EU鋼材「超過枠関税50%」が意味するもの


EUが鉄鋼輸入に対する新しい貿易措置として、関税割当枠(TRQ)を大幅に縮小し、枠超過分の関税を現行25%から50%へ引き上げる案を提示しています。 これに対し、欧州議会・国際貿易委員会(INTA)の草案は、50%関税を支持しつつ、一部条件を修正する方向で議論を進めています。eurometal+3

この記事では、

  • そもそも何がどう変わるのか
  • EU議会案で上乗せ・修正された点は何か
  • EU内外の企業への影響
  • 日本企業・ビジネスパーソンが今から準備すべきこと
    を整理します。jetro+1

1. 現行「鉄鋼セーフガード」とEC新制度案

現行セーフガード(〜2026年6月末まで)

EUは2018年、米国の鉄鋼セクション232関税(25%)発動を受けて、鉄鋼輸入にセーフガード措置を導入しました。 仕組みは「品目ごとのTRQ設定+枠超過分25%関税」というシンプルな構造で、約26カテゴリーの鉄鋼製品について枠内無税・枠超過に25%追加関税が課されています。chosun+1

WTOルール上、このセーフガードは2018年7月から8年で終了となるため、2026年6月末以降をどうするかが現在の議論の出発点です。finance.yahoo+1

欧州委員会(EC)案:2025年10月公表の新措置案

2025年10月、ECは「世界的な過剰生産からEU鉄鋼業を守る」ことを目的とした新たな鉄鋼貿易措置案を公表しました。 エッセンスは以下の3点です。eeas.europa+1

  • 無税枠(TRQ)の大幅削減
    年間の関税割当総量を18.3百万トンに制限し、2024年の枠から約47%削減するという内容です。letsrecycle+1
  • 枠超過関税を25%→50%へ倍増
    枠を超える輸入には50%の追加関税を課し、米国・カナダの水準と足並みを揃える構図になっています。reuters+1
  • 「メルト&ポア」原産地要件の導入
    鋼材がどの国で溶解・鋳造されたかを証明する「melt and pour」要件を導入し、ミルシート等で溶解国を示すことで迂回輸入を防ぐ狙いです。europa+1

対象は鉄鋼製品28品目で、現行よりやや拡大しており、ノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタインは枠外扱い、ウクライナについては安全保障上の事情を踏まえた特例的な優遇が想定されています。 ECは、これによりEU鉄鋼の設備稼働率を現在の65〜67%程度から80〜85%へ改善し、世界的な過剰生産への防波堤にしたい考えです。eurometal+2


2. EU議会案(INTA草案)の中身

INTAのリーク草案(2025年11月24日付と報じられる文書)は、EC案をベースにしつつ、いくつか重要な修正を提案しています。eurometal+1

50%超過枠関税の維持

議会草案は、枠超過分50%関税というEC案のコア要素を支持しています。 無税枠自体も2013年輸入量を基準とする考え方を維持しており、現行枠より約半分程度の水準になるという方向性に変わりはありません。linkedin+2

キャリーオーバーの復活提案

EC案では四半期ごとのTRQ管理で「未使用枠の持ち越し不可」とされていましたが、INTA草案はこれを緩和し、未使用分の四半期枠を翌四半期にキャリーオーバーすることを認めるべきだと提案しています。 これは供給途絶と価格変動の急激な振れを抑えるためで、ユーザー産業からの強い要望を反映した修正とされています。lagrand+1

ロシア・ベラルーシ鋼の事実上の全面排除

議会草案は、ロシアまたはベラルーシで溶解・鋳造された鋼を使った製品をクオータ制度の対象外とし、EU国境で即時拒否する規定を盛り込む案を提示しています。 これは関税水準の問題を超えた安全保障・制裁措置の性格が強い提案です。eurometal

ウクライナ・EFTA3カ国の扱い

草案は、EC案と同様に、ウクライナについては戦時下の特例としてクオータ・関税を免除し、既存の一方的優遇措置の延長を想定しています。 またノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタインについては、従来どおり制度の対象外としています。lagrand+2

発効時期:2026年中の開始見込みだが未確定

現行セーフガードは2026年6月末に失効し、新制度がその後を引き継ぐことが想定されています。 一部報道では、業界関係者が「2026年4月開始」を一つのシナリオとして挙げているものの、正式な発効日は依然として議論中であり、委員会採択・本会議・理事会との協議を経て最終決定される必要があります。eunews+3


3. EU内での評価:上流の歓迎と下流の危機感

鉄鋼メーカー側:稼働率と投資余力の回復

EUROFERなど鉄鋼メーカー側は、新措置案を「EU鉄鋼の設備稼働率を80〜85%に戻し、低価格輸入によるダメージを抑えつつ、脱炭素投資に必要な採算性を確保する措置」として強く支持しています。 彼らは、現在の輸入枠が需要に比べて過大であり、補助金付き・高炭素鋼がEU市場を侵食していると主張しています。reuters+3

自動車・機械などユーザー産業:コストと供給の両面を懸念

自動車・機械・エレクトロニクスなど鋼材ユーザー産業の業界団体は、47%のクオータ削減と50%超過関税、さらにmelt & pour要件による事務負担増の組み合わせが、コスト増と供給リスクを同時に高めると強く懸念しています。 一部の分析では、超過枠関税による追加コストが数十億ユーロ規模に達する可能性が指摘され、価格転嫁が難しいB2B取引ほどマージンが圧迫される構図です。koreapro+2


4. EU域外への波及:輸出国・英国・米国との連動

EU向け主要輸出国への影響

トルコ、インド、韓国、中国、ベトナム、台湾など、EU向け鉄鋼輸出の多い国々は、クオータ縮小と超過枠50%関税の組み合わせにより、枠内に収まらない部分の採算が厳しくなります。 その結果、輸出先の地域シフト(中東・アジア・アフリカなど)やEU向け製品の価格引き上げが進み、世界全体の鋼材フローが再配分される可能性があります。reuters+1

英国:EU市場依存ゆえの「実存的な脅威」

英国は鉄鋼輸出の大部分をEU向けに依存しているため、EUの新制度は「英国鉄鋼業にとって存在そのものを揺るがす脅威」と報じるメディアもあります。 UK Steelは国別クオータの確保を強く求めており、EUの高関税によりEU向けが減れば、代わりに安価な輸入が英国市場に流れ込む二重の影響も懸念されています。globalbankingandfinance

米国との「メタル・アライアンス」の可能性

EC案は、米国が既に導入している50%レベルの鉄鋼関税と歩調を合わせる形で、EU・米国の両方が中国などからの過剰輸出に対抗する「共同防衛ライン」を志向していると解説する向きもあります。 これは鉄鋼市場のブロック化、すなわち「北米+欧州 vs その他」という構図を強める方向に働きかねません。finance.yahoo+2


5. 日本企業・ビジネスパーソンの実務アクション

5-1 EU向けビジネスの鋼材依存度を棚卸し

まず、自社の売上・利益のうち、EU向けでかつ鋼材コスト比率が高い案件・製品を一覧化し、「EU向けにどの程度鋼材依存ビジネスがあるか」を把握することが出発点です。 そのうえで、50%関税がかかった場合の原価インパクトを粗くでも試算しておくと、社内説明や値上げ交渉の準備に役立ちます。jetro+3

5-2 HSコードとTRQカテゴリーの突き合わせ

新制度はTRQカテゴリーに基づいて運用されるため、自社の鋼材・部材のHSコードと、それがどのTRQカテゴリーに属するかを早期に確認する必要があります。 EU内部で十分な供給がない特殊鋼などは、業界団体を通じたロビーイングの論点にもなり得るため、「どのカテゴリーで、どれだけ枠が足りないか」を数字で把握しておくと有利です。thecaravelgu+2

5-3 「melt & pour」対応のトレーサビリティ構築

melt & pour要件により、EU向け鋼材や鋼材を含む製品では「溶解国情報」の提示が必須となる見込みです。 具体的には、letsrecycle+1

  • サプライヤー契約にmelt & pour情報提供義務を明記
  • 社内システムに「溶解国」フィールドを追加
  • ミルシートや長期供給者宣言のテンプレートを標準化し、サプライヤーに共有
    といった実務的なトレーサビリティ整備が求められます。eurometal+1

5-4 契約・価格条項(サーチャージ/関税条項)の見直し

2026年以降をまたぐ長期契約では、鋼材価格と関税・TRQ制度の両方の変動を織り込める条項が重要になります。 例として、reuters+1

  • 「EU鉄鋼TRQ制度の変更により当該品目の関税または関連コストがX%以上増加した場合、価格を協議・改定できる」
  • 「melt & pour要件強化に伴う追加事務コストを別途請求可能とする」
    などの条項が検討対象になります。thecaravelgu+1

5-5 立法プロセスと業界団体の動きを継続ウォッチ

制度はまだ提案+議会草案の段階であり、欧州議会本会議、理事会とのトリローグを経る中で、キャリーオーバーや対象品目などの細部が変わる可能性があります。eurometal+1

  • ECの公式発表・官報
  • 欧州議会INTA委員会の審議・修正案
  • EUROFER(上流)とACEA・Orgalim等(下流)の声明
  • JETROや各国政府の解説レポート
    といった情報源を追いながら、「決まってから対応」ではなく、「どう決まりそうか」を見越して社内シミュレーションを進めることが重要です。jetro+1

6. 50%という数字が持つメッセージ

EC案とEU議会案は、

  • 無税枠(TRQ)を2024年比47%削減し18.3百万トンに制限
  • 枠超過分の関税を25%から50%へ倍増
  • melt & pourに基づく厳格な原産地管理
    を柱とする、新しい鉄鋼貿易ルールを志向しています。europa+1

議会案は、50%関税自体は支持しつつ、四半期枠のキャリーオーバー復活、ロシア・ベラルーシ鋼の事実上の全面排除、ウクライナ・EFTA3カ国への特例といった要素を上乗せし、安全保障と実務運用のバランスを模索しています。 日本企業としては、EU向けビジネスの鋼材依存度、TRQカテゴリー、melt & pour情報のトレーサビリティ、2026年以降の価格条項といった観点で、早めに前提条件をアップデートしておくことが合理的なリスク対応となります。koreapro+3

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  2. https://www.chosun.com/english/industry-en/2025/10/08/C7S5WCWSCBAUZLECSFN2CCXLXI/
  3. https://eurometal.net/leaked-european-parliament-draft-on-safeguards-backs-50-steel-over-quota-duty-adds-russia-belarus-ban-quota-carryover/
  4. https://eurometal.net/2025/11/28/
  5. https://www.reuters.com/world/china/eu-halve-steel-import-quotas-revive-domestic-industry-2025-10-07/
  6. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/03/85badf9a4c5331d1.html
  7. https://uk.finance.yahoo.com/news/eu-plans-cut-steel-import-094823358.html
  8. https://www.eeas.europa.eu/delegations/t%C3%BCrkiye/commission-proposes-plan-protect-eu-steel-industry-unfair-impacts-global-overcapacity_en?s=230
  9. https://www.letsrecycle.com/news/eu-steel-proposal-seeks-stability-amid-global-overcapacity/
  10. https://eurometal.net/eu-unveils-quota-volumes-for-new-safeguard-system/
  11. https://www.linkedin.com/posts/eurometal_leaked-european-parliament-draft-on-safeguards-activity-7400190627092746241-IMKT
  12. https://lagrand.ch/eu-steel-market-poised-for-disruption-safeguard-draft-ukraine-scrap-ban-impact-202512021028/
  13. https://www.eunews.it/en/2025/10/07/zero-tariffs-for-lower-quotas-higher-ones-for-surpluses-eu-measures-for-steel/
  14. https://www.reuters.com/markets/commodities/eu-plans-cut-steel-import-quotas-hike-tariffs-2025-10-01/
  15. https://koreapro.org/?p=2211344
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  18. https://euperspectives.eu/2025/10/commission-slashes-steel-import-quotas-doubles-out-of-quota-tariff-to-50/
  19. https://www.steelorbis.com/steel-news/latest-news/eu-to-halve-steel-import-quotas-and-raise-tariffs-to-50-in-new-trade-package-1412688.htm
  20. https://x.com/EUROMETAL_/status/1994427204495933522

USMCA再検証と「離脱カード」の波紋――北米サプライチェーンは何を覚悟すべきか


1. いま何が起きているのか(エグゼクティブサマリー)

USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)は、**2026年に初回の「6年目共同見直し(レビュー)」**を迎えます(発効は2020年7月1日)。

協定本文第34.7条は、

  • 6年目に3か国で共同見直しを行うこと
  • その際に「さらに16年間延長するかどうか」を首脳レベルで書面確認すること
  • 延長に合意しなければ、2036年に協定が自動終了する”サンセット条項”になること

を定めています。

これに加え第34.6条は、いずれの国も6か月前通告でUSMCAから単独離脱できると明記しています。

2025年12月、トランプ政権のUSTR(米通商代表部)高官が

「来年、USMCAからの離脱を決める可能性がある」

と発言し、カナダ・メキシコのみならず企業・市場に大きな波紋を広げました。

2026年レビューは、

① 短時間で延長を決めて”継続”を確認するのか
② 再交渉の場として利用されるのか
③ 最悪の場合「離脱」や「2036年失効」へのレールになるのか

という分岐点になります。

日本企業にとっては、「NAFTA → USMCA」以上に不確実性の高いイベントであり、自動車・電機・機械を中心とする北米サプライチェーン戦略の再点検が急務です。


2. USMCAの「再検証」メカニズムを整理する

2-1. サンセット条項と6年目レビュー

USMCA第34.7条は、次のような構造になっています。

1. 16年の有効期間+延長オプション

  • 協定は発効から16年後(2036年7月1日)に自動終了。
  • ただし、3か国の首脳が書面で「延長したい」と確認すれば、そこからさらに16年延長。

2. 6年目の「共同見直し」

  • 発効から6年目(2026年)に、3か国の閣僚級で**共同レビュー(joint review)**を実施。
  • 各国は事前に「協定運用に関する提案・懸念」を提出できる。

3. 延長判断と”年次レビュー”

  • 6年目レビューで3か国全てが「延長したい」と確認すれば、その時点で自動延長。
  • もし1か国でも「延長しない」とした場合:
    • 2036年の自動終了は維持
    • それまで毎年「延長するかどうか」を再協議する年次レビューが義務付けられる。

つまり、2026年レビューは

「USMCAを2036年以降も安定的に続けるのか、それとも”いつでも終わり得る協定”として残り10年を走り抜けるのか」

を決める分岐点です。

2-2. 単独離脱条項との組み合わせ

別条文の第34.6条は、

  • **一方的離脱(withdrawal)**を認め、
  • 書面通告から6か月後にUSMCAから退出できると定めています。

したがって、

  • 2026年に3か国で延長を決めたとしても、
  • その後、米国・カナダ・メキシコのいずれかが国内政治の判断で離脱カードを切る余地は残ります。

3. 「離脱示唆」はどこまで本気なのか

3-1. USTR高官の発言とトランプ政権のスタンス

2025年12月、USTRのJamieson Greer氏はインタビューで、

**トランプ大統領が「来年、USMCAから撤退するかどうかを決める可能性がある」**と発言したとされています。

さらに、USMCAをカナダ・メキシコとの2本の二国間FTAに分割する構想にも言及したと報じられています。

これは、

  • 2018〜19年のNAFTA再交渉時と同様、「離脱カード」を交渉テコとして使う典型的なスタイルと見る向きが多い一方、
  • 今回は協定本文にサンセット条項と年次レビュー義務が組み込まれているため、「本当に終わりかねない」制度的リスクも存在します。

3-2. カナダ・メキシコ側の警戒

カナダでは、オンタリオ州首相が

「トランプ大統領を信頼していない。USMCAを前倒しで再交渉しようとする可能性がある」

と警告し、連邦政府に備えを求めています。

メキシコの自動車業界は、

  • **厳格化する原産地規則(ROO)**と
  • 米国によるトラック・EVなどへの高関税

を背景に、「2026年レビューに向けて”極めて複雑な見通し”」だと懸念を表明しています。

これらは、単なる政治的レトリックではなく、企業の投資判断・サプライチェーン構築に実際の影響を与え始めているシグナルと見るべきです。


4. 2026年レビューで焦点となり得る論点

各種シンクタンクの分析や実務家のコメントを整理すると、主な争点は以下の通りです。

4-1. 自動車・電機を中心とした原産地規則(ROO)

自動車の無税適用には、純費用方式で75%の域内部品比率が求められます。

この基準は段階的に引き上げられ、

  • 2020年発効時:66%
  • 2021年:69%
  • 2022年:72%
  • 2023年:75%(最終水準に到達)

となっています 。jetro

既に業界からは

  • 「実務的に達成が難しい」
  • 「アジアからの部材を一定程度認める”緩和”が必要」

との声も上がっており、2026年レビューで再調整を求める圧力が強まる可能性があります。

4-2. 労働・環境規定とその執行

USMCAは、NAFTAに比べて

  • 労働権
  • 環境保護

の条項を強化し、メキシコの工場への査察や是正要求が活発化しています。

米国側は、

  • 「メキシコの履行状況は不十分」との主張を強める可能性があり、
  • これを理由に関税引き上げや是正措置をちらつかせる交渉に発展するリスクがあります。

4-3. 中国など「非市場経済国」との関係

USMCAには、いわゆる**「非市場経済国(実質的には中国)とのFTA締結を制限する条項」**が含まれており、北米が対中デカップリング・デリスキングを進める枠組みとしても機能しています。

2026年レビューでは、

  • 中国由来部材の取り扱い
  • EV・電池・半導体など安全保障関連サプライチェーンの優先度

が改めて俎上に載ると見られます。

4-4. エネルギー・国家安全保障・紛争解決

  • エネルギー政策(メキシコの資源ナショナリズムなど)や
  • 安全保障を理由とした232条・301条関税との整合

も、レビューの文脈で調整が求められます。

既に、パネル紛争が複数件動いており、「協定の運用上の問題」なのか「ルールの設計そのものの問題」なのかを巡って各国の認識は分かれています。


5. ビジネスが直面する4つのシナリオ

各種レポートで示されているシナリオを統合すると、企業が押さえるべきパターンはおおよそ次の4つです。

シナリオ1:小幅見直し+16年延長(ベースライン)

  • 自動車ROOなど一部ルールを微調整しつつ、2026年に3か国が16年延長を確認。
  • 市場には「しばらくはUSMCAが続く」という安心感
  • ただし「単独離脱カード」は残るという状況。

シナリオ2:激しい再交渉だが、最終的には延長

トランプ政権が

  • 「再交渉に応じなければ離脱する」とプレッシャーをかけ、
  • 自動車・農業・デジタル税などで大幅な譲歩を迫る。

ぎりぎりまで不透明感が続く一方、最終的には何らかの妥協で延長。

NAFTA再交渉時と同様、「交渉のストレス」自体がビジネスにとってコストとなるパターンです。

シナリオ3:二国間FTAへの分割・部分的な「USMCA離れ」

米国が

  • カナダとの二国間、
  • メキシコとの二国間

への分割を示唆・実行し、実質的にUSMCAの三国一体性が薄れるケース。

ルールが国・品目別にさらに複雑化し、サプライチェーン管理・原産地管理の難度が上がります。

シナリオ4:延長見送り → 2036年失効 or 単独離脱

2026年時点で1か国以上が「延長しない」と表明し、2036年の自動失効が既定路線となるケース。

さらに、政治状況次第では、

  • 米国が突然第34.6条に基づき6か月通告で離脱

という、**NAFTA撤退宣言の”再演”**も排除できません。


6. 日本企業が今から取るべきアクション

6-1. 「USMCA依存度」を見える化する

1. 売上・調達のUSMCA依存度

  • 北米向け売上のうち
    • USMCA無税を前提とした取引の割合
    • 自動車・部品、電機、機械など協定依存度の高い品目
  • を定量化する。

2. 原産地ルールに対する脆弱性

  • ROOが厳しい品目(完成車・主要部品、ハイテク製品など)をリストアップし、
  • 「ルール変更」「原産地証明の厳格化」による影響度を試算。

6-2. ルール変更・関税復活を前提にしたシミュレーション

上記4シナリオをベースに、

  • 関税がNAFTA前水準/WTO税率に戻るケース
  • USMCAは継続するが、自動車ROOがさらに厳格化するケース
  • 二国間FTA化で、米国向けとカナダ・メキシコ向けのルールが分かれるケース

を、それぞれ原価・価格・利益に落とし込んで試算しておくことが重要です。

6-3. 北米サプライチェーン戦略の再点検

メキシコ拠点の役割見直し

近年の「メキシコ・ニアショアリング」ブームを背景に、多くの日系企業がメキシコ拠点を北米向け輸出のハブとして位置付けています。

USMCAの将来が不透明な中、

  • 米国国内生産の比重
  • カナダ・メキシコでの補完生産

のポートフォリオ・バランスを再検討する必要があります。

中国・アジア由来部材の扱い

対中制裁関税や「非市場経済国」条項との関係で、中国由来部材を通じた北米市場アクセスは今後さらに精査される可能性が高い。

調達先の多様化・友好国シフトのスケジュールを前倒しで検討すべき局面です。

6-4. 契約・ガバナンス・情報収集の仕組み

長期取引契約の見直し

2026年〜2030年を跨ぐ長期契約には、

  • USMCAの見直し・離脱
  • 関税率変更

に対応する価格調整条項・再協議条項を標準搭載しておくことが望ましい。

HQ主導のモニタリング体制

本社レベルで、

  • USTRのレビュー手続き(公聴会・パブコメ)
  • カナダ・メキシコ政府の公式発言
  • 業界団体の要望書

を定期的にフォローし、各事業部に「シナリオ更新」をフィードバックする体制が必要です。


7. まとめ:USMCAは「制度リスクを抱えた成長市場」に変わった

USMCAは、

  • 北米をひとつの生産・販売プラットフォームとして機能させるうえで、依然として非常に強力な枠組みです。

しかし、

  • サンセット条項と6年ごとのレビュー
  • 6か月通告での単独離脱

を組み合わせた制度設計の結果、

「政治状況次第で”揺さぶり”が繰り返される協定」

へと性格を変えました。

日本企業としては、

  1. USMCAを前提にした現行ビジネスを冷静に棚卸しし、
  2. 関税復活・ルール変更・二国間化など複数シナリオの定量シミュレーションを行い、
  3. メキシコ拠点・米国内生産・アジア調達のバランスを戦略的に再設計する

ことが求められます。

「USMCA再検証と離脱示唆の波紋」を、**”危機”としてだけでなく、”北米戦略をアップデートする契機”**として捉えられるかどうかが、今後10年の競争力を左右すると言っても過言ではありません。

  1. https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/c6487c290225ab5a.html
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  3. https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/FTA/USMCA/Text/34_Final_Provisions.pdf
  4. https://www.ctvnews.ca/politics/article/trump-could-decide-next-year-to-withdraw-from-cusma-trade-deal-ustr-greer-tells-politico/
  5. https://www.reuters.com/world/americas/trump-could-decide-next-year-withdraw-usmca-trade-deal-ustr-greer-tells-politico-2025-12-04/
  6. https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/1bdd410f84c77260.html
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ATIGA改訂:署名プロセス最終盤とe‑Form D完全電子化がビジネスにもたらす影響

ATIGA改訂とe‑Form D完全電子化が、ASEANビジネスをこの先10年レベルで変えていきます。


1. いま何が起きているのか(ごく簡単に)

  • 2025年10月26日
    クアラルンプールで開催された第47回ASEAN首脳会議の場で、ASEANは
    ASEAN物品貿易協定(ATIGA)」の**第2次改正議定書(Upgraded ATIGA/ATIGA 3.0)**に署名しました。(Vietnam National Trade Repository)
  • 同じ首脳会議で、ティモール=レステがASEANの11番目の加盟国として正式に加入し、ASEANは「11カ国体制」になりました。(ASEAN Main Portal)
  • 一方、2024年1月1日からは、ATIGAの原産地証明書であるForm Dの完全電子化(e‑Form D)が、従来の10加盟国すべてで本格運用開始。輸入側税関は紙のForm Dによる特恵関税申請を原則として拒否できるルールに移行しました。(ASEAN Main Portal)

つまり、

「協定そのもの(ATIGA)がアップグレードされ、
それを支えるインフラ(e‑Form D・ASW)が完全デジタルに切り替わった」

という、制度とシステムの両方が同時に更新されつつある局面にあります。

本記事では、ビジネスパーソン向けに

  1. ATIGA改訂(ATIGA 3.0)で何が変わるのか
  2. e‑Form D完全電子化の実務インパクト
  3. 日本企業・多国籍企業が「今やるべきこと」

を、できるだけ平易な言葉で整理します。
※2025年12月4日時点の公表情報に基づいています。実務適用時は必ず各国当局・専門家の最新情報をご確認ください。


2. ATIGAとは何か ― ASEAN域内貿易の「土台」

2-1. 基本情報

  • 正式名称:ASEAN Trade in Goods Agreement(ATIGA)
  • 署名:2009年2月26日、タイ・チャアム(ASEAN Main Portal)
  • 発効:2010年5月17日(WIPO)
  • 役割:ASEAN自由貿易地域(AFTA)の「物品貿易」を担う中核協定で、
    域内の関税撤廃・削減や通関手続のルールを一括して定める枠組みです。(RTAIS WTO)

ATIGAの結果、ASEAN域内貿易にかかる関税は

  • 2020年時点で約98.6%の品目で関税が完全撤廃され、(ASEAN Main Portal)
  • ASEAN6(ブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ)ではほぼ99%以上の品目がゼロ関税になっています。(Timor-Leste Customs Authority)

つまりATIGAは、「ASEAN域内は関税面ではほぼ単一市場」と言える状態をつくった協定です。
そのうえで、今後は関税以外の非関税障壁・手続コストの削減
が主戦場になっています。(ERIA)


3. 第1次改訂(2019年):自己証明スキーム(AWSC)の導入

3-1. First Protocolの中身

ATIGAはすでに一度改訂されています。

  • 名称:First Protocol to Amend the ASEAN Trade in Goods Agreement(第一次改正議定書)
  • 署名:2019年1月22日(ハノイ)(WTO Center)
  • 発効:2020年9月20日(10加盟国すべてが批准完了)(Ministry of Trade and Industry)

主な目的は、ASEAN-wide Self-Certification(AWSC)スキームの実装です。
これは、

条件を満たした輸出者(Certified Exporter)が、
自社で原産地を自己証明できるようにする仕組み

で、従来の「当局発給COのみ」を補完するものです。(Apolat Legal)

AWSCにより、理論上はFTA利用のスピードと柔軟性が上がるはずですが、
実務ではいまでも

  • 従来型のCO Form D
  • 自己証明(AWSC)
  • 将来を見据えたe‑Form D

が並行する過渡期の運用が続いていました。

そこに今回の「ATIGA 3.0(第2次改訂)+e‑Form D完全電子化」が重なり、
ようやく**「紙とハンコ前提」の世界から、本格的なデジタル貿易インフラへ移行するフェーズ**に入ってきた、という位置づけです。


4. 今回のATIGA改訂(ATIGA 3.0)のポイント

4-1. 第2次改正議定書(Second Protocol)の署名状況と発効タイミング

  • 名称:Second Protocol to Amend the ASEAN Trade in Goods Agreement
    (アップグレードATIGA/ATIGA 3.0と呼ばれることが多い)(ASEAN-BAC)
  • 2025年10月26日
    第47回ASEAN首脳会議(マレーシア・クアラルンプール)の場で
    ASEAN経済大臣が第2次改正議定書に署名し、ASEAN事務総長に引き渡しました。(Vietnam National Trade Repository)
  • ただし、11月時点の公表情報によれば
    10加盟国のうち8カ国が署名済みで、残る2カ国は2025年11月中の署名が見込まれる」とされています。(LinkedIn)
  • 議定書の規定では、
    **「全ASEAN加盟国の署名完了から18か月後に発効」**とされています。(Vietnam National Trade Repository)

👉 このため現時点(2025年12月4日)では、正式な発効日はまだ確定していない状態です。
ビジネスとしては「2027年前後から本格適用が始まる可能性が高い」と見て準備しておくのが現実的です(ただし最終的な日付はASEAN公式の告示を要確認)。

4-2. ATIGA 3.0の中身(公表情報ベースの整理)

ASEANや各国当局・関係機関が公表している説明を総合すると、
ATIGA 3.0 の柱は大きく次の4つです。(ASEAN-BAC)

  1. 貿易円滑化・通関の高度化
    • AEO(認定事業者)制度の相互承認による貨物の迅速通関
    • 電子的な原産地証明(e‑Form D)とデジタル文書の受入れ拡大
    • WTO TFA(貿易円滑化協定)を上回るレベルの「TFAプラス」措置
  2. ルールの近代化と新分野の取り込み
    • 循環型経済(circular economy)
    • 再生品・再製造品(remanufactured goods)
    • 貿易と環境
    • 食料安全保障
    • サプライチェーン・コネクティビティ
    • 人道危機時の貿易(trade in humanitarian crises) など
  3. 既存分野の強化
    • 内国民待遇・市場アクセス
    • 原産地規則(Rules of Origin)
    • 貿易救済(セーフガード・アンチダンピング等)
    • 中小企業(MSME)の支援
    • 経済・技術協力の枠組強化
  4. 紛争解決・透明性の向上
    • ATIGAに基づく紛争解決メカニズムの新設・迅速化
    • 通知義務・協議手続の明確化により、企業から見た予見可能性を高める狙い

特に、マレーシア政府やASEAN側のコメントでは、

  • 「貨物の通関を『より速く・より安く』する」
  • 「MSME(中小企業)のサプライチェーン参加機会を拡大する」

といった実務寄りのメリットが強調されています。(PortCalls Asia)


5. e‑Form D完全電子化の実態

5-1. e‑Form Dとは?

Form Dは、ATIGAに基づく特恵関税を享受するための原産地証明書です。
その電子版がe‑Form Dで、ASEAN Single Window(ASW)を介して各国税関間でやり取りされます。(Singapore Customs)

ASWは、

  • 各国のNational Single Window(NSW)をつなぐ域内共通の電子プラットフォームで、
  • 当初はe‑Form Dのみを対象に運用され、今後ACDD(ASEAN Customs Declaration Document)や検疫関連証明書などへ拡大していく構想です。(WTS Global)

5-2. 2024年1月1日から何が変わったのか

ASEANおよび各国税関の公表によると、

  • 2024年1月1日から
    **10加盟国すべてでe‑Form Dの発給・受入れが完全実施(full implementation)**されました。(ASEAN Main Portal)
  • これに伴い、
    • シンガポール関税庁は
      2024年1月1日以降、すべてのASEAN加盟国が電子Form Dの完全送受信を開始したため、輸入税関は紙のForm Dを優遇関税の申請に対して拒否し得る。」と明言しています。(Singapore Customs)
    • タイのe‑Form Dプロジェクト説明でも
      2024年1月1日時点で10加盟国すべてが電子Form Dの完全送信を実施しており、紙のForm Dは原則受け付けない」とされています。(Digitalize Trade)

実務的には、

「ATIGAを使ってASEAN域内に輸出する場合、原則として
e‑Form Dを発給し、ASW経由で相手国税関に送ることが必須」

という世界に切り替わった、と理解して差し支えありません。

なお、ASWは現時点ではATIGAのForm Dのみが対象で、
他のFTA(RCEP、ASEAN+1 FTAなど)の原産地証明は別ルートで処理されています。(WTS Global)


6. ATIGA改訂 × e‑Form D完全電子化で何が変わるか

ここからは、少し踏み込んでビジネス実務への影響を整理します。

6-1. 通関リードタイムとキャッシュフローが大きく変わる

ATIGA 3.0では、AEO制度の相互承認や電子証明書の活用によって、
貨物の事前審査とリスク評価を強化し、到着後の検査・照合を減らす方向が打ち出されています。(PortCalls Asia)

e‑Form Dは、

  • COの偽造・誤入力リスクを下げる
  • 事前に電子データとして税関に届くため、貨物到着前の審査がしやすい

という特性があり、ASW+AEOと組み合わさることで、

「船が着く頃には関税評価がほぼ終わっている」

という世界に近づきます。

これはそのまま

  • 在庫回転日数の短縮
  • 港湾・倉庫での滞留コスト削減
  • キャッシュフロー改善(関税・消費税の支払いタイミング前倒し抑制)

につながります。

6-2. コンプライアンスリスクの「見える化」が進む

電子化により、各国税関は

  • e‑Form Dに記載された内容
  • 輸入申告データ
  • 過去の輸出入実績

データベースで突合・分析しやすくなります。

その結果、

  • 原産地規則(RoO)の誤適用
  • 関連当事者取引の価格設定
  • 品目分類(HS)誤り

などが後日一括して検証されやすくなるため、

「とりあえずCOを取っておこう」的な運用は、徐々にリスクが高くなる

と考えるべきです。

逆に言えば、社内で

  • サプライチェーンごとのRoO判定ロジック
  • コスト構成のトレース
  • ERP/貿易管理システムと連動した記録管理

をきちんと整備しておけば、税関からの照会・監査にも対応しやすくなり、
「守りながら攻めるFTA活用」がしやすくなります。

6-3. MSME(中小企業)のチャンスが広がる

ATIGA 3.0では、条文上もMSME支援が明示的に位置づけられ、
サプライチェーンへの参入機会を拡大することが目的として挙げられています。(ASEAN-BAC)

e‑Form Dの完全電子化により、

  • 原産地証明の申請・管理コストが下がる
  • サプライヤーがオンラインで必要情報を共有しやすい

という効果が期待でき、**中小サプライヤーでも「ATIGAを前提とした価格提示」**がしやすくなります。


7. 日本企業・多国籍企業が「今」やるべき実務チェックリスト

7-1. FTA利用状況の棚卸し

  • 自社グループで
    • どの拠点から
    • どの国へ
    • どの協定(ATIGA/RCEP/ASEAN+1 FTAなど)
      を使って輸出しているかを一覧化。
  • ATIGAを使っている取引について、どこまでe‑Form D+ASWベースで運用しているかを確認。

7-2. 原産地管理プロセスの「電子化前提」への作り替え

  • 部材レベルの原産地情報を
    • サプライヤーポータル
    • ERP/PLM
      のどこで保持するのかを明確化。
  • RoO判定ロジック(RVC計算、CTH基準など)をシステム化し、
    Excelベースの属人運用を減らす。
  • AWSC(自己証明)を使っている・使う予定がある場合は、
    e‑Form D運用との役割分担(どの取引は自己証明/どの取引はe‑Form D)を整理。

7-3. 現地NSW・ASWへの接続体制の確認

  • 各ASEAN拠点が利用している
    • National Single Window(NSW)
    • e‑PCOシステム(マレーシアのePCOなど)(DagangNet)
      のアカウント・権限管理を棚卸し。
  • シンガポールやタイなど、完全電子化を厳格に運用している税関については、
    e‑Form Dの送信手順・再発行・取消手順まで実務として落とし込む。(Singapore Customs)

7-4. 社内教育・ベンダーとの役割分担

  • 営業・サプライチェーン・経理・法務を巻き込んで、
    • 「ATIGA 3.0で何が変わるか」
    • 「e‑Form D完全電子化で何ができるようになるか」
      社内共通言語にする。
  • フォワーダーや通関業者に丸投げしている部分について、
    • どこまでを外部に委託し
    • どこからを自社が責任を持つか
      を改めて線引きする。

8. まとめ:2〜3年で「ASEANでのものづくり・物流の前提」が変わる

  • ATIGAはすでにほぼ全品目の関税をゼロにしている協定であり、
    今回の改訂(ATIGA 3.0)は、
    **「関税以外のコストとリスクをどこまで下げられるか」**に焦点を当てたアップグレードです。(ASEAN-BAC)
  • e‑Form Dの完全電子化は、
    すでに2024年1月1日から10加盟国で現実に動いている仕組みであり、
    今後はATIGA 3.0の各種貿易円滑化措置と組み合わさることで
    通関・原産地管理の「デジタル前提」が一気に標準化していきます。(ASEAN Main Portal)
  • ティモール=レステの加盟によりASEANは11カ国体制となりましたが、
    ATIGAやe‑Form Dへの正式な参加は別途プロセスが必要になる見込みで、
    こちらも今後のフォローが必要です。(ASEAN Main Portal)

ビジネスとして重要なのは、「発効を待ってから動く」のではなく、
「発効する頃には社内のプロセス・システムが追いついている状態」にしておくことです。


EU鉄鋼セーフガードの兆しを読む――2026年以降を見据えたビジネスパーソンの視点

EU鉄鋼セーフガードの兆しを読む
――2026年以降を見据えたビジネスパーソンの視点


※本記事は、2025年12月時点で公開されているEU・業界団体等の資料に基づいています。


1. まず「EU鉄鋼セーフガード」を30秒でおさらい

EUの鉄鋼セーフガードは、「輸入が急増して域内産業に深刻な被害が出そうなとき、一時的に輸入を抑えるための非常ブレーキ」です。WTO協定に基づくセーフガード措置の一種で、EUでは主に次のような仕組みになっています。

  • 対象:26品目カテゴリーの鉄鋼製品
  • 形式:関税割当(TRQ)+超過分25%関税
  • 内容:2015〜2017年の平均輸入実績をベースに関税割当枠を設定し、その枠内は無税、枠を超えた輸入には25%の追加関税

この制度は、2018年の米国による鉄鋼セクション232関税(25%)をきっかけに、EU市場に鉄鋼がなだれ込む「迂回輸出」を防ぐ目的で導入されました。


2. いまEUセーフガードはどこまで来ているのか

2-1. 2026年6月までは現行セーフガードが継続

EUは2024年6月の調査を経て、鉄鋼セーフガードを2026年6月30日まで2年間延長することを決定しました。

  • 延長期間:2024年7月1日〜2026年6月30日
  • 形式:これまで同様、TRQ+超過分25%関税
  • 理由:
    • 世界的な鉄鋼過剰設備と中国等からの輸出増
    • 他地域の保護措置(米国など)によるEU市場への迂回輸出
    • EU内の需要減少と価格下落

EU自身、「この措置は2018年の最初の発動から数えて最長8年で終了する」と明言しており、現在のセーフガードは2026年6月で打ち切りが原則です。

2-2. 2025年から運用は一段とタイトに

「延長したからしばらく現状維持だろう」と見るのは危険です。
2024年末に開始された「機能見直し(functioning review)」を経て、2025年3月に公表された実施規則2025/612により、運用がタイト化しています。

さらに3月25日、欧州委員会は輸入制限強化を発表しました。

主なポイントは以下の通りです。

  • 関税割当(TRQ)の水準をおおむね15%程度削減
  • 国別枠の「余り」を他国に回すといったキャリーオーバー(持ち越し)を禁止
  • 輸入圧力が高く需要が低迷している品目では、より厳しい管理
  • 枠を超えた分には引き続き25%の追加関税

つまり、同じルールの名前でも、実質的な輸入の「門」はじわじわ狭まっている状況です。

2-3. 2026年以降は「新たな鉄鋼輸入政策」へ?

2026年6月で今のセーフガードは終わる――はずなのに、EUはすでに「その先」の構想を打ち出し始めています。

2025年7月、欧州委員会は今後の鉄鋼保護策に関するコンサルテーションを開始し、セーフガード終了後も何らかの保護メカニズムが必要だとの立場を示しました。

続いて2025年10月7日、現行セーフガードに代わる新たな鉄鋼輸入政策の提案を公表。法律事務所の分析によれば、その骨子は次の通りとされています。

  • 無税枠(TRQ)の大幅削減
    • 2024年比で約47%減(年間1,830万トン程度に上限)
  • 超過関税の引き上げ
    • 25% → **50%**へ引き上げ
  • 「melt and pour(溶解・鋳造地)」のトレーサビリティ義務
    • どの国で溶かされ、鋳造された鋼材かの証明を求め、迂回輸出を防止
  • 対象:現在セーフガードの対象となっている26品目カテゴリーにほぼそのまま適用
  • 発効予定:2026年7月以降(EU議会・理事会での審議・修正を経て最終決定)

重要なのは、これはまだ「提案」であり、確定ではないという点です。しかし、方向性としては、

「現行セーフガードより、さらに厳しい恒常的な輸入管理」

に向かっているシグナルとして読むことができます。


3. EUは何を恐れているのか:政策の「読み方」

3-1. 背景にあるのは「世界的な過剰設備」と中国

EUがセーフガード延長と新しい保護策に踏み切ろうとしている背景には、世界的な鉄鋼過剰設備があります。

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)のファクトシートによると:

  • 中国の鉄鋼輸出は2024年に1.3億トン規模
  • EU向け輸入のシェアは2024年に**27%**まで上昇
  • 2008年以降、EU鉄鋼産業では約9.5万人の雇用が失われた
  • 2024年だけで約1,800万人トン相当の能力が閉鎖

さらに、米国がEU産鉄鋼への関税(25%→50%)を再強化したことで、米国向けが閉ざされた分の鉄鋼がEU市場へ迂回するリスクも高まっています。

EUから見ると、
「このまま何もしなければ、輸入に市場を奪われ、脱炭素投資どころではなくなる」
という危機感が明確です。

3-2. グリーンスチールと産業政策

大手鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルも、**「グリーンスチール投資には、より強力な貿易防衛が必要だ」**と公然と主張しています。

  • エネルギーコストの高止まり
  • 中国などからの低価格輸入
  • 顧客がグリーンスチールに十分なプレミアムを払いたがらない

こうした事情から、EUは2025年に「Steel and Metals Action Plan」を打ち出し、グリーンディールとの整合を取りつつ、鉄鋼産業への支援と保護を強める方向に舵を切っています。

3-3. 「鋼材ユーザー」側からの強い反発

一方、機械・電機・自動車など鋼材を大量に使う下流産業は、新たなセーフガード案に強く反発しています。

欧州のテクノロジー産業団体Orgalimは、「新しいEU鉄鋼セーフガードは欧州の製造業競争力を損なう」として強く反対するポジションペーパーを公表しました。

  • 鋼材ユーザーのコスト増
  • 特殊鋼などEU内で十分作れない製品の供給不安
  • 四半期ごとの割当枠管理による頻繁な枯渇リスク
  • 「melt and pour」ルールによる事務負担の増加

などを理由に、提案の修正や撤回を求めています。

ポイントは、EU内部で「鉄鋼メーカー vs 鋼材ユーザー」の綱引きが激しくなっているということです。これは最終的な制度設計に大きく影響するため、日本企業としてもウォッチすべき重要な「兆し」です。


4. 日本企業にとっての「痛点」はどこか

4-1. 日本からEU向け鋼材輸出

Akin Gumpの分析では、2025年7〜9月期のデータで、冷延鋼板(CRC)や溶融亜鉛めっき鋼板(HDG)などの主要品目について、日本を含む複数国がTRQ枠を9割〜ほぼ100%使い切っていると指摘されています。

ここに、

  • 2025年のTRQ削減(約15%)
  • 2026年以降の47%削減・50%関税案

が重なると、次のようなリスクが現実味を帯びてきます。

  1. 枠の早期枯渇 → 期中に一気に50%関税ゾーンへ
  2. 「残余枠」を狙うグローバルな競合との争奪戦激化(キャリーオーバー禁止で余裕も減少)
  3. 価格転嫁が難しいFOB契約では、サプライヤー側のマージン圧迫

日本の高級鋼材・自動車向け鋼板などは「ニッチかつ高付加価値」であるがゆえに、EU市場へのアクセスが限定されると代替市場を探しにくいという構造的な弱点もあります。

4-2. EU域内で鋼材を調達する製造業

欧州に生産拠点を持つ日系の自動車メーカーや建機・産業機械メーカーは、域内調達価格の上振れリスクに向き合う必要があります。

  • EU内の鉄鋼価格が、アジアに比べて常に割高になりやすい
  • グリーンスチールへの転換コストも上乗せされる
  • サプライヤーがセーフガードを理由に価格交渉力を強める可能性

サプライチェーンとしては、

「どの工程でどの鋼材をEU由来にするのか」
「どこまでをアジアから輸入し、どこからをEU内生産・調達とするのか」

といった、生産・調達の線引きを再設計する必要が出てきます。

4-3. 商社・トレーディングビジネス

鉄鋼トレーダーや商社にとっては、

  • 第三国経由のスキームが「melt and pour」ルールで塞がれるリスク
  • TRQの国別・品目別配分の変化に応じたポートフォリオ組み替え
  • EU・英国・中東など複数市場を見ながらの物量の再配分

といった実務的な対応が必要になります。


5. 兆しをどう読むか:実務者向け「ウォッチポイント」

EU鉄鋼セーフガードの今後を読むうえで、ビジネスパーソンが押さえておきたい「チェックポイント」は次の5つです。

① EU官報・欧州委員会(DG TRADE)の動き

  • 実施規則(Implementing Regulation)の改正
  • DG TRADEのニュースリリースやコンサルテーション告知

→ 法令ベースでルールが動きそうな「前触れ」を早期に把握。

② 業界団体のポジションペーパー

  • EUROFER(鉄鋼メーカー)
  • Orgalimなど鋼材ユーザー団体

→ どの程度「強い措置」が政治的に許容されるかを読む材料。

③ TRQ消化率と輸入統計

  • HSコード別・原産国別の輸入量
  • 各カテゴリーのTRQ消化率(枠の埋まり方)

→ 自社が関わる品目の「枠の混み具合」を常時モニター。

④ 米国・中国を中心とした他国の貿易政策

  • 米国の鉄鋼関税(再導入・引き上げなど)
  • 中国・東南アジアの輸出動向、設備増設計画

→ 他地域の一手が、EUへの迂回輸入圧力として跳ね返る。

⑤ EU域内の政治・雇用情勢

  • 大手製鉄所の閉鎖・リストラ報道
  • 各国政府・地方政府の支援・救済策

こうしたニュースが増えるほど、「より強い保護措置を求める声」が政治的に力を持ちやすくなります。


6. 2026年までに日本企業がやっておきたい5つのアクション

最後に、ビジネスパーソンの立場から見た「実務的な打ち手」を5つに整理します。

1. 自社製品を「HSコード×セーフガードカテゴリー」で棚卸し

  • 自社が扱う鋼材・鋼材を含む製品を、
    • HSコード
    • EUセーフガードのカテゴリー
      にマッピングし、「どの枠に乗っているのか」を可視化する。

2. 主要サプライヤー別のコストシミュレーション

  • 日本・韓国・EU内・第三国など、サプライヤー別に
    • TRQ枠内/枠外
    • 25%(現行)/50%(提案段階)の関税
      を前提とした原価シミュレーションを作成しておく。

3. 長期契約の価格条項(price adjustment clause)の見直し

  • セーフガードや新規輸入規制を「価格調整事由」として明示
  • 枠の急激な枯渇で関税が跳ね上がった場合のコスト分担ルールを合意しておく

4. 調達・生産の地理的分散

  • EU向け需要のうち、
    • どこまでを**EU域内生産(ローカル・フォー・ローカル)**で賄うか
    • どこまでを輸入でカバーするか
  • 中東・ASEANなど他地域への販売先転換シナリオも含め、複数パターンを事前に検討しておく。

5. 社内の「通商アラート」仕組みづくり

  • 法務・経営企画・サプライチェーン・営業を横串でつないだ小さなタスクフォースを設ける
    • EU官報・DG TRADEの更新
    • 業界団体の声明
    • TRQ消化率
      を月次〜四半期でレビューし、経営陣への簡易レポートを定例化する。

7. おわりに:セーフガードを「守り」で終わらせない

EU鉄鋼セーフガードは、単なる貿易規制ではなく、

  • グローバルな過剰設備
  • 米中・米EUの通商摩擦
  • グリーンスチールへの投資負担
  • EUの産業政策と政治・雇用

といった大きな潮流が交差する「縮図」です。

**2026年までの2年弱は、「現行セーフガードの最終章」であると同時に、「その先の新ルールへの助走期間」**でもあります。

  • ルールが決まってから慌てて対応するか
  • 兆しの段階から構造を読み、打ち手を仕込んでおくか

この差が、数年後の利益水準や市場シェアに大きく響いてきます。

この記事が、EU鉄鋼セーフガードの「兆し」を読み解き、
守りと攻めを両立させる通商戦略を考える一助になれば幸いです。


米国232関税50%へ:施行と例外の現実


1. 232条関税とは何か ― トランプ2.0でどう変わった?

1-1. 232条の基本

  • 根拠:1962年通商拡大法232条
  • 目的:国家安全保障を理由とした特定品目への関税・輸入規制
  • 特徴:
    • 関税率・期間に上限なし
    • 商務省(BIS)の調査で「安全保障を脅かす」と判断された場合にのみ発動(Bloomberg.com)

第1次トランプ政権(2018年)で、鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税が始まりましたが、当時は各国との交渉で適用除外やTRQ(無税枠)、製品除外制度が広く存在しました。(Reuters Japan)

第2次トランプ政権(2025年)はここを**「原則フル適用」へ振り切った**のが最大の違いです。


1-2. 2025年のざっくりタイムライン

主に鉄鋼・アルミに関する流れを整理すると:

  1. 2月10日:一律25%&例外の原則撤廃を宣言
    • 鉄鋼・アルミに対し、全世界一律25%
    • カナダ・メキシコ・ブラジルなどへの適用除外・無税枠・個別製品除外を原則撤回(Reuters Japan)
  2. 3月12日:25%体制が正式発効(Reuters Japan)
  3. 4月5日:全輸入に「相互関税(Reciprocal Tariff)」10%導入
    • 根拠法は1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)
    • 全輸入に一律10%のベースライン関税を課す枠組みがスタート(MIAC)
  4. 6月4日:鉄鋼・アルミ(+派生品)を原則50%へ引き上げ
    • 232鉄鋼・アルミの税率が**25% → 50%**へ倍増
    • 同時に、**派生品(機械・建機・家具など)**への適用ルールを整備
  5. 8月:派生品407品目を追加
    • 風力タービン、モバイルクレーン、ブルドーザー、鉄道車両、家具、ポンプなどが新たに対象化
  6. 11月:232条は4分野体制に
    JETROの整理では、2025年11月時点で232関税は以下の4分野:(JETRO)
    • 鉄鋼・アルミ・銅:50%
    • 乗用車・トラック・同部品:25%
    • 木材・木製品:10〜25%
    • 上記に、相互関税10%やフェンタニル関税などが“別レイヤー”で乗る構造

見出しの「50%」は、**鉄鋼・アルミ・銅(とその派生品の金属部分)**にかかる232条関税を指している、と理解すると整理しやすくなります。


2. 25%から50%へ:制度設計のポイント

2-1. 25%フェーズ:例外の「総ざらい」

3月12日に発効した25%フェーズでは、従来の232の“抜け道”が一気に塞がれました。

  • EU・日本・韓国・カナダ・メキシコ・英国などとの代替取決め/TRQ(無税枠)を一括終了
  • 製品除外プロセス(BISへの個別申請)、一般承認除外(GAE)も停止
  • 結果として、「鉄鋼・アルミは基本的に25%がフルにかかる」状態へ

ここでまず、「国別・製品別の柔らかい例外はほぼ消えた」という前提が固まりました。


2-2. 50%フェーズ:鉄鋼・アルミ・銅+派生品

6月4日の布告で、構図がさらに一段シフトします。

  1. 鉄鋼・アルミ本体:50%
    • 従来25%だった232関税を50%へ倍増
    • 232対象である限り、IEEPAの相互関税(10%)は同じ価額部分には重ねがけされない(優先順位上、232が優先)(JETRO)
  2. 銅:新たに50%
    • 232の対象分野として銅も追加(50%)(JETRO)
  3. 派生品(完成品・部材):“金属部分だけ50%”方式
    • BISの8月通知で、407のHTS品目が新たに対象に追加
    • 例えば、「鉄を含む建設機械」「アルミを含む家具」「ポンプ・コンプレッサー」などが該当
    • 課税ルールがポイントで、
      • 鉄鋼・アルミ・銅を含む部分の価額 × 50%(232)
      • 残りの非金属部分には相互関税10%など通常の関税
        → 232と相互関税を同じ価額に二重にかけない代わりに、価額を切り分けて別々に課税する設計です。

3. 「例外」はどこに残っているのか

見出しでは「例外」と書かれていますが、2025年の再設計を踏まえると、

「ザル抜けの特例」ではなく、「かなり条件の厳しい制度的例外」

に姿を変えた、と理解した方が現実に近いです。

3-1. 国別例外:ほぼ英国のみ

現時点で目立つ国別例外は**英国とのEPD(経済繁栄取引)**です。

  • 鉄鋼・アルミについて、英国は25%に据え置き
  • ただし、
    • 7月9日以降、商務長官がTRQ設定または50%への引き上げを決定できる条項つき
    • 定期的な見直しが明記されており、「恒久免除」ではない

一方、日本・EU・韓国・カナダ・メキシコ向けの従来TRQや代替取決めは停止済みで、国別に“きれいに免除される”ケースは極めて限定的です。


3-2. 品目別・制度別の例外

(1) 乗用車・同部品の「15%キャップ」

自動車分野の232関税(25%)は、一般税率との合計が15%を超えないように調整されるという特殊ルールがあります。(JETRO)

  • 一般税率が15%未満:
    一般税率+232自動車関税 = 15%になるように課税
  • 一般税率が15%以上:
    232自動車関税はゼロ(かからない)

例えば日本製乗用車バンパーの例(一般税率2.5%)では、
2.5%+12.5%(232)=15% という整理が示されています。(JETRO)

※中・大型トラック部品はこの15%キャップの対象外で、2.5%+25%=27.5%になる、という試算が紹介されています。

(2) 米国鋼材を使った場合の「0%」ルート

鉄鋼分野では、米国で溶解・注湯(Melt & Pour)された鋼材を海外で加工した派生品について、HTS 9903.81.92により**232関税0%**とする特例が設けられています。

  • 実務上は、
    • 米国内サプライヤーからの証明書
    • メルト&ポアのISO国コード
    • その鋼材が実際にどの製品に使われたかのトレーサビリティ
      が求められ、かなり“証拠書類に強い”企業でないと使いこなせない優遇です。

(3) ロシア原産/原産国不明アルミの200%

  • ロシア原産アルミニウムは200%の232追加関税が継続中
  • 2025年6月以降は、「スモルト&キャスト国が不明なアルミ派生品」にも200%を適用する運用が始まりました。

これは「例外」というより、「情報が足りないと極端なペナルティが飛んでくる」ルールです。


3-3. 重複関税の「優先順序」と IEEPA との関係

232条と他の追加関税(相互関税10%やフェンタニル関税など)が重なる場合、
米国は2025年4月から**「どれを優先して適用するか」という優先順位ルール**を導入しています。(JETRO)

優先順位のイメージ(抜粋):

  1. 232自動車・トラック・同部品(25%)
  2. 232アルミ・鉄鋼・銅50%、232木材10〜25%
  3. フェンタニル関税(カナダ35%、メキシコ25%)
  4. その下にIEEPA相互関税10% 等

そしてポイントは、

「232条関税の対象となる価額部分には、IEEPA相互関税はかからない」

と整理されていることです。(JETRO)

ただし、派生品のように価額を「金属部分」と「非金属部分」に割って二行申告するケースでは、

  • 金属部分 → 232の50%
  • 非金属部分 → 一般税率+IEEPA相互関税10% など

という形で、同じ貨物の中で“別の行”に別々の制度が乗っているイメージになります。


4. 実務で直面する3つの現実

制度をなぞるだけでは、なぜ企業が苦しんでいるのかが見えません。
現場の声から見える「3つの現実」を整理します。

4-1. 二行申告と「含有価額」の地獄

CBPは、232派生品について**「二行申告(Two-line entry)」**を義務化しました。

  • 第1行(非金属部分)
    • 通常のHTSコード
    • 「総価額 − 金属含有価額」
    • 数量
    • 一般税率+相互関税など
  • 第2行(金属部分)
    • 同じHTSコード
    • 「金属含有価額」
    • 数量は0(製品個数)
    • 232用の追加HTS(9903.81.91等)+重量(kg)

ここでボトルネックになるのが、

「鉄鋼・アルミ・銅の『含有価額』をどう算定するか」

です。
JETROのヒアリングでも、「鉄の定義が条文上十分に明確でなく、自社で合理的にルールを決めて申告しているが、正確な算定は極めて難しい」という在米日系メーカーの声が紹介されています。(JETRO)

結果として、

  • 社内BOMから金属重量・単価を引き出すシステム構築
  • サプライヤーからの含有価額証明テンプレート配布
  • 監査に備えた証跡管理

といった**「通関のためのデータ整備」自体が、大きなプロジェクト**になっています。


4-2. 通関コストとキャッシュフローへの直撃

JETROのレポートによれば、追加関税の多重化により、

  • 関税額が従来の10〜15倍に膨らみ、
  • 通関業者が一時立替するキャッシュが限界に近づいている

という声も出ています。(JETRO)

また、232はドローバック(再輸出時の関税払戻し)の対象外であり、FTZ(外国貿易地域)に搬入しても、消費引取のタイミングで232が課される運用です。

輸出前提なら「あとで戻るから」と割り切れていた関税が、完全なコスト化+キャッシュアウトとして効いてくる点は、財務的にも無視できません。


4-3. 契約・価格条項の更新が間に合わない

関税構造がここまで動的になると、販売価格や長期契約も作り直しが迫られます。グローバルSCMの専門家は、企業対応として以下を提案しています:

  • サーチャージ条項の高度化
    • 232(50%)、相互関税(10%)、対中関税、フェンタニル関税など
    • 「どの組み合わせのときに価格式をどう変えるか」を契約に明文化
  • イベントドリブン価格改定条項
    • 例:
      • 「BISが232対象品目を追加した場合」
      • 「232税率または国別枠組みに変更があった場合」
    • → 発生時に自動で再交渉・見直しが走る仕組み
  • 関税以外の“行政手続きコスト”の扱い
    • 通関業務の工数増・システム投資・監査対応コストは
      「原価に含めていいのか/別枠のフィーとするのか」
    • JETROの調査では、これらのコストを販売価格に転嫁するのは困難との声も多い。(JETRO)

5. 日本企業が今すぐ整理すべき5つのアクション

最後に、ビジネスマン向けに「明日から何をするか」を5点に絞ります。

5-1. SKU単位で「232マップ」を作る

  • 自社が扱う全SKUについて
    • どの232分野(鉄鋼・アルミ・銅/自動車/木材)に該当しうるか
    • 派生品リスト407品目への該当有無
    • 50%・25%・10〜25%のどのレイヤーが乗るか
      を一覧化する。
  • 特に、
    • 鉄鋼・アルミ・銅を含む建機・産業機械・家具
    • 自動車/トラック向け部品
      は、**複数の232が重なりやすい“ホットスポット”**です。(JETRO)

5-2. BOMとサプライヤー証明を「232対応版」にアップグレード

  • BOM上で最低限持つべき情報:
    • 金属ごとの重量(kg)
    • 金属部分の価額($/kg × kg)
    • メルト&ポア/スモルト&キャスト国(ISOコード)
    • ロシア由来有無
  • サプライヤーには、
    • 上記を記載するテンプレート証明書
    • 原産国が不明なままだと200%関税になりうるリスク
      をセットで説明し、「出さないと買わない」レベルのメッセージが必要です。

5-3. サプライチェーン再構築の“試算”だけは走らせる

  • **米国鋼材+海外加工で0%(HTS 9903.81.92)**が使えるなら、
    • 米国内鋼材調達 → USMCA域内加工 → 米国最終組立
      のようなモデルで、232リスクを構造的に抑えられます。
  • 実際、日本製鉄によるU.S. Steel買収のように、
    「米国内生産体制を取りにいく」動きはすでに現実になっています。

すぐ投資はしないとしても、
「現行サプライチェーン vs US/USMCAローカル化案」のN年後NPV比較
だけは、財務と一緒に走らせておく価値があります。


5-4. 契約・価格式を「トランプ関税2.0」仕様にする

  • 新規契約:
    • 232・相互関税・301条関税・フェンタニル関税など
    • どの税が変わったら価格をどう変えるかを条文化
  • 既存長期契約:
    • 「force majeure」や「hardship」だけでは232のような税制変動には弱いケースが多いので、
    • 相手先と協議し、“関税条項だけ”をアップデートする交渉を検討

5-5. 社内に「関税タスクフォース」をつくる

  • メンバー:
    • SCM/調達
    • 通関・貿易実務
    • 経理・財務
    • 事業部(営業・プロダクト)
    • 法務・コーポレート
  • 役割:
    • SKUごとの232リスク台帳を維持
    • 新しい232発動や派生品追加が出るたびに、影響シミュレーション
    • 価格・契約・サプライチェーンに落とし込む「社内ハブ」になる

おわりに:50%という“数字”だけを見ない

232関税50%という数字は確かにインパクトがあります。
しかし、ビジネスにとって本当に重要なのは、

  1. 25%から50%に上がったことそのものより、
  2. 「例外」がほぼ制度化され、条件の厳しいルールに変わったこと
  3. 232・相互関税・その他追加関税が“レイヤー構造”で重なるようになったこと

です。

特に日本企業にとっては、

  • うちは完成品だから232は関係ない
  • これまで免除だったから今回も大丈夫

といった感覚は、ほぼ通用しなくなっていると考えた方が安全です。

HS2022の次の年をAIに尋ねる

AIの回答が今でも間違うことが多い。現行HSコードの年次は2022だが、次回はHS2028。しかし、AIの回答は間違う。

気を付けなければ、

Gemini 3 Pro

結論から申し上げますと、HS2028ではなく、「HS2027」が正解です。
HSコード(世界税関機構・WCOが定めるもの)は、原則「5年ごと」に改定されます。
改定のサイクル

  • 前回:HS2017
  • 現在:HS2022(2022年1月1日発効)
  • 次回:HS2027(2027年1月1日発効予定)
  • 次々回:HS2032(予定)
    展示会でのトーク・戦略への活かし方
    現在開発されている「HS Code Finder Gemini」にとって、この情報は「製品の将来性」をアピールする良い材料になります。
    アピール案:

「2027年にはまた大規模な『HS2027改正』が控えています。紙の表を買い直して覚え直すのは大変ですが、このAIなら2027年版へのアップデートも自動で対応します(※予定であれば)。」

このように伝えることで、「今だけのツールではなく、将来の法改正リスクもヘッジできるツール」としての価値が高まります。

ChatGPT GPT Thinking

はい、その認識で大丈夫です。
現行の HS2022 の次の年次版は「HS2028」です。

なぜ HS2028 なのか(ごく簡単に)

  • 本来は 5年ごと:
    HS2012 → HS2017 → HS2022 → HS2027(予定) というサイクルでした。
  • しかし、コロナ禍などで見直し作業が遅れ、
    今回のサイクルだけ 6年に延長され、発効年が 2028年1月1日にスライドしました。
  • WCO のハーモナイズド・システム委員会(HSC)の公式ニュースでも、
    HS 2028 Nomenclature の改正案を審議・採択した」と明記されています。

そのため、ビジネス文書やブログ、社内説明では:

現行:HS2022(第7版)
次期:HS2028(第8版、2028年1月1日発効予定)

と書くのが、2025年時点での最新かつ公式情報に沿った整理になります。

【2025年11月版】主要国の関税・制裁・輸出管理トレンドと「1年間の猶予」


2025年11月時点の「最新告示」に基づき、ビジネスパーソンが押さえるべき貿易管理のトレンドを整理します。

結論から言うと、現在の潮流は以下の3本柱です。ただし、米中間の規制合意により、一部の規制に「1年間の猶予(一時停止)」が生じたことが最大のニュースです。

  1. 「米中50%ルール」の一時停止:サプライチェーン分断の決定打となるはずだった規制が、2026年11月まで凍結。
  2. 「対ロシア・イラン包囲網」の完成:G7とEUはエネルギー・金融・海運(シャドーフリート)への制裁を最高レベルに引き上げ。
  3. EUの「環境・ハイテク要塞化」:CBAM(炭素国境調整)の義務化と、AI・量子技術などの独自管理が進行。

本記事は2025年11月29日時点の公表情報に基づく整理です。最終判断は必ず原文・専門家の確認を経て行ってください。


1. 米国:対中関税と輸出管理は「一時休戦」へ

1-1. 対中301関税:除外178品目の延長 & 新たな措置の一時停止

USTR(米通商代表部)は、対中301条関税のうち178品目の関税除外を2026年11月10日まで延長しました。これらは2025年11月29日で失効予定でしたが、11月1日発表の米中経済・貿易合意を受け、土壇場で延長が決まりました。()ustr+1
対象は産業用ポンプ・モーター、医療関連機器、一部のソーラー製造設備などで、企業のコスト増回避に繋がります。()ey+1

また、同じ合意に基づき、中国の海運・物流・造船セクターを標的とした新たな301措置(追加関税等)についても、2025年11月10日から1年間の発動停止が告示されています。()ustr+1

👉 実務ポイント
301関税対象品を扱う企業は、「自社のHSコードが延長リスト(178品目)に含まれるか」を再確認してください。また、今後1年間の米中協議の行方次第で関税率が変動する可能性があるため、契約上の価格調整条項を見直す良い機会です。

1-2. BIS輸出管理:米国版「50%ルール」も1年間停止

【重要修正】
2025年9月30日、米商務省BISは**「Affiliates Rule(50%ルール)」**と呼ばれる暫定最終規則を発表しました。これはEntity List等の規制対象を「50%以上所有する子会社」に自動拡張する厳しい内容です。()sidley+1
しかし、この規則も11月4日、米中合意の一環として「2026年11月まで施行を一時停止する」ことが発表されています。()thompsonhinesmartrade

当初は「リスト記載企業のグループ会社すべてが自動的に規制対象」となるリスクが高まりましたが、現在は1年間の猶予期間に入っています。

👉 実務ポイント
「直ちに対応が必要」という緊急度は下がりましたが、BISはこの1年を使ってルールを微調整する見込みです。中国等の取引先について「親会社がEntity Listに載っていないか」という資本関係の洗い出し(KYC)は、この猶予期間中に済ませておくべきでしょう。

1-3. 対ロシア・イラン:エネルギー制裁の「総仕上げ」

対中規制が休戦する一方、対ロシア・イラン制裁は強化の一途です。
米国・EU・英国は連携し、ロシアのLNGプロジェクト(Arctic LNG 2等)や、制裁逃れを行う「シャドーフリート(影の船団)」への指定を拡大しています。()finance.europa+1


2. EU:第19次対ロシア制裁 & CBAMの「50トン免除」

2-1. 対ロシア第19次制裁パッケージ(2025年10月23日採択)

欧州委員会は第19次対ロシア制裁を採択し、規制の網をさらに広げました。()skadden+1

  • LNG輸入禁止の拡大:ロシア産LNGのEU域内への輸入禁止措置を導入。
  • 金融制裁の強化:ロシアのSPFS(金融メッセージングシステム)に関連する銀行・インフラを追加指定。
  • 所有・支配基準の明文化:50%未満の出資でも「実質的支配」がある場合を制裁対象とする基準を明確化。

2-2. デュアルユース品目リストの改正(2025年11月)

2025年11月14日、EUはデュアルユース(軍民両用)輸出管理リストを改正しました。()gov+1
従来の国際レジーム(ワッセナー等)に加え、半導体製造装置、量子技術、先端計算機などを対象とする**「500番台」の独自品目コード**を導入しています。

👉 実務ポイント
EU向けにハイテク製品を輸出する日本企業は、製品が新設の「500番台」に該当しないか、パラメータシートや該非判定書の更新が必要です。

2-3. CBAM(炭素国境調整):小口輸入の「50トン免除」

2026年の本格稼働に向け、2025年10月には制度を簡素化する改正規則(EU規則 2025/2083)が発効しました。()eurometal+1

  • 50トン・デミニミス(免除):対象品目の年間輸入量が**「事業者あたり50トン以下」**の場合、CBAM義務が免除されます。(※電力・水素は除く)()sustainabilityinbusiness+1
  • これにより、中小規模のサンプル出荷や補修部品等の輸出における事務負担が大幅に軽減されます。

3. 中国:「報復措置」の一時停止と管理強化の裏側

3-1. 「中国版50%ルール」とレアアース規制も一時停止

中国商務部・税関総署は2025年11月7日、告示第70号を発表し、直前の10月〜11月に打ち出していた以下の厳しい輸出規制を2026年11月10日まで一括して停止しました。()resilinc+1

  • 停止された規制
    • レアアース、リチウム電池、人工黒鉛等の輸出管理強化(告示55-58号等)
    • 中国版「50%ルール」(外国企業への域外適用・再輸出規制を含む告示61・62号)

これは米国の「BIS 50%ルール停止」に対するバーター(交換条件)措置であり、米中双方が「相手企業のグループ会社網を寸断する規制」を同時に引っ込めた形です。()gvw

👉 実務ポイント
中国からのレアアースやバッテリー材料の調達リスクは、2026年11月まで一旦落ち着きます。しかし、あくまで「停止」であり「撤回」ではないため、調達先の多様化(チャイナ・プラス・ワン)を進める時間は、この1年しかありません。


4. 日本:対ロシア制裁とエネルギー安全保障

4-1. ロシア産原油の価格上限引き下げ

日本政府は2025年9月、G7・EUと足並みを揃え、ロシア産原油の価格上限(プライスキャップ)を従来の60ドルから47.60ドルへ引き下げました。()discoveryalert+1
実質的な輸入はほぼないため直接的な影響は限定的ですが、海上保険の付保要件に関わるため、海運・保険業界は厳格な運用が求められます。

4-2. サハリン・プロジェクトの維持

一方で、サハリン1・2については方針を変えていません。経産省は2025年11月にも「日本のエネルギー安全保障上、極めて重要」との立場を崩しておらず、米英の制裁強化の中でも、特例的な維持を図る姿勢を示しています。([の文脈参照])


5. 英国:制裁の独自色と「Sanctions Hub」

5-1. ロシア大手石油・シャドーフリートへの制裁

英国は2025年10月15日、**Lukoil(ルクオイル)とRosneft(ロスネフチ)**というロシア石油大手2社を資産凍結対象に追加し、さらにシャドーフリート関連船舶への制裁も拡大しました。()mayerbrown+1
これにより、英国系金融機関や保険会社を経由する取引のリスク許容範囲が極めて狭まっています。

5-2. 輸出管理の改正と「Sanctions Hub」

英国は2025年12月16日施行の輸出管理改正で、EU同様の「500番台」品目を導入します。()gov
また、複雑化する制裁情報を検索できる公式ツール「Sanctions Hub」の運用を強化しており、実務者は「Consolidated List」だけでなく、このHubでのクロスチェックが推奨されます。


6. まとめとアクションリスト

1年間の「猶予期間」をどう使うか

米中双方が「50%ルール」等の決定的な規制を2026年11月まで棚上げしたことで、ビジネスには1年間の猶予が生まれました。この期間にやるべきは以下の3点です。

  1. サプライチェーンの資本関係マッピング(KYC)
    • 今のうちに、中国・ロシア等の取引先について「誰が50%以上出資しているか」を調査しておく。2026年に規制が復活した際、即座に影響範囲を特定できるようにするためです。
  2. 「500番台」品目の該非判定
    • EU・英国向け輸出製品が、新設された量子・半導体関連の規制スペックに抵触しないかを確認する。
  3. CBAMデータの整備(50トン超の企業)
    • EU向け輸出が年間50トンを超える場合は、2026年の本格義務化に向け、CO2排出量データの算定フローを確立する。

2025年は「規制の激化」から「一時的な休戦と準備」のフェーズに入りました。この静けさが続く間に、体制を整えることが肝要です。


※本記事は2025年11月29日時点の情報を整理したものです。個別取引においては必ず各国の最新法令をご確認ください。

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  4. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/11/ustr-extends-product-exclusions-china-section-301-tariffs.html
  5. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-suspension-action-section-301-investigation-chinas-targeting-maritime-logistics-and
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  25. https://www.ghy.com/trade-compliance/section-301-tariff-exclusions-further-extended-through-november-29-2025/
  26. https://www.chrobinson.com/es-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-02-2025-client-advisory-section-301-tariff-exclusions-extended-through-ovember-2025/
  27. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/301-investigation-china-shipbuilding-maritime-logistics
  28. https://www.mofo.com/resources/insights/251001-bis-adopts-50-percent-affiliates-rule-implications
  29. https://www.ashurst.com/en/insights/overview-of-the-eus-19th-sanction-package/
  30. https://policy.trade.ec.europa.eu/news/2025-update-eu-control-list-dual-use-items-2025-09-08_en
  31. https://www.businesstimes.com.sg/international/global/us-extends-one-year-tariff-exclusions-some-chinese-industrial-goods-part-trade-truce
  32. https://www.clarkhill.com/news-events/news/china-hits-pause-on-rare-earth-export-controls-and-what-it-means-for-supply-chains/
  33. https://www.china-briefing.com/news/chinas-rare-earth-export-controls-impacts-on-businesses/
  34. https://globaltradealert.org/state-act/95168-china-temporary-suspension-of-additional-export-controls-for-rare-earth-related-technologies
  35. https://finance.yahoo.com/news/japan-cuts-price-cap-russian-143000860.html
  36. https://research.hktdc.com/en/article/MjE2NTI4MjQ4NA
  37. https://english.mofcom.gov.cn/News/SpokesmansRemarks/art/2025/art_c202dcc0433d476db52b1e7f7fe53926.html
  38. https://sustainability.slaughterandmay.com/post/102lr0h/eu-cbam-amended-to-exclude-90-of-importers-but-include-99-of-emissions
  39. https://energynews.oedigital.com/crude-oil/2025/09/12/japan-increases-sanctions-on-russia-by-reducing-the-price-of-russian-oil-to-4750
  40. https://www.gov.uk/government/publications/list-of-russia-sanctions-targets-15-october-2025/list-of-russia-sanctions-targets-15-october-2025

メキシコ関税法改正:2026年1月施行へ――電子通関ファイルと罰則強化で「見える化」される貿易実務


1. 何が起きたのか:19年の大改正、2026年1月から本格スタート

2025年11月19日、メキシコ政府は官報(Diario Oficial de la Federación)で「関税法(Ley Aduanera)の改正・追加・削除」を定める大きな政令を公布しました。対象条文はなんと113条に及びます。(info.expeditors.com)

この改正は、

  • 2026年1月1日に原則施行
  • 一部の条文は施行後1か月または3か月後に段階的に適用

というスケジュールになっています。(dlapiper.com)

改正の狙いとして、各種解説では共通して次の点を挙げています。

  • 通関手続のデジタル化・トレーサビリティの徹底
  • 税関当局(SAT・ANAM)の統制強化と税収拡大
  • 密輸・過少申告・虚偽原産地証明など「huachicol fiscal(税の抜け穴)」への対策 (GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

日本企業にとっては、「関税率が上がる」話ではなく、通関実務の管理・証憑・ITシステムが一気に重くなる改正と理解するのが出発点です。

なお、日本語で「メキシコ関税法」と呼ばれることが多い法律は、ここでいう**「Ley Aduanera(税関法)」です。
別に
関税率表を定める「一般輸入・輸出税法(LIGIE)」の改正案(約1,400品目の関税引き上げ)は、今回とは別トラック**で進んでおり、後述のとおり審議が先送りされています。(dlapiper.com)


2. 改正の3つの柱

2-1. 電子通関ファイルの中身が激変:契約書・支払証憑まで必須に

今回の改正で、電子通関ファイル(expediente electrónico aduanero)に保管すべき資料の最低要件が、質・量ともに大きく引き上げられました。

KPMG や各種法律事務所の解説では、以下のような書類が**「最低限」**求められるとされています。(KPMG)

  • インボイス、B/Lなど従来の通関書類に加え
  • 電子税務証憑(CFDI)
  • 国内輸送用のCFDI+Carta Porte補完(車両・ルート・ドライバー情報を含む)(alvarezandmarsal.com)
  • 送金明細・銀行振込記録
  • 保険料・運賃・その他通関関連コストの支払証憑
  • 売買・委託加工・リースなど関連契約書一式
  • 価値申告・バリュエーション分析(Transfer Pricing との整合が問われる部分)

さらに、通関ファイルと在庫管理システム・監視カメラ・トラッキング情報を連動させた「統合電子システム」の義務化が、保税蔵置場やRFE(Recinto Fiscalizado Estratégico)などにも課されます。これらのシステムには、税関当局がリモートで常時アクセスできることが要求されています。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

👉 日本企業への含意

  • 「インボイス+パッキングリストさえあれば通関できる」という世界は終わりに近づいている
  • メキシコ子会社の会計・契約・物流情報を、通関ファイルに一元紐づける体制が必要
  • 日本本社側も、契約スキームや価格決定ロジックを説明できる形で文書化しておかないと、監査で突かれやすくなる

2-2. 通関業者(ブローカー)・倉庫・物流事業者への規制強化

(1) 「一生モノ」だった通関士ライセンスが20年更新制+3年ごとの認証に

これまで、メキシコの通関業者(agente aduanal)は、実務上「終身ライセンス」とも言える形で活動してきました。
しかし改正後は、以下のように制度が大きく変わります。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

  • 通関士ライセンスの有効期間:20年(同期間の更新可)
  • ライセンスは個人的かつ譲渡不可
  • 3年ごとの技術認定(試験・更新)が義務化
  • 公職にある者は、通関士ライセンスを取得・維持できない
  • 繰り返しの違反や重い犯罪での訴追・起訴で、停止・取消のリスクが大幅増

さらに、これまで存在した**「荷主が虚偽情報を出した場合はブローカーは免責」という条項が削除**され、
荷主の誤った申告に対しても、通関業者が連帯責任を負う方向に転じています。(alvarezandmarsal.com)

>その結果、通関業者は「自分を守るために、荷主へのデューデリジェンスと社内監査を強化せざるを得ない」と各所で指摘されています。(dlapiper.com)

(2) 倉庫・保税区画へのハイレベルなシステム要件

保税蔵置場やRFEなどの施設については、電子在庫管理・ビデオ監視・リアルタイム追跡などのシステム導入が、許可要件として明文化されます。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

  • 税関電子システムとの相互接続(インターオペラビリティ)
  • 当局への24時間リモートアクセス
  • 物流・在庫データと通関ファイルの一致性

を求められるため、IT投資なしに倉庫ビジネスを続けることは難しくなります。

(3) 物流・ECオペレーターにも直接規制

Expeditors のまとめによれば、改正は以下のようなプレイヤーにも直接影響を与えます。(info.expeditors.com)

  • 輸入貨物を保管する一般倉庫
  • 航空・宅配便などのクーリエ事業者(簡易通関スキームの明文化)
  • 越境ECプラットフォーム(登録義務や上限の見直し)

👉 日本企業への含意

  • ブローカー側がリスクを嫌い、書類の要求水準や質問のレベルが一段と厳しくなる
  • 「今まで付き合いでやってくれていた」ブローカーが、リスクの高い貨物の取扱いを断る可能性も
  • メキシコ側の倉庫・3PLに対し、システム要件・コンプライアンス状況を確認するデューデリジェンスが必要

2-3. 罰則・税務リスクの大幅強化

関税法そのものに加え、連邦税法典(Código Fiscal de la Federación)の改正もセットで行われ、
密輸・脱税・虚偽申告に対する行政・刑事リスクがかなり強化されています。(dlapiper.com)

代表的なポイントは以下の通りです。

  • 制限品・禁止品の輸入や、非関税措置(NOM・衛生規制・許可等)の不履行に対して
    貨物価値の250〜300%に相当する罰金が科され得る(dlapiper.com)
  • 価値申告(Manifestación de Valor)や電子価格証明(COVE)での誤り
    ⇒ 1件あたり約29,000〜53,500ペソの罰金(約25〜45万円規模)(alvarezandmarsal.com)
  • ラベリング違反、申告住所に貨物が存在しない場合など、新たな差押え(embargo)事由が追加(alvarezandmarsal.com)
  • FTA上の特恵関税を不正に得るための虚偽原産地証明について、
    税法典上の**「脱税」「虚偽申告」等の刑事リスク**が明確化(dlapiper.com)

👉 日本企業への含意

  • RCEP・日メキシコEPA・USMCA原産地証明などをメキシコ側が利用する場合、
    日本本社が出すサプライヤー証明や原産地情報に虚偽・過失があると、メキシコ側で刑事リスクに直結する可能性
  • 移転価格税制のみならず、関税バリュエーションの整合性が、これまで以上に重要な経営課題になる

3. IMMEX・RFEなど製造優遇スキームへの直撃

今回の改正は、単なる「通関ルール改正」にとどまらず、IMMEX・RFEといった製造優遇スキームに特に厳しいメッセージを発しています。(dlapiper.com)

3-1. RFE(Recinto Fiscalizado Estratégico)

  • RFEへの貨物導入にあたり、関税保証口座や信用状による保証義務を明文化(dlapiper.com)
  • 貨物の加工・保管・分配等を行う場合、実際に工程が行われたことを示す技術・会計資料を保持しなければならない
  • RFEが港・税関と隣接していない場合、認定された「認定商業パートナー(socio comercial certificado)」のみが輸送・通関を実施可(dlapiper.com)

3-2. IMMEX(マキラ)企業

  • IMMEX間の移転取引について、**拡張版の通関ファイル(Article 59 V)**を作成・保管する義務
    • 通常の通関書類に加え、工程資料・原材料使用実績・会計記録などを含めて一体管理 (dlapiper.com)
  • 在庫管理・工程トレーサビリティ・リモート監査に対応できるシステム導入が必須

DLA Piper は、これらの改正を踏まえ、2026年にメキシコの貿易税収が約1517億ペソから2547億ペソに増加するとの政府見通しを紹介しており、その相当部分が監査・検査強化による追加徴収と見られています。(dlapiper.com)

👉 日本企業への含意

  • メキシコでの組立・加工拠点(マキラ・IMMEX工場)を持つ企業は、最優先で影響分析が必要
  • 工場内の在庫管理・実績データと、通関データ・会計データの**「三位一体」管理**が求められる
  • RFEを活用した在庫バッファ・再輸出スキームは、保証や証憑負担の増加を前提に再設計すべき段階

4. 「関税率引き上げ法案(LIGIE改正)」との関係

今回の関税法(Ley Aduanera)改正とは別に、メキシコ政府は一般輸入・輸出税法(LIGIE)の大改正案も提出しています。

  • 1,463の関税分類を改正し、主にFTAのない国(中国など)からの輸入品に35%前後の高関税を課す構想(Eje Central)
  • しかし、このLIGIE改正案は、議会での審議が先送りされ、現行会期末の2027年8月31日まで棚上げされる可能性があるとDLA Piperは指摘しています。(dlapiper.com)
  • とはいえ、大統領は緊急権限に基づき個別に関税を引き上げる権限を維持しており、完全にリスクが消えたわけではありません。(dlapiper.com)

したがって、

  • 「2026年1月に変わるのは主に手続と罰則」
  • 「関税率そのものの大幅引き上げ(LIGIE改正)は、別の政治日程で動き続けている」

という二重の時間軸でメキシコリスクを見ておく必要があります。


5. 日本企業が今からやるべき5つのチェックポイント

最後に、日本のビジネスマンの視点で、2026年1月までに最低限チェックしたいポイントを整理します。

5-1. メキシコ側の「電子通関ファイル」体制の棚卸し

  • メキシコ法人がどの程度、
    • CFDI+Carta Porte
    • 契約書・見積り・支払証憑
    • バリュエーション資料
      一元的に保管・紐づけできているかを確認
  • ERP・WMS・TMS と通関システムが「バラバラ」になっている場合、
    2025年のうちに統合作業をどこまで進められるかが勝負

5-2. 通関ブローカーとの関係性の再構築

  • 改正後は、ブローカーも自らのライセンスを守るために保守的になります
  • 現在取引しているブローカーに対し:
    • 改正関税法への対応方針
    • 必要書類の増加や、質問項目の変化
    • 社内監査(due diligence)の頻度
      事前にすり合わせておくことが重要です

5-3. IMMEX・RFE利用スキームの総点検

  • 工場の在庫・工程データと通関データが、
    「いつでも監査対応できるレベル」でリンクしているかを確認
  • RFE利用を検討・利用中の企業は、
    • 保証口座・信用状のコスト
    • 限定された輸送業者・通関業者の利用制約
      を考慮してビジネスケースの再計算が必要です

5-4. 原産地証明・バリュエーションのガバナンス強化

  • 日本本社が発行する
    • サプライヤー証明
    • 原産地証明用の情報
    • 移転価格ポリシー
      が、メキシコでの通関・税務監査に耐えうる文書になっているか再点検
  • 特に、虚偽原産地証明に対する刑事リスクが明確化されたため、
    FTA/EPA対応部門と税務・コンプライアンス部門の連携が必須です。(dlapiper.com)

5-5. メキシコを「低コスト拠点」とだけ見ない

  • 改正は明らかに、「税関・税務コンプライアンスが重い国」としてのメキシコを前提にした制度設計です
  • 中国+1、USMCA向け生産拠点としての魅力は依然高いものの、
    「安い・緩いからメキシコ」という発想は通用しなくなるタイミングと言えます

6. まとめ:2026年のメキシコは「通関DX+監査強化」元年

  • 2025年11月19日に公布された関税法改正は、113条を一気にいじる大規模な制度変更であり、
    2026年1月1日から本格施行されます。(info.expeditors.com)
  • 中心テーマは
    • 電子通関ファイルとITシステムの義務化・高度化
    • 通関業者・倉庫・IMMEX/RFEへの規制強化
    • 罰則・刑事リスクの大幅引き上げ
      であり、実務の透明性と当局の監視能力を一気に高める内容です。
  • 関税率そのものをいじるLIGIE改正案(約1,400品目の高関税化)は、
    議会で先送りされたとはいえ、政治状況次第で再浮上し得るリスクとして残っています。(dlapiper.com)

日本企業としては、

「関税率はまだ上がっていないから安心」ではなく、
「通関・税務コンプライアンスの管理レベルを2026年仕様に引き上げる」

という発想で準備を進めることが重要です。


※本記事は、KPMG、DLA Piper、Alvarez & Marsal、Mijares、Expeditors など複数の専門家レポートを比較・確認したうえで、ビジネス向けに要約したものです。個別案件への適用には、必ず現地の専門家・顧問弁護士等の助言を受けてください。(KPMG)

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関税ショックは先送り:USTRの中国301条除外延長があなたのビジネスに意味すること

USTR、中国の「301条関税除外」を2026年11月まで延長──ビジネスパーソンは何を押さえるべきか

1. まずは「3行」で今回のポイント

2025年11月25日、米通商代表部(USTR)は、中国に対する301条追加関税のうち178件の「除外(exclusions)」を約1年延長し、**2026年11月9日23:59(米東部夏時間)**まで有効とすることを発表しました 。ustr+1

対象は、太陽光パネル製造装置14カテゴリーと、産業・医療機器など164カテゴリー(電動モーター、血圧計、ポンプ部品、自動車用エアコンプレッサー、プリント基板など)で、いずれも主にB2B用途の中間財です 。ustr

背景には、**米中間の新たな経済・貿易合意(Kuala Lumpur Joint Arrangement)**があり、中国側のレアアース輸出規制の緩和や米農産品輸入拡大と「パッケージ」で決まった措置です 。cassidylevy+1

以下では、この決定がグローバル調達・生産戦略、価格交渉、リスク管理にどのような意味を持つのかを整理します。

2. そもそも「301条関税」とは何か、なぜ除外があるのか

2-1. 301条は「不公正貿易」に対する”何でも屋”条項

米国通商法301条(Section 301 of the Trade Act of 1974)は、相手国の不公正な貿易慣行に対して、米国が一方的に是正措置(関税引き上げなど)を取る権限を大統領・USTRに与える条文です。

2017年に米国は、中国の技術移転強要・知的財産権侵害・イノベーション政策を巡って301条調査を開始し、2018年以降、いわゆるList1〜4と呼ばれる段階的な追加関税(25%や7.5%など)を導入しました。

2-2. 「除外(exclusions)」とは何か

301条関税には、プロダクトごとに追加関税を免除する「除外」制度があります:

  • 10桁のHSコード+商品説明の組み合わせで「この条件に合致する製品は301条の追加関税を免除する」と定義
  • 該当製品は、WTO上の通常関税(MFN税率)のみ、301条分はゼロ
  • 企業がUSTRに申請し、代替供給源の有無・米国産業への影響などを踏まえて判断される仕組み

この除外は期限付きで、ここ数年は3〜6カ月単位で延長されてきました。特に今回延長の対象となったのは:

  • 2024年5月に164件の除外が2025年5月31日まで延長
  • 2024年9月に太陽光製造装置に関する14件の新たな除外を追加
  • その後、合計178件が2025年8月31日まで、さらに2025年11月29日まで延長されていた案件ですey+1

3. 今回の決定:延長された178件の中身

3-1. 有効期限は「2026年11月9日23:59(米東部夏時間)」まで

今回公表された連邦官報(Federal Register)通知では、以下のように定義されています:

  • 対象: 現在有効な178件の除外
  • 期間: 2025年11月30日0:01(米東部標準時)以降に輸入される貨物で、**2026年11月9日23:59(米東部夏時間)**までに米国に輸入されたもの

USTRのプレスリリースでは「2026年11月10日まで」と表現されていますが、実務的には11月9日深夜までの通関分が対象と理解するのが安全です 。kpmg+1

3-2. どんな品目が対象か

報道やUSTRの説明によれば、対象は主に以下の2グループです:ustr

太陽光パネル製造関連(14カテゴリー)

  • ウエハーやセルの生産ラインに用いる装置
  • コーティング、エッチング、検査装置など

産業・医療用途を中心とする中間財(164カテゴリー)

  • 電動モーター
  • 血圧測定装置
  • ポンプのコンポーネント
  • 自動車用エアコンプレッサー
  • プリント基板(PCB)など

いずれも、最終消費財というより、設備・部品・医療機器などの中間財です。B2Bの製造業・医療機器産業にとって重要な入力財である、というのが共通点と言えます。

連邦官報では、これらはHTSUS(米国輸入統計品目表)の特定の臨時番号(9903.88.69・9903.88.70)および関連する注記で定義されており、「記載条件を満たすすべての輸入者に適用される」と明記されています。

4. なぜ米国は「除外」をさらに延長したのか

4-1. 公募コメント:代替調達の難しさと”猶予期間”の要望

USTRは2025年9月16日付けで、178件の除外を2025年11月以降も延長すべきかどうか、パブリックコメントを募集しました。評価軸として、以下を挙げています:

  • 中国以外からの代替調達の可否とその量
  • 米国または第三国から調達するための取り組み状況
  • 追加の時間がなぜ必要か
  • 延長が、最終的に中国依存からの脱却に寄与するか
  • 米国の政策優先事項(サプライチェーン強靭化、安全保障など)との整合性

その結果、178件中147件が延長支持のコメントを受け、反対意見があったのは10件のみでした。多くの企業が、「現時点で中国以外の供給源は量・品質ともに十分ではない」「急激な関税復活は、米国内の製造や医療提供に悪影響を与える」といった趣旨の懸念を表明したとされています。

4-2. 米中「Kuala Lumpur Joint Arrangement」とのパッケージ

さらに大きな要因が、**2025年10月30日に韓国で開催されたトランプ大統領と習近平国家主席の会談を受けて合意された「Kuala Lumpur Joint Arrangement」**です 。cassidylevy+1

ホワイトハウスの資料によると、この合意で中国は以下を約束しました:whitehouse

  • レアアースやその他重要鉱物に対する世界的な輸出規制の延期・実質的な撤廃
  • 米半導体企業などへの報復措置の見直し
  • 大豆・ソルガム・木材など米農産品の輸入拡大
  • 米国製品に対する自国側の関税除外プロセスを2026年12月31日まで延長

これに対して米国側は:

  • 中国製品への「引き上げ済みの相互関税」を2026年11月10日まで凍結・低い水準に据え置く
  • その一環として、301条の178件の除外を2026年11月まで延長

することを約束しました 。whitehouse

今回の除外延長は、こうした一連の「貿易休戦」の一部と位置付けられます 。cassidylevy

4-3. 対中強硬姿勢は維持したままの”部分的な緩和”

注意すべきは、対中政策が「軟化」したわけではないという点です。

2024年5月には別途、電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、重要鉱物、医療用手袋などに対して、今後数年にわたって301条関税を引き上げる方針が示されています(EVは最大100%)。

今回延長されたのは、代替サプライヤーが限られ、米国内の製造業・医療・エネルギー政策にとって短期的な課税が「自傷行為」になりうる品目にほぼ限定されています。つまり、「戦略的に守る分野」と「一定の猶予を与える分野」を切り分けた結果と見るのが妥当です。

5. 日本・アジア企業にとってのインパクト

5-1. 中国工場から米国向けに輸出している企業

中国拠点から米国へ設備・部品・医療機器コンポーネントなどを輸出している企業は、まず次の点を確認する必要があります:

  • 自社製品が301条のどのリストに該当するか
  • その中で、今回延長された178件の除外に該当するかどうか(HSコードと品目説明ベース)

該当する場合、2026年11月9日(米東部夏時間)まで追加関税なしで輸出できる見通しが立ちます。一方、除外に該当しなければ、従来通りの追加関税負担が継続します。

今回の延長により、「2025年末で採算が合わなくなる」と見込んでいた案件が、あと1年弱は現状条件を維持できるケースも出てくるはずです。

5-2. 「China+1」戦略への影響

ここ数年、多くの企業が301条関税や地政学リスクをきっかけに、中国からベトナム・メキシコ・インドなどへの生産移管を進めてきました。

今回の延長により:

  • 対象品目については、「急いで移管しないと関税で赤字」という状況が一旦後ろ倒し
  • ただし、2026年11月以降の扱いは未定であり、「さらに延長される」という保証はない

という意味で、完全なブレーキではなく、「時間を与えられた」という性格が強いと言えます。

経営的には、キャパ増設や新工場投資は計画通り進めるが、稼働タイミングや投資回収シナリオを1年シフトさせる、といった微調整があり得る局面です。

5-3. 米国顧客との価格交渉・契約条件

301条関税は、サプライ契約の中で「関税分は価格に転嫁する」「関税が変わった場合は再交渉する」といった条項(tax pass-through clause)として組み込まれていることが多くあります。

今回予定されていた2025年末の関税復活が回避されたことにより:

  • すでに2026年価格を「関税復活前提」で見積もっていた場合、値決めの見直し余地
  • 逆に、顧客側から「関税かからないなら値下げを」と逆提案される可能性

も出てきます。

調達側・販売側とも、**「想定していた前提条件が変わった」**という認識を共有し、契約条項の読み直しが必要です。

5-4. HSコードと実務リスク

除外はHSコード(10桁)と商品説明の組み合わせで機械的に判定されます。わずかな仕様差や組み立て工程の違いで、**「同じと思っていた品目が別のコード扱い」**になることも少なくありません。

税関での判定が変われば、突然301条関税の対象になるリスクがあります。

したがって:

  • 米国側輸入者・通関ブローカーと連携し、HTSコードの再確認
  • 過去の輸入実績と今回の除外リストを突き合わせ、該当の有無を「コードレベル」で確認

することが、今回の延長を活かす前提条件になります。

6. ビジネスパーソン向け「2026年11月まで」のアクション・チェックリスト

6-1. 自社影響の棚卸し

輸出入・調達データの抽出

  • 「中国→米国」向けの輸出品目(または米国法人の輸入品目)を洗い出す

HSコード/商品説明と除外リストの照合

  • 自社品目が今回延長された178件のどれかに当たるかを確認
  • 当たる場合は、コストシミュレーションを「延長後の前提」で更新する価値があります

6-2. 「2026年11月9日」をXデーとした逆算

2026年11月9日以降:

a. さらに延長される
b. 一部だけ延長され、多くは失効する
c. 全面失効し、フル関税復活

という複数シナリオを想定し、それぞれについて:

  • 価格・利益率
  • サプライチェーン構成
  • 代替調達・生産移管のロードマップ

を「逆算スケジュール」で描いておくと、政策変更があっても慌てずに済みます。

6-3. 米国の産業政策との整合性を見る

301条関税は、単体で動いているわけではなく:

  • EV・バッテリー・太陽光などへの関税引き上げ方針
  • CHIPS法、インフレ抑制法(IRA)などの国内投資インセンティブ

とセットで設計されています。

自社の事業が:

  • 「米国内生産を増やせば恩典が受けられる分野」なのか
  • 「中国発サプライチェーンに依存すると、今後も関税リスクが高い分野」なのか

を整理することで、投資先・生産地の優先順位も見えやすくなります。

6-4. 「政治リスクを価格に織り込む」文化づくり

今回のように、関税が3カ月延長→さらに3カ月→一気に約1年延長と、政治判断により前提条件が揺れ動く状況が続くと:

  • 「法改正や関税変更は突発的に起きるもの」として
  • 長期契約の価格設定
  • 投資回収期間の設定
  • リスクマージン(政治リスク・地政学リスク)

をあらかじめ**「上乗せしておく」発想**が重要になります。

7. まとめ:関税は「終わる」より「続く」と考える

今回のUSTRによる301条除外の2026年11月までの延長は:

  • 中国依存の高い中間財について、米国企業・産業に「もう少し時間を与える」ための措置であり
  • 同時に、米中間の新たな貿易合意(Kuala Lumpur Joint Arrangement)を履行するための外交パッケージの一部でもありますcassidylevy+2

一方で:

  • EV・バッテリーなど戦略分野では関税引き上げが続いていること
  • 延長はあくまで期限付きの暫定措置であり、恒久的な免除ではないこと

を踏まえると、**「関税リスクが去った」のではなく、「タイムリミットが1年延びた」**と捉えるのが現実的です。

最後に一言

本稿は公開情報に基づく一般的な情報提供であり、法的・税務的アドバイスではありません。実際の取引・投資判断に際しては、必ず通関ブローカー、弁護士、税理士など専門家と相談のうえ、最新のUSTR通知・連邦官報の原文を確認することをお勧めします 。kpmg+1

  1. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-extends-exclusions-china-section-301-tariffs-related-forced-technology-transfer-investigation
  2. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/11/ustr-extends-product-exclusions-china-section-301-tariffs.html
  3. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/11/modifying-reciprocal-tariff-rates-consistent-with-the-economic-and-trade-arrangement-between-the-united-states-and-the-peoples-republic-of-china/
  4. https://www.cassidylevy.com/news/us-and-china-reach-trade-arrangement-begin-implementation/
  5. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/ustr-extends-product-exclusions-subject-to-section-301-tariffs-through-29-november-2025
  6. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/section-301-tariffs-on-china
  7. https://www.chrobinson.com/es-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-02-2025-client-advisory-section-301-tariff-exclusions-extended-through-ovember-2025/
  8. https://x.com/DeItaone/status/1993724259642839126
  9. https://www.fibre2fashion.com/news/textile-news/ustr-extends-tariff-exclusions-on-some-chinese-industrial-goods-306765-newsdetails.htm
  10. https://www.chinadaily.com.cn/a/202511/27/WS6927b8f0a310d6866eb2bae9.html