エグゼクティブ・サマリー
メキシコ政府は2025年9月9日、中国などメキシコとFTAのない国から輸入される完成車の関税を、現行約20%から最大50%に引き上げる方針を議会に提出しました。これは2026年経済パッケージに含まれる大規模な関税改定案の一部です。whitecase+1
対象国は中国だけでなく、韓国、インド、インドネシア、ロシア、タイ、トルコなど、メキシコとFTAを結んでいない主要自動車輸出国全般に及びます。reuters
対象品目は完成車(乗用車・貨物車)が最大50%、自動車部品や鉄鋼・繊維なども10〜50%の幅で関税引上げが提案されており、対象品目は1,463〜1,500超のHSコード、輸入額ベースで約520億ドル(全輸入の約8.6%)に及びます。mex.news.o-abroad+2
重要な点として、本措置はMFN(最恵国)関税のみが対象であり、USMCA(米国・カナダ)、日墨EPA、EU–メキシコ協定などFTA/EPA経由の輸入には適用されません。whitecase
現状(2025年11月時点)では、本提案は議会審議中であり、承認が遅れる可能性も指摘されています。ただし与党連合が上下両院で多数を握っているため、可決される可能性は高く、承認されれば2026年初に発効し、2026年12月31日までの「時限措置」として実施される見込みです。insightplus.bakermckenzie+2
日本企業への影響は、中国など非FTA国からメキシコ向けに輸出している完成車・部品ビジネスには強い逆風となる一方、日本・EU・米加産の車両・部品の相対的競争力向上、およびメキシコ現地生産・調達の追い風という、攻守両面のインパクトが想定されます。blogs.tradlinx+1
政策の概要
法的枠組みと位置づけ
2025年9月9日、メキシコ政府は「2026年経済パッケージ」を議会(下院)に提出し、その中で「一般輸入税・輸出税法(LIGIE)」改正のための立法措置を提案しました。insightplus.bakermckenzie+1
この提案は、メキシコのWTO約束税率(バウンドレート)の範囲内で、MFN輸入関税を最大50%まで大幅引上げする内容であり、主な対象産業に自動車・鉄鋼・繊維・プラスチック・玩具等が含まれます。whitecase
従来の措置との違いとして、2024年に実施された関税引上げは大統領令(政令)による時限的なものでしたが、今回は議会承認を経ることで法的安定性を高め、訴訟リスクを低減する意図があります。whitecase
完成車に対する最大50%関税
複数の報道と法務解説によれば、完成車に関するポイントは以下の通りです。
対象品目(例示)
- HS第87類のうち、乗用車・レーシングカー(8703)、貨物用自動車(8704)などの完成車が、新たに「50%」のMFN税率に引き上げられるカテゴリーに含まれます。blogs.tradlinx+1
現行との比較
- 中国など非FTA国からの完成車:現行 約20% → 最大50% に引上げ。reuters
対象国(代表例)
- 中国、韓国、インド、インドネシア、ロシア、タイ、トルコなど、いずれもメキシコとFTA/EPAを締結していないため、MFN税率が適用される国です。reuters
適用期間とスケジュール
議会審議状況: 2025年11月時点では、承認が遅れる可能性も指摘されています。一部報道では、2025年12月15日の通常会期終了前に採決される可能性があるとされていますが、確定していません。mex.news.o-abroad+1
発効時期: 議会承認・官報(DOF)公布後、早ければ2026年1月1日に発効する見込みです。insightplus.bakermckenzie+1
適用期間: 提案では2026年12月31日までの時限措置とされていますが、延長の可能性も排除されていません。whitecase
政治的背景: 与党連合が議会で多数を占めていることから、基本方針は維持されたまま可決される可能性が高いと見られています。insightplus.bakermckenzie+1
背景:なぜメキシコは「50%」という高関税に踏み切るのか
中国製自動車の急増と価格懸念
中国は近年、メキシコ向け自動車輸出で最大の供給国となっており、2024年には約44.5万台を輸出したとされています。メキシコ市場における中国ブランドのシェアは、統計により9.5%~30%と幅がありますが、廉価EV・低価格車を中心に短期間で急伸していることは共通しています。reuters
メキシコ経済相マルセロ・エブラルド氏は、「中国車などが参照価格を下回る水準で流入しており、個別のアンチダンピング調査では追いつかないため、関税そのものを引き上げる」と説明し、国内産業を守るための「防御策」であると強調しています。wsws+1
また、メキシコの対中貿易赤字は2024年に1,200億ドルに達し、過去10年で倍増しており、2025年前半だけで570億ドルを超えています。wsws+1
米国の圧力とUSMCA 2026年見直し
米国は、中国製EVや完成車が「メキシコ経由で米国市場に流入すること」を強く警戒しています。reuters
米シンクタンクCSISのマリアナ・カンペロ氏は、「米国は、中国がメキシコを経由してUSMCAを”裏口”として使うことを認めないだろう」とコメントしており、メキシコの今回の措置は「USMCA 2026年レビューを前に、米国との関係を良好に保つための『対米配慮』」と分析されています。reuters
USMCA見直しの時期: メキシコ経済省によれば、USMCAの正式な見直しは2025年10月に開始され、2026年7月1日に完了予定とされています。wyche
同時に、トランプ前大統領は2025年7月にメキシコ産品に対して30%の関税を課す可能性を示唆しており、メキシコとしては「米側の追加関税を避けつつ、国内自動車産業と雇用を守る」という難しいバランスを取ろうとしていると言えます。wyche
Plan Méxicoと国内産業保護
メキシコ政府は2025年初から、「Plan México」の下で、既に約500品目(主に鉄鋼・アルミ・一部自動車部品)に5〜25%の追加関税を導入済みであり、2026年パッケージはその延長線上に位置付けられています。whitecase
政府説明では、過度な輸入依存により「国内の重要な生産部門が失われ、外部ショックへの脆弱性が高まった」こと、近年の「ニアショアリング」潮流を踏まえ、国内付加価値とローカルコンテンツを引き上げたいという意図が明記されています。whitecase
エブラルド経済相は、今回の措置により約32.5万人の産業・製造業雇用を保護できると試算しています。reuters
関税の具体像:どの国の、どの車に効いてくるのか
対象となる完成車・部品のイメージ(HSベース)
完成車(CBU)
- HS 8703:乗用車・ステーションワゴン・レーシングカー
- HS 8704:貨物用自動車
- → MFN税率:50%blogs.tradlinx+1
自動車部品(例示)
- HS 8708:車両の部分品・付属品
- 一部のプラスチック部品(HS39類)、アルミ部品(HS76類)など
- → 10〜50%のレンジで個別に設定whitecase
その他主要産業
- 鉄鋼・アルミ:約35%
- 繊維・衣類:10〜50%
- 玩具・二輪車:約35%reuters+1
注意点: 最終的な税率は、政令の条文(HS6〜8桁レベル)で確定するため、各社は自社製品のHSコードベースで個別確認が必須です。whitecase
対象国:FTAあり/なしで明確に線引き
関税引上げの対象
- 中国、韓国、インド、インドネシア、ロシア、タイ、トルコなど、メキシコとFTAを締結していない国。reuters
関税引上げの対象外(FTA/EPAにより優遇)
- 米国・カナダ:USMCA
- 日本:日墨EPA
- EU諸国:EU–メキシコ・グローバル協定whitecase
重要な注意点: これらの国からの輸出であっても、原産地規則(RoO)を満たさない車両・部品は「非原産品」とみなされ、50%関税の対象になり得ます。whitecase
影響分析:誰が損をし、誰が得をするのか
メキシコ自動車市場・価格への影響
政府試算では、今回の関税引上げパッケージ全体で、対象輸入は520億ドル(全輸入の約8.6%)、平均MFN税率は16.1% → 33.8%に上昇する可能性が指摘されています。reuters
短期的には、中国車などの値上がり前の「駆け込み輸入・販売」が起こり、一時的にシェアがさらに伸びる可能性があります。blogs.tradlinx
中長期的には、低価格帯を中心に値上がりし、メキシコ国内生産車(メキシコ・米・日・欧ブランド)の価格競争力が相対的に高まると見込まれています。blogs.tradlinx
中国・その他非FTA国OEM/サプライヤーへの影響
中国側は本措置に強く反発し、「外部からの圧力や様々な口実による制限に断固反対する」と表明し、必要に応じて「対抗措置も検討」としています。reuters
自動車セクターでは、車両:20% → 50%、部品:現行 → 最大50%への関税引上げが想定されており、中国製完成車・部品をメキシコ向けに輸出するビジネスモデルは大きな見直しを迫られます。blogs.tradlinx+1
BYD・Cheryなど既にメキシコ工場計画を発表していた企業は、「メキシコで現地生産し、USMCAを通じて北米市場にアクセスする」戦略を加速するか、逆に計画を見直すかの分岐点に立たされています。blogs.tradlinx
日本・EU・米加の完成車メーカーへの影響
FTA/EPAを持つ日本・EU・米加の完成車メーカーは、関税面で直接のマイナス影響を受けない一方、中国など非FTA国の車両が50%関税を負うことで、相対的な価格競争力が大きく改善します。blogs.tradlinx+1
ただし、以下のようなケースは注意が必要です:
- 日本メーカーが中国工場からメキシコへ完成車を輸出している場合 → その車両は中国原産扱いとなり、50%関税の対象になるリスクwhitecase
- 日墨EPAを利用しているが、原産地基準をギリギリで満たしているモデル → 中国・韓国等非FTA国の部品比率が高い場合、将来の原産地検証でリスクが高まるwhitecase
- EUメーカーが中国製EVを自社ブランドで輸入・販売している場合 → 影響を受ける可能性whitecase
北米サプライチェーン全体への波及
メキシコはUSMCAの下で米国向け自動車輸出の重要生産拠点であり、今回の措置は、「中国製車両・部品 → メキシコ → 米国」の回廊を抑制する方向に働きます。blogs.tradlinx+1
結果として、北米3カ国の間で「より閉じたブロック経済圏」が強まり、非FTA国からの参入ハードルが上がる一方、日本・EUなど既存FTAパートナーは、北米サプライチェーンへの組み込みを深める好機ともなり得ます。blogs.tradlinx+1
日本企業へのインプリケーションとチェックポイント
日本の完成車メーカー
日本→メキシコ向け輸出/メキシコ現地生産ともに、大枠では「プラス要素」が多いものの、以下の点を要チェックです。
輸出ルート別の影響整理
- 日本工場 → メキシコ(原産地要件を満たし日墨EPA利用) → 関税引上げの直接影響なしwhitecase
- 中国工場 → メキシコ(日本ブランドだが中国製) → 中国原産として50%関税の対象となる可能性whitecase
- メキシコ工場 → 米国・カナダ(USMCA利用) → 中国製部品・バッテリー比率が高いと、将来の原産地検証や米国側の追加措置のリスクwhitecase
価格・商品ポートフォリオ戦略
- 中国・韓国ブランドが撤退・値上げした価格帯を、メキシコ現地生産の小型車・コンパクトSUV・エントリーEVで取りに行く余地blogs.tradlinx
- 逆に、自社が中国生産に依存しているエントリーモデルは、生産拠点の移管(日本/メキシコ/他FTA国)を検討する必要whitecase
日本の自動車部品・素材メーカー
中国や非FTA国からメキシコへ輸出している案件
- 日系企業であっても、輸出国が中国・インド・ASEAN(非FTA)であれば50%関税の対象になり得ますwhitecase
- まずは「HSコード × 原産国 × メキシコ向け売上」一覧を作成し、影響額を試算することが重要ですwhitecase
メキシコ現地生産・調達の機会
- 中国など非FTA国製の部品が高関税となることで、メキシコ現地生産、あるいは日本・米・EUからのFTAベース調達へのシフトが起こる可能性が高いblogs.tradlinx+1
- 日本のTier1・Tier2にとって、メキシコ増産・新規拠点設立の投資案件が増える可能性がありますblogs.tradlinx
商社・物流・金融機関
商社・物流
- 2025年末〜2026年初にかけて、中国・韓国・インドなどからの「駆け込み輸出」対応(在庫・港湾・通関キャパ)が必要blogs.tradlinx
- その後は、物流量の減少と貨物構成の変化(CBU→CKD/SKD・部品)に備えたネットワーク再設計が課題blogs.tradlinx
金融機関
- 中国企業・メキシコ企業向けの既存融資のリスク評価(事業計画の前提価格・数量の見直し)whitecase
- 日本企業によるメキシコでのM&A・JV案件(部品・物流・販売網)の増加に備えたサポート体制構築blogs.tradlinx
今後のシナリオと実務上のアクション
シナリオ(2025〜2027年)
ベースラインシナリオ
- 2025年末までに議会承認 → 2026年初に発効 → 2026年末まで50%関税を含む高関税が継続insightplus.bakermckenzie+1
延長・強化シナリオ
- 2026年末の段階で、メキシコ政府が関税の延長(2027年以降)あるいはより選択的な制度(特定国・特定品目に継続)を導入する可能性whitecase
遅延・緩和シナリオ
- 議会承認が遅れ、2026年の発効が遅れる可能性mex.news.o-abroad
- 中国との関係悪化やWTOでの問題化を避けるため、政治的なディールにより税率引下げや適用除外が検討される可能性もゼロではありませんreuters
日本企業が今取るべき具体的アクション(チェックリスト)
自社影響の定量把握
- 「製品別HSコード × 原産国 × メキシコ向け売上」を一覧化
- 現行20% vs 50%での粗利・販売価格へのインパクト試算whitecase
原産地戦略の見直し
- 日墨EPA・USMCA・EU–メキシコ協定などを活用した原産地基準(RoO)の再確認・構成変更
- 中国・非FTA国からの調達比率が高い場合、サプライチェーンの再設計を検討whitecase
価格・契約条件の見直し
- メキシコ向け長期契約について、関税変動条項(tax/tariff adjustment clause)の有無と、価格改定の交渉余地を確認whitecase
現地情報の継続的モニタリング
- メキシコ官報(DOF)、経済省・財務省の発表、業界団体(AMIA、AMDA など)のコメントを継続フォローmex.news.o-abroad+1
メキシコ現地パートナーとの連携強化
- 通関業者・現地法律事務所と連携し、実際のHSコード・適用税率・通関実務への影響を早期にキャッチアップwhitecase
まとめ
今回のメキシコの50%関税方針は、単なる「中国たたき」にとどまらず、以下を意味します:wsws+2
- 非FTA国に対するMFN関税の大幅引上げ
- USMCAを軸にした北米ブロック化の加速
- ニアショアリング/ローカルコンテンツ重視への明確なシフト
- メキシコの対中貿易赤字削減と国内雇用保護
日本企業にとっては、中国・非FTA国拠点からのメキシコ向け輸出ビジネスには大きな再設計が必要である一方、日本・メキシコ・米国・EUとのFTAネットワークを活かした「良いポジション」を取るチャンスでもあります。blogs.tradlinx+1
まずは、自社のメキシコ向けビジネスをHSコード・原産国単位で棚卸しし、「どこで50%関税リスクを負っているのか」「どこで相対的優位を取れるのか」を可視化することが、実務的な第一歩と言えます。whitecase
- https://www.whitecase.com/insight-alert/mexico-proposes-significant-customs-and-tariff-reforms-part-2026-economic-package
- https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-raise-tariffs-cars-china-50-major-overhaul-2025-09-10/
- https://mex.news.o-abroad.com/~/economy/178543-en-mexico-doubts-over-tariff-reform-approval-70-billion-peso-revenue-expected.html
- https://insightplus.bakermckenzie.com/bm/international-commercial-trade/mexico-initiative-to-reform-the-customs-law-and-the-tariff-of-the-general-import-and-export-tariffs-law
- https://blogs.tradlinx.com/mexico-eyes-50-auto-tariffs-on-china-what-it-means-for-lsps-shippers/
- https://www.wsws.org/en/articles/2025/09/22/oyqn-s22.html
- https://wyche.com/the-evolving-tariff-landscape/
- https://www.congress.gov/bill/119th-congress/house-bill/5926/text/ih?overview=closed&format=xml
- https://www.csis.org/analysis/usmca-review-2026
- https://mexicobusiness.news/trade-and-investment/news/mexico-prepares-2026-tariff-reform-amid-global-uncertainty
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