米国・インド「電撃和解」の深層。25パーセント関税撤廃が示す新たなサプライチェーンの地図

2026年2月12日 | 国際貿易・地政学リスク分析

2026年2月10日、ホワイトハウスとインド首相府から発表された「暫定貿易合意」は、世界中のビジネスリーダーに衝撃を与えました。

トランプ政権が、インドに対して課していた「ロシア産石油購入に対する制裁」としての25パーセントの追加関税を即時撤廃し、さらに相互関税率を大幅に引き下げることで合意したのです。この決定は、単なる二国間の雪解けにとどまらず、グローバルサウスの盟主であるインドを、中国およびロシアから引き剥がし、米国経済圏へ強力に統合しようとする巨大な地政学的シフトを意味します。

本記事では、この合意の裏にある「取引(ディール)」の本質と、日本企業が直面するサプライチェーンへの影響を深掘りします。

1. 合意の核心。「25パーセント関税撤廃」の対価は何だったのか

今回の合意は、非常に明快なギブ・アンド・テイクで成立しています。米国がインドへの市場アクセスを再び開放する代わりに、インドは外交・エネルギー政策の大転換を受け入れました。

ロシア産エネルギーとの決別

最大のポイントは、インドがロシアからの原油輸入を停止すると確約したことです。ウクライナ侵攻以降、インドはロシア産原油の主要な買い手となっていましたが、米国はこの「資金源」を断つために、2025年後半からインド製品に対して懲罰的な高関税を課していました。今回、インドがこの輸入停止を受け入れたことで、関税撤廃の道が開かれました。

5000億ドルの米国製品購入コミットメント

関税撤廃のもう一つの条件は、今後5年間で5000億ドル(約75兆円)規模の米国製品(防衛装備品、LNG、民間航空機など)を購入するという約束です。これにより、米国の貿易赤字削減と、インドの軍事・エネルギーインフラの米国依存化が同時に進行することになります。

2. 「相互関税」の導入とビジネスへの実利

トランプ政権が掲げる「相互貿易法(Reciprocal Trade Act)」の原則に基づき、今回の合意では関税率の数値目標も設定されました。

懲罰的関税から「相互税率」へ

これまで発動されていた25パーセントの追加関税は撤廃され、代わりに両国の関税率を「相互に同水準(18パーセント程度)」に合わせるプロセスが開始されます。

これにより、インドのITサービス、ジェネリック医薬品、繊維製品、宝飾品などは、再び米国市場での価格競争力を取り戻します。一方で、インド市場へ輸出する米国企業(および米国に工場を持つ日本企業)にとっても、インドの高関税障壁が下がるメリットがあります。

3. 日本企業へのインパクト。インド拠点の重要性が急上昇

この米印合意は、日本企業のグローバル戦略に三つの重要な示唆を与えています。

「チャイナ・プラス・ワン」から「インド・ファースト」へ

米国市場向けの輸出拠点として、インドの魅力が劇的に向上しました。中国からの輸出には依然として60パーセント超の関税が課されている中、インドからの輸出関税が正常化したことで、製造拠点のインドシフトは加速します。特に、労働集約型の組立産業においては、インドが唯一無二の選択肢となりつつあります。

エネルギーコストと調達ルートの変化

インドがロシア産原油から米国産エネルギーへシフトすることで、世界的なタンカーの航路やエネルギー需給バランスが変化します。また、インド国内での電力コストや物流インフラへの米国投資が進むことで、現地進出企業の操業環境が改善される可能性があります。

デジタル・サービス貿易の拡大

合意にはデジタル貿易の障壁削減も含まれています。インドの強力なIT人材と米国のテック資本が結びつくことで、AI開発やデータセンター事業において、インドが「世界のバックオフィス」から「イノベーションのハブ」へと進化する速度が早まるでしょう。

まとめ:実利を取るためのスピード感が問われる

「2026年2月10日の合意」は、インド市場のリスクプレミアム(地政学的リスクによるコスト)を大きく引き下げました。

日本企業としては、インドを単なる「将来の市場」として眺める段階を終え、米国市場への輸出ハブとして活用するための具体的な投資判断を下すべき時が来ました。関税という霧が晴れた今、インドビジネスは次の成長フェーズに突入しています。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

EU-インドFTAの原産地規則:PSRパターン別商品カテゴリー

EU-インドFTAの原産地規則は、品目ごとに異なるPSR(品目別原産地規則)が設定されており、以下の3つの主要パターンがあります。chemexcil+1

パターン1:CTC & VA(両方の基準を満たす必要)

このパターンでは、関税分類変更基準(CTC)付加価値基準(VA)の両方を同時に満たす必要があります。chemexcil+1

対象商品カテゴリー

化学品(HS第28-38類)

典型的なPSR: CTSH + VA 40%moet+1

実務上の意味: 例えばHS第38類の化学製品をインドからEUに輸出する場合、

  1. 非原産材料のHS番号(6桁レベル)が最終製品と異なること
  2. かつ、インドで付加価値40%以上を創出すること

の両方を満たす必要があります。[afleo]​

プラスチック・ゴム製品(HS第39-40類)

  • HS第39類:プラスチック及びその製品[moet.gov]​
  • HS第40類:ゴム及びその製品[moet.gov]​

典型的なPSR: CTSH + VA 40%[moet.gov]​

皮革・革製品(HS第41-43類)

  • HS第41類:原皮及び革[global-scm]​
  • HS第42類:革製品・旅行用具[global-scm]​
  • HS第43類:毛皮及びその製品[global-scm]​

PSR構造: CTH + VA 40%(項レベルでの変更と付加価値)

金属製品(HS第72-83類の一部)

  • HS第73類:鉄鋼製品[jp.reuters]​
  • HS第74-76類:銅・アルミニウム製品
  • HS第82-83類:卑金属製工具・雑製品

PSR構造: CTSH + VA 35-40%

パターン2:CTC または VA(いずれかを満たせばよい)

このパターンでは、関税分類変更基準または付加価値基準のいずれかを満たせば原産性が認められます。jetro+1

対象商品カテゴリー

機械類(HS第84類)

  • HS第84類:原子炉、ボイラー及び機械類[jetro.go]​

典型的なPSR: CTH または VA 40-50%[jetro.go]​

実務上の利点: 機械は複雑な部品構成を持つため、全ての部品でCTH基準を満たすのは困難です。この場合、付加価値基準による証明に切り替えられます。[jetro.go]​

電気機器(HS第85類)

  • HS第85類:電気機器及びその部品[jetro.go]​

典型的なPSR: CTH または VA 40-50%[jetro.go]​

自動車(HS第87類)

  • HS第87類:車両及びその部品reuters+1

PSR構造(推定):

  • 完成車:CTH + VA 45-50%(より厳格)
  • 部品:CTH または VA 40-45%(選択可能)[jp.reuters]​

特記事項: インドは完成車とエンジンを例外品目として保護しており、年間25万台の割合枠内で関税が110%から10%へ段階的削減される特別な扱いとなっています。jetro+1

光学機器(HS第90類)

典型的なPSR: CTH または VA 40%

精密機器(HS第91類)

  • HS第91類:時計及びその部品

典型的なPSR: CTH または VA 40%

パターン3:SP(特定加工基準)の適用

特定の製造工程や技術的作業の実施を求める基準です。他の基準と組み合わせて適用される場合が多くあります。citiindia+2

対象商品カテゴリー

繊維製品(HS第50-63類)

繊維製品は最も複雑なPSR構造を持ち、糸→生地→縫製の各段階で異なる特定加工基準が適用されます。citiindia+2

HS第50-60類(糸・織物):

  • HS第50類:絹及び絹織物
  • HS第51類:羊毛及び繊毛の糸・織物
  • HS第52類:綿の糸・織物
  • HS第53類:その他の植物性紡織用繊維
  • HS第54類:人造繊維の長繊維
  • HS第55類:人造繊維の短繊維

典型的なPSR(糸): 以下のいずれかの特定加工:[citiindia]​

  • 天然繊維の紡績(Spinning of natural fibres)
  • 化学繊維の押出しと紡績の組合せ(Extrusion of man-made fibres combined with spinning)
  • 撚糸と他の機械的操作の組合せ(Twisting combined with any mechanical operation)

典型的なPSR(織物): CTH + 特定加工(織布または編成)jetro+1

HS第61-63類(衣類・製品):

  • HS第61類:編物製の衣類及び同付属品
  • HS第62類:織物製の衣類及び同付属品
  • HS第63類:紡織用繊維のその他の製品

典型的なPSR: CTSH + 裁断・縫製工程(Cut and sew process)jetro+1

特記事項: インドの繊維製品は現在12-16%のEU関税に直面しており、FTA発効後は即時撤廃される予定です。バングラデシュやベトナムなどの競合国との不利を解消する重要分野です。policy.trade.europa+1

食品・農産物(HS第1-24類の一部)

HS第3-8類(農産物):

  • WO(完全生産品)基準が適用されます[afleo]​
  • 当該国で収穫・生産された産品のみが原産品として認められます[afleo]​

HS第16-21類(加工食品):

  • CTH + 特定加工(調理、加熱、発酵など)[tpci]​

化学品における特定加工

化学品(HS第28-38類)では、CTSH + VA基準に加えて、以下の特定加工が要求される場合があります:[global-scm]​

  • 化学反応(Chemical reaction)
  • 精製(Purification)
  • 異性化(Isomerization)
  • 生物工学的プロセス(Biotechnological process)

金属製品における特定加工

鉄鋼製品(HS第72-73類)では、以下の特定加工が要求される場合があります:

  • 溶解・精錬(Smelting and refining)
  • 熱間圧延(Hot rolling)
  • 冷間圧延(Cold rolling)
  • 表面処理(Surface treatment)

協定別PSR比較:インドの主要FTA

品目インド-UAE CEPAインド-日本CEPAEU-インドFTA(推定)
化学品(HS28-31)CTSH + VA 40%[afleo]​CTSH + VA 35%CTSH + VA 40%[chemexcil]​
プラスチック(HS39)CTSH + VA 40%[moet.gov]​CTSH + VA 35%CTSH + VA 40%[moet.gov]​
機械類(HS84)CTH or VA 40%CTH or VA 40%CTH or VA 40-50%[jetro.go]​
電気機器(HS85)CTH or VA 40%CTH or VA 40%CTH or VA 40-50%[jetro.go]​
自動車(HS87)CTH + VA 40%CTH + VA 40%CTH + VA 45-50%(推定)[jp.reuters]​
繊維糸(HS52-55)SP(紡績)[citiindia]​SP(紡績)SP(紡績)+ CTH[citiindia]​
衣類(HS61-62)CTSH + SP(裁縫)[citiindia]​CTSH + SP(裁縫)CTSH + SP(裁縫)[citiindia]​

実務対応のポイント

CTC & VA方式の証拠管理

両方の基準を満たす必要があるため、以下の証拠が必須です:linkedin+1

  1. CTC証明のため:
    • 全ての非原産材料のHS番号(6桁)
    • 最終製品のHS番号(6桁)
    • 分類変更の証明
  2. VA証明のため:
    • FOB/EXW価額の根拠
    • 非原産材料価額の内訳
    • 付加価値計算書

CTC または VA方式の戦略的選択

選択可能な場合、以下の判断基準で有利な方式を選択します:[shikiho.toyokeizai]​

  • CTC基準が有利なケース: 多数の小額部品を使用し、大部分が原産材料の場合
  • VA基準が有利なケース: 高額な非原産材料を使用するが、人件費・加工費が大きい場合[shikiho.toyokeizai]​

SP(特定加工)の証明

特定加工基準では、工程記録が最も重要な証拠となります:[citiindia]​

  • 製造フローチャート
  • 各工程の作業指示書
  • 品質管理記録
  • 設備仕様書(紡績機、織機、縫製機など)

技術ファイルの保管義務

EU-インドFTAでは、自己証明方式を採用しており、輸入者は原産性を証明する「技術ファイル」を5年間保管する義務があります。事後検証(Post Clearance Audit)で証拠を提示できない場合、特恵税率が否認されます。[linkedin]​

業種別の影響評価

高影響業種:CTC & VA型

化学品、プラスチック、医薬品など、CTSH + VA 40%を要求される業種は、両方の証明負担が大きく、実務体制の整備が急務です。[chemexcil]​

中影響業種:CTC or VA型

機械類、電気機器は選択制のため、既存のサプライチェーンに応じて有利な基準を選択できます。柔軟性が高い反面、どちらが有利かの判断には専門知識が必要です。shikiho.toyokeizai+1

特殊対応業種:SP型

繊維製品は、紡績・織布・縫製という各工程での特定加工証明が必須です。工程記録の電子化と、税関検証に耐える品質管理体制の構築が競争力の鍵となります。citiindia+1

EU-インドFTAのPSRは、品目ごとに異なる厳格な基準を設定しており、企業は自社製品のHS番号とPSRパターンを正確に把握し、証拠管理体制を構築する必要があります。特に化学品と繊維製品は複雑な要件があり、早期の実務準備が求められます。global-scm+3

インド向け輸入実務で、HSコードの誤記載が単なる事務ミスとして扱われにくくなっています。

背景にあるのは、海上貨物情報の提出ルールを刷新するSCMTRの運用高度化と、それを支える関税法(Customs Act, 1962)の罰則枠組みです。

インド税関のSCMTR関連文書と関税法条文、税関ゾーンの公示(Public Notice)を確認できます(下記参照)。

・ICEGATE(インド税関EDIポータル)のSCMTR利用者向けアドバイザリにおいて、Arrival Manifest(到着マニフェスト)に8桁HSコードの記載が必須であることが明記されています。
・SCMTR(Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018)自体が、到着・出港マニフェストの提出タイミングを前倒しし、誤りや遅延がある場合の取扱い(修正・補完の許容条件)を規定しています。
・関税法(Customs Act, 1962)第30条は、マニフェスト提出遅延に対する罰金(上限5万ルピー)と、内容が不完全・不正確な場合の補正許容(不正意図なしの場合)を規定しています。
・同法第114AA条は、虚偽または重要事項の不正確な申告・書類利用を「故意に」行った場合、貨物価値の5倍までの罰金を規定しています。
・税関ゾーン単位では、SCMTRの新フォーマット提出を港ごとに段階的に必須化する公示が出ており、実務移行が「運用として」進んでいます(例:Chennai Customs)。

厳格化は、単に「罰金額が上がった」という話に限りません。実務上は次の2層で効いてきます。

SCMTRは、従来のIGMに代わるArrival Manifest等を、最終外国寄港地からの出港前に電子提出する運用へ寄せています。ここでHSコード(少なくとも所定桁数)が必須項目として扱われ、欠落・不整合があると、訂正対応や照会でリードタイムが伸びやすくなります。

関税法第30条は、マニフェストの提出遅延に対して上限5万ルピーの罰金を置きつつ、内容が不正確・不完全でも「不正意図なし」であれば補正を許容する枠組みを持っています。つまり、誤記載が発見されたときに「直ちに罰則」ではなく、「迅速な補正と説明で収束できる余地」が制度上は残っています。

一方で、誤ったHSコードが、関税回避や規制逃れ(輸入規制・認証対象の回避など)と結びつくと、虚偽・重要事項の不正確記載として第114AA条の射程に入り得ます(貨物価値の5倍までの罰金)。

HSコードの誤りは、単発の訂正で終わらず、マスターデータに誤りが残ると同一品番の再出荷で繰り返します。SCMTRのように事前提出が前提になると、港到着後に気づくのではなく、出港前後に差戻しが発生し、輸送計画そのものに影響します。

誤分類による追徴リスクに加え、滞船料・保管料、納期遅延の違約金、緊急輸送への切替コストが膨らみます。加えて、マニフェストの不備は物流事業者側の修正費用や手数料に転嫁されやすく、総コストが見えにくい形で増えます。

制度上、誤りの補正が許容される場合でも、説明が弱いと「なぜそのHSだったのか」「誰が判断したのか」「同種案件がないか」という論点に発展しやすい。ここで社内統制が弱いと、個別ミスが組織的リスクに格上げされます。虚偽・重要事項の不正確記載と評価されると、制裁は急に重くなります。

・誰が最終判断者か(貿易管理、品目分類担当、外部専門家)
・判断根拠(GRI、品目の機能・材質・用途、類似裁定、社内標準)
・インド固有の8桁運用(ITC(HS)相当)の扱い

この3点を最低限ひも付け、監査で再現できる状態にします。

・インボイス品名と梱包明細の品目説明
・HSコード(6桁と8桁)
・マニフェスト/申告データ(Arrival ManifestやBill of Entryに連なる情報)

書類間で品目説明とHSがずれていると、誤記載として見つかりやすくなります。SCMTRはまさにこの整合性を前提に設計されています。

・発見した時点で、補正の可否と必要資料を即判断
・不正意図がないことを示す材料(社内承認記録、仕様書、過去の一貫性)を添付
・補正の根拠として、制度上の補正許容(不正意図なし)を踏まえて説明

関税法第30条およびSCMTRには、不正意図がない不完全・不正確について補正を許容する設計が読み取れます。

SCMTRは段階的に新フォーマット必須化が進みます。例えばChennai Customsでは港ごとに必須化日程が公示されています。自社貨物が入る港とフォワーダーの運用準備がずれていると、誤記載が「訂正の遅れ」へ連鎖しやすくなります。

・主要品目のHSコードは、直近12か月で再検証したか
・HSコードと品目説明の整合を、出荷前に機械的に検知できるか
・誤記載が見つかったとき、補正と説明のテンプレートがあるか
・物流パートナーに渡すHSコードは「単なる情報」ではなく、社内承認済みのものか
・故意と見られないための記録(判断根拠・承認ログ)を保持しているか

・ICEGATE:SCMTR利用者向けアドバイザリ(Arrival Manifestに8桁HS必須の記載あり)
・Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018(SCMTR本体。誤り・遅延時の補正の考え方を含む)
・Customs Act, 1962(第30条:マニフェスト遅延罰と補正、第114AA条:虚偽・重要事項の不正確記載の罰則)
・Chennai Customs:SCMTRの段階的必須化に関するPublic Notice(港別の適用日程)

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

インド・EU FTA交渉で焦点になった原産地規則

選択基準が示す「妥協の設計思想」と企業の実務対応


はじめに:妥結フェーズで何を見るべきか

インドとEUは2026年1月下旬、自由貿易協定(FTA)交渉の妥結を発表し、今後は法文化(リーガル・スクラブ)と批准手続きに進む段階に入っています。pib+2
インド政府のファクトシートでは、現時点の内容はあくまで情報提供目的であり、法文化や最終承認の過程で修正され得ることが明記されています。pib+1

この「まだ動く」局面で、企業実務者が特に注視すべきなのが原産地規則(Rules of Origin, RoO)です。原産地規則は、関税率の引下げというメリットを実際に享受できるかどうかを決めるゲートであり、サプライチェーン設計や調達戦略そのものに直結します。policy.trade.europa+2

本稿では、交渉の妥協点として位置づけられる「選択的な品目別原産地規則」の設計思想を、公開情報から読み解き、企業側の実務対応に落とし込みます。pib+1


原産地規則の基本構造と「選択基準」という考え方

完全生産品と非完全生産品

インド政府のQ&Aは、原産地規則を大きく次の二つに分けて説明しています。[pib.gov]​

  • 完全生産品(Wholly Obtained, WO)
    農産品や鉱物など、一つの締約国で完全に得られた品目が該当します。[pib.gov]​
  • 完全生産ではない品目(Not wholly obtained)
    非原産材料を用いて締約国内で加工された品目については、品目別原産地規則(Product Specific Rules, PSR)に従って原産性を判定します。[pib.gov]​

PSRで用いられる三つの代表的考え方

インド側Q&Aは、PSRの代表的な構成要素として、次の考え方を挙げています。[pib.gov]​

  • 関税分類変更基準(Change in Tariff Classification, CTC)
    非原産材料と完成品のHS分類が一定レベルで変わることを求めるルールです。見出しレベルやサブヘディングレベルでの変更が用いられます。[pib.gov]​
  • 付加価値基準(Value Added criteria)
    非原産材料の最大割合や、域内での付加価値割合といった指標によって原産性を判断します。インド側資料では、非原産材料の最大割合を示すmaxNOMや、適格価値割合の最小値を示すminQVCといった概念に言及しています。[pib.gov]​
  • 特定加工基準(Specific processing rules)
    一定の化学反応、合成、ブレンディングなど、特定の工程の実施を要件とするルールです。インド側資料では、化学品や合成ダイヤモンド、酒類のブレンディングなどに工程ベースの要件が設定されると説明されています。[pib.gov]​

「選択的」PSRとは何か

公開資料では「Alternative」を固有名詞としては用いていませんが、PSRにおいて複数の到達ルートを用意する設計が示されています。policy.trade.europa+1
例えば、特定の化学品について、関税分類変更ルールとプロセスルールのいずれか、または組合せを満たすことで原産性を認めるといった構造です。policy.trade.europa+1

これは、単一ルールだけでは実質的加工を適切に表現しきれない品目に対し、複数の原産化ルートを用意することで、実務上の利用可能性を高める設計思想といえます。drishtiias+2


なぜ交渉で「選択的PSR」が妥協点になるのか

輸入側と輸出側の綱引き

原産地規則を巡る交渉では、常に次のような緊張関係が存在します。drishtiias+2

  • 輸入側の論理
    実質的加工が不十分な品目に対しては特恵を認めず、第三国からの迂回輸出や単純な組立のみの活用を防ぎたい。
  • 輸出側の論理
    グローバルな調達構造を前提としても現実的に利用可能なルールにしてほしい。要件が厳しすぎると、協定税率は「紙の上のメリット」にとどまってしまう。

インド側Q&Aでも、PSRは実質的な加工を確保しつつ、グローバル・バリューチェーンからの調達に一定の柔軟性を与えることを目的として設計されていると説明されています。[pib.gov]​

選択肢を増やすことで両者のバランスを取る

こうした文脈で、複数ルートを許容するPSRは、厳格性と実効性のバランスを取るための具体的な手段になります。policy.trade.europa+1

  • 輸入側にとっては
    プロセスルールや付加価値基準を組み合わせることで、単純なHS変更だけでは担保しづらい実質加工を制度的に確保できます。
  • 輸出側にとっては
    実際の原材料構成や工程配分に応じて、より達成しやすいルートを選択できる余地が生まれます。

他のEU FTAでも、数量枠と組み合わせた特別ルールや、複数のPSRのいずれかを満たせばよい設計は用いられており、インド・EU FTAでも同様の発想が採用されていると考えられます。drishtiias+2


証明・検証スキームと累積・アブソープション

自己証明とポータルアップロードを前提にした枠組み

EU側の章別サマリーは、原産地証明について、近年のEU FTAと同様の自己証明ベースのスキームを採用すると説明しています。[policy.trade.ec.europa]​
主なポイントは次の通りです。policy.trade.europa+1

  • 原産地証明は、輸出者が作成するステートメント・オン・オリジンに基づく。
  • ステートメント・オン・オリジンは別文書として作成され、ポータルを通じて提出されることで、輸入側税関が真正性を確認できる。
  • 検証の流れは、輸入者への照会から始まり、EUとインドの税関当局間の行政協力を経て、必要に応じて特恵の否認に至る手順が想定されている。

インド側Q&Aは、インドの輸出者による自己証明方式について、所定の様式に基づくステートメント・オン・オリジンを商務省のDGFTが運営するデジタル基盤で扱う構想を示しています。[pib.gov]​
また、EU輸入者が自身の知識に基づいて原産性を主張できる「輸入者の知識(Importer’s Knowledge)」の概念にも触れています。ebca-europe+1

つまり、原産地規則は「使いやすさ」の側面として自己証明を採りつつ、デジタルプラットフォームと当局間協力を前提にした検証可能な制度として設計されています。policy.trade.europa+1

二国間累積とアブソープションの意味

インド側Q&Aは、インド・EU FTAで二国間累積(bilateral cumulation)を認めることを明示しています。[pib.gov]​
これにより、インドまたはEUで原産品と認定された材料は、相手国での原産性判断においても原産材料として扱うことができます。

さらに、アブソープションの原則についても説明されており、いったん非原産材料を含む中間財がPSRを満たして原産品と認定された場合、その後の工程で原産性を判断する際には、元の非原産部分を再計算しない考え方が示されています。[pib.gov]​

この二つの仕組みは、バリューチェーンが長く多段階の加工を行う業種ほど実務インパクトが大きくなります。drishtiias+1
逆に言えば、累積やアブソープションの前提を理解せずに、全ての段階で細かく非原産材料割合を追い続けると、過剰管理やシステム負荷につながりかねません。


企業実務にとっての要諦

選択肢が増えるほど「設計」と「証拠管理」が重くなる

複数ルートを用意したPSRは、一見すると企業にとって「使いやすくなる」ように見えます。
しかし実務的には、どのルートで原産性を成立させるかを戦略的に選び、その選択を裏付ける証拠を一貫した形で管理する必要があります。policy.trade.europa+1

  • 調達構造
    どの国からどの材料を仕入れるかで、CTCルートが有利か、付加価値ルートが有利かが変わります。
  • 工程配分
    どこでどの加工を行うかにより、プロセスルールの達成可否が左右されます。
  • 証憑の取りやすさ
    サプライヤー宣誓や工程記録、原価データなど、証拠の取得しやすさと検証対応コストもルート選択の重要な要素です。

自己証明とポータル提出を前提とする以上、原産地証明の発行権限、社内承認フロー、保存年限、誤り判明時の訂正プロセスなどを、あらかじめ社内規程として整備することが欠かせません。policy.trade.europa+1

累積・アブソープションを織り込んだBOM設計

累積とアブソープションを活かす観点から、BOMとデータ設計を次のような視点で見直す必要があります。[pib.gov]​

  • どの段階で原産性を確定し、中間財として他工程に渡すか。
  • 原産化済み中間財を後工程でどのように扱うか(非原産部分を再計算しない前提をシステムでどう表現するか)。
  • サプライヤー証明や中間財の原産証憑をどの粒度で取得・保管するか。

これを明確にしないまま、全工程を細かく追い続けると、業務負荷が増える一方で、協定利用率や監査対応力の向上にはつながりにくくなります。


経営層・実務責任者向けアクションプラン

発効前の現段階でも、かつ後戻りしにくい形で着手できるタスクは次の通りです。drishtiias+2

主要品目をPSR視点で棚卸しする

  • 主要輸出品目と原材料構成を整理し、CTC型、付加価値型、工程型、累積前提型など、どのPSRルートが取り得るかを仮置きする。
  • 類似のEU FTAにおけるPSR構造も参考にしつつ、インド・EU FTAで想定されるパターンをシミュレーションする。

証憑の最小セットをあらかじめ定義する

  • BOM、工程フロー、原価データ、サプライヤー証明、製造記録などのうち、品目群ごとに必須とする証憑を定義する。
  • ステートメント・オン・オリジンに記載する情報と照合しやすい形で保管設計を行う。policy.trade.europa+1

自己証明運用の「器」を整える

  • 原産地証明作成者の権限範囲と、社内承認フローを規程化する。
  • 保存年限、訂正・取消手続き、ポータルへのアップロード手順を文書化し、税務・法務・通関の間で役割分担を明確にする。policy.trade.europa+1

累積・アブソープションを前提にしたデータ・プロセス設計

  • どの工程で原産性を確定させるか、部門間で共通の方針を持つ。
  • 原産化済み中間財に対する非原産割合を後工程で再計算しない前提をシステム・帳票にどう反映するかを検討する。[pib.gov]​

おわりに:設計すれば使える、設計しないとリスクになる

インド・EU FTAの原産地規則は、最新のEU FTAと整合する自己証明・検証スキームと、インド側のバリューチェーン実態を踏まえたPSR、累積、アブソープションを組み合わせた構造になっています。drishtiias+2
品目別原産地規則に柔軟性や複数ルートを持たせる設計は、交渉上の妥協であると同時に、企業にとっては「設計すれば使えるが、設計しなければリスクが高い」制度です。policy.trade.europa+1

現時点の資料は最終条文ではないものの、原産地証明と検証の仕組み、累積とアブソープションの基本枠組みは見えています。policy.trade.europa+1
今のうちから、柔軟ルールが想定される品目群を特定し、PSRルートと証拠管理の型を設計しておくことが、発効後の協定利用率と監査対応コストの両方をコントロールする鍵になるでしょう。drishtiias+2

EUとインドがFTA妥結 人口約20億人市場が動く。広がる「米抜き貿易圏」をビジネスで読み解く

2026年1月27日、EUとインドは自由貿易協定(FTA)の交渉妥結を公式に発表しました。
EU・インド双方にとって過去最大級の通商合意であり、人口規模で約20億人、世界GDPの約4分の1に近い市場を一体としてつなぐ枠組みになると説明されています。

もっとも、現時点では交渉妥結であり、今後は法的精査(リーガルスクラビング)と翻訳を経て、EU側は加盟国および欧州議会、インド側は国内手続きを完了させる必要があります。
このため、企業の実務としては、協定署名・批准から発効まで一定のタイムラグが生じる前提で準備を進めることになります。

今回のFTAは、単に「関税を下げる」だけの合意ではありません。
原産地規則、通関手続き、標準・認証(SPS・TBT)、デジタル貿易、サービス、労働・環境、紛争解決までを含む包括的な枠組みであり、企業の競争条件そのものを更新するタイプの合意として位置づけられています。


1. まず数字でつかむ合意のスケール

1-1. 貿易規模

EUの整理では、EUとインドの物品貿易は2024年時点でおよそ1,200億ユーロ規模とされています(対インド輸入約710億ユーロ、輸出約490億ユーロ)。
インド政府の発表によれば、2024-25年度の物品貿易額は1365億ドル、インドの対EU輸出は約758億ドルという規模感です(年度・通貨が異なるため単純比較はできません)。

1-2. 関税削減の大枠

欧州委員会の chapter‑by‑chapter サマリーによれば、EUは関税項目の90%超(価値ベースで約91%)の関税を撤廃し、インドは関税項目の86%(価値ベースで約93%)を撤廃する方針です。
さらに部分自由化も含めると、貿易価値ベースの自由化カバー率は、インド向けEU輸出が96.6%、EU向けインド輸出が99.3%に達すると整理されています。

EUのファクトシートでは、EUからインド向けの物品輸出の96.6%に対して関税が撤廃または削減され、EU企業は年間最大40億ユーロ規模の関税負担軽減が見込めると説明されています。
この水準は、インドがこれまでいずれのパートナーにも与えてこなかった規模の市場開放だと強調されています。


2. 実務で効く論点は「関税」より「条件」と「ルール」

2-1. 関税は段階撤廃と例外設計が前提

【インド側】

ロイターの要約では、インドはEUとの貿易品目の約30%で関税を即時ゼロにし、EUからの輸出の9割超に対し関税撤廃または削減を行うとされています(品目数と貿易価値が混在して語られるため、一次資料との突き合わせが重要です)。
インド政府のファクトシートでは、インドは対EU輸入について関税項目ベースで約92.1%を自由化対象とし、即時撤廃と5年・7年・10年の段階撤廃を組み合わせる設計であると説明されています。

【EU側】

同じくロイターによれば、EUは協定発効時点でインド製品の約90%に対する関税を撤廃し、7年以内にゼロ関税の対象を約93%まで拡大する見通しです。
EUの平均関税率が現行の約3.8%から約0.1%まで低下するとの試算も報じられており、この点はロイターの推計であることを明示しておく必要があります。

インド政府の発表でも、EU市場に対するインド産品の優遇アクセスが関税項目の約97%(貿易価値ベースで約99.5%)に及ぶとされ、とくに労働集約型セクターを中心に即時ゼロ関税のインパクトが大きいと説明されています。

ビジネス上の結論
企業にとって重要なのは、「関税が下がる」事実そのものよりも、「いつ、どの品目が、どの条件で、どれだけ下がるか」です。
とくに数量枠(TRQ)、段階撤廃の年次スケジュール、例外品目は、価格交渉・供給計画・設備投資の前提条件そのものになります。


2-2. 自動車は最大の象徴。ただし数量枠と価格条件付き

今回の合意で最も注目を集めている分野のひとつが、自動車関税です。
報道ベースでは、インドがEUからの乗用車輸入に課している最大110%の関税を段階的に引き下げ、まず40%程度まで下げた上で、最終的に10%まで低減させる設計とされています。

ロイターなどの報道では、以下のような条件が伝えられています。

  • 年25万台の輸入枠内で、5年かけて関税を10%まで引き下げる。
  • 一定価格(例:1万5千ユーロ)未満の車両は対象外となる。
  • 最終的な数量枠は、内燃機関車16万台、電気自動車(EV)9万台に区分される。
  • 枠外の輸入については、関税の大幅削減は適用されない。
  • CKDキット(ノックダウン輸入)は今回の優遇関税の対象外。
  • EVに対する本格的な関税削減は、協定発効後5年目から始まる。

EU側のファクトシートでも、EU車に対して最終的に10%の関税を適用する一方、年間25万台のクォータ(数量枠)が設定される旨が明記されています。

ここから言えること
完成車ビジネスでは関税引き下げのインパクトが大きい一方、数量枠と価格条件がボトルネックになり得ます。
販売増を前提とした中長期計画ほど、「誰が、どのようなスキームで枠を確保するのか」という実務設計と、部品やサービスを含む全体最適のシナリオが重要になります。


2-3. 原産地規則は「第三国迂回」を塞ぎ、サプライチェーン再設計を迫る

EUのchapter‑by‑chapterサマリーによれば、原産地規則(RoO)は近年のEU FTAと整合的な構造で、「相手国域内で十分な加工が行われた製品のみ」を優遇対象とする原則を採用しています。
また、企業による自己証明(statement on origin)を軸とし、電子的な手続き(ポータル経由の提出・審査)を含む近代的な原産地証明枠組みが導入されると説明されています。

インド政府の説明でも、製品別原産地規則は既存サプライチェーンとの整合性を意識しつつ、自己証明を活用してコンプライアンスコストを抑える方向性が示されています。

実務インパクト
FTAの恩恵は自動的には降ってきません。
原産地要件を満たすように部材調達・生産工程・ロジスティクスを再設計できる企業ほど、優遇税率を前提とした価格競争力を確保しやすくなります。要件を満たせない場合は、従来どおり通常関税が適用される点に注意が必要です。


2-4. 規格と認証の重要度はむしろ上がる

EU側サマリーでは、SPS(衛生植物検疫)分野について、EUは自らの高い保護水準と科学的根拠に基づく厳格な基準を「例外なく」維持することが明記されています。
TBT(貿易の技術的障害)については、WTO協定整合性に加え、新たな技術規則を導入する際に60日間のパブリックコメント期間と、公布から施行まで原則6か月の猶予期間を設けるなど、透明性を高める仕組みが盛り込まれています。

また、適合性評価に関する作業部会を設け、インドの品質管理命令(Quality Control Orders)も継続的な議題として扱うことで、相互の規格・認証制度の調整を図る枠組みが示されています。

ここがポイント
関税が下がるほど、次の差別化要因になるのは「規格適合のスピードとコスト」です。
認証取得、試験体制、監査対応、文書管理などの体制整備は、とくに製造業にとって中長期の競争力に直結する先行投資になっていきます。


2-5. サービスとデジタルは「第二の本丸」

【サービス】

EUサマリーによると、2024年のEU・インド間サービス貿易は約598億ユーロ規模であり、今回の協定はGATSをベースにしつつ、より「現代的」なルールを取り込む設計です。
具体的には、WTOの「サービス国内規制イニシアティブ」の要素の反映、金融サービス分野の枠組み整備、経営陣に関する国籍要件や現地拠点要件の透明性向上、専門職人材の一時的な移動に関する規定などが含まれます。

ロイターは、EUがインドに対して144のサービス分野へのアクセスを認め、インドは金融・海運・通信などを含む102の分野をEUに開放すると報じています。
インド政府も、EU側が144のサービス分野でより深い約束(ディープ・コミットメント)を行ったと説明しています。

【デジタル】

EUサマリーによれば、デジタル貿易章は、消費者保護や事業者の法的安定性の向上に加え、ソースコードの強制開示から企業を保護する規定や、迷惑通信(スパム)対策などを含んでいます。

実務インパクト
製造業であっても、販売・保守・データ分析がデジタル・サービスにシフトするほど、このサービス・デジタル章の重要性は増します。
IT・BPO・プロフェッショナルサービスだけでなく、製造業のサービス化や越境データの取扱い・契約実務にも波及効果が見込まれます。


2-6. サステナビリティと執行は「努力目標」ではなく契約条件へ

EUサマリーによると、「貿易と持続可能な開発(TSD)」章には、気候変動、森林・生物多様性の保護、違法伐採・違法漁業対策、労働者の権利(ILO中核的原則)、ジェンダー平等などが含まれ、法的拘束力と執行メカニズムが付与されます。
紛争解決についても、独立したパネルによる審査、拘束力ある判断、透明性の高い手続きなどを備える枠組みが示されています。

【CBAMの扱い】

ロイターは、EUの炭素国境調整措置(CBAM)について、インドに対して特別な例外は設けない一方、インド企業のカーボンフットプリント検証を支援する技術グループを設置し、EUが約5億ユーロ規模の技術・資金支援を行う枠組みが検討されていると報じています。
鉄鋼分野では、EUの無税輸入枠について、インドに対し年間160万トンの無税アクセスが認められる見通しが示されています。

ビジネス上の含意
脱炭素と人権は、もはや「広報テーマ」ではなく、入札要件・取引条件・監査項目として売上・収益に直結しやすい領域に変わりつつあります。
とくにEU向けサプライチェーンに関わる企業にとっては、排出量データの管理、トレーサビリティ、第三者検証を含む運用を前提とした体制整備が安全側の選択になります。


3. 広がる「米抜き貿易圏」をどう捉えるか

今回の合意を、単にEUとインド(形式的にはEU27か国とインド)の二国間で関税を下げる枠組みとしてのみ見ると、本質を見落としかねません。
ロイターは、この合意が「米国との不安定な関係に備える」文脈で語られている点を指摘しており、協定全体が多極的な経済安全保障戦略の一部として位置づけられていることを伝えています。

同じくロイターは、EUがメルコスールとの通商合意を前進させ、インドも英国・ニュージーランド・オマーンなどとの合意を積み重ねてきた流れの中に、今回の合意を位置づけています。
通商ネットワークを多極化し、特定市場への依存リスクを低減する方向性が読み取れます。

今回のサミットでは、FTAだけでなく、安全保障・防衛パートナーシップの署名、イノベーション拠点やスタートアップ連携、モビリティ枠組みなども並行して合意されました。
EUの安全保障研究機関などは、ウクライナ侵攻や米国の不確実性増大を背景に、EUとインドの関係が「分野別に組み立てるモジュール型のパートナーシップ」に移行しつつあると分析しています。

ビジネスの結論
「米抜き」とは、反米という意味ではなく、市場アクセスとルール形成が複数極に分散して再編されることを指します。
米国の動向が引き続き重要である一方で、米国だけを前提にした供給網・投資最適化は相対的にリスクが高まり、EU・インドを含む多極的なシナリオ設計が不可避になりつつあります。


4. 日本企業が今すぐ着手すべき実務チェックリスト

4-1. 自社品目の関税スケジュールと数量枠を洗い出す

自動車、鉄鋼、農産品・食品は、数量枠や例外、段階撤廃の組み合わせで条件が複雑になりやすい領域です。
EUファクトシートや章別サマリー、インド側のファクトシートなど一次情報に沿って、自社のHSコード別に影響額を試算しておく必要があります。

4-2. 原産地規則から逆算して調達と工程を組み直す

どの国・地域で、どの程度の加工を行えば優遇対象になるのかを、品目別原産地規則から逆算して設計します。
自己証明や原産地確認の運用(ポータル利用、税関監査、検証フロー)まで含めたプロセスを、サプライチェーン・経理・法務の三者であらかじめ描いておくことが重要です。

4-3. 規格・認証・監査の体制を前倒しで整える

関税が下がるほど、規格適合のスピードが競争軸となります。
EUのSPS基準の厳格運用、TBT分野の透明性ルール、適合性評価の作業部会などを前提に、品質保証・法務・営業・ロジスティクスの連携を再設計しておくとよいでしょう。

4-4. 脱炭素と人権に関するデータ運用をサプライチェーン全体で整備する

CBAMや持続可能性条項は、コストだけでなく、取引条件・入札資格に直接的な影響を与えます。
排出量データの収集・算定・検証、トレーサビリティ管理、第三者認証の活用などを含めたサプライチェーン全体の運用設計を、EU向けビジネスの前提条件として位置づける必要があります。

4-5. サービスとデジタルを成長投資の中心に置く

サービス章・デジタル貿易章は、製造業に対しても大きなレバレッジを提供します。
欧州顧客向けの案件でインドのIT・BPO人材を組み込む、欧州の金融・物流事業者と連携してインド市場で三角形のソリューションを組むなど、「EU×インド×自社」の組み合わせを前提にしたビジネスモデル設計が求められます。

4-6. 発効までの時間軸を前提にした体制整備

法的精査と翻訳を経て、双方の批准を完了させるまでには、概ね1年程度を要するとの見立てが各種報道で示されています(具体的な月数は今後のプロセス次第)。
批准過程で文言や付属書が調整される可能性もあるため、最終テキスト公開後に再点検を行う責任部署(貿易実務・法務・経営企画など)をあらかじめ決めておくと、社内対応がスムーズになります。


5. まとめ

EUとインドのFTA妥結は、人口約20億人、世界GDPの約4分の1に近い巨大市場をつなぐだけでなく、デジタル、サービス、サステナビリティ、通関・原産地規則まで含めた「ビジネスのルールセット」を同時に更新する合意です。
米国を含まない形でも通商ネットワークが広がる局面では、企業側もサプライチェーン、投資、コンプライアンスの前提を多極化させることがリスク管理そのものとなっていきます。

EU・インドFTA締結が目前に迫る:2026年1月27日署名がもたらすグローバル貿易地図の変革

2026年1月27日、世界経済の新たな転換点が訪れようとしています。欧州連合とインドが自由貿易協定に署名する見通しが濃厚となり、EUにとって史上最大規模の貿易協定が実現する可能性が高まっています 。この協定は2007年から19年にわたる長い交渉の末に結実するもので、世界人口の約4分の1を占める市場へのアクセスが開かれることになります 。[news.yahoo.co]​

署名までの経緯と最終局面

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、欧州議会での非公開ブリーフィングで、協定が1月中に署名されることを確認しました 。フォン・デア・ライエン委員長と欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は、1月25日から27日の間にニューデリーを訪問し、ナレンドラ・モディ首相と共に署名式に臨む予定です 。[news.yahoo.co]​

この協定が現実味を帯びてきた背景には、グローバルな貿易環境の激変があります。米国の関税政策が一部セクターで50パーセントに達する水準まで引き上げられる中、インドとEUは相互に市場の多様化を求めています 。インドにとっては中国への依存度を下げ、欧州市場での輸出競争力を強化する好機となり、EUにとってはアジア太平洋地域での経済的プレゼンスを確保する戦略的な意義があります 。[news.yahoo.co]​

農業分野の除外という戦略的決断

今回の協定で最も注目すべき点は、農業分野が意図的に除外されたことです 。フォン・デア・ライエン委員長は、農業が当初から交渉の対象外であったことを繰り返し説明しています 。この決断は、インドの労働力の約44パーセントが農業に従事している現実を反映したものです 。[news.yahoo.co]​

欧州委員会は、乳製品や砂糖などの製品が協定の適用範囲外となることを既に確認しています 。農業分野がインドにとって極めてセンシティブな政策領域であり、EU産農産品の市場開放に対する国内の強い抵抗があったため、この除外は協定全体の実現を優先した現実的な選択でした 。[news.yahoo.co]​

協定がカバーする主要産業

農業を除外しても、この協定はEU史上最大規模の貿易協定となります 。協定の恩恵を受けると見込まれる主要セクターは以下の通りです。[news.yahoo.co]​

インド側の主要輸出品

  • 衣料品、革製品:EU市場での競争力向上が期待される労働集約型産業
  • 医薬品:欧州市場でのアクセス改善
  • 石油製品、電子機器(スマートフォン):現在も主要輸出品
  • 鉄鋼、宝飾品、自動車部品:付加価値の高い製造業製品
  • サービス輸出:通信、運輸、ビジネスサービス、ITサービス[news.yahoo.co]​

EU側の主要輸出品

  • 航空機および部品:高度技術製品
  • 電気機械、化学製品:先進工業製品
  • ダイヤモンド(原石):宝飾品加工産業向け
  • 知的財産権サービス、IT・通信サービス:高付加価値サービス
  • 専門サービス:コンサルティング、設計など[news.yahoo.co]​

現在の通商関係の実態

2024年度から2025年度にかけて、インドとEUの二国間商品貿易額は1365億3000万ドルに達しました 。内訳はインドからの輸出が758億5000万ドル、輸入が606億8000万ドルとなっており、EUはインド最大の商品貿易パートナーです 。[news.yahoo.co]​

サービス貿易も活発で、2023年度から2024年度において、インドはEUに300億ドルのサービスを輸出し、230億ドルのサービスを輸入しました 。スペイン、ドイツ、ベルギー、ポーランド、オランダがインド輸出の主要なEU仕向け地となっています 。[news.yahoo.co]​

現行の関税障壁と競争上の不利

インドの繊維製品は現在12パーセントから16パーセントのEU関税に直面しており、バングラデシュやベトナムなどEU貿易協定の下で特恵アクセスを享受する競合国と比べて不利な立場に置かれています 。この関税格差の解消が、インド側にとって協定締結の大きな動機となっています 。[news.yahoo.co]​

投資フローの現状と将来性

投資面では、2000年4月から2024年9月までの累積外国直接投資で、EUからインドへの投資額は1174億ドルに達し、インドへの総FDI流入の16.6パーセントを占めています 。現在約6000社の欧州企業がインド国内で事業を展開しています 。[news.yahoo.co]​

一方、インドからEUへの対外直接投資額は約400億4000万ドルで、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギーがインドへの主要なEU投資国となっています 。協定締結後は、これらの投資フローがさらに加速すると予想されます。[news.yahoo.co]​

交渉の長い道のりと挫折からの復活

インドとEUのFTA交渉は2007年に開始されましたが、2013年まで続いた交渉は複数の対立点により停滞しました 。主な争点は以下の通りでした。[news.yahoo.co]​

  • 自動車関税の水準
  • ワインと蒸留酒の市場アクセス
  • インドのIT企業向けデータ保護規制
  • 知的財産権の保護水準
  • 労働基準と政府調達の透明性[news.yahoo.co]​

2016年から2020年にかけての交渉再開の試みは限定的な進展しかもたらしませんでしたが、2020年以降に勢いが戻りました 。2022年6月、インドとEUは自由貿易協定、投資保護協定、地理的表示協定を含む交渉を正式に再開し、2026年1月の署名に向けた現在の推進力へとつながりました 。[news.yahoo.co]​

日本企業への影響と対応戦略

競争環境の変化

日本は2011年8月にインドとの間で経済連携協定(EPA)を既に発効させており、この点では現段階でFTAを締結できていないEUより経済関係の深化で先行しています 。しかし、EU・インドFTAの締結により、欧州企業がインド市場で関税面の優位性を獲得すれば、競争環境に変化が生じる可能性があります。[murc]​

自動車産業への影響

自動車部品産業では特に慎重な対応が求められます。インド商工会議所のトップは、EU製部品が規模と自動化、補助金という強みを持っているため、一律の関税削減が国内サプライヤー、特に中小企業に打撃を与えかねないと警告しています 。インド自動車工業会も、完成車とエンジンを例外品目とするよう強く求めており 、この動向はインド市場で事業展開する日系自動車メーカーやサプライヤーにとって注視すべき点です。hoppindia.hoppin+1

新たな機会の創出

一方で、インドを生産拠点としてEU市場に輸出する日本企業にとっては、新たな機会が生まれる可能性があります 。日本からインドへの直接投資やインド国内での日本企業の生産活動は、EU・インドFTAを活用することで欧州市場へのアクセスが改善される可能性があります。[iti.or]​

医薬品、IT・ビジネスサービス、繊維などの分野で、インドに拠点を持つ日本企業は、EU市場での競争力向上の恩恵を受ける可能性がある一方、EU企業との直接競争が激化するリスクも考慮する必要があります。

今後の実務的な準備

協定が1月27日に署名された後も、各国議会での承認プロセスが必要となります 。インドのピユシュ・ゴヤル商工大臣は、最新の協議が「非常に実質的」であったとしながらも、最終合意は完全にバランスが取れ、相互に有益なものでなければならないと強調しています 。reuters+1

日本企業として取るべき準備は以下の通りです。

短期的対応(3〜6カ月)

  • 協定条文の詳細分析:関税削減スケジュール、原産地規則、サービス貿易の自由化範囲
  • 既存の日印CEPAとの比較検討:どちらの協定が有利か品目ごとに精査
  • 競合他社の動向調査:欧州企業のインド市場戦略の変化を把握

中期的対応(6カ月〜2年)

  • 日印CEPAの活用強化:既存協定の利用率向上とメリット最大化
  • インド国内での付加価値創出:現地調達率の向上と生産能力の拡充
  • 現地パートナーとの協業深化:技術移転や共同開発の推進

長期的戦略(2年以降)

  • 三角貿易の可能性検討:日本→インド→EU、またはEU→インド→第三国のルート開発
  • グローバルサプライチェーンの再構築:最適な生産・調達拠点の配置見直し
  • 新規市場開拓:EU・インド間の貿易拡大に伴う周辺ビジネス機会の発掘

この歴史的な協定は、世界貿易地図を大きく塗り替える可能性を秘めています 。日本企業にとっては、脅威と機会が混在する新たな競争環境の始まりを意味しており、戦略的な対応が求められる重要な転換点となります 。moneycontrol+1

インドとオマーンCEPA締結を実務目線で読む

1. まず何が決まったのか

インドとオマーンは2025年12月18日、包括的経済連携協定(CEPA)に署名しました。署名はモディ首相とハイサム国王の立ち会いの下で行われ、両国は関税の大幅な自由化に加え、サービス、投資、専門人材の移動、規制協力までをパッケージ化したと説明しています。 (pib.gov.in)

ビジネス上の結論を先に言うと、モノの関税引下げだけでなく、医薬の承認迅速化、ハラールや有機認証の相互承認、サービス分野の市場アクセス、オマーンで働く人材の滞在枠などが同時に動く点が重要です。価格競争力と参入スピードの両方に効きます。 (pib.gov.in)

2. 数字で見るCEPAの骨格

公表資料を突き合わせると、モノの市場アクセスは次の構図です。

項目オマーン側の約束インド側の約束
関税ゼロ、または自由化の対象比率(タリフライン)98.08%をゼロ関税(インド輸出の価値ベースで99.38%をカバー)77.79%を自由化(輸入額ベースで94.81%をカバー)
発効後の効き方発効初日からゼロ関税の恩恵が適用される設計除外リストを設けつつ段階的な自由化も含む

数値はインド政府の説明に基づきます。ジェトロも概ね同水準の割合(オマーン98.1%、インド77.8%)と整理しています。 (pib.gov.in)

ここで押さえるべき実務ポイントは2つです。
1つ目は、オマーン市場では、従来MFNで無税だったのはインド輸出の価値ベースで15.33%に過ぎず、CEPAで無税範囲が一気に拡大する点です。 (pib.gov.in)
2つ目は、インド側は幅広く自由化する一方、国内保護のための除外リストも明示している点です。対象品目は必ず税番(HS 8桁など)で確認が必要になります。 (pib.gov.in)

3. いつから使えるのか

公式文書は、ゼロ関税は発効日から適用される設計であることを示していますが、現時点で確定した発効日を一律に断定できる形では見えません。 (pib.gov.in)
一方で、報道ベースでは、2026年3月までの運用開始を視野に通知や実施準備を進める旨が伝えられています。社内の関税コスト試算や契約条件に反映する際は、最終的な発効日と通関上の適用開始日を、両国の公式通知で必ず確定させてください。 (NDTV Profit)

4. モノの関税以外が本丸になり得る理由

CEPAは、典型的な関税協定よりも、非関税分野の実装が厚いのが特徴です。ポイントを実務に落として整理します。

4-1. 医薬品 承認の迅速化とGMP資料の扱い

インド側は、米国FDA、EMA、英国MHRAなどの当局で承認済みの医薬品について、オマーンでのマーケティングオーソライゼーションを迅速化する枠組みや、GMP関連の検査文書の受入れによる時間とコストの削減を強調しています。 (pib.gov.in)
インドで製造し中東向けに展開する医薬、医療機器、ヘルスケア関連企業にとって、関税よりもむしろ上市までのリードタイム短縮がインパクトになり得ます。 (pib.gov.in)

4-2. ハラール、有機 認証の相互承認

ハラール認証の相互承認に向けた枠組みや、インドのNPOP有機認証の受入れ、標準化や適合性評価での協力が盛り込まれたとされています。食品、化粧品、原料、包装材などで、輸出時の書類や追加試験が減る可能性があります。 (pib.gov.in)

4-3. 伝統医療 初めての包括コミットメント

インド政府は、伝統医療(AYUSH等)について、全ての供給形態にまたがるコミットメントが含まれる点を大きく打ち出しています。ウェルネス、医療ツーリズム、関連サービスの展開余地が広がる可能性があります。 (pib.gov.in)

5. サービスと人の移動 オマーン側の譲許が大きい

CEPAでは、サービスで127のサブセクターを提示し、コンピューター関連、ビジネス、専門、教育、医療など幅広くカバーするとされています。加えて、企業内転勤者、契約ベースの出張者、独立専門職など、いわゆるモード4の枠で滞在や一時入国のコミットメントを用意したと説明されています。 (pib.gov.in)

ジェトロの整理では、企業内転勤者の上限比率の引上げや、契約に基づく出張者の滞在許可期間の延長など、かなり具体的な運用改善が示されています。日系企業であっても、オマーン拠点でインド人材を活用している場合、この部分がオペレーション効率に直結し得ます。 (ジェトロ)

6. 日本企業への示唆 直接の当事者でなくても影響は来る

日本企業に関係しやすいのは、次の3つのルートです。

6-1. インド拠点からオマーン向け輸出の採算改善

オマーンが関税ゼロを大きく広げる設計である以上、インドで生産している機械、電機、化学、樹脂、繊維、医薬などは、価格競争力の改善が見込まれます。インド政府は、工業品や医薬など幅広い分野で機会が広がるとしています。 (pib.gov.in)

6-2. オマーンを中東・アフリカの物流ハブとして使う動き

オマーンは物資とサービスの移動を促進し、エネルギー、技術、製造業などで協力を広げる狙いを示しています。インド政府側も、オマーンをGCCや東アフリカへのゲートウェイとして位置付けています。インド企業の進出増に合わせ、日系企業の物流、保守、周辺サービスの商機が拡大する可能性があります。 (FM.gov.om)

6-3. インドの調達先としてのオマーン

インドはオマーンから石油製品や尿素などを輸入していると報じられています。一方で、インド側の除外リストには石油系や一部農産品などが含まれるとされるため、実際にどの税番が対象になるかを個別に点検する必要があります。 (The Economic Times)

7. 実務チェックリスト

発効後に制度を取りこぼさないために、着手順に並べます。

  1. 対象品目のHSを確定し、譲許スケジュールで関税の扱いを確認する
  2. 原産地規則の条件を確認し、サプライヤー証明、BOM、製造工程を証跡として整備する
  3. 申告時に必要となる原産地証明や関連書類のフォーマットと運用(誰が発給し、誰が保管するか)を決める
  4. ハラール、有機、医薬承認など、規制系のメリットを使える品目は、要件と窓口当局を先に押さえる
  5. 発効日、通関実装、FAQやガイダンスの更新を、両国の公式発表とジェトロで継続監視する (Mcommerce)

なお、インド商工省はCEPA本文と付属書を章立てで公開しており、関税譲許、原産地規則、税関手続、サービス、人の移動などの体系を一次資料で確認できます。社内の制度設計はここを起点にすると精度が上がります。 (Mcommerce)

8. まとめ

インド・オマーンCEPAは、関税の自由化が非常に大きい一方で、非関税分野の実装がビジネス効果を左右する協定です。特に医薬承認の迅速化、認証の相互承認、サービスと人材移動の枠組みは、コストよりもスピードと運用負荷に効きます。日系企業は、インド拠点の輸出採算と、オマーンを軸にした地域展開の両面で、品目別に点検する価値があります。 (pib.gov.in)

「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ


「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ

2025年12月、インド政府はメキシコとの**Preferential Trade Agreement(PTA:特恵貿易協定)**締結を提案し、すでにオンライン会合を経て技術協議フェーズに入ったと報じられています。 この動きは「新規FTA交渉のスタート」というよりも、2026年1月1日から段階的に適用される、最大50%のメキシコ輸入関税引き上げへの実務的な危機対応と位置づける方が現実的です。timesofindia.indiatimes+3

いま何が起きているか(3行要約)

  • メキシコ議会は、FTA未締結国からの一部輸入品について、5〜50%の関税を課す法案を承認し、約1,400品目が対象となる見通しです(主に自動車、部品、繊維、鉄鋼、プラスチック、履物など)。reuters+2
  • インドは、自国の対メキシコ輸出(2024年輸出額約57億ドル)のうち、およそ20億ドル規模が今回の関税で打撃を受け得ると試算し、**PTAによる部分的な関税優遇で“穴を開ける”**戦略を示しています。tradingeconomics+2
  • 背景には、USMCA(2026年見直し)をにらんだ米国の対中強硬路線と、それに歩調を合わせたメキシコのサプライチェーン再編・国内産業保護という政治経済文脈があります。table+2

背景:メキシコの“非FTA国向け”関税引き上げの狙い

今回の措置は、特定国のみを狙い撃ちするというより、「メキシコとFTAを持つか否か」で世界を二分する設計になっています。 USMCA、CPTPP、日墨EPAなどの協定パートナーは優遇または現状維持となる一方、インド、中国、韓国、タイなど非FTA国は高関税MFN枠に押し込まれ、競争力が大きく低下する構図です。aa+2

メキシコ政府は、この関税引き上げの目的として、国内産業・雇用の保護、貿易不均衡の是正、特にアジア製品からの輸入代替と北米サプライチェーンへの組み込み強化を掲げています。 併せて、財政赤字の縮小に向けた関税収入増も副次的な目的とされています。financialpost+3


影響の輪郭:どの業界が“刺さる”のか

報道ベースで、メキシコが高関税対象として想定している主なセクターは以下の通りです。reuters+2

  • 自動車・二輪・部品(完成車、部品、関連金属)reuters+2
  • 繊維・衣料・履物reuters+2
  • 鉄鋼・その他金属製品gmk+2
  • プラスチック、ゴム・皮革製品、その他工業製品aa+2

インドの対メキシコ輸出は、2024年時点で約57億〜57.3億ドル規模とされ、このうち自動車、部品、繊維、鉄鋼など約20億ドル相当が新関税で大きな影響を受け得るとインド政府は見込んでいます。timesofindia.indiatimes+2


核心論点:なぜ「FTA」ではなく「PTA」なのか

インド当局者の発言から読み取れるロジックを整理すると、次の3点に収斂します。tradingview+2

  1. WTOで争いにくい構造
    メキシコは、WTOにおける譲許表(bound rate)の範囲内でMFN税率を引き上げる形をとっており、形式上はWTO義務に反しない設計です。 インド側も、「MFNベースの引き上げである以上、WTOでの法的救済の余地は限定的」とコメントしています。tradingview+1
  2. 包括的FTAは時間切れリスクが大きい
    包括的FTA交渉は、サービス、投資、政府調達、知財など幅広い分野が交渉対象となり、通常は数年単位を要します。 一方、メキシコの新関税は2026年1月1日から適用開始予定であり、このタイムラインにフルスコープFTAを間に合わせる現実性は低いと見られています。indiainmexico+3
  3. PTAなら“影響品目だけ”を優先的に救える
    PTAは、関税譲許の範囲を特定品目や限定セクターに絞り込み、関税ショックが大きい品目群に的を絞った救済設計が可能です。 インド当局者も、PTAを「影響緩和のための迅速な解決策」と位置付けており、まずは貨物貿易にフォーカスした限定的スキームから着手する構想と報じられています。economictimes+2

PTAが動き出した場合、企業実務はどう変わるか

PTAは「締結=ゴール」ではなく、「締結=実務負荷の立ち上がり」です。企業側で特に重要になる論点は次の3つです。

  1. 対象品目の線引き(自社SKUが入るか)
    PTAは、影響の大きいHS品目に絞って関税優遇を設定する設計になりやすく、品目リストに載る/載らないで明暗が分かれます。 企業としては、HSコード×原産国別に「PTA対象・非対象」を瞬時に判定できる体制が必要です。reuters+1
  2. 原産地規則(ROO)と証明の“必須化”
    関税優遇の適用には、PTAで定める原産地規則を満たし、インボイスや原産地証明書等で原産性を立証することが前提条件となります。 インド製品であっても、部材が多国籍にまたがる場合は、BOMレベルでのトレースとサプライヤー宣誓の取得がボトルネックになり得ます。itj.dgciskol+1
  3. 中継・積替え取引への監視強化リスク
    今回の関税引き上げの政治的背景には、米国が問題視する**迂回(trans-shipment)**対策やサプライチェーンの透明性強化があります。 PTAを通じた優遇が広がるほど、メキシコ税関は書類・物流経路の整合性チェックを強化し、コンプライアンス体制の差が実務リスクの差として顕在化する可能性があります。table+2

日本企業にとっての“見落としやすい示唆”

日本企業は、「日墨EPA」「CPTPP」といった枠組みにより、メキシコ向け輸出で相対的に有利なポジションを維持しているケースが少なくありません。 しかし、次のようなケースでは、今回のインド・メキシコPTA構想とメキシコ関税引き上げの影響を軽視すべきではありません。indiainmexico+1

  • メキシコ拠点がインドから部品・素材を調達している場合
    関税引き上げがそのままインプットコスト増に直結し、価格転嫁・設計変更・調達先多角化が不可避となる可能性があります。businesstoday+2
  • メキシコ市場でインド企業と競合している場合
    一時的には、インド製品が高関税で不利になり、日本製品が優位に立つ可能性があります。 しかし、PTAによってインド製品の関税負担が軽減されれば、「関税差による優位性」が短期間で失われるシナリオを織り込む必要があります。businesstoday+3

企業の打ち手(今日からできる順)

  • HSコード×原産国×契約条件ベースの影響試算
    どのHSにどの関税率がかかるのか、インド経由品がどの程度コスト上昇するのかを早期に可視化します。reuters+1
  • 価格条項・インコタームズ・再交渉条項の棚卸し
    関税負担がどこに帰属する契約かを洗い出し、価格見直しやサプライチェーン再設計の余地を確認します。newindianexpress+1
  • 原産地証明スキームの設計
    BOM精査、サプライヤー宣誓・定期監査、トレース体制の整備など、PTA適用に耐えうる証憑基盤を準備します。itj.dgciskol+1
  • 代替調達・代替生産シナリオの検討
    メキシコとFTAを持つ国からの調達・生産への切り替え余地を検証し、インド依存度の高い部材の「第二ソース」を確保します。financialpost+1
  • 業界団体・現地商工会との情報ライン構築
    品目リストや具体的税率の最終確定、PTAのスコープについて、一次情報を継続的に取得できるチャネルを確保します。timesofindia.indiatimes+1

今後の見通し:短期はPTA、長期はFTA(ただし政治次第)

インドとメキシコは、すでにオンライン会合を通じてPTAの技術協議を開始しており、短期的には**「高関税の影響が大きい品目をPTAでピンポイント救済する」方向**が現実的と見られます。tradingview+2

一方で、より包括的なFTAに発展するかどうかは、2026年USMCA見直しを含む対米関係、対中政策、メキシコ国内産業保護の政治力学に大きく左右されます。 企業としては、「短期:PTAによる部分的な関税差」「中長期:FTAや北米サプライチェーン再編による構造変化」の両方を織り込んだシナリオプランニングが必要です。bloomberg+4


本稿は公開情報に基づくビジネス上の一般的解説であり、特定の取引・案件に対する法務・税務・通関上の助言を構成するものではありません。具体的な案件については、協定正文・国内実施法・通関実務を確認のうえ、専門家への相談を推奨します。

  1. https://www.reuters.com/world/india/india-talks-with-mexico-over-tariffs-threatening-2-billion-exports-2025-12-15/
  2. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-talks-india-mexico-open-dialogue-to-blunt-tariff-shock-preferential-pact-on-the-table/articleshow/125976849.cms
  3. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/mexicos-senate-approves-tariff-hikes-chinese-other-asian-imports-2025-12-11/
  4. https://www.aa.com.tr/en/americas/mexican-senate-approves-up-to-50-tariffs-on-imports-from-china-asian-nations/3768289
  5. https://financialpost.com/news/mexico-50-tariffs-chinese-asian-imports
  6. https://tradingeconomics.com/india/exports/mexico
  7. https://table.media/en/china/news-en/mexico-import-tariffs-against-china-and-other-asian-countries
  8. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-11/mexico-aligns-with-us-on-tougher-tariffs-on-chinese-asian-goods
  9. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-tariff-hike-hit-1-billion-india-car-exports-despite-automaker-lobbying-2025-12-11/
  10. https://gmk.center/en/news/mexico-approves-tariff-increases-on-chinese-and-other-asian-imports/
  11. https://www.tradingview.com/news/reuters.com,2025:newsml_L1N3XL083:0-india-proposes-trade-deal-to-counter-sharp-tariff-hike-by-mexico/
  12. https://economictimes.com/news/economy/foreign-trade/why-mexico-slapped-50-tariff-on-india-how-it-matters/articleshow/125916395.cms
  13. https://www.indiainmexico.gov.in/public_files/assets/pdf/India-Mexico_Trade_Commercial_Relations_june.pdf
  14. http://itj.dgciskol.gov.in/hsLagNXcDNZLrfxnFiuzppuA3ckWhBLyT8a0cJ41.pdf
  15. https://www.businesstoday.in/india/story/india-mexico-trade-faces-new-headwinds-amid-threat-of-up-to-50-tariff-on-asian-goods-506267-2025-12-11
  16. https://www.newindianexpress.com/business/2025/Dec/12/mexico-to-impose-up-to-50-tariff-on-indian-exports
  17. https://www.reuters.com/business/tariffs/
  18. https://www.facebook.com/etnow/posts/50-tariff-india-engaged-with-mexico-over-unilateral-hike-fta-talks-soon-read-/1274343104724591/
  19. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-deficit-narrows-november-deficit-drops-to-24-53-billion-compared-to-41-68-billion-in-october-check-details/articleshow/125974431.cms
  20. https://tradingeconomics.com/mexico/imports/india

米印関税協議の12月ラウンドで何が起きるのか──最大50%関税と「二本立て交渉」の行方を、ビジネスの現場目線で整理してみます


1. 12月協議のスケジュールと全体像

まずは事実関係をざっくり整理します。

日程
米国通商代表部(USTR)の高官団が、12月9〜11日前後にインドを訪問し、実質的な本格協議は10〜11日に行われる見通しです。reuters
インド側や一部報道では「10〜12日の3日間協議」と説明されており、実務協議と取りまとめセッションを含めて3日分の枠を確保していると理解するのが妥当です。metroindia

参加プレーヤー
米国側:リック・スウィッツァーUSTR次席代表(Deputy USTR)が代表。reuters+1
インド側:ラジェシュ・アグラワル商務次官(Commerce Secretary)が首席交渉官として対応すると報じられています。metroindia

交渉の「器」(フォーマット)

  • 二国間貿易協定(BTA)第1トランシュをまとめる交渉
  • 「相互関税(reciprocal tariffs)」問題を切り離して処理するための枠組み交渉
    (対印25%の相互関税と、ロシア産原油購入に紐づく25%の「オイル関税」という二層構造の整理)ey+2

インド商務省は「年内に第1トランシュを決着させたい」と繰り返し発言しており、今回の12月ラウンドは「詰め」の色彩が強い局面と見るのが現実的です。metroindia


2. なぜここまでこじれたのか:50%関税の現状

2-1. 50%関税の中身

2025年夏以降、米印の関税問題は一気にエスカレートしました。cnbc+2
2025年8月初旬、トランプ大統領はインドからの輸入品に25%の追加関税を発動し、その後さらに25%を上乗せしたことで、多くのインド製品が実質50%課税の対象となっています。theguardian+3

目的とされるのは、

  • インドによるロシア産原油の継続輸入に対する制裁
  • 米国が貿易赤字を抱える国に対して進める「相互主義的関税」政策の一環
    という二つの側面です。whitehouse+3

経済紙の報道によれば、インド側の試算では、2024年の輸出額ベースで約482億ドル相当の対米輸出が、この50%関税の影響を受け得るとされています。thedailystar

2-2. 通貨・マクロへのインパクト

この関税ショックは、為替や資本フローにも跳ねています。tradingeconomics+2
2025年12月初旬、ルピーは対ドルで1ドル=90ルピー台に乗せ、史上最安値圏まで下落しました。rediff+2

背景として指摘されている要因は、

  • 最大輸出市場である米国向け輸出の減速(最大50%関税による採算悪化)
  • それに伴う外国株式投資の流出(年初来で数十億ドル規模のネット売り)
  • FDIの伸び鈍化や外貨需要超過
    などです。tradingeconomics+2

インド最大手銀行の一つであるHDFCは、「対米通商合意が早期にまとまらなければ、ルピーは92まで下落する可能性がある」と警鐘を鳴らしています。ts2+1

2-3. 「関係は良かったはず」からの反転

ここまでこじれる直前まで、米印はむしろ「雪解けムード」にありました。
2023年6月、WTO上の6件の係争を一括解決し、インドは米国の鉄鋼・アルミへの232条関税に対する報復関税を撤廃しました。thedailystar+1

2024年1月の第14回米印貿易政策フォーラム(TPF)では、

  • 通関・サプライチェーン
  • 医薬品・医療機器
  • デジタル貿易・データ保護
  • ITハードの輸入規制
    など幅広い分野で協力ロードマップが整理されています。reuters+1

ところが、ロシア産原油をめぐる政治要因をきっかけに、「232条の一件落着」から一転して新たな関税戦争に入ってしまった、という構図です。ey+2


3. 12月協議で浮上しそうな論点の芽

ここからが、ビジネスの観点で最も重要なポイントです。
12月ラウンドで具体的にどのような論点がテーブルに載りそうか、「芽」の段階も含めて整理します。thedailystar+2

論点①:50%関税の「出口」をどう描くか

今回の協議の最大テーマは、言うまでもなく50%関税の扱いです。thedailystar+1

インド側の狙いは、

  • 「オイル関税」25%の早期撤廃
  • 残り25%の「相互関税」についても、段階的引き下げスケジュールを確保すること
    とされています。metroindia+1

米国側は、ロシア産原油問題が絡むため一括撤廃には慎重で、代わりに一定の対ロシア行動を条件とした「スナップバック条項付きの緩和」を検討する可能性があります。theguardian+2

報道ベースでは、インド商務省が「まずは枠組み合意(tariff framework deal)で、関税問題のガードレールを先に敷く」と説明しており、12月ラウンドで「即時解決」よりも「出口の設計図」が示される公算が高いと見られます。thedailystar+1

論点②:セクター別「バーター」の構図

関税全体を下げる代わりに、どの分野で相互に市場を開放するかが、実務的には最大の交渉材料になります。metroindia+1

インド側が関税引き下げを求める分野

  • 労働集約型輸出:繊維・衣料、革製品、宝飾(宝石・ジュエリー)、靴・玩具など
  • 一部農産品・水産品:えび・魚介類、油糧種子、ぶどう・バナナなどthedailystar

米国側がインド市場の開放を求める分野

  • 工業製品・高付加価値製造業:産業機械・部品、EVを含む自動車、石化製品
  • 農産品・食品:乳製品、りんご・ナッツ類(ツリーナッツ)、一部GM作物
  • ワイン・アルコール飲料 などthedailystar

ビジネスとしては、

  • どの分野から先に関税が引き下げられそうか
  • どの分野が最後まで政治カードとして残されそうか
    を見極めることで、自社の投資やサプライチェーン再編の優先順位をつけやすくなります。thedailystar

論点③:ロシア産原油と「戦略的自律」

今回の関税問題の根底には、インドによるロシア産原油輸入があります。cnbc+2

米国は、ロシア産原油の割安輸入がロシアの軍事行動を間接的に支えていると批判し、50%関税の半分を「ロシア油へのペナルティ」と位置づけています。cnbc+2
インドはエネルギー安全保障を理由に、「誰とどう付き合うかは主権の問題」と主張し、「戦略的自律(strategic autonomy)」を重ねて強調しています。thedailystar

12月協議のテーブルでも、関税そのもの以上に「どの程度までロシアとのエネルギー取引を続けるか」という政治・安全保障の議論が、経済交渉の裏テーマとして動く可能性があります。ey+2

ビジネス面では、

  • 対ロシア依存度の高いサプライチェーン
  • 原油・ガス価格がコスト構造に占める比重
    が、米印関係の「地政学的温度」に左右される点を意識しておく必要があります。ts2+2

論点④:通貨・金利・マクロ安定性への副作用

ルピー安と資本流出は、すでにインド企業・投資家にとって現実的な懸念材料になっています。rediff+2
12月協議の結果は、

  • 「関税緩和シナリオ」:ルピー安に一定の歯止めがかかり、インド株・債券への資金回帰が期待される
  • 「決裂または先送りシナリオ」:ルピー90〜92レンジの長期化と、インド企業の海外調達コスト上昇
    という形でマクロ環境に直結する、という見方が出ています。ts2+1

外からは「関税問題」として語られがちですが、企業の立場からは、為替・金利・資本コストの問題として捉える方が実務的です。rediff+2

論点⑤:関税を超えた「非関税・デジタル」アジェンダ

12月協議の公式アジェンダはまだ詳細が公表されていませんが、2024年のTPF共同声明で掲げられたテーマを踏まえると、少なくとも以下のような「芽」が常に背景にあります。reuters+1

  • ITハードの輸入管理(コンピュータ・サーバー・タブレットなど)
  • 医療機器の価格規制と基準
  • 医薬品サプライチェーン(API・KSMの分散)
  • デジタル貿易・個人データ保護(DPDPA)
  • 通関のデジタル化・貿易円滑化reuters+1

これらは「12月で一気に決着する」性質のテーマではありませんが、「関税問題が一段落したあと、どこに規制・標準の焦点が移るか」という意味で、中長期の論点の芽としてウォッチ対象になります。reuters+1


4. ビジネスマンが今から押さえたい3つの視点

最後に、「自社ビジネスにどう関係してくるのか」という観点から、チェックポイントを3つに絞ります。tradingeconomics+2

① どのセクターが「最初に」関税緩和の候補になるか

自社や主要取引先の事業が、

  • インド側の要望リスト(繊維・宝飾・労働集約型製造・一部農水産品など)に含まれるのか
  • 米国側の要望リスト(EV・高級車・石化・乳製品・果物・ナッツ類など)に含まれるのか
    を一度棚卸ししておく価値があります。thedailystar

どちらの「陣営」に乗っているかによって、

  • 関税引き下げのタイミング
  • 求められる規制対応や品質標準
    が変わってくるためです。thedailystar

② 為替・資本コストのシナリオを「米印関係」とセットで見る

インドに生産・開発拠点を持つ企業は、

  • ルピー90〜92レンジが半年〜1年続く前提のPLシナリオ
  • 「関税緩和→資本流入回復」でルピーが落ち着くシナリオ
    の少なくとも二本立てを準備しておくと、意思決定がしやすくなります。ts2+1

調達・販売をドル建てで行っている場合、関税よりも為替インパクトの方が効くケースもあるため、あえて「通貨リスク中心」でシナリオ設計を行う割り切りも有効です。tradingeconomics+1

③ 「ポスト関税」の規制・デジタル議論に先回りする

関税が落ち着いた後には、

  • データローカライゼーション
  • デジタル取引に対する税・規制
  • 医療・IT・EVなどの技術・安全基準
    が次の交渉テーマとなる可能性が高いと見られています。reuters+1

今回の12月ラウンドを、「関税問題だけでなく、その先のアジェンダの入り口」と位置づけて情報収集しておくことで、中長期の戦略設計で差をつけやすくなります。reuters+1


5. まとめ:12月協議は「終わり」ではなく大きな節目

押さえておきたいのは、

  • 日程:12月10〜11日(前後も含めた3日枠)
  • 主役:BTA第1トランシュ+関税枠組み合意
  • 背景:最大50%の対印関税、ルピー安、ロシア産原油をめぐる地政学的要因
    という構図です。reuters+4

この枠組みを頭に入れておくと、ニュースが出た際に「自社にとってプラスかマイナスか」を判断しやすくなります。
12月ラウンドですべてが解決する可能性は高くありませんが、

  • 関税引き下げの道筋が見えてくるかどうか
  • どのセクターが「先に」動きそうかのヒントが得られるか
    という意味で、ビジネスにとって重要な節目になると考えられます。tradingeconomics+2
  1. https://www.reuters.com/world/india/deputy-us-trade-representative-visit-india-december-10-11-2025-12-08/
  2. https://www.metroindia.net/news/articlenews/india-us-to-begin-day-trade-talks-from-dec-32713
  3. https://www.cnbc.com/2025/08/06/trump-trade-india-tariffs-russia.html
  4. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/us-imposes-additional-tariffs-on-india-for-buying-oil-from-russia
  5. https://tradingeconomics.com/india/currency
  6. https://www.theguardian.com/us-news/2025/aug/27/trump-tariff-india-russian-oil-purchase
  7. https://www.rediff.com/business/report/rupee-touches-rs-90-a-dollar-for-first-time-in-early-trade/20251203.htm
  8. https://www.reuters.com/world/india/trump-imposes-extra-25-tariff-indian-goods-ties-hit-new-low-2025-08-06/
  9. https://www.reuters.com/world/us/ustrs-greer-trump-would-love-stake-every-company-thats-doing-well-2025-09-30/
  10. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/08/fact-sheet-president-donald-j-trump-addresses-threats-to-the-united-states-by-the-government-of-the-russian-federation/
  11. https://www.thedailystar.net/news/world/news/how-floundering-india-us-talks-led-high-tariffs-3971891
  12. https://www.rediff.com/money/report/rupee-touches-rs-90-a-dollar-for-first-time-in-early-trade/20251203.htm
  13. https://ts2.tech/en/usd-to-inr-today-3-december-2025-rupee-breaks-%E2%82%B990-per-dollar-whats-driving-the-slide-and-where-could-it-go-next/
  14. https://www.deccanherald.com/india/us-india-to-hold-trade-talks-on-december-10-11-3823923
  15. https://www.reuters.com/world/india/trump-says-us-getting-close-reaching-trade-deal-with-india-2025-11-10/
  16. https://money.rediff.com/amp/news/market/us-india-trade-talks-dec-10-11-agreement-expected/38269220251208
  17. https://www.china-briefing.com/news/trump-xi-meeting-outcomes-and-implications/
  18. https://www.reddit.com/r/WorldNewsHeadlines/comments/1pcua7y/rupee_falls_to_a_new_low_crosses_90mark_against/
  19. https://www.investing.com/news/world-news/us-trade-officials-to-visit-india-for-trade-talks-from-tuesday-3943927
  20. https://www.reddit.com/r/StockMarketIndia/comments/1pgepmi/us_diplomat_to_visit_india_from_december_711_to/

インドにおけるHSコードの事前教示制度

以下は、インド中央間接税関税委員会(CBIC)におけるHSコードの事前教示(Advance Ruling)制度の実務まとめです。本制度はCustoms Authority for Advance Rulings(CAAR)により運用され、関税法(Customs Act, 1962)第VB章およびCustoms Authority for Advance Rulings Regulations, 2021に基づきます。

1. 運用組織と連絡先

運用組織
Customs Authority for Advance Rulings(CAAR)

所管ベンチ
全国を2区分して所管:

  • CAAR, New Delhi:北部・東部および海外所在の申請者を所管
  • CAAR, Mumbai:西部・南部を所管

連絡先

CAAR, New Delhi

  • 住所:5th Floor, NDMC Building, Yashwant Place, Satya Marg, Chanakyapuri, New Delhi-110021
  • 電話:011-26117895
  • Email:cus-advrulings.del@gov.in

CAAR, Mumbai

公式URL・様式

2. 事前教示のプロセス

所管ベンチの確認
申請者の住所によりDelhi又はMumbaiに提出。Delhiはインド国外住所の申請も所管します。

申請書の作成・提出
Regulation 6に従いForm CAAR-1で申請。A4サイズ、英語またはヒンディー語で作成し、他言語資料は認証翻訳を添付。正本4部(quadruplicate)を作成し、10,000ルピーの申請手数料(Demand Draft、宛先は”Customs Authority for Advance Rulings, Delhi”又は”Customs Authority for Advance Rulings, Mumbai”)を同封して所管CAARに提出します。

受理・補正
受付後、不備補正の指示があり得ます。不備解消後に再提出した日が法定処理期間の起算日となります。

適否審査(門前審査)
同一質問が既に係属中又は既判の場合は申請不許可となります。不許可は聴聞の機会付与と理由付記が必要です。

審理(書面・口頭)
申請者からの申立により口頭陳述(聴聞)が可能。代理人出頭も認められます。

裁定(Advance Ruling)の言渡し
申請受理(不備解消後)から原則3か月以内に書面で言渡しされます。

3. 申請に必要な情報

Form CAAR-1で求められる主な情報:

  • 申請者情報(名称・住所・連絡先・PAN、IEC該当時)、代理人情報
  • 申請者資格(IEC保有者、インド向け輸出者、その他正当な理由を有する者等)
  • 対象活動(予定又は現行)と現状
  • 問合せ事項の特定(チェック式):(i) 分類(HS/CTA 1975)、(ii) 通達・通知の適用有無(税率影響)、(iii) 評価(関税評価の原則)、(iv) その他の課税関係通知の適用、(v) 原産地の判定等
  • 事実関係の詳細(製品説明、組成、用途、製造工程、型式一覧、カタログ等)
  • 申請者の法令解釈・主張(根拠条文・解説書等の参照を含む)
  • 同一・類似争点の係属・既判の有無
  • 添付書類リスト、手数料支払情報

対象となる質問の範囲は関税法第28H条(2)に規定されています(分類・評価・通知の適用・原産地等)。

4. 処理期間

法定期限:3か月
受理日(不備解消後の再提出日)から3か月以内に裁定を言渡し。

5. 有効期間

有効期間:3年
2022年改正(財政法2022)により、Advance Rulingの効力は3年間又はその根拠となる法令・事実が変更されるまでのいずれか早い時点まで有効です。

拘束力の範囲
当該申請者とその案件に関して、所轄税関長(および配下の税関官署)を拘束します。

6. 申請手数料

申請手数料:10,000インドルピー
Demand Draft形式で、宛先は”Customs Authority for Advance Rulings, Delhi”又は”Customs Authority for Advance Rulings, Mumbai”。

上訴手数料
不服申立(Form CAAR-2;高等裁判所への上訴手続)の手数料は15,000ルピー。

上記以外に、翻訳費・カタログ作成・試験成績書取得・郵送費等の実費が生じることがあります(法定外の任意費用)。

7. 実務上の注意点

申請資格
IEC保有者、インド向け輸出者、または正当な理由を有しCAARが相当と認める者。

不受理(門前不受理)事由
同一質問が係属中(税関・審判所・裁判所)又は既判(審判所・裁判所で確定)の場合は、CAARは受理不可。

代理・聴聞
申請者はインド居住の代理人に委任可能。申立により口頭意見陳述の機会あり。

無効事由
虚偽・詐欺・事実誤認に基づく裁定は遡及無効(void ab initio)となります(関税法第28K条)。

不服申立
申請者またはCBICが、裁定(CAARのOrder/Ruling)に対し、60日以内に高等裁判所へ上訴可能(相当理由で30日延長可)。

言語要件
英語又はヒンディー語。他言語資料は認証翻訳を添付。

公開状況
CAARの裁定や発出状況を公表している例(Delhi税関サイト等)があり、先例調査に有用です。

所管の州割当
Regulation 6付表にDelhi/Mumbaiの州・UT別の所管が列挙されています。提出前に必ず確認してください。

申請準備チェックリスト

製品説明の精緻化
型番・規格・材質(化学組成%)・用途・工程図・図面・写真・カタログを準備。

技術根拠
WCO解説(Explanatory Notes)の参照箇所、インド判例・過去のCAAR裁定の引用。

比較品
近似品の既存分類や他国分類の情報(法的拘束力はないが参考資料として有用)。

原産地裁定の場合
原産地規則(該当FTA)の条項、原産材料・非原産材料の内訳、原産判定計算書を準備。

係属・既判の事前確認
社内・代理人・通関士と突合し、二重トラックを回避(不受理を防止)。

要点の早見表

項目内容
提出先CAAR(Delhi/Mumbai)
様式Form CAAR-1、正本4部、10,000ルピーのDemand Draft添付
処理期間不備解消後の受理日から3か月以内
有効期間3年間(又は法令・事実変更まで)
拘束力当該申請者と所轄税関を拘束
上訴期間60日以内に高等裁判所(最大30日延長可)