1. 2025年の大改定のポイント
関税率の大幅引上げ
2025年6月3日の大統領布告により、鉄鋼・アルミニウムおよびその派生製品に対する関税率が一律**50%**に引き上げられました(英国のみ25%)。これは通商拡張法第232条(Section 232)に基づく措置で、2025年6月4日(EDT)以降の輸入に適用されます。
課税方式の変更:「金属含有価額」ベース
従来の「総額課税」から「金属含有価額のみに対する課税」に変更されました。CBP(米国税関国境警備局)の実務通達により、派生製品やHS第73類(鉄鋼)・第76類(アルミニウム)の品目についても、製品全体ではなく鋼・アルミニウムの含有価額部分のみに232関税が課されます。
除外制度の終了と「インクルージョン制度」の創設
2025年2月10日の布告により、従来の232除外申請制度が終了しました。代わりに、派生製品を追加指定するための「インクルージョン手続」が年3回(5月・9月・1月)の受付期間で運用開始されています。
重複課税(スタッキング)の整理
大統領令第14289号(2025年4月29日)により、複数の特定関税が同一貨物に重複して過剰となる事態を一定範囲で防ぐ手順が規定されました。ただし、232関税と対中制裁の「301関税」については累積適用されることが明記されています。
2. 派生製品の対象拡大
「派生製品(derivatives)」とは、基礎素材(鉄鋼・アルミニウム)からさらに加工された下流製品のことで、2018年の232措置では対象外だった製品分野にまで関税を適用するために指定されています。
2025年の主な追加項目
アルミニウム派生製品(4月4日発効)
- 空のアルミ缶(HS 7612.90.10)
- ビール(HS 2203.00.00)
鉄鋼派生製品(6月23日発効)
- 家電製品(冷蔵冷凍庫、洗濯機、乾燥機、食洗機、オーブン・レンジ、生ごみ処理機)
- 溶接ワイヤラック(HS 9403.99.9020)
トレーラー類(8月18日発効)
- ドライバン・冷凍(リーファー)トレーラー(HS 8716.39.0040等)とそのサブアセンブリ
今後の展開
BISのインクルージョン制度により、国内生産者等の申請に基づいて派生製品は継続的に追加される見込みです(申請から60日以内に判断)。
3. 関税算定の具体的方法
基本税率
- 鉄鋼・アルミニウム・派生品:50%(英国原産品のみ25%)
課税ベースの算定
- HS第73類(鉄鋼)・第76類(アルミニウム)製品:金属の「含有価額」のみに課税
- 派生製品:製品中の鋼・アルミニウム含有価額に対して課税
- 鉄・アルミ両方を含む派生品:それぞれの含有価額に対してそれぞれの232関税を課税
申告方式:「2行計上」
CBPの指示により、以下の2行に分けて申告します:
- 1行目(非金属部分):本来のHS番号、原産国、「総額-金属含有価額」
- 2行目(金属含有価額):同一HS・原産国、数量0、価額=金属含有価額、HS第99類で50%課税
算定例
洗濯機(申告価額500ドル、うち鋼含有価額100ドル、アルミ含有価額20ドル)の場合:
- 鋼部分:100ドル × 50% = 50ドル
- アルミ部分:20ドル × 50% = 10ドル
- 232関税合計:60ドル
中国原産品で301関税対象の場合、さらに25%が併課される可能性があります。
4. 重複関税の取扱い
232関税 vs 301関税(対中)
累積適用されます。中国原産で232対象品の場合、232(50%)+ 301(25%)が併課される可能性があります。
232関税 vs IEEPA(相互関税)
232に関わる金属部分にはIEEPAは重複適用されませんが、非金属部分にはIEEPAが課される場合があります。
その他の特則
- ロシア関連アルミニウム:232とは別に200%の特則が存続
- デューティードローバック不可、FTZは原則「特恵外国品扱い」が必要
5. 企業の実務対応チェックリスト
A. 分類・原産・含有価額の把握
- HTS分類の見直し:新規派生指定品目(家電、トレーラー、空缶・ビール等)について社内マスターを更新
- 金属含有価額の算定体制整備:BOM・コスト表から鋼・アルミ含有価額を抽出できる仕組みの構築
- 原産性証明の取得:
- 鉄鋼:Melt & Pour(溶解・鋳造)国の証明
- アルミニウム:Smelt & Cast(製錬・鋳造)国の証明
- メキシコ経由品は2024年7月以降の厳格化に注意
B. 課税最適化戦略
- 調達先の見直し:英国原産品は25%(他国50%)の優遇税率を活用
- 米国内素材の活用:米国でMelt & Pour/Smelt & Castされた素材は0%免除の可能性
- 設計変更の検討:鋼・アルミ以外素材への置換、金属使用量削減による含有価額の圧縮
- 複数関税の影響分析:232 + 301 + AD/CVDの総負担試算
C. 契約・申請対応
- 価格条項の見直し:サプライ・販売契約に「232/301変動条項」を追加
- インクルージョン申請の活用(国内生産者向け):年3回の申請機会を活用した競合品の追加指定
- 社内統制の強化:HTS・原産・含有価額・証憑の監査体制整備
6. 実際の企業事例
American Trailer Manufacturers Coalition
Great Dane、Stoughton、Strick、Wabashなどの米国トレーラーメーカー連合が2025年5月にBISへ派生指定追加を申請し、8月18日にドライバン・リーファートレーラーが派生製品として採用されました。
Whirlpool(米国家電メーカー)
家電の派生指定追加(6月23日)に対し、「金属含有価額課税」や重複関税整理を踏まえた支持表明を行い、国産比率の高さを背景に価格公平化効果を主張しています。
Ball Corporation(アルミ缶メーカー)
2025年の関税環境下でも、調達・ヘッジ・価格見直しにより影響は限定的としており、財務・契約面での対応による影響平準化の好例となっています。
7. 今後の注意点
制度面のポイント
- 232税率は原則50%(英国25%)、2025年6月4日以降適用
- 課税ベースは金属の「含有価額」のみで、2行計上が必要
- 派生品範囲は今後もインクルージョン制度により拡大予定
- 301関税(対中)とは累積適用される
企業の優先対応事項
- HTS分類の再確認
- 含有価額算定体制の整備
- Melt & Pour/Smelt & Cast証憑の取得
- 契約価格条項の見直し
- 対中国301関税重複の影響分析
- (国内生産者の場合)インクルージョン制度の活用検討
この新制度により、米国への鉄鋼・アルミニウム関連製品の輸出入には従来以上に精緻な管理と戦略的対応が求められています。企業は早急に社内体制を整備し、適切な対応策を講じることが重要です。
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