話題の「Meyer事件」は、米国関税で“ファーストセール(first sale)”を使えるかが争点になった一連の訴訟の最新(2024年)判断を指します。
要点
- 2024/12/13、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は差し戻し:下級審(CIT)が“親会社の財務情報を提出していない=不利”という推定的不利益でfirst saleを否定したのは不適切、ある証拠記録をちゃんと評価し直せと命じました。first sale自体は引き続き有効な選択肢です。 (Justia Law, Fed Circuit Blog)
- 中国が関わるから即NGではない:2022年のCAFCは、“非市場経済(NME)ゆえにダメ”という考え方を否定。見るべきは買手・売手の関係が価格に影響したかであり、NMEの一般論ではないと明確化しています。 (Justia Law, ホワイト&ケース LLP)
- 現時点の実務感:first saleは使える余地が続くが、証拠の出し方・残し方(テストの立証)が勝負。親会社のフル財務が必須とまでは言えないが、“関係性が価格に影響していない”ことの立証は必要です。 (Justia Law)
何が争点だったか
複数段の関連会社取引(製造業者→関連ディストリビュータ→米国輸入者)がある場合、最初の売買(first sale)の価格を関税評価に使えるか。Meyer社は製造業者→関連ディストリビュータの価格での評価(first sale)を主張、税関はディストリビュータ→輸入者の“第二段階”価格(second sale)で課税しました。 (Justia Law)
2024年判決のポイント(企業目線)
- 推定的不利益はダメ
CITは“親会社(Meyer Holdings)の財務資料を出していない”ことを重く見てfirst saleを退けましたが、証拠命令違反もないのに不利推定を置くのは不適切とCAFC。記録上の他の証拠(社員宣誓証言、専門家意見、会社資料)を評価しろと差し戻し。 (Justia Law) - 立証の道筋(2テスト)を明示
関連者間価格の妥当性は、**19 C.F.R. §152.103(l)(1)**の
- 「全コスト+利益」テスト か
- 「通常の価格設定慣行」テスト
のいずれかで示し得る、と再確認。CITはこの観点から**“記録にある証拠で”**判断し直すべきとされました。 (Justia Law, U.S. Customs and Border Protection)
- NME(中国)一般論は関係ない(ただし2022年判断)
評価にNMEの影響一般を持ち込むのは法令上の根拠なし。見るべきは**「関係性が価格に影響したか」**という条文要件だけ、という線引きをCAFCは既に示しています。 (Justia Law)
結果:first saleは“生きている”。ただし証拠の作り方次第。2024年時点では最終確定ではなく差戻し中という状況です。 (Justia Law)
企業への実務インパクト(チェックリスト)
- 取引書類の突合:発注書・インボイス・支払エビデンスを製造段階(first sale)単位でひも付け可能に。 (ホワイト&ケース LLP)
- “関係が価格に影響していない”証拠:移転価格方針、独立第三者との比較、マージンの一貫性などで通常の価格設定慣行を示す。 (Justia Law)
- 原価裏付け:品目別のコスト内訳+利益(BOM、製造間接費、販管費の扱い)を監査トレース可能に。 (U.S. Customs and Border Protection)
- サプライチェーン図解:多段取引(香港/マカオの関連販社など)を物量・代金フローで可視化。 (Justia Law)
- 親会社情報の扱い:常に必須ではないが、求められた時に代替できる記録証拠を準備(子会社レベルの帳票・宣誓供述・専門家意見等)。 (Justia Law)
- 監査/紛争対応プロトコル:CBP照会に対する短期提出体制と、first sale適用判断の社内基準を明文化。 (BDO)
いま何をするべきか(実行順)
- 対象SKUの棚卸し:first saleで申告中/検討中の品目を洗い出し。
- 証拠セットのギャップ分析:上記2テストに照らして足りない資料(コスト、比較対象、価格設定の説明)を特定。 (Justia Law, U.S. Customs and Border Protection)
- 運用ルール化:PO発行から支払・出荷・通関までの書類ひも付け標準を定義。
- リスク説明の社内共有:差戻し中であること、first saleが制度として排斥されたわけではないことを経営・現場に周知。 (Justia Law)
事件の流れ(年表)
- 2021/3:CITがfirst sale否定(NME影響などを重視)。 (International Trade Law)
- 2022/8/11:CAFCがNME一般論の持込みを否定し差戻し(Meyer “III”)。 (Justia Law)
- 2023/2/9:CIT、再びfirst sale否定(主に親会社財務不提出を重視)。 (BDO)
- 2024/12/13:CAFC、推定的不利益は不適切として再度差戻し。 (Justia Law, Fed Circuit Blog)
よくある誤解
- Q:非市場経済(中国)が関わるとfirst saleは使えない?
A:いいえ。CAFCはNME一般論は評価に持ち込まないと明確化。焦点は関係性が価格に影響したかです。 (Justia Law) - Q:親会社の連結財務がないと必ず負ける?
**A:必ずしも必要ではない。2024年CAFCは“未提出=不利推定”**という短絡を戒め、既存記録の実質審理を命じています。 (Justia Law)
注:本件は最終確定前(差戻し審理中)です。実案件では顧問弁護士・通関士と協議のうえ、対象品目ごとに二つのテスト(全コスト+利益/通常の価格設定慣行)で証拠を整えるのが実務的です。 (Justia Law, U.S. Customs and Border Protection)
参考(判決・概要):
- 2024年12月13日 CAFC判決(差戻し)— Meyer Corp., U.S. v. United States(判旨・PDFあり)。 (Justia Law)
- 同日の要約(FedCircuitBlog)。 (Fed Circuit Blog)
- 2022年のCAFC判断(NME一般論の排除)。 (Justia Law)
- 2023年CITの再度否定(背景把握用)。 (BDO)
- CBP Customs Bulletin(規則テスト等の整理)。 (U.S. Customs and Border Protection)