中国の静かなる貿易障壁。化学品・新材料のHSコード細分化が突きつける「その他」分類の終焉


2026年2月、中国税関総署(GACC)は、輸出入管理の強化を目的として、特定の化学品および新材料に関するHSコード(統計品目番号)の細分化を実施する方針を打ち出しました。

多くの日本企業にとって、中国との化学品貿易はビジネスの生命線です。今回の措置は、単なる事務的なコード変更ではありません。それは、中国政府が戦略物資のフローをより高解像度で監視し始めたことを意味します。

本記事では、HSコードの専門家の視点から、この細分化の背景にある中国の意図と、実務担当者が直面するリスク、そしてとるべき対策について解説します。

「その他」という隠れ蓑が通用しなくなる

まず、今回の措置の技術的な側面を解説します。

貿易実務において、既存の分類に当てはまらない新しい化学物質や複合材料は、便宜上「その他のもの(Others)」と呼ばれるバスケットカテゴリー(末尾が90などのコード)に分類して申告することが一般的でした。企業にとっては、厳密な成分特定を避けられる便利な分類先でもありました。

しかし、中国当局は今回の細分化により、このバスケットカテゴリーを解体しようとしています。

具体的には、これまで一括りにされていた品目に対し、成分の含有率や分子構造、あるいは用途に基づいて、新しい固有の10桁ないしは13桁のコード(CIQコード含む)を割り当てます。これにより、企業は「その他」で逃げることができず、自社製品がピンポイントでどのコードに該当するかを、化学的なエビデンスに基づいて特定し直さなければならなくなります。

輸出管理法との連動。狙いは戦略物資の把握

なぜ今、中国はこの面倒な細分化を行うのでしょうか。その最大の動機は、国家安全保障と産業競争力の維持です。

近年、半導体材料やバッテリー素材、高機能プラスチックなどの「新材料」は、軍事転用可能なデュアルユース品目としての側面を強めています。中国政府は、これらの物資が国内にどれだけ入ってきているか、あるいは国内から流出していないかを正確に把握したいと考えています。

従来の粗いHSコードでは、汎用の化学品と、高度な戦略物質が同じ番号でカウントされてしまい、実態が見えませんでした。コードを細分化し、特定物資に固有の番号を与えることで、税関のシステム上で自動的に監視フラグを立てることが可能になります。

つまり、今回の措置は、中国輸出管理法や両用物資輸出管理条例の実効性を高めるための、システム基盤の強化であると言えます。

実務現場で起きる通関トラブルのシナリオ

この変更に伴い、日本企業の現場では以下のようなトラブルが予測されます。

旧コードでの申告却下

ある日突然、これまで通りのHSコードで申告した貨物が、中国側の通関システムでエラーとなり、受け付けられなくなるケースです。「このコードは廃止されました、あるいはこの製品には適用できません」と通告され、新しいコードへの修正を求められますが、その場で化学的な証明ができなければ、貨物は港で足止め(デマレージ)となります。

ライセンス未取得の指摘

コードが細分化された結果、自社製品が新たに割り当てられたコードが、実は「輸出入ライセンス(許可証)」が必要な規制対象コードだった、という事態です。これまでは「その他」に紛れていたため不要とされていましたが、コードが特定されたことで規制の網に掛かり、無許可輸出入として摘発されるリスクが生じます。

日本企業が直ちに行うべき3つの対策

このリスクを回避するために、化学品や素材を扱うメーカー・商社は以下の対応を急ぐ必要があります。

現地通関業者への最新コードリスト確認

まずは、中国現地の通関ブローカーや現地法人を通じて、今回細分化の対象となった具体的な品目リスト(対照表)を入手してください。そして、自社が扱っている製品がその対象に含まれていないか、CAS番号(化学物質の登録番号)レベルで照合を行う必要があります。

CIQコード(13桁)までの精緻な特定

中国の通関固有のコードであるCIQコード(HSコード10桁の後ろに付く3桁の追加コード)の動向に注意してください。法規制の要件はこのCIQコードに紐付いています。単にHSコード(上6桁や8桁)が合っているかだけでなく、末尾のコードまで正確に特定できているかが、通関の成否を分けます。

成分表(SDS)と説明書のアップデート

税関から問い合わせがあった際、即座に成分構成を説明できるよう、SDS(安全データシート)や製造工程図を最新の状態に整備してください。特に、新しいコードの定義に合致することを証明するための「成分比率」の記載が不十分だと、判定不能として処理が遅延する原因になります。

まとめ

中国によるHSコードの細分化は、貿易の透明性を高めると同時に、企業に対して高度なコンプライアンス能力を要求するものです。

「たかが番号の変更」と甘く見ていると、物流停止という深刻な経営リスクを招きます。自社の化学品が、中国の新しい分類基準のどこに位置づけられるのか。専門的な知識を持って再点検を行うことが、2026年の中国ビジネスを守る第一歩となります。

南米の巨象が動いた日。ブラジルによる対中FTA予備交渉承認が告げる、欧米主導秩序の終焉

2026年2月2日、南米最大の経済大国ブラジルにおいて、世界経済のブロック化を決定づける極めて重要な政治判断が下されました。ブラジル政府の閣僚会議が、中国との自由貿易協定(FTA)締結に向けた予備交渉入りを正式に承認したのです。

これは、長年停滞していたメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの交渉に見切りをつけ、アジアの大国である中国との直接的な経済統合へとかじを切ったことを意味します。ブラジルが動いたことで、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイを含むメルコスール全体が、中国経済圏へと急速に雪崩れ込むシナリオが現実味を帯びてきました。

本記事では、この地政学的な大転換がなぜ今起きたのか、そして日本企業が南米市場で直面することになる過酷な競争環境について深掘り解説します。

25年の忍耐の末に選んだ、実利という名の決断

なぜブラジルは、長年のパートナーである欧米ではなく、中国を選んだのでしょうか。その背景には、EUとの交渉における深い失望と、中国が提示する実利的な魅力の対比があります。

四半世紀にわたり続けられてきたEUとのFTA交渉は、最終段階で環境保護や人権に関する追加要求(サイドレター)が突きつけられたことで、事実上の座礁に乗り上げました。ブラジル政府にとって、アマゾン開発への介入とも取れる欧米の姿勢は、主権侵害であり、経済成長を阻害する足かせと映りました。

対照的に、中国のアプローチは極めてシンプルです。政治や環境への注文はつけず、ブラジルの農産物や鉱物資源を安定的に購入し、見返りとしてインフラ投資と安価な工業製品を提供する。このビジネスライクな関係こそが、現在のブラジルが求めていたパートナーシップでした。今回の閣僚承認は、理念よりも国益を優先したブラジルの現実主義的な回答と言えます。

メルコスールの結束を維持するための対中シフト

これまでメルコスールには、加盟国が単独で域外の国とFTAを結ぶことを禁じるルールがありました。しかし、中国との早期FTAを望むウルグアイやパラグアイの突き上げにより、この結束は崩壊寸前でした。

ブラジルが今回、メルコスール全体としての対中交渉、あるいは中国との協定を容認する姿勢に転じたことは、組織の分裂を防ぐための苦肉の策でもあります。盟主であるブラジル自身が先頭に立って中国との交渉を進めることで、メルコスールの枠組みを維持しつつ、加盟国全体の総意として中国市場へのアクセス権を取りに行く戦略です。

日本企業に迫る関税格差の悪夢

このニュースは、ブラジル市場でビジネスを展開する日本企業、特に自動車メーカーや機械メーカーにとって、悪夢のようなシナリオの始まりを告げています。

ブラジルは現在、国内産業保護のために非常に高い関税障壁を設けています。例えば、完成車の輸入には35パーセントもの関税が課されています。日本企業は、この関税を回避するために現地工場に投資し、高いブラジルコストに耐えながら生産を続けてきました。

しかし、もし中国とのFTAが締結されれば、中国製の電気自動車(EV)や産業機械が、関税ゼロでブラジル市場に流入することになります。

現在でも価格競争力のある中国製品が、35パーセントのハンデを失い、無税で入ってくるとなれば、日本企業の現地生産車は価格面で太刀打ちできません。現地生産のメリットが消滅し、南米市場のシェアが一気に中国勢に塗り替えられるリスクがあります。

資源外交における中国の完全勝利

影響は工業製品の販売だけにとどまりません。ブラジルは鉄鉱石、大豆、そして次世代エネルギーに不可欠なレアメタルの宝庫です。

FTAの締結は、これらの戦略物資が優先的に中国へ供給されるパイプラインが完成することを意味します。日本や欧米が必要な資源を調達しようとした際、中国企業がすでに権益を押さえている、あるいは中国向けの輸出が最優先され、買い負けるという事態が常態化する恐れがあります。

まとめ

2026年2月2日のブラジルによる予備交渉承認は、南米が米国の裏庭でも欧州のパートナーでもなく、中国経済圏の一部となる未来を選択した歴史的な分岐点です。

日本企業は、南米市場を単なる新興国市場として見るのではなく、中国との直接対決の最前線として再認識する必要があります。関税障壁に守られていた時代は終わりました。圧倒的な価格競争力を持つ中国製品と、同じ土俵でどう戦うか、あるいはどう棲み分けるか。南米戦略の根本的な練り直しが求められています。

中国の両用品目および技術輸出入許可証管理目録2026年版とは何か

中国の両用品目および技術輸出入許可証管理目録2026年版は、中国との取引に関わる企業のコンプライアンスとリスク管理の前提条件となる重要な制度改定である。日本企業にとっては、単なる規制強化ではなく、ビジネス戦略を見直すシグナルと捉える必要がある。[facebook]​

2026年版で何が変わったのか

中国商務部と海関総署は、2025年12月末に以下三つの目録の2026年版を公表し、いずれも2026年1月1日から施行した。[facebook]​

公表された三つの目録

  • 両用品目および技術輸出入許可証管理目録 2026年版
  • 輸出許可証管理貨物目録 2026年版
  • 輸入許可証管理貨物目録 2026年版

両用品目および技術輸出入許可証管理目録については、2024年末時点の目録をベースに、一部の専用材料や関連設備、化学製品などが追加されている。輸出許可証管理貨物目録では金属およびその製品の一部が見直され、輸入許可証管理貨物目録では船舶関連の項目統合などが行われた。[facebook]​

この一連の改定は、個別の規制ではなく、中国の輸出管理と貿易管理を一体的に強化する流れの一部として位置付けられる。[facebook]​

両用品目目録の狙いと位置付け

両用品目とは、本来は民生用途向けでありながら、軍事や安全保障分野などにも転用可能な物品・技術を指す。中国では、輸出管理法や両用品目輸出管理関連法令に基づき、対象品目の輸出入を許可制で管理している。[facebook]​

目録改定の目的

商務部は2026年版について、主に次の二点を目的としていると説明している。[facebook]​

  • 企業に対し、関連品目の参考となる商品名称とHSコードを提示すること
  • 企業のコンプライアンス経営を促進すること

つまり、どの品目が規制対象になり得るかについて、企業が判断しやすいよう一定の情報を提供する役割を持つ。ただし、目録はあくまで参考情報と位置付けられており、HSコードや品名が一致していても、実際の用途や性能などを踏まえた当局判断によって規制対象となる場合がある点には注意が必要である。[facebook]​

許可証が必要になる具体的な場面

今回の改定では、両用品目目録と輸出・輸入許可証管理貨物目録との関係性が整理されており、実務対応のポイントが明確になっている。[facebook]​

輸出側の基本ルール

輸出に関しては次のような整理が示されている。[facebook]​

  • 輸出許可証管理貨物目録に掲載される貨物のうち、それが両用品目輸出管理リストに含まれる、または臨時管理の両用品目に該当する場合には、輸出企業は両用品目および技術輸出許可証を取得しなければならない
  • 既に輸出許可証を保有している場合でも、両用品目および技術輸出許可証を別途取得していないときは、輸出時点で両用品目および技術輸出許可証の取得が求められる
  • 一方で、両用品目および技術輸出許可証を取得していれば、輸出許可証の申請は免除される

実務上は、次の三点を順番に確認することが重要になる。[facebook]​

  1. 両用品目輸出管理リストまたは臨時管理対象に該当するか
  2. 輸出許可証管理貨物目録に掲載されているか
  3. どの許可証を取得しなければならないか

この関係を誤解すると、許可証の取り違えや取得漏れが発生し、違法輸出や貨物差し止めにつながるリスクがある。[facebook]​

日本企業のビジネスに与える影響

2026年版目録は、日本企業に対して少なくとも三つの大きな影響を与える。[facebook]​

審査負荷の増大と新たな規制対象

一部の専用材料や設備、化学製品が新たに目録に追加されたことで、従来は許可不要と認識されていた品目が許可制の対象となっている可能性がある。半導体関連材料、精密加工用設備、高機能化学品などを扱う企業は、自社品目が目録や関連リストに近接していないかを重点的に確認する必要がある。[facebook]​

中国拠点の輸出管理強化

中国子会社や合弁会社から第三国へ製品を輸出している場合、中国側の輸出管理法令に基づく許可取得義務が直接の論点となる。日本本社の輸出管理だけでは不十分であり、中国拠点が現地ルールをどこまで理解し、社内規程と日々のオペレーションに反映できているかが問われる。[facebook]​

サプライチェーンとリードタイムへの影響

輸入許可証管理貨物目録の見直しにより、中国から調達している金属・金属製品や船舶関連品目などについて、輸出許可取得に時間がかかるケースが増える可能性がある。結果として、リードタイムの長期化や在庫水準の見直しが必要となり、日本側の納期管理にも影響が及び得る。[facebook]​

企業が今すぐ取るべき実務対応

ビジネスパーソンの立場からは、次のステップで対応を進めることが現実的である。

ステップ1 自社品目と目録の照合

中国向け、または中国拠点からの輸出入がある製品について、最新版目録のHSコードと商品名称を照合する。特に専用材料、特定用途向け設備、化学品については、規制強化の対象となりやすいため重点的に確認すべきである。[facebook]​

ステップ2 プロセスと責任分担の整理

営業や調達の現場で、どの案件から事前審査が必要かをルール化し、文書として明確にする。中国子会社が関与する取引については、本社と現地のどちらが最終判断を行うか、責任分担をあらかじめ定めておく必要がある。[facebook]​

ステップ3 契約と納期リスクの織り込み

長期契約では、輸出入許可取得に伴う遅延リスクをどの当事者が負担するかを契約条項で明文化することが望ましい。新規案件では、許可取得プロセスを前提にした納期設定や在庫方針を検討し、余裕を持ったスケジュールにすることが重要になる。[facebook]​

ステップ4 他国の輸出管理との整合性確認

日本、米国、EUなど他国の輸出管理規制との重複や相違を把握し、対応に抜け漏れが生じないようにする。社内システム上では、制限品目フラグを一元的に管理し、中国向けの案件だけ別扱いにならないよう運用を統一することが望ましい。[facebook]​

経営レベルで意識すべきポイント

両用品目管理は、現場任せにできない経営課題でもある。経営層としては、次の論点を意識しておく必要がある。

中国ビジネスのリスクプロファイル

輸出入許可制度の強化は、手続き面の負担増だけでなく、規制範囲や運用が短期間で変化し得る不確実性の高さを意味する。製造、調達、販売のそれぞれについて、中国市場への依存度とリスク許容度を踏まえたシナリオを検討することが求められる。[facebook]​

パートナー企業のコンプライアンス水準

中国のサプライヤーや販売代理店が、輸出入管理のルールをどの程度理解し、社内統制として運用できているかによって、自社のリスクも変動する。取引先選定や定期的な監査において、輸出管理コンプライアンスを明確な評価項目として組み込む必要がある。[facebook]​

情報収集と社内教育の継続性

目録や関連法令は毎年のように改定が続いており、一度整備したルールやマニュアルも数年で実態と乖離する可能性がある。最新情報を継続的に収集し、それを社内規程と教育プログラムに反映させる体制づくりが重要である。[facebook]​

中国ビジネスにおいては、こうした規制を正しく理解し、前提条件として組み込める企業ほど、中長期的に優位に立ちやすい。輸出管理を単なる制約ではなく、参入障壁を乗り越えるための前提コストと捉える発想への転換が、今後ますます求められる。[facebook]​

中国が約900品目の輸入関税を引き下げ

935品目の暫定税率が示す、調達コストと対中ビジネスの再設計

(2026年1月1日施行、実務チェックリスト付き)

2026年1月1日から、中国は935品目について、WTO最恵国税率(MFN)より低い輸入暫定税率を適用します。根拠は、国務院関税税則委員会が公表した「2026年関税調整方案」で、公告日は2025年12月26日付として示されています。(mofcom.gov.cn)
ニュースで「約900品目」と表現されるのは、この935品目を丸めた言い方です。(gss.mof.gov.cn)


この記事の要点

・今回の引き下げは一律減税ではなく、935品目に絞った暫定税率の適用
・効果の大小は、品目該当判定と中国側税則の号列まで落とせるかで決まる
・税率だけでなく、税目や国内細分の定義見直しが同時に動く点が実務上の本丸
・一部品目では暫定税率を取りやめ、MFN税率へ戻す動きもある
・見積、契約条件、品目マスタ、通関根拠の更新をセットで進めるのが安全


1. 何が決まったのか

今回の政策は、2026年に限って(もしくは一定期間)特定品目の輸入コストを下げるために、MFNより低い税率を暫定的に設定するものです。対象は935品目で、関税割当(タリフクォータ)対象品目は含まれない、と整理されています。(gss.mof.gov.cn)
公表のタイミングは、公告日付(12月26日付)と、対外発表として報じられた日(12月29日)にズレが見えるため、社内資料では両方を併記しておくと監査や説明が楽になります。(mofcom.gov.cn)


2. 暫定税率とは

暫定税率は、MFNそのものを改定するのではなく、政策目的に沿って特定の品目に限定して、一定期間だけ低い税率を適用する運用です。目的としては、内外市場の資源の活用、ハイグレード財の供給拡大、産業高度化、グリーン転換、民生改善などが掲げられています。(中国政府网)


3. どの分野が狙い撃ちか

公式説明では、方向性は大きく3つにまとまります。

3-1. 先端分野の部材・素材

産業高度化や技術自立の文脈で、重要部品や先端材料の輸入関税を引き下げる、とされています。例として、プレス機用のCNC油圧クッションや特殊な複合接点帯などが挙げられています。(hunan.gov.cn)

3-2. グリーン分野と資源循環

資源循環や低炭素化を後押しする目的で、リチウムイオン電池向けの再生黒粉など、資源性商品の引き下げが例示されています。(Reuters)

3-3. 医療・民生

民生改善の観点で、人工血管、感染症の診断試薬キットなど医療関連も例として挙げられています。(Reuters)


4. 実務の本丸は「税率」より「コードと定義」

今回の関税調整方案は、暫定税率の設定に加えて、税目や国内細分の注釈の調整も含みます。調整後の国内細分(本国子目)は8972、注釈は201とされており、品目マスタや通関システム側の更新が不可避です。(gss.mof.gov.cn)
また、新興分野に対応する国内細分の追加も言及されています(例としてインテリジェント・バイオニックロボット、バイオ航空灯油など)。税率の話だけでなく、定義の置き換えが起きる可能性を前提に、分類根拠の整備が必要です。(gss.mof.gov.cn)


5. ビジネスへの効き方

5-1. 中国向け輸出企業

・顧客の輸入着地コストが下がり、採用確率が上がる可能性
・一方で「関税が下がった分、値引きできるのでは」という交渉が来やすい
・DDPなど輸出側が関税を負担する契約では、利益構造に直撃するため、見積の更新が必須

5-2. 中国現地法人・工場(輸入調達側)

・部材、原料、設備のコストが下がれば、調達先の選択が変わる
・対象外と誤認していた品目が対象だった場合、年度コストを取り戻せる余地がある
・逆に、対象だと思い込んでいたが対象外だった場合、予算と原価が崩れる


6. すぐに回す実務チェックリスト

ステップ1 中国側税則の号列まで落として「対象判定」

・日本側のHS6桁一致だけで判断しない
・2026年の暫定税率表(附表)で、該当する税番があるかを照合する
・照合の証跡として、該当箇所のPDF保存や社内台帳化まで行う
関税調整方案は附表(暫定税率表など)を含む形で公開されています。(mofcom.gov.cn)

ステップ2 関税割当(タリフクォータ)対象かを確認

935品目は「関税割当品目を除く」と整理されています。対象外の取り違いを防ぐため、品目が割当管理に入るかを先に潰します。(gss.mof.gov.cn)

ステップ3 協定税率との比較を必ず行う

暫定税率より協定税率の方が低い品目は普通に起こり得ます。中国は2026年も、複数の自由貿易協定などに基づく協定税率の適用を継続すると整理されています。(gss.mof.gov.cn)
ここは税率比較だけで終わらず、原産地要件と証明運用(自己申告か、証明書か、保存義務は何か)まで同時に点検するのが定石です。

ステップ4 契約条件と価格を更新する

・インコタームズで関税負担者を確定
・関税メリットをどこまで販売価格に反映するか、社内方針を決める
・値下げ交渉に備え、税率低下分と自社コスト要因を分解できる見積にする

ステップ5 品目マスタと通関根拠を更新する

税目や注釈の調整がある以上、前年踏襲はリスクです。品目マスタ、分類理由書、製品仕様情報、用途説明をセットで更新し、通関時に説明できる形に整えます。(gss.mof.gov.cn)

ステップ6 引き下げだけでなく「暫定税率の取りやめ」も確認

報道・解説では、暫定税率を取りやめMFN税率へ戻す品目がある点も示されています。コスト試算は引き下げ対象だけを見るのではなく、上がる側の品目も同時に棚卸しします。(hunan.gov.cn)


7. まとめ

今回の「約900品目の関税引き下げ」は、935品目に限定した暫定税率の適用で、効く企業には効き、効かない企業には効きません。差を分けるのは、次の2点です。(gss.mof.gov.cn)

・中国側税則の号列まで落とし込んだ対象判定ができるか
・税率改定と同時に、分類定義や品目マスタ更新まで一体で回せるか

最後に、公開情報を基にした一般解説であり、実際の適用は品目分類、輸入形態、原産地要件、証明の有無などで変わります。意思決定に使う場合は、必ず附表の税率表と該当税番で照合してください。(mofcom.gov.cn)


参考情報(一次情報中心)

・国務院関税税則委員会「2026年関税调整方案」(公告、附表含む)(mofcom.gov.cn)
・中国税関総署による解説(執行上の留意点)(中国 Customs)
・新華社および政府系発信による概要(935品目、狙いの整理)(Xinhua News)
・ロイターによる国際報道(対象例の補足)(Reuters)

台湾ECFA 8桁表の更新と中国側対応をどう読むか

(ビジネス実務者向け)

1. 何が起きたのか

台湾の税関当局は、ECFAのアーリーハーベスト(早期関税引き下げ)対象品目について、台湾側と中国大陸側の「8桁税番号の対照表」を継続的に更新しています。台湾の政府オープンデータでは、両方向(台湾→大陸、大陸→台湾)の8桁対照データセットが2025年12月1日に更新されたことが確認できます。(data.gov.tw)

同時に、中国側はECFAに基づく優遇関税を、段階的に一部停止する措置を実施しました。第一弾は12税目で2024年1月1日から、第二弾は134税目で2024年6月15日から適用とされています。(gss.mof.gov.cn)

この2つは一見別の話に見えますが、実務では密接に結びつきます。なぜなら、優遇も停止も「8桁の税目番号」で適用範囲が定義されるためです。コードの読み替えがずれると、優遇申請が通らないだけでなく、停止対象の判定を誤り、コスト見積や価格交渉まで狂います。

2. ECFAの「8桁表」とは何か

HSは国際的に6桁まで共通ですが、実際の関税運用は各国が8桁以上に細分化して運用します。ECFAのアーリーハーベストも、実務上は双方の8桁税番号で管理されます。

ここで難しいのが、同じ6桁でも8桁の切り方が双方で一致しないこと、さらにHS改正や各国の年次改訂で8桁が増減することです。台湾の税関当局が公開している対照表は、この「双方の8桁のずれ」を埋め、どの8桁がどの8桁に対応するかを明示するための道具です。台湾税関サイトでも、ECFAの対照表が年次で整理されていることが分かります(2026年版の対照表も掲示)。(web.customs.gov.tw)

3. 更新データから見える実務インパクト

今回確認できたオープンデータ(台湾税関当局)を集計すると、対照表は単なる一覧ではなく、相当な粒度の違いを吸収する設計になっていることが分かります。(data.gov.tw)

3.1 データ規模と、EX(部分品目)の多さ

  • 台湾→大陸の対照(データセット17061)は585行。台湾側8桁は314、相手側8桁は508と、1対1ではありません。
  • 大陸→台湾の対照(データセット17064)は1171行。大陸側8桁は671、相手側8桁は872です。
  • 行の約42.9%(台湾→大陸)と約47.3%(大陸→台湾)にEX(部分品目を示す扱い)が付いており、「同じ8桁でも全部が対象ではない」ケースが非常に多いことが読み取れます。

EXが多いということは、社内マスターに8桁だけ登録して終わりではなく、品名、用途、材質、規格などのスコープ定義を合わせて管理しないと、優遇の可否判断が揺れるという意味です。

3.2 どの分野が多いか(行数ベース)

行数ベースの概観では、台湾→大陸では第84類(機械類)と第29類(有機化学品)が目立ちます。大陸→台湾でも第84類が最大で、次いで第39類(プラスチック)、第87類(車両関係)が続きます。これは貿易金額ではなく「対照が必要な品目の複雑さ」を示す指標として見るのが安全です。(data.gov.tw)

3.3 8桁の読み替えが複雑になる典型パターンと具体例

対照表の価値が出るのは、次のような場面です。

  1. HS改正で、包括コードが個別コードに分割される
    冷媒など特定化学品で、従来の「その他」コードがHS2022で物質別に分割されたことが、備考欄で明示されています。例えば台湾側29033990(その他の無環炭化水素のフッ素化等誘導体)が、大陸側では29034100、29034200、29034300など多数の8桁に割れて対応します。これは、優遇適用の前提となる税目番号が、より細かい物質単位に移ったことを意味します。(data.gov.tw)
  2. 同じ機能でも、相手国では用途別に8桁が細分化される
    気体のろ過・浄化装置の領域では、台湾側84213920が、大陸側では静電除塵器、袋式除塵器、脱硫装置、脱硝装置など複数の8桁に対応し、EX扱いが付くケースが見られます(例:84213921、84213922、84213940など)。設備商社やプラント案件では、仕様の一語違いが税目番号と優遇可否を分けます。(data.gov.tw)
  3. 相手国の大括りコードが、自国では多数の8桁に分かれる
    プラスチック製品のように、大陸側39269010が、台湾側では電気絶縁用、反射材、医療用品など複数の8桁に割れて対応する例があります(例:39269012、39269016など)。同じ「その他」でも、相手国の明細が細かいほど、社内の品目マスターが追従できていないと誤判定が起こります。(data.gov.tw)

結論として、ECFAの優遇を使う企業ほど、6桁で止めた分類管理や、旧年版の8桁のまま運用することが、直接コストリスクになります。

4. 中国側対応の要点

4.1 ECFA優遇の一部停止は「段階的に、税目指定」で実施

中国側の公式発表では、税委会公告2023年第9号として、2024年1月1日から、丙烯や対二甲苯など12税目についてECFAの協定税率適用を中止するとしています。(gss.mof.gov.cn)

続いて税委会公告2024年第4号として、2024年6月15日から、潤滑油基礎油など134税目について協定税率の中止を追加しました。(gss.mof.gov.cn)

ここで重要なのは、これは「輸入禁止」ではなく、あくまでECFAの協定税率を外し、通常の規定に従うという建て付けである点です。したがって、企業の現場では、関税率差分の吸収(価格、粗利、契約条件、インコタームズの見直し)が主戦場になります。

4.2 台湾側の受け止めと、影響の見積

台湾経済部は、134品目停止後の税率が1〜12%になるとしつつ、2023年の当該製品の対中輸出が98億ドルで輸出全体の約2%、またECFA関連品目の対中輸出比率は2023年に3.6%まで低下していると説明しています。(ジェトロ)

台湾外務省は、2023年12月の停止措置について、選挙への介入を狙った経済的威圧だと位置づけています。(en.mofa.gov.tw)

一方で、制度面の前提として、中国側は台湾の貿易制限を問題視する調査を行ってきた経緯があり、ジェトロも2023年12月時点で、貿易障壁調査の結果認定や、それを踏まえた措置の構図を整理しています。(ジェトロ)

5. 日本企業の実務チェックリスト

台湾と中国の間に製造拠点や販売拠点を持つ日本企業は、ECFAを「現地法人のコスト最適化ツール」として使ってきたケースが少なくありません。今は、地政学リスクが税目レベルで顕在化する局面です。最低限、次の棚卸しが必要です。

  1. 自社品目の8桁を双方で確定する
    社内で使う品目コード、通関で使う品目コード、原産地証明で使う品目コードがずれていないか確認します。最新の対照表で、双方の8桁を対にして登録します。(data.gov.tw)
  2. EX付き品目は、スコープ定義までドシエ化する
    EXは「一部だけ対象」です。品名だけでなく、組成、用途、規格、性能など、どの部分が対象かを社内で説明できる形にします。
  3. 停止対象かどうかを、税目番号で再判定する
    停止は税目番号で決まります。旧コードのまま停止対象外と誤認していると、見積が崩れます。中国側公告のリストを税目番号で突合します。(gss.mof.gov.cn)
  4. 関税差分の負担者を契約で固定する
    関税は突然変わります。誰が負担するか、価格改定条項、サーチャージ条項、再交渉のトリガーを契約に落とします。
  5. 市場分散と製品高度化のロードマップを持つ
    台湾経済部が示す通り、市場分散や高付加価値化は政策的にも強調されています。自社の販路と仕様戦略に落とし込みます。(ジェトロ)

6. まとめ

台湾ECFAの8桁対照表の更新は、単なる資料改訂ではありません。HS改正や年次改訂で8桁が動くたびに、優遇の可否、そして優遇停止の影響判定が税目レベルで変わります。

いま求められているのは、8桁の最新版への追随と、EXを前提にしたスコープ管理、そして政治要因で関税が動くことを織り込んだ契約と収益管理です。

中国「対日デュアルユース品目の即時輸出規制」を深掘りする


2026年1月6日、中国商務部は「商務部公告2026年第1号」を公布し、日本向けのデュアルユース品目について輸出管理を強化し、公布日から即時施行しました。内容は、すべてのデュアルユース品目について、日本の軍事ユーザー、軍事用途、そして日本の軍事力向上に寄与するその他の最終ユーザーや用途向けの輸出を禁じるというものです。さらに第三国を経由した移転や提供についても、違反があれば法的責任を追及すると明記されています。[mofcom.gov]​

ビジネスの現場で重要なのは、今回の措置が「特定品目の禁輸リスト」ではなく、最終用途と最終ユーザーに強く依存する仕組みである点です。つまり、同じ部材や素材であっても、用途や顧客の性質次第で止まる可能性があり、その不確実性が調達や納期、契約、在庫、顧客対応まで広く波及します。[mofcom.gov]​

以下では、公式文書と複数の信頼できる報道、専門家向け解説を突き合わせ、ビジネス実務に落とし込んで整理します。

1. 何が起きたのか

中国商務部公告2026年第1号の骨子は3点です。[mofcom.gov]​

1点目。中国は、すべてのデュアルユース品目について、日本の軍事ユーザー、軍事用途、ならびに日本の軍事力向上に寄与するその他の最終ユーザーや用途向けの輸出を禁止するとしています。[mofcom.gov]​

2点目。違反の対象は中国国内企業に限りません。中国原産の関連デュアルユース品目を、第三国の組織や個人が日本の組織や個人へ移転または提供した場合でも、法に基づき責任を追及すると書かれています。言い換えると、迂回輸出や再輸出の経路も視野に入れた条文です。[gvw]​

3点目。公告は公布日である2026年1月6日から即時施行です。施行猶予がないため、実務面では輸出許可の審査が急に厳しくなる、審査が止まる、書類要求が増えるなどが起きる可能性があります。[jetro.go]​

加えて重要なのが、具体的な対象品目の明示がないことです。公告は品目リストを示しておらず、ジェトロは「日本の軍事力向上に寄与するその他一切のエンドユーザー・用途」などの定義の詳細が説明されていないと指摘しています。[jetro.go]​

2. デュアルユース規制の本質は「用途と顧客」で決まる

デュアルユースとは、民生にも軍事にも転用可能な財・ソフトウェア・技術を指します。今回の公告の表現は「すべてのデュアルユース品目」ですが、これは「世界のあらゆる民生品」を意味するわけではなく、中国の輸出管理制度上のデュアルユース品目の枠組みを前提にした用語と読むのが自然です。[gvw]​

中国には海外出荷に許可を要するデュアルユース品目・技術の輸出管理リストが約1,100項目あると報じられています。この種の制度では、品目分類に加えて、最終用途の確認や最終需要者の審査が実務上の核心になります。[reuters]​

今回の公告は、この用途審査を日本向けに強く締める形です。条文上は、軍事ユーザー・軍事用途に加えて、「軍事力向上に寄与するその他の最終ユーザー・用途」という包括的概念が追加されています。ここが企業実務にとっての最大の難所です。[gvw]​

3. 企業にとって厄介なのは「曖昧さ」がコストになる点

日本の経済産業大臣は2026年1月9日の記者会見で、措置の対象などに不明瞭な点が多く、現時点で産業への影響をコメントできる状況ではないとしつつ、精査・分析し臨機応変に対応する方針を示しています。[jetro.go]​

この「不明瞭さ」は、企業側の追加コストに直結します。例えば次のような形です。

  • 仕入先が輸出許可の要否判断に慎重になり、出荷が止まる
  • エンドユーザー誓約書や用途説明の追加提出を求められ、事務負担が増える
  • 審査が長期化し、リードタイムが読めなくなる
  • 取引が止まった場合の不可抗力、違約金、代替調達など契約論点が顕在化する

長島・大野・常松法律事務所の解説も、公告の文言上は通常の民間用途まで一律禁止するものではない一方、定義や解釈が示されていないため、許可取得が想定外にできない、または審査に時間がかかる可能性を指摘しています。[jetro.go]​

4. 日本政府と中国側の説明を並べて読む

日本側は強く反発し、撤回を求めています。官房長官が「決して許容できない」と述べ、外務省・経産省・在北京大使館などが抗議し撤回を求めたと報じられています。[jetro.go]​

一方、中国側は「民生ユーザーには影響しない」との立場を示しています。商務部報道官が「民生ユーザーは影響を受けない」「正常な民生貿易を行う関係者は全く心配する必要はない」という趣旨を述べたと伝えられています。ただし、レアアースが規制対象に含まれるかは明言されず、どの品目が影響を受けるかは特定されていません。[youtube]​[reuters]​

ここから導ける実務的な見立ては次の通りです。政治的メッセージとしては「軍事向けに絞る」と説明しても、現場の審査実務は「疑わしきは慎重に」へ傾きやすい傾向があります。結果として、民生用途の調達でも書類や審査が重くなり、遅延やキャンセルが起こり得ます。これは、制度そのものというより、運用リスクです。[jetro.go]​

5. どの業界が影響を受けやすいか

公告は品目を列挙していないため、「この製品が確実に止まる」と断言するのは危険です。ここでは、輸出管理上デュアルユースに該当しやすい領域と、日本の対中依存が大きい領域を中心に、影響感応度が高い分野を整理します。[jetro.go]​

野村総合研究所の分析では、もし中国当局が軍民両用品目を広く捉えれば、半導体や電子部品、精密機械、EV電池関連の化学品やレアアース、通信機器、PC類などが含まれ得るとしています。さらに、輸入規模を広めに見積もると年間10.7兆円規模に達し得るものの、これは最大値であり実際の規模は当局裁量に依存するとしています。[nri]​

またレアアースは、総額としては小さく見えてもサプライチェーンの代替が難しいため、止まると痛手が大きい典型です。同じく野村総合研究所は、過去の経験も踏まえ、輸出規制が3か月続くと損失額が約6,600億円、1年続けば約2.6兆円に達し得るという試算を示しています。[youtube]​[nri]​

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国が日本向けのレアアース輸出規制を強化した可能性を報じており、レアアースやレアアース磁石が自動車部品やEVで重要である点、そして日本がレアアース輸入で中国への依存が高い点が指摘されています。[wsj]​[youtube]​

6. 企業が今すぐやるべき実務対応

ここからは、調達・製造・販売の現場が実行できる形に落とします。ポイントは「止まってから動く」ではなく、「止まる可能性のある取引を先に特定して、説明可能な状態にしておく」ことです。

6-1. 影響の棚卸しは、品目ではなくサプライチェーンで

まずやるべきは、対中調達の全量を眺めるのではなく、止まった瞬間にラインが止まる部材や素材から逆算することです。

  • 製品別に、重要部材のBOMを分解
  • 中国原産、中国サプライヤー経由、第三国経由でも中国原産の可能性がある部材をマーキング
  • その中で、デュアルユースに該当し得る技術領域のものを優先的に抽出

公告は「中国原産」の移転・提供にも責任追及を明記しています。原産性の整理を先にやる理由はここにあります。[gvw]​

6-2. 用途説明とエンドユーザー説明を、調達の前工程へ

今回のタイプの規制は、用途説明の弱さがそのまま遅延リスクになります。中国側の輸出許可審査では、用途・需要者の説明責任が重くなる可能性があります。[jetro.go]​

実務としては、次のような資料を平時から整備しておくと、止まりにくくなります。

  • 最終用途の説明書
  • 最終需要者の属性情報と、軍事用途に供しない旨の社内方針
  • 販売先やインテグレーターの再販制限条項
  • 需要者変更が起きた場合の社内エスカレーションルート

「民生用途だから大丈夫」という主張より、書面で説明できるかが勝負になります。[reuters]​

6-3. 契約面の手当ては、不可抗力だけでは不十分

輸出管理が原因で止まる場合、不可抗力条項に頼りきると交渉が硬直します。供給停止に備え、サプライヤーや顧客との契約条項を点検し、準拠法や強行法規も含め総合的に検討すべきです。[jetro.go]​

ビジネス側で最低限押さえたい観点は次です。

  • 供給停止時の通知義務と代替供給の協力義務
  • コスト増分の負担ルール
  • 納期遅延時のペナルティ取り扱い
  • 在庫確保の責任分界
  • 取引停止の条件と、再開時の手続き

6-4. 代替調達は、時間軸で分ける

代替調達は一度にやろうとすると失敗します。時間軸で分けるのが現実的です。

直近の納期を守るための短期策

  • 在庫の積み増し、仕様変更の最小化、既存サプライヤーの審査加速

6か月から1年の中期策

  • 二次調達先の開拓、部材標準化、設計変更の準備

1年超の長期策

  • 調達先の地理分散、国内回帰の採算評価、重要鉱物の調達戦略の見直し

経産大臣会見でも、重要物資が特定国に過度に依存しない強靱なサプライチェーン構築が必要だという認識が示されています。企業側も、単なる危機対応ではなく、経営課題として継続運用する発想が必要です。[jetro.go]​

7. 今後の展開を読むためのシナリオ

不確実性が高い局面では、当てに行く予測より、外れても耐える設計が重要です。ここではシナリオを3つに分けます。

シナリオA: 形式的には軍事向けに限定され、民生取引は大枠で維持

中国側が示す「民生ユーザーは影響しない」という説明通りに運用が安定するケースです。この場合でも、審査や書類要求の増加によるリードタイム悪化は残ります。[reuters]​

シナリオB: 品目特定がないまま、運用が保守化し、民生でも止まる取引が増える

定義が曖昧なまま、サプライヤーや審査当局が保守的判断を重ねると、民生用途のはずの取引でも許可が下りにくくなり得ます。ジェトロが指摘する「規制対象が不明瞭」という点が、まさにこのリスクです。[jetro.go]​

シナリオC: レアアースや関連磁石の審査が目詰まりし、影響が実体化

ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国が日本向けのレアアース輸出規制を強化した可能性を報じています。報道の確度は慎重に扱う必要がありますが、影響が出た場合の経済損失が大きい点は、複数の分析で共通です。[nri]​[youtube]​

8. まとめ

今回の公告の核心は、次の一文に集約されます。

デュアルユース品目は、品目だけではなく、誰が何に使うかで止まる時代に入った。[mofcom.gov]​

調達部門だけの問題ではありません。営業がどんな顧客に売るか、技術がどんな仕様にするか、法務がどんな条項を入れるか、経営がどこに在庫と資金を配分するか。これらが連動して初めて、輸出管理リスクはコントロールできます。

最後に、これは一般情報であり、個別案件への法的助言ではありません。実取引で判断に迷う場合は、貿易管理の専門家や弁護士、通関士等に早めに相談することをおすすめします。[jetro.go]​

マレーシアと中国がeCOデータ交換を開始へ 通関のスピードと原産地管理はどう変わるか


マレーシアと中国の間で、原産地証明書(Certificate of Origin)の電子データ交換が動き出します。マレーシア投資・貿易産業省(MITI)と中国税関総署(GACC)は、ACFTA(ASEAN中国FTA)とRCEPの枠組みで、原産地証明書データを当局間で電子的に交換する共同取決め(Joint Arrangement)に合意しました。初期段階は、マレーシアから中国向けに、Form E(ACFTA)とRCEPの原産地証明書データを一方向でリアルタイム連携し、2026年1月の運用開始を目標としています。miti+2​

この動きは、単なる「書類の電子化」ではありません。通関の現場では、原産地証明の真正性確認と、関税優遇の適用判断がより迅速になり、同時に不正や誤りが見つかりやすくなる方向に進みます。マレーシアで生産し中国へ輸出する企業、またはマレーシア拠点をサプライチェーンに組み込む企業にとって、実務の影響は小さくありません。miti

何が始まるのか ポイントは当局間のデータ連携

今回の枠組みの要点は、原産地証明書そのものを企業間で電子送付するというより、当局が保有する証明データを、国境を越えて安全に共有し、輸入時の真正性確認と原産地検証を効率化する点です。MITIの発表では、文書送付時間の短縮、証明書の真正性確認の迅速化、機密性と安全性の向上、不正利用リスクの低減が狙いとして示されています。digitalizetrade+1​

対象はACFTAのForm EとRCEP原産地証明書

初期フェーズで電子連携されるのは以下です。thesun+1​

  • ACFTAのForm E(マレーシア発、中国向け)
  • RCEPの原産地証明書(同)

いずれも、関税優遇の適用において重要な「原産性の証拠」なので、真正性確認が速くなるほど、輸入通関の確度とスピードが上がる反面、誤った証明や整合しないデータは早期に検知されやすくなります。miti

仕組み マレーシアNSWと中国EODESを接続

MITIの説明では、マレーシア側はNational Single Window(NSW)を介して、中国側のElectronic Origin Data Exchange System(EODES)と接続します。thesun+1​

NSWはマレーシアの貿易手続きを集約する電子ゲートウェイで、2009年から稼働しており、税関申告(eDeclare)、許認可(ePermit、ePermitSTA)、決済(ePayment)、マニフェスト(eManifest)、ePCO(電子特恵原産地証明)など6つの中核eサービスで構成されています。NSWは財務省主導のイニシアチブで、Dagang Net Technologies社が開発・運用・管理を担当し、25,000以上のユーザー、年間1億件以上の電子取引を処理しています。MITIはePCOなどの発給関連モジュールの所管当局でもあり、ASEAN単一窓口(ASW)のマレーシア側リード機関としても機能しています。miti+3​

つまり今回のeCOデータ交換は、既存のNSW基盤の上に「中国税関との直結ルート」を乗せるイメージです。

なぜ今なのか 単発の施策ではなく、単一窓口協力の延長線

この話は突然出てきたものではありません。マレーシア財務省は2024年6月18日、アンワー首相と中国の李強首相の会談を経て、両国がNSWを軸に単一窓口協力を検討する共同作業部会(Joint Working Group on Single Window Cooperation)を設置し、貿易手続きのデジタル化、重複書類の削減、より正確な情報交換を進める方向性を示しています。この時点で、財務省第二大臣とGACCの于建華関税総長が単一窓口協力に関する共同声明に署名しました。mof

今回の原産地証明の電子連携は、その具体的なユースケースの一つと捉えると理解しやすいです。thestar

ビジネスへのインパクト 速くなるのは通関だけではない

1. 通関スピードとリードタイムの短縮余地

原産地証明の真正性確認が当局間データで迅速化すれば、書類照合の待ち時間や確認照会が減ることが期待されます。MITIも「文書送付時間の削減」を効果として挙げています。customs+1​

ただし、現場オペレーションが「紙提出不要」まで一気に進むかは、輸入地税関の運用次第です。中国は2020年5月から電子PCO(ePCO)の電子送信を義務づけていますが、初期段階では従来手続きとの併走を想定しておくのが安全です。jetro+1​

2. 偽造・改ざんリスクの低下と、情報漏えい対策

MITIは、証明書の真正性確認の迅速化、セキュリティと機密性の向上、第三者による不正利用の抑制を明記しています。電子データ交換は、両国関係当局間での暗号化された安全な情報共有を通じて貿易活動を合理化します。thesun+1​

対外取引が増えるほど、CO番号の悪用や書類改ざんの温床は広がります。データ連携は、ここに直接メスを入れる施策です。

3. 原産地管理の厳格化 データ品質がそのままリスクになる

当局間でデータが照合されやすくなるほど、次のような「ありがちなズレ」が通関トラブルの起点になります。

  • インボイス記載とCO記載の不一致(品名、数量、HS、インボイス番号など)
  • 原産地判定根拠の弱さ(CTC、付加価値、工程証憑が不十分)
  • 訂正や再発給の社内フロー未整備(誰がいつ何を直すか曖昧)

電子化が進むと、監査証跡が残りやすくなる一方、誤りも残ります。便利になった分だけ、内部統制の完成度が問われます。miti

実務対応チェックリスト いま企業がやるべきこと

1. 自社の対中輸出で、ACFTAとRCEPのどちらを使うかを棚卸しする

関税率の有利不利だけでなく、原産地規則の満たしやすさ、証明の取りやすさ、顧客側の通関運用を含めて選びます。

2. 原産地証明の入力データの品質を上げる

申請担当者任せにせず、インボイスとCO、BOM、原産地判定シートの突合ルールを作り、ミスが起きる前提で二重チェックを仕組みにします。

3. 修正・取消・再発給の手順を決める

電子連携があるほど、訂正の影響は広がります。輸入者、通関業者、中国側の申告タイミングを踏まえ、社内の判断基準を文書化します。

4. 取引先と「通関で何が変わるか」を事前にすり合わせる

一方向連携なので、まず恩恵を受けやすいのはマレーシア発中国向けです。中国側の申告で必要になる情報(CO参照番号の伝達方法など)を確認しておきます。thesun+1​

今後の展望 eCOは世界的に増える

中国のEODESは、2019年11月1日にシンガポールとの間でACFTAおよび中国・シンガポールFTAに基づくPCOと非加工証明書(CNM)の電子提出システムとして運用を開始しました。その後、2024年11月にはシンガポールとRCEPベースのPCOもEODESに追加する覚書が締結されています。linkedin+2​

マレーシア側も、ASEAN域内ではASEAN単一窓口(ASW)を通じてe-Form D(ATIGA電子原産地証明)の交換運用経験を積んでいます。マレーシアは既に、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム向けにATIGA e-Form Dを電子送信しています。customs+1​

今回の連携は、二国間の利便性向上に留まらず、域内・多国間での「原産地データ連携の標準化」へつながる可能性があります。thestar+1​

まとめ

マレーシアと中国のeCOデータ交換は、通関の迅速化と不正抑止を同時に進める施策です。現場に近いほどメリットは出ますが、同時に、原産地管理の甘さが表面化しやすくなる点が最大の注意点です。miti

特に、マレーシア拠点から中国へ輸出する企業は、申請データの品質、訂正フロー、原産地判定の証拠書類の整備を「通関のため」ではなく「監査対応のため」に引き上げることが、結果的にリードタイム短縮とトラブル削減に直結します。miti

:制度運用の詳細は当局の通達や通関実務で変わり得ます。最新の運用はMITIおよび関係当局、通関業者の案内で必ず確認してください。


  1. https://www.miti.gov.my/miti/resources/Media%20Release/%5BFINAL%5D_Media_Statement_Signing_JA_MITI_GACC_2025-11-13.pdf
  2. https://www.reuters.com/world/asia-pacific/malaysia-china-exchange-trade-certificates-electronically-2026-2025-11-13/
  3. https://thesun.my/news/malaysia-news/people-issues/malaysia-and-china-to-launch-electronic-trade-data-exchange-in-2026/
  4. https://www.digitalizetrade.org/projects/electronic-origin-data-exchange-system-china-eodes
  5. https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/1149
  6. https://www.dagangnet.com/trade-facilitation/national-single-window/
  7. https://eec.eaeunion.org/upload/medialibrary/2b3/6rnswsy760n0klvpbqztvc430qbmxxtx/7.2-EN-Eva-Chan-add-on-MY-NSW_210140822.pdf
  8. https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/3911
  9. https://www.mof.gov.my/portal/en/news/press-release/malaysia-china-agree-on-single-window-cooperation
  10. https://www.thestar.com.my/business/business-news/2024/09/18/national-single-window-initiative-to-boost-msia-china-trade
  11. https://customs.gov.sg/businesses/rules-of-origin/eodes-with-china/
  12. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/12/275c35e30a3044d8.html
  13. https://www.linkedin.com/posts/ministry-of-finance-singapore-customs_singaporecustoms-tradeagreement-eodes-activity-7265304259225690112-HClA
  14. https://customs.gov.sg/businesses/rules-of-origin/asw/
  15. https://theedgemalaysia.com/node/779584
  16. https://www.businesstimes.com.sg/international/asean/malaysia-china-exchange-trade-certificates-electronically-2026
  17. https://www.businesstoday.com.my/2025/11/13/malaysia-china-begin-electronic-exchange-of-trade-certificates-from-jan-2026/
  18. https://www.jastpro.org/files/libs/1682/202212081408258370.pdf
  19. https://www.dnex.com.my/2024/dnex-receives-contract-extension-for-national-single-window-for-trade-facilitation-2/
  20. https://unece.org/fileadmin/DAM/cefact/single_window/sw_cases/Download/MalaysiaUseOfEDocuments.pdf

中国が日本向けデュアルユース輸出を「禁止」へ


企業が直面する実務リスクと、いま取るべき対応

2026年1月6日、中国商務部は「商務部公告2026年第1号」を公表し、日本向けの両用物項(デュアルユース品目)について輸出管制を大幅に強化しました。 公告の要点は、特定の最終ユーザー・最終用途向け輸出を全面的に禁止し、さらに第三国を経由した移転や提供まで規制の射程に含めた点であり、サプライチェーン全体への影響が大きい措置になっていることです。mofcom+2

本記事では、中国商務部の公告(一次資料)と報道官コメントをベースに、ビジネス現場で誤解されやすいポイントを整理しつつ、調達・輸出入・コンプライアンスの観点から「今日からできる実務対応」を具体的に解説します。nikkei+2


1. 何が起きたのか:公布日から即時適用

中国商務部は2026年1月6日付の「商務部公告2026年第1号」で、「日本向けの両用物項に対する輸出管制を強化する」とし、同公告を公布した日から正式に実施すると明記しました。 公告では、輸出管制強化の法的根拠として「中華人民共和国輸出管制法」など関連法令が引用されています。npc+1

同日付で公表された報道官の記者問答では、日本の指導者による台湾をめぐる最近の発言が「武力による台湾海峡への関与を示唆し、中国の内政に粗暴に干渉するもの」と位置付けられ、こうした動きに対する対応措置として今回の輸出管制が決定されたと説明されています。scmp+1


2. 規制の核心:品目リストではなく「最終用途・需要者」起点の禁止

公告の核心部分は、次の3点の禁止規定です。aa+1

  • 日本の軍事ユーザー向けの両用物項輸出を禁止すること。
  • 日本の軍事用途向けの両用物項輸出を禁止すること。
  • 日本の軍事力向上に資するその他の最終ユーザー・最終用途向け両用物項輸出を禁止すること。

ここで重要なのは、公告本文が個別品目リストやHSコードを列挙していない点です。禁止対象は「すべての両用物項」でありながら、その判断は最終ユーザー・最終用途(日本の軍事ユーザー/軍事用途/軍事力向上に資する用途)を軸に行うよう設計されているため、単純な品目名ベースの線引きでは対応しきれない構造になっています。mofcom+2

企業実務上、さらに重いインパクトを持つのが次の一文です。mofcom+2

「いかなる国家と地域の組織および個人であっても、上記規定に違反して、原産地が中華人民共和国である関連両用物項を日本の組織または個人に転移または提供した場合、法律に基づき法的責任を追及する。」

この規定は、中国原産の両用物項を第三国経由で日本に移転・転売・横流ししたり、グループ会社間移転や修理返送などの形で日本側に提供したりする行為も対象に含める趣旨と解釈されます。 結果として、一次調達ルートだけでなく、第三国の販売会社や海外グループ会社を経由するサプライチェーン全体が、規制リスクの影響下に置かれることになります。mofcom+5


3. 「デュアルユース」とは何か:貨物だけでなく技術・サービスにも拡張

中国の輸出管理法制において「両用物項(デュアルユース品目)」は、「民生用途にも軍事用途にも利用可能、または軍事能力の増強に資する」物品を意味し、貨物に加えて技術およびサービスも含む広い概念として定義されています。 輸出管理法は、特に兵器や大量破壊兵器などの設計・開発・製造・使用に関連し得る物品・技術・サービスを重点対象としていると説明されています。chinalawtranslate+1

また、輸出管理法上の「管理対象」には、関連物品に関する技術情報やデータも含まれ得ることが明示されており、管理対象行為も「国外への移転」(輸出)だけでなく、「外国の組織・個人への提供」という形態まで含めると規定されています。 そのため、企業側としては「部品の輸入」だけの問題と捉えるのではなく、契約・設計図・ソフトウェア・技術支援・リモートサポート等の提供行為まで影響が及び得る、という前提でリスク評価を行う必要があります。mofo+4


4. どんな企業が影響を受けやすいか:鍵は「用途」と「顧客構造」

今回の措置は、「最終用途」と「最終ユーザー」による禁止対象の判断が中心となるため、業種区分以上に、顧客構造や用途説明の仕組みの強さが影響の大きさを左右します。scmp+2

影響が出やすい典型例は次の通りです。

  • 防衛関連企業、または防衛関連企業向けのサプライヤー全般。
  • 航空宇宙、通信機器、レーダー・センサー、測位システム、先端材料、精密工作機械、半導体製造装置・材料など、軍事転用懸念が想定されやすい分野。
  • トレーダー経由・汎用品の反復取引・最終顧客が見えにくい販売モデルなど、用途説明が弱い商流。

一部報道では、レアアースなどの重要素材や、ドローン・半導体関連を含むハイテク分野が影響例として取り上げられていますが、公告自体は具体的な品目リストを示していません。 このため、現場レベルでは「軍事転用の可能性が少しでも疑われる取引は、念のため保留・停止する」といった保守的な運用が広がるリスクが大きいと言えます。bloomberg+4


5. 日本企業が今日から取るべき対応:調達・物流・法務の実務チェック

A. 最初の48時間でやること(緊急対応)

  • 中国原産の部材・材料・装置・ソフトウェア・図面提供が関わる取引を棚卸しし、一覧化する。
  • 取引単位で「最終顧客」「最終用途」「軍事転用の可能性」を、社外説明用に1枚で示せる状態に整理する。
  • 中国側サプライヤーに対し、当該品目が両用物項として輸出管理対象となり得るか、出荷条件および要求される書類(用途証明書など)を確認する。
  • 第三国経由の調達についても原産国情報を再確認し、「実質的に中国原産の両用物項を取得していないか」をチェックする。商社経由や海外グループ会社経由の取引ほど慎重な確認が必要です。

B. 次の30日でやること(再発防止・制度化)

  • 用途証明(End Use Statement)および需要者情報(End User)の取得・保存方法を社内標準として整備し、テンプレート化する。
  • 調達・販売契約に「輸出管理法令により出荷が停止し得る」こと、「停止時の通知義務」およびリードタイム等への影響の取り扱いを明記する。
  • グループ会社間の部品移転や修理返送、貸出機材など、社内物流も含めた移転フローを棚卸しし、中国原産の両用物項が日本に戻るパターンを洗い出す。
  • 代替サプライヤー・代替材料・在庫戦略(安全在庫の積み増しや調達先分散)を検討し、「停止した場合のバックアップ」を事前に設計する。

6. そのまま使える用途証明のたたき台(例)

日本企業が中国側サプライヤーから求められることが多いのは、用途の透明性と、軍事転用防止に関するコミットメントです。 以下は、社内でドラフトを用意する際の例文です(実際の運用にあたっては、必ず自社の法務・輸出管理担当と協議してください)。orrick+1

日本語例(たたき台)
本製品は民生用途のみに使用され、軍事用途には使用しません。本製品の最終需要者は〇〇であり、第三者への転売、用途変更、または日本国内外の軍事目的への転用は行いません。

英語例(たたき台)
The item will be used solely for civilian end use and will not be used for military purposes.
The final end user is [Name]. We will not resell, retransfer, or change the end use in any way that could support military purposes.

この種の文書は、サプライヤー側の出荷可否判断の材料として重視される一方、内容に虚偽や管理不備があれば、後の調査・監査において自社の説明責任に直接跳ね返ります。 形式だけを整えるのではなく、契約書・仕様書・顧客情報・用途説明資料などの裏付けと、保存ルールまで一体で設計することが安全です。allbrightlaw+4


7. まとめ:今回の措置を「調達の話」で終わらせない

今回の中国の措置は、単に「日本向けの輸出が難しくなる」というレベルの話ではなく、最終用途・最終ユーザーの説明力が弱い企業ほど、突然サプライチェーンが止まりやすくなるタイプのリスクです。 さらに、中国原産の両用物項を第三国経由で日本に移転・提供する行為についても法的責任追及の対象になり得る旨が明記されており、商流やグループ構造が複雑な企業ほど影響を受けやすくなります。mofcom+4

最優先で取り組むべき実務は、次の2点です。

  • 中国原産品が関与する取引を見える化し、用途と需要者を第三者に説明できる状態にすること。
  • 供給が止まった場合の代替調達・在庫戦略と、契約上の手当て(不可抗力・出荷停止条項・通知義務など)を先に作っておくこと。

公告文そのものは短くても、サプライチェーンとコンプライアンスの影響は中長期的に尾を引きます。 公告が出た直後のタイミングだからこそ、社内の棚卸しと標準書式・ルールの整備に一気に着手できるかどうかが、数カ月後の混乱度合いを大きく左右します。mofo+4

  1. https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2026/art_8990fedae8fa462eb02cc9bae5034e91.html
  2. https://www.mofcom.gov.cn/xwfb/xwfyrth/art/2026/art_1f25cb39adfa4561b34b4ea46d2bcee7.html
  3. https://www.chinalawtranslate.com/en/export-control/
  4. http://www.npc.gov.cn/englishnpc/c2759/c23934/202112/t20211209_384804.html
  5. https://asia.nikkei.com/politics/international-relations/japan-china-tensions/china-bans-exports-of-dual-use-items-for-military-purposes-to-japan
  6. https://www.aa.com.tr/en/asia-pacific/china-bans-sale-of-dual-use-items-to-japanese-end-users-for-military-purposes/3791611
  7. https://www.scmp.com/economy/global-economy/article/3338907/china-bans-exports-military-related-goods-japan-dispute-intensifies
  8. https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/dwmygl/art/2025/art_65480a162cd745c2b0863d67553a4b05.html
  9. https://www.mofo.com/resources/insights/241216-china-s-new-export-control-framework-key-changes
  10. https://www.orrick.com/en/Insights/2024/11/China-Issues-Regulation-on-Export-Control-of-Dual-Use-Items
  11. https://www.allbrightlaw.com/EN/10475/c5ca6770ad261d5d.aspx
  12. https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-01-06/china-bans-exports-of-dual-use-items-to-japan-military-users
  13. https://www.japantimes.co.jp/news/2026/01/06/asia-pacific/china-dual-use-export-ban/
  14. https://sms.mofcom.gov.cn/cms_files/filemanager/676898164/attach/20249/7e465a3c4b3c4f11be09a3a4f6d09916.pdf
  15. http://wzs.mofcom.gov.cn/api-gateway/jpaas-web-server/front/document/download?fileUrl=YW5UzzlvCwcM%2FNHHX%2FtT6JV7pJDyrvTvKb1f3uS6fJXqmWZcN8LioM60YFZjuMLTHKpbESMgqZ0JCMOFxV9%2FJeOMI%2FgV3L4AdDIgOv3UlubfFQWCFgR4969NwUd2gyxHt1%2FWiuInMXIyFqwnbHXyC38LGlNx9uttfBTIn%2FKoRt0%3D&fileName=%E5%A4%96%E5%95%86%E6%8A%95%E8%B5%84%E6%8C%87%E5%BC%952025_%E8%8B%B1%E6%96%87.pdf
  16. https://fdi.mofcom.gov.cn/resource/pdf/wx2024/2024EN.pdf
  17. https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2025/art_7fc9bff0fb4546ecb02f66ee77d0e5f6.html
  18. http://images.mofcom.gov.cn/chinawto/202004/20200416184851866.pdf
  19. https://data.mofcom.gov.cn/report/%E4%B8%96%E7%95%8C%E6%8A%95%E8%B5%84%E6%8A%A5%E5%91%8A2023-%E8%8B%B1%E6%96%87%E7%89%88.pdf
  20. http://cys.mofcom.gov.cn/article/glml/

中国が2026年に935品目で輸入関税を引下げへ


中国が2026年に935品目で輸入関税を引き下げ

2025年12月29日、中国国務院関税税則委員会は「2026年関税調整方案」を公表し、2026年1月1日から一部品目の輸入関税率と税目を調整することを発表しました 。柱となるのは、935品目に対してWTO最恵国税率(MFN)より低い「暫定輸入税率」を設定することです 。binance+2

この発表は、中国向けに「先端部材・グリーン関連素材・医療関連製品」を輸出する日本企業にとって、年明け直後の価格競争力と販売機会を左右する重要なイベントとなります 。cna+1

何が変わるのか:制度面の要点

935品目で暫定税率を設定

対象は、重要部材や先端材料、グリーントランスフォーメーション関連の資源性商品、医療製品などで、MFNより低い税率が適用されます 。binance+1

税目自体も見直し

本国子目を増設し、税則税目総数は8,972に拡大します 。例として、インテリジェント生体模倣ロボット(智能仿生机器人)、バイオ航空燃料(生物航空煤油)、林下山参などが挙げられています 。news.cnyes+1

一部は暫定税率を取りやめ、MFNへ戻す

国内産業の供給需給などを踏まえ、小型モーター(微型電机)、捺染機(印花机)、硫酸などは暫定税率を取り消し、MFNを適用する方向が示されています 。cna+1

どの領域が狙い撃ちか:3つの政策軸

先端産業の基盤づくり(科技自立自強)

中国は、現代化産業体系の構築に資する「重要部品・先進材料」の輸入コストを下げる狙いを明示しています 。完成品ではなく、ボトルネックになりやすい部材・材料の調達コストを軽くし、国内の高度化を進める設計です 。news.cnyes+2

日本企業にとっては、半導体製造装置周辺、精密部材、先端材料など、仕様が厳しい領域ほど商機になりやすい一方、型番単位での該当確認が重要になります。

グリーン転換(電池・資源循環)

象徴例として挙がったのが、リチウムイオン電池向けの再生黒粉(ブラックマス)です 。これは単発の優遇ではなく、「資源性商品の暫定税率引下げ」という政策軸の一部として位置づけられています 。binance+2

EVや蓄電池のサプライチェーンでは、原料や中間材の関税が数ポイント動くだけで、調達先やリサイクル工程の採算が変わります。中国市場向けの素材・化学・装置企業は、販売だけでなく、現地拠点の調達コスト見直しにも直結します。

医療・民生(ヘルスケアの高度化)

人工血管や感染症関連の診断キットなど、医療の高度化とアクセス改善につながる品目も対象に含まれます 。cna+1

医療分野は、規制承認や販売チャネルの壁が高い一方、関税引下げは現地病院・代理店との価格交渉を動かす材料になり得ます。

具体例:公表資料で確認できる暫定税率(代表例)

下表は、財政部サイトに添付された「附1 进口商品暂定税率表」に記載のある代表例です。実務上は、品目の該当可否と、表中のex(号列の一部条件適用)に注意して確認してください。

品目例(中文表記)税則号列2026年MFN2026年暫定税率ビジネス上の見立て
锂离子电池用再生黑粉ex 382499996.5%3%電池リサイクル、正極材周辺のコストに影響 cna+1
未焙烧的黄铁矿250200003%0%資源性原料の調達コスト低下を後押し binance
診断用試薬(マラリア)382211003%0%医療検査領域で価格競争力が改善 binance
感染症の診断试剂盒(肝炎A/B/C、HIV、梅毒等)ex 382219003%0%検査キット分野で輸入コストが軽くなる binance
人造血管ex 902139004%2%医療機器・インプラントで採算改善余地 cna+1

日本企業の実務アクション:年明け前後にやるべきこと

自社品の中国側号列での突合

日本のHS6桁だけでは不十分です。中国側の税則号列(細分)で該当判定し、暫定税率の適用対象か確認します。ex指定品目は、仕様や用途で分かれることがあります。

価格交渉の材料化

暫定税率が下がる品目は、インコタームズと関税負担者を再確認した上で、見積の更新と顧客への説明資料を準備します。中国側買主が通関する取引でも、値引き圧力として返ってくるため、先回りが有効です。

協定税率との二重チェック

中国は2026年も、24のFTA等(34の貿易パートナー)に基づく協定税率を継続し、最不発達国43か国には100%税目で無税待遇を維持するとしています 。暫定税率だけでなく、原産地要件を満たすなら協定税率の方が有利なケースもあり得ます。news.cnyes+1

品目改編リスクの点検

税目や本国子目の見直しは、分類ミスや申告差異の火種になります 。中国向けに輸出入が多い企業ほど、マスタと通関委託先のコード体系を年初に一斉点検した方が安全です。binance

まとめ

今回の935品目の引下げは、単なる景気刺激というより、先端産業の部材調達、グリーン転換の原料確保、医療高度化を同時に進める「ターゲット型の関税設計」といえます 。cna+2

対中ビジネスでは、該当品目の突合と価格戦略の更新を、2026年1月1日の適用開始に間に合わせることが最大の実務ポイントとなります 。binance


  1. https://www.binance.com/ja/square/post/34358904320226
  2. https://www.cna.com.tw/news/acn/202512290209.aspx
  3. https://news.cnyes.com/news/id/6291766
  4. https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/us_tariff/pdf/04_1118.pdf
  5. https://www.etnet.com.hk/www/tc/ashares/news_detail.php?newsid=ETN351229774&page=1&category=%E5%85%A8%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E
  6. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/08/32996371811ccb00.html
  7. https://kuno-cpa.co.jp/china_blog/china-value-added-tax-law/
  8. https://tw.stock.yahoo.com/news/%E5%A4%A7%E9%99%B82026%E5%B9%B4%E9%97%9C%E7%A8%85%E8%AA%BF%E6%95%B4%E6%96%B9%E6%A1%88%E5%87%BA%E7%88%90-ecfa%E7%B9%BC%E7%BA%8C%E6%8C%89%E8%A6%8F%E5%AE%9A%E5%AF%A6%E6%96%BD-093333166.html
  9. https://www.recordchina.co.jp/b944805-s12-c20-d0189.html
  10. https://www.tmi.gr.jp/uploads/2025/01/31/TMI_China_News_January_2025.pdf

中国のレアアース輸出許可「簡素化」の真相――何が変わり、何が変わらないのかを整理する


2025年12月4日、中国商務部は「レアアース関連品目の輸出許可を簡素化している」と発表しました。報道では「輸出許可の簡素化」として大きく取り上げられていますが、その実態は**規制緩和というより「運用の柔軟化」**に近いものです。(Reuters)

具体的には、新たに**「一般ライセンス(general licence)」という仕組みを使い、特定の海外顧客向けに1年間有効な輸出許可**を出すことで、同じ相手への繰り返しの出荷については、毎回の個別申請を不要または大幅に簡略化する、という内容です。(Reuters Japan)

一方で、2025年4月以降に導入された厳格な輸出管理そのものが撤廃されるわけではありません。規制の「骨格」は残したまま、信頼できる顧客・用途について手続きだけを軽くするのが今回のポイントです。(Reuters Japan)

この記事では、

  • 2025年に何が起きてきたのか(規制強化の流れ)
  • 今回の「簡素化」で具体的に何が変わるのか
  • 世界のサプライチェーン、日本企業へのインプリケーション

を、できるだけ噛み砕いて整理していきます。


1. レアアースと中国の支配力をざっくり整理

レアアース(希土類)は17元素の総称で、EVモーターや風力発電の発電機、サーボモーター、HDD、軍事レーダーなどに使われる高性能永久磁石の材料として不可欠です。(IEA)

国際エネルギー機関(IEA)の分析によると、2024年時点で中国は、

  • レアアース鉱石の生産:世界の約60%
  • 分離・精製(中間加工):約91%
  • 焼結型レアアース永久磁石の生産:約94%

を占めており、磁石の段階ではほぼ「一極集中」と言ってよい状況です。(IEA)

EUの場合、年間約2万トンの永久磁石を消費していますが、そのうち1.7〜1.8万トンを中国から輸入しているとされています。(The Guardian)

このため、中国がレアアースの輸出管理を強化すると、EVから防衛産業まで世界中のサプライチェーンが一気に揺れる、という構図になっています。


2. 2025年の規制強化の流れ(簡潔タイムライン)

2-1. 4月4日:重希土7元素などへの輸出管理導入

2025年4月4日、中国政府は**7種類の重希土(テルビウム、ジスプロシウムなど)と、その酸化物・合金・関連磁石を輸出管理の対象とし、輸出に両用品目輸出許可(dual-use license)**を義務づけました。(IEA)

  • レアアース磁石の輸出は4〜5月にかけて急減
  • 多くの自動車メーカーが磁石を確保できず、工場稼働率の引き下げや一時停止を余儀なくされたと報告されています。(IEA)

2-2. 10月9日:海外製品も巻き込む「域外適用」的な拡張

10月9日、中国商務部は公告2025年第61号・第62号を公表し、レアアース原材料・設備・関連技術について、さらに踏み込んだ輸出管理を導入しました。(JETRO)

主なポイントは以下の通りです。

  • 中国国外の企業・個人が、中国原産の一部レアアース品目や磁石を、第三国へ再輸出する場合でも、中国商務部発行の両用品目輸出許可が必要
  • 中国のレアアース採掘・製錬・磁石製造などの技術を用いて、海外で製造された製品についても、一定条件下で中国側の輸出許可が必要になる**「域外適用」的なルール**を導入(China Briefing)
  • 軍事目的や、輸出管理リスト・ウォッチリスト掲載の輸入業者・エンドユーザー向けの輸出は、原則として許可しないと明記(JETRO)

つまり、中国から直接出る貨物だけでなく、**「中国起源のレアアース」や「中国技術を使った製品」**が世界を回る際にも、中国の許可が必要になり得る設計です。

IEAもこの10月の措置について、レアアース関連製品・部品・アセンブリを広く対象とすることで、エネルギー・自動車・防衛・半導体など多くの戦略産業のサプライチェーンに重大なリスクをもたらすと分析しています。(IEA)

2-3. 規制強化の結果:価格高騰とサプライチェーン混乱

こうした規制の強化により、

  • 4〜5月の輸出量の急減
  • 欧州など輸入側でのレアアース価格高騰(中国国内価格の最大6倍に達したケースも)(IEA)
  • EVや産業用モーター向け磁石の供給不安

といった問題が顕在化しました。

EUは、中国による重要原材料の「武器化」への懸念から、**「ReSourceEU」**という約30億ユーロ規模の戦略を打ち出し、調達先の多角化・リサイクル・国内鉱山開発などを進める方針を発表しています。(The Guardian)


3. 11月〜12月:輸出許可「簡素化」の中身

3-1. 11月:新たなライセンス制度を業界に事前説明

11月7日付のロイター日本語記事によれば、中国商務部は一部のレアアース輸出企業に対し、新たなライセンス制度の設計に着手したことを伝え、業界向けの説明会で必要書類の概要などを示しました。(Reuters Japan)

  • 新ライセンスの有効期間は1年
  • 輸出拡大につながる可能性がある一方、
    4月に導入された広範な輸出規制の撤廃ではないことが強調されています。(Reuters Japan)
  • 防衛など機密分野に関わるユーザー向けの許可取得は、むしろより難しくなる可能性が高いとの見方も示されています。(Reuters Japan)

この時点では、まだ「制度設計中」であり、企業側は必要書類の準備や顧客からの情報収集を進めている段階でした。(Reuters Japan)

3-2. 12月初旬:一般ライセンスの発給が始動

12月に入ると、いよいよ具体的な動きが報じられます。

  • 12月2日:
    中国が新しい「簡素化された輸出ライセンス」の第1弾を発給したと報道。対象は、
    • JL Mag Rare Earth
    • 寧波韻昇(Ningbo Yunsheng)
    • 北京中科三環高技術(Beijing Zhong Ke San Huan High-Tech)
      といった大手レアアース磁石メーカー3社。(MINING.COM)
  • 12月4日:
    商務部の定例会見で、「中国は一般ライセンスなどの円滑化措置を積極的に活用し、二重用途品目の合法的な貿易を促進している」と説明。
    さらに、**「レアアース関連品目の輸出許可申請が民生用である限り、政府は速やかに承認してきた」**と報道官がコメントしています。(Reuters)

ここで言う**「一般ライセンス(general licence)」**とは、

  • 特定の輸出者→特定の顧客(または顧客グループ)
  • 有効期間:1年間
  • その期間中の複数出荷をカバー(出荷ごとの個別許可申請が不要または大幅に簡略)

といった形の包括許可です。(MINING.COM)

一方で、

  • 既存の両用途ライセンス制度(dual-use licensing)はそのまま維持
  • 一般ライセンスの対象は、現時点では主に大手レアアース企業に限られる

ことも明確にされています。(Reuters)

3-3. 「簡素化」の効果:輸出量は目に見えて回復

12月8日に発表された中国税関データでは、2025年11月のレアアース輸出が前月比26.5%増の5,493.9トンと急増し、2カ月連続の増加となりました。1〜11月累計では前年同期比11.6%増です。(Reuters Japan)

  • 4月の規制導入で数カ月続いた混乱のあと、
    10月末の米中首脳会談でレアアース輸出加速で合意 → 一般ライセンス発給 → 輸出増加
    という流れが数字にも表れています。(Reuters Japan)

EU商工会議所は、この新しいライセンス制度が**「バイヤーに安定性と予見可能性をもたらす」**として一定の歓迎を示しつつも、依然として申請手続きの透明性や遅延リスクへの懸念を表明しています。(MINING.COM)


4. 何が「簡素化」され、何が変わっていないのか

4-1. 簡素化されたポイント

① 出荷ごとの申請 → 顧客単位の包括許可

従来:

  • 輸出ごとに個別の許可申請が必要
  • 申請のたびにエンドユーザー情報や用途説明の書類を用意する必要があり、
    その都度審査・判断が行われていた

今回の一般ライセンス:

  • 一定の条件を満たす輸出者と顧客の組み合わせに対して、1年間有効な包括許可を付与
  • 期間中の個々の出荷に対する書類作成・審査の負担が大きく軽減
  • 特に大量・定期的な取引を行う自動車・家電・産業機械向けの磁石にとって、リードタイム短縮が期待されます。(MINING.COM)

② 民生用途についての実務上の「グリーン・チャンネル」化

商務部報道官は、
民生用のレアアース関連輸出申請は、すべて適時に承認してきた」と述べています。(Reuters)

一般ライセンスは、この方針を制度面から裏付けるもので、

  • 民生用途でコンプライアンス要件を満たす顧客・輸出者に対しては、
    安定的に輸出を続けられるルートを用意する
    というメッセージと言えます。

4-2. 変わっていない(むしろ強化されている)ポイント

① 規制対象品目と「安全保障」重視の姿勢はそのまま

  • 4月4日に導入された重希土7元素+関連化合物・磁石の輸出管理(IEA)
  • 10月9日の公告第61号・62号による、原材料・設備・技術・海外製品を含む広範な管理(JETRO)

これらの法的枠組みは一切撤廃されていません。

② 軍事用途・ハイリスク顧客向けはむしろ厳格

公告や関連解説では、

  • 軍事用途が含まれる輸出
  • 中国の輸出管理リスト・ウォッチリスト掲載の輸入業者・エンドユーザー向け輸出

については、**原則として許可しない(=事実上の禁輸に近い扱い)**としています。(JETRO)

一般ライセンスの主な対象は民生用途であり、防衛・高度軍事技術に関わるユーザーについては、依然として厳しい個別審査+不許可リスクが残ります。(Reuters Japan)

③ 域外適用(海外製品への影響)も継続

10月の措置で導入された、

  • 「中国起源のレアアースを含む海外製品」
  • 「中国のレアアース関連技術を用いて海外で製造された製品」

に対する中国側ライセンス義務も、2025年12月以降に順次適用範囲が拡大される方向です。(China Briefing)

一般ライセンスで出荷がスムーズになったとしても、**「どこで、どの技術で作った、どれだけ中国起源が含まれるか」**という情報開示を求められる構図は、今後も変わりません。


5. なぜ今、輸出許可を簡素化したのか

いくつか要因が重なっています。

5-1. 米中首脳会談での政治的ディール

報道によれば、今回の一般ライセンス導入は、10月末に韓国で行われたトランプ米大統領と習近平国家主席の首脳会談での合意事項の一つでした。(Reuters)

  • 米国側:レアアース・磁石の供給不安で自動車・防衛産業への影響が懸念
  • 中国側:米国の追加関税などへの対抗措置として輸出規制カードを切りつつも、「信頼できる供給国」としてのイメージも維持したい

その折衷として、
**「規制の枠組みは維持しつつ、民生用途や信頼できる顧客向けには輸出を加速する」**という一般ライセンスが位置づけられたと見るのが自然です。(MINING.COM)

5-2. EUなどからの「脱中国」圧力

EUは、レアアースや永久磁石の調達の約9割を中国に依存している現状から、ReSourceEUという30億ユーロ規模の戦略を打ち出し、場合によっては**「企業に対して調達先の多角化を法的に義務づける」**可能性にも言及しています。(The Guardian)

中国としても、あまりに強硬な輸出統制を続ければ、

  • EU・米国・日本・豪州などが本気で代替サプライチェーン構築に動く
  • 中長期的には、自国のレアアース産業の需要基盤を失う

リスクがあります。

一般ライセンスによる「緩和のポーズ」は、
**「安全保障上のレバーは握り続けつつ、過度なデカップリングを避ける」**ためのバランス調整と見ることができます。(IEA)


6. 世界のサプライチェーンへの影響

6-1. 短期的には「一息つける」方向

  • 大手磁石メーカー3社が一般ライセンスを取得したことで、
    彼らからの供給を受ける自動車・家電・産業機械メーカーは、リードタイムや出荷の滞留リスクが緩和される見込みです。(MINING.COM)
  • 11月の輸出量回復からも、実際にボトルネックがかなり解消されつつあることがうかがえます。(Reuters Japan)

6-2. 中長期的には「リスクはむしろ見える化されただけ」

一方で、

  • 規制対象品目は拡大済み
  • 軍事・高度技術用途への輸出禁止方針は明確
  • 域外適用により、海外の加工拠点や再輸出にも中国の許可が絡む

という構図は変わっていません。(China Briefing)

今回の簡素化をきっかけに、

  • 「誰が一般ライセンスの対象になっているのか」
  • 「どの用途・エンドユーザーならスムーズに許可が出るのか」
  • 「どのラインが依然として高リスクなのか」

が、企業側から見るとよりはっきり可視化されたとも言えます。

IEAも、中国のレアアース支配力と輸出規制のエスカレーションが、エネルギー・自動車・防衛・AIデータセンターなど幅広い産業に継続的なリスクをもたらすと指摘しており、今回の一般ライセンスはそのリスクを一時的に和らげる措置に過ぎないと見るべきでしょう。(IEA)


7. 日本企業・投資家への practical な示唆

最後に、日本の製造業・商社・投資家の立場から、実務的に意識しておきたいポイントをまとめます。

7-1. サプライチェーンの「どこで中国にひっかかるか」を棚卸し

  • 原材料(酸化物・金属)
  • 中間製品(磁石、ターゲット材など)
  • 完成品(モーター、アクチュエーター、電子部品)

のどの段階で、

  • 中国原産レアアースがどれだけ含まれるか
  • 中国の技術・設備を使っているか

なるべく定量的に把握しておくことが重要です。

10月の措置により、海外で製造された製品でも、中国起源のレアアースが一定割合以上含まれていれば、中国の輸出ライセンスが必要になるケースがあります。(China Briefing)

7-2. 取引先の「ライセンスステータス」を確認

  • 主要な磁石・材料メーカーが一般ライセンスを取得しているか
  • そのライセンスの対象顧客に自社・自グループが含まれているか
  • 軍事・デュアルユース色が濃い用途の場合、どの程度の審査・遅延リスクがあるか

を、取引先・現地法人を通じて確認しておくと、調達リスクの見積もり精度が上がります。

一般ライセンスの有無は、今後**「調達先を選ぶ際の条件」**の一つになっていく可能性があります。(MINING.COM)

7-3. 中・長期的な「脱一極依存」戦略

  • 代替サプライヤー(非中国産レアアース、代替磁石)の開拓
  • レアアースリサイクル・磁石回収スキームへの投資
  • レアアース使用量を減らす設計(モーター構造や制御技術の工夫)

などは、中期的な競争力とレジリエンスの両面で重要性が高まっています。

EUや米国も同様の方向に政策資金をつけ始めているため、「レアアース依存を下げる技術・ビジネス」は、今後も政策的な追い風を受けやすい領域と考えられます。(The Guardian)


8. まとめ

  • 2025年12月の「レアアース輸出許可の簡素化」は、
    一般ライセンスという1年有効の包括許可を導入し、民生用途を中心に輸出プロセスをスムーズにする措置。(Reuters)
  • しかし、4月以降の厳格な輸出管理や、10月の域外適用的なルールはそのまま維持されており、安全保障を軸にしたコントロールの枠組みはむしろ強化されたまま。(JETRO)
  • 短期的には供給不安が和らぎ、輸出量も回復しているが、
    中長期的には「中国レアアースへの過度な依存」という構造リスクは依然として大きい。(Reuters Japan)
  • 日本企業としては、
    1. どこで中国に依存しているかの棚卸し
    2. 取引先のライセンス状況の把握
    3. 中長期の脱一極依存・リサイクル・代替技術戦略
    を組み合わせて、**「中国の一挙手一投足に振り回されにくい体制」**を構築していくことが、これまで以上に重要になってきます。

この記事の内容をもとに、もし「自社のこの部品はどこが危なそうか」「この業界への影響をもう少し具体的に知りたい」といったテーマがあれば、業種や立場を教えてもらえれば、さらに絞った整理もできます。