1. AGOAの現状と最新動向
AGOAとは
「9月末失効」は、米国の対サブサハラ・アフリカ無税特恵制度「AGOA(African Growth and Opportunity Act、アフリカ成長機会法)」を指します。現行法の失効期限は2025年9月30日で、米税関国境警備局(CBP)の公式ページにも「直近の再授権期限は2025年9月30日まで」と明記されています。
延長の見通し
2025年9月30日時点で、議会による延長法案は成立していません。ただし、米政権は1年間の延長を支持する方針を示しており、超党派の支持もあるものの、成立時期は不透明です。一方で、ホワイトハウスの対応が遅いとする報道も出ています。
追加関税措置の影響
2025年4月以降、米国は自動車および部品に追加25%の関税を課すなど、広範な関税措置を実施しています。このため、AGOAによる特恵が残っていても、追加関税によって実質的な優遇効果が相殺される状況が生じています(特に南アフリカの自動車輸出)。関連する大統領布告および省庁ガイダンスは既に公表されています。
2. AGOA適格国(2025年時点)
米通商代表部(USTR)の公式リスト(2025年版)に基づく適格国は以下の32か国です(※ルワンダは「衣料特恵が2018年7月31日より停止中」との注記あり)。
適格国一覧(アルファベット順)
アンゴラ、ベナン、ボツワナ、カーボベルデ、チャド、コモロ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチ、エスワティニ、ガンビア、ガーナ、ギニアビサウ、ケニア、レソト、リベリア、マダガスカル、マラウイ、モーリタニア、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ(衣料特恵停止中)、サントメ・プリンシペ、セネガル、シエラレオネ、南アフリカ、タンザニア、トーゴ、ザンビア
参考
ブルキナファソ、エチオピア、ウガンダ等は2025年時点で非適格となっています。適格国リストは毎年見直されます。
3. 打撃が想定される国と産業
AGOA制度下での**非石油製品輸入の主力は「自動車(完成車)」と「アパレル」**です。2023年の主な内訳は、自動車が19億ドル、アパレルが11億ドルでした。アパレルの主要供給国はケニア、マダガスカル、レソト、非石油製品全体では南アフリカが最大です。その他、加工カカオ製品(ガーナ、コートジボワール)、柑橘類(南アフリカ)、フェロアロイ、銅関連製品(ザンビア等)も主要品目です。
以下、AGOA失効(無税特恵の消滅)と米国の追加関税措置が重なることで打撃が大きいと想定される国と産業を影響度の高い順に示します。
南アフリカ:自動車(完成車・部品)、柑橘類
- 根拠:南アフリカは非石油製品で最大のAGOA輸出国であり、完成車が輸出の柱です。2024年の南アフリカ自動車輸出はAGOA貿易の64%を占めるとの業界統計があります。2025年7月以降、米国の追加25%関税が発動され、対米車両輸出が急減しています。AGOA失効により、乗用車はMFN(最恵国待遇)税率2.5%(小型トラックは25%)に戻り、さらに追加25%が上乗せされる複合的なショックを受けます。
ケニア:アパレル(輸出加工区の縫製中心)
- 根拠:AGOA制度下のケニアはアパレルが輸出の約9割を占めます。2024年のアパレル対米輸出は**過去最高(約606億ケニアシリング)**を記録しました。失効により、**HS分類61/62(衣料)のMFN税率は概ね16〜32%となり、2025年夏の実効平均税率は26.4%**まで上昇するとの分析があります。また、第三国生地規定の停止も大きな痛手となります。
レソト:アパレル
- 根拠:レソトはAGOAを梃子に米国向け縫製輸出を中核産業としており、2024年の輸出額は2億3,730万ドルでした。2025年春の米国追加関税で既に打撃を受けており、AGOA失効によりさらに悪化し、雇用(約3万人規模と報道)に直撃すると予想されます。
マダガスカル:アパレル
- 根拠:AGOA制度下の**アパレル産業が最大の雇用源(直接・間接で40万人超)**となっています。失効により衣料関税が急上昇し、第三国生地規定の停止が大きなボトルネックとなります。
モーリシャス/エスワティニ:アパレル
- 根拠:両国ともAGOA制度下で縫製産業を拡大してきました。米国国際貿易委員会(USITC)や各国プロファイルにおいて、対米衣料輸出が主力とされています。失効により関税が復活します。
ガーナ/コートジボワール:加工カカオ製品
- 根拠:カカオパウダー、カカオペースト等がAGOA制度下の主要非石油製品です。失効により、これら加工品のMFN税率(品目により数%)が復活し、付加価値化のインセンティブが弱まります。
ザンビア/コンゴ民主共和国:銅および関連製品
- 根拠:銅および銅製品が主要輸出品目です。失効によりMFN税率に復帰し、利益率が縮小します。
ナミビア:牛肉ほか(影響は限定的)
- 根拠:牛肉の対米輸出は解禁されましたが、実績は少量にとどまっています。失効の影響は相対的に小さいと見られます。
注記
エチオピア等は既に非適格となっているため、今回の失効による追加的な打撃は限定的です(ただし、既にAGOA停止により繊維縫製産業が縮小した経緯があります)。
4. 実務上の重要ポイント(チェックリスト)
関税率の上昇
- 衣料品:MFN税率は16〜32%帯です。2025年は米国の追加措置も加わり、**実効平均税率が26.4%**まで上昇するとの分析があります。価格転嫁のリスクが大きくなります。
- 自動車:MFN税率は**乗用車2.5%、小型トラック25%**が基本です。**2025年4月以降は追加25%**が上乗せされ(乗用車で合計27.5%、トラックで合計50%相当)、大きな負担増となります。
第三国生地規定(Third-Country Fabric)
32か国中少なくとも21か国が適用対象で、AGOA失効と同時にこの規定が無効化されます。アフリカ域外(中国、トルコ等)の生地を使用した縫製品が原産地要件を満たせなくなります。
割当(アパレルSME)とビザ/通関手続き
2024年10月1日〜2025年9月30日のアパレル割当(約17億5,800万SME)は本日で終了します。HS分類9819でのAGOA主張やビザ番号の提示は失効後は不可となり、以降は通常(MFN)分類で申告する必要があります。
「輸送中」貨物の扱い
原則として、米国への輸入・申告時点で制度適用の可否が判定されます。延長法が遡及適用を明記しない限り、自動的に特恵が復活することはありません。AGOAでは遡及適用の前例がありますが(2004年の改正時)、都度、法律とCBP通達次第です。最新の**CBP CSMS(税関自動化システム)**や連邦官報、実務アラートを必ず確認してください。
代替オプション/今後の制度
- 短期延長:政権は1年間の延長を支持との報道がありますが、成立時期や遡及適用の有無は不透明です。
- 二国間交渉:ケニアは年内に米国との包括的合意を目指すと発言しており、AGOA失効の橋渡しとなる可能性があります。
- GSP(一般特恵制度):長期失効中であり、復活しても衣料品は原則として対象外のため、AGOAの代替にはなりません。
- サプライチェーンの再設計:EU/英国向けのEPAやGSP、アフリカ域内のAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)への販路転換を検討する必要があります。