初心者向け:日本の主要 FTA/EPA における RVC 計算方式(Build-Up/Build-Down)の選択可否

日本の主要 FTA/EPA における RVC 計算方式(Build-Up/Build-Down)の選択可否

結論

  • 両方式を選択可:CPTPP、RCEP、日印 CEPA、日チリ EPA、日モンゴル EPA
  • ビルドダウンのみ(または EU 型 MaxNOM=実質ビルドダウン):日 EU・日 英 EPA、AJCEP、多くの ASEAN 二国間 EPA(タイ・マレーシア・インドネシア・フィリピン・ベトナム)、日豪 JAEPA、日ペルー、日スイス、日メキシコ
     PSR(品目別規則)が CTC のみ等で RVC 自体を許容しない品目がある。最終判断は必ず PSR を確認すること。

1) 両方式(Build-Up/Build-Down)を選択可

協定該当条文・注記閾値・母数補足
CPTPP第 3.5 条Build-Down:(FOB − VNM)/FOB Build-Up:VOM/FOB 自動車に Net Cost
RCEP第 3.5 条同上(FOB ベース、FOB 不明時の代替規定あり)
日印 CEPA第 28 条(a) Build-Down: (FOB − VNM)/FOB (b) Build-Up: (VOM + 直接労務費等)/FOB
日チリ EPA第 30 条双方式の QVC 式を採用(閾値 40% 等、品目で差異)
日モンゴル EPA第 3 章 付属書運用手続例で両式明示(FOB 基準)

2) ビルドダウンのみ(EU 型 MaxNOM を含む)

協定該当条文・注記使用可方式備考
日 EU EPA附属書 3-AMaxNOM:VNM/EXW RVC:(FOB − VNM)/FOBBuild-Up なし
日 英 CEPA附属書 3-A日 EU と同型
AJCEP第 28 条・公式プライマーRVC:(FOB − VNM)/FOB のみBuild-Up なし
日豪 JAEPA豪州側ガイドRVC:(Customs Value − VNM)/Customs Value母数は通関価額
日タイ JTEPA第 29 条 4(b)QVC:(FOB − VNM)/FOB
日マレーシア MJEPA運用解説QVC:(FOB − VNM)/FOB
日インドネシア JIEPA第 28 条 4(b)QVC:(FOB − VNM)/FOB
日フィリピン JPEPA運用手続QVC:(FOB − VNM)/FOB
日ベトナム VJEPA第 27 条LVC:(FOB − VNM)/FOB
日ペルー EPA第 41 条QVC:(FOB − VNM)/FOB
日スイス EPA附属書 2MaxNOM:VNM/EXWBuild-Up なし
日メキシコ EPA附属書 4RVC:(TV − VNM)/TV ※自動車に特則

実務上の留意点

  • 価格基準
    • EU 型は MaxNOM が EXW、RVC が FOB を母数とし、いずれも VNM を控除するビルドダウン発想。
    • JAEPA は Customs Value を採用するため、日本側輸出価格との乖離に注意。
  • PSR 優先
    一般則で両式が許されても、PSR が「CTC のみ」「CTC または RVC40%」と指示する場合はそのとおりに従う。
  • 業種別特則
    自動車など一部分野は Net Cost(CPTPP)や独自計算式を設定。該当附属書を必ず確認。

方式選択の概略指針

  • Build-Up を選べる協定(CPTPP/RCEP/日印/日チリ/日モンゴル 等)
    • 原産材料の VOM をサプライヤー証明で一括把握できる場合に有利。
    • 複数原産国部材を組み合わせる調達構成で柔軟性が高い。
  • Build-Down のみの協定(日 EU・日 英/AJCEP/ASEAN 二国間/日豪 等)
    • 非原産材料 VNM の管理が中心。母数(EXW/FOB/通関価額)の違いを誤らないこと。

VAでの原産証明における証拠書類

商工会議所の指摘でなるほどと思ったことを一つ。

エクセルシートなどでVAの計算書を作る人が多いと思いますが、小数点などが四捨五入されて自動合計されますね。

表面的な数字を足すと、エクセルでの合計と違うことがあります。

0.3+0.3+0.3

整数だけを見せるエクセルだと

0+0+0=1

になりますね。合計が0.9なので1が合計に記されます。

ですが、資料を見る側からすれば合計は0になるはず。

この点を指摘され、合計は、見えている数値を別途合計して記すように指導されました。

若いコンサルタントが不用意にワークシートの結果を見せ、内部で指摘される基本的なところです。

考えなしに計算シートを使ってはいけないという例です。

気をつけましょう。

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21-5 VA(付加価値基準)

FTAにおける原産地証明基準は3つあります。

そのうちの1つであるCTC、関税分類変更基準に関して詳しく見ていきます。

 

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FTA活用講座:オンライン講座リスト

FTAにおける原産地証明:その使うべき原産地規則

FTAでは、原産地証明で適用する原産地規則がかなり大事であると思っています。

原産地規則には3つの種類があります。

  • 加工工程基準(SP)
  • 関税分類変更基準(CTC)
  • 付加価値基準(VA)

企業は適用基準を好きに選べるわけではありません。協定、及び輸出商品の該当するHSコードにより使える原産地規則が決まっています。多くの場合、CTCかVAの選択が出来るようになっています。

大型客船のような一品ものは、付加価値基準(VA)で問題はないとは思いますが、同じ商品が何度も輸出されるような場合は、関税分類変更基準(CTC)の方が断然使い勝手がいいです。

しかし、実際にはVAを使われる企業が多くあります。計算しやすいからとのことですが、私の経験からすると、むしろVAは証明するのが厄介です。

構成部材毎のコストを計算する必要がありますし、その計算根拠もちゃんと出せるようにする必要があります。また、VAの場合は本来は輸出毎に証明をする必要があるのです。現実はそれは無理なので、企業内でのルール作りをして、そのチェック頻度を企業として明確にして、原産性が維持されていることを確認続ける必要があります。

VAが使われるのに、「計算がしやすいから」という理由意外に別に理由があるととある人から聞きました。「監査法人は、VAの方が自分たちの専門性が生きるし、仕事も継続してもらいやすくなるから。」だそうです。

確かに。

原価計算、システム化では彼らに一日の長があります。一方、CTCで必要となるHSコードは素人に等しい。

どれだけ、本当なのかはわかりません。

ただ、多くの工業製品でCTCとVAの選択が出来る場合は、CTCにした方が企業にはメリットが多いし、相手国の検認にも強いですよ。