EUにおけるFTA原産地証明のためのサプライヤー証明(SD)実務ガイド

YouTubeでの簡易説明あります。

EU域内でFTA(自由貿易協定)を利用する際、輸出産品の原産性を裏付ける**サプライヤー証明(Supplier’s Declaration; SD)**について、企業のご担当者向けに実務目線で解説します。

【最重要ポイント】

本ガイドで扱うサプライヤー証明(SD)は、輸入国で特恵関税を主張する際に税関へ提出する「証拠書類」そのものではありません。
SDは、輸出者が原産地に関する申告(Statement on origin; SoO)やEUR.1/EUR‑MED等の原産地証拠を作成するための裏付け書類です。SD自体は輸入時の証拠にはならない点を必ず押さえてください。 Taxation and Customs Union+1


1. サプライヤー証明(SD)とは

目的:サプライヤーが納入する原材料・部品または完成品の特恵原産性の有無等を、買手(多くはEU内の輸出者)に書面で宣言する仕組み。輸出者はこの情報を根拠にSoOやEUR.1等の原産地証拠を整備します。 Taxation and Customs Union

法的根拠UCC実施規則(Implementing Regulation (EU) 2015/2447)
附属書22‑15〜22‑18に各様式(単発/長期、原産あり/なし)が規定されています。 EUR-Lex


2. SDの種類と使い分け(実務早見表)

様式種別典型用途有効期間主な記載事項(抜粋)実務ポイント
22‑15単発・原産性あり単発納入の原産材料・製品の裏付け出荷単位原産地(通常“EU”)、適用FTA、累積相手国(該当時)SoOやEUR.1の裏付けに使用。フォームに**「累積相手国」**欄あり。 Revenue
22‑16長期(LTSD)・原産性あり同一品の継続取引で毎回のSD発行を省力化開始日から最長24か月(開始日は発行日の12か月前6か月後の範囲で設定可)22‑15の項目+発行日/開始日/終了日(3日付)期間中に原産性が変わったら直ちに通知義務。上限は開始日基準Taxation and Customs Union
22‑17単発・原産性なしEU内で加工済だが原産化前の半製品を次工程に渡す出荷単位非原産材料の品目説明・HS見出し・価額/実施加工の内容 など後工程での追加加工により原産化の可否を判断可能に。 wko.at
22‑18長期・原産性なし上記22‑17の継続取引版22‑16の期間ルールに準拠22‑17の項目+発行日/開始日/終了日受入側の原産化設計に不可欠な内訳を漏れなく。 Fera

備考(共通):SDはEU域内での授受が基本ですが、協定によってはクロスボーダーSD(非原産/原産)に対応する規定もあります。詳細は各協定のプロトコルをご確認ください。 Taxation and Customs Union


3. 作成・管理の重要ポイント

3.1 累積(Cumulation)の明示

PEM等で対角累積を使う場合、SDに累積相手国を明記します(フォームに「Cumulation applied with …」欄)。 wko.at

3.2 署名・電子化

原則は手書き署名ですが、

  • SDとインボイスが電子作成され電子的に認証される場合、または
  • サプライヤーが包括的な書面誓約を与えている場合、
    署名の省略が可能です。 EU Trade

3.3 保存期間(実務推奨)

  • EU-日本EPA:輸出者はSoOと裏付け記録を最低4年間保存。SD発行側も同等以上を推奨。 Taxation and Customs Union
  • EU-韓国FTA5年間EU Trade
    (社内規程として5〜7年保管を推奨)

3.4 検証とINF4

税関はINF4(情報証明書)により、SDの真実性・正確性の確認を求めることがあります。輸出者がINF4を提示できない場合、輸出国税関に直接照会されることもあります。 Taxation and Customs Union


4. EU-日本EPAにおける特有の留意点

  • 原産地証拠の方式:第三者発行ではなく、輸出者の自己申告(SoO)または輸入者の知識が基礎。 Taxation and Customs Union
  • REX登録:EU側輸出者は、1貨物6,000ユーロ超REX登録が必要(SoOにREX番号を記載)。 Taxation and Customs Union
  • SoOの有効期間発行日から12か月同一品の複数出荷を1通でカバーする包括用SoOも、最長12か月で、発行日・開始日・終了日の3日付を記載(終了日は発行日から12か月を超えない)。 EU Trade+1
  • 原産性基準の記載:SoOには**原産性基準(Origin criteria used)の表示が必要。実務ではA(WO)/B(PE)/C(PSR:C1=CTC, C2=RVC, C3=SP)/D(累積)/E(寛容)**等のコードで記載します。 Japan Customs+1

5. 実務フロー(SDの取得から原産地証拠まで)

  1. 協定とPSRの確定:対象FTA・最終製品のHSを確定し、累積の可否も確認。
  2. BOM分析:原産判定に影響の大きい材料を特定。
  3. SDの取得
     ・原産材料22‑15/22‑16(相手FTA名・累積の有無を明示)
     ・EU内加工の非原産材料22‑17/22‑18非原産材料のHS見出し・価額や加工内容) wko.at
  4. 日付管理(LTSD):発行日/開始日/終了日を管理し、開始日から24か月の上限を厳守。 Taxation and Customs Union
  5. 原産性の最終判断と書類作成:SDと生産実績で原産性を裏付け、SoOまたはEUR.1等の原産地証拠を整備。 Taxation and Customs Union
  6. 保存・検証対応:関連書類を保存し、要求があればINF4等で説明可能な状態に。 Taxation and Customs Union

6. 記載項目チェックリスト

  • 供給者(サプライヤー)の名称・住所
  • 買手の名称(必要に応じて)
  • 対象商品の明確な情報(品名、型番など)
  • 適用するFTAの正式名称
  • 原産地(例:「European Union」)
  • 累積の相手国(該当時) wko.at
  • 原産性基準(協定が要求する場合。EU-日本EPAのSoOはOrigin criteria usedの記載必須) Japan Customs
  • 非原産材料の情報(22‑17/18:HS見出し・価額 等) wko.at
  • 発行日/開始日/終了日(LTSD)と署名(または電子認証の条件確認) Taxation and Customs Union+1

7. よくある間違いと対策

❌ 避けるべき間違い✅ 推奨される対策
SDを輸入申告の直接の証拠として提出SDは社内・社間の裏付け。輸出時はSoOEUR.1等の原産地証拠を整備。 Taxation and Customs Union+1
FTA名を曖昧に記載(例:「EUの特恵」)**「EU‑Japan EPA」**のように正式名称で。
LTSDの期間を「発行日から24か月」と誤解上限は開始日から24か月。開始日は発行日の12か月前〜6か月後で設定。 Taxation and Customs Union
累積相手国の記載漏れPEM等で累積利用時は必須項目としてチェック。 wko.at

8. 実務運用のベストプラクティス

  • 「1協定=1枚」運用:同一品でも輸出先が変われば協定ごとにLTSDを分けて取得(混在回避)。
  • 更新管理の自動化:LTSDの終了2〜3か月前に更新アラート(Excel/ERP)。
  • サプライヤーへの依頼文例(LTSD, EU‑Japan EPA)

件名:長期サプライヤー証明(LTSD)発行のお願い(EU‑Japan EPA)
本文:
貴社より継続購入中の下記製品につき、UCC実施規則 附属書22‑16相当の長期サプライヤー証明の発行をお願い申し上げます。
対象製品:[製品名/型番]
開始日:2025/10/01 終了日:2027/09/30発行日は御社記入。※開始日から最長24か月の範囲でご設定ください)
併せて、累積の有無と相手国、必要に応じ原産性根拠の併記をお願いします。

※期間上限は開始日基準で、開始日は発行日の12か月前〜6か月後の範囲内で設定可能です。 Taxation and Customs Union


9. 今後の展望と留意

EUは原産地関連手続のデジタル化を継続的に進めています。最新運用は欧州委員会(TAXUD)ガイダンスAccess2Marketsで必ず確認してください(法令が優先)。 Taxation and Customs Union

本ガイドは公開情報に基づく一般的解説です。実務適用時は、最新の協定本文・実施規則・各国カスタムガイダンスをご確認ください。

簡単な商品の原産地証明は意外と難しい

簡単な商品の原産地証明は意外と厄介です。

特に部分品の証明の場合、部分品の部分品は基本的にHSコードが同じです。

CTCが使えません。

そうなると余り使いたくないVAを使わざるを得ません。

部分品ですから、それほどのマージンを取れていない場合、VAでも証明ができない。

そうなると材料である部分品の部分品を作っている企業にサプライヤ証明をお願いしなければならなくなります。

その企業がFTA(EPA)に知識があればいいのですが、そうではないケースが多いため時間と手間がかかります。

昨日、そのような場面に遭遇しました。

対策は考えていました。

顧客の甚大なる支援もあり、なんとお願いした当日に証明内容の確実な「サプライヤ証明」を捺印付きで取得できました。

そのついでに、原産判定を日本商工会議所に依頼。

なんとスムーズだったことか。

第35回GEFセミナーのビデオをYouTubeにて公開しました

第35回GEFセミナーのビデオをYouTubeにて公開しました。

セミナー概要は以下の通りです。

★ 日時 ★
 2020年8月27日(木) 14:00~17:00

★ テーマ ★
本当は怖いサプライヤ証明 ―その課題と解決方法―

★ 講演★
サプライヤ証明の課題と解決方法
  ・株式会社ロジスティック 代表取締役社長 嶋 正和

小池産業が提案するサプライヤ証明の解決方法
  ・小池産業株式会社 FTA・貿易管理チーム 寺澤 篤之

YouTubeでは以下のサイトにビデオがあります。

https://www.youtube.com/watch?v=ev67bIYoMHk&feature=youtu.be

FTAにおけるサプライヤ証明の証明品質を確実にするには

現在のお客様で、FTAのサプライヤ証明に対して、当方のアドバイスを汲み、迅速に対応している企業があります。

サプライヤ証明は、自社の証明品質の一部を他社に委ねてしまうもので、その企業が確からしい証明をしているかどうか正直測りかねる、厄介なものです。

納入される商品の品質は、検査することで確認できますが、サプライヤ証明は、その証明書を信じるか、証拠書類も提出させ、品質の自社管理におくかどうかという施策になりがちです。

ロジスティックとしては、以下の流れで対応しています。

  • 自社商品の証明パターンを最初に整理する
  • サプライヤ証明が必要でないような、またはできる限り少ないサプライヤ証明に出来ないかを考える
  • 該当するサプライヤを絞る。サプライヤの経営陣に
  • サプライヤ証明での原産地規則はCTCとし、VAを使わない
  • 自社でサプライヤ証明の証拠書類を作成し、サプライヤにその妥当性を検証してもらう。サプライヤに手間をかけさせない(かけさせる方が証明品質が不確実となる)
  • 問題なければ、証拠書類に捺印(サイン)をしてもらう

今のお客様はたまたま、サプライヤ協力会の会合があったため、上記の整理をした上で、

  • 協力会の会長に事前にサプライヤ証明の必要性とそのアプローチ方法を説明し、納得を得る
  • お客様の社長から、協力会でFTAに対する企業アプローチとサプライヤ証明に対する取り組み、協力の依頼をしてもらう

というプロセスを踏むことが出来ました。納得性を双方に作り出すことができ、サプライヤ証明の証明品質もまず問題なくなると思います。

FTAでの成功はやはり、経営者とサプライヤの理解が重要であることを再確認でき、うれしく思います。

 

サプライヤ証明:お願いする側の課題

最近のFTAに関するコンサルティングが多いのは「サプライヤ証明」をどうするかというものです。

サプライヤ証明は原産地証明の必要な部品の原産性を証明してもらうもので、ここが崩れると自社の証明も正しいものでなくなるので、大事な部分です。

昨今はサプライヤにFTAの原産地証明について対応してもらうための説明会を開き、証拠書類の作り方を説明する会社も増えています。

ただ、本当にそれで十分なのか、理解が足りているのか。

現実は、「サプライヤのFTA理解が不十分」というのが現状だと思います。

先日訪問した会社では、サプライヤ説明会の参集通知が来た場合、営業が参加するそうです。話を聞いて、それを本社に丸投げしてくるとのこと。参加した営業の価値は何だったのでしょうかね。

私がサプライヤ説明会を支援する場合は、必ず、「営業の参加があってもいいが、本社の担当者を呼ぶように」とアドバイスしています。ですが、半分以上の会社でそれを守って頂けませんね。

ケーススタディを用いたワークショップを行ったところで、効果もかなり限定的です。

説明会、ワークショップが限定的であれば、どうすればいいか。

現在、試行錯誤中ですが、方向性が見えてきた気がします。

どうすべきかは、またお話しするとしましょう。

ただ言えるのは、現在の状況ではサプライヤに依存した部分のある証明だと、問題を内包したままだと言うことです。

FTA原産地証明におけるリスクとその減らし方

最近、サプライヤ証明のリスクを感じることが多くあります。

依頼する側の認識不足は問題でありますが、サプライヤ証明を行うサプライヤの証明品質に依存するのはリスクが多くあることを痛感します。

FTAへの認識も広がっているとはいえ、残念ながらサプライヤが正しい認識をしているかと言えば、まだまだの状況だと言わざるを得ません。

証明書に捺印をするだけでいい、証拠はいらないという姿勢のサプライヤも少なくないのです。

このサプライヤ証明以外にも、証明上のリスクがいくつか存在します。日EU、TPP11と広がり、今後RCEP、アメリカがやってくると、証明業務量が飛躍的に増えるでしょう。それ以外にも検認数も増えてくるでしょうから、FTAの担当者は休まる暇がありません。海外間FTAの本社対応も仕事になると想像されます。

この環境下で実施すべきは、証明をいかに効率的にかつリスクを減らすかを考えることが肝心だと思い、コンサルティングのメインテーマにしています。特にサプライヤ証明の数を減らすこと、そして、実施する会社とは十分な情報共有を行うことが肝心ですね。