面倒なことを言いますが、知っておかねばならないことです
多くのビジネスマンにとって、HSコードは
「フォワーダー(通関業者)が教えてくれる番号」
「インボイスにとりあえず書いてある数字」
くらいの認識かもしれません。
しかし、税関の専門家(品目分類官・通関専門官など)が行っているHSコード付番は、
**国際条約と法令に基づく「法律解釈の作業」**です。
つまり、
「似た商品だからこの番号でいいだろう」ではなく、
条文とルールから論理的に導く
のが、税関専門家の付番です。当社のHSCFはこの「条文とルールから論理的に導く」に基づいています。
1. 税関専門家が使う「公式ルール」と「資料」
まず、専門家が何を根拠に分類しているのかを整理します。
1-1. HS条約とHS品目表(国際共通部分)
税関専門家が最初に立ち返るのは、HS条約(商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約)と、その附属書であるHS品目表です。Customs Japan+1
HS品目表は、
- 部(Section):大きなグループ(21部)
- 類(Chapter):2桁(第1類〜第97類)
- 項(Heading):4桁
- 号(Subheading):6桁
から構成され、
すべての国が共通して使うのは6桁までというルールになっています。Customs Japan+2World Customs Organization+2
1-2. 解釈の基本ルール:「HSの解釈に関する通則(General Rules)」
HS品目表には、「この品目表をどう解釈するか」を定めた**6つの通則(General Rules for the Interpretation of the HS, GRI 1〜6)**が付いています。World Customs Organization+2WCO Trade Tools+2
ざっくり言うと:
- 通則1:
見出し(Heading)の文言と、関連する部・類の注に従って分類する。
部や類のタイトルは「参考」であり、法的根拠ではない。 - 通則2:
(a)未完成品・未組立品の扱い
(b)混合物・合成品の扱い - 通則3:
2つ以上の見出しに該当しそうな場合の決定ルール
(より具体的なもの優先・本質的特性・番号順など) - 通則4:
1〜3で決まらない場合、「最も類似する」見出しに分類 - 通則5:
特殊な容器・包装の扱い - 通則6:
号(6桁)のレベルでの分類ルール(通則1〜5を準用)
税関専門家は、必ずこの順番で適用を検討するのが原則です。Wikipedia+1
1-3. 部注・類注・号注(Section Notes, Chapter Notes, Subheading Notes)
各部・類・号には、それぞれ**「注(Notes)」**が付いています。Customs Japan+2Customs Japan+2
例えば:
- 「この類には〇〇は含まない」
- 「この号には△△のうち、□□のもののみを含む」
- 「部品は特定の条件を満たす場合に限り、この章に含める」
など、分類の“地雷ポイント”が細かく規定されており、
実務ではこの注を読み飛ばすことはありません。
1-4. WCO解説(Explanatory Notes)と分類意見(Classification Opinions)
国際的な解釈の統一のため、WCOは以下の資料を公表しています。World Customs Organization+2World Customs Organization+2
- Explanatory Notes(解説注)
→ HSの公式解釈として位置づけられる詳細解説(全5巻) - Classification Opinions(分類意見)
→ 具体的な商品の分類例を示した国際的な「判例集」のようなもの
税関専門家は、国内法令だけでなく、これらの国際的資料も参照しながら解釈の整合性を図ります。Customs Japan+1
1-5. 各国の「実行関税率表」「解説」「分類例規」
日本であれば、HS品目表をベースにした 「実行関税率表」 や
**「関税率表解説」「分類例規(分類事例集)」**があり、
そこに国内での分類基準・事例がまとめられています。Customs Japan+2Customs Japan+2
税関専門家は、これらを総合的に読み合わせて、
**「通則 → 注 → 解説 → 事例」**の順で精度を上げていきます。
2. 税関専門家の分類プロセス:実務でのステップ
では、専門家は実際にどのような手順でHSコードを決めているのか。
典型的なプロセスを「実務の流れ」として説明します。
ステップ1:貨物の実態把握(Technical Fact Finding)
まずは、貨物の実態を徹底的に把握します。JETRO
ここで集める情報は:
- 何に使うものか(用途・機能)
- どのように動くか(原理・構造・電気式かどうか)
- 材質(プラスチック、金属、繊維、木材、化学品の成分など)
- 完成品か・未完成品か・部分品(部品)か
- 単体か、セット品(工具セット、食器セットなど)か
- サイズ・重量などの物理的性状
- 技術資料(仕様書、図面、MSDS、安全データシート、カタログ など)
税関専門家は、この段階で
「どう見てもこれは〇〇類だろう」
と感覚で決めるのではなく、
「条文に当てはめるために必要な事実は何か」
という視点で情報を集めます。
ステップ2:類・項の候補を絞り込む(通則1の入り口)
次に、大まかな類・項の候補をピックアップします。
ここではあくまで「候補」です。
この時点では確定させず、複数の可能性を並行して検討します。
ステップ3:通則1+部注・類注で「項(4桁)」を決める
本格的な分類作業は、通則1から始まります。World Customs Organization+2WCO Trade Tools+2
タイトルではなく、「見出しの文言」と「部注・類注」を根拠にする
という原則に従い、候補の項ごとに:
- 見出し文言と貨物の実態が一致しているか
- 関連する部注・類注で「除外」されていないか
- 部分品の扱い(機械類の部品など)が特別に規定されていないか
を、条文レベルで検討します。
この段階で、
- 明らかに文言に合致しない項は候補から外し、
- まだ複数の項が残る場合は、通則2・3の出番です。
ステップ4:未完成品・セット・混合物などの特殊ケース(通則2・3)
貨物が以下のような場合、通則2・3の適用を慎重に検討します。Kanzei+3Wikipedia+3WCO Trade Tools+3
■ 通則2(a):未完成品・未組立品
例えば、
- 部品がばらばらの状態で一括輸入される「ノックダウン輸入」
- 組立前だが、本質的機能がほぼ完成している機械
などは、完成品として分類される場合があります。
専門家は、
- それで本質的機能を果たせるか
- 容易に完成状態にできるか
といった条件を条文・解説で確認し、
「完成品扱い」か「部品扱い」かを判断します。
■ 通則2(b):混合物・合成品
化学品や混合物・複合材料の製品の場合、
- 複数の物質・材料が混ざっている
- どの材質がメインか判断が難しい
といったケースがあります。この場合、
通則2(b)と通則3のルールを組み合わせて、適切な項を選びます。
■ 通則3:複数の項に属しそうな場合
例えば、
- 2つ以上の項で「それなりに当てはまりそう」な複合品
- 電子機器+機械+外装などがセットになった商品
- ギフトセット、工具セット、食器セット など
この場合、通則3は概ね次の順で判断します。
- 3(a):より具体的に該当する項を優先
- 3(b):本質的特性(essential character)を与える部分で判断
- 3(c):それでも決まらないときは、番号の一番後ろの項
税関専門家は、「何となくそれっぽい方」ではなく、
などの客観的要素を検討して、
どの構成要素が本質的特性を与えているかを論理的に説明できるようにします。
ステップ5:通則4・5で「例外的な」ケースに備える
稀に、通則1〜3のどれにも明確には当てはまらないケースがあります。
- 新技術の商品で、既存のどの見出しにもぴったり合わない
- 非常に特殊な用途で、従来例がない
この場合は、通則4により「最も類似する」商品に分類します。
また、通則5では、特定の容器や包装(例:専用ケース等)の扱いを定めています。WCO Trade Tools+2customs.gov.bz+2
ステップ6:通則6で「号(6桁)」を決める
項(4桁)が決まったら、
その項の中でどの号(6桁)に属するかを、通則6で判断します。World Customs Organization+2WCO Trade Tools+2
- 同じレベルの号同士だけを比較する
- 見出しと号注、必要に応じて部注・類注も参照
- 再び通則1〜5を準用する(mutatis mutandis)
ここでも、条文・注と貨物の事実関係を照合するという基本姿勢は変わりません。
3. グレーな案件への対応:事例・事前教示・国際調整
実務では、条文だけでは判断が難しい「グレーゾーン」の案件も多く存在します。
3-1. 国内の解説・分類事例の活用
日本では、
などに、具体的な貨物の分類事例が整理されています。Customs Japan+1
税関専門家は、これらを**国内の「先例」**として参照し、
同様の事案では同じ結論になるように配慮します。
3-2. WCOのClassification Opinions・Explanatory Notes
国際的に問題となった案件は、WCOのHS委員会で審議され、
- Explanatory Notesの改訂
- Classification Opinionsの採択
などが行われます。World Customs Organization+2World Customs Organization+2
各国税関はこれを尊重し、自国の分類運用に反映させることで、
国際的な整合性を確保しています。
3-3. 事前教示制度・裁判例
事業者が自らの貨物について事前に税関に照会する
**「事前教示制度」**の回答も、実務上重要な参考資料です。JETRO+1
また、分類をめぐる争いが訴訟になった場合には、
裁判所の判断(判例)も、その後の運用に影響します。
4. 税関専門家が重視する「記録」と「一貫性」
正しい付番は、**根拠が説明できて初めて「正しい」**と言えます。
4-1. 分類理由書・記録の作成
税関専門家は、重要な案件について
- 適用した通則(GRI)
- 参照した部注・類注・号注
- 参照した解説・事例
- 事実認定(貨物の構造、材質、用途など)
を整理した分類理由書や記録を残します。
これにより、
- 後で同じ貨物を扱う際に同じ結論にできる
- 他国税関・他部門からの問い合わせに説明できる
- 監査・紛争時に一貫した立場を示せる
というメリットがあります。
4-2. HS改正へのフォロー
HSはおおむね5年ごとに改正されており、
直近では2022年版が発効しています。World Customs Organization+1
税関専門家や企業の分類担当者は、
- 自社の主要品目が改正の影響を受けていないか
- 見出しや注の文言変更により分類根拠が変わっていないか
を定期的に見直し、分類のアップデートを行います。
5. ビジネスマンが押さえるべきポイントと、専門家との付き合い方
ここまで読むと、
「そんなレベルで考えているなら、自分でHSコードを決めるのは無理では?」
と感じるかもしれません。
結論としては、
- 税関専門家と同じレベルで付番する必要はない
- しかし、どういう考え方・ルールで決まるのかを知っておくことは非常に重要
です。
5-1. ビジネスマンとして最低限押さえたいこと
- HSコードは国際条約と通則に基づく法的分類であること
- 「似た商品」「メーカーが言っているコード」だけでは不十分であること
- 商品の実態(用途・機能・材質・構造)を正確に伝えることが、自社を守ること
- EPA・FTA、規制品目、原産地規則など、多くの制度がHSコードを基準に動いていること Customs Japan+2World Customs Organization+2
5-2. 専門家に相談するときに喜ばれる情報
税関専門家や通関業者に相談するときは、次の情報をセットで出すと精度が上がります。
- 製品カタログ・仕様書(できれば英語版含む)
- 材質構成(%表示があるとなお良い)
- 使用用途(どのような機械に組み込むのか等)
- 過去に他国で適用されたHSコード(ある場合)
- 参考にしたい事前教示や分類例規があればその番号
こうした情報が揃っていれば、
「どの通則をどう適用するか」
を専門家が説明しやすくなり、
結果としてビジネス側も納得感の高い結論を得られます。
5-3. 「丸投げ」から「協働」へ
HSコードを
から、
- 「社内で説明責任を持つべき法的情報であり、
専門家と協働して決めるべきもの」
と位置づけ直すことが、
グローバルビジネスにおけるリスク管理・コスト管理の第一歩です。
まとめ
税関の専門家が行う正しいHSコード付番は、
- HS条約・通則・注という法的枠組みを前提に
- 貨物の実態を正確に把握し
- 通則1〜6を順番に適用しながら
- Explanatory Notesや分類事例を参照して
- 根拠を説明できる形で結論を出す
という、論理的かつ重い作業です。
ビジネスマンとしては、
- 「どのようなルールに基づいて番号が決まるのか」
- 「自社の商品情報をどう整理して専門家に渡すべきか」
を理解しておくだけで、
見積もり・価格戦略・契約・コンプライアンスの質が確実に変わります。