RCEP・AANZFTA 証明書の有効期限と保存義務の実務要点

貿易実務で原産地証明の話になると、つい「原産地規則を満たすか」に意識が向きます。しかし現場でトラブルになりやすいのは、証明の中身ではなく、「いつまで使えるのか」「どれだけ保存すべきか」といった運用ルールです。特にRCEPとAANZFTAは、自己証明の選択肢や電子化が進み、証明書のライフサイクル管理がそのままコンプライアンス力の差になります。

この記事では、ビジネスマンが押さえるべき「有効期限」と「保存義務」を、条文ベースで整理し、実務での落とし穴と対策まで掘り下げます。


1. まず結論:期限は原則12か月、保存は原則3年。ただし国内法で延びる

RCEPもAANZFTAも、優遇関税の申告に使うProof of Origin(原産地の証拠書類)の有効期限は、**原則として発給または作成の日から12か月(1年)**です。

  • RCEP:
    「Each Party shall provide that a Proof of Origin remains valid for one year from the date on which it is issued or completed.」(第3章 Article 3.3)
    すなわち、証明書は発給または作成日から1年間有効とされています。
  • AANZFTA:
    「the Certificate of Origin shall be valid for a period of 12 months from the date of issue and must be submitted to the Customs Authority of the importing Party within that period」(Operational Certification Procedures, Rule 13(i))
    つまり、証明書は発給日から12か月有効であり、輸入国税関への提出もこの期間内が前提です。

保存義務は、どちらも協定上の最低ラインは3年です。

  • RCEP:
    • 輸出者・生産者・発給機関側:Proof of Originの発給日から少なくとも3年(国内法でより長くてもよい)。
    • 輸入者側:輸入日から少なくとも3年(国内法でより長くてもよい)。
  • AANZFTA:
    • 発給機関・製造者・生産者・輸出者・輸入者等は、輸出日または輸入日から3年以上の記録保存が求められます。

ただし、ここが重要です。協定はあくまで最低ラインを定めており、各国の国内法で保存年限が延びます。
たとえば、日本では輸入者の帳簿書類の保存期間が5年(輸入許可日の翌日から起算)とされています。
この点を踏まえ、社内規程は「協定の3年」ではなく、国内法や取引先国の要件を踏まえたより長めの年限に設定することが実務的には安全です。


2. 「証明書」と一口に言っても種類がある:期限管理はまず類型整理から

両協定とも、優遇関税の根拠となる原産地証拠は、大きく次の類型に整理できます。制度名や運用は国により差がありますが、期限と保存の基本的な考え方は共通です。

  • 第三者証明(Certificate of Origin:CO)
    発給機関が発行する原産地証明書(紙または電子)。
  • 自己証明(Declaration of Origin:DO)
    輸出者・生産者(または承認輸出者)が作成する原産地宣言。

RCEPの「Proof of Origin」は、COとDOを含む包括概念であり、協定上はこれが発給または作成日から1年有効とされています。
AANZFTAも同様に、「Proof of Origin」という枠組みで、発給または作成日から12か月有効としています。

実務上の注意点は、社内の管理台帳で「CO」と「DO」を同じ箱に入れてしまうと、起算点や保存対象の証憑が混ざり、税関検証対応で詰まることです。
台帳は必ず、「発給機関型(CO)」か「自己証明型(DO)」かを最初に分けて管理するのが安全です。


3. 有効期限:RCEPとAANZFTAで何が同じで、どこが落とし穴か

3.1 有効期限の基本ルール

  • RCEP:Proof of Originは、発給または作成の日から1年有効
  • AANZFTA:Certificate of Origin(Proof of Origin)は、発給または作成の日から12か月有効であり、輸入国税関への提出もこの期間内が前提。

ここでいう「有効」とは、原則として輸入申告で優遇税率を主張できる期間を指します。
AANZFTAでは「輸入国税関への提出がその期間内」という前提が条文上明示されているため、現場では期限を過ぎた提出は原則として認められないケースが多いと考えておいた方が無難です。

3.2 期限に直結する運用論点:遡及発給と再発給

現場でよくあるのは、「船積み後にCOが間に合わない」「記載誤りに気づいた」というケースです。協定は救済策を用意していますが、ここでも期限が効きます。

  • RCEP:
    遡及発給(retroactive issuance)については、船積み日から1年以内という運用が各国ガイドで示されています(協定本文では明文化されていませんが、実務上、発給日から1年の有効期間を前提に運用されています)。
  • AANZFTA:
    「Where a Certificate of Origin has not been issued as provided for in Paragraph 1 due to involuntary errors or omissions or other valid causes, the Certificate of Origin may be issued retroactively, but no longer than 12 months from the date of exportation…」(Operational Certification Procedures, Rule 2)
    すなわち、遡及発給は輸出日から12か月以内に限られます。

また、紛失時の「Certified True Copy(証明済み写し)」にも発給期限があります。
AANZFTAでは、原本の発給日から12か月以内に発行することが規定されています。

つまり、期限管理が甘いと「遡及発給で救えるはずが救えない」「写しの発行期限を過ぎた」という形で、税率メリットを取り逃がすリスクがあります。
輸出入のKPIが「申告」だけになっている組織ほど、この種の事故が起きやすいので注意が必要です。

3.3 バックトゥバックの盲点:二段輸出は期限が短くなる

中継国でバックトゥバック(back‑to‑back)を使う場合、再発給された証明の有効期限は原本を超えられません。

  • RCEP:
    「the period of validity of the back-to-back Proof of Origin does not exceed the period of validity of the original Proof of Origin」(第3章 Article 3.3(6)(b))
    つまり、バックトゥバック証明の有効期間は、原本の有効期間を超えないことになります。
  • AANZFTA:
    「the period of validity of the back-to-back Certificate of Origin does not exceed the period of validity of the original Certificate of Origin」(Operational Certification Procedures, Rule 10(2)(ii))
    こちらも、原本の最短期限に合わせる実務が条文構造上必要です。

中継在庫を長めに持つビジネスモデルでは、証明書の期限が先に尽き、出荷はできるが優遇は落ちる、という事態が起きます。
バックトゥバックを使うなら、原本の発給日を起点に在庫回転計画を置くことが、原産地メリットを守る上で重要です。


4. 保存義務:協定上の3年と、国内法で伸びる年限のギャップに注意

4.1 RCEPの保存義務は起算点が二種類

RCEPは、輸出者側と輸入者側で起算点を分けています。

  • 輸出者・生産者・発給機関など:Proof of Originの発給日から少なくとも3年(国内法でより長くてもよい)。
  • 輸入者:輸入日から少なくとも3年(国内法でより長くてもよい)。

さらに、記録媒体は電子でもよく、「迅速に取り出せる形」が求められます。

この「起算点の違い」を理解していないと、輸入者側が「証明書の発給日基準」で保存期限を計算してしまい、税関照会のタイミングで証憑が消えている、という事故につながります。
社内マニュアルでは、輸出者用と輸入者用で起算点を明確に分けて記載しておくと安全です。

4.2 AANZFTAは3年以上。ただし国ごとに上乗せが起きる

AANZFTAは、発給機関・製造者・生産者・輸出者・輸入者等に対し、輸出日または輸入日から3年以上の記録保存を求めています。

ただし、国内法で上乗せは普通に起きます。例として次のような差があります。

国・機関保存義務の年限(原産地関連書類)起算点の例
日本(税関)輸入者の帳簿書類は5年保存。輸入許可日の翌日から起算。
オーストラリア(DFATガイド)協定上は3年だが、トレーダーには少なくとも5年保存を推奨。輸入日または輸出日から起算。
ニュージーランド(通関局案内)輸入者は原産地関連文書を7年保存。輸入日から起算。

結論として、協定の「3年」だけを社内規程にすると、国別運用で破綻します。
複数国で取引する企業は、保存年限を社内で統一して長めに寄せる(例:5年)方が、コンプライアンスリスクを低減できます。


5. 実務で揉めないための「保存すべきもの」チェックリスト

税関検証で求められるのは、証明書そのものだけではありません。証明書に書いた内容を裏づける根拠の束が必要です。

日本の税関ガイダンスでも、宣誓書類に加え、契約、インボイス、BOM、工程表など広い範囲の記録保存が示されています。

最低限、次を案件単位でひも付けて保存するのが実務的です。

  • Proof of Origin(COまたはDO)
    • 原本または電子原本
    • 改訂履歴(訂正前後の差分、訂正理由)
  • 輸送・取引書類
    • インボイス、パッキングリスト
    • B/LやAWBなど輸送書類
  • 原産性の根拠
    • CTC(完全取得)の場合:材料のHSコード、部材表、仕入先情報など
    • RVC(地域付加価値)の場合:原価計算根拠、計算シート、会計記録
    • WO(完全取得・採掘・狩猟など)の場合:採取証明、工程証明など
  • バックトゥバックの場合
    • 原本のProof of Origin
    • 在庫移動証憑(倉庫移動記録など)
    • 中継加工なしの証拠(加工実績のないことを示す記録)
  • 例外対応の記録
    • 遡及発給の理由
    • 訂正前後の差分
    • 発給機関とのやり取り(メール・書面など)

ポイントは、「証明書の有効期限」と「証憑の保存期限」は別物だということです。
証明書が期限切れでも、検証は過去取引に対して起きるので、保存は続きます。


6. AANZFTAはルール改訂の適用範囲にも注意

AANZFTAは第二次改訂(Second Protocol、いわゆるAANZFTA Upgrade)が段階的に発効しています。

  • 2025年4月1日ではなく、2025年4月21日に、オーストラリア・ブルネイ・ラオス・マレーシア・ニュージーランド・シンガポールなど一部当事国間で第二次改訂が発効しています。
  • その後、ベトナムやタイなどでも追加で発効しています。

同じAANZFTA取引でも、相手国が改訂版(Second Protocol)を適用しているかで、証明の方式や運用がズレる可能性があります。
期限と保存の基本ルールは似ていますが、提出書類や運用細目は変わり得るため、輸入国側の最新ガイドライン(税関・外務省など)を必ず確認する必要があります。


7. まとめ:期限管理はコストではなく、関税メリットを守る投資

RCEPとAANZFTAの要点を整理すると、次のようになります。

  • 有効期限は、原則として発給または作成日から12か月
  • 保存義務は、協定上は3年だが、国内法で長くなるケースが多数。
  • バックトゥバックや遡及発給は、期限がさらに効くため、在庫回転や出荷スケジュールとの整合が重要。
  • 検証で税関が求めるのは、証明書そのものではなく、その内容を裏づける根拠書類の束

優遇税率は、使えた瞬間に価値が出ます。しかし検証に耐えられなければ、遡って否認され、追徴税や加算税、サプライチェーン上の信用毀損に直結します。
期限と保存を、現場のオペレーション設計として握ることが、最も堅い原産地コンプライアンスにつながります。

ATIGA・AJCEPの遡及発給とバックトゥバック発給を実務で使い切るための要件整理

原産地証明が「間に合わない」「経由地で積み替える」「一度輸入してから別国へ再輸出する」。この手の事象は、現場では珍しくありません。ところが、原産地証明の発給タイミングや記載ルールを外すと、関税メリットが消えるだけでなく、輸入側での差し戻し、追加資料対応、社内外の手戻りが発生します。

本稿では、ASEAN域内のATIGAと、ASEANと日本のAJCEPについて、遡及発給とバックトゥバック発給の要件を条文ベースで整理し、ビジネス担当者が運用設計できるところまで掘り下げます。国別の細かな申請手続は発給当局ごとに異なるため、最後に運用の考え方とチェックポイントもまとめます。

0. まず押さえる前提と用語

ATIGAの「Proof of Origin」は3つある

ATIGAでは、原産地証明に使える書類を総称してProof of Originと呼び、次の形態があります。
・原産地証明書 Form D
・電子原産地証明 e-Form D
・認定輸出者が作成する原産地申告 Origin Declaration (ASEAN Main Portal)

また、バックトゥバックは「最初の輸出国が出したProof of Originを根拠に、中継国が発行するProof of Origin」と定義されています。 (ASEAN Main Portal)

AJCEPの基本は原産地証明書 CO、様式はForm AJ

AJCEPはOperational Certification Procedures(OCP)とImplementing Regulations(IR)でCO(原産地証明書)の運用を定め、IRの添付様式としてASEAN側様式と日本側様式が提示されています。日本側様式ではForm AJとして示されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

1. 遡及発給とは何か

遡及発給は、ざっくり言えば「出荷時点までに原産地証明が出せなかったときの救済措置」です。重要なのは、遡及発給は原産地の要件を緩める制度ではない点です。あくまで、原産性が成立していることを前提に、手続上の遅れを補正するための仕組みです。

実務で遡及発給が問題になるのは、次のようなときです。
・輸出許可は切ったが、原産地証明の申請が間に合わず船が出た
・書類不備や入力ミスで発給が遅れた
・インボイスやB Lなど、証明書記載に必要な情報の確定が遅れた
・輸出側は間に合ったつもりでも、発給日が出荷日より後になっていた

ここから先は、ATIGAとAJCEPで要件が微妙に違うので、分けて整理します。

2. ATIGAの遡及発給の要件と実務ポイント

条文上の要件

ATIGAでは、Form Dは原則として出荷前または出荷時に発給されるべきもの、とされています。

そのうえで、次の場合に遡及発給が認められます。
・Form Dが、出荷時点で発給されなかった理由が、不可抗力的な誤りや記載漏れ、その他の正当な理由であること
・宣言した出荷日以後に遡及発給できる
・ただし、出荷日から1年を超えての遡及発給は不可
・遡及発給であることをIssued Retroactivelyとして明確に表示する

2022年以降の運用上の落とし穴

ATIGAのOCP改正により、Form Dが宣言出荷日より後に発給される場合は、Issued Retroactivelyの表示が必要になる、という運用が明確化されています。シンガポール税関の通達では、出荷日の翌日に発給されたケースでもIssued Retroactively欄をチェックする例が示され、従来の「出荷後3日を超えたらチェック」という扱いとの違いが明記されています。 (Singapore Customs)

実務上の示唆はシンプルです。
・宣言する出荷日を誤ると、意図せず遡及扱いになる
・輸出側の申請プロセスが短い場合でも、発給日が出荷日をまたぐだけで遡及表示が必要になり得る

いつまでに輸入側へ出せばよいか

ATIGAのProof of Originは、原則として発給日(Origin Declarationなら作成日)から12か月有効で、その期間内に輸入国税関へ提出する必要があります。 (ASEAN Main Portal)

遡及発給は「発給できる期限」と「輸入側へ提出する期限」が別物です。
・発給できる期限:出荷日から1年以内
・輸入側へ提出する期限:発給日から12か月以内
この2本立てで管理すると、輸入側への提出遅れを防ぎやすくなります。 (ASEAN Main Portal)

運用の組み方

遡及発給を起こさないのが最善ですが、起きる前提でプロセスを決めると事故率が下がります。
・出荷確定から発給申請までの社内締切を、出荷前日ではなく出荷2営業日前に置く
・インボイス番号と出荷日が確定しない案件は、案件管理上、黄色扱いにして目視で追う
・輸入者へは、遡及発給になる可能性と、受領予定日を早めに共有する

3. AJCEPの遡及発給の要件と実務ポイント

条文上の要件

AJCEPのIRでは、COは原則として出荷時点まで、または出荷日から3日以内に発給されるべきものとされています。

それでも間に合わなかった例外的な場合には、次の条件で遡及発給が可能です。
・輸出者の要請に基づき、輸出国の法令に従って遡及発給できる
・期限は出荷日から12か月以内
・Issued Retroactivelyの表示欄をチェックする
・遡及発給COには、出荷日を所定欄に記載する
・輸入者は、輸入国の法令に従う範囲で、遡及発給COを提出して特恵申告できる

いつまでに輸入側へ出せばよいか

AJCEPのOCPでは、COは発給日から1年以内に輸入国税関へ提出する必要があるとされています。さらに、不可抗力など正当な理由があれば期限後でも受理され得る旨が規定されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

運用の組み方

AJCEPでは、出荷後3日以内なら原則として通常発給に収まる設計です。とはいえ、輸出国当局の審査や繁忙で3日を超えることは現場では起こり得ます。
・出荷後3日を超えそうな兆候が出た時点で、輸入者へ遡及発給の可能性を連絡
・輸入者側で、CO後追い提出や申告訂正が可能かどうかを事前に確認しておく
・COのIssued Retroactively欄のチェック漏れは、輸入側差し戻しの典型なので、社内点検項目に固定する

4. バックトゥバック発給とは何か

バックトゥバックは、物流的には次のような構図のときに問題になります。
・最初の輸出国で原産地証明を取っている
・しかし、いったん中継国に入れて、そこから別の国へ再輸出する必要がある
・最終輸入国で特恵を取るには、中継国から最終輸入国への輸出に対応した証明が必要になる

ATIGAでは、バックトゥバックを「中継国が、最初の輸出国のProof of Originを根拠に発行するProof of Origin」と明示しています。 (ASEAN Main Portal)
AJCEPでも、輸入国(中継国)の当局が、原本COを根拠に新しいCOとしてバックトゥバックCOを発給できる、と規定しています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

ここで実務的に重要なのは、バックトゥバックは単なる積み替えだけの話ではない点です。中継国での在庫保管、分割出荷、コンソリなど、商流と物流が動くときの制度です。

5. ATIGAのバックトゥバック発給の要件と実務ポイント

発給主体と基本条件

ATIGAでは、中継国にあたる中間輸出加盟国の発給当局が、輸出者の申請に基づいてバックトゥバックForm Dを発給できます。

条件は多いのですが、実務的に効くところを絞ると次です。
・最初の輸出国が発行した有効なProof of Originを1通以上提示する
・原本が提示できない場合は、certified true copyを提示する

記載と紐付けの要点

バックトゥバックForm Dは、元のProof of Originと同種の情報を一定程度引き継ぎつつ、全ての欄を埋めることが求められます。

さらに、次の点は現場で差し戻しの原因になりやすいので要注意です。
・元のProof of Originの発給日と参照番号を、バックトゥバックForm Dの所定欄に記載する(複数ある場合も含む)
・中継国でのFOB価格を所定欄に反映する

分割出荷とコンソリの管理

ATIGAでは、分割出荷とコンソリについて、バックトゥバックの扱いが明示されています。
・分割出荷の場合、元の証明書の全額ではなく、分割した分の輸出価格を示す
・コンソリ(複数の元証明を束ねる)場合、最終輸入国への提示期限は、元のProof of Originのうち最も早く失効するものに合わせる
・中継国は、再輸出される数量の合計が元証明の数量を超えないように管理する責任がある

ここは運用で差が出ます。おすすめは、元証明ごとに残数量を管理する台帳を作り、分割出荷のたびに残を減らすシンプルな管理です。台帳がないと、倉庫と書類の整合が崩れて、発給当局の審査で詰まります。

最終輸入国の追加要求と検証リスク

最終輸入国側で、情報が不十分、または迂回の疑いがある場合、元のProof of Originの提出を求められる可能性があります。
また、バックトゥバック発給国にも、検証手続が適用され得ることが明記されています。

つまり、バックトゥバックは便利な一方で、書類の紐付けが弱いと検証リスクが上がります。特に、複数の元証明を束ねるコンソリは、照合可能性を最優先に設計すべきです。

認定輸出者によるバックトゥバック原産地申告

ATIGAでは、認定輸出者がバックトゥバックOrigin Declarationを作成できる枠組みもあります。条件はForm Dと同様の考え方で、元のProof of Originの保有、FOB価格の反映、数量超過防止、検証適用、同一品目について認定を受けた認定輸出者であることなどが求められます。

記録保持の最低ライン

ATIGAでは、輸出者や生産者、認定輸出者が、Proof of Originに関する記録を少なくとも3年間保持することが定められています。 (ASEAN Main Portal)
バックトゥバックは特に紐付け資料が命なので、元証明の写し、倉庫出入庫記録、分割台帳、インボイス連番、B Lなどを同じ案件フォルダに固定して保管するのが安全です。

6. AJCEPのバックトゥバック発給の要件と実務ポイント

発給主体と基本条件

AJCEPでは、元のCOが発給されている原産品が、輸入国(中継国)から別の締約国へ輸出される場合、輸入国(中継国)の当局が新しいCOとしてバックトゥバックCOを発給できる、とされています。発給には、輸入国(中継国)の輸出者または代理人の申請と、有効な元のCOの提示が必要です。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

ここはATIGAと同じ発想ですが、AJCEPは条文上、元のCO原本提示を前提に書かれています。原本管理を社内統制の対象にする価値があります。

経由輸送の追加資料

AJCEPでは、貨物が一つ以上の締約国または非締約国を経由して輸入される場合、輸入国税関が、通し船荷証券などの輸送書類、または貨物が荷卸し、積替え、良好な状態を保つための作業以外を受けていないことを示す証明書や情報の提出を求め得る、とされています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

バックトゥバック案件はハブ経由が多いので、この追加資料要件を最初から織り込むと、輸入側の詰まりが減ります。

分割出荷の要件

AJCEPのIRでは、分割出荷のバックトゥバックでは、分割分の輸出価格と数量をバックトゥバックCOに示し、分割の合計数量が元のCO記載数量を超えないよう中継国が管理することが求められます。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

様式上の表示

AJCEPのASEAN側様式では、所定欄にThird Country Invoicing、Back-to-Back CO、Issued Retroactivelyのチェック欄があり、バックトゥバックCOの場合はBack-to-Back CO欄、遡及発給の場合はIssued Retroactively欄をチェックするよう注記されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

日本側様式ではForm AJとして示され、Issued Retroactivelyのチェック欄が別の欄に配置されています。どの欄を使うかは様式に依存するため、使用様式を最初に固定するとミスが減ります。

紛失時の対応もセットで決める

AJCEPのIRでは、COの盗難、紛失、滅失があった場合に、輸出者が当局に新しいCOの発給や、適用可能な場合はcertified true copyの発給を求められる枠組みがあり、certified true copyは原本発給日から1年以内に発給されるべきことが示されています。

バックトゥバックは原本提示が前提になりやすいので、原本の物理管理と、紛失時のリカバリルートを同じ業務手順書に入れるのが現実的です。

期限管理

AJCEPのOCPでは、COは発給日から1年以内に輸入国税関へ提出する必要があります。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
バックトゥバックは、元COの期限、再輸出スケジュール、輸入申告の締切が絡むため、案件開始時点で期限表を作るのが安全です。

7. ATIGAとAJCEPを横断した実務チェックリスト

最後に、遡及発給とバックトゥバック発給で、現場で事故が起きやすい点をチェックリストにします。

A. 遡及発給での典型的なミス

・出荷日と発給日の前後関係の見落とし
・Issued Retroactively表示のチェック漏れ
・輸入側提出期限(有効期間)の管理漏れ
・輸入者へ遡及発給になることを伝えず、輸入申告が先に確定してしまう

ATIGAでは宣言出荷日をまたぐだけで遡及表示が必要になり得る運用が示されているので、出荷日の確定フローを丁寧に作るほど強くなります。 (Singapore Customs)

B. バックトゥバックでの典型的なミス

・元のProof of OriginやCOの原本管理が甘く、提示できない
・分割出荷の合計数量が元証明の数量を超えるリスク管理がない
・複数の元証明を束ねたときに、期限が最短の元証明に引きずられることを見落とす(ATIGA)
・経由輸送の追加資料要求(通し船荷証券、保全作業以外の非実施証明など)を想定していない(AJCEP) (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

C. 書類保存と検証対応

・原産性の根拠資料は、税関照会や検証の対象になり得る
・少なくとも3年の記録保持が要請される枠組みがある(ATIGA、AJCEPとも) (ASEAN Main Portal)
バックトゥバックは、倉庫と書類の整合が崩れた瞬間に説明が苦しくなるので、案件フォルダに紐付け資料一式を固定する運用が向きます。

8. まとめ

遡及発給とバックトゥバック発給は、どちらも「例外処理」ですが、例外処理こそ運用設計で差が出ます。

・ATIGAの遡及発給は、出荷日以後の発給を遡及扱いとし、出荷日から1年以内に発給、Issued Retroactively表示が必要
・AJCEPの遡及発給は、出荷時点または出荷後3日以内が原則で、それを超えた例外は12か月以内の遡及発給とチェック欄表示
・ATIGAのバックトゥバックは、分割出荷とコンソリの要件、元証明の参照番号記載、数量超過防止、期限は最短の元証明に合わせるなど、管理ポイントが多い
・AJCEPのバックトゥバックは、元CO提示を前提に新しいCOとして発給され、分割出荷の価額と数量表示、経由輸送の追加資料要求を想定する必要がある (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

明日からできる最小アクションとしては、次の2つが効きます。

  1. 出荷日確定から原産地証明発給までの社内締切を前倒しする
  2. バックトゥバック案件は、元証明番号と残数量を管理する台帳を案件単位で持つ

参考資料として、本文で参照したATIGAのOCP(Annex 8)、AJCEPのOCP(Annex 4)とImplementing Regulations、各国税関通達を一度通読しておくと、社内手順書の精度が一段上がります。

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講演トピック:HSコードを「経営資産」へ

私からは、以下の3つのテーマを中心に解説させていただきました。

  • アジア貿易における電子COの標準化と原産地検証リスク
  • タイ税関による電子機器パーツのHSコード解釈の厳格化
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各テーマ30分ほど時間をとり、実務上のリスクだけでなく、いかに戦略的な意味を持たせるかという視点で掘り下げました。その後のディスカッションでも、現場感のある鋭いご質問を多くいただき、非常に濃密な時間となりました。

【お詫びと資料配付について】 当日予定していた「EU・メルコスールFTA」については、時間の都合上、詳しくお話しすることができませんでした。資料には詳細をまとめておりますので、ぜひご活用いただけますと幸いです。

神谷町での懇親会:新しい出会いと「千里香」

研究会の後は、会場近く(神谷町)にて懇親会を開催しました。 「神谷町エリアはお店選び(コストパフォーマンス)が難しいかも……」と心配していたのですが、トムソン・ロイターのスタッフ様に素晴らしいお店をご紹介いただきました。

伺ったのは「千里香」というお店。非常にリーズナブルかつ美味しく、メンバー同士の交流もさらに深まりました。ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

次回も皆様とお会いできるのを楽しみにしております!

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アジアで電子COが標準化するほど、原産地検証リスクは上がる

いま企業が備えるべき実務ポイント

原産地証明書は長年、「紙が届くかどうか」「押印やサインが揃っているか」という世界で運用されてきました。しかしアジアでは電子COの実装が加速し、原産地情報がデータとして国境を越えて流れる時代に入っています 。通関は速くなる一方で、原産地の誤りや不整合が見つかりやすくなり、検証や照会のリスクも上昇しています 。

本稿では、アジアで起きている変化を一次情報中心に整理し、企業実務として何を整備すべきかを経営者と現場の両方の視点で解説します。

何が変わったのか

ASEAN域内では電子Form Dが原則に

ASEANでは、ATIGAのForm DがASEAN Single Window(ASW)を通じて電子的に発給・受領される運用が拡大してきましたが、2024年1月1日から「完全実装」段階に移行しました 。加盟国間でのe-Form Dの発給・受領が原則となり、紙は「技術的な問題が発生した場合のみ」という位置づけです 。

シンガポール税関も、2024年1月以降は加盟国が電子送信を全面実施しており、域内の輸入税関が紙のForm Dを受け付けない場合がある点を明示しています 。これは原産地証明の評価軸が「紙の提出」から「データの到達と整合」へ移行したことを意味します。

二国間でも原産地データの政府間送信が拡大

シンガポールと中国の間では、EODES(Electronic Origin Data Exchange System)により優遇原産地証明や関連証憑の電子送信が運用されています。中国は2020年5月から電子PCOの全面送信を義務化しており、企業は特恵関税を活用する際にePCOを利用しなければなりません 。

さらに2025年12月11日からは、RCEPでもEODESが拡張され、シンガポール発中国向けのRCEP等のPCOが電子送信できるようになりました 。

各国の発給業務もスマート化で集約が進む

タイでは外国貿易局がForm D申請をSmart C/Oシステムに統合し、2025年4月25日12:00をもって従来のEDI経由のForm D申請を終了しました 。4月28日からは完全にSmart C/Oシステムに移行し、RCEPやAJCEP、非特恵原産地証明書なども同システムに統合されています 。

日本のEPAでもデジタル化が段階的に進行

日本でも、EPAの第三者証明でJCCIが発給するCOについて、PDF発給の拡大や協定別のデータ交換導入が進められています 。日タイEPAにおけるe-COのデータ交換は、日本への輸入において2025年6月2日から本格運用が開始されました 。日インドネシアEPAでは、2024年1月以降インドネシア発給機関が紙の原産地証明書の発給を廃止し、原則としてe-COのみとなりました 。

システム障害も現実に起きる

電子化が進むほど、システム障害の影響も顕在化します。マレーシアでは、ASWゲートウェイの技術的問題により2026年1月14日からe-Form Dの送受信が不能となり、一時的に紙のForm Dに回帰しました 。送受信は2026年1月20日に全面復旧しましたが 、同様の障害は2025年6月にも発生しています 。

電子化は「止まらない」のではなく、「止まったときの手当まで含めて制度」と捉える必要があります。

なぜ電子COで原産地検証リスクが上がるのか

原産地情報が税関のリスク分析に直結

WCOの相互接続フレームワークでは、COデータ交換の目的として、輸入国がCO情報にアクセスしてリスク分析や必要な措置を取れるようにすることが明記されています 。電子的な原産地情報交換により、申告時点での真正性チェックをリアルタイムで行えるようになり、スキャン書類の確認負担も減少します 。

つまり電子COは、通関の時短ツールであると同時に、税関側の検証能力を引き上げるインフラです。企業側の入力ミスや根拠不足は、以前より早く広く検知されるようになります。

データ交換は世界的に拡大中

WCOの2022年調査では、回答した税関当局のうち22当局(26.2%)がCOのデータ交換を実装済みと回答しており、2016年以降に実装が増加したことが示されています 。政府間電子送信が真正性の担保や不正リスク低減に有効だという整理も示されています。

アジアはその中心であり、ASEANのe-Form Dや各国の単一窓口接続が積み上がるほど、「データでもらうのが当たり前」になっています。

制度設計自体が不正回避を前提にしている

日本税関のRCEP解説資料では、輸入の優遇税率適用には原産性の確認に加えRCEP原産国の特定が必要であること、関税差がある品目では迂回輸入の機会が生まれるためそれを防ぐ意図でルールが設計されている点が明示されています。この構造の下では、税関も企業も「制度上、検証が起きるのが前提」と考えるべきです。

企業実務で陥りやすい落とし穴

電子CO時代のリスクは、不正をしていなくても運用の弱さで発火します。

落とし穴1: HSコードが通関分類と原産地証明でズレる

電子化により、HSコードはより機械的に突合されます。マレーシア当局の案内でも、輸入国のHS2022導入によりHS2017のままのPCOだと輸入者が優遇申請で苦労する、転換作業が未完了のため当面HS2017を使うべきだといった現場課題が公式に言及されています 。

企業側は、分類の正しさに加え、協定ごとのHS版や運用要請まで管理対象に入れる必要があります。

落とし穴2: 原産性の根拠がデータ入力の裏で薄い

RCEPでは原産国特定に付加価値や工程などを裏付ける証憑が求められます。製造原価明細、インボイス、工程フローなど、何をどの条件で揃えるかは協定と商品で変わります。

電子COでは証明の提出は簡単になっても、後日の照会に耐える根拠作りが不要になるわけではありません。

落とし穴3: 紙の提出で何とかなる、が通用しにくい

域内では紙を拒否し得る、と公式に書かれています 。現場が旧来の癖で紙を回していると、優遇否認という形でコストが顕在化します。

落とし穴4: システム障害時の代替手順が社内に落ちていない

マレーシアのASW障害のように、現実に止まります 。止まったときに、どの条件で紙に切り替え、どの書類をどこに提出し、復旧後に何を再送するか。ここを決めていないと、出荷と通関が詰まります。

落とし穴5: データ交換が進むほど税関側の検知が早い

WCOのフレームワークは、CO情報へのアクセスがリスク分析に使われ、不正抑止につながることを明確にしています 。企業のミスは、発覚が「事後」から「申告時点」へ寄っていきます。

電子CO時代の検証フロー

以下の流れで検証が強化されています:

  • 輸出者が申請し、発給機関が電子COを発給
  • 単一窓口などを介して、輸入国側へCOデータが送信
  • 輸入申告時に、税関がCOデータと申告データを突合
  • リスク基準に合致すれば、追加資料要求や事後検証へ
  • 不整合があれば、優遇否認、追徴、ペナルティ、サプライチェーンの遅延

このプロセスの3)から4)が電子化で一気に強化されています 。

いま企業が整備すべき7つの実務アクション

経営としては「コスト削減」より「否認と遅延の回避」を狙うべき局面です。

1) HSコードを分類と原産地で同一マスターにする

協定別にHS版、品目別規則、社内採番、顧客採番が混ざると事故が起きます。最低限、社内の正本を一本化し、協定や国で必要な表記揺れを枝番管理にします 。

2) 原産性の根拠を案件単位で束ねる

商品別に、工程フロー、BOM、原価、仕入先証明、過去の発給実績をパッケージ化して保管します。出荷や申請の都度集めると対応が遅れます。

3) 申請データの入力品質をチェックリスト化する

電子交換では、コード表や必須項目の誤りがそのまま相手国に飛びます。出荷前に、原産地証明用のデータだけを抜き出して機械的に検算する工程を入れます 。

4) RCEPはどのProof of Originで運用するかを先に決める

RCEPではCOに加え複数の原産地申告があります。取引先ごとに必要な制度が変わるため、販売契約の段階で合意しておくのが安全です。

5) 障害対応の代替手順を輸送と通関まで含めて整備する

ASWゲートウェイ障害で紙に戻る、復旧で再び電子に戻る、という事実が公式に示されています 。物流会社や通関業者に何をいつ渡すかまで手順書に落としておきます。

6) 主要レーンで電子送信の到達確認を運用に入れる

電子COは「発給された」だけでは不十分で、「輸入国が受領できる状態で到達している」ことが重要です。EODESやASWのように送受信が前提の仕組みでは、参照番号やステータス確認が設計されています 。

7) 月次で優遇否認と差戻しの原因を棚卸しする

電子化が進むほど、否認や照会はデータ上の癖として現れます。否認が起きてから直すのではなく、否認が起きそうなパターンを先に潰す運用へ変えるのが肝です 。

まとめ

アジアの電子COは貿易円滑化のために進んでいます。ASEANのe-Form D全面実装は、偽造リスク低減や税関の検証時間削減につながると公式に述べられている通り、方向性は明確です 。

企業側の要点はひとつです。原産地証明を「書類作成」ではなく「データ品質と証拠管理」として扱う会社ほど、優遇の取りこぼしと検証リスクを同時に減らせます。

参考にした主な一次情報

ASEANのe-Form D全面実装告知 、シンガポール税関のASW案内とEODES案内 、WCOの相互接続フレームワークとデジタル化調査 、経産省のEPA COデジタル化リリース 、マレーシアMITIのASW障害告知 、ジェトロのタイC/Oスマート化報道 、タイDFTのSmart C/O移行告知 、日本税関の日インドネシアEPA案内

カナダ・ASEAN FTAが2026年妥結目標北米と東南アジアをつなぐ新しい「幹線ルート」

カナダとASEANが交渉している自由貿易協定(ASEAN・カナダFTA=ACAFTA)は、当初の2025年から1年延長され、2026年の妥結を正式な目標としています。global-scm+1
ASEANにとっては「初の本格的な北米とのFTA」、カナダにとっては「対米依存からの脱却を進めるための戦略協定」という位置づけです。jetro+1

いまどこまで進んでいるのか

  • 交渉は2021年11月にスタートし、2025年9月の第15回会合時点で「19分野・多章立て」の枠組み交渉が進行中です。[jetro.go]​
  • 自然人の移動、中小企業、競争政策、通関・貿易円滑化など、ルール関連の複数章は「妥結済み」と報告されています。[jetro.go]​
  • 一方で「物品・サービス貿易」「投資」の市場アクセス部分は遅れており、これが2025年中の妥結を断念した直接の理由になりました。[jetro.go]​

ASEANとカナダは、2026年まで交渉期限を延長することで合意し、「2026年妥結」が両者の公式なターゲットになっています。[jetro.go]​

なぜカナダはASEANにこだわるのか

  • カナダの輸出は依然として米国向けが圧倒的で、対米依存がリスクと認識されています。[asiapacific]​
  • カナダ政府は「対米以外の輸出を今後10年で倍増させる」ことを掲げ、その柱の一つがASEANとのFTAです。[asiapacific]​
  • ASEANはカナダにとって既に「第4位の商品貿易相手」で、二国間貿易額は400億ドル超まで拡大しています。[asiapacific]​

カーニー首相はASEAN首脳会合の場で、FTA交渉の加速と実施支援のための資金供与(技術協力・キャパシティビルディング)を約束しており、政治的なコミットはかなり強いとみられます。pm+1

協定の焦点となる分野

カナダ・ASEAN双方が「伸ばしたい」と考えている主な分野は、次のように整理できます。

  • デジタル貿易
    ASEANは域内のデジタル経済枠組み整備を優先課題にしており、電子商取引ルール、電子通関、データ関連ルールなどとFTAを連動させる構想があります。[asiapacific]​
  • エネルギー・資源
    LNG、再エネ、重要鉱物などで、カナダ側は投資・輸出拡大の余地が大きい分野と見ています。canada+1
  • 航空宇宙・高度製造業
    カナダの航空宇宙やシミュレーション機器など、高付加価値製造業のASEAN向け輸出増加が期待されています。mbot+1
  • 中小企業・サプライチェーン
    中小企業やローカル企業をサプライチェーンに組み込むための章もすでに交渉妥結済みとされ、包摂的な成長を意識した設計が進んでいます。[jetro.go]​

どこが「難所」になっているのか

妥結が1年延びた背景には、次のような「政治的・経済的にセンシティブな論点」が残っていることがあります。canasean+1

  • 物品関税の削減ペースと最終税率
    農産品・加工食品、工業製品などで、ASEAN側の保護度合いが国によって大きく異なる。
  • サービス・投資の開放度
    金融、通信、物流など、規制産業の開放範囲をどこまで踏み込むか。
  • 規制や基準の調和
    デジタル、環境、労働など「価値・基準」を含む分野で、先進国であるカナダと多様なASEAN諸国との折り合いをどうつけるか。

ただし、ルール分野の章が先行して妥結していることから、「器」の設計はかなり固まりつつあり、残りは「どの程度まで市場を開けるか」という政治判断のフェーズに入りつつあると言えます。[jetro.go]​

日本企業への影響のポイント

日本企業、とくに「ASEAN生産拠点+北米市場」の組み合わせを活用している企業にとって、ASEAN・カナダFTAは中長期的に無視できないテーマになります。iti+2

ポイントを絞ると、次の三つです。

1 ASEAN工場からカナダへ「新しい出口」が開く可能性

  • 自動車・自動車部品、電機・電子、機械、化学品など、ASEANに生産拠点を持つ日系企業は多い。
  • FTA発効後、ASEAN域内で一定以上の付加価値を生み、原産地規則を満たせば、カナダ向けに関税面のメリットが出る可能性があります。[www2.jiia.or]​
  • すでにCPTPPやRCEP、日ASEAN連携協定などがあり、そこに「ASEAN・カナダFTA」という選択肢が加わることで、関税・原産地戦略の組み合わせがさらに複雑かつ柔軟になります。kokushikan.repo.nii+1

つまり「どの工場から、どの協定を使って、どの市場へ出すか」という設計の自由度が増える一方で、社内での管理難度も確実に上がります。

2 カナダ企業との競争と協業が同時に進む

  • カナダ企業は、FTAを利用してASEAN市場で関税面の優位を取りにくる可能性があります。
  • 資源・エネルギー、農産品加工、航空宇宙、防衛・セキュリティ、デジタルサービスなどは、カナダ側に強みがある分野です。pm+1
  • 一方で、日本企業にとっては、カナダ企業と組んで「ASEAN+北米」をカバーする共同プロジェクトやジョイントベンチャーを設計する余地も生まれます。

競争が激しくなる分だけ、「一緒に組むと強い相手」も増えるイメージです。

3 原産地規則とサプライチェーン設計がさらに重要になる

  • すでに多くの日系企業はASEAN域内で「複数のFTAをどう使い分けるか」という課題に直面しています。[kokushikan.repo.nii.ac]​
  • 研究調査では、「FTAの関税メリット自体よりも、原産地規則への対応や事務コストがボトルネックになっている」ケースも指摘されています。jiia+1
  • ASEAN・カナダFTAが加わると、CPTPP・RCEP・日ASEAN・二国間EPAなどと合わせて「どの協定が一番有利か」を品目別・工場別にシミュレーションする必要が出てきます。jetro+1

貿易実務・通関・システム・サプライチェーンの担当者が、連携して設計し直すテーマになる可能性が高いです。

いまから準備しておくと良いこと

具体的な条文や関税スケジュールはまだ確定していないものの、2026年妥結を前提に今からできる準備を挙げると、次のようになります。jetro+1

  • 自社の「ASEAN→カナダ向け潜在輸出品目」をリストアップし、HSコード単位で洗い出す。
  • 現状どの協定(CPTPP、RCEP、既存EPAなど)を使っているか、使えるが使っていないものは何かを棚卸しする。
  • ASEAN拠点の原産地規則対応力(部材調達比率、原産地証明書発行体制、システム対応)を確認し、ボトルネックを把握する。jiia+1
  • カナダ市場の規制やニーズ(特に脱炭素、EV、デジタル、ヘルスケアなど)を、業界別に簡単でもよいので整理しておく。asiatimes+1

条文が出てから慌ててゼロから考えるより、「どこを見ればよいか」「関係しそうな品目は何か」が頭に入っているだけで、対応スピードに差が出ます。


この協定は、カナダにとっては対米依存からの脱却、ASEANにとっては北米アクセスの拡大、日本企業にとっては「ASEAN拠点の出口が増える」可能性を持つ枠組みです。asiapacific+1
全体像を押さえつつ、自社の事業に関係しそうなポイントだけでも早めにメモを作っておくと、その後の判断がかなり楽になります。

EU・インドFTA締結が目前に迫る:2026年1月27日署名がもたらすグローバル貿易地図の変革

2026年1月27日、世界経済の新たな転換点が訪れようとしています。欧州連合とインドが自由貿易協定に署名する見通しが濃厚となり、EUにとって史上最大規模の貿易協定が実現する可能性が高まっています 。この協定は2007年から19年にわたる長い交渉の末に結実するもので、世界人口の約4分の1を占める市場へのアクセスが開かれることになります 。[news.yahoo.co]​

署名までの経緯と最終局面

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、欧州議会での非公開ブリーフィングで、協定が1月中に署名されることを確認しました 。フォン・デア・ライエン委員長と欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、1月25日から27日の間にニューデリーを訪問し、ナレンドラ・モディ首相と共に署名式に臨む予定です 。[news.yahoo.co]​

この協定が現実味を帯びてきた背景には、グローバルな貿易環境の激変があります。米国の関税政策が一部セクターで50パーセントに達する水準まで引き上げられる中、インドとEUは相互に市場の多様化を求めています 。インドにとっては中国への依存度を下げ、欧州市場での輸出競争力を強化する好機となり、EUにとってはアジア太平洋地域での経済的プレゼンスを確保する戦略的な意義があります 。[news.yahoo.co]​

農業分野の除外という戦略的決断

今回の協定で最も注目すべき点は、農業分野が意図的に除外されたことです 。フォン・デア・ライエン委員長は、農業が当初から交渉の対象外であったことを繰り返し説明しています 。この決断は、インドの労働力の約44パーセントが農業に従事している現実を反映したものです 。[news.yahoo.co]​

欧州委員会は、乳製品や砂糖などの製品が協定の適用範囲外となることを既に確認しています 。農業分野がインドにとって極めてセンシティブな政策領域であり、EU産農産品の市場開放に対する国内の強い抵抗があったため、この除外は協定全体の実現を優先した現実的な選択でした 。[news.yahoo.co]​

協定がカバーする主要産業

農業を除外しても、この協定はEU史上最大規模の貿易協定となります 。協定の恩恵を受けると見込まれる主要セクターは以下の通りです。[news.yahoo.co]​

インド側の主要輸出品

  • 衣料品、革製品:EU市場での競争力向上が期待される労働集約型産業
  • 医薬品:欧州市場でのアクセス改善
  • 石油製品、電子機器(スマートフォン):現在も主要輸出品
  • 鉄鋼、宝飾品、自動車部品:付加価値の高い製造業製品
  • サービス輸出:通信、運輸、ビジネスサービス、ITサービス[news.yahoo.co]​

EU側の主要輸出品

  • 航空機および部品:高度技術製品
  • 電気機械、化学製品:先進工業製品
  • ダイヤモンド(原石):宝飾品加工産業向け
  • 知的財産権サービス、IT・通信サービス:高付加価値サービス
  • 専門サービス:コンサルティング、設計など[news.yahoo.co]​

現在の通商関係の実態

2024年度から2025年度にかけて、インドとEUの二国間商品貿易額は1365億3000万ドルに達しました 。内訳はインドからの輸出が758億5000万ドル、輸入が606億8000万ドルとなっており、EUはインド最大の商品貿易パートナーです 。[news.yahoo.co]​

サービス貿易も活発で、2023年度から2024年度において、インドはEUに300億ドルのサービスを輸出し、230億ドルのサービスを輸入しました 。スペイン、ドイツ、ベルギー、ポーランド、オランダがインド輸出の主要なEU仕向け地となっています 。[news.yahoo.co]​

現行の関税障壁と競争上の不利

インドの繊維製品は現在12パーセントから16パーセントのEU関税に直面しており、バングラデシュやベトナムなどEU貿易協定の下で特恵アクセスを享受する競合国と比べて不利な立場に置かれています 。この関税格差の解消が、インド側にとって協定締結の大きな動機となっています 。[news.yahoo.co]​

投資フローの現状と将来性

投資面では、2000年4月から2024年9月までの累積外国直接投資で、EUからインドへの投資額は1174億ドルに達し、インドへの総FDI流入の16.6パーセントを占めています 。現在約6000社の欧州企業がインド国内で事業を展開しています 。[news.yahoo.co]​

一方、インドからEUへの対外直接投資額は約400億4000万ドルで、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギーがインドへの主要なEU投資国となっています 。協定締結後は、これらの投資フローがさらに加速すると予想されます。[news.yahoo.co]​

交渉の長い道のりと挫折からの復活

インドとEUのFTA交渉は2007年に開始されましたが、2013年まで続いた交渉は複数の対立点により停滞しました 。主な争点は以下の通りでした。[news.yahoo.co]​

  • 自動車関税の水準
  • ワインと蒸留酒の市場アクセス
  • インドのIT企業向けデータ保護規制
  • 知的財産権の保護水準
  • 労働基準と政府調達の透明性[news.yahoo.co]​

2016年から2020年にかけての交渉再開の試みは限定的な進展しかもたらしませんでしたが、2020年以降に勢いが戻りました 。2022年6月、インドとEUは自由貿易協定、投資保護協定、地理的表示協定を含む交渉を正式に再開し、2026年1月の署名に向けた現在の推進力へとつながりました 。[news.yahoo.co]​

日本企業への影響と対応戦略

競争環境の変化

日本は2011年8月にインドとの間で経済連携協定(EPA)を既に発効させており、この点では現段階でFTAを締結できていないEUより経済関係の深化で先行しています 。しかし、EU・インドFTAの締結により、欧州企業がインド市場で関税面の優位性を獲得すれば、競争環境に変化が生じる可能性があります。[murc]​

自動車産業への影響

自動車部品産業では特に慎重な対応が求められます。インド商工会議所のトップは、EU製部品が規模と自動化、補助金という強みを持っているため、一律の関税削減が国内サプライヤー、特に中小企業に打撃を与えかねないと警告しています 。インド自動車工業会も、完成車とエンジンを例外品目とするよう強く求めており 、この動向はインド市場で事業展開する日系自動車メーカーやサプライヤーにとって注視すべき点です。hoppindia.hoppin+1

新たな機会の創出

一方で、インドを生産拠点としてEU市場に輸出する日本企業にとっては、新たな機会が生まれる可能性があります 。日本からインドへの直接投資やインド国内での日本企業の生産活動は、EU・インドFTAを活用することで欧州市場へのアクセスが改善される可能性があります。[iti.or]​

医薬品、IT・ビジネスサービス、繊維などの分野で、インドに拠点を持つ日本企業は、EU市場での競争力向上の恩恵を受ける可能性がある一方、EU企業との直接競争が激化するリスクも考慮する必要があります。

今後の実務的な準備

協定が1月27日に署名された後も、各国議会での承認プロセスが必要となります 。インドのピユシュ・ゴヤル商工大臣は、最新の協議が「非常に実質的」であったとしながらも、最終合意は完全にバランスが取れ、相互に有益なものでなければならないと強調しています 。reuters+1

日本企業として取るべき準備は以下の通りです。

短期的対応(3〜6カ月)

  • 協定条文の詳細分析:関税削減スケジュール、原産地規則、サービス貿易の自由化範囲
  • 既存の日印CEPAとの比較検討:どちらの協定が有利か品目ごとに精査
  • 競合他社の動向調査:欧州企業のインド市場戦略の変化を把握

中期的対応(6カ月〜2年)

  • 日印CEPAの活用強化:既存協定の利用率向上とメリット最大化
  • インド国内での付加価値創出:現地調達率の向上と生産能力の拡充
  • 現地パートナーとの協業深化:技術移転や共同開発の推進

長期的戦略(2年以降)

  • 三角貿易の可能性検討:日本→インド→EU、またはEU→インド→第三国のルート開発
  • グローバルサプライチェーンの再構築:最適な生産・調達拠点の配置見直し
  • 新規市場開拓:EU・インド間の貿易拡大に伴う周辺ビジネス機会の発掘

この歴史的な協定は、世界貿易地図を大きく塗り替える可能性を秘めています 。日本企業にとっては、脅威と機会が混在する新たな競争環境の始まりを意味しており、戦略的な対応が求められる重要な転換点となります 。moneycontrol+1

トランプ大統領による欧州追加関税の撤回が示す米欧貿易の新局面


2026年1月21日、米国のドナルド・トランプ大統領は、グリーンランド領有に反対する欧州8カ国に対して表明していた追加関税を撤回すると発表しました。この発表は世界経済フォーラム年次総会が開催されているスイス・ダボスで、NATO事務総長マーク・ルッテとの会談後になされたものです。わずか数日前まで激化していた米欧間の通商摩擦が、急転直下で緩和に向かった背景には、北極圏をめぐる戦略的な合意形成があります。iwate-np+3

関税発動予告から撤回までの経緯

トランプ大統領は1月17日、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、オランダ、フィンランドの8カ国に対し、2月1日から全製品に10パーセントの追加関税を課すとSNSで表明していました。さらに6月1日からは税率を25パーセントに引き上げ、米国によるグリーンランド完全取得に関する合意が成立するまで継続するとしていました。この発表は欧州各国に衝撃を与え、対象となった8カ国は共同声明を発表して米国の姿勢を「危険」と批判していました。[jetro.go]​[youtube]​

しかし1月21日、トランプ大統領はルッテNATO事務総長との協議を経て、「グリーンランド、そして北極圏全体に関する将来の取引の枠組み」を形成したとして、2月1日の関税発動を撤回すると発表しました。大統領はこの合意について「実現すれば米国と全てのNATO加盟国にとって大きな利益となる」と述べましたが、具体的な合意内容については明らかにしていません。CNBCのインタビューでは「少し複雑な構想」であり、協議が進展するにつれて詳細を提供すると説明しています。stlpr+3

EU側の対抗措置と貿易協定承認の延期

一方、EU側もトランプ政権の圧力に対して強硬姿勢を示していました。欧州議会は1月20日、2025年7月に米国と合意した貿易協定の承認を延期することで合意しています。この協定では、EUが全ての米国製工業製品に対する関税を撤廃し、米国は欧州製品への関税を15パーセントに設定する内容が含まれていました。47news+3

欧州議会の議員は「これは極めて強力な手段だ。米国の企業が欧州市場を諦めることに同意するとは思えない」と述べ、協定承認延期が米国への圧力手段であることを示唆しています。昨年7月の合意では、EUは7500億ドル相当の米国産エネルギー製品を購入し、さらに6000億ドルを米国に投資することに同意していました。この協定の猶予期間は2月6日に終了し、EUが延長措置を取るか新協定を承認しない限り、2月7日に対米関税が発動する状況にありました。diamond+2

グリーンランドの戦略的価値と北極圏をめぐる競争

今回の関税騒動の背後には、グリーンランドの戦略的・経済的価値の急上昇があります。地球温暖化に伴う北極の海氷融解が加速しており、北極圏は地球平均に比べて4倍の速さで温暖化が進んでいるとされています。これにより、欧州とアジアを結ぶ北極航路や北米北岸を通る北西航路といった新たな海上交通路の開発価値が急速に高まっています。nikkei+1

グリーンランドには、ウランやグラファイト、レアアースといった米国の安全保障にとって重要な鉱物資源が豊富に眠っており、携帯電話やコンピューター、電池などのハイテク機器に不可欠な資源の供給源として注目されています。米国や西側諸国は、重要鉱物市場における中国の支配的な立場を緩和しようと、グリーンランドへの関心を強めている状況です。米戦略国際問題研究所の専門家は「北極の海氷融解は、経済と安全保障の競争に向けた全く新しい舞台をつくっている」と指摘しています。biz.chosun+2

ビジネスへの影響と今後の展望

今回の関税撤回により、欧州企業は差し迫った追加負担を回避できましたが、米欧間の通商関係は依然として不安定な状況にあります。2025年8月から既に米国は欧州製品の大部分に15パーセントの関税を課しており、欧州の製造業者は出荷の遅延、価格の引き上げ、利益率の低下といった影響を受けています。国際商業会議所の副事務総長は「企業は前例のない高関税率という現実に直面している」と述べ、米国経済に深刻な影響が出ない限り状況が改善する可能性は低いと指摘しています。[reuters]​

日本企業にとっても、米欧間の通商摩擦は重要な関心事です。欧州市場への輸出や現地生産を行っている企業は、EU側の対抗措置や市場環境の変化を注視する必要があります。また、北極圏の開発競争が激化する中で、資源アクセスやサプライチェーンの再編が今後のビジネス戦略に影響を与える可能性があります。

グリーンランドと北極圏をめぐる「取引の枠組み」の具体的内容が今後明らかになるにつれて、国際貿易環境はさらなる変化を迎えるでしょう。2月6日の貿易協定猶予期限、2月7日の潜在的な関税発動日という重要な日程が迫る中、米欧の協議動向を継続的に監視していくことが、グローバルに事業展開する企業にとって不可欠となっています。

2026年初の最新版 日本の主要EPA交渉はどこまで進んだか

日本企業にとってEPAは、関税の引下げだけでなく、原産地規則、通関の円滑化、投資やデジタル取引のルール整備まで含む、実務インフラそのものです。日本は既に多くの協定を持ち、貿易額ベースのカバー率は約8割とされますが、次の成長市場や戦略地域を押さえる動きは続いています。 (経済産業省)

では、いま交渉中の案件はどこまで進み、企業は何を準備すべきでしょうか。外務省が2026年1月6日に更新した「交渉中」「交渉中断中」の一覧を軸に、公開情報だけで整理します。 (外務省)


まず全体像 日本が抱える交渉案件は8本

外務省の整理では、交渉中が6本、交渉中断中が2本です。 (外務省)

相手国・地域ステータス直近の公式動き公表されている主な論点企業側の見どころ
バングラデシュ交渉中だが大筋合意2025年12月22日に大筋合意を確認、署名に向け協力と発表貿易投資拡大が主眼。交渉開始は2024年3月近い将来、制度設計が確定しやすい
UAE交渉中2025年12月16〜19日に第6回会合、次回日程は調整へ物品、原産地、サービス、競争、知財、デジタルなど幅広い章立てルール整備の影響が大きい
GCC交渉中交渉再開後の第2回会合を2025年6月30〜7月3日に東京で実施物品、原産地、サービス、通関円滑化、投資、知財など6カ国一括のため、制度統一の行方が鍵
日中韓FTA交渉中外務省の交渉会合の公表は第16回が2019年11月近年は首脳、閣僚対話で「高いレベル」の協力を再確認再起動するかが最大の論点
トルコ交渉中外務省の交渉会合の公表は第17回が2019年10月長期化。経済界から早期妥結要望も進展の兆しを見極める局面
コロンビア交渉中外務省の交渉会合の公表は第13回が2015年9月長期停滞再開有無のシグナル待ち
韓国交渉中断中外務省の公表上は2011年の局長級事前協議まで交渉再開の環境醸成段階で停止実務上は他枠組みでの補完が中心
カナダ交渉中断中外務省の公表上は2014年11月の第7回会合まで中断CPTPPなど既存枠組みとの棲み分け

出所は外務省の各案件ページと、直近会合の報道発表です。 (外務省)


署名が視野に入った バングラデシュは企業が最も準備しやすい局面

バングラデシュは2025年12月22日、両国外相級の電話会談で大筋合意を確認し、署名に向け協力を継続すると発表しました。 (外務省) 経産省も同日付で、大筋合意に至った旨を整理しています。 (経済産業省)

ビジネス上のポイントは2つあります。

1つ目は、制度の確定が近いことです。大筋合意の段階では、本文の精査、国内手続、署名、発効という順に進みます。大筋合意になったからといって、翌日から優遇税率が使えるわけではありません。ここを誤解しないことが重要です。 (外務省)

2つ目は、同国の制度移行リスクを関税面で吸収できる可能性です。バングラデシュはLDC卒業が予定されており、これまでの特恵条件が将来変わり得る中で、EPAが貿易条件の安定化策になり得ると整理されています。 (JETRO)

交渉分野としては、少なくとも公式発表で、物品貿易、原産地規則、税関手続と貿易円滑化、投資、電子商取引、知的財産などが議題になっています。 (外務省)


UAEは第6回まで進行 いま注目すべきはデジタルと持続可能性章

日UAEは2024年9月に交渉開始を決定し、GCC交渉と並行しつつ包括的EPAを目指すという建付けです。 (外務省)

直近では2025年12月16〜19日にドバイで第6回会合が開催され、物品、原産地、サービス、競争政策に加え、貿易及び持続可能な開発、知的財産、デジタル貿易などが議論対象として明記されています。 (外務省)

企業側の実務で効いてくるのは、関税表より先に、ルール章の影響が見え始める点です。例えばデジタル貿易や知財、政府調達が含まれるタイプのEPAは、現地での販売形態、データ移転、委託先管理、入札参加要件に波及しやすいからです。少なくとも交渉の議題としてデジタルが前面に出ていることは、ウォッチすべきシグナルです。 (外務省)


GCCは交渉が再起動している 2回目まで進んだが多国間ゆえ時間軸は読みづらい

日GCCは、2006年開始、2009年中断を経て、首脳レベルの一致を受けて交渉を再開し、再開後の第1回会合を2024年12月にリヤドで開催しました。 (外務省) その後、再開後第2回会合が2025年6月30〜7月3日に東京で行われています。 (外務省)

第1回では電子商取引、知財など、再開直後から現代的な章立てが議題に入っています。 (外務省) 第2回では投資も議題として明記されました。 (外務省)

GCCはエネルギー安全保障の観点でも重要だと、外交青書でも位置付けられています。 (外務省) ただし、6カ国を束ねる交渉である以上、関税や原産地だけでなく、制度運用の整合が最後の難所になりがちです。企業としては、発効時点の実務運用を見据え、輸入通関のルール、原産地証明の提出形態、事後検証の運用など、運用設計がどう落ちるかを注視するのが現実的です。 (外務省)


日中韓FTAは交渉の再起動が焦点 公表ベースでは2019年が最後

外務省が公表する交渉会合の一覧では、第16回が2019年11月で、以降の交渉会合は明示されていません。 (外務省)

一方で、2024年5月の日中韓首脳会議を受けて、交渉加速に向けた流れが報じられています。 (JETRO) 2025年3月には、3カ国の貿易担当閣僚が「高いレベル」の3国間FTAに向けた協力を強める方針を確認したと報じられました。 (Reuters)

企業目線での結論はシンプルです。制度が明文化されるまでは準備に過剰投資せず、ただし再起動の兆候が出た瞬間に動けるよう、社内の基礎データを整えておく。これが最も費用対効果が高いです。


長期停滞案件 トルコとコロンビアは情報の鮮度に注意

日トルコは外務省ページ上、交渉会合の公表が2019年10月の第17回までとなっており、長期化しています。 (外務省) 経団連も2025年に早期締結を求める文書を公表しています。 (経団連)

日コロンビアは外務省ページ上、交渉会合の公表が2015年9月の第13回までです。 (外務省) 近年も在コロンビア日本大使館の発信で「交渉中」との言及は見られますが、交渉再開の事実認定には一次情報の確認が必要です。 (在コロンビア日本国大使館)


交渉中断中 韓国とカナダは実務上は別枠組みで補完が現実的

日韓EPAは外務省で交渉中断中に分類され、ページ上は2011年の局長級事前協議までが整理されています。 (外務省)

日カナダも交渉中断中に分類され、ページ上は2014年11月の第7回会合までが整理されています。 (外務省)

両国とも、日本側には既に他の経済枠組みが存在するため、企業実務としては、いま動いている交渉案件を優先的に見に行くのが合理的です。 (外務省)


企業が今やるべき準備 交渉の中身が見えた瞬間に勝負が決まる

交渉はブラックボックスになりやすい一方、企業の準備は公開情報だけでも前倒しできます。

1 取引棚卸しをEPA視点で作る
対象国向けの売買を、相手国、HS、取引額、調達国、加工工程で並べ、関税メリットより先に、原産地規則で詰まりそうな品目を先にあぶり出します。

2 原産地の証拠を先に固める
サプライヤー証明、工程表、BOM、原産材料の原産国を、社内監査に耐える形でまとめておく。協定発効後に駆け込みでやると、証明の品質が落ちやすいです。

3 ルール章の影響を部署横断で点検する
UAEやGCCのようにデジタル、投資、知財が議題に入る案件では、貿易部門だけでなく、法務、IT、営業、調達も巻き込み、想定される義務や権利を洗い出しておくと、発効後の手戻りが減ります。 (外務省)


まとめ 2026年初に最も実務が動くのはどれか

最短で現実味が高いのは、既に大筋合意に到達したバングラデシュです。 (外務省)
次に、交渉会合が継続して積み上がっているUAEと、再起動後に複数回会合まで進んだGCCが続きます。 (外務省)
日中韓FTA、トルコ、コロンビアは、再開や加速のシグナルを見極める局面です。 (外務省)

公開情報で追える範囲でも、交渉の進捗は十分に読めます。ポイントは、発効後に慌てるのではなく、発効前に社内データを整え、制度が見えた瞬間に社内意思決定を走らせられる状態を作ることです。

日英EPAで「e-CO完全義務化」と聞いたら最初に押さえるべき事実

結論から言うと、日英EPAにおける特恵関税の原産地証明は、紙の原産地証明書を発給して提出する方式ではありません。日英EPAは自己申告制度のみを採用しており、第三者証明制度は採用されていません。

そのため、日英EPAについて「e-CO(電子原産地証明書)が完全義務化される」という表現は、用語の混同が起きている可能性が高いです。ここで言うe-COは、一般に第三者証明制度を採用するEPAで、発給機関から税関システムへ原産地証明書データを直接送る仕組みを指します。 (税関総合情報)

この記事では、日英EPAの正しい実務像を整理したうえで、なぜ誤解が起きやすいのか、企業が何を整備すべきかを、一次情報ベースで深掘りします。

1. 日英EPAの原産地証明は、そもそも「証明書」ではなく「申告」が基本

日英EPAで特恵を取る方法は、自己申告の2ルートです。

1つ目は、輸出者または生産者による「原産地に関する申告」。これは、協定で定められた文言を、日本語または英語で、インボイスなどの商業上の文書に記載して行います。翻訳は不要とされています。

2つ目は、輸入者の知識に基づく申告。輸入者が原産性を示す情報を保有していることが前提になります。

つまり、日英EPAの世界では、紙のC/Oを商工会議所や当局に申請して受け取る、という発想自体が主役ではありません。英国政府側の説明資料でも、日英EPAは自己証明ができ、税関当局の証明書は不要である点が明示されています。 (GOV.UK)

2. 「電子化」の中身は、e-COではなく、原産地申告の電子運用

日英EPAの実務で言う電子化は、次の意味合いになります。

・申告文を載せるインボイスやパッキングリストが、PDFや電子インボイスで運用される
・申告文をインボイスとは別紙に作成して添付することも可能
・商流が複雑でも、協定が求める要件に沿って、どの文書に申告文を載せるかを設計できる

特に注意したいのは三国間取引です。第三国の事業者がインボイスを発行する形は現実に多い一方、日英EPAの手引きでは、第三国の事業者が発行した文書上に、輸出締約国の輸出者が申告文を作成することは想定されていない、と整理されています。代替として、輸出締約国側の輸出者が発行する別の商業文書(例としてデリバリーノート)に申告文を載せる運用が示されています。

この論点は、紙か電子かの問題ではなく、どの当事者が、どの文書で、原産地申告を作成するかという統制設計の問題です。

3. 少額免除と保存義務。電子化で楽になるが、責任は軽くならない

日英EPAでは、課税価格の総額が20万円以下の場合、特恵待遇の要求の根拠となる書類の提出が不要と整理されています。

一方で、保存義務は明確です。

・輸入者は、日本の国内法令により、輸入許可日の翌日から5年間、原産品に関する書類を保存
・輸出者自己申告を作成した日本の輸出者および生産者は、作成日から4年間、申告書の写しと原産性を示す記録を保存

ここで重要なのは、紙の提出が減っても、事後確認や検証がなくなるわけではないという点です。税関はリスク評価に応じて、輸入申告時または輸入許可後に確認を行い、要件を満たさない場合は特恵税率が認められない可能性があります。

4. では「e-CO完全義務化」は何を指しやすいのか。混同の正体

日本の貿易実務でe-COという言葉が強く使われるのは、第三者証明制度を採用するEPAで、紙の原産地証明書に代えて、発給機関から税関システムへデータを直接送る運用が始まっているからです。税関も、e-COを「NACCSで受信した原産地証明書データ」として整理しています。 (税関総合情報)

実際、日インドネシアEPAではe-COの本格導入が進み、本格運用後は輸入申告でe-COのみ提出を求める運用が説明されています。 (ジェトロ)

さらに、商工会議所が発給する原産地証明書には、非特恵と特恵があり、特恵側はEPAに基づく特定原産地証明書です。企業の現場では、ここでの電子化やデータ交換の話を、日英EPAにも同じように当てはめてしまう誤解が起きやすい構造があります。 (東京商工会議所)

整理すると、次の対比になります。

区分日英EPAe-COが登場しやすいEPA
証明の仕組み自己申告のみ第三者証明制度を採用する協定で多い
典型的な証憑インボイス等への原産地申告文、輸入者の知識発給機関が発給する原産地証明書
電子化の姿文書運用の電子化、保存の電子化証明書データの税関システムへの直接送信

日英EPAをe-COの延長で理解すると、不要な申請や誤った手続設計を招きます。逆に、e-CO型の協定を紙前提で回していると、特恵が取れないリスクが現実化します。

5. 企業がいま整備すべき実務チェックリスト

日英EPA向けに、すぐ着手すべき論点を絞ります。

・原産地申告文を載せる文書を社内標準化する(インボイス、別紙、パッキングリストのどれを正とするか)
・三国間取引の文書設計を見直す(第三国インボイスの場合の代替文書運用)
・少額免除の適用条件を運用ルールに落とす(20万円以下の扱い)
・保存義務に耐える証跡設計を作る(輸入者5年、輸出者4年)
・事後確認を前提に、原産性を説明できる形でデータを残す(BOM、工程、サプライヤー情報、PSR判断)

まとめ。日英EPAのキーワードは「自己申告の電子運用」。e-COとは別物

日英EPAは自己申告制度のみで動いており、第三者証明制度の電子化として語られるe-COとは制度設計が異なります。

日英EPAで企業が勝つために必要なのは、紙をなくすことではなく、原産地申告をどの文書で、誰が、どの責任範囲で作成するかを明確にし、保存と説明責任に耐える証跡を整えることです。そこまで設計できれば、電子化は自然にコストを下げ、スピードを上げる武器になります。

アフリカ自由貿易の新時代 —— 南アフリカが切り開く転換点

アフリカでビジネスを展開する企業にとって、2026年は大きな転換点の年となりました。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の枠組みに基づき、南アフリカ共和国が本格的な関税引下げを始めたからです。
本稿では、南アフリカで進む関税撤廃の仕組みと背景、そして日本企業にとってのリスクとチャンスを分かりやすく解説します。


1. 2026年、南アフリカで始まった関税引下げ

2026年1月、南アフリカ歳入庁(SARS)はAfCFTA協定に基づく新しい関税スケジュールを施行しました。これは2024年から段階的に進められてきた優遇貿易の「第3フェーズ」にあたります。

AfCFTAでは、アフリカ各国が輸出入の約9割を占める「非敏感品目」の関税を段階的に撤廃することを目指しています。南アフリカが属する南部アフリカ関税同盟(SACU)では、これらを5年以内にゼロにする計画のもと進展しており、2026年はいよいよ本格的な転換期です。

有機化学品、ゴム製品、ガラス、銅製品、機械部品などを中心に関税が大きく引き下げられ、域内での取引コストが急速に低下しています。アフリカ内でのビジネスがより実行しやすくなっているのです。


2. 「資源輸出型」から「付加価値型」ビジネスへ

南アフリカ政府がこの動きを強力に推進する目的は、アフリカ経済の付加価値化と産業成長です。これまでのように「資源を採掘して輸出し、製品を輸入する」構造から脱却し、「製造・加工を自ら行う産業構造」への転換を目指しています。

特に自動車や医薬品、食品加工などでは、南アフリカをハブにした域内生産ネットワークが広がりつつあります。
例えば、南アフリカで組み立てた車両をケニアやガーナへ無関税で輸出するモデルが現実味を帯びてきました。今後、アフリカ内部での「ものづくり」が加速していくことが期待されます。


3. カギを握る「原産地規則」

関税がゼロになるといっても、条件を満たす必要があります。その条件が「原産地規則(Rules of Origin)」です。これは、「どの国・地域で付加価値が生まれたか」に基づいて関税の優遇を受けられる仕組みのことです。

2026年時点で全品目の約9割は合意済みですが、自動車・繊維製品など一部では依然として厳しい基準が設けられています。
たとえば、多くの製品では全体の40〜60%程度の価値がアフリカ域内で生み出されていることが求められます。日本企業が南アフリカに進出する際、部品をすべて日本から輸入する形では優遇を得にくくなるため、現地調達やパートナー企業の育成が重要になります。


4. 対米関係と地域戦略の分岐点

2026年は、米国との貿易関係にも注目が集まっています。特に、米国の「対アフリカ成長機会法(AGOA)」の行方が不透明で、南アフリカはアフリカ域内貿易を強化することで、外部市場への依存を減らそうとしています。

こうした動きは、アフリカ内部での経済連携を強め、世界的な不確実性への耐性を高めることにつながります。
南アフリカを拠点とする企業にとっても、市場の多様化とリスク分散という点で大きなメリットがある流れです。


5. 今後の展望 —— 日本企業にとってのチャンス

南アフリカの関税引下げは、アフリカ大陸全体がひとつの巨大市場に向けて再構築される流れの中心にあります。南アフリカは、金融・物流・インフラの面でアフリカ有数の拠点となっており、この統合を主導する立場に立とうとしています。

日本企業にとっても、南アフリカは「単なる輸出先」ではなく、**13億人のアフリカ市場への玄関口(ゲートウェイ)**となる存在です。今後は、関税だけでなく物流、電子決済(PAPSS)、非関税措置の緩和といった「貿易環境の全体的な変化」を見据えた戦略設計が求められます。


特定の業界(例えば、自動車部品や精密機器)に焦点を当てた詳細な関税率分析や競合企業の進出動向レポートも作成可能です。ご関心があればお知らせください。