WCOデータモデル4.2.0が示す「原産地情報の世界標準化」


エグゼクティブサマリー

**WCOデータモデル4.2.0(2025年7月公表)**は、原産地証明書(CO)および自己申告に関するデータ項目・フォーマットを”世界標準”として明示した初の本格バージョンです。このアップデートにより、今後の「電子原産地証明・自己申告・税関間データ連携」の”型”がほぼ確定したといえます。aduananews+2

2025年7月に公表されたバージョン4.2.0では、「Customs Bonds(通関担保)」と「Certificates of Origin(原産地証明書)」という2つの新しい標準データセットが追加されました。特に原産地証明書データセットは、WCO原産地規則技術委員会(TCRO)が作成した原産地データ集をベースに標準化されており、各国が電子原産地証明(eCO)を発行・交換するための”共通フォーマット”を提供します。customstrade+2

さらに2025年10月、WCOは**「原産地証明相互接続フレームワーク(Interconnectivity Framework for Certificates of Origin)」**を公表し、税関同士がeCOデータをやり取りする際の法的枠組み・ビジネスプロセス・技術仕様を整理しました。フレームワークでは、「交換されるデータ要素・構造・メッセージ形式の標準として最新のWCOデータモデルを使用する」ことが明記されています。ddcustomslaw+1

要するに、「原産地情報(CO/自己申告)の”中身のデータ”を、WCOデータモデルという共通ルールで統一する」という流れが、公式に動き出したということです。企業サイドには、今後、原産地証明書・原産地申告のデータ項目の”共通化”と、ERP/通関システム/FTA管理システムとの”シームレス連携”を前提とした見直しが求められます。wcoomd+1

WCOデータモデルとは

概要

WCOデータモデル(WCO Data Model, WCO DM)は、通関や関連手続きでやり取りされるデータ要素を標準化した「共通辞書+設計図」です。対象は、輸出入申告、トランジット、許認可、電子インボイス、原産地証明など、”国境をまたぐ手続きのデータ”ほぼ一式をカバーします。バージョン4系列では、JSONやOpen APIなど最新の電子メッセージ形式との親和性が高められており、シングルウィンドウや各種プラットフォームと連携しやすい構造になっています。etradeforall+1

原産地情報に焦点を当てた背景

WCOは2023年に**「原産地証明書のデジタル化に関する研究(Study on the Digitalization of the Certificate of Origin)」**を公表しました。この研究は、84税関を対象とした調査から、紙と電子が混在し、eCOやデータ交換の仕組みも国ごとにバラバラという現状を明らかにしました。そこで、原産地証明プロセス自体をデジタル化し、国ごとにバラバラなデータ構造を共通化することを、デジタル通商・貿易円滑化の重点テーマに据えています。wcoomd+1

4.2.0における原産地情報標準化の進展

原産地証明書情報パッケージの追加

WCO DM 4.2.0の最大トピックの一つが、**原産地証明書データセット(Certificate of Origin Information Package)**の組み込みです。このパッケージは、原産地規則技術委員会(TCRO)が整理したCO用データセットを基礎としています。各国当局が発行する電子原産地証明(eCO)について、証明書番号、発給機関、発給日、輸出者・輸入者情報、品目情報(HS、品名、数量、価格など)、原産地国、原産地基準(CTC/RVC/WO等)、FTA名・適用条項などを共通のデータ項目&コード体系で表現できるように設計されています。aduananews+2

これにより、「国Aが発行したeCOデータを、国Bの税関がそのままシステムに取り込める」という”機械可読な世界標準”を目指しています。ddcustomslaw+1

相互接続フレームワークとの連動

2025年10月の**「原産地証明相互接続フレームワーク(Interconnectivity Framework for Certificates of Origin)」**が、このデータモデルを”実戦投入”するための設計図になっています。mag.wcoomd+1

主な内容は以下の通りです:mag.wcoomd+1

法的枠組み:税関間でCOデータをやり取りするための合意・法的根拠を整備します。ddcustomslaw

ビジネスプロセスモデル:多くの国が既に採用している「Pushモデル」を標準と位置付けています。Pushモデルでは、輸出国でCO発給後、そのデータを輸出当局が輸入国税関に”先送り”し、輸入国は輸入申告時に即座に真偽確認・照合が可能になります。mag.wcoomd

データセットと技術仕様:COデータ交換のためのデータ要素セットとして、WCOデータモデルに基づく「Derived Information Package(DIP)」を策定しました。交換されるデータ要素・データ構造・電子メッセージ形式の標準として、最新バージョンのWCOデータモデルを用いることが明記されています。ddcustomslaw+1

自己申告への拡張:付属書では、半自動Pullモデルおよび原産地自己申告(Self-Declaration of Origin)にも適用できるビジネスモデルを提示しており、将来的には自己申告データも同じWCO DMベースで標準化される方向が示されています。wcoomd+1

企業への具体的インパクト

「様式」から「データ」へのシフト

これまでは、FTAごとに異なるCO様式(紙/PDF)や、各国・各商社が独自フォーマットの原産地申告書を使用するといった”フォーマットの多様性”が前提でした。今後は、**「どの様式か」よりも「どんなデータ要素を、どのコード体系で持っているか」**が問われます。mag.wcoomd+3

例えば、OriginCriterion=”WO” / “CTH” / “RVC40″などのコード化、FTAや協定番号をコードで表現、原産地国コード(ISOコード)とHS Version(2002/2007/2012/2017/2022…)の明示などが求められます。企業は、ERPの品目マスタ、FTA原産地管理システム、通関システムの間で、同じ”原産地データ要素”を一貫して管理する体制が必要になります。wcoomd+2

税関向けと取引先向けデータの統合

WCO DMはもともと通関・当局向けのデータ標準ですが、今回CO・自己申告データがそこに乗ることで、税関に送る原産地データと取引先(顧客・サプライヤー)とやり取りする原産地証明・自己申告データのギャップが小さくなります。結果として、サプライヤー原産地証明のフォーマットも、将来的にはWCO DMにかなり似通ったデータ項目構成になる可能性が高くなります。wcoomd+1

システム統合・API連携の容易化

WCO DM v4系列は、JSONやOpen APIを前提とした実装を意識して設計されており、複数国税関・複数プラットフォームとのAPI連携をしやすくする構造になっています。通関業者やプラットフォームが「WCO DM 4.2.0準拠のeCO API」を提供すれば、それを前提にシステムを組むことでマルチ国対応の”共通インターフェース”になり得ます。FTA管理ツール・社内HS/原産地判定ツールも、WCO DMのCO/原産地関連要素を内部データモデルに取り込んでおけば、将来の当局連携やプラットフォーム接続がスムーズになります。wiki-datamodel.wcoomd+2

コンプライアンス・監査の高度化

Pushモデル+標準データにより、輸出時点のCO情報がそのまま輸入国税関システムに記録されるため、紙ベースに比べ、事後検認・監査での照合・追跡が格段に容易になります。企業にとっては、「税関に提出した情報」と「社内原産地管理台帳」の不一致が、データレベルですぐ露呈する可能性が高まります。逆に言えば、最初から同じデータモデルで一貫管理しておけば、監査時に非常に有利です。mag.wcoomd+1

日本企業が今からできる準備

短期(〜1年):情報収集とギャップ把握

自社の原産地データ項目を棚卸しし、COフォーム、サプライヤー原産地証明、自己申告書、ERPマスタ項目を一覧化します。WCO DM 4.2.0のCO関連項目とのマッピングを行い、「どの項目が足りないか/表現の仕方が違うか」を把握しておくことが重要です。また、RCEP、日EU EPA、CPTPP、ATIGA e-Form Dなど、主要FTAの電子CO/自己申告の動向をチェックし、既に電子プラットフォームがある枠組みでは、今後WCO DMとの整合がテーマになり得ることを認識しておきます。wcoomd+2

中期(1〜3年):システムと業務プロセスの整備

ERP・原産地管理システムの”原産地データモデル”を再設計し、最低限、HSコード+バージョン(HS2022など)、原産地国コード(ISO)、原産地基準(CTH/RVC/WO等)のコード化、適用FTA・条文番号、関連CO番号・発給機関などを構造化データとして管理する方向へ移行します。通関業者/ソフトウェアベンダーに、「今後WCO DM 4.2.0(特にCOパッケージ)に対応する予定はあるか」をヒアリングし、サプライヤーへの要求仕様も見直します。サプライヤー原産地証明を、将来的にWCO DM準拠のデータ要素に近づけることを想定し、フォーマットや入力項目の”将来像”を共有しておくことが望ましいです。ddcustomslaw+2

長期(3年〜):税関・国際プラットフォームとの直接連携

各国税関・地域プラットフォームが、WCO Interconnectivity Frameworkに沿ってeCOデータ交換を進めると、民間企業にも、原産地情報をAPI経由で送受信し、当局側のCOデータを自社システムに自動取込みするといったビジネスモデルが現実味を帯びてきます。その際、社内データがWCO DMベースで整理されている企業ほど、連携コストが低く有利です。mag.wcoomd+1

留意点

採用は各国の判断であり、スピードは国ごとに異なります。WCO DM 4.2.0はあくまで「標準」の提供であり、実際にいつ・どこまで採用するかは各税関の判断です。既に運用中の国・地域のeCOシステム(例:ASEAN ASW、EUの各種システムなど)が、どのタイミングでWCO DM 4.2.0と整合を取るかは今後の議論となります。wcoomd+3

自己申告の標準化はこれから本格化します。フレームワークにはSelf-Declaration of Originも含まれていますが、各FTAの法制度側の変更(様式改訂や条文修正)が伴うため、時間を要する可能性があります。wcoomd+1

企業にとっては「早く動きすぎるリスク」と「出遅れリスク」のバランスが重要ですが、“データとしての原産地情報を構造化・一貫管理する”という方向性は確実なので、社内のマスタ整備・項目の標準化だけ先行して進めておくのは合理的です。wcoomd+1

まとめ

WCO DM 4.2.0は、「原産地情報の世界共通のデータ仕様書」を提示したアップデートです。これにより、原産地証明・自己申告・税関間情報交換の”デジタル土台”が統一方向に動き始めたといえます。日本企業としては、原産地情報を「紙フォーム」ではなく「標準データ項目」として設計し直し、ERP・原産地管理・通関システムを”同じ原産地データモデル”でつなぐという中長期のデータ戦略が重要になります。customstrade+4

  1. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/july/world-customs-organization-releases-data-mode.aspx?p=1
  2. https://aduananews.com/en/la-oma-lanza-la-version-4-2-0-de-su-modelo-de-datos-y-avanza-en-la-digitalizacion-de-los-procesos-aduaneros/
  3. http://www.ddcustomslaw.com/index.php?option=com_content&view=article&id=1050%3Awco-unveils-digital-framework-for-sharing-certificates-of-origin&catid=1%3Aultime&Itemid=50&lang=en
  4. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2023/december/embracing-digital-evolution-wco-unveils-a-study-on-the-digitalization-of-the-certificate-of-origin.aspx
  5. https://mag.wcoomd.org/magazine/wco-news-105-issue-3-2024/interconnectivity-framework-co/
  6. https://customstrade.asia/wco-releases-updated-data-model-for-more-harmonized-customs-procedures/
  7. https://etradeforall.org/news/release-version-4-wco-data-model
  8. https://wiki-datamodel.wcoomd.org/electronic-message/open-api-guidelines
  9. https://mag.wcoomd.org/magazine/wco-news-103/lomd-publie-une-etude-sur-la-numerisation-du-certificat-dorigine/
  10. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/facilitation/ressources/permanent-technical-committee/243-244/pc0749eae1.pdf
  11. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/july.aspx
  12. https://www.facebook.com/WCOOMD/posts/-advancing-the-digitalization-of-customs-processes-wco-releases-data-model-versi/1167321625436238/
  13. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/july/world-customs-organization-releases-data-mode.aspx?stf=1
  14. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/october.aspx
  15. https://www.wcoomd.org/en/wco-working-bodies/tarif_and_trade/technical_committee_on_rules_of_origin.aspx
  16. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/origin/instruments-and-tools/origin-certification/study-on-the-digitalization-of-the-certificate-of-origin-en.pdf
  17. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/facilitation/ressources/permanent-technical-committee/243-244/pc0750eae1.pdf
  18. https://www.vatupdate.com/2023/12/14/embracing-digital-evolution-wco-unveils-study-on-the-digitalization-of-the-certificate-of-origin/
  19. https://customsbridge.ai/the-digital-revolution-of-customs-certificate-of-origin/