後120日以内にオプトアウト(不参加通知)が可能で、後日オプトイン(参加通知後180日で適用)もできる設計です 。aanzfta.asean

さらに、第2議定書自体は批准した当事国間でのみ適用され、未批准国とは旧枠組みが残る、という並走期間が生じます 。ここを取り違えると、同じAANZFTAでも取引相手国によって累積の効き方が変わり、原産判定が崩れます。mfat

CPTPP:加入拡大で累積の地理が広がるが、発効相手の見極めが必須

英国は2024年12月15日にCPTPPに加入しました 。英国の加入は、累積できる供給網の地理を拡大させる材料です。ただし、英国と各締約国の間で協定が発効して初めて、累積を含む協定効果が使えます 。gov

2025年12月末時点で、英国はカナダとメキシコがまだ批准していないため、この2国との間ではCPTPPを使えません 。各国との発効は批准通知の寄託から60日後に適用、という枠組みです 。business+1

欧州・地中海

PEM:対角累積の本丸が、2025年にルール刷新と移行措置

PEMは、EUやEFTA、トルコ、地中海沿岸諸国などが、同一ルールのFTAネットワークを通じて対角累積を適用できる仕組みです 。taxation-customs.europa

2025年において最も重要なのは、ルール改正に伴う移行措置です。2025年1月から改正ルール(2023年版)が動く一方、2025年12月末まで旧ルール(2012年版)と新ルール(2023年版)が並行適用され、事業者が供給網に応じて選択できる移行措置が用意されています 。carina.gov+1

つまり、同じPEM圏でも、相手国やプロトコル改正状況によって「使える累積の組み合わせ」が変動し得ます 。PEMは従来から「変動幾何(Variable Geometry)」(全当事者間にFTAと同一ルールが揃うことが条件)という前提があるため、適用可否は必ずマトリクスで確認する運用が現実的です 。carina.gov+1

北米

USMCA:累積を「材料」だけでなく「工程」にも広げる発想

USMCAの累積規定は、締約国域内の生産であれば、複数国にまたがる生産でも原産になり得ることを前提にしています 。ghy

さらに重要なのは、非原産材料に対して締約国内で行った生産が、その材料自体を原産化するほど十分でなくても、最終製品の原産性に寄与し得る、という規定です 。米国CBPは、複数階層のサプライヤーにおける域内付加価値を累積的に取り込むことを明確に認めています 。customsmobile+1

自動車などの厳しいPSRがある分野では、累積は「設計と調達の自由度」を作る一方、証憑とトレーサビリティの要求も強くなります 。ghy

アフリカ

AfCFTA:大陸単一市場を前提に、累積を制度の中核へ

AfCFTAの原産地実務では、締約国を単一領域として扱うことが累積の基本要件とされ、累積が地域バリューチェーン形成の核として位置づけられています。

一方で、タリフライン全体のうち原産地規則交渉がどこまで合意済みかは実務に影響します。2025年5月時点で原産地規則は約92%のタリフラインで合意済みとされ、残り8%は自動車と繊維分野です 。最終的な完了は2026年2月が見込まれています 。thedtic+1

運用面では、WCOがAfCFTA事務局やCOMESAと連携し、累積適用の能力構築を目的とするワークショップを実施しています。制度だけでなく、税関と企業の運用力を揃えにいくフェーズに入っている、という見方ができます。

企業が今すぐやるべき実務チェックリスト

累積は使えば得ですが、間違えると否認リスクを増幅させます。着地は次の5点です。

1. 対象ルートの累積タイプを特定する
双方累積か、部分累積か、対角累積か、全累積か。協定本文と運用ガイダンスで言葉を合わせる 。wtocenter+1

2. 適用バージョンと適用相手を確定する
PEMは移行期間で旧新が並走します 。AANZFTAは第1議定書と第2議定書が並走し得ます 。CPTPPは英国との発効相手が限定されます 。gov+2

3. 原産判定ロジックをサプライチェーン図に落とす
RVCで行くかCTCで行くか。累積で足せる要素は何か。PSRとコスト情報の粒度を先に決める 。aanzfta.asean

4. サプライヤー情報の取り方を累積仕様に変える
部分累積や全累積では、単なる原産宣言だけでなく、域内価値や工程情報が必要になる局面が増えます 。wtocenter+1

5. 税関検認に耐える証憑設計にする
証明書、自己申告、サプライヤー申告、計算根拠、工程記録を、協定の記録保存要件に合わせて束ねる 。ghy

まとめ

累積の進展は、「どの国で最終組立するか」だけの話ではありません。どこで何を加工し、どの情報をサプライチェーン全体から集めるか、という経営テーマに直結します 。mag.wcoomd

地域別に見ると、RCEPは域内調達を後押しし将来の全累積レビューが進行中 、ATIGAは部分累積で域内加工を促進 、AANZFTAは全累積で域内付加価値の取り込みを広げ 、PEMはルール刷新と移行措置で運用が複雑化し 、USMCAは工程寄与まで視野に入れ 、AfCFTAは制度と運用力の両輪で整備が進んでいます 。kohantextilejournal+7


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  4. https://aric.adb.org/pdf/rcipod/episode_33/RCI-POD%20presentation.pdf
  5. https://worldjpn.net/documents/texts/docs/20201115.T1E.html
  6. https://web.wtocenter.org.tw/file/PageFile/399049/WTREG457-3R1.pdf
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  8. https://www.gov.uk/government/collections/the-uk-and-the-comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnershipcptpp
  9. https://www.business.gov.uk/campaigns/CPTPP/
  10. https://carina.gov.hr/UserDocsImages/dokumenti/CTVP/PEM-transitional%20provisions-Guidance.pdf
  11. https://www.ghy.com/trade-compliance/cbp-ruling-allows-accumulation-of-costs-from-non-originating-materials-for-usmca-rvc-calculation/
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  13. https://www.thedtic.gov.za/wp-content/uploads/Status-Trade-Relations-Negotiations-1.pdf
  14. https://kohantextilejournal.com/afcfta-rules-of-origin-2025/
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  20. https://www.aseanbriefing.com/news/what-the-aanzfta-second-protocol-means-for-asean-trade/
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  23. https://www.customssupport.com/pan-euro-mediterranean-pem-2025/
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  26. https://en.wikipedia.org/wiki/Accession_of_the_United_Kingdom_to_CPTPP
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  28. https://www.parl.ca/DocumentViewer/en/45-1/bill/C-13/first-reading
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  30. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/cptpp-ptpgp/backgrounder_commission-document_information_commission.aspx?lang=eng

【2025年版】米国相互関税の新方針と実務対応:税率「合計15%」ルールと遡及還付の現場論点

2025年から本格運用が始まった米国の「相互関税(Reciprocal Tariffs)」。
この制度で企業の明暗を分けるのは、税率の高さそのものよりも、「どの申告コード(Chapter 99)を使い、どの例外を適用し、いつの貨物まで遡れるか」という実務精度の差です。

相互関税はHTSUS第99章の追加コードで実装されますが、交渉結果や大統領令によって矢継ぎ早にルールが上書きされています。現場がこのスピードに追随できないと、過払いによるキャッシュフロー悪化、申告誤りによるペナルティ、そして数年後の事後調査(Audit)という「三重のリスク」を抱え込むことになります。

本稿では、最新の大統領令とCBPガイダンスに基づき、見落としがちな実務リスクを整理します。


1. 何が「新方針」なのか:一律課税から「トップアップ方式」へ

制度開始当初(2025年4月5日)は、原則として「一律10%の追加(9903.01.25)」という単純な構造でした。しかし、その後の交渉と7月31日の大統領令により、現在はより複雑かつ精緻な「国別調整モデル」へと移行しています。

「新方針」の核心は以下の3点です。

  1. 国別レートへの移行
    交渉状況や安全保障上の整合性を踏まえ、国ごとに調整された相互関税率(9903.01.43〜など)が適用されます。
  2. 「合計15%」の上限設計(トップアップ方式)
    EUや日本など特定のパートナー国に対し、「一般税率+相互関税=上限15%」となるよう追加税率を調整するルールが明文化されました。
  3. 迂回輸出への厳格な罰則
    第三国を経由した迂回(Transshipment)が認定された場合、通常の相互関税ではなく一律40%の懲罰的追加関税が課される仕組みが導入されました。

CBPはこれに伴い、2025年8月7日以降の輸入に対し、新しい国別コード体系(9903.02シリーズ)を適用する運用を開始しています。


2. 日本向けルールの深層:「合計15%」と遡及還付の罠

日本企業にとって最も重要なのは、9月4日の大統領令で確定した「合計15%(Top-up to 15%)」ルールです。

  • 一般税率(Col.1)が15%未満の場合:不足分のみを相互関税として上乗せし、合計で15%にする。
  • 一般税率が15%以上の場合:相互関税の追加はゼロ(免除)。

このルールは2025年8月7日の輸入分まで遡及適用(Retroactive Application)されますが、ここで実務上の「揉め事」が多発しています。

最大の論点は「還付金(Refund)の帰属」です。
過払い分の関税は、CBPから輸入者(Importer of Record)に対して還付されます。しかし、DDP取引などで輸出者が関税負担をしていた場合、あるいは事後精算条項がある場合、その還付金をサプライヤーや顧客にどう配分するか。ここが契約で曖昧なままだと、経理処理も含めて多大な調整コストが発生します。


3. 通関現場が変わる:Chapter 99コードが「主役」に

相互関税の導入により、通関申告は「第99章(Chapter 99)のコード選定」が最重要タスクとなりました。対象品目には課税コードを、対象外品目には除外コードを正確に付番する必要があります。

現場でミスが起きやすい4つのポイントを解説します。

3-1. 「例外」の適用ミスは致命傷

カナダ・メキシコ産品の除外コード(9903.01.26等)や、Annex IIリストに基づく特定品目除外(9903.01.32)は、「自動適用」ではありません。申告時に正しい除外コードを入力し忘れると、システム上で関税が計算されてしまいます。

3-2. 「日付管理」が関税額を決定する

制度変更の端境期にある貨物は、インボイス日付ではなく「輸出港の出港日」「米国港への到着日」で適用税率が決まります。特に「8月7日以前に積載され、10月5日までに輸入された貨物」への救済措置など、日付要件は極めて細かいため、B/L(船荷証券)の日付管理がそのままコストに直結します。

3-3. エントリー分割(Split Lines)の要請

製品価格の20%以上が米国原産である場合、その「米国原産部分」を相互関税の対象外にできるルールがあります。ただし、これを適用するには1つの製品を「米国原産分」と「それ以外」の2行(Two lines)に分割して申告する必要があり、インボイスの書き方から変えなければなりません。

3-4. 「チャプター99」の優先順位

セクション301、232条関税、そして今回の相互関税。複数の追加関税が重なる場合、CBPは「どの順番でコードを並べるか」を指定しています。ブローカー任せにしているとエラーの原因になるため、指示書での明確化が必要です。


4. 見落としがちな実務論点:FTZとコンプラ

4-1. FTZ(対外貿易地域)の「入域時」固定
相互関税対象品をFTZに入れる場合、”Privileged Foreign Status”(特権的外国貨物)としての登録が求められるケースがあります。これにより、税率やHS分類が入域時点で固定されるため、「出すタイミングで税率が変わるかも」という期待が通じない可能性があります。

4-2. 迂回輸出(Transshipment)のリスク管理
7月31日の大統領令以降、CBPは原産地偽装の取り締まりを強化しています。単に第三国を経由しただけでなく、「実質的な変更を伴わない加工」を経て米国へ入った貨物が迂回と認定されると、40%の追加関税(9903.02.01)が課されます。調達部門は、サプライヤーの製造工程が「原産地規則を満たす実質的変更」に該当するかどうかを、従来以上に厳格に確認する必要があります。


5. ビジネス向け実務チェックリスト

過払いとコンプラ違反を防ぐため、以下の項目を社内タスクとして定着させましょう。

  1. 影響額の試算
    輸出品目ごとに、米国HTSUSの一般税率を確認し、「合計15%」ルール適用後の最終コストを算出する。
  2. 判定ロジックの確立
    相互関税の対象か、例外(Annex IIや232条対象)か、米国原産比率は20%を超えるか等の判定フローを作成する。
  3. 通関指示書の更新
    ブローカーに対し、適用すべきChapter 99コードと、複数の追加関税がある場合の申告順序を明確に指示する。
  4. 物流証憑の保全
    救済期間の適用可否を即断できるよう、「積載日」「出港日」「到着日」が分かる書類をセットで保管する。
  5. 契約条項の点検
    遡及適用による関税還付が発生した場合、その金銭を誰に帰属させるかを売買契約や覚書で明確にする。
  6. 2026年シナリオの準備
    相互関税の法的根拠を巡る訴訟リスクも含め、制度が変更・撤廃された場合の対応(Protestによる権利保全など)を準備しておく。

まとめ

2025年の相互関税は、単なるコストアップの問題ではなく、「複雑なルールの海をどう泳ぎ切るか」というコンプライアンス能力のテストでもあります。

特に「合計15%」の遡及適用と還付実務は、企業の利益に直接影響します。足元の通関を確実に回しつつ、2026年以降の法的変動も見据えた「堅い」実務体制を構築してください。

台湾のCPTPP加盟申請はどこまで進んでいるのか(2025年12月時点)


台湾は2021年9月22日にCPTPPへの加盟を正式に申請しました。公開情報ベースで整理すると、2025年12月末時点でも台湾向けの「加入作業部会(Accession Working Group)」は設置されておらず、加盟交渉の正式な入口に入れていない状態が続いています。mfat+1


前提整理:CPTPPは「申請=交渉開始」ではない

CPTPPは新規加盟を受け入れる枠組みを持ちますが、加盟申請があったからといって自動的に交渉が始まるわけではありません。apfccptppportal
加盟国は委員会(CPTPP Commission)で、各申請国ごとに加入プロセスを開始するかどうかを判断し、開始を決めた国ごとに加入作業部会(AWG)を設け、ルール順守や市場アクセス条件などを交渉していくのが典型的な流れです。apfccptppportal

この判断の際に繰り返し参照されているのが、いわゆるオークランド三原則です。要点は次の3つと整理されます。gov

  • CPTPPの高い水準・義務を全面的に受け入れる用意と能力があること
  • 既存の通商コミットメントをおおむね誠実に履行してきた実績があること
  • 加入に関する決定は、締約国によるコンセンサス(全会一致ベースの運用)によって行われること

このうち3点目、すなわち「コンセンサスが必要」という要件が、実務上もっとも大きなハードルになりやすい部分です。apfccptppportal


時系列で見る:台湾申請の現在地

2021年9月:台湾が正式申請

2021年9月22日、ニュージーランドはCPTPPの寄託国として、台湾からの加入申請を受領したことを公表しました。mfat
このタイミングで、中国(9月16日申請)に続き、台湾もCPTPP加盟を正式に目指すことが国際的に認識されるようになりました。congress

2024年11月:台湾向けAWGは設置されず、コスタリカは前進

2024年11月のCPTPP委員会では、コスタリカについては加入作業部会を設置し、アクセッション・プロセスを進めることが決定されました。gov
一方で台湾については作業部会設置が見送られたと報じられ、台湾政府関係者が失望と不満を表明したとする報道もあります。congress

2025年11月:優先順位が明確化し、台湾は依然として対象外

2025年11月21日にメルボルンで開かれた第9回CPTPP委員会の共同声明は、次にアクセッションを進める対象として、ウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国を「オークランド三原則に沿う候補」として特定しました。gov
共同声明は、まずウルグアイとのアクセッション・プロセスを開始し、UAE・フィリピン・インドネシアについては2026年にプロセスを開始し得ると整理していますが、この文書のなかに台湾への直接の言及はなく、台湾向けAWGも設置されていません。gov

台湾側は、自国の加盟申請が他国に比べ公平に扱われていないとして遺憾を表明したと報じられています。peacediplomacy
もっとも、共同声明は「他の加盟申請の検討を妨げるものではない」とも明記しており、台湾の申請が撤回されたり、CPTPP側から正式に否定されたりしたわけではありません。gov


なぜ止まっているのか:実務上は「コンセンサスが作れない」

公式文書のレベルでは、「台湾がCPTPPの基準を満たさない」と明示的に断定している記述は示されていません。gov
むしろ、止まっている主因は、台湾案件をどのように扱うかについて、加盟国のあいだで政治的・外交的なコンセンサスが形成できていない、という構図と理解するのが自然です。congress

他方、2025年11月の共同声明は、ウルグアイ・UAE・フィリピン・インドネシアを次の具体的候補として位置づけつつ、「他の申請についての検討を妨げない」との一文を入れています。gov
したがって、実務的には台湾の申請は「否決された」のではなく、「棚上げに近い待機状態が続いている」と整理するのが妥当でしょう。congress


日本企業にとっての意味:いま起きること/起きないこと

いま起きないこと

台湾がCPTPPにまだ加盟していない以上、日本と台湾の取引にCPTPPの特恵関税や累積原産のメリットを適用することはできません。mfat
そのため、日本企業は対台湾の調達・生産・輸出の設計について、WTO税率や既存の二国間・地域協定、サプライチェーン全体のコスト構造を前提に最適化を図る必要があります。apfccptppportal

いま起きていること

CPTPPは拡大プロセスそのものを止めているわけではなく、2024年にコスタリカ、2025年にウルグアイが具体的に前へ進み、UAE・フィリピン・インドネシアも2026年にアクセッション・プロセスを開始し得る候補として整理されています。gov+1
企業の視点では、「台湾の加盟がいつ実現するか」を見込むよりも、これら他の候補国が先に加盟した場合の累積原産の組み替え余地や調達先の多様化効果を試算しておく方が、短期~中期の実益に直結しやすい局面と言えます。jef+1


2026年に向けたチェックポイント

  • 2026年前半の追加判断
    2025年の共同声明は、2026年前半にもCPTPP委員会を開催し、拡大に関する追加判断を行う意向を示しています。gov
    この場で台湾案件がどの程度議題として扱われるかが、今後数年の見通しを占ううえで最初の注目点になります。congress
  • 加盟国側の対外メッセージの変化
    台湾を名指ししない場合でも、オークランド三原則の具体的運用や、候補国の優先順位に関する説明のトーンが変わるかどうかは重要なシグナルです。gov
    特に「既存コミットメントの履行」や「経済的威圧への懸念」といった表現の扱いが変化するかどうかは、台湾のみならず他の候補国や既存加盟国を含めた政治・経済環境の変化を映す指標となり得ます。cas

免責:本稿は、各国政府・国際機関・報道機関が公表する一般的な情報を前提とした整理であり、個別の取引・関税・原産地判断を代替するものではありません。具体的案件については、協定正文、各国税関当局の運用、専門家の助言等に基づき確認してください。

  1. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/common-questions
  2. https://apfccptppportal.ca/accessions/process
  3. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-vancouver-canada-28-november-2024/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-28-november-2024
  4. https://www.congress.gov/crs_external_products/IN/PDF/IN11760/IN11760.1.pdf
  5. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-melbourne-21-november-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-21-november-2025
  6. https://peacediplomacy.org/2024/04/02/its-time-for-canada-to-break-the-cptpp-accession-logjam/
  7. https://www.jef.or.jp/journal/pdf/259th_Cover_Story_04.pdf
  8. https://www.meti.go.jp/english/policy/economy/industrial_council/pdf/250603008_03.pdf
  9. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20251121_cptpp_seimei_en.pdf

CPTPPの中国加入が「見送り」状態にある理由と、実務への影響

中国のCPTPP加入申請(2021年9月16日提出)は、申請から時間が経っているにもかかわらず、いまだ「加入交渉を始める」ための加盟国コンセンサスが形成されておらず、アクセッション・プロセスの正式な開始に至っていない状態です。apfccptppportal+1
これは、加盟国側が中国の加入を明確に拒否する決定を行ったというよりも、アクセッション開始を決めるコンセンサスが成立していないため、手続が事実上停滞しているという構図と整理できます。cas+1

1. 直近の公式判断:ウルグアイを優先し、中国は対象外のまま

2025年11月21日に豪州メルボルンで開催された第9回CPTPP委員会(CPTPP Commission)に関する共同声明では、アクセッション手続の進捗について次のように整理されています。gov

  • コスタリカ:アクセッション作業部会(AWG)が既に設置されており、2025年12月までに交渉の進捗を報告するよう指示
  • オークランド三原則を満たすとみなされる候補として、ウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国を特定
  • まずウルグアイとのアクセッション・プロセスを開始し、残る3か国については2026年に、適切と判断されればプロセスを開始
  • これに加え、他のアクセッション要請についても検討・議論を継続する意向を表明

この「4つの候補」の中に中国は含まれておらず、共同声明の文脈上も中国は「現時点で優先的にアクセッション交渉を進める対象にはなっていない」と整理するのが自然です。gov
他方で、CPTPPは中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナ、インドネシア等から正式な加入要請を受けていることが、各種レポートでも整理されています(ジェトロ等)。jef+1

2. 「見送り」とは何か:拒否ではなく、交渉開始の合意が作れない状態

CPTPPへの加入は、要請国が申請書を提出しただけでは進まず、CPTPP委員会がアクセッション・プロセスを開始することを決定し、加入作業部会(Accession Working Group: AWG)を設置して初めて本格的な交渉段階に入ります。apfccptppportal
中国の申請日は2021年9月16日と明確ですが、現時点までに中国向けAWGを設置する決定が行われたという公表情報はなく、アクセッション・プロセスが公式に立ち上がったとは言えない状況です。mfat+1

ここで鍵となるのが、アクセッション判断が「オークランド三原則」に基づくこと、および加入に関する決定はすべて締約国のコンセンサスに依存するという点です。cas+1
実際、申請当初からカナダを含む一部加盟国が中国(および台湾)の加入申請への明確な支持表明を控えているとの報道もあり、初期段階から慎重姿勢や政治的配慮が指摘されてきました。peacediplomacy

3. なぜ合意が作れないのか:実務的に効いてくる3つの論点

論点は多岐にわたりますが、企業実務の観点から押さえるべきポイントを3点に整理します。

論点A 「高い水準」を満たし続ける確度

日本政府(外務省)は、CPTPPの高い水準を満たす意図と能力を持ち、かつ既存の通商約束を履行しているかどうかを加入要請国ごとに慎重に見極める、という基本姿勢を示しています。mofa+1
企業実務としては、国有企業・補助金、デジタル貿易、知的財産、労働・環境、透明性・ガバナンスなどの分野で、「制度設計の形式的整合性」だけでなく、その運用実績や履行確度まで含めて評価される、という理解が重要になります。rieti+1

論点B 経済的威圧への警戒(加盟国側の問題意識)

第9回委員会に関する共同声明は、経済的威圧(economic coercion)に対する懸念と反対を明記し、こうした行為はCPTPPの高い水準や加盟国に期待される行動と整合しないと踏み込んでいます。cas+1
この種の文言は特定国名を挙げてはいないものの、加盟候補国を含む各国の行動様式全体が審査対象になりうる、というメッセージとして読み得るため、企業としても中長期リスクの一環として認識しておく価値があります。congress

論点C 地政学とコンセンサスの壁

豪州の有力紙Australian Financial Reviewは、中国のCPTPP申請について「加盟国間でコンセンサスがなく、申請の検討が遅れている」との認識を示しており、在豪中国大使へのインタビューでも同趣旨の質問が投げかけられています。china-embassy
一方で、中国はCPTPP水準との整合性をアピールする目的も含めて、海南自由貿易港のような制度実験を進めていますが、外交官や専門家からは「パイロット・プロジェクトだけでは不十分であり、全国的な制度改革と履行実績が求められる」との懐疑的な見方も示されています。reuters+2

4. 日本企業への実務インパクト:いま起きること/起きないこと

実務的には、当面は「中国がCPTPPに加入していない前提」で制度設計を行うのが合理的です。mfat+1

  • 対中輸出
    • CPTPPの特恵関税は対中取引には適用されないため、日本から中国向け輸出に関する関税・原産地の設計は、RCEPや日中二国間の制度枠組み等を中心に最適化することになります。congress
  • サプライチェーン・原産地設計
    • CPTPPの累積原産は原則としてCPTPP締約国間が対象であり、中国原材料の比率が高い製品は、CPTPP特恵の原産地基準を満たしにくくなる可能性があります。meti+1
  • むしろ注目すべき「増える可能性が高い国」
    • 2025年11月の共同声明では、ウルグアイとのアクセッション・プロセス開始に加え、UAE・フィリピン・インドネシアについて2026年にプロセスを開始し得ることが示されています。trademinister+1
    • これらが加入すれば累積原産の組み替えや調達先の多様化が可能となるため、企業にとっては中長期的なサプライチェーン再設計のオプション拡大という、より直接的な実益につながり得ます。jef+1

5. 2026年に向けたチェックポイント

  • ウルグアイの加入交渉の進捗
    • ウルグアイ向けAWGでの議論内容(センシティブ品目、移行期間、国有企業・サービス市場開放の扱いなど)が、今後の他候補国に対するベンチマークになる可能性があります。gov
  • UAE・フィリピン・インドネシアの加入プロセス開始の有無
    • 2026年中にアクセッション・プロセスを実際に開始するかどうかは、サプライチェーン戦略や投資戦略の前提条件として注視が必要です。trademinister+1
  • 議長国の交代
    • 2025年の議長国である豪州から、2026年にはベトナムが議長としてCPTPPの議論を主導する見通しであり、議長国の優先課題や対中スタンスがアクセッション議論のペースに影響し得ます。trademinister
  • 中国申請の「棚上げ」継続リスク
    • 中国の加入申請そのものが取り下げられたわけではなく、政治・経済環境の変化次第では再び議題として浮上する余地は残りますが、現時点では他の候補に比べ優先順位が低いポジションにとどまっていると評価するのが妥当です。english.scio+1

免責:本稿は各国政府・国際機関・報道等の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・通関判断を代替するものではありません。具体的案件については、協定正文、国内実施法・通達、各国税関当局への照会等により確認してください。

  1. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/common-questions
  2. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2024/pdf/20240518_cptpp_seimei_en.pdf
  3. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-melbourne-21-november-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-21-november-2025
  4. https://apfccptppportal.ca/accessions/process
  5. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20251121_cptpp_seimei_en.pdf
  6. https://www.jef.or.jp/journal/pdf/259th_Cover_Story_04.pdf
  7. https://www.jetro.go.jp/ext_images/hungary/pdf/globaltradeandinvestmentreport2025.pdf
  8. https://peacediplomacy.org/2024/04/02/its-time-for-canada-to-break-the-cptpp-accession-logjam/
  9. https://www.mofa.go.jp/policy/other/bluebook/2025/pdf/pdfs/3-3.pdf
  10. https://www.rieti.go.jp/en/papers/contribution/kawase/09.html
  11. https://www.congress.gov/crs_external_products/IN/PDF/IN11760/IN11760.1.pdf
  12. https://au.china-embassy.gov.cn/eng/dshd/202504/t20250402_11587111.htm
  13. https://www.reuters.com/world/china/china-launches-113-billion-free-trade-experiment-hainan-island-2025-12-18/
  14. https://www.newsweek.com/china-spends-113-billion-on-hong-kong-rival-roughly-the-size-of-maryland-11253923
  15. https://www.indexbox.io/blog/china-launches-hainan-island-as-separate-customs-territory-to-boost-trade-and-join-cptpp/
  16. https://www.meti.go.jp/english/policy/economy/industrial_council/pdf/250603008_03.pdf
  17. https://www.trademinister.gov.au/minister/don-farrell/media-release/australia-hosts-cptpp-trade-talks-melbourne
  18. http://english.scio.gov.cn/pressroom/2025-05/09/content_117866500.html
  19. https://www.trtworld.com/article/574bf26b97a2
  20. https://www.tbsnews.net/worldbiz/china/china-launches-113-billion-free-trade-experiment-hainan-island-1312926
  21. https://www.visahq.com/news/2025-12-18/cn/china-activates-island-wide-customs-closure-in-hainan-launching-us113-billion-free-trade-port/
  22. https://www.theasiacable.com/p/asia-daily-december-19-2025
  23. https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3081894/coronavirus-australia-calls-chinas-envoy-over-disappointing
  24. https://www.jef.or.jp/en/1-2.1_Han-koo_Yeo.pdf
  25. https://asiantradecentre.org/media-coverage-2
  26. https://www.azernews.az/region/251820.html
  27. https://www.uts.edu.au/news/2021/11/australia-prc-trade-and-investment-developments-timeline
  28. https://www.thediplomaticaffairs.com/2025/12/21/the-hainan-free-trade-port-as-a-strategic-economic-experiment/
  29. https://www.mfa.gov.cn/eng/xw/zwbd/202408/t20240809_11468867.html
  30. https://m.fastbull.com/news-detail/china-launches-113-billion-hainan-free-trade-port-4360787_0
  31. https://www.uktpo.org/briefing-papers/joining-the-cptpp-economic-opportunities-and-political-dilemmas-of-future-expansions-for-the-uk/
  32. https://english.mofcom.gov.cn/News/SignificantNews/art/2021/art_aaf18f91e7e14ce1831f926f16d9b2ee.html
  33. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-vancouver-canada-28-november-2024/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-28-november-2024
  34. https://www.csis.org/analysis/look-skeptically-chinas-cptpp-application
  35. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/joint-ministerial-statement-occasion-ninth-commission-meeting-cptpp
  36. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/have-your-say
  37. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/commission-meetings
  38. https://publicprocurementinternational.com/wp-content/uploads/2025/08/2025_34_PPLR_Issue_4_Print_Press-Proof_Offprint.pdf
  39. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/news
  40. https://globaldataalliance.org/wp-content/uploads/2024/08/08012024gdacptpp.pdf

日本税関が2026年のNACCS用品目コードを公表 ― 年明けから特別緊急関税も適用開始へ

年末の税関アップデートは、年明けの通関実務を直撃します。今回は主に次の2点がポイントです。

  • 2026年1月1日適用開始分のNACCS用品目コードが公表されました。統計品目番号(輸出入統計品目表)の改正に合わせ、NACCS申告上のコード体系が更新されます。
  • 輸入数量に基づく特別緊急関税の適用開始日が公表され、「ばれいしょでん粉」と「繭(まゆ)」に2026年1月1日から追加関税が適用されます。

どちらも「マスタ更新漏れ」や「申告コードの取り違え」が起きやすいテーマであり、ビジネス実務面での備えが重要です。

NACCS用品目コードとは何か

NACCS用品目コードは、統計品目番号(HS・統計品目表番号)だけでは区別できない税率や制度上の区分を、電子申告上で識別するための補助コードです。

代表的な例がEPA税率・調整税率・暫定税率・特別関税などの制度識別です。HS改正により品目が統廃合されても、協定上は交渉時点のHSに基づく異なる特恵税率が残ることが多く、その場合は税関が旧細分をNACCS用品目コードで維持し、適切な税率適用を可能にしています(出典:税関総合情報 PDF, RCEP対応事例)。

したがって社内マスタがHSや統計品目番号のみで構成されている場合、NACCS上の処理区分に齟齬が生じ、税率や制度適用の誤りにつながるリスクがあります。

2026年1月1日適用開始分のコードが公表された背景

今回の改正は、輸出統計品目表および輸入統計品目表の改正(財務省告示第283号、2025年10月31日付)に連動しています。告示では、「2026年1月1日以後に統計計上される貨物に適用する」と明記され、これに対応して税関はNACCS用品目コードの新体系を提示しました。

実務上の重要点は次の2つです。

  1. 改正は輸入だけでなく輸出申告側のマスタにも波及します。
  2. 税関公表資料の一部では「特定記号付き品目はNACCS掲示板を参照」と注記されており、掲示板情報まで見ないと完結しない品目が存在します。

特別緊急関税(セーフガード)の適用開始 ― ばれいしょでん粉・繭が対象

もう一つの重要な発表が、関税暫定措置法第7条の3に基づく特別緊急関税(セーフガード)の適用開始です。別表第1の6の16および28の項に掲げる物品について、2026年1月1日から3月31日までの期間、追加関税が適用されます。

神戸税関業務部による案内では、対象品目と税率は以下の通りです(現行統計品目番号ベース。2026年版統計品目表改正後は番号が変更される可能性があります)。

品目品目番号(参考)適用開始前適用開始後
ばれいしょでん粉1108.13-099119円/kg158.67円/kg
5001.00-0902,523円/kg3,364円/kg

(適用期間:2026年1月1日~3月31日)

ここで注意すべきは、税率だけでなくNACCS申告上のコード切替です。

特別緊急関税適用開始時のNACCS用品目コード運用

NACCS掲示板では、今回の特別緊急関税適用開始に伴い、当該期間の輸入申告ではC-5区分の「暫定法第7条の3適用開始時用コード」が適用されると明示されています(出典:NACCS掲示板 2025年12月24日付)。

さらに、「当該コードは2026年1月1日以降に使用可能」とされています。申告時期と船積時期のズレで誤適用が起きやすく、特に年末年始の輸入申告では注意が必要です。

よくある誤りパターン

  • 船積みが12月でも輸入申告日が1月にずれ、適用開始後の税率が適用される
  • 通関業者システムは更新済みでも、輸入者側マスタが旧コードのまま
  • 統計品目番号は正しいが、NACCS用品目コード誤選択で税率エラーや保留扱いとなる

年末年始の実務対応チェックリスト

統計品目番号・NACCS用品目コードの確認

  • 財務省告示第283号の改正内容で自社輸出入品の統計品目番号影響を確認する
  • 税関公表のNACCS用品目コードリスト(2026年1月1日適用開始分)を社内マスタと突合する
  • 注記付き品目がないかを確認し、必要に応じてNACCS掲示板で情報補完する
  • FTA/EPA税率適用品は旧細分維持が必要なケースを重点点検する(税関総合情報

特別緊急関税への対応

  • 「ばれいしょでん粉」「繭」の取扱いがある場合、1〜3月期の追加関税影響を試算する
  • 適用期間中の申告では「暫定法第7条の3適用開始時」コードを通関業者と合意のうえ運用する(NACCS掲示板
  • 除外適用が想定される場合、条文上の除外要件を税関・業者と事前確認する

運用面の準備

  • 年末年始貨物の到着・申告タイミングを再チェックし、課税期間の跨りリスクを回避する
  • 購買・経理部門へ追加関税適用開始を事前共有し、仕入・販売価格調整を前倒しする
  • 初回はサンプル申告で検証し、NACCS用品目コードとの整合をログ管理する

まとめ

2026年のNACCS用品目コード改正は、統計品目改正と税率制度の両面更新を伴う重要な移行です。加えて、「ばれいしょでん粉」と「繭」には1月1日から特別緊急関税が適用され、申告コード運用にも直接影響します。

通関トラブルの大半は税率そのものより「コード整合」と「申告日基準の解釈」で発生します。年内にマスタ更新と運用フローの合意を完了させ、2026年の初荷に備えることが安全策です。


注記: 本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の通関判断を代替するものではありません。最終判断は、自社の取引実態と最新の公式発表、並びに専門家の助言に基づいて行う必要があります。

米国2025年関税が戦後最高水準に達した理由と日本企業の実務対応

2025年の米国は、関税政策が「戦後最高水準」と評される領域に踏み込み、企業のコスト構造とサプライチェーン設計に直接影響を与える一年となりました。平均実効関税率は1930年代以来の水準に達したと推計され、関税がマクロ経済だけでなく、個社の価格決定や契約実務にまで波及しています。

どこまで関税水準が上がったのか

イェール大学The Budget Lab(TBL)は、2025年11月17日時点で、消費者が直面する平均実効関税率(消費シフト前)が16.8%に達し、1935年以来の高水準と推計しています。貿易構造の変化を織り込んだ「消費シフト後」の平均は14.4%で、こちらも1930年代後半以来の高さです。

年初時点での平均関税は約2.4%とされており、そこからの上昇幅は極めて大きいものです。APは、2025年11月の実効関税率が消費シフト前で約17%となり、年初からおよそ7倍に跳ね上がったと報じています。

「戦後最高水準」という表現が難しい理由

関税水準は「どの母数で平均するか」によって数字が変わるため、実務では指標の違いを理解して読み解く必要があります。

Banque de Franceは、2025年1〜9月に米国の平均関税が約14ポイント上昇し、制度上の平均が18〜20%程度に達したと分析する一方、税関収入と輸入額の比率で計る事後的な実効関税率は9.7%と整理しています。これは「制度上の税率は極めて高いが、免除や原産地ルール、調達・消費シフトの結果として、観測される実効負担は相対的に低く見える」という構造を示しています。

TBLの「消費シフト前の実効関税率」は、消費や調達が動く前に家計・企業が直面するコストを示す指標であり、価格見積もりや契約交渉の前提を置くにはこちらの考え方が実務上なじみやすいといえます。野村の解説でも、2025年8月7日時点で平均関税率は約19%とされ、1930年代前半以来の水準に近いとの見立てが示されており、市場参加者の感覚とも整合的です。

何が関税を押し上げたのか

2025年の特徴は、単一の対中関税ではなく、複数の枠組みが短期間で積み上がった点にあります。

対中関税の追加・強化に加え、カナダ・メキシコ向けの関税上乗せや、鉄鋼・アルミ、自動車とその部品、金属含有率の高い機器、銅関連などへの高関税が段階的に導入されました。2025年4月5日からは、多数の国・品目に広く適用される「相互関税(reciprocal tariffs)」と国別の上乗せ措置が開始され、結果として平均関税が一段と跳ね上がったと整理されています。

Banque de Franceは、こうした措置の累積によって、2025年の米国関税水準がスムート・ホーリー法時代に近い水準へと接近したと指摘しています。

企業コストとマクロへの影響

TBLは、2025年の関税のマクロ影響を次のように推計しています。

  • 総合物価は短期で1.2%押し上げられ、平均世帯の負担増は約1,700ドルに相当
  • 実質GDP成長率は2025年に0.5ポイント、2026年に0.4ポイント押し下げられ、長期的には米経済規模が恒常的に約0.3%縮小
  • 失業率は2025年末に0.3ポイント上昇し、2025年末時点の雇用は約46万人分減少

品目別の影響では、アパレル、金属含有率の高い電気機器やコンピューター、自動車などが特に大きな打撃を受けるとされています。自動車については、短期で価格が13%上昇(平均新車価格で約6,500ドル)、長期でも5%上昇(約2,500ドル)するとの推計が示されています。

一方で財政面では、関税収入は急増しています。APによれば、2025年11月までの関税収入は2,360億ドル超に達しており、関税は事実上、大規模な間接増税として機能しています。もっとも、貿易赤字の改善や内需への波及は単純ではなく、駆け込み輸入などによって月次の貿易赤字が大きく変動した局面も報告されています。

日本企業が今優先すべき7つの実務対応

1. 品目別・通関単位で影響額を可視化する

平均関税率の数字だけでは、自社の損益へのインパクトは見えません。HTS(HS)コード単位で棚卸しを行い、どの品目がどの関税枠組みの対象になっているかを整理し、月次輸入額ベースでインパクトを試算することが第一歩です。

TBLが示すように、「消費シフト前」と「シフト後」で関税負担の見え方は変わるため、見積もり・価格転嫁の議論では、まずシフト前の実効関税率(16.8%など)を基準値として置く方が保守的で安全といえます。

2. 価格条項とサーチャージ条項を再点検する

2025年の米国関税は、「導入して上げる」だけでなく、「一時停止・除外・再導入」が繰り返される揺れの大きい年でした。売買契約では、関税変更を価格に反映するトリガーの定義、再交渉期限、サーチャージ(追加料金)の算定方法、下振れ時の価格調整の扱いまで、条項を具体化しておく必要があります。

特に長期契約やTier構造のサプライチェーンでは、関税変動が下流でどのように転嫁・分担されるかを、価格調整条項と連動して明文化しておくことが実務上の安定につながります。

3. 原産地とサプライチェーンの「二重最適化」

関税回避のために単純に仕向国や積出国を変えるだけでは不十分な場合が多くあります。Banque de Franceが指摘するように、免除や協定適用の有無が平均コストを左右するため、原産地規則、FTA/EPAの活用、サプライヤー監査コストなどを含めた「原産地+サプライチェーン」の二重最適化が求められます。

その際には、原産地証明書の取得・保存、サプライヤーからの原産地宣言の検証プロセス、米国側での通関立証に耐えうる記録管理体制までをパッケージで設計することが重要です。

4. 自動車・金属系は多段階の「波及」を前提に設計する

自動車や金属含有率の高い製品は、完成品だけでなく鋼材・部品・サブアセンブリなど、多段階で関税コストが累積します。価格転嫁が難しいサプライヤーほど、設計変更(素材変更・仕様簡素化)、代替材の検討、在庫調整や生産タイミングのシフトといったオプションを早い段階から検討する必要があります。

特にEV関連部材やハイエンド電子部品は、特定国依存度が高いケースが多く、関税だけでなく制裁・輸出規制のリスクも重なるため、調達戦略全体を見直す契機として位置付けるのが現実的です。

5. 「米国向け最終製品に組み込まれる部材」を把握する

日本から直接米国に輸出していない場合でも、メキシコや東南アジアで組み立てられた製品に自社部材が組み込まれ、最終的に米国へ輸入されるケースでは、間接的に関税負担が取引条件に跳ね返ります。APが報じるとおり、中国からの輸入減少と同時に、メキシコ・ベトナム・台湾などからの輸入が増加する局面では、米国の関税政策を起点に調達再編が連鎖的に発生しています。

そのため、Tier1だけでなく、海外拠点・主要サプライヤーを通じて、最終仕向国・最終用途をマッピングし、「対米向けに組み込まれる部材」のボリュームと価格条件を把握することが不可欠です。

6. 「除外・例外」情報のモニタリングをルーチン化する

TBLは、2025年秋の農産品などの関税除外拡大が、平均実効関税率の見え方に影響したと指摘しています。こうした除外リストや一時的な免除は企業の関税コストに直結する一方、更新頻度が高く、官報や通達をスポットで追うだけでは見落としやすいのが実情です。

実務としては、週次程度で関係官庁・連邦官報・専門ニュースをモニタリングし、自社SKUへの該当性をチェックするフローを整備することが有効です。社内では、関税コスト削減の一環として、除外申請や制度利用の検討プロセスも含めて標準化しておきたいところです。

7. IEEPA関税を巡る訴訟と還付の「権利保全」

IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税については、司法判断の帰趨によっては還付の余地が残るとされています。米議会調査局(CRS)は、米国国際貿易裁判所(CIT)が2025年5月に「IEEPAは関税賦課権限を付与しない」と判断したこと、最高裁が上訴審を受理し、2025年11月初旬に口頭弁論を予定したことなど、手続の流れを整理しています。

JETROは、CITが2025年12月15日に清算手続の仮差止め申立てを棄却した一方、将来的に違法判断が出た場合の還付可能性や、清算と異議申立て(原則180日以内)のタイミングを巡る実務論点を詳しく解説しています。日本企業としては、輸入者としての立場か、サプライヤーとして価格条件に関与する立場かを踏まえ、清算・異議申立て・記録管理を含めた権利保全方針を、取引先との間で明確にしておく局面にあります。

高関税が「新常態」になり得るという前提

2025年の米国関税は、単なる税率変更ではなく、サプライチェーンと価格決定の前提を組み替えるイベントだったと位置付けられます。平均実効関税率が1930年代以来の水準に達したという推計が複数示されている以上、短期の例外措置や交渉結果に一喜一憂するより、「高関税が当面の標準シナリオである」という前提でコスト設計と契約実務を固めることが、企業にとって現実的なアプローチとなります。


注記: 本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・税務・通関判断を代替するものではありません。最終判断は、自社の取引実態と最新の公式発表、並びに専門家の助言に基づいて行う必要があります。